【完結】無個性ヒーロー   作:南畑うり

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if 雄英体育祭三日目・上

 

ヒーロー基礎学三十回目。

今日の訓練は、ただ走るだけ──。

 

「は、は、は、は、は!」

 

脳が酸素を求めて呼吸を深くしようとしているのがわかる。

脇腹や足の痛みなんてもう感じない。

 

一時間は走りっぱなしだ。指示された休憩の目安などとっくに置き去りにしている。

二十人いたクラスメイトは、一人、また一人と脱落していった。馬鹿なやつらだ。休憩していればもっと走れた。

俺以外は!

 

『そこまで!』

 

止まった瞬間荒い呼吸とともに、大量の汗が噴き出した。

 

(一位……! 一位だ!!)

 

頭を上げると、劇的に血液が巡るのがわかる。

振り返って、同じように荒い呼吸を繰り返すクラスメイトを見る。

 

生意気な釣り目が睨みつけ、あるいは逆に下を向きすぎて涎を垂らしているやつもいた。

 

左手を掲げる。

その意味を知れ。

 

「俺の……勝ちだ……!」

 

この天犬鴉がA組のトップ!

体育祭も優勝する!

 

 

◇ ◇ ◇ ◇

 

 

『レディースアンドジェントルメン! ただいまの視聴率はなななんと驚きの八十三パーセント!! おいおい初日だぜエブリバディ! なぜなら我ら英雄たちの最後の学生時代だからな! 今日で一つの伝説が幕を下ろす! 見逃せねぇぜ!! 行くぞお前らー!! 雄英高校体育祭! 選手! 入場ー!!』

 

雄英高校の体育祭は一年空けての開催となり、その点も盛り上がっている箇所になる。会場のボルテージは最高潮であるかのように、観客が興奮した声が聞こえてきた。

 

「ダイナマイトだ……」

 

一年A組寮で、テレビを見ていた誰かがつぶやいた。

 

「インゲニウムにツクヨミ! ビッグスリー出揃ったな!」

「ショートは絶対ビッグスリーだから! 譲らないから!」

「クリエティの美しさに勝るものなし!!」

「グレープジュースってぷくぷくしてて可愛いよね」

「「「え」」」

 

観客のように盛り上がるクラスメイト。

それらに一瞥を送り、天犬はテレビへ視線を戻した。整列までプレゼントマイクの実況は続くだろう。

 

『雄英体育祭【初日】は、いきなりのメインイベント!! 三年の部! 今年は歴代雄英高校の中でもとびきりのラインナップとなっているぜぇ! なぜならぁ──』

 

カメラも映さぬはるか上空から、一人のヒーローが降り立った。

土煙が舞う会場にどこか拍子の抜けた、無理のある笑い声が響く。

 

『はーっはっはっはっは!! もう僕が! あ、違、あ、えっと、もう大丈夫! 僕が来た!!』

『学生にしてナンバーワンヒーロー! オールマイトから継承されたのは立場だけではなぁい!! 個性《ワン・フォー・オール》! 最強のヒーローが、最悪の壁として立ちふさがるぞ! 圧倒的優勝候補ー!!』

 

左手を掲げたデクがそこに立っていた。

カンペを持ち、周囲の学友たちには呆れられているものの観衆は大いに沸いた。天犬のクラスメイトたちも同様に。

 

「デク先輩ー!」

「ジャージ姿初めて見たー!」

「やっぱり可愛いー」

「ナンバーワンがショートじゃないなんて……!」

 

盛り上がるクラスメイトを一瞥し、画面に視線を戻す一人の男子生徒。

一年A組ヒーロー科、推薦入学者の一人──天犬鴉。

二メートル近い均衡のとれた身体。体力・膂力・気力。それらが非常に高い水準であるとされ、一年の部では優勝候補の筆頭である。

 

その証拠を示すように、彼の目に三年生に対する憧憬はない。

一挙一動、そのすべてを把握するために観察を続けていた。

 

