【完結】無個性ヒーロー   作:南畑うり

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第二次決戦準備・前編

 

長い……長い夢を見ていた気がする。

その夢の影響か、口の周りが妙にかゆい。傷跡こそ残っていないが、唇付近は七針縫った大怪我だと聞かされた。鼻も折れていたし……。いま考えれば小物も小物なんだろうけど、当時は恐怖の象徴だった。

長らく見ていなかったが、今年の始めラスベガスに向かってから、この夢を良く見るようになった。今年に入って三度目だ。悪夢なんて見るもんじゃあないよなぁ……。

 

「あー……」

 

背伸びをすると、革のソファーの背もたれに腕があたった。

あー……思い出してきた。校長室か、ここは。

最悪だ、いま何時だ? 寝すぎた。

 

瞼を開けると、電気の光に目が焼かれる。

眩しすぎて呻き声を上げてしまった。

 

「うー……」

「お、おはよう、ございます」

「……あ?」

 

瞼を何度も開け閉めしていると、ぼんやりとした輪郭の八百万が見えてきた。

真っ赤な顔をパタパタと手うちわで仰いでいる。空調は……効いてるよな?

 

「おはようございます。えっと、あの、いま何時でしょうか。というか何日?」

 

あー、ダメだ、全然頭回らん。

二度寝したい気分だが、さすがに彼女の前で寝顔を晒すつもりは──。

 

ポケットから携帯端末を取り出して、動きが止まる。

夜の十時を過ぎている。どんな、冗談だ!

 

「会見!!」

 

ソファーから転げ落ちそうになりながらドアを目指すと、飛びついてきた八百万に抱きしめられて、二人揃って床に倒れる。

 

「あの……遊んでいる場合では……」

「今日の会見なら問題はありません。ショートさんとピンキーさんが行いました」

「──は?」

 

身体が密着した状態で、あまりの良い匂いにくらくらとしてしまいそうになる。だがこちとら出来るヒーローフェイカーさまだ。女の色香にはミッドナイトのおかげで耐性がある。

 

放してくれなさそうなので、携帯端末で今日の報告会見の映像を検索する。

 

そこには、エンデヴァーの息子である焦凍と、そのサイドキックのように控える、緊張した面持ちの芦戸が映っていた。

蛇腔市崩壊からこちら、初めてエンデヴァーの関係者が顔を晒したのだ。いろんな意味でお祭り騒ぎだな。

普段はボクが噛まぬようにしているヴィランの数字など、マスコミはだれも気に留めていない。焦凍へ父親と兄の質問に夢中になっていた。

 

「あの、そろそろ離していただけますか?」

「どこにも、行かないと約束していただけるのなら」

「──青山が学外にいるなら、出て行きます」

「……本来、委員長である私が会見に臨むべきでした」

 

なんの話だ、なんの……。

 

「一つの学校の、一つの教室の連絡係ですよ? あなたが向かう必要などありません」

 

無理矢理上半身を起こし、彼女の手を剥がす。力が必要かとも思ったが、意外なほど抵抗はなく、彼女も座った。

 

「代わっていただいたのは、まあ正直助かりましたが……それ以前に起こしてほしいというか」

「芦戸さんが、私は業さんと話すように、と」

 

なにを話せってんだ……。

わからん。ここで八百万と話すことが日本にとってどんな利点になるって──……あ? いや……できるか……? あれ? 【面白い】かもしれない。……いや、いやいや、だめだめ、面白いだけだ。さすがに賭けすぎる。投資ではなく博打の類だ。

 

知らぬ間に上がっていた口角を押さえつける。

命をチップにした賭けか……雄英入学以来、散々お世話になってきた戦法だ。ただ、その相手がこいつかぁ。

俯く八百万に可能性を見出す。分が悪い賭けだ、彼女は本当に優しい。無個性のボクを真っ先に心配してくれるくらいには優しい子だ。

 

「業さん、どうか百と、お呼びいただけませんか?」

「……え? ええ、どうしました? えっと、百」

「つぎに敬語をやめてくださいませんか?」

 

なんの話をしてるんだこいつは。

 

「あの……いま日本がどのような状況にあるのか理解はしていますか?」

「必要なことです!」

「なら、百に【お願い】があるんだ」

 

わざとらしくため息を吐き、膝を立ててから彼女を抱き締めた。胸の中にすっぽりと収まっていしまう彼女に、ボクはなんど甘えてしまうのだろうか。

 

