【完結】無個性ヒーロー   作:南畑うり

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ユアネクスト・Raid Battle

 

 

「デク!──……デクの通信途絶」

 

拳を握り締め、状況だけを淡々と告げる。

数時間前、港で発見された空飛ぶ船による犯行。バーカウンターなどと揶揄していた結果がこれかと反吐が出そうだった。

 

「この光……なんの個性だ」

「これほどの個性を紡ぐ人間が、オール・フォー・ワンのほかにもいたとは……」

 

ホークスとベストジーニストが険しい顔で観察を続けている。

デクやA組を失ったとへこたれているボクには嬉しい存在だな。失態の直後だが、ヒーローたちが死亡したとは思っていない。頼もしいよ、本当に。

 

「避難民と緑谷少年たちの安否は!」

 

オールマイトとナイトアイの帰還。ナイトアイなどは憮然とした表情で、気持ち下唇が突き出ている。よほどあのオールマイト似の男が気に入らなかったらしい。

 

「そちらは問題ないと言っただろうオールマイト。《予知》に狂いは出ていない」

 

だからあんたはそこらへんを詳しく教えてくれってなんども! とここ一ヵ月なんど心の中で繰り返したことだろうか……。

なんにせよ決戦までに事態は収拾できそうだが、それにしたってここで手をこまねいているなどできるわけがない。

 

この間にも、デクたちが吞み込まれた光の繭は数キロに亘って広がり続けている。

──いや、なんか、形が。

 

「巨大な物体の出現を確認! 光はいまだ、膨張を続けているようです!」

「追加情報、相手はヨーロッパ圏最大のマフィア、ゴリーニファミリーであることが確認できました」

 

ラブラバから送られた情報を雄英に造られた指令室に同期させる。

オールマイト似の男は良くわからないが、船の上にいたヴィランと幹部の数人が一致していることが判明した。

 

なんだってマフィアがこんな状況の日本に来るんだよ? しかも八人? 人質の女性を入れて九人で? 本隊がいるよな、クソ、本当に《予知》に狂いはないんだろうな。データを見る限り最上級幹部ではないし、そもそもゴリーニファミリーとやらにオールマイトはいないだろ。

 

「先遣隊としてボクらが行きます! 治崎、玄野、準備を」

「待て策束」

 

背後のヴィランたちに指示を出した直後、イレイザーヘッドに呼び止められた。

 

「状況がわからない。俺も行く」

「心強いですが……良いんですか?」

 

ナイトアイを盗み見るも、肩を竦めるに留めた。問題ないらしい。イレイザーヘッドはファントムシーフやマニュアルさん含めて決戦のキーパーソンなのだが。

 

「では、まずはこの四人で」

「オールマイトさん」

 

不在であるエンデヴァーも通信に加え、これからの動きを相談しているとき、セメントス先生が声を荒げて呼び止めた。

 

「さきほどの放送されたあなたと瓜二つの男から、直接話がしたいと連絡がきていますが」

「わかった、出よう」

 

緊張した様子のオールマイトの隣で、ナイトアイがさらに下唇を突き出した。素人目にはそっくりなんだから許してくれよ、もう。

 

通信士が映像を繋ぐとすぐに、豪華絢爛に装飾された部屋を背景に、受話器を耳に当てるオールマイトの姿が見えた。

船の……中か……? 窓も映り込んでおり、その奥の青空も見える。壁紙なのだろうか。いや、録画かもしれない。

 

『いやー、探しましたよ先代。この記念すべき日にちゃんと母校にいるとは』

 

無駄に綺麗な日本語だ。オールマイトの顔から繰り出される日本語のせいで脳みそがバグりそうだ。

そんな心情はボクだけらしく、オールマイトは質問を行った。

 

「巨大物体に取り込まれた人たちは無事なのか」

『もちろん、大事な被検体ですから』

「被検体だと……?」

 

その物騒な言葉に、脳無という単語を皆が想像しただろう。

オール・フォー・ワンが各国で暴れるように指示を出した裏社会には、きっとゴリーニファミリーもいるはずだ。そこを脳無製造の拠点にしていたり、あるいはオール・フォー・ワンがこの地で暴れていることを理由に、ゴリーニファミリーが裏切りを──。

 

『オールマイト、あなたに連絡を取ったのは改めて宣言するため。俺が力を失ったあなたの代わりに、その意思を引き継ぎ、混乱したこの国を平定してご覧に入れましょう!』

「私の意志というなら取り込まれた人々をいますぐ解放してくれ。我々に協力してくれ」

 

それは、きっと本音になる部分だったと思う。

ヴィランをだれよりも引き入れているボクが言うのもあれだが、それが周囲のヒーローたちに否定されずにいるのは、それだけ余裕がないからだ。

どのような個性かはしらないが、数キロの空飛ぶ巨大な船を創り出したのがこの男だとするのなら、もし協力してくれるのなら絶大な戦力になるだろう。

 