『すでにヒーローとして活躍している生徒も多いが、挑戦者はヒーロー科【四十八】人に加えて普通科にサポート科! 経営科も虎視眈々と活躍の場を狙っているー! どいつもこいつも楽に倒せはしないだろうー!! デク! 意気込みはー!?』

『ハイ!! もうだ……じゃなくて、えっと、頑張ります!!』

『見てくれこのチャレンジャー精神! ナンバーワンの謙虚さは優勝レースにどのような影響を与えるのかァ!!』

 

三年の部主審、ミッドナイトが鞭を振って注目を集める。

 

『選手宣誓!! 爆豪勝己!!』

 

グラウンドに用意された壇上に登る、一人の生徒。

雄英高校内では、それこそデクよりも注目されている。

 

校内投票でデクを抑えてのビッグスリー確定内定。二年時のヒーロー科合同授業では全学年、全ヒーロー科を制しての勝利。

その名も、大爆殺神ダイナマイト。

 

『せんせー』

 

ジャージ姿のダイナマイトが、ポケットに両手を突っ込んだまま、カメラを睨みつけている。

 

『俺が、ナンバーワンになる』

 

周囲からブーイングを受けてもその不遜の笑みはデクへと向けられ、デクも受け入れるように口角を上げていた。

彼らはきっと、挑戦者ですらない。

 

対等のライバルだ。

 

観客全員が、三年たちの──日本のトップヒーローたちの戦いに夢中になることになった。

 

 

◇ ◇ ◇ ◇

 

 

翌日、一年、二年の部が同時に行われ、最終トーナメントに残ったベスト十六名がリストアップされた。

 

その中には天犬も含まれていたが、その視線は首から下げた金色のメダルを寂しそうに見下ろすばかりだった。

 

優勝が嬉しくないわけがない。すくなくとも、体育祭が始まる前は圧倒的な差で優勝すると決めていた。

 

──それでも、デクとダイナマイトの戦いが頭から離れない。

 

三年の部もベスト十六からが本戦となり、それは一対一のトーナメントだった。

優勝者はダイナマイトだったが、彼とて順当に勝ち上がったわけではない。もしデクとショートが初戦で当たらなければ、ブロックが違えば、優勝は変わっていただろう。

 

──もし俺があの場にいたら、だれと当たっていたら……。

そのようなことを考えて、頭を振った。

 

だれと戦っても勝つ。

それが、覚悟であるはずだ。

 

だがあと二年であの高みに近づけるのか、追い越せるのか。

 

たった、二年後。

たった、一年前。

 

だのに当時の、あの二か月の記憶は薄れてきている。

それ以前の日常なんてあまりに朧気だ。

子どもたちは公園で笑い、ヒーローたちを見て舌打ちをする大人は減った。

だがそれはきっと、一年前に世界が変わってしまったという証拠だ。

 

デクとダイナマイトの戦いは、【スクリーン】で見ていた。

避難所で、隔離施設で、画面目いっぱいに映された二人と、スーパーヴィランたちと戦う姿。

ヒーローへの憧れは、ずっと抱えていた。

 

オールマイトへの憧れ、ホークスへの憧れ、デクへの憧れ、ダイナマイトへの憧れ。……エンデヴァーへの憧れは、ずいぶんと薄れてしまったけれど。

 

いつか自分もトップヒーローに。

その想いがずぅっとあった。

 

距離はきっと自分たちが思っているよりも近いのに、あまりにも遠い。

もし天犬自身が三年生に混ざって戦ったとして、いったい何度戦えるだろうか。

 

彼は両の拳を強く握りしめ、息を大きく吸った。

 

『──こちら二年の部会場。一年の部、聞こえるか』

 

掲示板から文字が消え、マイクを握るイレイザーヘッドの姿を映し出す。

 

