あの日を境に、混戦の訓練は終了となった。
面白いのは、ヴィラン側に立ってもらった人たちから生徒の戦闘評価を聞くと、ナイトアイの名簿の順番通りになったのだ。さすがに他校のことは知らないが、《予知》の範囲内だろう。
ともあれ、訓練終了と同時に雄英を出立して、新住居である《仮設要塞トロイア》へと【ボク】たちは転居した。
ここから数日、トロイアを起点にオール・フォー・ワンの捜索を行うことになる──のだが、残念ながらこれらの行動に意味はないはずだ。
難攻不落の雄英高校から、緑谷をわざと放出する。それには避難民を巻き込まないようにする配慮と、ヴィランの手足になっている連中にヒーローのほうが上手であることを意識づける意味がある。
内通者たちは──青山家以外の内通者たちは、新たな指示を受けるまで動けなくなるはずだ。そしてオール・フォー・ワンは、緑谷がいなくなった雄英に興味は向けないだろう。
つまり、相澤先生の作戦である青山と緑谷を利用して、オール・フォー・ワンを誘い出す下地が出来ているわけだ。
だというのに、ナイトアイはボクとオール・フォー・ワンの対面を《予知》している。
有り得ないとは思わないさ。なんでもやる覚悟だ。数秒でも稼げるのなら命すら安いと思う。
……嘘です、数秒だぞ、安すぎる。ボクで数秒なら葉隠なら一分は稼げる。命が惜しいわけではなく、ボクが前面に出るより合理的な手段はいくらでも思いつくさ。
ならばボクにできることなど、すこしも残されてはいない──わけがない。
会話を演出し、話題を引き延ばす。
そのために用意したのがカメラと録画だったのだが……。
台本まで書いてみたものの、そもそも相手の会話を想像する能力に欠けていることに気付く。「ああ」とか「うん」という会話でオール・フォー・ワンが満足するわけもなく、この作戦は早々に諦めることになった。
悪い手ではないと思ったのだが、この作戦は天才の領域だったわけだ。
まあ良いさ、カメラにはもう一つの使い道がある。オール・フォー・ワンに通じなくても問題がない作戦があるんだよ。
その名も、デトネラットキャピタル!
戦後は最悪の企業としての悪名を得るであろう、《個性破壊弾》の販売元。策束家や八百万関連の会社は使えない。むしろ敵対していればなお良し。ボクが前面に押し出されることになるため、策束家のダメージは計り知れないところがあるものの、それは父が引退すれば済む話だ。
実績と知名度があり、戦後は潰れても全く問題がない会社と言えば──そう、デトネラット社である。
幸いにして代表取締はいまだに四ツ橋力也。彼をはじめ、スポンサーや役員は軒並み逮捕されており、会社としての機能はもはや無いに等しい。だからもちろん見る人が見ればボクがデトネラットをゴーストカンパニーにしていることはわかるだろうさ。
だが、そんなもん二十年後にはだれも気にしていない。
重要なのは、結局だれが売りつけたかだ。
百年後の評論家は言うだろう、フェイカーこそが最悪のヒーローであり、デトネラットが戦火を振り撒いた元凶だと。
そして、世界は巻き込まれただけだ、と。
当たり前さ、世界中を戦争に巻き込むのが、ボク一人にできるはずがない。日本や企業が利益のために動いている。
そう勘ぐるだろうとも。
残念ながら、《個性破壊弾》はボクのもので、ボクの我がままで大勢が死ぬ。
利益は日本の復興に充てるが、だれもそのことは知らない。デトネラットが海外へ持ち逃げしたと思わせる。
「悪いこと考えているに一票」
「さっきからなにしてんだ?」
「──峰田!? 瀬呂も! 声かけろよ!」
いつの間にか部屋のドアが開け放たれ、瀬呂と峰田がこちらを見ていた。口田と障子も一緒にいやがる。
全員コスチュームだ。行きのバスでなにか話があったのかな?
