しばらくはステインのニュースでも持ち切りだったが、土日ともなるとさすがにマスコミが飽きたようで、アザラシの赤ちゃんが生まれたという朝のニュースが流れている。
そのとき、ふと見たSNSのトレンドに変なタグが載っていた。
『ヘルメットマン』
なんのニュースだ? と思うが、それと同時期にエンデヴァーが炎上しているという情報を得た。エンデヴァーが炎上とは、なんの大喜利かと思ったが、笑えない事件になっていると知った。なんとステインを撃退したのがエンデヴァーではないという話が拡散されているのだ。
タグから検索すると、一つの動画がヒットした。
その動画を緑谷に見せ、オレは項垂れる。
「やられたよー」
「あはは、まあエンデヴァーは気にしてないって轟くんも言ってたし」
緑谷に見せた動画とは、ステインに向かってオレがヘルメットを投げつけたシーンのものだった。投げつける前の口上もしっかり入っていて、後ろ姿まで世間に晒している。
動画を上げたやつはヴィラン連合かとも思ったが、どうやら別勢力か、一般人のようだ。あるいは、反エンデヴァーだと睨んでいる。ステインを逮捕したのがエンデヴァーであるとニュースになった二日後の動画だからな。逮捕したのはエンデヴァーじゃねーだろと言いたかったのかもしれないが、いい迷惑だ。
相澤先生や面構署長からも確認の電話がかかってきた。
でも妙なこともある。
オレが最後に『エンデヴァー!! お願いします!!!』と言ったところも入っている。何を考えているのか、いっそそこまで考えていないのか、エンデヴァーが近くにいることは分かってしまうし、エンデヴァー信者も「これトドメってだけだろ」とか「ヘルメット投げたやつが功労者とかありえない」という声を上げている。そう、それが正解だ。
その動画が発端となり、エンデヴァーにあらぬ疑いがかかったり、もともとあったステインの動画に、新たな動画をバラエティーな効果音で繋げた動画まで出てしまう始末。
その結果、オレの名前に困ったネットの住民が勝手にオレをヘルメットマンと呼び始めてしまったようだ。
中には「ヘルメットマンの言葉の方が重みある」とか「ステイン論破されとるやん……」とか、ヒーロー寄りの意見があって安心する反面、「ステ様汚したコイツ絶対刺しますね」とか「このヘルメットはシュクセータイショーだ!」とか、お前らヴィランだろ情報開示請求するぞみたいな意見まで出ている。
ちなみにオレの正体は避難誘導中のサラリーマンか、地味すぎヒーローヘルメットマンという設定になっているらしい。残念ながら委託ヒーロー他力本願です。
緑谷は笑ってくれるかなと見せた動画だったが、彼の表情は沈んだままだ。オレが無個性であることをそんなに気にするのはやめていただきたい。それともなにか? オレが「無個性ですみませんでした」とでも謝ればいいのか? そんなことはないだろう。
まあオレの不満なんて緑谷には関係のないところだし、わざわざ言う必要もないだろう。そんな緑谷は今日の午後にも退院するそうで、帰りはおじいちゃんヒーローのところへ挨拶しに行くそうだ。
というわけで日曜日は家で自主練。走り込みは保須まで行ってとわりと膝に響いているので、しばらくはウエイトトレーニングに切り替えである。
緑谷が退院した夜にはクラスメイトからヘルメットマンのURLが送られてきて、颯爽と身バレしている感じがする。学校以外でバレると結構面倒だな。心操からも「これお前?」って送られてきて、ちょっと驚いた。
余談だが、SNS上で文末に『エンデヴァーよろしくお願いします』と付けることがしばらく流行った。心底どうでも良かった。
月曜日、ホームルームを前にして、みんなが思い思いに職場体験について話し込んでいる。おおむねヒーローという社会の枠組みの説明、パトロール、奉仕活動、電話番の体験をしたというが、すこし踏み込んだ活動をした者もいる。
