【完結】無個性ヒーロー   作:南畑うり

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最終回─無個性の英雄─

 

影一つない、真っ白な空間。

だいぶ寒いが、ここは、死後の世界とかそういう……?

だけどずいぶんと俗物な……。テレビがあるぞ、テレビが。

 

「なにをしに来たんだ……」

「いやぁ……来たくて来たわけじゃあないんですけど……」

 

ソファーに寝そべって、テレビを眺めるオール・フォー・ワンの姿があった。

魔王が座るようなおどろしいデザインではなく、柔らかそうな白いソファーである。

テレビには、緑谷と爆豪が必死に戦っている姿が映っていた。

 

「富士山?」

 

富士山の麓で戦っているらしい。なにしてんのこれ。え、ここまで来ちゃったの?

 

「このテレビ、音出ないんですか?」

 

質問したらため息で返された。

 

「キミみたいなの、取り込むんじゃなかった」

「取り込まれちゃったの? あ……」

 

取り込まれちゃったんです、か?

逆上されても嫌なので下手に出てみたが、間に合うか?

 

「話してくれないと聞こえないよ。個性が無いんだ」

「え? そうなの? あはは、仲間ー!」

 

拳を差し出したら裁断された。右腕が無くなったというのに痛みもないため、イメージ一つでなんでもできるのかもしれないけど。

個性が無いってのは嘘なのかもな。

 

まあ……そのわりには──。

首を擦りながら周囲を見渡す。

 

「なにもないよ。僕は残滓だからね」

「はあ」

「殺されたくせに、ずいぶんとのんびりしてるね」

 

オール・フォー・ワンの口が皮肉を言うために歪む。なんか、この人って思ってたよりもずっと人間らしいな。

 

「死ぬことは前提にありましたから。あ! でも赤ん坊の口から! あれなに出しました!? めちゃくちゃビビりましたよ! たぶん小便漏らしてます!」

「そりゃ筋肉が弛緩したならそうだろうね、見られなくて残念だ」

「で? どっちが勝ちそうですか?」

「もちろん僕さ。切り札は残してあるんだからね……」

「でも、あなたは消えてしまう」

「キミもだろ」

 

仕事はしてきたからね。問題は──この人って恋愛相談乗ってくれたりするかな? いや、さすがにやめておこう。友だちじゃあない。

 

「いつまでここに居れば良いですかね……? えっと、ボクはほら、ヒーロー側ですし」

「知らないよ、勝手に消えてくれ。まったく、スターを呼ぶなんて反則を……」

「呼んだのはボクじゃあないですよ」

「知ってる。八百万百だ」

 

は!? なんで!? 個人的な連絡だぞ? 

 

「キミ、スターのサインもらっただろう?」

「え、ええ」

「察しが悪いな、幼馴染とは大違いだ」

「はぁ……」

 

リモコンを持ってテレビを操作するオール・フォー・ワン。

あ──なんか、すこしこの人のこと分かった気がするな。

 

「そのテレビ、ずぅっと見てるんですか?」

「……そうだよ」

「だれと、見たかったんですか?」

「……さぁね」

 

ソファーは一つ。テレビも一つ。

だが、ソファーは彼が寝そべるほど広い。

 

恋人か、家族か、親友って線も捨てきれないな。弟さんは与一だっけ。あ、もしかしてオールマイト?

 

「なぜ、こんなときに観察をする。キミはもう死んだんだ。この僕ももう終わりさ」

 

気付かれていたらしい。

それにせっかくの質問だ、答えさせてもらおう。

 

「死んだからだと思いますよ。たまには、こういう贅沢な時間も悪くない」

「贅沢? 金持ちが、これを見て贅沢だってぇ?」

 

オール・フォー・ワンは腹に響く声で笑った。

ああ……たしかにこれは、老人の孤独死そのものだ。

 

もう一つ、彼のことをわかった気がした。

 

「本当の贅沢は思考そのものですよ。だから、戦争を引き起こしたあなたが嫌いです」

「関係あるのかね?」

「もちろん」

 

こんなところで問答とは、ボクもずいぶんと贅沢なことをしている。

面白くて、笑ってしまった。

 

「生きるということ。懸命に生きるための力を、その活力をあなたに割くことになった。人は、思考という贅沢が出来なくなってしまった」

「民衆が異能に石を投げるのは? 彼らの立派な意志だろう?」

「議論するだけの余裕がないんですよ。危険なものは率先して排除しなければならない。それが、一番【簡単】だから」

「それは慣れだと思うなぁ。なんでもかんでも、僕のせいにしないでくれよ」

「あなたの? いいえ、私欲に動くヴィランすべての責任ですよ」

「ヴィランが悪い。だからヒーローは正義だと?」

「正確には、ヴィランを倒す存在が正義だと言いながら石を投げるのでしょうね」

 

英雄など、どこにも居はしないのに。

 

「ヴィランは消えないよ。身勝手な正義がある限りね」

「美学ですか?」

 

