雄英正門付近に、避難民たちが何人も集まっていた。
理由は、ボクらの出立にある。
緑谷を連れ戻してから半月ほどが経過したが、ヴィランの襲撃は一度たりともなかった。代わりに、嗅ぎまわる連中はずいぶんと目立つ。オール・フォー・ワンのシンパか、マスコミ気取りの輩であることは明らかだった。
ブラックリスト入りした避難民には厳しい監視が付いているのだが、青山の両親が言っていたように、聞かれても問題ない会話内容にしているのだろう。
だが、何事にもヒューマンエラーは存在する。
避難民の会話は、そのほとんどが録音されていることを彼らは知らない。
『煽れ。まだ潜在しているであろう反対派の人間を巻き込め。雄英は死柄木の乗っ取りが可能になるまでもう一週間もないことを掴んでいる。危機がもうすぐそこに迫っていることを隠している。煽れ。緑谷出久が再びその砦にいられなくなるように』
スパイを捕まえて聞き出したわけではない。
タジマという避難民が【一人で話している】内容なのだが、声が届く範囲には背を向けている女性がいる。オール・フォー・ワンからの指示を仲間内で共有しているのだろう。
暗号を使えば良いものを、律儀にもこんなに分かりやすく教えてくれる内通者を捕まえるなんてもったいないことはしないさ。
この内通者が情報を流し続けてくれている限り、次の一手を打ちやすい。それを逆手に取られないよう気を付けることのほうが大変だな。
その次の一手として用意されたのが、《仮設要塞トロイア》だ。
「お兄ちゃん! ここを出るって本当!?」
見送りに来た一団から、洸太くんが緑谷へと駆け寄ってきた。
洸太くんと民衆に向けて緑谷は笑う。
「泥を払う暇は、もう十分にいただきました」
洸太くんだけではなく、緑谷の母親、爆豪の両親にも聞こえるように、緑谷が感謝の言葉を述べる。
入れ替わるようにスナイプ先生が注意喚起を呼びかける。
その注意とは、雄英高校にだけ根津校長が流すと判断した情報の補足であり、これから【四日後】に戦争が起こるとアナウンスしていたからだ。
四日後──。
この数字には二つの意味がある。
一つ目は、オール・フォー・ワンが信奉者に伝えた《あと一週間もない》という数字を、ヒーローがより正確に把握していると印象付ける。
結果、タジマの情報は古い、あるいは、オール・フォー・ワンがタジマたちを信用していないと受け取らせる。
二つ目は、決戦は三日後だろう。
これは勝手な予想だから、今日、明日、明後日の可能性も十分にある。まあ今日はないだろう。……ないよな?
ともあれ、その数字だけで内通者たちが描いていた作戦は失敗だ。
ヤオモモじゃあなく、根津校長に【お願い】すれば良かったかな。
正門を出て、用意されたバスへと乗り込む。移動はA組だけではなく、希望を取ったヒーロー科全員だ。つまり全員だな。やる気が漲っていて素晴らしいね。
さすがに移動中に襲われるのはご勘弁願いたいので、カルマ組の連中には護衛を行ってもらっている。
ミルコやファットガムは士傑へと戻ってしまって、もうしばらく会うことはないだろう。ちゃんとお礼言えなかったなぁ。ミルコの右足が《オーバーホール》によって治されていることだけが救いか。
「業くん! ちょっと良いかな!」
バスに乗る順番を待っていると、だれかに呼ばれた。
「えっと、天晴さん?」
飯田天晴。初代・韋駄天ヒーローインゲニウムだ。ステインに襲われ車いす生活を送っていたプロヒーロー。
東京で活動していた彼の事務所は、サイドキックを六十名以上雇って、規模で言えばエンデヴァー事務所より手広くやっている。いまは代表を変えて別の事務所として扱われているが、サイドキックたちとの仲は良好を通り越して親友のようで、ヒーロー登録が認められればすぐに代表へ返り咲くだろう。
「キミとはあんまり話す機会がなかったからさ。移動だけでも、どうかな?」
「ええ、もちろん」
なんて安請け合いしたのが良くなかったか……。
装甲車の背面に取り付けられた扉を開けると、壁を背もたれにするような座席があり、その一か所に赤黒血染──ステインが座っていた。
「気まずくないんですか?」
「いや、まあ、気まずいよね! あっはっはっ!」
「──ハァ……」
ボクは赤黒の隣に座り、天晴さんは赤黒の正面に座る。