イヤホン=ジャックもその一人で、立てこもり事件に遭遇。彼女の個性で建物内の人数の把握、解放された人質の避難誘導にあたる。
フロッピーは隣国からの密航者の確保。新聞の記事にもなっていたが、彼女の名前はなかったな。それでも個性が水辺に関わりがある以上、十全な動きをすれば、活躍はしてくれたはずだ。彼女の表情からも、事件に対しての暗い気持ちや恥じらいは一切感じ取れない。
クリエティは趣旨こそ違えど、CM撮影に参加。放送は三週間後予定。もうね、本当にね、八百万のお父さんに次回お会いしたときなんて言えばいいかわからないんだよ。やっぱりコスチュームだけはどうにかするべきではないだろうか。
あとは──。
「ぶっぶぐっ!」
「なに笑ってやがんだスカシ野郎がよぉ!!」
「わ、笑って、ぶふっ!」
「「マジか!! マジか爆豪!!」」
オレが入室してきた爆豪を見てしまったことで、切島と瀬呂にも気づかれてしまったらしい。
爆豪が、ぴっちりとした七三分けの前髪で現れたのだ。──いや、あれはもう八二分けだ。もうだめだ、面白すぎる。
切島と瀬呂はお腹を抱えて大笑いだった。オレも必死に我慢はしているんだが。
「笑うなァ!! クセついちまって洗っても直らねぇんだッ……」
笑い続ける二人にブチ切れた爆豪の髪が逆立った。いつも通りに戻ったのだ。
ダメだ、もうお腹痛い。
そうこうしている間に、クラスの話題がヒーロー殺しにかかわりをもってしまったオレたち四人に集まる。
心配させてすまなかったと謝罪したあと、エンデヴァーが解決したって方向性でまとまっているという話を聞いた。
まあオレがヘルメット投げたってことで、笑いの対象が移ったので、爆豪は少し落ち着いたけど。
「でもさ、ヒーロー殺しってヴィラン連合とも繋がってたんだろ? もしあんな恐ろしいやつがUSJ来てたらと思うとぞっとするよ」
尾白はすっかり流されているな。ヴィラン連合の脳無が何体か逮捕されたことはネットの情報量に埋もれてしまっているから、しかたがないといえばしかたがない。オレとしては、USJのときに脳無があと一体でもいたらと思うと、ぞっとしないね。
そんな感想を抱いていると、上鳴が話し出す。
「でもさ、確かに怖ぇけどさ、尾白、動画見た?」
「動画ってヒーロー殺しの? 策束の?」
「ヘルメットマンのほうは何度も見て笑ったわ。そうじゃなくて、元のほう。俺最初に見ちゃってさ、あれ見ると、一本気っつーか、執念っつーか、カッコよくねーとか──」
ヘルメットパンチ。
「い、いでっ!! なにすんだよ策束!!」
「人殺しがカッコいいんだろ。被害者家族の気持ちも考えられねぇならヒーロー目指すのやめたほうがいいぞ」
上鳴のネクタイをシャツごと引き寄せ、低い声で言い放つ。
周囲のクラスメイトが何事だとこちらを見ているが、飯田には聞こえてしまっただろうな。
「わ、わりぃ……」
「謝る相手が違うだろ……」
上鳴を放して席に着く。上鳴は申し訳ないと飯田に謝っていたが、飯田は飯田で、ステインを「信念のある男」などと称していた。
呆れて声も出ない。
動画で鵜呑みにする限り、まったく違う。
やつは信念を曲げた男だ。
ヒーローの腐敗を目の前にヒーロー科を一年でやめて、真のヒーローを取り戻すべく街頭演説をする。なるほど立派だ。
それが、本当にヤツのしたいことだったのなら。
ヒーローが腐敗していると思うのなら、なぜそれを正さずに逃げ出した。学校を相手取り訴えなかったのはなぜだ。どうせヒーロー科生徒がいじめを行っていたとか、親の権力や威光を笠に着て偉ぶっていたとか、先生が嫌な奴だったとか。
その程度ではないのか?
