【完結】無個性ヒーロー   作:南畑うり

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スタートライン

受験の日は、母に心配そうに見守られながら家を出ることになった。

車での送迎だが、途中から周囲の少年少女たちの列に加わる。下車した瞬間から奇異の目を向けられたが、送迎されたのはオレだけじゃない。ただ特別なイベントのせいだろうか、リアクションがオーバーな気がする。

そんな彼らも、それぞれが不安や期待に胸膨らませていることだろう。正門を見上げていた天パーの少年なんて特にそうだ。寝ぐせが付いているのかと思うくらいの天パー少年はしばらく正門を見上げて邪魔になっていたが、オレが追い越すくらいでようやくその一歩を踏み出そうとし、足を絡ませ浮いた。

いや、本当に浮いたんだって。

おそらくは少年が傾いた直前に、彼の肩に触れた少女の個性だろう。知り合いだろうかとも思ったが、どうやら少年を励まして進んで行っただけの関係。残った少年は気張った顔をしながらオレの後ろを歩いている。

うむ、頑張れ若人。

 

 

講堂へ移動し、受験番号通りに席へ着く。周囲には学友たち。こりゃあすし詰めだな。トイレに行くこともできなさそうだ。

時間までは暇らしいが、特にすることもない。机の上のプリントを見ると、四種のロボットのようなシルエットが記載されていた。これが受験要綱にもあった仮想ヴィランか。

隣のやつに話しかけるが、記念受験のオレとは話もしたくないらしい。チラリと一瞥されて、左右どちらとも不発に終わった。なぜオレが五人のうちの真ん中になるのか。

 

空き時間を脳内で潰していると壇上に一人の男が立った。

関係者にしてはだいぶ奇抜でロックな格好だ。革ジャンにド金髪。メディア露出の多いヒーローだったと記憶している。マイクを通さずとも、彼の声がスピーカー越しかのように講堂全体へと響いた。どうやら試験の説明役らしい。見覚えがあるためプロヒーローだと予想しておく。

 

試験官が言うには、さきほどの機械のようなシルエットは仮想ヴィラン。それぞれにポイントが振られていて、倒した累計がそのまま試験の点数になる、と。無個性のオレにとっては、ずいぶんとガバガバな試験であるように思えるが、はてさて。

 

質問コーナーへ移行すると、後部から腹から気合入れて出した男性の声が響いてきた。

振り返ると眼鏡の少年がなぜかスポットライトを浴びている。上を見ると全体にライト。果たして、客席側の頭上にライトがあるのはなぜか、という質問には答えてくれるだろうか。

眼鏡の少年の質問、というか指摘は二つ。

一つ目は、プリントに記載された四種目の仮想ヴィランは誤載ではないか、ということ。

二つ目は、記念受験生への厳しい言葉。試験官の言葉を借りれば、ナイスなお便りってところか。

そしてその返答なのだが、これがまたなんとも。

 

「四種目のヴィランはゼロポイント。ソイツはいわばおじゃま虫。各会場に一体、所せましと大暴れしているギミックよ。倒せないことはないが、【倒しても意味はない】」

 

そしてこう続けた。

 

「リスナーには、【上手く避けること】をオススメするぜ?」

 

周囲の反応は「ゲームみたい」だった。

まあ時間は十分しかないし? ギミックって言葉使われるとね? そう思ってもしかたないんじゃあないかな?

【倒しても評価に加わらないんだから避ける選択をするほうが頭良いだろ】という明らかな誘導をされたことは置いておいて。

 

同じ学校のメンバーくらいには忠告しようとしたが、残念ながら伝えることはできなかった。

聞く耳を持たない奴にはオレから言ったところで意味はない。自分で気付いてくれることを願おう。

 

割り振られたバスに乗り込み、会場へと向かうことになる。この時点で同じ会場へ向かう大型バスが三台だ。この中ですらオレが勝ち残ることはないだろう。おまけに試験会場はほかにもいくつもある。本当にただの記念受験になっちまったな。

……すこしは、期待していたんだけどな。

 

「隣、いい?」

「どうぞ」

 

通路側に座るジャージの女性。短髪で三白眼。耳には……耳から……イヤホン? 差し込み口? なに?