オール・フォー・ワンが初めてこちらを向いた。網膜に瞳孔はなく、薄い膜が張っているように見える。

そのうちに、目を瞑って大口を開けた。

 

「あっはっはっは! 美学か! なるほど! そうかもねぇ! 悪党っぽく見えたかい?」

「ええ、控えめに言って、悪の魔王くらいには」

 

褒められたと思ったのか、それとも意外と笑いのツボが浅いのか、さらに声を高くして笑う。

意外とミスジョークで完封できたんじゃあないか、コイツって。

 

「そうかもねぇ……。そう、だったのかもねぇ」

 

寂しそうに、愚痴のように、つぶやいた。

はて、心を読ませないねぇ。

 

「お! 見ろよ策束業! 弔が個性を奪ったぜ!」

 

さきほどまでの激情もなく、楽しそうに手を叩いた。

……まったく、良い歳だろうに。

 

こんな、だれもいない部屋で。

楽しそうに笑えるものなのか。

 

「キミがいるだろう」

 

なるほどたしかに。……って、口に出してたか。

 

「いや、消えかけてるからね。声が漏れてるのさ」

 

ああ、そうか……。ボクのほうが、先か……。

 

……いや納得できるか! え!? なんで! あんた死にかけだったじゃないですか! 首逝ったけど! 

 

「まだ繋がっているからねぇ。もうちょっと、ここで見ておくよ。僕の勝利を」

 

絶対負けないからね!

 

「いいや、勝つさぁ」

 

ああ! 消える! てめぇ覚えてろ!

 

「あっはっはっは! 負け犬の遠吠えが聞こえるぜ!」

 

良いか! オレは一生忘れねぇ!

 

「──なんだ、逃げ足まで早いのか。無個性のくせに。

「ヒーローは、ヴィランがいないと要らないからさ。

「なあ与一、お前がヒーローで、僕が魔王でさ。

「それなら、一生、僕たちが、必要だろう。

「ずうっと……見ていてもらえるよな。

「忘れないって言われちまったぜ。

「やるじゃん、フェイカー……」

 

 

「次は──キミだぜ」

 

 

◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「お! 起きたか! 良い朝だな!」

「……スター?」

 

え、なに、え、死んでなかった?

寝そべったまま周囲を見るも、夕日で照らされた荒野。日本とは思えないが……ここから復興しなければならないのか……。

 

「あいて」

 

起き上がろうとして、なにかが手に引っかかって地面にもう一度転がってしまう。

落ち着け、落ち着け。そういえば首、首どうなった? 痛みはあるが、出血は?

 

──ジャラリ。

 

そんな音がして、首に触れようとした手が動かなくなった。

両腕と、足もか? 逮捕、されてませんか? 見えないけど。

 

「トムラ・シガラキを捕まえに来て、まさかもっとデカい獲物に当たるとは。《シルバーバレット》とは、やってくれたな? フィクサー!」

「──あ」

 

あ、やばい。やばいって。

夕日に染まる荒野には、戦闘機が数機停まっている。アサルトライフル抱えた兵隊も何人か。見覚えがあるということは、ベガスでポーカーした人たちだろう。

 

「上官から、お前だけは絶対に連れて帰れと言われている」

 

まずい! 殺されるのは良い、ヴィランに捕まって拷問されるのも許容した作戦だ。

だが逮捕だけは! 公的な手続きだけは! 流通と製造がやばいことになる!

 

さながら生きた宝箱だ。利権を絞り取られるだろう。

しかもアメリカに!

 

どうやって逃げる!? スター相手に!? 

無理無理無理! まずいぞこれは!

 

「死柄木の逮捕を! お願いしたいのですが!」

「私もそうしたかったがね。マスターの願いとあってはしかたない」

 

オールマイトは善意でボクをここに残して行ったらしい。そりゃあそんなところまで頭回んないよなぁ。

 

「話は日本を出てからだな」

 

スターが親指で自身の後方を指差す。

気付かなかったが、ヘリコプターの音が聞こえてきた。

 

あっという間に近づいて、砂埃を舞い上がらせながら着陸する。

タンデムローラーの中型機。中に何人の米兵がいるのか……勘弁してくれ……。

 

「祝杯にシャンパンも用意してある。乾杯しようぜ、フィクサー」

「まだ未成年で──後ろ!!」

 

ヘリから降りてきた軍人たちが一人、スターの背後を襲うように飛びかかった。

忠告虚しく、スターの姿が掻き消える。

 

勘弁しろよ! ヴィランどもが!