「──は、はい!」

 

手櫛で彼女の後ろ髪を整えながら、耳を舐めるように囁く。

 

「ボクの代わりに───」

 

始めは恥ずかしそうにしていた彼女だったが、【内容】を理解しはじめて混乱するように動きが止まる。

 

「──ち、違います! 私たちが想像していたのはそういうのではなく! えっと! もっと、こ、友だちのような! それに! そのような重大なこと私などにできるはずが──」

「などにって……」

 

あぐらを掻いて彼女を足の上に座らせる。

まるで恋人のような扱いに、八百万は顔を真っ赤にして震えていた。

 

「百はすごいよ。本当にすごい。だから、大丈夫。ボクのお願いを聞いてくれ」

「で、でも」

「わかってる。ひどいお願いだよな」

 

彼女の背に手を回し、額と額をくっ付ける。近すぎてぼやけそうな距離だと言うのに、彼女の透き通るような瞳が鮮明に映った気がした。

 

「百、一生のお願い。……ね?」

「ず、ずるいです!」

「ふふ、ありがとう、百」

 

信じよう、彼女を──。

信じよう、《予知》を──。

この【選択】はオール・フォー・ワンに届く。

 

表情を見られたくなくて、彼女と頬を合わせて抱き寄せる。

男性とここまで密着したことがない箱入り娘は、よっぽど緊張しているらしい。ボクの背に手を回そうとして、回しきれずに固まっている。

 

「──芦戸さん!」

「やば! 散れ! 散れー!」

 

校長室前の廊下に、ドップラー効果のように芦戸の声が響いて行く。

……見られていたか、厄介だな。

 

「興醒めだな。行こうか、百」

「は、はい……。あの、誤解を、解かなければ、いけません、よね?」

「誤解? なんのことです……なんのことかな?」

「いえ! いえいえ! なんでもありませんの!」

 

気を抜くとすぐに敬語が出てしまうな。まあこればかりは口癖の類だ。どうしようもない。決戦が終わるまで仲良しこよしで過ごそう。

ぎくしゃくとした動きで進む彼女が、声量バグり散らかした大声で質問してきた。

 

「纏さんには! なんて説明いたしましょう!」

「説明は要らないかな。秘密にしておこう」

「そ、それは、あまりに誠意が──」

 

誠意? なんだ? なんか、会話が噛み合っていない。

今度は緑谷のように考え事を呟き始めた八百万。

纏に【やらせていたこと】を彼女が気づいているとは思えない。弟に口止めはしていないが、努力は見せないスマートなやつだ。泥臭い努力をわざとらしく好いている女性には見せないだろうし。

 

 

寮に着くと、みんなが出迎えてくれた。さすがにこんな時間だからな、訓練はとうに終わっていたか。

半数は心配そうに、もう半分は期待に満ちた視線をこちらに向けている。

ほぼ腫れ物のボクに対して、どのような反応が来るのか──ちょっと、怖かった。

 

「策束くん」

 

代表者は、緑谷だった。

まあ……順当だよな。

 

「僕は──」

「謝ってどうにかなるのはお前の罪悪感だけだ。ボクらは、お前らに罪の意識を感じてほしいわけじゃあない」

 

敬語は、使わなかった。

尊敬とか丁寧とか、そういう意味合いで使わなかったわけではない。ただ、まあ、あれだ。区切りというやつだ。

 

あんな醜態晒しておいて、笑顔のコスチュームは滑稽すぎる。

 

「これ以上、この話は無し。いまは戦争中で、一分一秒も惜しい状態。後回しだ、いいな!」

「おー」

 

葉隠が気の抜けた拍手を送ってくれていた。

 

「なんか! 策束くんって感じ! 那歩島のときみたい!」

「だなー! こっちのほうが断然良いって!」

「頼むぜ策束。さっそくだけど、相澤先生が作戦考えてくれた。聞いたか?」

 

クラスメイトたちは、思ったよりもずっと早く、そして躊躇なく【スイッチ】を切り替えた。本当に決戦に勝つまでは個性だ無個性だの話はしないつもりだろう。

 

あはは、なんだよ、どうした? いいねぇ、覚悟が決まっている。

 

「それさ、悪いけど【ボクに聞かせないで欲しい】んだ」

 

これは拒絶のつもりはないのだが、聞き届けてもらえるだろうか。

訝しむクラスメイトに、状況を説明する。

 

