日本から出立した輸送機が《I・アイランド》に進路を合わせてすぐのこと。
ホークスの厚意により、七機ある輸送機の一つを貸し切り状態にしている元一年A組のメンバーはすでに緊張の糸を切って雑談を交わしていた。
「二十歳の同窓会は企画できなかったのに、こういう物騒なときには全員の顔見えちゃうのがなぁ、因果だよねぇ」
「そういうピンキーは成人式くらい行ったの?」
麗日が聞くと、芦戸は首を振った。
「作戦中で事務所待機してたー。でもファットさんに焼肉奢ってもらったんだー」
「いいなぁー」
「イヤホン=ジャックこそ忙しかったでしょ。どうなの独立した気分は」
「ヤバいわ。もう、忙しすぎてこのまえ気絶してた。ヒーロー活動三か月くらいしてないのに書類整理がいつまで経っても終わらない」
耳郎は自身と同じように独立している爆豪へと視線を向けた。
緑谷たちが集まって作戦の確認を行っている最中だったが、気を抜いているのか耳郎の視線に気づいた爆豪が顔を上げて女性陣を見返す。
「ダイナマイトのところはー? 独立大丈夫ー?」
「問題ねぇ。税金関係ならさっさと税理士雇っとけ」
「そんなお金ないよー……あ! クリエティ違うから! 大丈夫! 頑張るから!」
「あらあら」
姉のように耳郎を窺っていた八百万が口元を抑えて笑う。
その隣では、葉隠が手鏡を覗いて口元を緩めている。
「ぐふ、ぐふふ……。これがパワー……金というパワー!」
「物凄い機能ですわ。インビジブルガールの顔がこんなにはっきり」
策束が用意したという圧縮型強化アーマー。その機能の一つに、透明化の解除というものがあった。アーマーのみの透明化技術であると思われたそれは、葉隠が着込むことにより葉隠の《透明》をも強制的に解除する機能だった。
「最近は慣れてきたけど、自分でやるの疲れちゃうからさー。これすっごい便利! 見て見て! 歯磨き簡単!」
口の端を指で引っ張って、歯並びの良さを見せつける葉隠だったが、それを見ていた芦戸が、ため息一つ挟んで自身の後ろ髪を撫でつける。この四年で、ずいぶんと長くなった桃色の髪だ。
「それがあればそのボサボサ頭のお手入れも簡単になるねー。あ! 消えないでよ!」
障子は明転する葉隠を見つめつつ、心操に声をかけた。
「心操と緑谷のスーツはどんな機能があるんだ?」
「純粋に強化アーマーとしての性能は【四つ】とも同じで、インビジブルガールのもある。俺のはペルソナコードが一体化されていて、あとは、グレープジュース?」
「峰田のじゃん。なにか個性の心得を教えてあげたら?……なにやってるの?」
障子と同じように、しかし彼の意図とは全く違う志を持って、和気あいあいと騒ぐ女性陣を見ていた峰田がほぅと息を吐いた。
「きっとオイラの青春はここにあったんだって」
「なにがあったんだグレープジュース」
『話聞コウカ?』
常闇が《ダークシャドウ》とともに峰田に構うが、彼は首を振った。
女性陣のタイツのようなヒーローコスチュームを眺めて目に焼け付けている最中だったからだ。
「緑谷、お前らのスーツはなにかあるのか?」
「確認したけど、基本的な性能は全員同じそうだね。オールマイトの強化アーマーの機能ってほとんどが《エルクレス》との合体機構だから。だけど数値を見るとみんなのアーマーより出力が高い。もしかしたらエネルギーコアが特別製かもしれない」
「《ワン・フォー・オール》に寄せてきたのかもしれないな」
「うん、そうだね」
緑谷の携帯端末に送られたスペック数値を確認し、轟と飯田は納得するように頷いた。
「んじゃ、あとは《I・アイランド》での作戦だな!」
切島が輸送機内のモニターを使って、到着時からのシミュレーションを行い始める。
輸送機は《I・アイランド》の上空に無許可で侵入。この機の全員は、麗日の伝播する《ゼログラビティ》を地上付近で受け、突入する手筈となっている。
彼女自身は訓練を積んでこの作戦に臨んでいるが、ほかのヒーローは秘密裏の作戦であるためぶっつけ本番に近い。
聞いた尾白は、鳥肌立つ尻尾を抱きしめて身震いした。
「上空一万メートルからの落下。策束じゃなくてもかなり怖いね」
「しかもパラシュート無し。命預けるなんて久々だな!」
尾白と瀬呂が拳を合わせて笑い合う。
和気あいあいとした様子を、一喝する者がいた。
「うるせぇ!! おい! 【お前のスーツ】はどんな機能なんだよ!」
爆豪が声を荒らげ視線を向けた相手は、一人の男性。
彼は、ほかのメンバーとは違い今年ヒーロー免許を取得したばかりの新米ヒーローであり、従来のビルボードチャートでトップテンにランクインする轟や爆豪らと比べると、力量では大きな開きがある──はずなのに、爆豪はすでに彼の力を認めていた。