「無理だな」

 

ナイトアイはつまらなそうに呟いた。

画面に映る男の答えなど、《予知》する必要すらなかったらしい。

 

『んー解放はしません。なぜなら! 彼らはあなたの意志を達成するために必要な存在だからです!』

 

──ああ、決したな。こいつはヴィランだ。

拳に力を込め直したオールマイトが、画面の男を睨みつけた。

 

「それは私の意志などではない。お前は、私の意志を継いでなどいない。ただ力を誇示し、己の欲望を満たさんとする、光ではなく! 闇を求めるヴィランだ!」

 

男はオールマイトの言葉に、衝撃を受けたように息を呑んだ。しかし、その直後に口角を上げて低く笑う。

横を向いたと思ったらカメラワークが切り替わり、ズームアウトで撮り始める。

玉座のような椅子の隣にはカウチソファに寝そべる女性の姿。加えてオールマイト似

の男の足元で、電話の本体を持ってついて回る執事らしき男の姿があった。

 

『光ではなく闇! ならば、俺はオールマイトではなく、ダークマイトと言ったところか!』

 

オールマイトの闇とは……。壊理ちゃんの個性で筋肉を取り戻してからこちら、彼の闇と言えば冷蔵庫のハムが無くなっていたり、知らないピザの箱がゴミ箱にあったりするくらいなのだが……。

そんなことを知らないダークマイトさんは、自身のネーミングセンスに酔いしれている。

 

『良いね、良い響きだ、ダークマイトォ!』

「私の理想をこのように捻じ曲げる者が現れるとは──だが! お前などに【次】を託すものか! 私が次を託した者は、いや、次を託した者たちは! ヒーローは! お前のすぐそばにいるぞ!」

『いいえ、その者たちも、すぐに新たな象徴に跪く。ダークマイトという新たな象徴に。……そう、これからは俺の時代! 世界よ! もう大丈夫! 俺が来た!』

 

言い返そうとしたオールマイトだったが、それはダークマイトさんが手を振って拒絶した。

 

『ごきげんよう!』

 

そう言い捨てて通信は切れた。

 

「さぁて……要求は無し、でしたね。イレイザーヘッド、移動を開始しましょう」

「だな。オールマイトさん、あんまり気に病まないでください」

「だが──」

 

一年一緒にいるイレイザーヘッドだったが、彼がここまで素直に相手を励ますのは初めて見たな。貴重な瞬間をA組と共有できないのは寂しい限りだ。

 

その励まされたオールマイトは、悔しそうに真っ暗な画面を睨み続けていた。

まあ、そりゃあそうだ、【普通】はそうだ。

自分の行動が世界に悪影響を及ぼすだなんて、想像もしたくない。それどころかダークマイトさんは存在してしまっている。

 

ボクもシルバーバレットをばら撒くことで、世界が壊れるだなんて想像もしなくないし、実際ばら撒くのだろう。あぁいやだいやだ。

 

「ともかく移動を開始します。エンデヴァー、聞こえてますか?」

『ああ』

 

通信先のエンデヴァーは、現在単独任務中だ。デクが集団に戻った以上、孤立する人員が必要だろうと、囮を買って出てくれている。

だがこういうオール・フォー・ワン関係なさそうな非常時には、ちと面倒だな。

 

「我々は巨大建造物の内部に侵入。あわよくば救助を行います」

『フェイカーまでも行く必要はないだろう』

「それもそうですね。でも行きますよ。A組の指揮官はボクですから」

『……わかった』

 

ふむ、ちょっとしおらしい。どうやら息子さんとボクの件でいろいろと話したらしい。引け目に感じて欲しいわけではないのだけれど。この非常時だし。

つーかボクのことを引け目に感じるならもうすこし父親として家族を顧みても良かったんだ。誤解が誤解を生み、果てに産まれたのが荼毘だというのならなおさらな。

ま、良いさ、良いよ、詮無きことだ。

 

ボクがヒーローに憧れた理由だって、もはやどうだっていい。

 

車に乗り込むと、イレイザーヘッドが珍しく助手席ではなくボクの隣を陣取った。治崎たちを視界に収めることを優先したのかと思ったが、そうではなかった。

 

「お前はヒーロー科こそ除籍したがな」

「……ああ、ええ、はい」

 

そう言えばそうだった。忘れてたよ。

 

「それでもA組だ」

「ふふふ、それは嬉しいですね」

 

どうやら、彼は彼で呑み込まれたA組らを心配しているらしい。これも、是非A組に見てもらいたいな。

 

 

◇ ◇ ◇ ◇

 

 

光に吞み込まれたA組が最初に見たものは、中世ヨーロッパに建てられたかのような街並みだった。

 

「ここは……あ! 大丈夫ですか!?」

 

ウラビティが周囲を見渡す前に、最後の瞬間まで支えていた避難民が足元に寝ていることに気が付いた。

いや、それどころではない。広場のような空間に多くの市民が倒れ伏していた。A組たちも何人かは気を失ったままだったため、起きている避難民とともに近くの建物に避難を開始した。

