【完結】無個性ヒーロー   作:南畑うり

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劇場版「2人の英雄」中編

 

オレたちはメリッサ・シールドの提案に乗って、カフェへ向かうことになった。

 

オープンテラスのカフェで、オレ、緑谷、麗日、八百万、耳郎、メリッサさんが一つのテーブルを囲んでいた。

ここまで来る道すがら、緑谷から、偶然オールマイトに出会い、そしてオールマイトの友人の娘さんにパビリオンの道案内をしてもらっていただけだという話を聞いた。それで麗日の情緒も元に戻ったのか、いまではメリッサさんと普通に話している。

 

メリッサさんは耳郎や八百万が職場体験で経験したヒーロー活動に興味津々らしく、矛先はオレにも向きかけた。

 

「キミの活躍は?」

「ないですよ。オレは無個性なので」

「えっ!? でもヒーロー科なんでしょう!?」

 

デヴィット・シールドの一人娘は無個性。いいぞ、これで共感を得られる。心象は良いだろう。

ちなみにヘルメットマンはノーカウントだ。活躍でもなんでもないし。

 

「立ち位置的には、そうですね、ボーダーラインだと思ってもらえれば。オレより成績が悪いと、ヒーローになるには難しいんじゃないですかね? 無個性にも勝てないんじゃあね」

 

言うと、A組の表情が曇る。このメンバーだと、総合点がオレより下のやつらばかりだからな。八百万に至っては実技に関して期末以外、軒並みオレ以下になる。耳が痛いだろう。

 

「いいなぁ……。私は、諦めちゃったけど……。でもいまはそれで良かったかなって思ってるの! 勉強もいっぱいできるから!」

「その考え方も悪くありませんが、ヒーロー免許ならカレッジ卒業してからでも取れますし、むしろカレッジ卒業して、ヒーローアイテムを作るのなら、取得しておいたほうが良いですね」

「私、実はね……」

 

無個性、という単語を聞く前に、話題を変更させよう。

わざわざオレたちのコンプレックスに触れる必要はない。

 

「ヒーロー免許と個性使用許可証は、国際法で別物と区分されていますよ。我々の国だと同時取得なので、同一視されてますがね。《I・アイランド》が特殊な環境にあるので、もし外国に目を向けているなら取得をお勧めしますね。取得条件は厳しくなりますが、国際ヒーロー免許はとても良い」

 

一時的な出国もできるようになるはずだし、《I・アイランド》でヒーロー免許を取得できれば【特典】も美味しい。まず外国でも守秘義務が付与されるので、多少法を逸脱しても《I・アイランド》が国際弁護士を用立ててくれる。たとえば人を殺したとしても強制送還で《I・アイランド》で法の執行を受けることになるのだが、そこに外国の法律は関われない。

《I・アイランド》ではヴィラン犯罪が起こったことは無いと有名だが、《I・アイランド》から出てしまえばヴィランとして捕まるヤツはごまんといる。

まあ技術者限定の話だけどな。

 

免許の取得を勧めると、メリッサさんはびっくりしたような表情を浮かべ、そのあとにゆっくりと時間を掛けてくすくすと笑った。

 

「キミ、研究者に向いているよ」

「《I・アイランド》のカレッジ生に言われるとは、自信がつきますね」

 

オレたちの目の前にドリンクが置かれる。それを届けてくれたのは峰田と上鳴の二名。このカフェはこの二人をバイトとして紹介した店なのだ。

 

女性陣はひどく驚いているが、メリッサさんと出会ったオレの驚きとは比較にならんだろう。

峰田と上鳴もメリッサさんの存在に気づいて、仕事をサボって話し出そうとしたとき、どこからともなく飯田が猛ダッシュで現れた。

彼も今日のレセプション参加者なので入国しているとは思っていたが、なんでヒーロースーツなんだよ……。

 