「ウィ! 《ネビルレーザー》の集束率がいままでのどんなヒーローアイテムより凄まじいんだ!」
彼の名前は青山優雅。
二学年下の彼は雄英高校のヒーロー科を主席で卒業し、鳴り物入りでこの作戦への参加を許可されている。
加えて作戦への推薦人が、障子と口田の両名であることも影響していた。
在任している異形個性のヒーローとして、二人の知名度は極めて高い。決戦時の功績を含めなくとも、彼らが精力的に続けたヒーロー活動のおかげで、決戦時に芽生えてしまった異形個性への差別は落ち着いてきたと言えるだろう。
そして今日は奇しくも、その異形個性への差別に対して初めて、新たな見方が生まれた日になる。
「え、ちょ、マジ!?」
携帯端末を見ていた上鳴は勢い良く立ち上がった。
手信号をヒーローたちに送り、自身は輸送機内の受話器でパイロットらに連絡をする。
「公安委員会と繋いでくれ!」
しかし通話は繋がれず。公安委員会はパイロットに、作戦続行の指示を伝言するのみだった。
険しい顔をして自身の携帯端末を睨みつけていた爆豪は、緑谷に画面を見せつける。
彼が見ていた記事は全文英語の海外ニュースであり、その一瞬ではすべて読み取ることは叶わなかった。しかし、見間違えるわけもない単語が何個も存在した。
「異形個性の新定義……プルスウルトラ……。シールド博士が、なんだこれ……」
「メリッサさんに連絡中!」
麗日の声に緑谷が振り返ると、さきほどまで雑談を交わしていたはずの元・クラスメイトは空気を一片させていた。
携帯端末を耳に当てていた八百万が、すこし顔を上げて会話を始める。彼女から零れてきた会話内容を察するに、娘のメリッサすらなにも知らないようだった。そもそもデヴィット・シールドは《I・アイランド》で軟禁中であり、外部との接触を絶たれているはず。
通話を終わらせた八百万は、暗い表情で首を横に振る。
障子は、自身の携帯端末を周囲に見せつけた。
「策束の研究成果だろう。異形型の存在を、個性因子の存在を、世界に示した。あと五年か十年もすればこの研究は常識になる……」
「でも、これは争いの火種だ」
口田はつらそうに拳を握り締めた。
超常黎明期に起こった争いが《旧人類》と《新人類》の争いであると言うならば──。
「策束くんは、異形個性を新人類と定義付けた」
これから起こる異形個性への差別は、《旧人類》と《新人類》との争いになるのだから。
緑谷は、覚悟を決めていた。
日本のヒーローを乗せた輸送機は、あと五時間ほどで《I・アイランド》に辿り着く。
すでに発表は成され、もう、どうすることもできないのかもしれない。
しかし、超常黎明期を繰り返すほど人類は愚かだとも思っていない。
策束を止めることが、世界を平和にするかはわからない。
それでも、彼がこれ以上世界を壊すことは許容できなかった。
世界を壊す【責任】を、これ以上負わせたくなかった。
「策束くんを、止めようわあー!」
周囲を見渡そうとした緑谷だったが、そのまえに視界が塞がっていた。ボールのようななにかが顔面にぶつかって、バランスを崩して尻餅をつく。
「なに!? なにこれ!」
ボールは顔に付いたまま、緑谷が伸ばした手を避けるように頭上へと【飛び上がった】。
「やめてくれピノ」
「ピノって──」
その流暢な英語は、数年は会っていない──しかし、忘れるはずもない友人のものだった。
「テメェ!?」
「お前なんでここに!」
爆豪と轟がともにその声の主に警戒を示す。二人は名前を憶えていなかったのか、代わりに緑谷が彼の名前を叫んだ。
「ロディ! なんで……どうして!?」
ロディ・ソウル。
自衛隊のパイロットスーツを着込んだその青年は、懐かしきオセアン国で知り合った緑谷の友人だ。しかし、この輸送機は公安委員会が手配し、日本から出立したもの。どのような経緯でここに──。
「雇い主に頼まれてな、お前たちを誘拐した」
流暢な英語に、緑谷は動けなくなってしまった。
誘拐するためにここにいる、ならば、理解できただろう。
「誘拐、した?」
「ああ」
妙な言い回しだと思った。
周囲を見渡しても、拘束されている友人は一人もいなかったからだ。
再会の挨拶をおざなりに、緑谷は会話を進めた。
「雇い主って策束くんだよね」
「そ、あのデスフェイカーさまだよ。緑谷の友だちだからって油断してたらまぁた俺はヴィランの手先で運び屋やっちまってるよ、ったく」
悪態をつくわりには、緑谷の頭でピノがリズミカルにタップを踏んでいるのだが、それはさておき。
「誘拐したって……どういう意味」
「文字通り。公安委員会とは連絡が取れないし、電波も、ほら、圏外だ」
ロロとララが笑い合う待ち受け画面。彼が言うようにアンテナにはバッテンのマークがあった。
「出久!!」
爆豪に呼ばれ、慌てて輸送機の窓を覗く。