「ちなみに……雇い主としてはめちゃくちゃ気まずいので、そこらへんよろしくお願いします」
「正直者だねぇ」
「あ、あとべつにヴィランを集めたかったわけではありませんから」
「あはは、まあこんな状況でいちいちキミのやり方を注意したりしないさ。それに、たぶんキミは正しい選択をした」
「それは勝ってみないと」
「だね」
雑談をしている間に、治崎たちも乗り込んでくる。すげぇ、運転手含めてヒーロー側が天晴さんだけだ。
「業くんは、すこしも怯えないんだね」
「いや、めちゃくちゃ怖いですよ。あと四日で決戦かもしれないのに」
「あははは、ああ、ごめんごめん。そうだよね、【キミ】はそうだ」
となりに座る治崎に視線を向けるが、こいつは肩を竦ませるだけで終わりだった。どうやら雑談に興味がないらしい。
ボクは天晴さんと接点がほぼないし、赤黒との距離感もわからないのだ。すこしは雇い主の役に立て。
「そういえば、音本の説得ありがとうございます。おかげでドクターはずいぶんと簡単に情報を吐いてくれましたよ」
にこやかに笑うと、巻き込むなとばかりに睨まれる。
目論み通り、話題に飢えていた天晴さんから質問を受けた。
元・死穢八斎會、音本真。彼の個性の前では、嘘がつけないという恐ろしい個性の持ち主だったが、なぜか治崎に陶酔しており、治崎を通せばこっちの都合の良いように動かせる。
いまは殻木球大とともに地方の警察署に隠しており、思いついた質問は一通り回答をもらっている。
なお音本を使う条件は、治崎の減刑。ちょろくて助かるねぇ。
「それだけ愛されてると、業くんが刺されそうだねぇ」
「……話題を変えましょう。えっと、じゃあ」
車内のメンバーを見渡し話題を提供しようと思ったが、さきに天晴さんがべつの話を切り出した。
「オーバーホール、身体を治してくれてありがとうございます」
「……治崎で良い。それに、ヒーローだろあんた」
「だけど、自分の足で立てるってのはやっぱり嬉しいし、この決戦に間に合わせてくれた治崎さんには感謝している。でも、治してもらったヒーローたちは壊理って子どもの手前言いづらいだろうからね。勝手に代表して俺が来たってわけ」
治崎が鼻を鳴らして顔を逸らした。玄野が口元を抑えて笑っている。
その様子を見て、天晴さんは目元を緩めている。
「治崎さんも、ステインも、キミらのやったことは許されない。感謝はしているが、仲良く肩を組みたいわけじゃない。だけど、なんか不思議じゃないか? 日本の社会がこんなことになって初めて、ヒーローとヴィランの垣根がなくなっている……」
視線を泳がせた彼は、すこし間を空けて天井を見つめた。
「間違えたのはキミらじゃなくて……正解がヒーローじゃなくて──」
「黙れ」
止める間もなく、赤黒の刀の先端が天晴さんの白い喉元に付きつけられていた。そして同時に、治崎の手がボクの前を通って赤黒へと伸びている。
宝生は《結晶》を。ナガンは《ライフル》を、それぞれ赤黒へ向けていた。
「真の英雄が選んだ道が、間違いであるかのような口ぶりだ」
「オールマイトだって、間違えるだろ」
「あはは、たしかに」
命の危機にも関わらず天晴さんは笑っている。その様子がおかしくて、軽口を叩くと赤黒に睨まれた。
慌てて諸手を上げて言い訳をする。
「い、いや本当ですよ? この前だって時間割間違えてたから職員室呼びに行ったし。胃袋治ってからですけど、夜中お腹空いたって言ってラー油と醤油間違えて卵かけご飯作ったって笑ってました」
「真の英雄はそんなこと──」
「ウォッホン!」
大きく咳払いをするジェントルに視線が集まる。
「策束少年……。その話、詳しく聞かせていただけないかな? ステインも、そのような無作法は止せ」
「……ふん」
赤黒が姿勢を正すとともに、治崎もため息を挟んで席に戻った。
元ヒーロー科の二人が、揃ってこちらを見る。
「……話せ」
ずいぶんと威圧感がある物言いだが、こちらが話すのはオールマイトの間の抜けた話だ。神野区からこちら、彼はただの面白いお節介な教師の一人だったからな。
真の英雄かは知らないが、等身大のオールマイトだ。
仲良くなったかなどは微塵も興味もないが、オールマイトの話をしているときだけは、赤黒も静かだったな。
