【完結】無個性ヒーロー   作:南畑うり

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期末テスト・実技

 

実技試験場中央広場。A組二十人に対し、教師が八人と向かい合っている。

イレイザーヘッド。ミッドナイト。プレゼントマイク。13号。スナイプ。エクトプラズム。セメントス。パワーローダー。

錚々たる顔ぶれだ。並みのヴィランでは交渉のテーブルにすらつかせてもらえないだろう。

 

まずは相澤先生が試験の概要から入る。

この試験でも赤点があり、林間合宿に参加するためには、筆記・実技両テストで合格点を出さなければならない。

先生が、学期末の実技はどのようなものかと生徒に問うと、芦戸と上鳴が意気揚々と、事前に聞いていたロボットとの対人戦だと語った。

その時だった。

相澤先生の捕縛布からひょこと顔を出した根津校長。彼の出だしはこうだった。

 

「残念!!!」

 

背後で、後ろの二人が凍り付いたのがわかる。

それでもかまわず、校長は続けた。

 

「諸事情があって、今回から内容を変更しちゃうのさ! これからは、対人戦闘・活動を見据えたより実戦に近い教えを重視するのさ! と、いうわけで、諸君らにはこれから、二人一組で、ここにいる教師一人と戦闘を行ってもらう!」

 

無茶苦茶しやがってぇぇぇぇぇ!!!!

 

オレが轟と組んでも足を引っ張ることが確定している試合だ。もうなんというか、ペアになった人には本当に申し開きがない。あえていうなら雄英が悪い。

 

相澤先生が根津校長の言葉を引き継ぐように、試験の説明をしていく。生徒二人に教師一人の組み合わせはすでに決定しているという。動きの傾向、成績、親密度などを踏まえたものらしい。

まあ、それは知ってる。割と初日から。ヒーロー基礎学で毎度引かされるクジが作為的なものであることは明白だ。

 

轟と八百万がペアで、対戦相手が相澤先生だと発表される。

二組目が爆豪と緑谷。対戦相手は──空から降ってきた。

 

「私が、する!!」

 

拳を握りしめた、オールマイトが、彼らの相手になるらしい。

ということは根津校長も審査員の一人かよぉ! 本当に二人一組!? オレだけ三人とか、なんだったら四人一組とかじゃダメでしたかね!

 

そして、その組み合わせが無常にも発表となる。

オレと、切島と、セメントス。

もうダメだ。せめて八百万とならなんとかなったのに……。

 

試験の制限時間は三十分。

オレたちの目的は専用の手錠を対戦する教師に掛けるか、どちらか一人でも教師から逃れて脱出すること。捕縛か脱出か。

状況的には分かりやすいな。要救助者がいないので動きやすい。

ここで教師陣が、体重の半分の重りを装着する。試験にあたってのハンデということだろう。切島にはオレの体重と同じ重さが足手まといになっているんですけど、そのハンデに救いはないんですか?

 

とはいえ、その重りを四肢につけたことで、教師陣の動きが非常に悪くなるのは良いことだ。問題はセメントスの個性に重りが意味ないってことなんですけど。

あらかたの説明が終わったらしく、教師陣が待機場所へ移動する。その際、一戦目に当てられたオレと切島が準備しろと叱咤された。

 

「ごめんな切島……林間合宿は、諦めてくれ……」

「諦めがはえぇよ!」

「補習が終わったら河原でバーベキューでもしようぜ! 女の子誘っとくからよ!」

「ちょっとダメでもいいかなって思わせんのもやめてくれ!」

 

途端、左右のふくらはぎを蹴られて膝を突く。

 

「カルマ! 一緒に林間合宿な!」

「業さん、私も精一杯頑張りますので、策束家の名誉をお守りくださいね」

 

耳郎はまだいいとして、いま八百万が蹴ったの? なんか、染まっちまったなぁ。

まあ、学友と旧友にそこまで言われれば、頑張るしかない。

 

「作戦はどうする?」

「作戦……ねぇ……。この場合、オレたちのなにを見たいかってところだなぁ、とりあえず移動だ移動」

 

切島の質問、つまり作戦だが正直よくわからない。個性に限った話をすれば、戦闘を切島に任せてオレがゴールへ突っ走るが正解だ。だがセメントスが、教師陣がそれを想定していないとは思えない。なにを見たがっている?