雄英組はまとめてきたわけではなく、ある程度集まっての行動なので、彼らはお互いが来ていることを知らなかったらしい。

とくに男性陣はバラバラだな。十四人いるのに、オレが知る限り八班くらいに分かれている。チームワークは無いに等しい。飯田と同じ理屈なら轟も来るだろうけど、そのままエンデヴァーが来るかもな。

 

なんて考えていると、強烈な爆裂音と振動で揺らされた。そこまで遠方ではないが、間近ではない。

山を模した施設から煙がもうもうと上がっていた。それを見たメリッサさんは自分の腕時計を見ながら、「もうそんな時間か!」と笑顔で立ち上がった。

 

どうやらアトラクションの一つらしい。個性を使っての障害物破壊競争が行われているので雄英組も見に行きたいと、上鳴、峰田を残して連れ立って歩き出す。

ものすごい恨めしそうな顔で見られていたが、チップももらえるので、日本のアルバイトとは比べ物にならない稼ぎになるだろう。頑張れよ。

 

さて、メリッサがわくわくとした表情で、レース会場までの案内をかって出てくれたので着いていく。オレたちも中に入ると、空中に浮かぶモニターに見知った顔が映っていた。

 

「切島くん!?」

 

そして、次のレース参加者に、緑谷はもっと驚くことになる。

 

「かっちゃん!?」

 

二階の観客席側から、切島と爆豪の姿を目視して、思わず笑ってしまった。みんななんでヒーロースーツなんだよ。夏休み持ち帰ってるの?

爆豪は爆破移動と、爆破での破壊を同時にこなしながら、山の麓から山頂に向かって駆け上がっていく。その間十五秒ほど。オレなんて上に行くまでに一分はかかりそうだ。そう思うと、直前に切島が出した三十三秒という数字がどれくらい頑張ったかわかるな。アイツもオレと同様、移動面に難ありだったからなぁ。

 

戻ってきた爆豪が切島の掛け声で緑谷を発見。その後はいつもの流れで喧嘩を売り始める爆豪。……頼むぜ爆豪……いまオレは隠れて接待中なんだ。

 

「彼も雄英の?」

「そうですよ。おまけに爆豪とデクは子どもの頃からの腐れ縁。仲悪いんですよ」

 

できるだけ気さくに言うと、彼女はクスクスと笑った。

その影で緑谷も障害物破壊競争に参加することになったが、その姿を見るメリッサさんの表情は真剣だ。個性の観察だろう……。身に覚えがある。

戻ってきた緑谷に爆豪が言い寄るが、どこから現れたのか、次の挑戦者として轟焦凍がスタンバイしていた。オレたちと同じように爆発音に釣られてきたのだろうが、こんな人気のないアトラクションにわざわざ来なくても……。そしてわざわざ一位取らなくても……。

十四秒間も氷を出し続け、寒そうに息を吐く轟に、なんとも言えない気持ちになる。負けず嫌いなのは知っているが。

 

一位をかっさらって行った轟に、爆豪が突っかかるように競技待機所に飛んでいく。言い争いをする二人に飯田が緑谷と切島を連れて止めに行ったが、ただうるさくしただけだった。

 

それらを見ても、メリッサさんは笑ってくれたが……。

オレは女性陣と一緒に顔を下げておくしかできなかった。

 

そこから切島、爆豪、轟とは別れ、もう一度パビリオンを見て歩くことなる。と言ってもあと二時間ほどでレセプション会場の準備を整えなければならない。とくに女性陣には貸衣装のところにヘア&メイクアップアーティストも用意してある。総合すれば一時間はかかるだろう。

そろそろ切り上げ時かな?