 

大きな教会ではあったが、光の繭に巻き込まれたと思われる市民たちが入ればすぐに手狭になった。

 

ヴィランの攻撃で傷を負った者たちの怪我は、クリエティが主体となって治療を開始。一方戦闘要員は窓から外の様子を見る。

 

「通信はダメだ」

「青空なのにな」

「どっかに転送されたとか? 海外? 過去?」

「そもそも何時間寝てたんだよ俺たちは」

 

レッドライオットらが相談する最中、ダイナマイトは極端に静かだった。しばらく窓に張り付いていた彼は、結論を口にする。

 

「ここは室内だ。空もイミテーションだな」

「はあ? 嘘だろ?」

 

チャージズマも窓に張り付いて空を見上げる。見事な青空で、とても室内には思えなかった。

 

「よく見ろモブども。雲も太陽も動いてねぇ。八十メートルあるかないかってところだな」

「まーたこの子はすぐに悪態つく」

「まーたデズクになっちゃうぞ」

 

からかわれたが、ダイナマイトは答えなかった。からかったセロファンたちも、微笑みすら浮かべていない。

点呼はすでに終わっている。

A組十八人、巻き込まれてしまった市民が九十七人。その中に、デクはいなかったからだ。

 

「ヴィランの狙いは、やっぱり《ワン・フォー・オール》かな」

 

青山がぽつりと呟いた。その質問にはだれも返答できず、しかし、インゲニウムが手を叩いて注目を集めた。

 

「まずは作戦会議だ。僕は早急に外部と連絡を取る方法を模索したい」

「避難場所を変えてぇ。ここに集めたのはヴィランだ。さらに近くの教会なんぞに集まってりゃ、見つけてくれって言ってるようなもんだろ」

 

ショートは、インゲニウムとはべつの案を提示した。どちらにしても、この場を離れることは共通の目的となっている。

 

「なら話は簡単だな。麗日!」

 

ダイナマイトに呼ばれ、ウラビティは避難民の集団から離れた。

聞かされたのは、ここがドーム状の建造物内であることと、《無重力》で天井にまで向かって、周囲の確認をしてほしいという願い。そして──、

 

「簡単な話だがよ……かなり危険だ」

「ヴィランに見つかっちゃうってこと?」

「見つかってるどころか、すでに監視もされてんだろ。問題は、【個性を消す個性】がヴィラン側にあるってことだ。落ちりゃあ死ぬぞ」

「危険すぎる」

「……それでも、やる価値があると思ってるんやね」

「麗日くん!?」

 

覚悟を決めたように口を開いたウラビティに、インゲニウムは声を荒げた。ダイナマイトが手でインゲニウムを制し、作戦を語る。

 

「俺の《爆破》じゃ直線で上がれねぇ。委員長がエアーマット作れば骨折で済むと思う。危険だぞ」

「うん、やるよ」

 

その即決振りに、息を呑むインゲニウム。しかし彼の逡巡も一瞬だった。すぐさまクリエティを呼びつけ、作戦を全員に共有する。

反対意見は、不思議なことにでなかった。そのことが、なんだかすこし嬉しくて、ウラビティはさらに笑った。

 

彼女の笑顔を合図にA組が街に広がり、周囲にヴィランがいないことを確認。ウラビティは《無重力》で高く飛ぶ。セロファンが握らせた《テープ》による目星を利用し、落下地点にクリエティがエアーマットを《創造》した。

 

「問題はありませんか麗日さん」

『うん! でも……森が広がってるね。あとは西側に橋が続いてる。そっちがヴィランの拠点かな』

「麗日くん、そろそろ」

『せやね、戻るよ』

 

意外にもヴィラン側の妨害はなく、ウラビティはすこし高い位置からマットへと落下した。

 

「いてて、意外と痛いんだこれ」

 

そんな気の抜けた感想を抱きつつ、上空から見た周辺地図の説明を行った。そのすべてを聞いたダイナマイトは舌打ちする。

 

「ドーム状だ。おそらくは絵が描かれてる」

「この天井みたいに?」

「橋ってのも模様ってことかよー。閉じ込められてんのかなー」

 

チャージズマが唇を尖らせて空を見上げる。そこで初めて、その違和感に気付いた。

 

「……なんだあれ」

 

空中に浮かぶ扉が見えた。

その扉が開かれると同時に、チャージズマは扉を指差して叫ぶ。

 

「警戒!」

 

ダイナマイトが真っ先に飛び出し、扉に向けて至近距離の《爆破》を当てる。黒煙が舞い上がり、一人の男性が気を失いながらも扉を押し開けた。二度目の《爆破》は扉の奥に向けて。

 

しかし扉の中から出てきた煤けたモンスターに、ダイナマイトは引くしかなかった。着ぐるみのような巨体に、小さな手足。しかし人ひとりくらいなら簡単に呑み込めそうな大きな口から涎が垂れている。

