【完結】無個性ヒーロー   作:南畑うり

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決戦・フェーズ1

 

初手を奪ったのは青山だった。

オール・フォー・ワンに向けて《レーザー》を打ち込み、ボクを守るように前に出る。

 

だが、《レーザー》が歪んだように見えた。湾曲した針金のように光の線がオール・フォー・ワンを【避けて】空に消えて行く。

次いで、どこからか銃弾が飛んできた。といってもボクや青山に認識できるわけもなく、緑谷がわざわざ「ナガン!?」と叫んだからわかっただけだけど。

そのナガンが放ったと思われる弾丸も、明後日のほうに流れて行ったようだ。

 

「僕に遠距離攻撃は届かないよ」

「……曲がったように見えた」

 

青山の《レーザー》のおかげでその理由もなんとなくわかる。磁場か力場を発生させる個性なのだろう。緑谷の《黒鞭》なら届く可能性はあるものの、援護ができぬ以上無理攻めにほかならず、緑谷も警戒するように一歩引いた。

 

「驚いた……。策束くん、キミ、なにしに来たんだい?」

 

個性破壊弾が効かないことが確定したいま、内心動揺している間にボクもオール・フォー・ワンを驚かせていたらしい。

なにしに来たか……。なにしに来たんでしょうね?

 

「──いや、まあ良いさ。それより【決戦】に【スター】、【オールマイト】【エンデヴァー】……キミから読み取れる情報はもう十分だ。あとは恩知らずどもをどうにかしないとね」

 

単語からボクが【連想】することを情報として抜き出しているのか、ずいぶんと雑な抜き方だ。警戒している先が良くわかる。

それにしたって青山とナガンはオール・フォー・ワンが個性を与えたからな。しかし、恩知らず? ならテメェがへそから《レーザー》出して腹を壊せば良いものを。

 

「あははは。そういうゴミを有難く受け取る阿呆がたくさんいるんだ」

 

カッチーン。簡単に挑発に乗るぜぇ?

青山の両親は阿呆だが、青山はすごいやつだ。会えて良かった。あー腹減った。眠い。作戦はどうなっている? 終わったら耳郎に告白し直さなきゃ。こいつの仮面無駄にカッコイイな。青山が雄英を落ちてたらどうなってたのかな。ボクのフルフェイスゴーグルのデザインに加えよう。もっと寝とけば良かった。でも中二病すぎない? 夜はカレーだ。いや、まあ、あははは、コイツの狙いから考えればそんなもんなのかな。最後の晩餐食っとけば良かった。肉食いてぇ肉。眠いなぁ。なあ? 眠たいなあ?

 

「──っ」

「どうした? 悪いねぇ、頭の回転が速くてさ」

「その割には、半分は食欲に塗れてるようだね」

 

恥ずかしい。……ああだめだめ、考え続けて。

挑発に乗り続けろ。

 

「子どもの浅知恵だよ」

 

心を読まれてるなら、読ませてやれば良い。

ナイトアイの個性から頂戴した考え方だ。ナイトアイは《予知》の情報量を削りに削っている。では、心を読むとはなにか。表面上は読めるだろう。なら、深層心理は? ボクの心の奥深く、自分でも意識していないレベルまで読めるとすれば? ありえなくはない。実際、音本というヴィランの個性は、そこまで引き上げて口に出させる恐ろしい個性だ。治崎大好きで助かったよ。

 

「おいおい、キミはオーバーホールすら仲間にしたのかい? ヴィランをまとめ上げて、第二のヴィラン連合でも作るつもりか?」

 

はて、コイツはボクの心ばかりを読んでいるように思える。時間稼ぎできるのならなんでも良いのだが、やはり一人しか読めないのかな。まあなんでも良いさ。

 

体格差で素手ですら負けてしまうのだ。こうして足止めできるのならなんだってくれてやる。

 

ああ。なんだったら土下座でもしてやろうか。

 