観客が大きく沸いたことで二年の会場にも声が届いたのか、イレイザーヘッドは視線を一度だけカメラの外へと振ると、隣に立つメダルを首にかけた二年の優勝者を映すようにカメラを引かせた。

 

『二年の部、十六名。出揃った。そちらはどうだ?』

「こっちも問題ないぞ、イレイザー」

 

担任のデステゴロが、俺を見ながらにやりと笑う。

 

「一年の部、十六名。出揃った」

『では、明日の最終日の内容を発表する──』

 

イレイザーヘッドを映していた画面が暗転する。

そして次の瞬間、文字が映し出された。

 

《雄英体育祭最終特別種目 全学年混合チームサバイバル》

 

その掲示板を見た全員の喉が、ごくりと鳴った。

 

周囲のクラスメイトは困惑している。

一転、天犬の心臓は、心は、喜びで震えていた。

 

雄英入学二か月。

反対もされた。嫌味も言われた。それでも、ただ勝ちたい。

目指すは最強のヒーロー。

 

こんなにも早く、最強に挑戦できるなんて思わなかった。

 

画面には箇条書きされたルールが追加で映され、それをイレイザーヘッドが注釈を絡ませて口頭で説明しはじめた。

 

『各学年の最終種目出場者十六名。それを一年から三年まで集めて四十八名。三人一チームで計十六チーム。最後まで生き残ったチームの勝利となる。二年の部で行われた騎馬戦のようにチームで動く必要はない。個性を存分に使用し、相手を圧倒しろ。会場はグラウンドベータを使うため市内戦を想定。支給品は拘束カフスのみ。拘束された者は最後まで移動を禁止する。開始はヒトフタマルマル。一秒でも一人でも遅れた場合はチーム全体の失格となる。チームはこのあと発表となる。俺からは以上だ』

 

画面からイレイザーヘッドがフェードアウトし、ぎこちない笑顔を張り付けた二年の部優勝者がちらちらと教員の行方を視線で追う。

 

『簡潔!! 最高にクールだぜイレイザー! ファイナリストたちはチームメイトの確認を忘れるなぁ! 雄英体育祭二日目もこれにて終了! だけどサヨナラは言わないぜー! 雄英体育祭ファイナルステージ! 明日もよろしくー!』

 

画面がプレゼントマイクに切り替わったと思った瞬間には、もう終わりのようだった。あっけないと思ったが、それだけ今日は中休み程度の扱いである証拠だろう。

雄英体育祭が前例と違い三日間になっても、主役はデクを筆頭に日本を救ったヒーローたちだ。

全員が全員一騎当千の活躍をしたわけはないだろうが、それでもあの決戦に身体を張った実績がある。

 

体格差はほぼない。個性だって負けているとは思わない。

二年の部を見るのはこれからだが、彼らが三年よりも技量が高いことはないはずだ。

 

技術と経験で負けていたとしても、戦える部分は多くある。

 

(絶対に、勝つ……。俺が、一番になる)

 

だれと組んでも、だれと戦っても、そう誓った。

 

 

◇ ◇ ◇ ◇

 

 

二日目の夕方、各学年のファイナリストたちは特別教室に呼び出されていた。観客向けには明日の早朝に発表となるチームが、すでに発表になるため集められたからだ。

 

「──ふざけんなっ!!」

 

荒ぶったのは天犬である。

手に持った紙を握り締め、教師陣に唾を飛ばした。

興奮すると体質が変化する個性らしく、黒髪が薄っすら金色に染まっている。つり上がっていた目が、額を抑えて苦笑いを湛える一人の学生を標的にしていた。

 

「留年した無個性じゃねぇかよ! なんでベスト十六に入ってんだ!!」

「黙ってろ一年」

 

冷徹な声。

轟焦凍が天犬に向けて告げた。その目は、一瞥すらしていない。

その後頭部に、天犬は笑いかける。

 

「眼中にねぇってか……! 俺が狙ってるのはあんたらの首だぜ! ダイナマイト! ショート! デク! 証明してやるよ! 俺が勝つ!」

「ゴホン、ンン……ゴホン」

 