試験の場所は、入試やヒーロー基礎学でも使ったビル群。都市部での遭遇戦だ。相手はヴィラン。建物への配慮があるのかどうか……。

 

 

会場のゲートが開いて、試験開始となる。

 

正面突破を狙う切島にインカムを渡しながら、オレは脇道に一本逸れて歩き出す。

 

「走らねぇの?」

「走らない。オレたちだけ相談時間も少ないんだ。すこしのんびりしようぜ。三十分を遊ばせることなく全部使い切る。幸いこのステージは直線で走れば反対側の、ゴールのゲートには十分程度でつける。十分くらいは作戦タイムに充てたいね」

 

それに切島の硬化は一度使ってしまうと最長で二十分程度しか保っていられないと聞いた。つまり、どうあがいてもオレたちには三十分は長すぎるのだ。

オレは歩きながら、切島にさきほど考えていた話をした。

 

「あー……そうだな、無理に戦闘すると被害が想像できなくなるのか……。セメントス先生だもんな」

「この市街戦をヴィランに選ばれた時点ですでに手遅れ状態。オレはいまのこの状況、避難が完了するまでの時間稼ぎか、要救助者多数で想定しているつもりだ」

「じゃあ逃げるって意味なくね?」

「そう、試験の点数稼ぎ以外、意味がほとんどない。市街戦、範囲攻撃可能の個性。これが揃っただけでオレたちはもう命懸けでセメントス先生を捕縛するのが最善手になる」

 

そういうと、切島は鼻の頭をポリポリと掻いた。

 

「わりぃ、俺、勘違いしてた」

「なに? 個性無いよ、オレ」

「そうじゃなくて! 俺さ、倒すにしても、そうしたほうが点数高いとか、適当なこと考えてたわ」

 

ああ、なるほど。まあ試験だから、その考え方も悪くない。なにをどうすれば点数に繋がるか、それを考えさせるのも教育の一つだからだ。

 

「結果は変わらないよ。誰かを助ける。頼むよ切島」

「おう!!」

 

問題は捕縛の仕方だ。

特製のハンドカフスは一人分。つまり、オレが後ろから近付いて奇襲をかけるにしても、切島が持っていなければ警戒されるに決まっている。それでもハンドカフスも切島が持つべきだがな。

そして、セメントスの個性も非常に厄介だ。触れたコンクリートを自在に操ることができる。言ってしまえばコンクリートでなんでも作り出せるのだ。とてもじゃないが、オレがどうこうできる相手ではない。

 

だけど、切島ならば──。

 

いくつか、切島が顔をしかめるような作戦を考えていく。しかたない、オレは囮が限界なんだ。

 

「そろそろ大通りに出よう。このビルもコンクリート。下手に戦闘に巻き込ませるわけにはいかない」

「よっしゃ。じゃあ、作戦を教えてくれ」

「定石ってやつ。切島はこれをもって──」

 

途端、切島に押し出され、オレは地面に転がった。

大通りに出た途端【これ】かよ。

 

「おやおや、ここまでくるのに随分と時間がかかりましたね。作戦を練る時間が長すぎます」

「これはこれは、どうせ長いんなら、もう少しお時間いただきたいんですけどね」

 

地面に転がったオレを、遠方から眺めるセメントス。そして、脇道には壁が出来て入れなくなっている。

 

「切島! 後ろから周れ!!」

『大丈夫なのかよ! いますぐそっちに!!』

「構うな! 作戦ダブルオー! 頼むぞ!」

 

オレが囮作戦。切島が顔を顰めた作戦の一つだ。

セメントスに向かって走り出す。彼の姿を隠すようにコンクリートの壁がせり上がるが、幸いにも隙間は多い。囲われる前に距離を詰めて余裕を失くさせる。

 