「何日か前、言っただろ? オール・フォー・ワンは心を読む。嘘を読み取る個性ってのは前にも聞いたことあってさ、それと同一なら良い。だけど、嘘と心を読み取る個性二つ持っていた場合を想定して動く。つーか、ナイトアイが雄英に来た時点で十中八九、二つの個性を持っていると見て良い」

「ナイトアイがそれとどう関係してやがる」

 

おそらくだが、だれよりも焦凍からの信頼が損なわれているのだろう。

はすっぱな口調だし、睨んできて……いや、いつも通りかもしれない。被害妄想かもな。

 

「で、ボクがキミらに情報を与えなかったように、今度はボクの番ってこと」

「お前に情報を与えないって、それって、つまり、策束はオール・フォー・ワンと、顔を合わせるってことか?」

 

さすがに学友たちの顔が青ざめる。葉隠が真っ先に駆け寄ってきてボクの手を取った。

 

「ダメだよ……! お願い、やめて!」

「優しさは、捨てたほうが良い。ボクは決戦でこのクラスメイト全員が生き残っているなんて楽観視しない。今日、明日、ここからだれかいなくなっている可能性だってある」

 

事実、一人いないじゃあないか。

 

「明日が来るなんて腑抜けたこと言うなよ。明日を勝ち取ろう。明後日を生きよう。一年後、去年はすごかったねって笑おう。十年後、二十年後、さらに、もっと未来に、またみんなで集まろうぜ」

 

袖口で自身の涙を拭った彼女は、骨が折れてしまうと思うくらいに握る手に力を込める。

 

「プルスウルトラ、だね!」

「だな!」

 

笑顔であろう葉隠の頭を撫でつける。

 

「ああ、ならオール・フォー・ワンがらみじゃないのは話しても良いのかな?」

「そうじゃないかしら。ねぇカルマちゃん!」

 

尾白と梅雨ちゃんがカンペを持ってきて、葉隠を支えるように左右に立った。

 

「これ、明日の報告会見の原稿なの。見てくれないかしら?」

「明日? 明日は大丈夫だって。ボク予定ないし」

「いえ、みんなで決めたの。お願い、やらせてちょうだい」

 

原稿から視線を上げ、今日ボクの代わりに会見を行ってくれた芦戸と焦凍を見る。焦凍は相変わらずの表情のままだが、芦戸は楽しそうに笑っていた。

 

「めちゃくちゃ緊張するからね! カメラの数すごいの! もう一面! ぶわーって。びっくりしちゃったー」

「眩しいぞ」

 

ボクを置き去りにして、クラスメイトは笑い合う。どうやらフェイカーとしての仕事は、もう原稿チェックしか残されていないらしい。

 

「残りの会見は二回か。つぎはだれがやる予定?」

「明後日は私と飯田さんです!」

「明日はウチと上鳴だね」

 

耳郎と上鳴が軽く視線を合わせてグータッチしている。

……いや、だめだめ、なに考えてんだこんなときに。いや、でも……。

 

「くじ引きで決めたんだよー!」

「あとめちゃくちゃ叩かれてるから注意! 策束出せー! ってコメント凄いから見なくていい!」

「轟くんへのヘイトも物凄いよね……」

「気にしなけりゃ問題ねぇ。俺への批判なんざ、俺らがしていた無個性への扱いに比べりゃ大したことないだろ」

 

暖まっていた空気が音を立てて止まった気がした。

悪い癖出てるよ焦凍!

 

必死に口元を押さえるが、笑ってはいけない空気に当てられ噴き出してしまった。

 

「あはっ! あははははははは!」

 

自虐ネタに近いものがあり、ほかの面々は笑っていない。あまりに恥ずかしすぎるため、必死に顔を澄ませるも、さきほどの空気の入れ替わりが忘れられずに、口元がにやけてしまう。

 

「く……くふ……んふふ」

「めちゃくちゃツボじゃん」

 

あーもーうるさいうるさい。

咳き込みながら笑いを抑え込もうとしていると、壁に覆われた。すわセメントスかと思ったが、違う、口田だった。

 

「ごめん策束くん」

「だから、謝んなくて良いって」

 

大粒の涙が頭に落ちてくる感覚。

 

「僕、策束くんはすごい人だと思ってた」

「買いかぶりだよ」

「ううん、僕が思うより、もっとずっとすごかったんだ。それに、僕たちは甘えていたんだ。青山くんも、策束くんも、あんなに泣いてたのに──僕は、なにもしなかった。一緒にヒーローを目指していた、つもり、だったのに」