 

「策束くんはいいの?」

 

シナモンロールを齧るオレに、麗日の個性で空中散歩を楽しんでいたメリッサさんが声を掛けてきた。

オレは肩を竦めて、遠慮する理由を述べる。

 

「記憶にないんですけど、少し前ヴィランに襲われて死にそうになったんですよ」

「えぇ!? ご、ごめんなさい」

「いや、問題はそのあとでして、それ以来高いところダメなんですよ」

「……なんで?」

「さぁ」

 

オレが笑うと、彼女も笑顔を向けてくれた。惜しいな。オレが策束家でなければ、雄英生として友だちになれたかもしれないが……。

まあメリッサさんのお父さんともただのお友達で終わればその限りではない。そのときは大手を振るって、メリッサさんと友人関係を築いていこう。

 

日も傾いてきたので、オレはみんなとは別れてレセプション会場へと先んじる。挨拶回り最優先だ。みんなはメリッサさんが用意してくれたレセプションの招待状を峰田と上鳴に届けるという。

 

 

父親と合流し、レセプション会場に来ていたオールマイトと、デヴィット・シールドに挨拶だけはしておく。実物を見るのは初めてだが、好々爺ならぬ好々初老だな。《I・アイランド》でも一、二を争うマッドサイエンティストとは思えない。それにオールマイトとの友人関係はいまでも継続中らしい。娘はオールマイトを「マイトおじさま」呼びだからな。

 

それはともかく、パーティーが始まったのに、いまだ八百万たちの姿はない。

父に断りを入れて会場から退出すると、飯田は女性陣が遅いと文句を垂れていた。

まあ聞けば《I・エキスポ》のプレオープン終了ギリギリまで過ごしていたらしい。貸衣装とはいえ、女性のドレスアップが三十分程度で終わるわけがなかろうに……。

 

轟、飯田、遅れてやってきた緑谷のフォーマルウェアは良いとして、上鳴と峰田はバイトのウェイターの恰好のままだ。まあ突然の招待だったからな。

しかし、三人の礼装はセンスが良いな、自分で選んだのか? 悪目立ちしたくなくて、ただのフォーマルで来てしまったのが若干悔やまれる。値段だけは飛びぬけて高いんだけど。

 

と、三人の服装に関心したのも束の間、会場手前のセキュリティゲートから、麗日がフリフリのピンクのドレスを身にまとい登場した。プリンセスのミニドレスか、可愛いな。

その背後から八百万と、彼女を盾に姿を隠す耳郎の姿もある。

八百万は薄手のAラインドレス。耳郎は麗日同様のミニドレスだ。耳郎はジャケットと合わせて肌の露出を避けているな。

 

「プレタポルテの新作ですか、パリコレにも出ていましたよね。フレッシュグリーンもお似合いですよ百お嬢さん」

「ありがとうございます。ふふ、お上手ね業さん」

「贈り物でしょうか?」

「いいえ、一目見て気に入ってしまって購入させていただきましたの」

「百お嬢さんのために作られたと言われても、信じてしまいそうなほどです」

「ありがとうございます」

 

あはは、うふふと笑うオレたちを、クラスメイトが若干引いた目で見ている。

 

「耳郎はあれだな! 馬子にも衣装ってやつだな!」

「女の殺し屋みてぇ」

 

などとふざけた発言をした上鳴と峰田はイヤホンジャックの爆音を浴びてのたうちまわる。

 

「耳郎」

「なに!?」

「似合ってる」

 

イヤホンジャックを向けられて警戒されていたが、オレがそういうと途端に大人しくなり、両耳のイヤホンジャックを握りしめてしまう。

 

「ウチ、こういう恰好、その、なんというか」

「似合ってるし、可愛いよアババババ」

 

だから自信を持てって言葉は最後まで言わせてもらえず、オレにもなぜかイヤホンジャックを差して照れ隠しをする耳郎。褒められ慣れていないんだろうが、理不尽すぎる……。

 

「デクくんたちまだここにいたの? パーティー始まってるわよ」

 

そして最後のゲートのお客様──かどうかは知らないが、メリッサ・シールドが現れた。コルセットはしていないのに、上向きの胸にくびれたウエスト。髪も出会ったときとは別物で、サイドハーフアップにしている。ウェーブはいつ掛けたのかわからないが、眼鏡も外して、完全に別人のように見えるな。