彼が布陣していたのは市街地演習場の中央。どのような作戦を選択されても対応できる場所にいた。それについては想像の範囲内だが、サーチアンドデストロイとは悪趣味な。

幸い手錠は切島に渡すことができた。これでなんとかできるだろう。

 

走りながら、壁の出現する音に紛れて作戦を切島へ伝える。

 

彼は驚いていたし、怒鳴り出しそうな雰囲気もあったが、どうにか呑み込んでくれる。

分断されてしまった以上、この作戦がベストなはず。どうせオレにはヴィランを引き付ける程度のことしかできないのだ。

 

とりあえずは脇道に入ろうとしたが、その脇道の入口に壁が出現する。たたらを踏んで大通りへと戻される。

大量に出現した壁の隙間から、セメントスに睨まれているのが見えた。

 

「さて、作戦とやら、お聞かせ願えませんか?」

「まずあなたの個性は目視での判断が必要だ。むろん感覚でも操れるんだろうけど、正確な位置は目視で行っている」

「いい考察ですね。続けなさい」

 

いいね、話が伝わるってこういうことよ。脳無なんて相手にするほうが馬鹿だよね。

 

「もし切島が真正面で戦いを挑んていれば、消耗戦に持ち込まれたでしょうね。あなたのハンデは、このままではハンデとして成り立っていない。ので──」

 

オレが走り出すのが先か、セメントスが壁を作り出すのが先か。

視線の話をしたせいか、彼は壁を自分の視界を切るように出現させるものだった。オレは周囲の壁に隠れながら、たったいま出現した壁の縁に捕まって、壁をよじ登る。ついでに切島の状況も聞いておく。【壁がぶ厚く出ることができない。ぶっ叩いて壊すしかない】と言ってきた。しかたない。わざわざ己の存在を誇示しようじゃあないか。

腰に差した拡声器に持ち替えて、切島に「叩け」と伝える。

そのあとに、絶叫。

 

『わああああああああああああ──────!!!!』

 

壁の上を移動しながら、声を当て続ける。この拡声器は、ただの拡声器だ。耳郎のスピーカーのような振動を直接伝えるような音量でも、プレゼントマイクのような質量が生まれていそうな巨大な声量でもない。ただの音。ハウリングもついでに発生した。それでいい。

 

「愚策!!」

『どうかなあああああ!!!』

 

拡声器を投げつけるが、セメントスが咄嗟に張った小さい壁に阻まれる。発動が早すぎる。これでは接近戦を挑むことすらままならないだろう。それに異形個性の持ち主のため、タフガイなイメージがついてまわる。オレの一撃で沈むとは思えない。

 

防御に回したことで、オレに向かってくる壁が手薄になったところを狙って、壁の上から一気にセメントスへ向かう。幸いにして壁が視界を塞いでくれている。

 

「甘い!!」

 

右から斜めに突き出された壁に、肋骨がその勢いのまま強打され、骨の砕ける音を聞いた。一本か、二本か。

壁の上からたたき落され、道路の上を転がった。

だが、まだ時間を稼ぎ切れていない。切島が割ることを考え、だいぶぶ厚くしたらしい。

 

「シャオラッ!!」

 

品の無い掛け声とともに立ち上がり、壁の向こうにいるセメントスに向かって石を投げる。それもコンクリートだからか、避ける気配がない。それもそのはず、投げた石が地面に吸い込まれていったのだ。

 

「無駄ですよ。ちゃんと自前のでなければ!」

「切島!! いまだ!!」

 

セメントスはオレの前に大きな壁を出現させて、視界を切る。きっと後ろを確認したのだろう。なぜなら、特製の手錠を持っているのは切島なのだ。背後から周るに決まっているだろう。

 

「いない!?」

「当たり前だよ!!」

 

直線距離で移動できないのがここまで辛いとは──。だが壁の隙間を通り抜け、間合いには入れた。ここでやられたとしても、もういいだろう。どうしようもなかったと諦めるしかない。

 

パッと見て彼の皮膚はコンクリート。血管は通っているだろうが、動脈も静脈も区別はつかなそうだ。打撃か関節技かの二択になるが、オレが選んだのは打撃である。デメリットは二つ。骨折のせいで踏ん張れないこと。少しでも距離が開けば壁を出現させられること。

メリットは、関節技より相手の間合いの距離があるので、リカバーがつくことだ。

 

「限界二十秒!!」

 

叫んだことで、セメントスは改めて後ろを振り返った。その目線は、きっとさっき振り返ったときよりも、もっと遠くを見ているだろう。

 

【ゴールに敷いたぶ厚い壁をぶち破る切島】でも見えたかい?