「口田は立派なヒーローに成るよ。大丈夫、その個性はとっても優しいよ。口田と同じくらいね」

「策束くんの優しさは、僕の、ヒーローだよ」

「嬉しいねぇ」

 

こちらからも背中に手を回し、お互い傷口を舐めるように抱きしめる。

 

「すごく、すごく怖かった。策束くんが、知らないだれかになっていくみたいで……」

「悪かったよ……」

「でも、さっき笑ったとき、策束くんだなぁって思ったよ」

「ははは、判断基準そこかよ」

 

口田の脇腹を突くと、彼は身体を震わせながら身悶えた。

二人で声を殺して笑い合う。

口田はしばらくするとボクから離れ、八百万へと向き直った。

 

「八百万さん、飯田くん、耳郎さん、上鳴くん。会見、僕と代わってほしいんだ! お願いします!」

 

その大きな声は寮の一階に響いていく。

肚に気持ちの入った、気持ち良いくらいの大声だ。恥ずかしがる様子もなく、その目には涙を浮かべている。

涙目の耳郎が駆け寄って、口田の首に抱き着いた。

 

「雄英目指して、良かった。このクラスで! 良かった! ヒーロー目指して良かった! 口田! ウチのぶんもお願いね!」

「ありがとう! 耳郎さん!」

 

席を譲ってもらった口田に対し、峰田や瀬呂も上鳴に対して会見を譲るようにと迫っている。

 

「テレビに映ればモテるんだよぉ! アンチコメントに隠れて! フェイカーのファンが着々と増えてるんだよぉ!!」

「この期に及んでブレないな!」

「なぁ上鳴、この間ジュース奢ったよな?」

「安い取り引きすんなよ! 返すよ! 金でもジュースでも返すよ! だから!」

 

二人を振り払って、上鳴がボクへと向かってきた。

真剣な表情で拳を差し出される。

 

「フェイカーの仕事! 全部奪ってやるから覚悟しとけよ!」

「上等!」

 

痛いくらい拳を合わせ、二人で笑う。

 

──ああ、なんだよ。

笑顔なんて作んなくったってこいつらと居れば、いつでも笑顔になれるじゃあないか。

 

ヒーローに、成れるじゃあないか。

 

「三日後──つまり三十七日目。おそらくは死柄木の乗っ取りが完全に済む前に、決戦を合わせると思う。あ、言うなよ、聞かないからな」

 

みんなに忠告すると、零れるていどの笑い声が聞こえてきた。

左手を掲げ、覚悟を決める。

 

「三日後の報告会見は、ボクらの勝利を伝えよう!」

「おー!」

 

芦戸が音頭を取ってくれて、みんなが手を掲げた。

 

「「「プルス! ウルト──」」」

「私が! 毎日のように来たー!!」

 

快活に笑うオールマイトの背後で、ボクらの様子を見たらしい根津校長と塚内さんが同時に額を叩いていた。

 

「ちゃす……元気っスね……」

「逆にな!」

 

耳郎の皮肉に屈することなく、オールマイトは拳を作って震わせている。

 

「ナイトアイもいるということは──」

「青山さんの件でしょうか」

 

気を取り直した塚内さんは、指を空へと向けた。

 

「さらにその先だ。現在限られた者に概要を伝えている。第二次決戦の最終プラン。その協議を行う」

「それはすでにトップスリーにも伝達済みですか?」

「いや、根津校長に監修してもらおうと思っていてね。いまから──」

 

自身の唇に人差し指を当て、オールマイトに話さないようにと手で制す。

その姿勢のまま【作戦】を伝える。

 

「エンデヴァーたちには決定した作戦を抑えて文字で伝えましょう。死柄木、オール・フォー・ワンがどのような個性を持っているかは不明です。ボクにも伝えないでください。A組からは八百万だけ出向させます。みんなもそれでいいか?」

 

唯一の救いは、オール・フォー・ワンが《崩壊》を持っていそうにないことだな。こればかりはドクターこと殻木の言うことを信じ切った形となるのだが……。

 

「あの、業さん」

 

同意を得ようとしたのだが、八百万は反対らしい。なんだ、どうした。

 

「いま、えっと……八百万と……言われたような……」

「あ」

 

あー……。

 

「どういたしました? 百お嬢さん」

「いやもう無理でしょ!!」

 