おまけに、それは一体ではなかった。

 

扉を押し合うように抜け出たそれらは直接的に襲い掛かって来たわけではないが、瞬く間に教会を中心に街全体へと広がっていくようだった。

 

「危ない危ない。勘弁してくれよ、貴重な適合者なんだぜ?」

 

ローブを羽織った中年男性が、杖を軽く回しながら扉を潜って現れた。中世ではなく、異世界を気取るかのような出で立ちである。

 

「こいつはトロール。飛んでいるのはワイバーン。クジラっぽいのはインプ。知ってるかいインプ。日本ではマイナーだろう」

「なにもんだお前ら!」

「インプはまだ改良の余地があるんだよな、機動力がなくてね」

 

無視されたダイナマイトは、周囲を警戒して飛び出すことはしなかった。

空中に浮かぶ扉から、二人の女性が現れたことも大きく関係している。しかも女性の片割れは、ギンジが人質にしていたアンナという女性だった。

 

「サイモン、トロールももっと恐ろしくしなさいよ。ハリーポッター見てないの?」

「ははは、デボラ、あんなのただの筋肉お化けじゃないか、もっと愛嬌が必要なんだよ、僕のゲームにはね」

「ゲームだぁ!?」

「そ、ゲームだよ。いまからキミたちには防衛戦を行ってもらう。ウェーブってやつさ。大量のモンスターに襲われて、それを全部撃退。そして休憩。で、また大量のモンスター」

「クソゲーだな! テメェ倒せば──終わるじゃねぇか!」

 

サイモンという男がモンスターを生み出していることは、確証はないものの口ぶりから察しがついていた。ならばモンスターをいちいち倒さずとも、このヴィランを倒せばいいだけの話だ。

ダイナマイトは走りながら《爆破》でさらに加速する。空中の扉の真下でもう一度《爆破》すると、愚鈍なモンスターたちはすぐに追うのを諦めた。空中を飛び交うワイバーンらも燃やし尽くすと同時に、サイモンに両手を向けた。

 

しかし、その手の平から《爆破》が起こることはなく、ダイナマイトは数メートルの高さから受け身も取らずに落下した。

 

「爆豪!?」

「催眠系か!」

 

心操の──ナイトハイドの個性は衝撃で解ける。本来、人の意識とはそれくらい強靭なものである。おまけにいまの衝撃は、強めに叩いた程度では済まされないもので、骨折していてもおかしくはないはずだ。

にもかかわらず、ダイナマイトが反撃する様子はない。

 

「ダメよ坊やたち。これはゲーム。ラスボスを倒すためにはちゃんと手順を踏まなきゃ。じゃないと、こうなっちゃうから」

「……はい」

 

立ち上がったダイナマイトは、額を打ち付けたらしく血を流している。意識も朦朧としているのか、視点の合わぬ瞳を正面に向けながら右手の平を教会の扉へと向けた。

 

「なっ!?」

 

瞬時にテンタコルが複製腕を大きく広げ、ダイナマイトが放った《爆破》を防ぐ。

 

「見てっか出久、オールマイト……これが新ナンバーワンだ……」

「なにやってんの爆豪! 上! ヴィランは上だって!」

「聞こえないわよー。残念ね」

 

くすくすと笑うデボラは、いつの間にか扉の前でソファに座っていた。テーブルもあり、コーヒーの匂いを嗅いで悦に浸っている。

サイモンは杖の先端を床に叩きつけ、注目を集めた。

 

「では、最初の防衛戦だ。楽しもう!」

 

それは、長い攻防の始まりの合図だった。

 

周囲のモンスターが教会に向かって押し寄せる。

室内で状況を見ていたA組の面々も外に飛び出す。教会は見たところ正面入り口のほかに裏口もあり、オールマイトを模したステンドグラスもある。ワイバーンからの強襲を受ければ簡単に割ることができるだろう。

 

室内にはクリエティとフロッピーだけが残り、それ以外は周囲で近寄ってくるモンスターを狩ることを判断した。

 

「峰田くんと僕とで周囲のモンスターに《もぎもぎ》をつけてくる!」

「林間合宿みてぇにか! 懐かしいな!」

「あのときは策束も緑谷もいたけどな!」

 

欠けているメンバーに思いを馳せ、さらにはモンスターの一団のように歩き回るダイナマイトを睨みつけるセロファン。

彼やテイルマンはすでに落下する瓦礫している身ではあるが、《テープ》で教会の外壁を補強するという仕事が残されていた。

 

「葉隠さん、大丈夫!?」

「うん! でも長期戦になるかもだから小出しでね!」

「ウィ!」

 

インビジブルガールと青山の二人が、ヨロイムシャ事務所にて身に着けた必殺技で、効率的にモンスターを破壊していく。《ネビルレーザー》の触れたインビジブルガールの皮膚が、極彩色に明転しているもののそれを気にする余裕がある者はいなかった。