 

「それ、なんの個性?」

 

オレが自分の耳で彼女の耳を示す。

彼女の耳たぶはまるでプラグが伸びているかのように細長かった。異形系の個性にしては地味すぎるが、だからってどんなことができるのかは想像がつかない。

そんな純粋な質問に、彼女は顔をしかめる。

 

「さすがにライバルには言えないよ」

「だな。悪い」

 

謝罪だけして風景を見直す。

しばらくしてバスが走り出すと、隣に座る彼女がトントンと肩を叩いた。

 

「ウチは耳郎響香」

「オレは策束業(さくたば かるま)。そっか、順番も失礼だったわ。ごめん」

「ううん。別に本当は隠すようなことじゃないし、さ。ウチも気ぃ張ってた」

「あとライバルってのも訂正しておくよ」

「なんで?」

「記念受験ってやつ」

 

そういうと、彼女は少しムッとした表情を見せたが、続くオレの言葉に顔を曇らせる。

 

「オレ、無個性なんだ」

「あっ……」

「でもヒーローにはなりたかった。これで諦めつけるの。さすがに大学までヒーロー科行くと取り返し付かないからさ」

「……ごめん」

「別に隠すようなことじゃないからさ、気にしないでくれよ。これから試験だぜ? 間違ってもオレのことで引っ張られて負けないでくれよ」

 

彼女の頭を撫でるには、さすがに初対面ではハードルが高すぎるので、なんとか気にしてないよと信じてもらいたいんだけど。

 

「あ、オレこう見えても頭超良いから」

「……はぁ?」

「国立高校の受験は自己採点でほぼ満点。なんだったら雄英の普通科も余裕で合格ライン。ここは本当に記念受験で、あ、あと金持ち。わりと」

「なに、それ。慰めてるつもり?」

 

彼女の、耳郎の口角が少しだけあがった。

 

「ほかにないでしょ。なんだと思ったの?」

「喧嘩売られたのかと思った」

 

彼女の肘がオレの脇腹に押し当てられる。

クスクスと笑う彼女からは険が取れたようだった。

 

「あー、緊張してきたー」

「嘘だろ? 私語してるのオレたちくらいだぜ」

「あんたのせいじゃん」

「怒られたら両成敗になろう」

「あんた記念受験でしょ」

 

そんな話をしつつ、きっと彼女は合格するだろう、そんな予感を抱いたくらいで、会場にバスが到着したらしい。

耳郎はすこしだけ目を瞑って、感情を切り替えたようだ。

 

「じゃあ、ありがとね。あんたも頑張って」

 

記念受験相手に、頑張ってだと。皮肉もなにも籠ってない表情なんだから、オレもしっかりと答えるしかなくなった。

 

「耳郎も、周りに負けるなよ」

 

バスを降りて巨大な門の前に立つ。

ここから先はビル群らしい。市街地を想定したヴィラン戦がこの入学試験の肝だ。ヴィランはなにをしている? ただルート通りに徘徊しているだけだろうか。それとも動くものを標的にしてくるか。

 

『よーい! スタート!!』

 

他の受験生が一斉に走り出す。そりゃそうだ。ポイントも仮想ヴィランも、総数が秘密にされている。合格基準のラインさえ我々は知らない。おまけに制限時間は十分間。他人を蹴落としてでもポイントを稼ぎに行きたくなるだろう。

 

『あのー、坊やー? スタートしてるわよー』

 

教官が指示を出す。スタートしているからってスタートラインを動く必要があるのだろうか。こちとら記念受験だ。無個性だ。そうやって思考を麻痺させているのだと理解してほしい。