アメリカの暗殺者か、軍部の反スター派か。どちらにしろ最悪の事態に──、

 

「俺スター倒しちゃったぜ!」

「良いぞ良いぞ! 期待の新人だな!」

「先輩楽させろよー、新人」

「腹、減った……」

 

──最悪すぎる……。

 

「ヴィランども! さっさと小僧を乗せろ! ベロス! 早く出せ!」

 

ステインが指示を出すと、軍人のコスプレをした三馬鹿に抱えられてヘリに投げ込まれた。

その瞬間、地獄の蓋を開けたような怒号が響き渡る。

 

「フィクサァァアアアア!!」

「出して早く! 出して!!」

 

オレも混ざって悲鳴を上げた。戦略的撤退!

コンプレスの個性から抜け出たスターの表情で、心が折れた。

 

現役時代のオールマイトに追われるってこんなのかよ……。

オール・フォー・ワンのことが、もうすこしだけ分かった気がするぜ。

 

 

◇ ◇ ◇ ◇

 

 

──三日後、オレは海外にいた。

 

目の前では男たちの怒号が飛び交い、食器が投げられ陶器の割れる音が響く。

発砲音が聞こえてきたため、慌てて机の下に身を隠す。

くそ、まだ食事の途中だって言うのに。

 

「カルマくんカルマくん、これ食べました? とっても美味しいのです!」

「なに、その、それ」

「わかりません!」

「……あとでいただくね」

 

トガヒミコは汚れた手をべろべろと舐めてから、ナイフの刃を煌めかせてテーブルの下から飛び出した。

あの子怖いんだって……。

 

「社長隠れんの早いって。ほらこれ」

「助かります」

 

コンプレスから自身の携帯端末を受け取った。

 

さっきまで見ていたネットニュースは──日本がどうなったか、だ。

戦死者四十九名。見知った名前もある……。

 

だが追悼に行けるわけもない。

テーブルから顔を上げ、暴れている身内を眺めて涙が溢れそうになった。

 

 

ヒーロー四十名殺傷犯──【ステイン】

元ヒーローの殺人犯──【レディ・ナガン】

死穢八斎會若頭──【治崎廻】

〃  若頭補佐──【玄野針】

〃  八斎衆──【乱波】

〃  八斎衆──【窃野トウヤ】

〃  八斎衆──【宝生結】

〃  八斎衆──【多部空満】

ヒューマライズ──【ベロス】

超常解放戦線幹部──【ミスターコンプレス】

      幹部──【トガヒミコ】

迷惑動画配信者──【ジェントル】

サイバー犯罪者──【ラブラバ】

 

 

驚くほどの大所帯だ。常識人の竹下さんが懐かしい……。

移動は基本車で三台。おまけにただの食事でも店を貸し切りにしないと、【こう】なる。

遠くで涙目の店の人と目が合った。

申し訳ない。お金は、多めに払っていきますので……。

 

 

日本は──決戦に勝利した。

オール・フォー・ワンと死柄木の敗北は、瞬間的に世界中へ響き渡った。

ヒーローは勝利し、日本はすぐに《シルバーバレット》の輸出を決断。今日から、まずはアメリカに納品予定だ。

オレたちがいるこの国では影響などまるで表面化してはいないし、現地のヒーローたちも見かけるが……。すでに円高が始まっている。

 

問題はすぐに、表面化することになる。

 

為替や株価の変動など些細な問題だ。

これから《シルバーバレット》に関わる投資や詐欺、襲撃や略奪が行われていくことになるだろう。

世界各地で、だ。

 

ここにいるヴィランたちがいまから何人殺そうとも、もはやオレには勝てないだろうな。

地元のチンピラが次々にノされていく光景を見て、大きくため息を吐いた。

 

携帯端末に一本の通知が入り、それを見て顔を両手で覆うことにした。

 

死の【商人】──策束業が、世界中の捜査機関によって最重要注意人物として手配されたという日本のニュース。

 

泣き出したいし、喚きたいけど……それらをぎゅぅうと飲み込んだ。

 

「終わった。とっととずらかるぞ」

 

ステインに声をかけられると、携帯端末ごと手を握り締められ、机の下から引っ張り出される。

トガちゃんはいつでも笑顔だねぇ。

 

「行きましょうカルマくん!」

「はいはい……」

 

吐き出すのはもっと足掻いてからでも遅くはないさ。

諦め方なんて、雄英で教えてもらってないからな。

 






「無個性ヒーロー」本編はこちらで完結となります。

三年以上もかかりずいぶんとおまたせしてしまいましたが、我慢強くお付き合いいただき。本当にありがとうございました。

お気に入り・評価・感想など出力していただいたあなたのおかげで完結に至ることができました。
それはそれとして、完結後も感想していただけると嬉しく思います。やったぜ!って言うので最終回まで読んでいただけたのなら評価も合わせよろしく願いします!!


蛇足として、カルマ組の(主にトガちゃんの)掘り下げや、彼らの活動内容、A組がどうなったのかなどを含めた後日談と、「もし問題もなくオリ主が高校三年生になったら」のifスリーリーを考えておりまして、そのうちアップすると思います。
長い執筆期間があり、ちょっと語りきることができないため、ここで挨拶は終了します。

ご愛読、本当にありがとうございました!

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