場面だけ見ればカメラで自分を撮影しながら、一人で笑っていたのだ。恥ずかしくて耳まで熱くなっていくのがわかる。
誤魔化すように五人での雑談に切り替えた。どちらにしろ彼らに話せる内容ではないからな。昨日の今日で、腹を割って話せるようにはなったが……こっちは別問題だ。悪いな。
しばらく談笑したのち、予定の時刻になったため一階のリビングへ向かう。
そこには、手錠を嵌めた青山の姿。
その手錠が外され、ボクらA組は本当に久しぶりに、二十名全員が揃うことになった。
◇ ◇ ◇ ◇
「それでカルマさん、お話というのは、ですね」
夕食後、ヤオモモから呼び出されたのだが──。
「あの、お話、なのですが」
なにも敷いていない床に座した彼女が、自身の指先を見つめながら言葉を選び続けている。
ヤオモモが正座したためにこちらも思わず正座してしまったが、足が痺れてきたため胡坐に体勢を変えた。
「お話が──」
こちらの動きに反応してか、彼女は遊ばせていた指を硬直させて動かなくなる。緊張だろうか、決戦に向けた話ではないということだったが。
ふふ、むかしだったら分かり易い嫌味としてため息を吐いてやったものの、いまのボクならば問題はない。
それよりこっちも問題があってなぁ……。昼間飯田からカミングアウトされたのだが、どうやらボクは耳郎に告白の真似事をしてしまっているらしい。尾白には殺意沸くほどからかわれたぜ。はぁー……去年に戻りてー……。
「あの、えっと、ごめんなさい私ったら、その──」
「ヤオモモ、ほら、落ち着いて」
すこし距離を詰めて、彼女の両手を包み込む。
ちょっと体温が高いか? そういえば顔も赤かった気がする。さっさと寝たほうが良いと思うが。
「なんか、懐かしいよな、むかしはこうやって──へ?」
昔話でもしてリラックスさせようと思った矢先、手にヤオモモの涙が落ちてきた。
慌てて彼女の顔を見るも、深く俯いてしまって確認することはできない。
子どものように嗚咽を上げる彼女は、喉を震わせて顔を上げた。
「業さんは、ひどい、です!」
「そうだとも」
真っ赤になった瞳から溢れた涙が、頬を伝って落ちていく。不格好な格好で、彼女を抱きしめた。
「私に、あんなこと、お願いしたのに! こんなに、優しく、する、なんて」
昨晩、恥も外聞もなくヤオモモに願い出た。
『ボクの代わりに──ボクとオール・フォー・ワンが直接会える作戦を考えて、ねじ込んできて欲しい。そして、それは決してボクに言わないように』
奇しくも、同じような体勢だったと思い出す。
オール・フォー・ワンと対面するにあたって、何分稼げるかと自問していたのだが、ではそもそも、オール・フォー・ワンとどうやって対面できるかがわからない。
なまじ後方にいろと指示を受ければ、対面の機会は永遠に失われるだろう。《予知》通りではないため、おそらくボクがなにか行動をすると示唆されているわけだ。
だが、対面するということは、心が読まれるということ。ボクのことだ、場面を考えれば全体の流れを把握し計算しようとしてしまう。それでは、いざ会ったときに奪われる情報量が増えてしまう。
そのためヤオモモにすべてをぶん投げてしまったわけだが……もしかして無理だったか?