その光景に緑谷は息を呑んだ。
「なんで!?」
狭い窓からも見やすいように──着陸しやすいように──旋回をはじめた輸送機の下には、
五年前にヴィラン被害によって立て直された真新しいツインタワーがそびえていた。
「《I・アイランド》!?」
目的地が、眼下にあった。
◇ ◇ ◇ ◇
かくてA組は、《I・アイランド》の地へと降り立った。
低気圧が近いのか風が強く、【彼ら】の髪を揺らしている。
「カルマ!」
ああ、四年ぶりに見た耳郎だ。
本当に夢にまで見た彼女が駆け寄ろうとしたが、上鳴と爆豪が咄嗟に手を前に差し出して抑え込む。
オレの背後にいるヴィランたちが警戒するように動いたからだろう。
「トガちゃん!」
「ふひひ! カルマくんカルマくん! お茶子ちゃんですよ! むかしよりもっともっとカァイクなってますよ!」
「やめなさいそんな動物みたいに。あとこれ真面目な場だから」
自身の首にまとわりつくトガの手を二度叩き、彼女は笑顔を浮かべて麗日に手を振った。麗日が小さく手を振り返すと、嬉しさを隠すことなくナガンへ抱き着く。
「策束、一応こっちにはお前への逮捕権が与えられている。それに誘拐された殻木球大とスピナー、そいつらの保護もだ。お前はどんな真面目な話があるってんだ」
轟……カッコよくなったなぁ……。なにその精悍さ。え、イケメンすぎない? え? 身長も百八十の後半だな。
葉隠は見えないが、青山も緑谷も心操も、強化アーマーを身に着けている。オレの贈り物だぜ? 罠とか疑ってくれよ、ったく、嬉しいねぇ。
「いっぱいあるけど……青山!」
なんだよ、もう泣いてんのか?
涙を流し、それでも笑っている彼にもらい泣きしてしまった。
「プロ合格おめでとう!」
「メルスィー!」
サングラスを外した青山が一歩踏み出した。
「策束くん僕はね! キミに会いに来たんだよ! マイヒーロー!」
「嬉しいねぇ……」
あーいかんな、こいつらの前で仮面なんてつけてられるかよ……。
鼻水を啜ってから話を無理矢理変えた。
久々で話したいことなんていくらでもあるんだけどさ、ヒーローとヴィランが顔を突き合わせて雑談なんて、できねぇよな。
携帯端末を取り出して、彼らに見せつける。
「十分前、デヴィット・シールド博士による発表があった。それらは世界の根幹を崩すものだと思う」
「あの発表は世界を壊す。これからどうするつもりだ、また背負うのか!」
異形個性である障子は、あの危険性を十分に理解しているだろう。口田も同じようにこちらを見ている。いや、口田は怒っているのかもしれない。
「異形個性への差別はこれから増え続けるぞ! もっと明確な説明が必要だ!」
「説明? ははは、笑えるぜ。差別はしちゃあいけませんってか? 差別ってのは無くならない。外見が違うなんて理由は後付けだ。差別ってのは足の引っ張り合いなのさ、だれかがオレの下にいてくれ、オレはそいつらより優秀だ! くははは、下らねぇだろ?」
プライドが、傲慢が、差別を生み出す。
人間という種族を生かすための行動ではなく、ただの下級階層と上級階層で楽をするためだけの印象操作だ。
「ヒーローとヴィランなんて差別の温床じゃあないか。ヒーローは常識か? ヴィランは非常識か? 時代でそんな線引きいくらでも変わっちまうのにな」
もし、ここが新時代の幕開けであるというのなら、これからオレたちヴィランの普通が常識になっちまうのにな。
「差別を無くすにはどうしたら良い? 無理なんだよ、言語が海を越えないように、常識がすべての国で違うんだ。じゃあどうすれば良い? 考えたさ、考えて考えて──疲れちまった」
差別を無くすためには常識が邪魔だ。普通が邪魔だ。普遍的な線引きが邪魔だ。法律が邪魔だ。傲慢さが邪魔だ。
敵が、多すぎた。
でも、諦めることなんてできなかった。
「疲れて疲れて、思いついた。けど、思いついただけだと机上の空論でな。ここから先は妄想の類だ」
震える手で携帯端末を取り出す。
「もしかしたら、十分後には世界中で戦火が上がるかもしれない。どこかの国がどこかの国に核を撃ち込むかもしれない。【これ】は、そういう計画だ」
真っ先に緑谷と爆豪が駆け出した。
轟と芦戸が二人をサポートするように個性を塊にして撃ち出す。
「キミらをここに呼んだのはそこでの被害を避けるため。もっと言えば、そうなったときに殺してほしいと思ったからだ」
ステインはいつものようにため息を一つ、乱波は楽しそうに笑っていた。
激しくなる戦闘音に負けじと、無理矢理に叫ぶ。
「差別が無くなるか! 人類が滅びるか! どうだい? 面白くなってきただろう!」
笑みが引き攣った。
父の言葉を思い出したからだ。
『策束家はギャンブルをしない』
ああ、黒と赤にチップを並べる気分だよ!!