 

「上鳴はあんまり無理しないでよ! 電気補充できるかわかんないんだから!」

「わ、わかってるよ!」

 

イヤホン=ジャックに窘められ、アニマ同様、教会の周囲を守ることに徹するチャージズマ。

その教会の前に巨大な氷壁が作られる。それを成したショートは、幽鬼のように立ち尽くすダイナマイトを視界に収めながら、モンスターを次々に焼き殺していった。

 

「爆豪! いい加減に目を覚ませ!」

「洗脳だよね、幻覚かな、発動はなんだ」

「あの女の個性だろう。《ダークシャドウ》ならやれるか」

「接触だったら常闇まで洗脳されちまうだろ! 緑谷も策束もなんでこんなときにいないんだよぉ!」

 

グレープジュースの叫びも虚しく、戦いはそれから何時間にも及んだ。

ウェーブと称されるように、押し寄せるモンスターを退けると、再び押し寄せるまでに小休憩のような時間が設けられていた。おまけにダイナマイトが敵味方関係なく《爆破》を放ち、ゲームのギミックのような役割を果たしている。

 

一度の戦闘は五分程度。効率的にモンスターを倒せたときは、最短三分ほどだっただろう。

しかし、波が止まることはなかった。

 

「もう、無理かも……」

 

最初に脱落したのは、意外にもピンキーだった。彼女はウラビティの《無重力》で空中へ飛び出し、サイモンたちを巻き込むような《酸》の雨を降らせ続けた。

しかし、彼女の《酸》は体液のようなもので、広範囲の攻撃はすぐに脱水を招くことになる。激しい頭痛と筋肉の痙攣で最小限の行動しかできなくなった。

 

つぎに青山の個性が限界を迎え、A組は一時間も立たずに広範囲攻撃の二つを失うことになる。

追加投入されたチャージズマも、そこから三十分後には《蓄電》していた電気を失い、語彙を失っていた。

 

「耳郎、その耳!」

「前見ろ轟! ウチが倒れたらあんたしかいないんだ!」

 

個性の連続使用で、彼女は自傷のように中耳からの出血が起こっていた。鼓膜が破けた可能性もあるはずだが、それを感じさせずに戦い続けている。

個性による自傷は彼女だけではない。

 

「広範囲っていうんならオイラもいるっつーの!! もぎもぎグレープ畑! 大作戦!!」

 

激痛を堪え、グレープジュースは《もぎもぎ》を放ち続けた。すでに彼の足元には血でできた足跡があるほどに出血している。

それでも、もはや個性が使えなくなったレッドライオットやアニマたちよりも一体でも多く拘束できるからと、戦い続けていた。

 

「げぇぇええ」

 

ウラビティも必死だ。立ったまま吐瀉したため胸元が汚れ、鼻や口元を拭く間もなく《無重力》でモンスターを引きはがす。脳無にすら対抗できる彼女の個性は物量との相性が非常に悪い。

 

最後には気を失ったウラビティを要救助者と判断したインビジブルガールが、涙声で教会まで引きずる。

一時避難所には、すでに何人ものA組のメンバーが揃ってしまっていた。

 

時間が経てば経つほど、ショートの負担が増していく。彼の鍛え抜かれた個性は【循環】に近く、炎を使った分だけ氷を使い、氷を使った分だけ炎を使うことで、身体の摩耗をできるだけ少なくすることができる。

その彼の限界が《燐》という必殺技として息づいているわけだが、それとて長時間の使用はできない。

すでに精密なコントロールは失われ、限界は目に見えて近かった。

 

「ダークシャドウ! 常闇! 頼む!」

『オウ!』

「任せろ!」

 

教会に近寄るモンスターを蹴散らしたツクヨミたちだったが、ダークシャドウは街を照らす照明のせいで本領発揮とは程遠い。おまけに【闇を溜める】時間も個性もない。

 

敵はモンスターたちだけではなく、この環境そのすべてが、A組にとってのヴィランだった。

 

戦いを見下ろすヴィランたちは、退屈になったのか日本の映画をテレビに映し、またはボードゲームで勝敗を競い、果てはソファに横になって眠るという暴挙にもでていた。

 

「ふぁぁぁぁあ」

 

起き上がったサイモンは、大きな欠伸を一つ挟んで眼下を見やる。

 

「一、二、三、四……あとはギブアップかな。すごいなぁヒーローってのは」

 

ショート、ツクヨミ、テイルマン、テンタコルを除き、そのほとんどが個性の限界を迎えていた。数えられた四人も、動きは精彩を欠いて肩で息をしている。

 

サイモンが腕時計を確認すると、すでに早朝四時を越えていた。

光の繭に取り込まれたのが十八時。サイモンがちょっかいを出し始めたのが深夜零時。つまりは四時間ぶっ通しの戦闘だったのだが、それで動ける者がいるとは思っていなかった。

 