喉を震わせて咳を行う策束に、視線が集まる。

 

「証明は、どうかべつの機会に。ほら、ね、実質三対二だから……」

 

恥ずかしそうに頬を赤く染めて、上目遣いで天犬を宥める策束。

頭に血を昇らせた天犬は、顔を真っ赤にして周囲の学習机を跳ね退けて策束へと向かった。彼のクラスメイトは顔を強張らせて教師たちに視線を送り、二年生は天犬に負けぬほどの怒りを滲ませて迎え撃とうとし──策束がジェスチャーで制した。

 

その意図を考えることすらなく天犬は策束の胸倉を両手で掴み上げ、彼の力のない瞳に殺気を込める。

 

「俺は勝つためにここにいるんだよ! ヒーロー科でもねぇ無個性が! 邪魔するんじゃねぇ!」

「いや本当に申し訳ない……。まさか残るとは思わなくて」

 

天犬の喉から変な音が漏れる。ぶちぶちと頭の中で切れる音がして、殴るために拳を振り上げていた。

 

「そこまでだ、一年」

 

背後から腕を掴まれて動きが止まる。それどころか、痛みのあまり身体を仰け反らせて策束を放して抗おうとしたが、力で負けて床へと倒される。

背後に立っていたのは、天犬に比肩するほどの体格を持つ三年生。その名前も個性も、天犬は知っている。

心操人使、洗脳個性であり、ギガントマキアすら支配下に置けるすさまじい個性の持ち主だ。

 

その心操に立たされ、背中を叩かれて宥められる。

 

「……天犬っつったっけ? チームに不服があるなら俺が代わるぞ」

「心操くん。それはいけない。ルール違反だ。だがもし主審のミッドナイト先生が許してくれるなら、クジ引きはどうだろうか!」

「後輩にワリィだろ。選ばれなかったって思わせたくねぇ」

「遠慮会釈。素晴らしい配慮ですわ轟さん」

「だがクジ引きは賛成しておこう。俺とダークシャドウで二票分入れておいてくれ」

「ずるすぎるよ常闇くん! 僕だって──」

 

デクも立ち上がったところで、天犬は承認欲求が満たされるのを感じた。

日本で知らぬ人がいないほどのヒーローが、自身を求めてチーム替えを希望している。

 

雄英高校入学二か月間。

天犬はただの一度の敗北もなかった。訓練、勉学、個性。それらすべてで一位を取り続け、B組を加えた体育祭でも優勝を勝ち取った。

 

無言を貫き通しているダイナマイトへと視線を向ける。

轟に良い印象はなく、決戦時から弱体化したというデクでも物足りない。

 

やはり、天犬のライバルは彼を置いてほかには──。

 

「ストップ! スト―ップ!」

 

策束が、言い争いをする三年生たちを留めた。そのせいで思考も中断させられる。

 

「この組み合わせにも意図がある、良い加減学習しろお前ら。お返ししますミッドナイト。天犬くん、席に戻りな」

「すっごく青くて続けて欲しいところだけど……ええそうね、意図がある、汲み取ってちょうだい。だけど一年の前でそういう裏事情をあんまり喋らないように! 一応そっちの思考を鍛えるための一環なんだから!」

 

天犬は眼光鋭く策束を見下ろし、自身に課せられたハンディを噛みしめる。

ヒーロー基礎学では、自身に大きな風船を引かせて割らぬように工夫する訓練がある。

 

それと同じだ。要救助者を一人抱えてのチーム戦。

だが、それの意図とは──。

 

「ふざけんなよ……」

 

──答えは、一つしかない。

ビッグスリーと無個性を組ませなかった時点で、この場のだれと組んでも平均点は大きく落ちる。

 

心に渦巻いていた熱気が冷えていくようだ。

雄英は、三年生の神話を守るために足枷を付けたのだ。

 