「楽しんでいこう──ぜぇ!?」
手から携帯端末がするりと消えた。空中に浮かぶ端末に手を伸ばしたが、それはすごい勢いでA組らの元へと飛んでいく。
「葉隠!」
「さ、させないよ、そんなこと! そんなもの背負わなくたって良いじゃん! 策束くんが背負う必要なんてないじゃん!」
「返せ!──なんて……言うと思う?」
追いかける素振りを見せることなく、オレは彼らに背を向けた。
乱波が一瞬で捕縛される相手にオレが歯向かったところでなにかができると思わないし、それに【それ】は見せ札だ。
「スピナー」
「わかってる……」
コンプレスの背に隠れていたスピナーが姿を現した。その手にはボタン付きの端末が握られている。いや、ボタンじゃあなくても良かったんだけど、なんかこういうの、見た目重視よね。
ロボットの操縦リモコンのような見た目のそれを掲げるスピナーは、ヒーローたちの目にどう映っただろうか。
「動くなヒーローども!」
「とくに乱波! 動くなよ!」
なんでオレが味方に注意しなきゃあならないんだよ。
気を削がれた乱波を呼び戻す代わりに、スピナーの背中を押した。
力無く数歩進むスピナー。
そうだよな、背負うというのはそういうものだ。重くてつらくて、一歩先すら真っ暗だ。
「緑谷……えっと、頑張ってんだな」
「うん」
「そっちの、障子、だったよな」
「ああ、俺も頑張ってるよ、タコなりにな」
いつの間にかオレの隣に寄ってきていたトガとコンプレスが、スピナーに向かって「がんばれー」と緩い激励を飛ばしている。
「本を、書いたよ。ヴィラン連合と、死柄木と、俺の……」
「コンプレスが絵を描きました!」
「トガちゃんはなにもしなかった!」
ガヤがうるさいが、いまのスピナーにとってはありがたい味方だろう。
すこしだけ振り返ったスピナーは、笑って緑谷を見つめている。
「コミックが良いって言ったよな。だけど悪いな、漫画みたいなすげぇ絵は描けなかった。だから分厚い本にして。なんか、頭良さそうじゃん。そしたら自己啓発本だの文章が真摯じゃねぇだの、後ろのやつらがうるさくて」
コンプレスと拳を合わせる。絶対オレたちのほうが良いアイディアを出したもの。
「だから、これを、書いたんだ……」
背中からでは彼の表情は見えない。
でも、その震える右手から伝わってくるのは恐怖だ。
「スピナー、押すのが怖いならオレが──」
「舐めるなよデスフェイカー!」
「きぃぃぃ!」
一番嫌いなんだよその名前! 相澤先生にも弄られたことあるし!
オレのヴィラン名を呼んで置いて、スピナーはもう一度リモコンを握り直した。覚悟は決まったようだ。
「俺が死柄木弔を紡ぐ。過去を消さぬようにと、壊すために生きたと、ヒーローにとっての恐怖の象徴だと!」
「待てよスピナー」
「弔くん!?」
トガとは違い、スピナーは【死柄木】の声に反応しなかった。《洗脳》の欠点だな、オレの忠告通りになった。ただし、ここから先は心操の個性に頼らぬ技術だ。
冷静に対応したスピナーやコンプレスとは違い、憤ったのはトガだった。ナイフを取り出した彼女に、慌てて袖を捲くって肌を晒す。布が引っ掛かってカサブタが皮膚から剥がれ、痛みに顔が歪む。だけどちょうど良い、トガは心操を睨みつけながらも血の魅力には勝てずに、ちろちろと舐め始める。
「おいおい心操、交渉中だぜ?」
「躊躇している間がラストチャンスだと思ってな」
A組の面々が動き出すものの、スピナーはボタンを押さなかった。右手の手首を左手で支え、リモコンを落とさぬように必死に震えている。
ヴィラン連合時代の彼なら、きっと逡巡などしなかっただろう。
それを押すことがどのように世界を破壊するのかなど、むかしの彼は気にしなかったはずだ。
だれかが進めと言えば進み、押せと言われれば押していた。
でもこの四年で彼は成長した。
自身の意見を、他人の意見で研磨するように磨き上げて行った。
彼が作り上げた【作品】は、まさに彼と死柄木弔の生きた証になるだろう。
騙し打ちをしようとしたはずの心操に、スピナーは優しく笑いかけた。
「ありがとう。久々に聞いたよ、あいつの声」
「背中押しちまったか」
苦笑いを含む心操の言葉にスピナーは答えなかった。
代わりにリモコンを地面へ放り投げる。
携帯端末を見ると、一つのファイルをダウンロードしていた。
ヒーローたちの携帯端末でもその操作が行われているのだが、さすがにヴィランを前にそれを確認する余裕はないだろう。
ボタンを押させてしまった以上、きっとなにかが起こるはず。
しかし五秒、十秒と待ってみても、表面上はなにも変化はなかった。
だからこそ、ヒーローたちはヴィラン確保に動き出す。
狙いはオレだろう。もう意味はないよと伝えても、彼らは諦めない。
羨ましいくらいに真っ直ぐなのだから。