「キミの【言う通り】、僕の敵かどうか聞けば良かったよ。──だが、重要なことは、一つ。《ワン・フォー・オール》が手の届くところにある。それが一番重要だ」

「さ、させない……!」

「おいおいどうした青山優雅、逸るなよ。いまは策束業と【話している】最中なんだ。しかし、ふふふ、面白いこと考えるなぁ」

 

土下座のことか? 違うよな。

この【状況】かな。

 

「策束業の適性は司令官だろう? だってそれしかできないんだから!……それがまさか、あははは、面白い。まさかそこまで【幼馴染】を信頼していただなんて」

 

青山と緑谷の視線がオール・フォー・ワンからボクへと流れる。おいおい頼むぜこんなときに。目を逸らして良い相手じゃあない。

しかし、幼馴染? ボクはいまそんなことを考えていたか? ヤオモモのことを思い出して無意識に連想していたのかな。だとすれば、コイツはいま物凄い情報量から必要な情報を引き抜いているということになる。とんだ化け物だな。根津校長と同じように《ハイスペック》なのかもしれない。お腹空いた。

 

「キミがここにいるのは八百万百の指示に従っただけ! 僕を前にして、策もなにも考えていないじゃないか!」

 

だれに説明しているのかと思えば、おそらくは青山と緑谷の心を読んでいるのだろう。残念ながら不発だぜ?

これはただの奇策だ。

 

信じたのだ、彼女を──。

信じたのだ、《予知》を──。

そして、その【選択】はお前に届いた。

 

「信じたぁ? その割に、もう【一つの作戦】も進めてるじゃないか。まったく、戦いが終わったらそっちも対処しないといけなくなった……。厄介だよ、本当に──」

 

勝てたらそうすれば良い。

だけど、もう負けても大丈夫だなんて思うなよ。

 

「僕の心配をしてくれているのかな? 安心しなよ、【キミの作戦】はもう把握した。キミがこの状況を作ったように、僕もキミの作戦で世界を獲ることにしよう」

 

できるかな、お前ごときに。

 

「やれるさ、僕だから」

 

どろりと、オール・フォー・ワンの背後から泥が零れ落ちた。顔を出す脳無たち。いや、それだけじゃあない。

荼毘、トガヒミコ、ダツゴク、コンプレスに指摘された解放戦線の残党。総力を持って《ワン・フォー・オール》を奪いに来たようだ。

 

「さあ見せてくれ」

 

やれ! ヤオモモ!

 

ヴィランたちの姿が泥から完全に出てきてしまう。

 

……行け! ヤオモモ!

 

トガは緑谷の姿に歓喜の悲鳴を上げ、それ以外のヴィランたちは威嚇するように唸っている。荼毘は、あれだけ講演を邪魔したボクを見ても反応が無く、周囲を見渡してつまらなそうにため息を吐いた。

 

早くしてくださいヤオモモ!!

 

まさかここで捨て駒にされたわけでもあるまいが、ヒューマンエラーはどんな不測の事態にもつきものだ。緑谷と青山の手を引いて、ヴィランたちと距離を空けようとして──なにか柔らかなものにぶつかった。

まさか、見えない壁を張られている!? それでヤオモモたちの到着が遅れているとか!

 

「いたたたた……」

「壁がしゃべった……」

 

見えない壁が、可愛らしい声を上げた。口がある位置は、おそらく転んだ俺と同じような高さにある。

 

「葉隠さん!?」

「わ! バレちゃった! しー! しー!」

 

緑谷の呼びかけに反応した葉隠が、ジェスチャーを行う雰囲気を感じる。本当に葉隠が? なんで?

 

なんで──気づかれていない?