「くだらねぇ演出だ」

 

天犬とて、三年生たちに恩も憧れもある。

だが、彼は勝ったからここにいる。

勝つためにここにいる。

 

「関係ねぇ!! 俺が! 一番になる!!」

 

軽快な口笛を策束は吹いた。へらへらと笑うその顔を殴りつけたい衝動を堪え席へ戻る。クラスメイトたちからは責める視線を受けたが、黙殺した。

 

「じゃあ続けるわよー」

 

重い空気などどこ吹く風。ミッドナイトは不敵な笑みを浮かべて説明を続けた。

とはいっても、ルールに寄り添うものではなく、チーム分けの【表向き】の理由であり、天犬は一層眉間の皺を深くした。

 

一年優勝者、天犬鴉。

二年十六位、策束業。

三年八位、物間寧人。

 

三年B組ファントムシーフ。ビックスリー候補の一人。だが彼の個性は《コピー》であり時間制限もある。長期戦において不利であることは違いない。

 

発表されるチームを見る限り、天犬のチームだけが特段レベルが低いというわけではなかった。

集められたファイナリストたちがさっそく三人一組で集まって作戦会議を始めたため、マイクを握り締めるミッドナイトはすこしだけ寂しそうに文章を読み上げるだけになった。教室から出て行くチームもいたため、もうほとんど解散という扱いなのだろう。

 

「物間先輩。よろしくお願いします」

「ああ、うんうんうん、キミ分かってるねぇ。あんな無個性なんか押し付けられたら僕を頼るしかないよねぇ! A組より! B組のほうが上ってことだよねぇ!!」

 

肩を強めに何度も叩かれ、天犬は策束へと向ける感情とはべつの理由で顔をしかめた。

 

「でも残念。僕、キミみたいなの嫌いなんだよね。一番一番って……本当に似てるよ。なぁ! 爆豪くん、最後に決着つけようじゃないか。トーナメントに救われたってことを教えてあげるよ」

「勝ててねぇ時点でテメェの負けだ、物間!」

「フィフィフィ! 明日が楽しみだねA組諸君! 行こう骨抜! 小大!」

「いや、行かないけど」

「ん」

「フィフィフィ!」

 

一人で教室を出て行く彼の背中に、経緯を見守っていた耳郎と麗日がつぶやいた。

 

「物間のやつ三年間変わんなかったなー」

「あそこまで突き抜けとると逆に面白いよね」

「アイツもそこまで悪いやつじゃないんだけどなー……」

「A組のこととなると我を失っちゃうの……」

 

緊張した様子もなくA組と接する、B組の黒色と小森。

 

「で、響香は良いの? カレシがあんなこと言われて」

「ブッ!」

「きたねェ!」

 

ジャージを拭いながら黒色が耳郎へ文句を言う。その耳郎は《イヤホンジャック》まで真っ赤にして声を荒げる。

 

「カレシじゃないから! あんなやつ!」

「え、喧嘩? 見習って、私たちを」

「ブッ!」

「汚なっ!」

 

闇のように真っ黒の頬を顕微鏡で見れば赤く見える程度に頬を染めた黒色。彼の吐き出した唾に麗日が眉をしかめた。

かく言う麗日も、体育祭のあとに緑谷と二人で出かける約束をしているため、多く口出す気はない。

 

「んふふー。青春ねー!」

「ミッドナイト先生! もう説明終わったんですか?」

「それ言う? 良い根性してるじゃない」

 

ミッドナイトが視線を動かすと、周囲はすでにチームでの話し合い。彼女たちの後輩たちが私語の途切れを待っていたほどだ。

説明を放棄したミッドナイトが声をかけてきたというわけだが、私語は続くことになる。

 

「あ、あの! 先輩! 詳しく教えてください!!」

「是非!!」

 

女子生徒は興味津々であるらしく、恋愛事情を聞き出そうとしてきていた。ずいぶんと聞かれていたらしく、耳郎は《イヤホンジャック》の先端まで真っ赤に染める。

 