無論もっとひどい可能性はある。もっとひどいことになっていたのなら、オレなら証拠を集めて裁判に持ち込む。ヤツはそれをせず、街頭演説で味方を増やそうとした。なぜ学校をやめて一般市民を巻き込むんだ。下手すれば巻き込んだ人がヴィラン扱いを受けることだってある。挙句の果てに相手にされなかったから「言葉に力はない──」とまで。十五、六の子どもの声になんの重みがある? 思想や共感ではなく、実績と価値を求めろ。なにかを成せ、行動してみろ。求めるのではなく、与えるしかない。そこで初めて言葉は力を持つ。
ステインはこの動画をもって、言葉の力を証明した。
これが動画通り本当の話なら、あまりにも無様だ。
嫌だから逃げて、嫌だから逃げて、嫌だから逃げて。
最後には自分で本物と偽物とで区別して、世界を簡単にした。
ヤツに一本気なんてない。
二択にしかできなくなったのは、ヤツ自身の責任だ。
それで人の命まで巻き込んだステインの罪はあまりにも重い。裁判も長引くだろう。颯爽と死刑にしてほしいところだね。
「や、やべーな……。飯田はめちゃくちゃうるさいし、策束はめちゃくちゃに静かー! こえー!」
「上鳴が変な話するから」
「わりぃ……」
思想は自由だ。ステインの信念とやらに絆されても文句はない。被害者がいなければ、だけどな。
◇ ◇ ◇
中間試験も挟んでいたので、だいたい二週間ぶりのヒーロー基礎学。
工場地帯をイメージしたような配管がむき出しの運動場【ガンマ】。今日はオールマイトが監督者である。
「はい、私がきたー、てな感じでやっていくわけだけどもね、はい、ヒーロー基礎学ねー。久しぶりだー! 少年少女! 元気か!?」
……いや誰もツッコまねぇのかよ。麗日! 関西の血はどうしたんだよ! あの前振りはツッコミ待ちだろ!……待たねーのかよ!
自身のボケをぶん投げたオールマイトが訥々と今日の課題を発表していく。
五人一組で要救助者の救出。だが、救助者を救う権利は最初に到達した者にしか与えられない。職場体験のことを考えれば、救助に対しての給金が発生するのは、最初の一人だけだ、ということだろう。
遊びの要素を含めた救助訓練レース、とオールマイトは笑っているが、将来のことを考えれば一ミリも笑えないな。稼げる個性と稼げない個性の判断基準ができそうだ。
最初の組は、飯田、瀬呂、尾白、芦戸、緑谷。
明らかに緑谷が不利ではあるが、ステイン戦ではそこそこ戦えるようになっていたらしいし、壊しながら進んでもそれほどタイムが遅いということはないだろう。
こういうコースだと割り切ってしまえば、瀬呂が断トツかな。
と思ったが、切島が始めたトップ予想では意見が大きく割れてしまった。
その予想は、緑谷によって、いい意味で覆されることになる。
瀬呂は初動から個性を使って建物上部へと飛び上がり、落下加速度と慣性、個性を十全に使って進んで行く。
そして、その瀬呂の上を、緑谷は飛び越えながら進んで行った。
蛙のように、猫のように、壁やむき出しの配管すらも足場として利用して、物凄い勢いで瀬呂を追い抜かしていく。
「緑谷の個性って超パワーじゃねーのかよ!」
オレも、みんなも勘違いしていた。
緑谷の個性は純粋な身体強化だろう。となると、加減をできない状態でぶん殴っていたが、いまはその腕や指に回していた余計な力を全身に回しているとみるべきか。
間違いなく、職場体験で成長してきたな。いまA組のパワーバランスは完全に崩壊したとみていい。
とは言っても、職場体験が終わって初日の授業。緑谷は脚を踏み外して二十メートルくらい落下してしまう。地上にぶつかる前にオールマイトに助けられ失格となった。
だが、関係ない。
クラスの何人かは緑谷の動きに目の色を変えているし、爆豪に至っては人を殺しそうな目をしている。
オレだって、みんなと同じ気持ちだ。
強大なヴィランがいれば骨折覚悟の超パワー。救助訓練では足場を選ばない超高速移動。オールマイトの劣化個性って感じだが、なんにせよ、もっと深いところで使いこなせるようになれば、彼は誰よりも先に行くだろう。
二組目は、オレ、切島、上鳴、葉隠、口田の機動力ゼロ部隊が結成された。