「考えて、作戦を伝えたときに、オールマイトに言われてしまいました……。あなたが死ぬ気ではないかと」
「まさかそんな」
呼吸が落ち着いてきたかわりに、彼女はぐずぐずと鼻をすすって顔を服に押し付け続ける。
「であれば、生きると、約束してください」
「もちろん」
「共に、生きると」
「ああ、もちろん」
……ん? まあ、良いか。
涙を拭いながら顔を上げた彼女だったが、その涙は止まることがないようで、こちらも袖を使って一緒に拭いてあげた。泣きながら笑うものだから、こっちも笑ってしまった。
本当、何年ぶりだろうか、こんなふうに笑い合えるだなんて。
ボクらの関係性は一生解れぬほどだと思い込んでいたが、対話が必要なだけだったのかもしれないな。
この一年で、ボクもすこしは大人になったかな。
「もう、そんなに軽々しく──!」
怒った彼女が言葉を飲み込み、代わりに大きなため息を吐いた。
「……纏さんになんと説明したら良いか」
必要あるか、それって。
兄が婚約者の作戦で死ぬかもしれないって? 伝えにくいなぁ。
しかし、どうせ死ぬ気であれば、腹に爆弾でも括り付けていくか。あまりに単純すぎて思いつきもしなかったが、捕まって人質になるくらいなら有効な手段かもしれない。
意外に策を巡らせるより、単純な行為のほうが有効かもなぁ。どうせ分断作戦の詳細はヤオモモや根津校長が考えてくれているのだろうし。
乱入とか? ボクだけ単独行動するというのも、臨機応変に対応できるかもしれないなぁ。
ヤオモモにボクの行動を指示させたのは失敗だったか?……いや、そうしなければ後方においやられていて動けやしないか。《予知》を騙せるほどの手札はボクの手元にはない。
「や、やはり、私から説明を」
「そんなことしなくていいって。んー……まあ全部終わったらにしよう。それより、敬語で話しそうで困ってるんだ。もうすこし練習しても良い?」
「は、はい! では! えっと、なにを話しましょう!」
「ははは」
「どうかなさいましたか!?」
「そっちは敬語止めないんだなって」
ヤオモモは慌てた様子で口を塞いで、そのままもごもごと話している。耳を近づけて聞き取ろうとしたのだが、素早い動きで逃げられた。
「が、がんばる! ので!」
扉に丸めた背中をくっ付けた彼女は、真っ赤な顔を隠すように呟く。
「また明日も、よ、よろしく」
「ははは、ああ、よろしく」
「明後日も明々後日も、ですよ」
「敬語出てるよ、敬語」
「れ、練習中なので」
「秘密の特訓だな、みんなをびっくりさせよう」
お茶らけて言うと彼女はすこしだけ呆気に取られて、すぐに口元を両手で隠してしまう。目元も、声も、笑っていた。
「それは、夢のようですね」
まるで、いつかのボクのように、寂しそうに笑っていた。
失言だったかな、ヤオモモも心の底では思っているだろう。
決戦が終わったあと、【みんな】が欠けている可能性に。
「それと、いまのうちに謝罪しておきたいのですが……」
ん? なんだ?
「その、また勝手に業さんのお部屋を物色させていただきまして……」
「ああ、そういえば」
パソコンを勝手に触られたと報告があったなぁ。あれも懐かしい話だよ。
「良いって。こっちこそ、心配かけて悪かった」
「でも、業さんの趣味がわかって面白かったです」
「悪びれてない! なに!? 趣味って! なに見つけたの!?」
もしかしてマウントレディの写真集のことか!? 違う! あれは峰田が!
慌てて呼び止めようとしたが、ヤオモモには廊下へと逃げられた。動揺したボクが面白かったのか、くすくすと笑って目を細めている。
「全部終わったら、もっとお話ししましょうね」
「ああ、ああ。なに見つけたか絶対問い詰めてやる」
彼女が部屋を出て行くと、急に寂しい気持ちにさせられた。
心細いよな、きっと、みんなもだ。とくに青山など一人で眠れるだろうか。ボクなら無理だ。壊理ちゃんのときを思い出す、今日もトイレにこもりたいところだが……やることがある。
できるならこんなこと、みんなが風呂行っている間に終わらせたい。