こちらの先鋒はお預けを喰らっていた乱波だった。彼に宝生たち三馬鹿が続くが、果たしてA組メンバーはどれほど成長したのだろうか。
「わっ!?」
トガに押されて尻餅をつく。
オレと彼女との間には、一人のヒーローが四つん這いになっていた。
「破廉恥よ、二人とも」
「そんなこと言いに来たのかよ梅雨ちゃん。世界の命運が懸かった瞬間だぜ?」
「そうかしら、私たちは意外と、友だちに会いに来ただけかもしれないのよ」
「二十年のたかだか一年の知り合いに、友人なんてもったいねぇよ」
「あら、ふふふ、じゃあなんで私たちを呼んだのかしら」
芝生の露がスーツについたため、それらを払いながら立ち上がる。
カルマ組は緑谷たちを抑えるのに必死で、オレの護衛はトガ以外いなかった。そのトガも、麗日と梅雨ちゃんを前にして動けなくなっている。
「お茶子ちゃんお茶子ちゃん! ずっとずぅっと会いたかったんです!」
「うん!」
「いーっぱいお話したいことあるんですよ! えっと、あのですね! えっとね!」
「ケロ、ゆっくりで良いわヒミコちゃん」
「そうだね、私もいっぱい、話したいことあるんだ。でも、そのまえに」
意思疎通するかのように、三人は構え合う。トガは鈍く光るナイフの切っ先を、二人に向けていた。
「ヒーローとヴィランだもんね!」
楽しそうに攻防を繰り広げる三人を尻目に、暴れるA組と立ち向かうヴィランを見やる。いや、暴れるヴィランと立ち向かうヒーロー……だよな?
まあなんだっていいや、楽しそうでなによりさ。
爆風によろめきながらも戻って来たスピナーは、だれよりも楽しそうな笑顔を浮かべていた。
「成功したか?」
「さあ」
「世界は変わったか?」
「ボタン一つで変わるわけねーだろ」
オレの不誠実な答えにスピナーは寝転んでしまう。腰でも抜けたかな。
彼は自前の携帯端末を見ながら、その画面を見てほくそ笑んでいる。
プログラムは成功し、作戦も順調。
だけど世界を変えるのはオレたちなんかじゃあない。
どれほど暴力を手にしても、どれほど権力を振りかざしても、どれほど金で支配しようとも、それらは保身に類するものだ。
「スピナーはさ、攻撃されたらどうする?」
「なんだよ急に……」
黙り込んでしまった彼に背を向ける。たしかにヒーローとヴィランが戦っているこんなときに、ちょっと贅沢がすぎたな。
まあ、単純な話さ。
人間ってのは攻撃されたときは咄嗟に手で守る。手の平を突き出し、あるいは腕で守ろうとする。
他人に差し伸ばすべき手で拳を作り、相手を拒絶するために振るわれてしまっているのではないか。
ヴィランの正体はその防御行動だとオレは思っている。身を守らねばならない状況が、ヴィランを作り上げたのではないか。
なんて……概念に近いからそんな話をトガたちとはしたことがなかった。違うと言われればそれまでだし、一人ひとりの事情など知りようもない。
だが、オール・フォー・ワンとの最後の会話で彼は言っていた。
『ヴィランは消えないよ。身勝手な正義がある限りね』
ある意味、きっと真理だ。
ヴィランだと人を指差し、攻撃なんてしてしまえば、その相手の手は一生、指を差した人に差し伸べられることはないだろう。
握り締められた拳は、だれかを殴るために振るわれてしまうかもしれない。
「俺さ……スプレーかけられたんだ」
寝相を変えるように、彼は背中をこちらに向けた。殻にこもるカタツムリのように、姿勢が丸くなっていく。
「通学路でさ、帰ってる途中だよ……。チャリンコで後ろからぷしゅーって……」
「そいつは通り魔だな」
「そうでもねぇ。緑のスプレーさ、俺が服を着てるのが気に食わなかったんだろ。汚れた制服は親に見せられなくてさ、いじめられてるなんて言えずに、不登校ってやつだ」
スピナーが露出している肌を見る。緑色の、爬虫類のような肌だ。
いじめの延長とは言うまい。
ただの身勝手な暴力の被害者だ。民意などというふざけた正義の剣であるわけがない。
「死柄木がいなかったら、俺は一生、なにも成せなかった」
スピナーは、死柄木に差し伸べられた手をとった。
たとえ《崩壊》への道だとしても、きっと二人は、手を取り合えたのだと思う。
「ふふふ、迷惑なやつら」
「お前にだけは言われたくねぇけど……まあ、ありがとうな」
お礼を言われるほど、オレはスピナーになにもしていない。《シルバーバレット》も、彼は拒絶した。
こちらの訝しむ表情に、彼は喉の奥で笑っている。
「お前のおかげで、死柄木の意志を継承できた」
「そんな大層なことはしてないけどね」
「いや、十分すげぇことだと思うぞ、これは……」
そうかなぁ。そうなのかもなぁ。
そうだと良いな。明日の世界が、今日よりももっと良くなりますように。
なんて、ただの身勝手な正義を振りかざしたに過ぎないのに。
「で、これからどうすんのあんたは」