と思ったら、口田が動物を呼び出して、その動物の上に乗って一位でゴール。
なんというか、下馬評狂いまくりである。
犬だろうが鳥だろうが猫だろうが、集団催眠かけて操れるって、やばい個性だよな。いつぞか尾白が心操をヴィランっぽいと現したが、このクラスでヴィランになってほしくない人材ナンバーワンは口田である。
本気の彼に勝つ場合は、全方位に連続して打てる攻撃が必要になるので、轟と八百万、それに上鳴が許容量を越えないように放電しながら本体を倒すか、切島が耐久するか。本人の気性が気弱であることが、世界にとって幸いしたな。
訓練はそれ以外にも多岐におよび、すべてが終わる頃には夕方だ。ゲームと称された訓練では、総合得点で一位が轟になった。二位からは爆豪、緑谷、瀬呂などと続いていく。
年収が多そうなやつは決まってきたな。
意外なのは八百万で、個性がまったく活かせていない。そのための訓練だとは言え、すこし停滞気味である。
更衣室で着替えをしていると、峰田が緑谷を呼んで、壁に貼られたポスターの日焼け痕を指さしている。
「見ろよこの穴ショーシャンク。おそらく諸先輩方が頑張ったんだろう。隣の、そうさ、わかるだろ? 女子更衣室!!」
「峰田くんやめたまえ! 覗きは立派な犯罪行為だ!」
「うるせぇ! オイラのリトル峰田はもう立派な万歳行為なんだよぉ!!」
飯田に同感だ。ヒートアップして大声になってきた峰田がなにか言い放つ前に、手のひらで穴をふさぐ。
「なにすんだよ策束!! 八百万のやおよろっぱい! 芦戸の腰つき! 葉隠の浮かぶ下着! 麗日のうららかボディに! 蛙吹の意外おっぱい!!!」
「いだっ!!」
手のひらになにかが刺さったらしい。内出血しているし、穴からは耳郎のイヤホンジャックが飛び出している。
良かったな峰田、目だったら大事だぞ。血こそ出ていないが、殺意高めの攻撃だった。
「穴は塞ぐように連絡しておく。峰田、お前もヒーロー目指してるんなら、へんな真似すんじゃあないよ。お前の個性なら高層マンションに登って覗きや下着泥棒だってできるんだぞ。疑われてもオレは庇わねぇからな」
「う、気をつけるよぉ……」
女子更衣室をノックしてから壁の穴について伝えておく。八百万が応急処置をしてくれたそうなので、総務部にはオレが言いに行くことになった。さらば名も知らぬ先輩よ。真っ当になってくれることを祈っているぞ。
「カルマっ!」
息を切らせた耳郎がオレを追ってきたらしい。
「手のひら、ごめん」
「ええ? それ言いに来たの? いいって。悪いのは覗こうとしたこっちだし」
「……カルマも覗こうとしたの? いや、そんなら手のひらで塞がないか」
言い訳する前に耳郎は納得してくれた。
二人で職員室まで歩く。グラウンドも通るので、結構な距離があるな。
「ずっと、言いたいことあったんだ」
「ん?」
耳郎が、恥ずかしそうにイヤホンコードを指でくるくると弄る。なんだ、好きとか言われちゃったりするのか? マジか、来たか、とうとう。
「庇ってくれて、ありがとう」
そっちか……。
「お礼はいいよ。ってか前も言われたし」
「何度でも言うよ。死んでたかもしれないんだよ」
正直、誰を庇ったかなんて覚えていない。記憶は戻っているし、USJの会話も思い出している。ということは、攻撃を受ける前後のことは、もう思い出さないんだろうなと思う。そもそも気を失っていただろうし。
ちょっと、気まずい。
えっと、いつもなに話してたかな。
「職場体験、大変だったよな。避難誘導お疲れ様」
「真似してみた」
恥ずかしそうにそっぽを向く彼女に、首を傾げてしまう。
俺だって誰かの真似をして、ヒーロー基礎学をこなしている最中だ。テレビだったり映画だったり、それこそアニメでも良い行動があれば真似をしている。
「誰かの真似だって、ちゃんとできれば耳郎の仕事だろ。気にしなくったって」
「違くて!」
強い否定。彼女はオレとの視線を切ったまま、足まで止めて、でも、耳たぶどころかイヤホンジャックの先端まで赤くして、言葉を続けた。
「カルマの、真似をしたの!」
「オレの?」
なんか、オレもこそばゆい。
「ありがと」
「……うん」