 

地面に手を置こうとする彼の顔面に蹴りを入れる。とてもじゃないが人を蹴った感触ではなく、効果は薄そうだ。だが、手は浮いた。

目を押さえているということは、埃でも入ったな。

オレを遠ざけようと手を振るが、ハンデとしてつけた重りのせいでリーチが伸びてこない。これは幸いだと、ゴールとは反対側へ走り出す。

 

だが、これは失策。激痛を訴える脇腹を手で押さえ、無様に転がることになる。

痛みで思考がままならない。

 

『策束、切島チーム、条件達成!』

 

機械音声が、ブザーとともに、作戦勝ちを知らせてくれた。

 

「やられたな。まさか切島くんを一度も見ることなく……。お見事、立てるかい?」

 

セメントス先生の肩を借りて、どうにか歩く。切島がすごい勢いで走ってくるのが見えた。

 

「ありがとうございます先生!! 策束大丈夫っスか!」

「肋骨を折ってるね。いいチームプレーだった。してやられたよ」

「オレなんてゴールに走っただけなんで! まさか策束が足止めするとか思わなかったっス!」

「それは私もそうさ。無個性だということを逆手に取られたね」

 

いいから、はやく、リカバリーガールを……。

 

ここでオレは離脱。一応は合格点をもらえると思うが、これが実戦だったらオレは殺されていただろう。現状の限界地点低すぎる。

 

試験は次のチームに移ったらしく、ベッドで寝ていても、合否の判定は聞こえてきた。

 

問題は『条件達成』というワード。合格って言われていないのが怖いところだな。

条件はヴィランの捕縛、情報の伝達。んで試験としては、それだけじゃないってことだろう。

たとえば戦闘の内容、作戦の有用性、試合後の怪我の有無。思いつくのはこんなものかな?

となると……不合格でもおかしくはないな。

 

迎えに来てもらったリカバリーガールに治癒してもらって、緑谷と麗日がいるモニター室に参加していく。

……この二人ってペアだっけ?

 

「大丈夫か? 無理せず寝てたほうがいいんじゃね?」

 

まだ治癒されたばかりの肋骨が痛いので、ヒラヒラと手を振って答える。

 

二戦目の蛙吹と常闇ペアの試験こそ見れなかったが、三戦目からは見ることが叶った。まあ見たところでなにが変わるわけでもないが、普段触れ合わない先生の個性を見ることは稀である。敵対するにしても、援護するにしても参考になるだろう。

 

三戦目、尾白と飯田のペアで、パワーローダーが地面むき出しの工事地帯での戦闘。地面を掘り続けるパワーローダーが、足場を非常に不安定にしているらしい。

生徒側は飯田のスピードを生かして、尾白を背に乗せて走り出す。パワーローダーが地面を巻き上げて邪魔をするや否や、空高く飛んで尾白の尻尾を飯田の足に絡ませて、高速回転させる。そして、その勢いで尾白を吹っ飛ばしてゴールまで飛ばす。

勉強できるのに力業が過ぎるんだよなぁ。

 

四戦目になると、蛙吹もモニター室に参戦。徐々に人数も集まって、轟と八百万の試験を観戦することになる。

 

四戦目は轟の指示で進めていくらしい。音声こそ聞こえてこないが、八百万は轟の作戦に不満があるな。おそらくは轟を囮か足止めに使って、八百万が単騎駆けする手はずだろう。イメージは悪くないが、わざわざイレイザーヘッドの土俵に乗らなくてもなぁ。

イレイザーヘッドはそもそも一対一を良しとするヒーローだ。そんなヒーローに足止め? おいおい轟め、傲慢だぞ。

 