「──久しぶり、耳郎」
「うん」
目の前に立つのは、思い出の中の彼女よりも、もっとずぅっと美しい女性だった。
嬉しさで喉の奥が締まるような感覚。甘酸っぱいと言われる感覚にも似ていると思った。恥ずかしくてそれらを見せぬよう、どうにか平静を保って言葉を紡ぐ。
「素直に逮捕されてしまうのが一番楽なんだけどね。残念ながらもうすこし世界に抗うことにするよ」
具体的にはトガとステインの手綱を握り続けておきたい。
それに《シルバーバレット》の手売り販売は継続しておきたいのだ。表向き《シルバーバレット》は日本が他国政府に卸すことになっているが、裏での優先順位も数もオレが判断している。
フェイカーならぬフィクサーのような立ち回りだ。
「そ。良いなぁ、やりたいことできてて」
「止められなかったのに、ずいぶんと上の空だな」
「まあ、あんまり止める気なかったし。ほかのみんなもそうじゃないかな?」
「悠長だなぁ」
「四年も待たせたからね、もうちょっとゆっくりで良いと思うよ。それよりも、その、それって歯形?」
耳郎は《イヤホンジャック》ではなく、自身の耳たぶを二度ほど指で弾く。首を傾げながら耳たぶに指を這わせると、彼女の言う通りトガの歯形のカサブタに触れた。
「噛み千切られるかと思ったわ……。服の下見る? ズタボロだよズタボロ」
あ、服の下とかセクハラだったかな。もうお互い二十歳超えているし、あんまり友だち感覚で話しちゃあ良くないよね。
「全身に歯形があるの?」
「血管が近い部位は全部かな」
「ふーん」
興味なさそうに鼻を鳴らす耳郎。
しかしこちらとしては興味を持って欲しい話題だ。たまに皮下脂肪食い破ってくるからマジ死にそうなんだよ。実際、治崎がいなかったら何回か死んでたと思う。
どんな苦労話を提供しようと考えていると、一人のヒーローがしずしずと近寄ってきて気が逸れた。
「えぇと、露出度減った?」
「第一声のセクハラやめろ!」
耳郎に殴られたが、反論させてもらいたい。記憶の中の彼女のコスチュームこそセクハラだったのではなかろうかと。それに比べて、プロヒーローの彼女のコスチュームはずいぶんと大人しくなったと思う。
「お久しぶりです、業さん」
「久しぶり、ヤオモモ。敬語、やめにしたんじゃなかったっけ?」
「練習相手がいなかったものですから」
そういう彼女は、笑っていた。自然な笑みだと思う、正直、あの雄英出身のヒーローの中では一番恨まれていてもおかしくないのに。
「纏との婚約破棄、申し訳ありませんでした」
父は経営陣から退き、策束という名前はいまの経済界で忌避すべき名前となっている。八百万家とも距離を置いたと連絡を受けた。それをオレに報告してくれたのは弟の纏だった。彼はオレの近況と健康状態を聞いて、それっきり。内心では恐ろしいほどに恨まれているだろうから、日本に帰りたくない要素となっている。
せめて婚約破棄の報告のとき、恨み言の一つでもあればなぁ。
「申し出は、纏さんからでしたの」
八百万会長でも、父親からでもなく?
ヤオモモを慮って独断で決めたのかもしれないが、格下からの婚約破棄などなんと失礼なこと。
そのことを謝罪すると、女性二人に大きなため息を吐かれた。
「あんたさ、デスフェイカー名乗っておいてそんなマナーは守ろうとしてるの?」
「名乗ってないの! それ勝手に呼ばれてんの!」
二人は視線を合わせて、噴き出すように笑いだす。
背後では火柱が舞う激しい戦闘が行われているというのに、ずいぶんと図太くなったものだ。……あともしかして身長ヤオモモのほうが高い? え、やなんだけど。
「業さんは、これからどうなさるおつもりですか?」
「耳郎と同じことを……。そんなに気になるのなら止めれば良いのに」
「止められるのならそうしたかもしれませんが、私たちをここに呼んだ以上、もう手は打っているのでしょう? スピナーを止められなかった時点で、きっと私たちは止める方法がない」
さすが我が幼馴染、わかっていらっしゃる。
携帯端末にダウンロード完了の知らせが届く。
重いため息を吐いて、空を見上げた。青い空だし、数分前と変わらない。
でも、世界は変わってしまった。
「絵本をね、配ることにした」
「絵本?」
「そ。だけど識字率なんて先進国でも七十パーセント。後進国の一部地域に至っては三十パーセントを切る国もある。だから、最初はその国に合わせた国語の勉強をしてもらおうと思ってね」
ダウンロードされたファイルを開くと、まずは言語の選択になる。国旗があるのでほとんどの人には伝わるだろう。そのまま基礎語学の勉強もできるが、基本的には絵本の朗読が始まる。日本語で、英語で、中国語で、アラビア語で。
オレの投げた携帯端末の画面を、二人は睨みつけるように覗き込んでいた。
「内容は死柄木についてでしょうか」
「ヴィラン連合もだな」