「だ、ダメダメ! 集中! チームに分かれて自己紹介しよう!」

「えー! でもー──あ」

 

楽しそうに笑っていた後輩が、途端に鋭い視線へ変わった。視線の先には、教室から出て行く天犬の姿。

 

「あいつ……私絶対許せません。策束先輩をあんな風に……」

「あー……それは気にしなくても良いと思うよ」

「え?」

「だって、ねぇ?」

 

耳郎は麗日と視線を合わせると、お互いに苦笑いを作った。

 

「めっちゃ爆豪くんっぽかったもんね」

「一年のそのまんまだったねー。爆豪丸くなったってわかるわー」

「ダイナマイトに?」

 

信じられないと目を剥く後輩に、耳郎はさらに声をかけた。

 

「第一カルマがあんなので傷つくわけないでしょ。むしろ笑ってるよ」

「絶対笑っとるね!……楽しく、なってきた」

「真似? 全然似てねー!」

 

笑いながら立ち上がり、耳郎は麗日に拳を突き出す。

 

「ウチらが勝つ」

「それはどうかな」

 

麗日も受けて立ち、それぞれのチームメンバーを引き連れて教室から出て行く。

それを見ていた黒色も、小森に向けて拳を出してみた。

だが、予想に反して彼女は黒色の指に軽いキスをしてその場を離れて行く。

 

後輩たちが黄色い悲鳴を上げる中、黒色はゆっくりと床へと崩れ落ちた。

 

「ちょうどいいところに。なあ、ちょっと良いかな?」

「あ、策束先輩!」

「先輩はやめろって。同級生じゃん。それより──」

 

唇を人差し指で抑えて、彼は【ちょっとしたお願い】を黒色のチームに持ち掛けた。

 

「いまのままだと爆豪と轟ツートップの独壇場になりかねない。炎に爆風じゃあ小森の《キノコ》もつらいだろう? どうかな、最初だけでも協力しないか?」

 

それはひどく真っ当な、【作戦】だった。

その作戦を聞きながら、ミッドナイトは頬を赤らめて身を捩る。

 

「熟れた果実が青くなっちゃってさぁ……。最高じゃない」

 

楽しそうに、笑いを堪えていた。

 

 

◇ ◇ ◇ ◇

 

 

翌日──。

雄英体育祭三日目。

 

「なんだこりゃあ……」

 

爆豪は血管を額に浮かばせて、ようやくそれだけ言葉を吐けた。

寮から会場までずらりと並んだ人々を見て、爆豪の手からコスチュームの手榴弾が零れ落ちる。

彼らはそれぞれ包帯を巻いて怪我人アピールを行っている。なかには咳を行って病状を訴える者たちもいた。

そしておそらく、本当の怪我人はここにいない。

 

HUEと称される要救助者演技集団を思い出した。

 

「雄英と策束くん……どっちだろうね」

「金かかってるからカルマかな……」

 

その考えは現実逃避だ。

緑谷は大きく息を吸って、呼びかける。

 

「クリエティ! 問診表とタグを《創造》して! 一人ひとりチェックしていくよ! インゲニウムはリカバリーガールを連れて来て! 周囲の寮に声かけしてリビングを借りよう!」

「開場まで一時間だぞ! 間に合うか!」

「わかんない! だけどこれ無視しては行けないよ!」

「無駄口はお終いだ! 目の前の要救助者に集中する!」

 

A組、そして遅れて寮から出てきたB組のヒーロー科が一斉に動き始めた。

 





以下、メモ

◇1爆豪☆
〇16轟◎
〇16飯田◎
■8常闇●
◇8青山●
▼3八百万=
〇2緑谷◎
◇16耳郎●
×16麗日☆
×16鱗☆
▼8黒色=
▼16小森=
■16小大=
☆8物間☆
■3骨抜☆
◇16心操☆

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