クラスの女子たちには周知の事実であったようで、芦戸や耳郎から非難の声が上がってしまう。味方を得た八百万が、躊躇いながらも前に出てきた。

 

「い、いくらなんでも、苗字は、その、他人行儀が」

「いや、あのぉ……そうですよねぇ? もちろん、もちろんですよ百」

「敬語出ちゃってるじゃん! ほら策束! ヤオモモって言ってあげなよ!」

 

いまは一分一秒が惜しいわけだが……。ほら見ろ、オールマイトたちも大変楽しそうですねぇふざけやがって。

まあ良いさ、いまは八百万の──ヤオモモの機嫌くらい取っておくさ。

 

「じゃあ、よろしくヤオモモ」

「──はい!」

 

差し出した右手に彼女の手が重ねられる。

オールマイトから指笛が鳴らされ、周囲から祝福を受ける。

 

はあ、まあ仲直りってことで。良いさ、納得しておくよ。こっちも根に持ちすぎました。すみません──なんて、本当はずっとわかっていたことだ。

誘拐も、ボクの無個性も、彼女のせいではない。

ただ、そうしなければ心に折り合いが付けられなかっただけだ。

 

その後は、ヤオモモを連れて出て行ったオールマイトたちを見送った。

その流れで、なぜか全員が布団や寝袋を持ち寄り、談話室で寝ることになった。

タオルケットを配っての雑談なのだが、絶対に来ないと思っていた爆豪や轟も参加している。

緊急事態ではあるが、ほら、睡眠は大切だしさ、その眠りにつく時間くらい大目に見てくれよ──なんてな。

 

 

「──んじゃーつぎ。策束の欲しい個性!」

「えー? 迷うなぁー。あー空飛びたいよな」

「でも高所恐怖症じゃん」

「《I・アイランド》! 懐かしー!」

「いまも三階とかもちょっと怖いんだよ。あ、二階ならセーフだから」

「自慢になんねーだろ」

「それってUSJのときに?」

「ボクが耳郎庇ったってやつ? それでなんで高所恐怖症になるんだよ」

「あー……それは、まあ、有り得るのかなー。記憶無いんだよね?」

「無い無い」

「あ、聞きたいと思ってたんだよね。記憶戻ったときどんな感じだったの?」

「えー? なんだろう、なんか、あ、ほら、よくわからんタイミングでむかしのCMの音楽が頭の中で流れる感じ」

「ははは! 絶対嘘!」

「本当だって」

「あたしもあたしも! ねえヤオモモと抱き合ってたじゃん! やっぱり付き合ってるの!?」

「えええ!?」

「キスして抱き合ってたって!? 許せねぇ! 許せねぇよ!」

「いて、いてぇ! どっから攻撃してんだ峰田!」

「オイラなんもしてないけど?」

「で、カルマさぁ……抱き合ってたってなに?」

「えっと……お願い? 交渉? あるいはー……作戦?」

「物騒になってくのやめろ」

「策束くんって八百万さんのこと好きなの?」

「ストレートな質問キター!」

「なんだよ口田ー。意外とゴシップ大好きじゃーん」

「んでんで!? どうなの策束くん!」

「あー……あんまり好きじゃあない、かなー……」

「え」

「え?」

「「「ええええええ!?」」」

「なんで!? その答え有り得ねぇだろ! リアルっぽいのやめてよ!」

「恥ずかしがっとるだけやよね!?」

「こ、子どものころは好きだったよ。だけど中学のときは好きな人いたし、初恋ってそういうもんじゃん」

「中学の話も興味あるけど……」

「ここにヤオモモ居なくてちょっと可哀想とか思ったけど、居なくて良かったわ……」

「これはさすがに……。サイコパスかよコイツ……。話題変えて良い?」

「賛成ー……。順番は、爆豪聞いたっけ?」

「……テメェもナンバーワン目指してんのか?」

「うはは、なにその質問。でもフェイカーとしては、そうかな。全部の責任背負って消えようと思ってた」

「いまは違うってことで良いんだな」

「黙秘権を、行使しまーいて! いてぇ!」

「やれー、響香ー!」

「煽ってやるなよ」

「緑谷は?」

「んー……あ! メリッサさん! 僕が離れてるときに策束くんがいっぱいアイテム送ってくれてたんだけど、あれってメリッサさんのものだったんだよね! 道理でシステムのアップデートが早いわけだ! ミッドガントレットの予備も、飯田くんのコスチュームも発目さんと一緒にすぐに準備してくれたんだ! いつ日本に呼んだの? 教えてくれても良かったのに。あ! あのねメリッサさんっていうのは──」