彼女は遠くを見たまま、早歩きで進んでしまう。オレもそれに合わせて、気まずい雰囲気を振り払うように、でも、ちょっとだけ深い話がしたくて内容を選ぶ。
「オレにとってヒーローってさ、テレビの中の存在なんだよね」
「え、なんで」
内容選びに失敗したらしい。彼女の三白眼がオレを睨みつける。
「だってさ、強力な個性もって、金欲しさに暴れるヴィラン倒すんだよ。無個性には無理だって思うじゃん」
「ヴィラン倒すだけがヒーローじゃないじゃん!」
「わかってるって。でもさ、耳郎が助けを待つ人の前に行くのと、オレが大丈夫ですかって声を掛けるのって、全然違うんだよ」
「同じだよ。絶対、同じ」
「すぐ後ろにヴィランが迫ってても? 逃げるか助けを求めることしかできないんだけど」
鼻を鳴らして耳郎は前を向いた。心なしかさきほどより歩調が早い。
怒らせたらしい。とは言っても、オレは主張を変える気はない。もし今後、雄英生に無個性は相応しくないと言われれば、オレはそれを受け入れるだろう。学校側の選択にも従うつもりだ。
そのとき、優しいクラスメイトと反目することになっても。
「もちろん、相手がパワー系じゃなきゃなんとかするぜ? だけどあんな脳無が出てきたらもう逃げの一択。緑谷や轟にまかせっきりだわ」
「あんたは戦うよ」
前を行く耳郎が呟いた。顔は見えないが、やはり怒っているのだろうか。
「絶対戦う。一番冷静なのに、心で動くから」
「緑谷の骨折笑えないな」
「笑ったことないくせに」
なかったっけ? まあ、ないか。
「入試のときも、USJのときも、体育祭の、障害物競争のときだって。覚えてる?」
「覚えてるよ、ってか、その前日に記憶戻ったんだし」
「あー……うん」
さすがにデリケートな部分かな? 胸が凹んで痙攣していたとか言われると、見てる人たちは思い出したくはないかもしれない。
「ウチのこと抱えて走って……あれ全国放送だったんだよ?」
「からかわれたか?」
「めちゃくちゃに! 両親からも、中学の友だちにだって……」
「悪かったって」
障害物競争のとき、緑谷の地雷爆破飛行の爆発音で気絶してしまった耳郎をお姫様抱っこで走ってしまった。そのときはそれがベストであるし、ベターであると思ったが、仲良しごっこしているようにも見えるし、年頃の女の子なら恥ずかしい思いもしただろう。気持ち悪いとか言われたら泣いてしまいそうだ。
「反省会で、みんなの前で見せつけやがって」
体育祭のあと、オレん家に集まってみたときも、チラチラと周囲の視線に晒されていた耳郎。見せつけたつもりはないが、ノーカットなのでしかたがない。
「んで、ウチは思ったわけ!」
「うん」
前を行く耳郎が、くるっとオレを振り返る。
夕日に照らされて、彼女は真っ赤に染まっている。
「あんたは、ウチのヒーローになってたって!!」
そ、れ、は……どう、受け取れば──。
「それだけ!! 総務には伝えておくから!!」
言い逃げして走り出す耳郎。
いまのは、告白か?
なんか、それっぽいよな? それなのかな!?
でも、ヒーローになったから、それだけだからって言われると、無個性のオレに対する同情とか、肯定的なものにも感じる。それだけって、それだけってなんだよ。
耳郎のヒーロー像にオレがいるということは、大変に名誉なことだ。孫に自慢したっていい。だけど、だからって恋愛に繋がるって甘えて、「この前の告白に返事するよ」とか言って「はぁ? それだけって言ったじゃん」とか返されたら舌噛んで死ぬ自信がある。
恋愛マイスターはどこだ!? ミッドナイト? マニュアルさん? エンデヴァーとか!? 子どもいるし! クラスメイトでは……いない!! 中学の頃は知らんが、いなそう!! 芦戸とかいけるか? 切島は「付き合ってねぇよ」とか真っ赤な顔していたけど、聞いてみたい! 相談!? 誰に、心操は!? 浮いた話はないのか!?
いや待て、これが告白だったとして、オレは耳郎のこと好きか? 可愛いよな。あんな子が彼女だったらとか、思うわ! でもそれって好きなの? 好きってなんなの? 愛? 好きと恋愛と愛ってどう違うの!? 性欲は!?
この日を境に脳内がピンク色に染まって、気づけば期末テストが一週間と迫っていた。