 

オール・フォー・ワンの周囲にはすでにヴィランたちが泥から出て、ボクらを包囲するように動き始めていた。

 

過去、神野区で対面したオール・フォー・ワンは、同じように仮面を被っていた。それは聞き取り調査から判明している通り、生命維持装置のようなものである。

ボクがかつて手にしていたフルフェイスゴーグルのように、周辺の物体を自動スキャンして教えてくれているわけではない。

エコーロケーションのように、目が見えなくとも反響音で物体の場所を確認している。

そして、その“能力”は個性ではない。

脳が露出するほどの怪我を負ったことで身に着け、鍛え上げたものらしい。

その能力で葉隠の位置がバレていてもおかしくはなかった。加えるなら、心を読む個性が三人分以下である可能性が高い。

 

顔を上げて周囲を見渡す。

ヤオモモが指定した場所は、市内では珍しいほど広い駐車場だ。

風通しが良く、音は空に吸われる。

 

「もう一人隠しておくだなんて、八百万百もやるじゃないか」

 

決まりだ、精密に心を読むのは同時に三人まで。上振れで一人だけだ。

助かるねぇ……。口を開けば開くほどに底が知れていく。

 

「勝手に僕を推し量ろうとするだなんて、悪い子だね、策束業」

 

量れる程度で良かったよ。オールマイトなんて、遥か高みにいる人だ。

【お前】と違ってな。

仮面の下で、オール・フォー・ワンが笑った気がする。

 

さぁて、そんなやりとりをしている間に、包囲網が完成してしまっている。

 

「緑谷、時間稼ぐから青山と葉隠連れて死ぬ気で逃げろ」

「このヴィランの数を、どうやって──」

「策束業は、お腹に爆弾を巻いているのさ」

 

バラすなよ、まったく。ボクの策などなにも通じやしない。ヤオモモに託して良かったぜ。

背後に置いていた緑谷が、途端にボクの前に躍り出る。爆発させないと決めてしまったのだろう。

……となれば、この四人でこの集団と戦闘かよ。まるで悪夢だ。

二度の作戦失敗、取り返しがつくのかこれは。

 

「オトモダチに隠し事なんて、良くないぜ」

「ぶち殺す」

 

わざわざ口に出しちゃった。

 

「おいおい、あんまり挑発しないでくれ。荼毘くんがキミたちに炎を向ければ、それで爆発しちゃうんじゃないかな?」

 

……まずい。言われてみればそうだった。まあオール・フォー・ワンに炎の個性がないとわかっただけで良しとしよう。

緑谷たちからも一歩距離を取られた。悪かった、あんまり考えていませんでした。

 

背中に手を回して爆弾を取り外そうとするも、それよりも前に地面が揺れた。

くそ、次から次へと!

 

「緑谷! 逃げろ!」

「絶対! 大丈夫!!」

 

緑谷は左手を引いて、上から右手を被せる格好のまま、周囲を警戒し続けている。青山も《レーザー》を放つ格好のままであり、おそらく彼の前には葉隠が陣取っているはずだ。

 

まずは──だれが動くか。

そう思ったとき、コンクリートを突き破って黒い壁がせり上がって来た。さきほどの揺れは、やはりヴィランの──え?

 

空中にいるオール・フォー・ワンをも巻き込んで、黒い壁と柱が重なるように山を作って、包囲網を組んでいたヴィランたちが封じられた。

 

「ハーッハッハッハッ! フィークサァー!!」

 

背後から声高らかの笑い声が響き、途端に合戦のような怒号が追い縋る。

振り返ると同時に、《ワープ》から出現したヒーローたちは、ボクたちを追い抜いて黒い建造物を押し始めた。

作戦は、間に合った、のか?

 

建造物の進行方向には物間が出した《ワープ》の影。おそらくは日本各地に繋がっているのだろう。途中建造物が破壊されて青い炎が舞っていたが、それらは押し込んでいたヒーローたちとともに《ワープ》の向こう側へと消えて行った。

 

事情の一つも理解できない間に、緑谷の手にロープが巻き付き、枯れ木のように《ワープ》に飲み込まれて消えてしまった。

 

「……どうした?」

 

爆豪もいたらしく、《ワープ》された緑谷を驚愕した様子で見送って、自身も《ワープ》に消えて行く。

 

「策束くん! キミはヤオモモちゃんに呼ばれとるで!」

 

ファットガムから大き目の通信機をもらい、耳に掛ける。彼は青山と葉隠にはついてくるように指示を出し、《ワープ》で運ばれなかったヴィランたちに向かって行った。

慌てて二人の背中へ声を掛ける。

 