「絵本って本来子ども向けだよね……」
子どもに向けてということは、未来に向けて作った作品だと思う。
幼少の気持ちは、大人になったときにきっとなにかを成す原動力になるのだから。
「で、ダウンロードの条件は?」
「気になる?」
「読むだけ読んであげる」
耳郎は、いたずらした子どものような笑顔だった。すげぇな、何度でも会うたびに恋をしそうだ。
ああいかん、えっと、条件だったよな。
「条件はないんだ。ネットにつながった時点でダウンロードされる。空き容量がないと、ほかのファイルを食うようにプログラムされた強制ウイルスなんだよ」
「そう聞くと悪印象しか抱きませんね」
「実際に悪辣さ。プロパガンダとかサブリミナルとか、マインドコントロールに近い。読んだ人を同情させるためにあるからな」
二人はくすくす笑って肩を揺らしている。四年以上一緒にいたのだろう、まるで姉妹のようだと思った。
さておき、ずいぶん物騒な物言いだったのに、なんだろうこの反応は。舐められているのかもしれない。結構大それたことをしているんだけど。
「異形個性への差別を、死柄木弔への想いで打ち消そうとしている。スピナーさん、お疲れさまでした」
ヤオモモの直角九十度のお辞儀を見て、こちらを覗き見していたスピナーは照れで顔をそむけた。お礼を言われることなど、この数年はなかったはずだ。
おまけに彼が行ったことは世界の破壊に協力するようなこと。
それをまさかヒーロー側から認められるなんて、思ってもいなかっただろうな。
「世界が、良くなると良いですね」
「他人事かよ、ヒーロー」
「ええ、他人の行うことですから」
ヤオモモのあまりの発言に、スピナーともども言葉を失った。
彼女はオレの表情も確認し、微笑を浮かべたまま無言の疑問に答えてくれた。
「私、ヴィランと戦うときに手を握りますの。こう、ぐぅって」
握り締めた手に力を込めていた彼女だったが、すぐにそれを解いて手の平を見せる。白くなった手の平には爪の痕があったが、それもすぐに消えて行った。
「だれかを助けようと手を差し伸べたとき、握り締めたままでは届きません。それを四年前に教わりました。だれでもない、あなたたちから」
「なんで、そんなこと──」
「だれかの英雄になるためには、だれかを変えるためには、手を差し伸べなければならない──。ふふふ、意外とあなた方の背中を追いかけていたのは、私たちなのかもしれませんね」
ほおと、スピナーは息を吐いてヤオモモを見上げた。
「あんた……良い女だな」
耳郎と一緒に噴き出した。
呑気も良いところだろうとも思ったし、まさかそんな告白のようなことをこの場で行うなんて──耳が熱くなってきた。まがい物ではなく、真っ当に告白した女性が目の前にいる。
耳郎から顔を背けているとヤオモモがオレの手を取り、引き寄せられてバランスを崩す。
「申し訳ありません、先約がありますので」
体勢の悪いせいで、スピナーへ一緒に頭を下げることになった。
不憫なスピナーめ、女性を褒めただけでフられるだなんて。相手と日頃の行いが悪い。でもオレを口実に使わないでいただけます?
オレを見てにやにやと笑うスピナーになんと声を掛けるべきか。まあ良いさ、好きに笑えば良い。
戦闘音にまぎれて聞こえてきたヘリの音に反応し、ステインは上半身を持ち上げる。
「もう行くのか」
「そろそろね」
本当はもうすこし時間があるんだけど、十分むかしを懐かしむ機会を得た。
それに、【彼ら】でもオレたちの行動を止めることができなかった。
「つぎは、どちらへ?」
「風の吹くまま、なんて言いたいところですが、南半球でもいくつか仕事がありまして」
「敬語が気に食わないなぁー」
耳郎に背中を強く叩かれ、足が自然に前に出た。
足が地面を踏む。
うん、立ったままだ。
その足を軸に、くるりと二人を振り返った。
「スピナーは差し上げます。それを功績として帰国をお願いします」
「それって言うな」
「お前なんてそれで十分だよ」
からかうように言うと、上半身を起こしたスピナーに笑われた。笑い合うのは一瞬だ、すぐにヴィランたちに声をかける。
「戦闘終了! スピナーが奪われた! 直ちに撤退準備!」
「待てぇ!! 逃げんなクソヴィランども!!」
爆豪が追おうとしたが、彼にはすでに《シルバーバレット》は投与済み。それどころか誘拐したヒーローの多くは個性因子が破壊されて、ほぼ無個性のような状況で戦っていたのだが──。
「厄介だなぁ……オレこんなのに追われるのかよ……」
口角が上がる。
ステインとナガンと治崎の三人を残し、ほかは戦闘不能状態。トガも鼻血を流して麗日と取っ組み合いをしていた。
働きアリのように動く治崎は、動けなくなったヴィランたちをヘリへ押し込んでいる。ロディに用意させたのは中型だが、乗るスペースあるかな?