カレッジに彼氏はいないと言っていたが、本当か? 研究職一本なのか? と問いかけたくなる美貌の持ち主だ。

峰田も上鳴も大興奮で、メリッサさんを真打呼ばわりして、どうにかなっちまいそうらしい。

 

「「どうにでもなれ」」

 

耳郎と見事に発言が被ってしまって、思わず二人で顔を見合わせて笑ってしまった。

切島と爆豪が来ていないと文句を言う飯田はさておいて、さすがに八百万と父親は合わせておかなければならないと、みんなを引き連れて会場に入り直そうとしたときだった。

 

『《I・アイランド》、管理システムよりお知らせします。警備システムより、《I・エキスポ》エリアに爆弾が仕掛けられているという情報を入手しました。《I・アイランド》は現時刻をもって厳重警戒モードに移行します』

 

鳴り響いた警報とアナウンスで、オレたちの間にも緊張が走る。アナウンスは続き、自宅に帰宅するか、最寄りの避難場所に移動するようにとの指示が出た。そして十分後にうろついているヤツは警告なしの拘束ときた。

 

繰り返しを聞くこともできず、レセプション会場のガラスがシャッターで覆われていく。

封鎖? このVIPしかいない会場を? 爆弾がよほど大きな物ってことか? 生憎《I・アイランド》の管理システムなんて一ミリも理解していない。

その証拠に、というわけじゃないが、轟が情報関係の遮断も確認してくれていた。

飯田や耳郎たちがエレベーターや会場の扉に触れても反応がないらしく、中と外で完全に遮断されたということだけはわかる。

 

だからこそおかしい。ガラスが降ってくる危険性があるので、周囲をシャッターが封じるのはわかるが、正面の扉まで締まるってのは、完全にシェルター化しているということだ。地下への避難ならまだしも、会場で? しかも、会場内の誰にも伝えることなく閉じ込めるなんてことありえるか? 答えはノーだ。

この中にいるのは《I・アイランド》の上層部ですら仲良くしたくなるVIPたちが集まっているのだ。なんだったら爆発物の情報を隠匿するか、島民や観光客の避難で混乱する前に、先に避難させたがるだろう。

 

「耳郎! イヤホンジャックで中の様子を!」

「えぇ!? こんなぶ厚そうなの!?」

 

耳郎は文句を言いながら渋々従ってくれたものの、峰田には服を引っ張られて怒られた。

 

「なに言ってんだよ策束! 爆発物だぜ!? 爆弾だぜ!? 逃げようよー!」

「なにかが変なんだよ」

「確かに、爆発物があるって情報だけで厳戒態勢になるなんて、おかしいわ」

 

耳郎が叫んだのは、メリッサさんからの同意を得られたときだった。

 

「銃声!! 嘘でしょ!?」

「マジかよぉ!?」

 

峰田が悲鳴を上げるが、オレだって叫びたい。なんだってそんなことになってるんだよ!?

 

「銃声ってマジか!」

「ぶ厚くて会話とか全然聞こえないけど! 発砲音聞こえた! 拳銃だと思う」

 

レセプション会場までの扉は二重構造で、通常であれば二枚開ければ中に入れる。しかしロックが掛かったせいでそれは不可能。耳郎の個性ですら会話が聞こえないってことは完全防音で、シャッターが閉まっていることもわかる。

 

「どけ」

 

轟が扉に左手を当てようとしたが、オレと緑谷がそれを取り押さえる。

 

「ダメだよ轟くん! 中にはオールマイトもいるんだ!」

 

それを聞いた峰田と上鳴、それに麗日も安心した表情を浮かべたが、もしオールマイトが問題ない状態だとすれば、そもそも発砲が行われず、この扉も開けられている頃合いだろう。それがないということは、オールマイトが中で身動きとれない状態にあるということだ。