「青山! 葉隠! ぶっ飛ばせ!!」

「ウィ!」

「もちろん!」

 

一方ボクは、耳に付けた通信機から、つぎの指示を受けることになった。

 

『業さん爆弾とはどういうことですか!』

「いやぁ、まぁ、後詰というか、切り札というか……当たったらラッキーくらいで」

 

罪悪感もあり、どうしても言い訳が尻すぼみになってしまった。

そして反論は大した効果もなく、ヤオモモから更なるお叱りを受けることになった。

散々な言われようを不憫に思ったのか、音声が切り替わりオールマイトから今後の流れの説明を受ける。

 

オール・フォー・ワンが頻繁に使用する移動を兼ねた泥の個性だが、持ち主が判明しており、対処方法がわかったらしい。とは言っても実に単純。

発動にはインターバルが必要で、その間に倒す。それだけらしい。

 

そのため緑谷を囮にして《ワープ》での分断を試みたわけだ。

オール・フォー・ワンは蛇腔市の跡地に。

死柄木弔を雄英高校の敷地へ。そして、その雄英高校は、ボクが見ている前で空へと切り離されていった。

 

「……SF映画かよ」

 

指示されたポイントにまで走っていると、背後からバイクの音が聞こえてきた。振り返ると、黒いコスチュームの女性バイカー。

 

「ボス! 手を伸ばせ!」

 

インカムから聞こえてきたヨーロッパ英語──ベロスだ。

彼女の差し出した右手を掴むと、身体が宙を舞った。ボクのような一般人とは隔絶した膂力で引き寄せられ、バイクの後部座席に着地する。

座ったものの、加速した反動を受けて背後に転がりそうになる。慌てて掴んだ物は彼女の腹筋だったのだが、木の幹を掴んだような感覚に感動すら覚える。

 

「ボスはヒーローの司令塔へ連れて行く。仲間はすべて配置済みだ」

「──わかった」

 

インカムから聞こえてきた言葉に、息が詰まる。

ベロスをはじめボクが集めた面々は、ヤオモモや警察の指揮下にはない。

ボクの責任において、ボクの指示に従っている。

 

『──オレが全部、ぶっ壊してやる』

 

その言葉が、現実となって目の前に存在している。

オール・フォー・ワンにはバレただろうが、ヒーローたちはまだ感づいてもいない。

 

「あ……──はっはっはっは!」

 

弱音を無理矢理笑いに変えた。

ベロスがこちらを振り返ったのがわかったが、無視した。

 

オール・フォー・ワンは読み切っただろうか。

ボクの覚悟の【先】を──。

 

喉がひゅーひゅーと音を立てている。

過度の緊張で、ベロスを抱きしめる力を強めた。

彼女の腹に回した手に、彼女は左手を重ねてくれた。

目を瞑り、呼吸を落ち着かせる。

 

ファットガムから渡されたインカムではなく、周波数の異なるインカムを起動する。

風切り音がごうごうと巻き込まれ、まともな指示としては成り立っていないかもしれない。それでも良いと思った。

 

ボクの行為が自然に止められるのなら、それはきっと神さまが止めてくれたのだと思うからだ。

 

人類にとっての最悪の一歩を、ボクが踏み出す。

 

ああ、だれか言ってくれれば良いのに。

そんなことはやっちゃいけないんだよ。そう、止めてくれれば良いのに。

 

それともオール・フォー・ワンは、気づいていたが言わなかったという可能性があるのだろうか。

臆病者であるボクに、そんな決断はできないと。

ああ、その通りだ。ここまで来てなお、迷いがある。

ほかの可能性の希望に縋ろうとする。

 

自ら希望になることを拒絶している。

だって、それは【象徴】だ──。

 

「なら──キミが成ればいい」

 

言われ、顔を上げた。

幻聴だ。だれかがボクの耳元でそんなことを言うわけがない。

 

ただ、あのときのオールマイトの笑顔を思い出して、ボクも笑った。

 

「さあみんな──世界を壊そう」

 