爪跡を残す? ここからヒーローの誰かが産まれるとわかっているだけで十分だ。

 

『残り九分よー!』

 

それはさておき、仮想ヴィランの姿くらい見ておこう。雄英の基準も図れるはずだ。

と、門を越えた時点で、肩に『1』と描かれたロボットの残骸を見つけた。仮想の道路に打ち捨てられている。動く気配はないので近づき、観察する。

 

機体はおよそ二メートル。素材は合金が多用されている。プラスチックよりは硬いが、青銅よりは柔らかそうだ。モーターは十か所以下。だいぶ簡略化されているし、関節が脆い。スピードもパワーもないだろうが、これを動いている状態でオレが倒せるかと言えば、すこし遠慮したい。関節技しか効かない相手に真正面から戦わなければならないのだ。さすがに試合場を用意して出直してきてほしい。

 

続いて『2』『3』と観察するが、増えたのはモーターの数だけで弱点は同じだろうか。『3』の足はこの三機の中でもっとも強固な造りをしていたので、こればかりはオレには打倒不可だ。機動力を奪えなければオレに勝ちはない。

 

歩いていると、ガラスに突っ込んだらしい受験生を見つけた。

声を掛けながら引き上げ傷を見る。

 

「ガラスはガラスでも飴ガラスか。良かったな」

「よく、よくない……こんなはずじゃ、こんなはずじゃなかったのに」

 

飴ガラスとは映画なんかで使われるダミーガラスだ。非常に脆く、なんだったら食べることすらできる。受験生の肌はすこし傷ついていたが、おおよそが衣服で守られただろう。

というか彼の両腕にはびっしりと爬虫類みたいな緑色の鱗が生えていて、傷ついているのは頬くらいだ。さすがに本当のガラスだったら頭の出血がやばいことになっていただろうけど。

 

「諦めるには早いだろ。こんな傷なめりゃ治る。あと八分はあるぞ。走れ」

「勝てない……力が、足りないよ」

 

いかんね、心が折れている。

 

「お前個性は?」

「この、鱗を飛ばすんだ」

 

「全然効かなかったけど」と言うので、関節を狙えと言っておく。レベル『3』は誰かに任せ、『1』と『2』を徹底的に狙うのだ。ついでにカメラを狙えとも。じつは仮想ヴィランのレンズも非常に薄い。ダミーガラスほどではないが、指を押し当て力を込めれば割れる程度だった。カメラさえ壊せれば的に近い。

 

「ほらいけ! ヒーローになりたいんだろ! とりあえず出し尽くせ!」

 

バシバシと彼の背中を叩き、会場に押し返す。

そうは言っても彼はこの時点で二分は無駄にしている。制限時間はあと六分もないだろう。

ヴィランは脆い代わりに大柄だ。大きさはそのまま威力にもなる。負傷者もその分多くなり、何人かが手足に打撲を受けながら戦闘を続行しているような試合運びである。

 

情けない。

 

ヴィランの脆さにかこつけて、笑いながらお互いのポイントを報告しあって、マウントを取ろうとしている。

 

情けない。

 

パワー系の個性だろう受験生がヴィランを投げ飛ばし、ビルの入り口に突き刺さった。たらこ唇の彼は「三ポイント!」と叫んで、次のヴィランへ走り出す。

 

情けない。

 

オレは立ち上がろうとする『3』の首を分解する。構造的にははめ込んだだけだ。ネジのような首を思い切り回せば緩くなって、外せるようになっている。そして動力的には頭にあるのか、ビルの一部を破壊し続けていた『3』は動きを停めた。

 

ポイントは重要だ。

試験は重要だ。

個性はもっと重要だ。

 

ただ、お前らはとても情けない。

もっともオレはこの場にいる誰よりも情けないので、安心してほしい。

 

