2025/08/02
『僕のヒーローアカデミア the movie ユアネクスト』
いろんなサブスクで配信開始。この機会に是非お楽しみください。
父は弱い人間だった。
「お前は、よくやってくれた」
「光栄です」
「そして同時に、やりすぎた」
寂しそうに、彼は息子に告げる。
ああ本当に、この人は弱い。
「ゴリーニの名を守るために、なにを遠慮することがありましょうか」
「名誉を守るため血を見る必要はないんだ」
「他組織から舐められて良いとでも」
父は首を振ってため息を吐いた。
「すり替えるな、他組織と他人は違う。個人に甘く見られようとも、組織として侮られなければ良い──そう、何度も言い聞かせたつもりだった」
「私がゴリーニです。それを認めぬ者には粛清が必要ですよ、父上」
「粛清? 暴力に酔うのとなにが違う? ただの癇癪となにが違う?」
「ゴリーニの名を守る行為です」
堂々巡りだ。二人の意見は対立し続け、父は組織の長として決断をしなければならなかった。
寂しさと悲しみを孕んだ声で、父は息子に告げる。
「お前はカポ・レジームとしてゴリーニに貢献せよ」
アンダーボスである息子に、降格を言い渡した。それは廃嫡に等しい行為であり、今後、組織内で息子の派閥が拡大することはないと告げたとの同義だった。
「バルドよ。力に固執するお前ではファミリーをまとめることはできん。恐怖だけで人は動かん」
「オールマイトは、その力で己の理想を手にしました」
そう言い返す息子の手には、拳銃が握られていた。
まるでそれが理想であるかのように。
それを見て、父は悲しんだのかもしれない。それとも、怯えたのだろうか。
すくなくとも、命乞いはしなかった。
「彼は理想のために力を欲したのだ。お前とは違う」
拳銃を構えた相手を前にして、父は逆らうでも説得でもなく、葉巻を選んだ。
結局、彼は葉巻を吸うこともなく、息子の肥大化した殺意によって命を落とす。
「なんの音!?」
「どうした!! なにがあった!」
部下たちが慌ただしく、【彼の部屋】に入ってきた。
「ボス! ボス!! バルドあなた──」
机に突っ伏す父を起そうとしていた女性は、息子を見上げて言葉を失った。
薄っすら返り血を浴びた彼は、父の死体を前に笑っていたから。
痙攣するように頬を吊り上げ、焦点の合わぬ視線で父を見下ろしている。
「今日から、俺がボスだ」
いや、違う。
「俺がゴリーニだ」
いや、違う。
「俺が──オールマイトだ」
ああ、ああ、これだ。これなんだ。
暴力を体現した存在。
いや、ただ在るだけではない。
もっと彼は高次元のものだ。
象徴。
暴力で捻じ伏せ、暴力を愛され、人々を守り続けてきた象徴。
俺が──象徴だ。
お久しぶりの方は一年ぶりです。
はじめましての方は楽しんでいただければ幸いです。