ボクは象徴に成る。

世界を破壊するための、象徴に成る。

 

 

◇ ◇ ◇ ◇

 

 

八百万は策束のインカムへ必死に呼びかけつつ、《創造》を行っていた。

雄英高校を舞台にした戦闘はすでに始まっており、爆豪の《爆破》を彷彿とさせる破壊音と振動が、断続的に機関部にも届いていた。

 

「物間さん! どうにか緑谷さんを呼び戻せませんか!」

『《コピー》の効果が残り三分! 切れるまでに絶対呼び戻す!』

「……業さん」

 

やはり、分不相応だったのだ。

作戦の前提に綻びが生じた──。

緑谷が遠く離れた奥渡島に《ワープ》したと告げられたのは、ついさっきだった。

 

数日前、青山が内通者だと発覚したとき、策束は八百万に一つの【お願い】をした。

 

『ボクの代わりに作戦を考えてくれ。オール・フォー・ワンを倒す作戦を』

 

彼女は自覚している。

この一年、策束より上だったことなど、授業の成績しかないと。

それは策束からすれば不当な評価であるものの、八百万にとっては真理だった。

 

それなのに、そのような大役を任せられるなど思ってもいなかった。それに日数もない。

だが、原案はあった。

 

青山が内通者であることを利用して、相澤が最初の案を出した。

オールマイトが、塚内が、八百万が案を出した。

ヒーロー公安委員会の名も知らぬ職員が声を上げ、政府の職員が声を荒らげた。

 

皆が必死に作戦を創り上げた。

 

作戦自体は、早急に決まった。元々の相澤の案の出来が良く、その流れを大きく組み込めたのが大きい要因である。

だが、運が絡んだ。

 

まず、青山が緑谷を連れてオール・フォー・ワンを巣穴から引きずり出す。

地下には檻のギミックを仕込み、呼び出すであろう死柄木や幹部を閉じ込め、その檻ごと《ワープ》で日本各地へ分断する。

泥で出現したヴィランは予想以上に多く、配置したヒーローたちが足りないかもとは思ったが、それ以上割り振ることができぬほどに人手不足は否めなかった。

 

数日前、雄英に避難民として潜り込んだ内通者に指示を出したことと合わせ、オール・フォー・ワンは超常解放戦線の本隊をセントラル病院へと向かわせていた。

 

進軍は、当初一万人と考えられていた。

それがどうしたことか、すでに五万の大軍勢となって道路を占領して歩いている。

 

その先頭を歩くは、スピナー。

 

彼は異形個性の代弁者を謳い、ギガントマキア、黒霧の解放を目論んでいた。

五万の内、多くは一般市民だ。

個性を使わずに捕縛するには技術が必要となり、多くのヒーローはそちらに割り振らざるを得ない。

 

そのため、《ワープ》先では最低限の人数で戦うことを強いることになった。

オール・フォー・ワンと死柄木弔の分断は最低条件であり、もし泥でおびき寄せられなければ失敗の可能性もあった作戦にはなるのだが、それは泥の性質上、考慮しないことになった。

 

泥。個性名は不明であるものの、元々の個性主の登録から割り出した性能では、黒霧の《ワープ》の下位互換であり、転送距離も短く連発もできない。

オールマイトが策束に。エンデヴァーがオール・フォー・ワンに作戦のネタバラシを行ったほどに、それは考えるまでもなく露出している。

 

『臆病者であるオール・フォー・ワンが、身を守る盾を傍に置かずに《ワン・フォー・オール》と対峙することはない』

 

オールマイトの決断を、作戦に組み込むことに後悔はなかった。

 

問題は、最低限がオール・フォー・ワンと死柄木の分断であって、それ以外のヴィランたちは罠や《ワープ》の性質上、どうやっても意図して分けることができず、ランダムとなった。

 

結果、オール・フォー・ワンは幹部だけでなく取り巻きの多くを控えさせており、ニア・ハイエンドを含めた概算は五百人を超えていた。

 