ヴィランとして歪んだ者も多いが、そのほとんどは子どものころにオールマイトに焦がれたはずだ。オールマイトは、自身に憧れを抱いた子どもがヴィランになったと聞かされれば悲しむだろう。手が届かなかったと嘆いたはずだ。
それが、いまこうして、彼の話でヴィランたちが聞き入っている。
ははは、オールマイトがいればもっと盛り上がっただろうに。
移動の三十分はあっという間に過ぎて行った。
装甲車から降りて手筈通り、天晴さん以外は所定の位置へと移動してもらう。
雄英側が緑谷と決戦のために用意した《仮設要塞トロイア》は六棟あり、一年から三年生までのヒーロー科A・B組の分である。
緑谷やカルマ組に行ってもらっていた訓練には、入学予定だった新一年生も加わっていたが、残念ながら彼らは留守番だ。
ヒーロー科の分とは言ったが、ヒーロー科であることが今回の作戦の条件ではない。
「よ、緑谷」
「心操くん!」
ボクらの出迎えにA組寮の前に立っていたのは、心操人使だった。
「ヤオモモが呼んだの?」
「いえ、私の案ではありません」
彼女も驚いた様子ながら、心操を囲うA組の輪に加わっていく。技量で言えばA組に混じっても問題ないからな。
だが、ナイトアイが用意した名簿にはなかった。どうせなら訓練させれば良かったのに。……いや、心操は乱戦要員としては使わないだけか。
となると、心操はキーパーソンだな。これ以上は考えるなよ。……酒でも飲むか。いや、これから【撮影】があるか。決戦が今日だったらこちらの準備不足だな、言い訳にはできない。
じわりと滲む手汗をズボンで拭った。
いまさら自覚してしまった。
ボクとオール・フォー・ワンとの戦いは、もう、始まっている。
宛がわれた部屋で荷物を開封していると、窓から寮の外で麗日と緑谷が並んでいるのが見えた。壊れた街並みを見てなにか話しているらしい。
あと三十分後にはミーティングが始まる。
すこしでも有利になるような作戦を考えるも、明らかに間抜けな作戦だ。
ストップウォッチを片手に、部屋に置いたカメラの録画ボタンを押す。
事前に用意していた【台詞】をカメラに向けて読み上げるが……んー……手ごたえはない。
「さっきからなにしてんだ?」
「──峰田!? 瀬呂も! 声かけろよ!!」
いつの間にか部屋のドアが開け放たれ、峰田と瀬呂がこちらを見ていた。口田と障子も一緒にいやがる。
全員コスチュームだ。行きのバズでなにか話があったのかな?
「耳まで真っ赤だぜー」
「まさか遺書じゃないだろうな?」
「んなわけあるかよ。ほら」
入室してきた障子に向け、メモの【台本】を手渡す。
声に出して読み上げられる。赤くなったボクの表情とは反対に、彼らの顔が青くなっていったのは面白いな。
「お前、オール・フォー・ワンに喧嘩売る気かよ!」
「残念だけど、その程度の煽りじゃあ買わねぇだろうな。それに、心を読まれればハッタリが露見する」
だからこそのカメラ、だからこその台本なのだが……。内容も薄っぺらい。
個性を奪ったことへの恨みつらみに加え、日本と策束家の総力をもって潰すことを【会話】のように撮影しようと思ったのだ。
「オール・フォー・ワンの意識を映像に向けるつもりだったのか。失敗だな」
「なんでだよ。これから試行錯誤してさぁ──」
「目が見えない相手に、映像を送ってどうするんだ」
障子の正論を受け、メモを瀬呂から返却してもらって細切れに破いた。新居の床に花吹雪のように散らす。
「もーダメだー! あんな化け物の意表突ける天才キャラじゃないんだよボクはよぉー! 秀才止まりでごめんよぉー」
「自慢すんのやめてもらえる?」
「案としては面白いが、そこまでして策束がオール・フォー・ワンと対面する必要はあるのか?」
障子の意見も一理ある。なぜボクがわざわざ対面するんだ? わからん、わからんのよなぁ。
五人で知恵を絞っても有効な手段は見出せず、ミーティングへと向かう。
一階の談話室はミーティングルームとなっており、そこにはホワイトボードと椅子が用意されていた。電力の不安定さはいかんともしがたいな。
十分もしない間にクラス全員が集まって来た。
犬猿の仲のようだった爆豪と轟が揃って降りてきたのも驚いた。切島と飯田も一緒に談笑していたようで、衝撃を隠せない。