携帯端末を取り出して、ラブラバと連絡を取る。
『遅かったわね。いくつかのパターンで動画を撮りたいのに』
「てことは、台本完成ですか?」
『一通りはね。編集で無理矢理場面に組み込むつもり。だから、考えられるパターンをいくらか撮影しておきたいの。明日も時間を空けておきなさい』
耳に当てた携帯端末がなにか情報を取得したらしい。振動と電子音が重なって聞こえてきた。ボクのパソコンはハイツアライランスの自室で埃を被っているからな。
受信したファイルは一つ。
タイトルは……あはは。
「悪趣味ですね」
『好きでしょう? 社長』
もちろんだ。
しかも一人だからな、緩む頬を隠さずに済む。
「もちろん。あ、明日は前社長に挨拶にでも向かいますか! アイテムの件で聞きたいこともありましたし!」
『悪趣味ね』
ラブラバほどじゃあないと思うけどなぁ。
画面に映る『新社長就任挨拶』なるファイルを、指で弾いた。
◇ ◇ ◇ ◇
フラれた。
◇ ◇ ◇ ◇
耳郎に答えを聞けないまま、四ツ橋前社長と面会を終えたボクらは、ラブラバのお説教を受けていた。
『悪趣味ね』
昨晩も聞いた言葉なのに、棘が多い気がする。
「なんで俺まで……」
「ボクが命令できるのって、この面子だと治崎だけだし……」
携帯端末の画像には、目尻を吊り上げたラブラバが映っている。ついでに、ワイプ画面でボクと治崎の正座姿。
怒られている理由は、ボクらの様子を見て腹を抱えて笑っているミスターコンプレスのせい。
今日が決戦の日であった可能性もあった状況下で、目的も信用できるかも不明なヴィランを引き込んでしまった。そのことで起こる作戦のずれを考えれば土下座で済んで良かったよ……。《シルバーバレット》を埋め込む手術は治崎のおかげですでに終了しているが、おそらくコイツは個性などどうでも良いのだろう。
『どこに配置するつもりよ、あのヴィランは』
「えっと、先生たちに、預けようかなって」
ラブラバは長いため息を吐いてから、話を次の段階へと移した。そもそもコンプレスのことはラブラバに教えるつもりはなかったのに、タイミングが悪かったんだ。
『動画の編集は終わったわ。見てちょうだい』
「えっと、コンプレスもいるので……」
『あら、勝手に連れてきたヴィランね? へぇ? で?』
答える間もなく映像が切り替わり、ヒーロースーツを着込んだボクが映し出された。
治崎や玄野は今日初めて《シルバーブレット》の件に触れたため、器用にも目を見開いてボクを睨みつけている。
しかしなんだな、演技を見られるって恥ずかしいな。ラブラバになんどもリテイク出されて良い加減疲れてきたときの映像も混じっている。
一度でも文句を言えば「こんなときジェントルなら」と詰められた。おかげでトイレに籠る時間すら与えられず、余った時間でカレーをことこと煮込むことになる。トロイアに戻ったらもう一度煮込まなければならない。明日の夕飯の時間まで寝かせて、温め直せば完成だ。腹減ったなぁ……。
『聞いてる!?』
「はい!」
『悪くないけど、場面の展開が読めないのよね。どのヴィランを《シルバーバレット》で無力化するかも関わってくるし。個性だけ考えればKUNIEDAだけど……』
要は、《シルバーバレット》のデモンストレーションのお相手探しだ。どれだけ相手が恐ろしいヴィランかを述べ、その後に《シルバーバレット》を撃ち込んで一瞬で制圧。
……だがオール・フォー・ワンや死柄木にはおそらく通じず、荼毘にも個性相性は悪い。
作戦の概要をすべて理解しているラブラバとて、だれをどこに配置させるかなど簡単に決断できるものではないだろう。
『せめて三人は画面に映したいのよね……』
「なら超常解放戦線の連中で良いんじゃないの?」
コンプレスが状況に飽きたとばかりに首を突っ込んできた。
「先生の泥のワープもさすがに数万人を移動させるなんてできねぇだろ」
オール・フォー・ワンを先生、ねぇ。まあそれを責め立てる贅沢はしないさ。ラブラバもすこし考えている様子だ。たしかに一理あるからな。