それら五百人の多くは、数か所に分けられることになる。

那歩島、神野区、奥渡島、タルタロス跡地、多古場競技場、蛇腔病院跡地など分断しており、しかし、一か所に百人という単純な話でもなく、オール・フォー・ワンを呼び出した駐車場近くには、泥で呼ばれなかった予備戦力のヴィランに、檻で取りこぼしたヴィランもいる。その予備選力がどれほどの規模かは判断できない。

 

加えて、地方に散ったヴィランたちを制圧したとしても、物間の《コピー》の時間制限によって、すぐさま回収することはできない。

 

ともあれ、本来の目的──オール・フォー・ワンと死柄木弔を、群訝山荘と雄英高校への分断が成功した。

 

(おまけのヴィランに、多くのヒーローが命懸けの足止めを行ってくれているのです……。チャンスは、今日、いまから僅かな時間だけ。業さん、早くこちらへ──)

 

八百万は、破裂しそうになるほど音を立てる心音を抑えつけ、死柄木に《崩壊》を受けた雄英高校のパーツを《創造》していく。

それらのパーツは、根津、セメントス、エクトプラズム、パワーローダーの四人の教師が主体となって新たな足場となり、再生されているはずだ。

 

万全──のはずだ。

 

プロヒーローに、ベストジーニスト、エッジショット、ミルコ、グラントリノ、イレイザーヘッド。

雄英生徒からは、緑谷、爆豪、物間、通形、波動、天喰。

業組より、乱波、コンプレス、治崎、玄野、ジェントル。

 

緑谷が奥渡島に《ワープ》してしまったのは予想外ではあるものの、死柄木に用意した戦力は、オール・フォー・ワン単体へと宛てた戦力よりも多い。

 

もっとも蛇腔市跡地には百人以上のプロヒーローが送られているため、場所としての人数比で言えばオール・フォー・ワンへの対処のほうが多い。だが、向こうにはどれほどのヴィランを送ってしまったのかわからないのだが現状だ。

 

オール・フォー・ワンとて、エンデヴァーとホークスという日本が誇る最大戦力を相手にどれほどのことができるのか。明確に仮面という弱点がある以上、互角以上の戦いができるだろうと予測されている。

 

八百万が認識している情報は、それでお終いだった。

作戦のフェーズはすでに第二段階へと移行し、運が絡み始めている。

 

勝てる──はずだ。

だが、どれほどの被害が生じるか。

その被害の責任を、A組のだれかの死を、責任として受け止めきれるか。

 

……いまさらだ。

受け止められぬのなら、もう前に進めない。

 

(置いて行かれてしまう……)

 

八百万の懸念は、的中することになった。

 

「クリエティ……。見てほしいものがある」

 

修復指示を行っていた根津が、わざわざ機関部にまで降りてくるなどありえない。彼は、どこか緊張した面持ちで携帯端末を八百万に見せた。彼女は膝をついて携帯端末を受け取る。

 

そこには、策束業の姿が映し出されていた。

頭上では命を賭した戦いをしており、日本の今後に関わる戦争中だ。

 

なのに、なんでこんなに、静かなのだろう。

乱れた呼吸がうるさいと思えるほど、八百万は集中してしまっていた。だれもそのことを咎めることなく、その優しさに甘え、彼女は携帯端末の画面に触れた。

 

スーツを着込んだ策束が、柔和な笑みを浮かべながら話し始める。

 

 

『ご覧いただきありがとうございます。デトネラット社、新社長──策束業です』

 

 

置いて行かれたのだと理解した。

期待も、不安も、責任すらも、本当に抱えて飛んだと理解した。

 

飛び降りてしまったのだと、理解した。

 





原作ではセントラル病院に向かうヴィランたちは本来1万5千人ですが、5万人に増加させてあります。
本来の超常解放戦線が10万以上という情報があり、1次決戦での逮捕者は2万人未満。ヒーローに奇襲され、幹部たちの多くが逮捕されたことで日和見したヴィランたちは多くいると思います。38日間の逮捕者も多くいるでしょう。
それにしても宙ぶらりんな数字になっていたのでここに加えました。
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