変わったなぁ爆豪。
「んだ策束、見てんじゃねぇぞ」
「変われよ……」
まあ、こんな危機的状況で喧嘩するよりよっぽど良いさ。
しばらく待っていると、相澤先生、オールマイト、塚内さんと入って来た。A組だけ特別扱いかと思ったが──理由がわかった。
「青山くん!」
緑谷を先頭に全員が駆け出して、手錠を掛けられた青山に近寄っていく。
だが相澤先生とオールマイトに阻まれ、二の足を踏むことになった。
「青山」
「……はい」
涙の痕が色濃く残る、憔悴した表情。なのに、どこまでも前を見据える彼は、ボクが目標にしていたヒーローそのものだった。
「僕も、一緒に戦わせて欲しい──だけどっ!」
応えようとしたクラスメイトの掛け合いを遮ったのは、青山本人だった。
「僕は……キミたちが僕を信じてくれればくれるほど、僕自身が僕を信用できなくなっていくんだ……。キミたちに手を取ってもらったとしても……オール・フォー・ワンを前にしたらまた……僕は同じことをしてしまうかもしれない……それが、怖い」
「なら大丈夫。ボクがいる」
自然に、そう零していた。
そして、なぜボクがオール・フォー・ワンと対面しなきゃいけないのか、わかった気がする。
きっとあいつを逮捕しても、それこそ殺したって、青山はもう呪縛から逃れられない。
それは、青山が自分自身を呪ってしまっているからだ。
でも、僕も同じだ。
無個性で自分を縛り続けてきた。このクラスに入れなきゃあ、ボクは一生、死ぬまで呪われたままだった。
青山は暗い目のままボクを見ている。
「ここに来たのは、オール・フォー・ワンの本当の目的を教えるためなんだ。そして策束くんなら──きっと」
「警察としても、オール・フォー・ワンの狙いが奇想天外過ぎて、いまは経済学者の返答待ちでね。策束家・八百万家の意見も聞いてはどうか、という話になっている」
なんとまぁ……。経済学者だぁ? この荒廃した日本で金稼ぎでもしようってのか?
ボクとヤオモモが青山に話を促すと、彼は訥々と語り出した。
「日本がこうなったことで、いま世界がどうなったのか……。
「策束くんなら知ってるだろう?
「突如として円の価値が大暴落して、多くの日本企業が倒産し始めてる。
「その煽りと、ヴィランの一斉活性化で、各国にダメージが波及してる。
「世界大恐慌や超常発現と似た流れが差し迫っているんだ。
「……世界的な雇用の消失。貨幣の信用失墜……。大混乱時代さ。
「長期政策を施行する体力を失えば、どんどん目先の安全を求め貧しくなっていく。
「日本は……見捨てられる。各国、自国の安全が最優先だから……。
「そんな世の中──たとえば水が足りない国に飲み水を出せる個性が現れたら。
「電気もガスも、“力”も……。
「退廃と混乱の世界へ突入していくなか、ただ一人……圧倒的個人がイニシアチブを取れる土壌が形成されつつある。
「オール・フォー・ワンは、世界の裁定者──魔王になる」
あまりに薄っぺらい目的だが……本気なのか?
「どう思います?」
「……あり得なくはない、と思いました」
「実現可能ということでしょうか」
ヤオモモは一度頷いて、黙り込んでしまう。経済関係は不得手のはずだし、上手い答えは出ないかもな。
世界征服の片棒を担いでいた青山とて、ボクならなんとかできるかもと教えてくれたのだ。応えないわけにはいかない。
考えろ。
まず、この戦争はヒーローとヴィランとの戦いではなく、クーデターだと語られた。
ならば、オール・フォー・ワンは戦争の『せ』の字も知らないらしい。
「前提だけど、明日にでもオール・フォー・ワンがテレビを通じて、明日から僕が国民を守るよ! なんて言い出しても政府は飲まない。だけど、流される国民は何千万人といるだろうな。そして同時に、日本の人口一億人が敵になる」
日本国民だけではない。
政府高官を皆殺しにして乗っ取りが成功したとしても、他国は強硬姿勢を見せるだろう。鎖国はできない。世界征服を目指しているのなら、それは大きなハンディである。
テロを起こした人間は、国際会議の場で発言権は無いようなものだ。
考えろ。
もしオール・フォー・ワンが国のトップと成って支配した場合、各国は貿易を打ち切る。経済制裁どころではない規模のはずだ。それらの損害は両国にとって途方もない。