異形個性が数万人集まって、進軍紛いのことをしているのは知っている。目的地も残り時間と距離を含めて考えると、セントラル病院だろうと予想がつく。なぜ病院が最終地点なのかは不明だが、ラブラバたちは察しているはずだ。
彼ら暴徒は、動画配信までして異形個性を解放するのだと息巻いている。スピナーも加わってさらに勢い付いた、というところでボクが抱える情報は止まっているが……。
それよりも古い情報でコンプレスが指摘した。
誘導されたようにも感じるが、どうだろうな。
「《シルバーバレット》ってオバホの個性破壊弾だろ? 数人に撃ち込めば効能の証明は十分じゃねぇのか」
そうだな……。いや、悪くない。
「ラブラバ、政府に卸す予定の《シルバーバレット》を都合してもらえますか。自衛隊からアサルトライフルも借り受けたいのですが」
『坊や……』
「決定権は私にあります。あなたが悩む必要はありません」
傷害に、人権侵害。個性を奪う薬品を、真っ先に市民へ向けて試し撃ちだ。
ヒーロー科を除籍させられていて救われたな。
「セントラル病院の人員を決戦へ回しましょう。代わりに、新生デトネラット社の社員は全員セントラル病院で待機。適切な狙撃のポジションを確保してください」
「俺たちは?」
「玄野たちは指示されていた場所のままで。指揮は……ちょっと怖いですが窃野たちに任せましょうか」
もともとセントラル病院の警備も人数不足でザルだったのだ。《シルバーバレット》で大量に制圧できれば一石二鳥どころか四羽は行けるね。
本当、倫理観にさえ目を瞑れば、立派な作戦だ。
「ラブラバ、申し訳ありませんが、今日の夜もう一度動画を撮りましょう」
『……ええ』
「ありがとうございます。文言はこちらでも考えてみますので」
通話を切ると、ナガンに頭を撫でられた。首が折れるかと思うくらい頭を撫でられ、不思議なことに、褒めてもらった。
「あんたは頑張ってる」
「全部が終わったら涙枯れるまで喚くのでよろしくお願いしますね」
「あはは、うるさそー」
◇ ◇ ◇ ◇
翌日の昼前に、ボクたち【三人】は探索チームを抜け出して大型スーパーにやってきた。
すでに暴徒によって襲われたあとなのだろう、壊れた車が転がるように廃棄され、立体駐車場も多くの破壊の跡が見て取れる。おそらくはスーパーの中も似たようなものだろうな。
「復興に、どのくらい掛かるかな」
「片付けだけで一か月掛かると思うよ……。それに水道やガスのこともあるし」
「キミたち、これからオール・フォー・ワンが来るって理解してる?」
ボクと緑谷の会話に、青山がツッコミを入れた。
だれよりも現状を不安に思っているのは彼だろう。あー、椅子でも持ってくれば良かったかな。
「緑谷も、作戦の全貌は聞いてないんだろう?」
「うん。A組では、策束くんと青山くん、あとかっちゃんも聞いてないはず」
「キミたち!」
とうとう怒られてしまった。
まったく、ずいぶんと遅いが──今日であることは間違いなく、安心して待っていられる。《予知》さまさまだな。
「おお、来たんじゃあないか?」
緑谷がグローブをぎゅぅうと引いて、青山も空を見上げる。
立駐の屋上から飛び降りた影は、浮遊するようにゆっくりと降りてきた。
「おいおいなんだよキミたち。みぃんな僕のお気に入りじゃないか」
顔を覆う仮面を着けた、大柄の男性。
その威圧感に、恐ろしさに、足が竦む。
男は、笑いながらこちらに向けて順番に指を差す。
「僕に個性を与えられた無個性。
「僕に個性を奪われた無個性。
「オールマイトに呪われた無個性。
「ああ、本当、面白いなぁキミたちは」
悪意を含んだ笑い声が耳に残る。仮面で顔は見えず、この男がオール・フォー・ワンであることは確信が持てないが──。
パチ、パチ、パチと、拍手の音が聞こえてくる。
「お見事だ策束業くん。僕を罠に嵌めたのは、ナイトアイに続いて二人目だよ」
ああ、良かった。
本人ならそれで良い。
口にしなくとも勝手にこちらの考えを読み取るのだろうが、わざわざ出向いてくれた謝辞は述べよう。
「さぁ、商談を始めよう」
「覚悟しなよ、旧人類ども」
──決戦が始まった。