さて、十分というのはあっという間だ。おじゃまギミックとやらに出会うこともなく、そろそろ試験が終わろうとしている。

個性さえあれば。そういう気持ちがとても強くなった。やっぱり記念受験なんてするべきじゃなかったかな。

裏道で足を痛めていた受験生を三車線道路まで連れ出して、オレはそんなことを思ってしまった。

結局、俺が成したことは動けなくなった仮想ヴィランの『殺害』だけだ。ポイントは入るかもしれないが、たかが三点。すでに四十ポイントを稼ぎ出す受験生もいるこの会場で、下から数えればまずオレの名前があるに違いない。ほかの会場を加えても大差ないだろう。

いや、そもそも無個性であることを学校側は知っているわけだからな。さすがに取らないか。普通科は受験しちゃっているし。

 

「地震か!?」

「おい! なんだあれ!!」

 

地面の揺れ、土煙とともに、遠目にもわかるほどの巨体が地面から現れた。

 

「ゼロポイントギミック!」

「でかすぎだろ!!」

「まだ全然稼いでないのに!」

 

大通りには多くの受験生と仮想ヴィランがいたのだが、巨大ギミック出現とともに蜘蛛の子を散らすかのよう離れていく。

あまりの情けなさに、ため息も出てこない。

 

「お前も逃げろ! こっちに向かってきてるぞ!」

 

すれ違う受験生に声を掛けられ、ようやっと状況を把握した。

 

なるほど、コイツ等はそういう考え方をするのか、と。

 

オレの目には、ビルをなぎ倒しながら暴れまわっているように映るのだけれど。

巨大ヴィランが腕を振るった瞬間、近くのビルの上部が崩れさり、埃やコンクリートが細かな雨のように降り注いだ。

そして、直撃すればひき肉になるような巨大な塊も。

その塊の軌道を頭に入れながら、ポケットからシナモンスティックを取り出して咥える。

 

「カルマー!!!」

 

オレの名前を知る受験生は、この会場には一人しかいないはずだ。

声をしたほうを向くと同時に、オレの眼前を岩が通り抜ける。

 

「い、生きてるー!! はやくこっちに! はやく!」

 

ああ、耳郎、ヒーローになれるお前が、そんなところでなにをしているんだ。

 

「耳郎! お前! ポイントいくつ!」

「え!? は!? ポイント!?」

「時間がない! 何ポイントだ!!」

 

彼女は信じられないものを見る表情を浮かべながら、大声で「二十三ポイント」と告げた。おそらく足りないな。まあ彼女の個性が、直接戦闘力には向いていないことは見ればわかる。どれほど優秀な個性であっても、【それを見る試験】ではないのだから、当然だろう。じゃあ雄英が戦闘個性しか求めていないのかといえば、そうじゃない。

なにを見ているか。なにを見たがっているのか。

 

「頼む、お前の個性を貸してくれ」

「貸してって、なにするんだよ! はやく逃げないと! ウチだってポイント足りないのに!」

「なあ、耳郎。お前の憧れてるヒーローってやばくなったら逃げるのか?」

 

彼女は目も口も大きく開けてオレを見た。

言いたいことも、この試験の本質も見えてきたのだろう。

 

「頼む、アイツを停めよう。ワンチャン、雄英にトップ合格できちゃうかもよ」

「あんたって本当変なやつ!」

 

オレは彼女の手を引いて、反対車線までやってくる。街灯に紛れ、スピーカー付きのポールがあるからだ。

 

「片耳はあれに刺して、もう片耳はオレに渡してくれ」

「え、えぇ!?」

 

明らかな嫌悪感を見せながらも、耳郎は右耳のイヤホンプラグをオレの手の中まで伸ばした。

 

「この個性、人に刺したことは?」

「人に!? あんたまさか!!」

 

耳郎の右耳をオレの頬へ突き刺す。激痛に声が零れるが、それがスピーカーから聞こえてきたので、勝利を確信することができた。

 

ここからは、オレが演出家になるぞ。雄英高校め。

 

『これが試験だってことを!! 忘れてんじゃねーぞ!!』

 