「デボラ、そろそろ起きなよ」

「……まだ二時間しか寝てないわよ。無理無理」

「あと二時間もすればボスが起きてくる。そのときになんて説明するんだい?」

「はぁ……そうね。あとボスじゃなくてダークマイトですって。まったく、とんだ道化よ」

 

苦笑するサイモンを無視し、気怠そうにデボラは身体を起こす。

 

「顔を洗ってくるわ。行くわよアンナ」

「はい……」

「あぁ待って最後に!」

 

サイモンは跪いてアンナの手の甲に口づけした。途端に彼の足元に花が咲き、薔薇の蔓が空中のテラスを埋めていく。

 

「ありがとうアンナ。ふふふ、これだけは本当、ダークマイトに感謝しないと」

「悪趣味ね」

 

連れ添って出て行った女性陣を見送って、サイモンは手に持った杖で手すりを叩き、ヒーローたちの視線を集める。

 

「立ちたまえプレイヤー諸君! 本当は一晩中遊んであげたいが、最後のウェーブと行こうじゃないか!」

 

サイモンの周囲から大量のモンスターが湧き出し、街に広がっていく。その数は、A組たちが戦っていた総数とそれほど変わらないほどの量だった。

 

「ヤオモモ! 蛙吹! 逃げろ!」

 

ショートは最後の力を振り絞り、教会を氷壁で覆い、モンスターには最大級の炎を放った。

彼の判断を聞いて、教会の裏口からフロッピーが先導して避難民を逃がす。個性使用の負荷で疲れ切っていたヒーローたちも、護衛のためにその列へ駆け出した。

 

「おっと! 防衛線から逃亡かい? 僕はタワーディフェンスのほうが好きなんだが、キミたちがそれを望むのなら付き合ってあげよう!」

 

ヴィランの高笑いに、怯え切っている避難民たちがさらなる恐怖で顔を歪める。誘拐され、壁一枚挟んで数時間の戦闘音を聞かされた彼ら精神状況は、最悪に近い。

それでも、頼れるのはヒーローしかいないのだ。

その期待に応えるために、どれほど疲弊しようとも、ヒーローは立ち上がる。

 

街の外は平原になっており、その奥には森があった。

ウラビティが命懸けで手に入れてくれた情報を基に、これからの行動指標を決めていた。森が安全である証明はできないが、もはやそれに賭けるしかない。

 

草原にも大量のモンスターが湧き出ており、それらをクリエティが《創造》で生み出したタレットで撃ち抜いていく。

 

「蛙吹さんちゃん! あとはお任せいたしました!」

「わかったわ! みなさん! ついてきて!」

 

百人近くの命を背負う重圧に臆することなく、フロッピーは走り続ける。

その列の最後尾で、ヒーローたちは立ちふさがる。

ほとんどは個性が使えない者たちだ。

 

──だから、なんだと。

 

ヒーローたちの雄叫びを聞き、フロッピーは流れる涙を舌で拭った。

市民を森にまで逃がし、彼女は振り返った。

 

そこで見たものは、ヒーローたちを飲み込む大量のモンスターの姿。

乱れる呼吸も、焦燥も、すべて理性で切り捨てた。

 

「こっちに来なさい!!」

 

自身は森には入らず、草原を四つ足で駆けだした。モンスターの群れを森から逸らそうとする行為だったのだが、それが失敗であることは明白で。

群れは二股に分かれ、半数以上が森へと入っていってしまう。

 

悲鳴を上げそうになる喉を必死で抑え、踵を返して森に入ろうとする群れの途中に突撃する。物量の差ですぐに殴られ、捕まれた。

 

「こっちに来なさい!!」

 

モンスターに、彼女の悲鳴は届いているだろうか。

溢れ出す涙と痛みが、自身の弱さを認識させる。

 

「こっちに!! 来なさい!!」

 

掴まれた髪の毛をそのままに無理矢理動く。一体でも多くのモンスターを引き付けるために無理矢理叫ぶ。

それしか、できなかったからだ。

 

(情けなくて、ごめんなさい)

 

怯える市民に向け、戦い続けたヒーローに向け、彼女は謝罪する。

それでも口から出る言葉は、自身に注目を集めさせる叫びだけだった。

 

──突如、周囲のモンスターが動かなくなった。

 

暴れていたフロッピーは抵抗しなくなったモンスターの拘束を抜け出し、その場を離れる。いつの間にか、顔半分を真っ赤に血で染めていた。

そんな怪我を気にするよりも、平原に広がったモンスターたちが一つ残らず動きを止めていることに困惑を隠せずにいる。

 

「なんで」

「どうした!? おまえらなんで動かない!! クソ! どうなってる! アンナはどこだ!」

 

彼女の視界で動いているのは、取り乱して周囲のモンスターを叩くサイモンの姿だけだった。

呆然としたフロッピーの頭を、背後から撫でる男の手の平。

 

「──あ」

「蛙吹、良くやった」

「先……生……」

 