オレなら開始直後に八百万に原付を二台用意してもらって、氷のトンネルでゴールまで繋ぐ。どこかでトンネルを崩されても、イレイザーヘッドが個性を封じられるのは一人だけ。どちらかの個性で壁を作って、イレイザーヘッドの視線を切ることができる。完璧ってやつだね。

そんなことを考えている間に轟は捕縛布で宙に吊るされ、足元にはまきびしを巻かれる。忍者かよ。

氷でまきびしを巻き込んで足場を作ってしまえばいいのに、なにか考え事をしているのか、一向に始めない轟。その間に八百万の腕をイレイザーヘッドの捕縛布が絡めとる。意外、終わりか、と思いきや、八百万は巻かれた腕に腕輪のようなクッションを創造して、捕縛布を腕輪に縛らせたまま自身は解放される。

──上手い。

それに捕縛布の特性が垣間見えたな。捕縛した箇所で変動が起きると、先端はイレイザーヘッドには動かせない。鉄のようだと感じた締め付けも、意外となんとかなるのかな? あとで心操にも教えてやろう。

 

八百万は、一度はゴールへ向かったものの、イレイザーヘッドに阻害され断念。退却を選んで、宙に浮いた轟を助け出し彼が巨大な氷壁を出現させ視界を切ることに成功。イレイザーヘッドも距離をとって、フラットな状態にまで戻る。時間はまだあるが、チャンスは一度だろう。それ以上は相澤先生が本気になるだろう。

 

氷の中から二つのフードが飛び出してくる。一方には車輪付きカタパルトを持った八百万。もう一方には、案山子を持った轟。なるほど、どちらもフェイクか。

イレイザーヘッドの捕縛布はフードをまとめてはぎ取って、二人の姿を露わにした。その流れでカタパルトから、創造された捕縛布が発射される。その布は轟の炎を浴びることで温度が変わり、イレイザーヘッドに巻き付いた。足は動きそうだが、試験としてはそこで終了。手錠をすることでブザーが鳴り響く。

 

悪くない作戦だが回りくどい。それに一度カタパルトのレバーを掴み損ねている。忖度してもらったのか、警戒されたのか。まあどちらにしろ、相澤先生が本気だったのなら、初動で二人を捕縛してお終いだったな。

感想戦でも音声は届かないが、八百万は泣いているようだったな。まあ自分の作戦での逆転勝ちってのも嬉しかっただろうし、ようやく自分を認められたということだろうか。一学期中は実技での実績は残していないし、最近は実技に関してナーバスで面倒くさかった。夜中掛かってくる電話は何度切ろうかと思った事か。

 

五戦目、青山・麗日ペア。対戦相手は13号。序盤は明らかに麗日と青山優勢で試験が進んでいた。移動が遅い13号を翻弄しているが、決定打には欠けるようで、ゴールに近づけばブラックホールで無理やり戻されることを三度繰り返している。強力な個性なぶん、慎重な使い方だな。三度目は手すりに掴まって吸い込まれるのを待つだけという、二人揃って大ピンチになったが、麗日がその勢いで13号に飛び掛かり、押さえつける。遅れて青山も13号の右手を取り押さえての勝利となった。

……これ個性発動されっぱなしだったら、二人とも顔面無くなってるんだろうな……。

 

第六戦開戦前に、飯田と八百万がモニター室にやってくる。八百万はオレの様子を見て心配そうにしていたが、切島がフォローしてくれた。

 

「いまは治癒使ってもらって元気ないけど! 完治してるってさ! それよりも八百万凄かったなぁ!! 策束みたいにばっちり作戦勝ちじゃん!!」

「ええ、安心しましたわ」

 

嬉しそうにしているので、わざわざ水を差す必要はないと思ったが、蛙吹がここで余計なことをする。

 

「カルマちゃんが言っていたわよ。勝って当たり前だって。百ちゃんはプロヒーロー全部集めても上位に食い込む実力を持っているって」

「蛙吹!? やめてもらえる!?」

 

ツッコんだだけで脇腹が痛い。

おそるおそる八百万を見ると、口を押えて目元を赤く染めていた。

 