「では、そろそろ行きますね。この手錠は外してもらえると助かります」
押し付けられたヤオモモの身体を退けると、右腕が鎖で引っ張られた。
手錠は彼女の身体から生えていたので、無理矢理引っ張ることもできない。
まったく、油断も隙もあったものじゃあないよヒーローってのは。
どことなく残念そうに手錠の鍵を《創造》して外すヤオモモ。それを待ちながら、ヒーローを誘拐した輸送機を指差す。
「《シルバーバレット》のワクチンはコックピットに置いてあるから」
「もらったやつもまだ使ってないけどね」
「あと、耳郎、独立おめでとう」
「いま言うか」
ほかにいつ言うタイミングがあるんだよ、まったく。
手首を擦りながらそう言い募ろうとしたとき、左の耳たぶに温かいなにかが触れた。
背筋が伸びた。ちらりと隣を見ると、背伸びをする耳郎の頭が見えた。改めて振り返ると、耳に引っ掛かれたような痛みが走る。
「いた」
「あ、ごめん」
謝罪されたが……えっと……え? いま、なんか、耳を──え?
真っ赤な耳郎がかかとを下ろして数歩距離を置く。
トガを思い出した。
強く噛まれたときにちゃんと怒ると、しばらくの間我慢して甘噛みをしてこちらのご機嫌を窺ってくれるのだ。
なんで、そんなことをいま思い出したのだろうか。
「えっと、いまのは──」
耳郎から真っ赤に染まった《イヤホンジャック》の攻撃を顔面に受け、目と鼻を抑えてよろめいてしまう。
涙でぼやける視界で、彼女がヤオモモの背後に隠れるのがわかった。
あっかんべーって……子どもかよ。
「カルマくーん!」
ヘリに駆け寄ってトガの手を取った。
トガはコンプレスやベロスに支えられて、オレの体重を支えてくれる。
「なんですかこの荷物は! とっても邪魔です!」
トガに言われてみれば、床に人が入れそうなコンテナがあった。
そのコンテナには《Elpis MarkⅡ》と印字されていた。娘が作り、父が改良した珠玉の逸品。
オールマイトに言ったら自動車免許しか持ってないということで、慌てて三輪車に改造したというちょっとだけ情けない経緯を持つが、それでも、パンドラの箱の底に眠っていた希望だ。
「緑谷!! 受け取れ!!」
乱波に命令して無理矢理落とさせると、一トン近い重量であるため着地地点で土煙が上がった。緑谷が無個性状態であったとしても、強化アーマーが無事ならなんとか受け止められるだろう。……生きてるー?
確認したかったが、すでにヘリは進んで《I・アイランド》から脱出済みだ。
「おいドア閉めろ、うるせぇ」
「気持ち良いじゃん。お、ダウンロード終了ー」
「何度も読んだろ姐さんも」
怒られたので必死に扉を閉める。指挟んだらオバホしてくれるんだろうな、もう。
「スピナーくん、もう大丈夫でしょうか」
「なんとかなるだろ、アイツだってヴィラン連合の一員だ」
解散しただろそんな物騒な組合は。
「暴れ足りねぇなぁ! おい! 次はどこで暴れるんだ!」
「お前はずっとうるさいな」
「やるか弓女!?」
また遠距離でボロボロにされるからやめとけと言うのに……。
「社長、紅茶はいかがかね?」
「いただくわジェントル。でも、どうかハニーと呼んで」
「マイ、スィート、エンジェル──ラブラバ」
「きゃー! ジェントルー!」
なんでライバル会社の社長がオレと行動を共にしているんだよ。スピナーと一緒に日本に送り返しておけば良かった。
「腹減った……」
「あんなの見て良くそんなこと言えるな、胸やけ起こしそうだぜ」
「俺もだよ。いてー……またあのモジャ男にやられちまった」
心操一人でこの三馬鹿を抑えられるとは驚きだったが、まあ彼も相当に、ヒーローだよな。
「ところで窃野、それなに?」
「え? ああ、戦利品。手ぶらで逃げ出すわけにはいかねぇだろ」
見覚えがある。
那歩島では使用したこともあるヒーローアイテムにも似通っていた。
「懐かしいなぁ。知ってる? これむかしはパイナップルみたいな形しててさ、いまは筒状になってんだなぁ」
──カチ。
受け取った瞬間、そんな小さい音を聞いた。
途端ヘリの内部で爆発が起こり、煙が充満して緊急警報が鳴り響く。
「窃野! 変なの持ってくんじゃねー!」
「大変です治崎! カルマくんが漫画みたいに真っ黒こげです!」
「おいなにやってんだ俺のヘリで!! 墜ちるぞ!!」
薄れていく意識のなかで、爆豪の生意気な笑い方を思い出していた。
水中から空を見上げれば、たくさんの美しい光に包まれているような気分になった──が! それはさておき! つぎはこっちの番だからな、ヒーローどもが!
ここまでお読みいただきありがとうございました。
完結済みの作品ということに加え、後日談は完全にオリジナル。
完全に蛇足の後日談ですが、お楽しみいただけたのならとても嬉しいです。