よれよれの黒いスウェットに無精髭。首には汚れた捕縛布を巻き、トレードマークのゴーグルをつけ直すその男の名前を、彼女はなんど呼んだだろうか。

 

「相澤、先生!」

 

我慢していた涙が溢れ出す。

ぼやける視界を進むその背中は、全てを背負う覚悟を纏っていた。

 

「立て! A組! 森に走れ!」

「はい!」

「女性のヴィランの一人が洗脳個性! 爆豪さんが洗脳されたままです!」

 

フロッピーを先頭にボロボロになったヒーローたちが、支え合いながら森に入っていく。殿を務めたクリエティが、息も絶え絶えにその情報だけ残した。

イレイザーヘッドに並び立つ者は、たった一人。

 

「センコー好きな学生なんているんだな」

 

元死穢八斎會若頭、治崎廻。

ヒーローどころかただのヴィランだが、それでも戦力としてはこの上ない。

 

「な、なんだお前ら!」

 

モンスター軍団に囲まれていた状況とは打って変わって、いまや劣勢となったサイモンは背中を向けて逃げ出した。

イレイザーヘッドは小さな舌打ちをすると、すぐに走り出した。

 

運動不足らしいサイモンはあっという間に捕縛布に足を取られ、草原へと転がされる。身体をくねらせ、追いかけて来たイレイザーヘッドを見上げた。

 

ヴィランの胴と首に捕縛布を巻きなおし、個性を発動させたままサイモンを見下ろすイレイザーヘッド。

 

「ひっ!」

「あんまり走らせるな。俺は、ドライアイなんだ」

 

捕縛布を強く締めサイモンを失神させてから、イレイザーヘッドは個性を解いた。彼らの周囲にいたモンスターたちが泥のように崩れて消えて行く。

 

「……爆豪」

 

街と平原の間に立っている生徒を見て、イレイザーヘッドが呟く。

周囲を見ても人影は彼しかいないうえに、《消失》でダイナマイトを見ても、彼の洗脳が解けている様子はない。

 

「一度《オーバーホール》するぞ。恨むなよ」

「《分解》と《再構成》だったな。戻せるんだろうな」

「洗脳が解けるかは知らんがな」

 

イレイザーヘッドがサイモンを引き摺り、治崎の後ろを付いて行く。近づいてもダイナマイトに抵抗や拒絶する様子はなく、罠を警戒していた治崎は、その【奇襲】にも余裕をもって対処できた。

 

ダイナマイトの額に触れ《オーバーホール》が発動しなかったことを悟ると、彼の胸倉を掴んで飛ぶように後退する。

 

「おい、餌だけ盗られたぞ」

「釣りは任せたわ、よろしくパウロ」

 

街の端に立ち、ヒーローたちを見る二人のヴィラン。デボラと異形個性のパウロだった。

妖艶とも言える嘲笑を浮かべ、デボラは足を進める。

 

「個性は」

 

イレイザーヘッドの問いに、治崎は沈黙を選んだ。代わりに、洗脳状態と思われるダイナマイトをイレイザーヘッドの足元へと投げる。

 

治崎はデボラたちから視線を逸らせていない。クリエティが言っていた洗脳個性とはおそらくデボラのことであり、その条件は不明。となれば個性が発動しない理由は、パウロと呼ばれた男の個性だと見当がつく。

 

「サイモンを倒すなんてやるじゃない」

 

ヴィラン二人が草原へと進み出る。

付き従うパウロに、治崎は首を傾げた。

 

「ずいぶんと立場が変わったもんだな、パウロ・ゴリーニ」

「……何者だ?」

 

流暢な英語で名前を呼ばれ、パウロは作戦も忘れて質問をしていた。日本人のヒーローにパウロの知り合いなどいない。自身の立場も、この数年は非常に危ういものだった。

 

「先代にはずいぶんとお世話になったものだ。いや、先々代か? バルドはどうした、先代派のパウロ・ゴリーニ」

「お前……!?」

 

見覚えはないが、明らかにゴリーニファミリーの内部情報に詳しい。日本のヒーローたちがどこまで調べたのかは知らないが、数年前の派閥まで理解している者はすくないだろう。

 

「死穢八斎會、と言っても覚えてないだろう。木っ端なジャパニーズ・マフィアだ」

「……木っ端か……」

「なーんだ、未開のヤクザってことねー。それがなんでこんなところに? もしファミリーに加わりたいのなら、テストをしてもらうことになるんだけれど。ねぇ、アンナ」

「はい」

 

パウロのさらに背後から、一人の女性が近寄って来た。金髪の妙齢の女性、アンナ。ヒーロー公安委員会の情報網にも存在しない、ギンジにわざわざ人質にされていた人物だ。

 

「お誘い悪いが、こっちはもう組織に加わってお茶汲みやってんだ……いや、汲んでんのはべつだが」

「なに言ってんだ?」

「時間稼ぎはお終いってことだ。お互いにな」

 