大音量だ。近くにいるオレたちは耳が痛くなるくらいなので、周囲には届いているだろう。他の場所にも遠隔で届けばいいのだが、それは耳郎の個性次第か。

 

『見ろ!! ビルが壊されている! 人が死ぬぞ!! ゼロポイント!? おじゃま虫!? 関係ねええええええええ!!』

 

あとから聞いた話だが、この会場の端まで、オレの声は届いていたそうだ。

 

『崩れたビルには近づくな! 二次被害になる! 負傷者は運んでやれ! 入口は北! 太陽を見上げて真後ろだ! 戦闘個性は雑魚狩ってろ!! それ以外の個性! 見せ場はオレが作ってやる!! 指示に従え!!』

 

これで会場の半分以上は敵になったな。従ってくれるやつは何人いるか。

 

『仮想ヴィラン『1』『2』『3』はモーター駆動だ! つまりは電気!! 中身は精密機械ってことだ! 水と電気の個性は巨大ヴィランから見て後方へ集まれ! あと二分もないぞ! はやいとこ濡らせ濡らせー!! 最後は電撃だー!!』

 

オレたちの周囲にいた何人かの受験生が、巨大ヴィランへ向き直り、走り出していく。果たして全員が電気、あるいは水の個性ってことはないだろうけど。頑張れよ。

そして、不安そうな表情を浮かべた少年少女がオレたちの方へ集まってきた。一応ここ直線ルートで危ないんだけどな。

 

「オレ、絶対ポイント足りないんだ! みんな戦闘個性に取られちゃって」

「あたしも!」

 

十人ほど集まってくれた受験生は、耳郎も含めて戦闘個性はいなそうだ。待ち望んでいた状況だ。

 

『大丈夫!! オレがいる!!』

 

なにもだいじょばない。そもそもここにいる全員が合格することなんてありえないんだ。

オレができることはあくまでこの子たちの見せ場を作ってあげることだけだ。

 

『凝固できる個性は倒壊しそうなビルの固定だ! 倒れれば百人死ぬと思って行動しろ! デカい道路からはヴィランと瓦礫どかしておけ! 車が通れなきゃヒーローの到着も遅れる! 避難も遅れる! 第一優先! 人命救助! 第二優先! 避難経路確保! 第三優先! あの大型ヴィランの足止めだ!! これをモニターしているヒーローどもに! 自分がどれほど勇敢なヒーローであるか!! 証明しろ!!』

 

残念ながら一人一人の個性を把握する時間なんてない。となればマニュアル通りの指示しか出せない。何人かの受験生は個性も使わず道路に転がっている仮想ヴィランをどかすことになる。申し訳ない気持ちになるが、こればかりは時間制限を十分にした雄英側が悪い。

頬から耳郎のジャックを抜く。口内には血が溢れるが、いまはふき取る時間も惜しい。

耳郎とともに巨大ヴィランへ走り出す。

 

「助かった。ありがとう耳郎」

「ウチの個性こんなことに使うなんてね」

「それよりもまずい。あのヴィラン、頭の位置が変わってる」

「え、そう?」

 

単純に、巨大ヴィランが移動することで頭の位置も変動する。あの巨体での移動とは、予想するに、四足歩行以上の多脚型か、キャタピラだということだ。つまりは、あの巨体にして機動力があるのだ。キャタピラであったのなら、方向転換も容易に行われる。背面に人数を集めたことが事態悪化へと繋がってしまう。

 

「耳郎、もう一度だ」

「止まる!? 時間ないよ!」

「その耳、どのくらい伸びる?」

 

彼女は道路に設置してあるスピーカーの本数と巨大ヴィランとの距離を一瞬で測ったようだ。今度はオレが自分で刺すこともなく、頬を貫かれる。反対側を貫かれたのでまるでお団子のように串が刺さるだろう。

 