「うるせぇぞデ──ズク!!」

「デズク!! は笑う」

「爆豪はまだまだ慣れないねぇ」

「クソワイリーってどういう意味だったの?」

「なあ策束ー。戦い終わったらラーメン食いに行こうぜ」

「ラーメンはちょっと無理かなー。カレーで勘弁してくれ」

「ええ? どういうこと? ラーメン屋でカレー食うってこと?」

「あー、でも策束のカレー食べたいなぁー」

「ウチはシチューでも良いよ。またよろしくね」

 

 

眠いせいか、頓珍漢な返答をしてしまったようだ。

ボクのことを中心に話を回してもらっていた。なんか、こそばゆいな。

 

「あ、策束くん。えっと、ちょっと真面目な質問いいかな?」

 

麗日が方向性を切り替えた。楽しすぎて眠るタイミングを失っていたくらいなので、お開きの話題としてはそちらの流れのほうがありがたい。

揶揄するような野次もなく、ボクが続きを促すと麗日は質問を行った。

 

「策束くんにとっての【普通】って、なんやった?」

「え? ええ? なんだろう……難しいなぁ……」

「青山くんとは、違うんだよね」

「たぶん?」

 

普通は、普通だ。

 

「えっと、みんなと一緒ってわけじゃあないんだよ。団体行動していても、それが普通ってわけじゃあないだろ? んー……概念すぎねぇか?」

 

答え方にあぐねていると、麗日が質問の方向性を定めるように話し始める。

 

「えっとね、私ね……【お話したい】って言われたのに……【そんなこと】って言い返したの……。デクくんを連れ戻してさ、学校の上に立って……話聞いてもらって……あんなに嬉しかったのにさ……うちが一番、ひどいことをしてたんだって」

 

泣いているのだろうか。

 

「その子ね、【普通】が可哀想って言われたんだって……」

「ああ、あはは、なるほどねぇ」

「とっても、生きにくいって……泣いてたんだ」

 

ああ、そうだ。【ボクら】の問題は、個性・無個性の向こう側にある。

本質は、個性が無いことではない。

──“個性”が受け入れられないことなのだ。

 

「【普通】は普通だよ。すごく普通。ごくごく平凡。

「だけど、平均値って意味じゃあない。

「朝起きて株価チェックしたことある人いる? ボクにはそれが普通。

「朝、飯田のラジオ体操でイラっとしたことある人いる? ボクにはそれが普通。

「シナモンが好き。むかしは嫌いだったけど、いまは好き。

「ヒーローが好き。オールマイトが好き。紅茶が好き。コーヒーも好き。笑い合えるお前らも好き。鶏肉が好き。無個性が嫌い。無個性だから可哀想って思うやつも嫌い。海が好き。運動で汗掻くのも好き。たまに寝坊するのも好き。金稼ぎの仕組みが好き。利益しか考えないやつは嫌い。個性を利益のために使うやつは大嫌い。勝手に評価してくる人も嫌い。水が好き。あ、水泳のは嫌い。ピアノ弾くの好き。自分が育てた【物差し】で他人を図ることしかできない人も嫌いだ。

「あと、耳郎が好き。

「それがボクの普通。それを有り得ないとか、可哀想って言われるんだ。まあ生きにくいよなぁ……」

 

そして、世界で一番、策束業が大嫌い。

世界で一番、ボクがボクを、認めていないんだ。

 

「ごめん、なんか、そろそろ限界……。明日もきっと早いから……みんなも、早く……」

 

ああいつか、ボクがボクを好きになる日が来るのかな──。

 

 

◇ ◇ ◇ ◇

 

 

翌日、ボクを除いた上層部は、決戦における一連の流れを決定したようだ。

その一手目として用意されたのが、雄英から三十キロ離れた地点に設置された《仮設要塞トロイヤ》だ。

いまからヒーロー免許を持っている者全員が、そちらへと移動を開始するというので、指示されるままに、コスチュームへと着替えていた。

だが、なんか、みんなが無理に目を開いているような気がする。

 

A組で元気なのは、ボクとヤオモモと轟くらいか。

 

「早く寝ろって言ったじゃん」

「「「寝れるかぁ!!」」」

 

なぜか盛大に怒られてしまった。

 

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