イレイザーヘッドが治崎の背後から飛び出し、ヴィランたちに向かって走り出す。

 

「デボラ!」

「わかって──!?」

 

イレイザーヘッドの顔には、視線を隠す捕縛布が巻かれていた。彼自身が視界を失っているはずなのに、投擲した捕縛布はパウロの腕に巻き付いて拘束の足掛かりにする。

治崎も合わせて飛び退いたために、デボラはどちらを見て良いかわらかず混乱してしまう。

 

パウロが拘束されていない片手で拳銃を取り出し、イレイザーヘッドに狙いをつけようとするが、あまりの速度に対応できない。おまけに捕縛布に引っ張られ、銃口がイレイザーヘッドと重なることはなかった。

 

「デボラ! なにやってる!」

「そっちは無理! ああもう!」

「くそ! 【入られた】! 解くぞ!」

 

治崎に《オーバーホール》の感覚が戻ってくる。早速地面に手を当てて、土壁を出現させる。

目を開けて逃亡ルートを確認するために背後を見ると、一人の男と目があった。

 

「イレイザー! ジル・ゴリーニ!」

 

サイモンとダイナマイトを掴み上げる巨漢の男は、治崎が放った土の槍を難なく避ける。それも、個性による瞬間移動によって。

すぐに土壁の奥からデボラの黄色い声が届く。

 

「よくやったわジル! ほら! サイモン起きなさい!」

 

治崎はイレイザーヘッドのサポートをするために立ち上がる。本来であれば逃亡一択ではある状況だが、もしここでイレイザーヘッドを見捨てれば、雇い主は言い訳を聞くことはないだろう。

 

「デカい男を狙え!」

 

真っ先にデボラをドーム状の土壁で覆い、パウロに襲い掛かる。イレイザーヘッドを狙う拳銃を分解し、脇腹を膝で蹴り上げた。

どれだけ人の見た目から離れようとも、臓器の位置まで変わる異形個性はすくない。肝臓に衝撃を受けたパウロは、呼吸も荒く倒れ伏した。

 

瞬間移動しようとしたジルだったが、それはイレイザーヘッドの《消失》によって防がれる。

しかし、瞬時にボクシングスタイルに切り替えたジルは、イレイザーヘッドに拳を放つ。巨漢であり、その腕は異形個性の影響か、丸太のような太さと重さがあった。

 

捕縛布を定位置に戻したイレイザーヘッドは、腰を落として拳を躱す。耳を削ぐような紙一重で避け、捕縛布を投擲。綱引きのような力比べが発生する。

 

「──ぐあっ!」

 

悲鳴を上げたのは、治崎だった。

ヴィラン二人を無力化させ、ついでのようにアンナを回収しようと腕を掴んで、激しい痛みに膝をつく。

 

イレイザーヘッドは目を見張って治崎を見たが、周囲に花びらが舞うだけでどのような個性か見当もつかなかった。

 

「ジル、そのまま抑えておいてくださいね」

 

捕縛布に包まれたまま、サイモンが声を上げる。苦しそうな口調だったが、個性の発動は問題ないらしい。イレイザーヘッドが《消失》の目標をサイモンへと移し、最速でジルを倒そうとするものの、それは失敗した。

 

周囲に湧いた少量のモンスターたちが、イレイザーヘッドの視線を塞ぐようにサイモンの盾となったからだ。たとえ《消失》を受けようとも、その効果は一瞬で済んだ。その隙を見逃さずサイモンがモンスターを大量に召喚し、A組にそうしたように物量で圧し潰そうとする。

 

「さきにこっち助けなさいよ!」

 

デボラに脅され、土壁を壊すモンスター。帽子の土埃を払うデボラは、呼吸絶え絶えとなっているパウロを見下ろし、鼻で笑った。

 

「結果を残さなきゃならない先代派は大変ね」

 

なにか言いたげなパウロを無視し、ジルの隣に並び立つ。イレイザーは強く目を瞑ったが、モンスターの波に呑まれて拘束される。

瞼を無理矢理開かせ、イレイザーヘッドはデボラの《ブレイン・リモート》によって洗脳状態となる。

 

最後に倒れた治崎もついでに洗脳しようとしたが、ここで予想外のことが起こった。

倒れた治崎の腕がデボラの首を締め上げたのだ。

 

「ぐっ──」

 

引き倒したデボラにマウントを取る治崎は、彼女と【目を合わせて】いた。

 

「個性が使えねぇってのは不便だな。殺すしかなくなる」

 

その冷めた視線に貫かれ、デボラは個性も使えずに死の恐怖に怯える。

走り込んできたパウロが拳銃の柄で治崎の側頭部を叩き、ヒーロー二人をようやく鎮圧することに成功した。

 

倒れたままのデボラは呼吸を荒くし首元を抑え、呆然と青空を見上げている。

作り物の空は、嫌味なほど綺麗だった。

 

 

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