「いま!」

『巨大ヴィランがキャタピラだったらすぐに後ろ向けるぞ!!』

「呼吸!」

『すぐに離れろ! 履帯は外れやすい! 異物挟みこめるような個性!』

「呼吸!」

『いればオレたちを助けてくれ!!』

「もういい!?」

「最高!!」

 

さすがに巨大ヴィランの周囲は粗大ごみだらけだ。障害物競争のようにオレと耳郎はギリギリのスペースを走り抜ける。ここまで来て言うのもなんだが、ここでオレたち二人にできることはない。

案の定、こんなつらい思いをして辿り着いたのに、キャタピラにキノコと漫画の吹き出しみたいなのを生やして、右手から煙を上げている巨大ヴィランが見えただけだった。

 

『終了―――――――!!!』

 

そんな無常なブザーを聞きながら、あれほど必死になった巨大ヴィランはピタリと停止した。周囲の受験生はお互い笑い合い、そして褒め合った。

オレも耳郎を褒めることにする。

 

「最高の個性だったよ、耳郎」

「あんたも、すごかったよ。そして正しかった。頬っぺた、ごめんね」

「安い安い。これも記念だ」

 

そういうと彼女は顔を曇らせる。

 

「あーあ。ウチも記念受験になったみたい」

「いや、二十三点だろ? わりと上位食い込んでるって」

 

途端に彼女は呆れるようにため息を吐いた。

 

「あんた周りの声聞いてなかったの? 三十点越えいっぱいいたんだけど」

「戦闘個性の四十点と、耳郎の二十三点だったら、オレは耳郎をとる」

「あんたに取られてもなぁ……」

 

指示がないので二人で周囲の小型ヴィランをどかしていると、一人の受験生がプルプルと震えながら歩いてきた。

 

「うぇ~~~~~い」

「……うぇーい?」

 

耳郎が首を傾げながら返答するが、彼は焦点の合わない目で歩き出した。

 

「いやちょっとあんた! もう!」

 

耳郎が彼の両手を掴んで、出口に向かって歩き出す。

 

「薬キメちゃってるみてぇ」

「ビビって腑抜けたんじゃね?」

 

その光景に嘲笑を受けるが、あまりの情けなさに舌打ちが零れた。

そう思うのなら、なんでお前らが手を引いてやらないんだ。なんで声をかけてやらないんだ。何をしにここにきた。なんのための個性だ。

 

誰か、いまの耳郎が見せた優しさが、どんな個性なのか教えてくれよ。

 





「これは、予想外だねぇ」
「どうします根津校長。F会場の子たち、救助ポイントが物凄いことになってますけど」
「うぅーん……予想外だねぇ……」
「しかも『この子』が無個性って……」
「彼の指示のおかげでしょう? マイナスします?」
「うぅーん……困ったねぇ」
「とくに雄英や他校の教員からの試験内容の流出ってわけでもなさそうですね」
「オレは、できることをやったやつをマイナスにしていいとは思いませんがね。合格し、それが理由だと説明すれば、実践でも重視するはず。そのほうが合理的だ」
「そうだよねぇ」
「じゃあ二クラスのほとんどがF会場の参加者ってことで」
「いやぁ、さすがにそれは……」
「ちなみに、無個性の彼は撃破ポイント三、救助ポイント十二で不合格ですけれど」
「えぇー……」
「有効な指示を出したものには救助ポイントがつくはずでは?」
「有効は有効だけど、範囲が広すぎて……。だって会場の受験生全員に充ててよ? 一つの指示だけで五十ポイントは軽くオーバー。全部合わせると何点になるかしら。認められないわよ、さすがに正当性がなくなっちゃうもの」
「困ったねぇ」
「普通科の試験結果送られてきました。ほぼ満点で一位合格ですね。余裕でこっちの試験も合格してきますよ」
「良いことなんだけどねぇ」
「志望動機は記念受験らしいです。なんでこんな子が無個性なのかねぇ。世の中ってのはままならないな」
「とりあえず集計してから考えようか。ね、みんな」
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