「業さん……ありがとう……ございます……」

「……本当のことです。百お嬢さんは、言ってしまえば可能性の塊です。それも、とても良い方向のね」

 

さっき轟や相澤先生たちにしたように涙を隠せばいいものを……。立つのも一苦労なんだぞ。

ポケットからハンカチを出して彼女の顔に当てる。

オレが力を抜くと、彼女は自然とそのハンカチを受け取って涙を拭う。

 

「ふふ、ありがとうございます。さすが私の王子様ですわね」

「いつの話を……」

 

言われたくない単語なので顔を背けると、慌てて視線を逸らすクラスメイトの姿。

緑谷は試験まだなんだから集中しろ!

口に人差し指を当てて、秘密にしておけとジェスチャーを送るが、すでに言いたくてたまらないという表情をする面々。リカバリーガールすらこっちを向いてニヤニヤしている。明日には広がっているんだろうな。面倒なことだ。

 

ちなみに、彼女の言った王子様とは、彼氏や旦那の意味とは程遠く、子どもの頃にやったごっこ遊びの延長の話だ。昔は本当に仲が良かったんだけど。

まあ、昔の話だ。

 

それより問題は芦戸と上鳴の試験である。

ぐずぐずと涙を流す八百万を、さっきまでオレが座っていた椅子に座らせて、モニターを見せておく。しばらくはこれで大人しくなるだろう。

 

とは言っても、このペアの勝負はわりと悲惨な結果に終わった。

会場は、運動場【ガンマ】と呼ばれる、むき出しのパイプが立ち並ぶ工場地帯。周囲を見渡せる建物の上に重機で陣取った根津校長が、近くのパイプを重機のシャベルで叩き続けると、どんな理屈かスタート地点からほど近い、二人の周囲が崩壊した。

攻撃の手を緩めず、次から次へと、意図的に遠方の場所を破壊する根津校長に、二人はそのまま、崩れていないほう、崩れていないほうへ追い込まれ、タイムアップとなった。手も足もでないとはまさにこのことだ。

リカバリーガールの話では、根津校長は人間に【いろいろ】されたことがあるらしく、ときおりダークな部分が出てしまうとのこと。二人が不憫すぎて声も出ない。八百万もすっかりと泣き止んでいた。

 

続く第七試合。口田・耳郎ペアの試合も苦戦はあったが、見事に勝利。プレゼントマイクの大音量の声量を食らいすぎた耳郎が、中耳から出血する重傷を負ったものの、口田が勇気を振り絞って昆虫をプレゼントマイクにけしかけ、気を失っている最中に脱出。本当の意味で完全勝利したのはこのチームだけだな。

 

第八試合は葉隠と障子ペアで、障子がスナイプの注意を引きつつ、葉隠が手錠を掛け勝利。飯田チーム同様、早い勝負展開とはなったが、スナイプの重りが無ければ、索敵を上手くされてお終いだったし、そもそも銃で撃たれている。これはどうなんだろうな、合格だと良いんだけれど。

 

第九試合、面白いことに、峰田の一人勝ちだった。開始直後、瀬呂が峰田を空に放って、対戦相手のミッドナイトの個性《眠り香》から遠ざけるも、自分は食らってしまい、ミッドナイトの膝枕に収まる。

峰田は必死に、というか血涙流しながら瀬呂を恨めしそうに睨んで無様に逃げる。その無様さにミッドナイトが嗜虐心を煽られて追撃。それが峰田の作戦だというのだから見事だ。鞭の打点と、ミッドナイトの鞭を持った手を《もぎもぎ》で固定して、悠々と瀬呂を担いで脱出した。瀬呂が起きていれば、口田・耳郎チームをも超える点数が与えられたかもしれないな。これから行われる最後の試合を含めずに考えると、MVPは間違いなく峰田である。

 

そして、最後の試合。

爆豪・緑谷チームVSナンバーワンヒーロー、オールマイトとの戦闘が始まった。

 





アニメ基準で構成しているため、一戦一戦分かれています。原作では全試合同時スタートです。
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