「これまた同時に、日本は他国に戦争を挑まれる可能性がある。その場合、生き残りの政府は日本を守るために、オール・フォー・ワンに停戦の打診をするはず……。そうなれば……日本国はやつの支配下か」
「それは机上の空論……なんだよね」
緑谷に問われるが、そうだ、机上の空論だ。ただ、可能性の一つとして数えられるぐらい、現実味を帯びた理論に思える。
考えろ。
「各国がヒーローを同時派遣してオール・フォー・ワンの討伐に乗り出す可能性が一番高い。次いでミサイルでの攻撃かな。核を保有するヴィランとの訓練のほかに、核を撃ち込まれたときの訓練もするべきでしたね、先生」
「抜かせ。で、オール・フォー・ワンの目的はどうなると思う」
「成功率は四割弱ってところでしょうか。面白いことに、失敗した場合第三次世界大戦の舞台が日本になるでしょうね」
「笑えねぇだろ!」
爆豪が吠えるが、ほかの面々でも笑っている人はいない。
オール・フォー・ワンの狙いが成功した場合は日本がヤツの支配下になり、失敗した場合日本を崩壊させる戦争が始まる。しかも、民間人すら信用できない状態であり、殺戮に近いかもしれない。
「日本、詰んでねぇか……」
峰田の震える声がポツリと落ちたが、それは否定しよう。
「あははは、んなわけねぇだろ。ここでボクらが勝てば問題ない。円安? 倒産? 面白いじゃん。日本の底値だよ? くはははは! 金だ、金の匂いだ!」
まあ、これらはボクの勝手な想像だ。正確な未来図は経済学者にお任せしよう。
実際、オール・フォー・ワンに勝利すれば、どうにでもできる。
正義は、ボクの手のなかにあるのだから。
「ヴィランいるってここに」
「金の話してるときの策束ってヴィランだよね……」
「先生、拘束したほうが良いんじゃないですかね?」
「無個性はヴィランとして捕まえられませーん」
切島たちに舌を出しながら反論しておく。
相澤先生が髪を逆立て始めたので、慌てて静かにする。
「作戦を聞かせるなという要望があって、ざっくりと説明する。いまから三日間、日本各地に散ってオール・フォー・ワン及びヴィラン連合の捜索に当たる。これはトロイアに移動した学生、そして士傑などの学生たちにも協力してもらう。文字通り、総力での捜索ということになる」
え……どういうことだ? このまま訓練で良いんじゃあないのか?
緑谷を囮にしてまで探していたのが不発だったのだ。あまりにも悪手だろうに、しかも三日後と言えばボクの予想では決戦日。本当は四日目で決戦かもな。だが、その場合は完全に支配されている死柄木と相対することになるはずだ。
まあ百パーセントと九十九パーセントの違いなど気にしないということであれば、それで良い。ヤオモモを盗み見ると驚いている様子はないし、作戦の範疇のようだ。
「その後の決戦は、ほとんどのヒーローすら知らない話だ。ここだけに留めてくれ。日本各地にヴィランたちを飛ばし、そこで各個撃破する。要注意ヴィランは、オール・フォー・ワン、死柄木弔、荼毘の三人だ。轟、お前の配置は、荼毘との対面だ。覚悟は良いか」
「ああ」
相澤先生は、それ以上の配置は告げなかった。
代わりに青山の背中を押して、ボクらへと無理矢理近づける。
押し出された青山を受け止めると、囲むボクらを見て、最後に相澤先生へと向き直った。
「一年A組、出席番号一番、青山優雅」
「──はい」
「全員で勝つぞ」
泣かぬように歯を食いしばる青山は、それでも必死に顔を上げた。
その顔には、笑顔が浮かんでいた。
「はい!」
青山の通る声を切っ掛けに、塚内さんが歩み寄って青山の手錠を外してくれた。青山の左右に緑谷とボクと並び、円陣を組んだ。
「やっっっっと二十人揃ったね!」
「長かったよ問題児ども!」
「ヤオモモお願いー!」
「気張るぜー!」
「せーので行くぞ!」
体育祭のように、A組全員が顔を見合わせて笑っている。
こいつらと来たら……。全員揃ったら大団円ってわけでもあるまいし。死ぬかもしれない決戦前に、不謹慎すぎるだろ。
そんなボクの皮肉とは裏腹に、ヤオモモが花の咲くような笑顔で音頭を取った。
「ではみなさん! 行きましょう! せーの!」
「「「プルス! ウルトラー!!」」」
まったくもう。大きい声出すと喉が痛いんだってば。