 

「オールマイトが中で問題を解決していないってことはどういうことだと思う? 簡単に考えれば人質だ」

「ならどうすんだ!」

 

止められたことでイラついたのか、轟に睨まれるがオレだって考えている。少し待って欲しい。

 

「会場に行こう。メリッサさん、どうにか会場まで行けませんか?」

 

オレが思い至る前に緑谷が判断を下した。良いね、オレより冷静だ。

非常階段で会場を見下ろせる階まで来たオレたちは、下を見下ろしながら絶句することになる。

 

会場内には十名近い武装集団がいて、客たちを床に寝かせて動きを制限させている。オレの父親もそこに加わっている。

青いテープで巻かれたのはヒーローだろう。オールマイトが拘束を解けないとは思えないが、人質が多すぎる。

 

「どうする、緑谷くん」

 

飯田に聞かれ少しだけ考えた緑谷は、携帯端末のライトでオールマイトの気を引くことを提案。さきほどの会場入り口より遮蔽物が少ないので、耳郎のイヤホンジャックでも聞き取れるからできる作戦だ。

 

武装集団の一人に、デヴィット・シールドともう一人の男性が連れていかれたが、この作戦は成功した。

ただし、オールマイトからの連絡で、オレたちは途方に暮れることになる。

 

『ヴィランがタワーを占拠』『警備システムを掌握』『人質はこの島の人全員』『会場のヒーローは拘束されている』『すぐに避難を──』

 

会場の上に行かず、待機してもらっていた八百万たちにその中身を伝えると、彼女たちもあまりの事の大きさに頭を抱えることとなる。

 

「オールマイトのメッセージは受け取った。俺は雄英校教師であるオールマイトの言葉に従い、ここから脱出することを提案する」

「飯田さんの意見に賛同しますわ。私たちはまだ学生。ヒーロー免許もないのにヴィランと戦うわけには……」

「ハッ! なら脱出して外にいるヒーローに!」

「脱出は困難だと思う……。ここはヴィラン犯罪者を収容する《タルタロス》と同じレベルの防災設計で建てられているから……」

「じゃあ、助けが来るまで大人しく待つしか……」

 

うんうん、意見が出ていて非常に良い議論だな。あくびが出る。

ネガティブな思考になっている上鳴に、耳郎は反発した。

 

「上鳴、それでいいわけ?」

「どういう意味だよ」

「助けに行こうとか思わないの!?」

「オイオイ! オールマイトまで捕まってるんだぞ! オイラたちだけで助けに行くなんて無理すぎだっての!!」

 

峰田の口を塞いでいると、耳郎の決意に満ちた目元が見える。良いね、良い目だ。

その目を見たわけじゃあないだろうけど、轟は自分の【左手】を見つめながらつぶやいた。

 

「俺らは、ヒーローを目指している」

「ですから、私たちはまだヒーロー活動を──」

「だからって、なにもしないで良いのか……」

 

自分に聞くような轟の問いに、沈黙が下りる。

 

「助けたい……。助けに行きたい……!」

 

そしてここにも決意に満ちたヤツが一人。

 

「ヴィランと戦う気か!? USJで懲りてないのかよ緑谷! 今度こそ誰か死んじまうぞ!」

「音量下げろって。バレるだろうが」

「違うよ峰田くん。僕は考えているんだ。ヴィランと戦わずに、オールマイトを、みんなを助ける方法を!」

 

見渡せば、意見は完全に二分化しているな。

それに緑谷は冷静ではあるが、オールマイトが拘束されているということに焦っている。

 

「えー……発言いいかな?」

 

峰田の口から手を離し、挙手で視線を集めておく。

 

「まず百お嬢さんの心配はとくに問題はありません。個性を使った戦いで、私たちが罰せられることはあり得ません。百パーセント、と言ってもいい」

「それは、なぜですか?」

 

不安そうな八百万に「お前馬鹿じゃねーの!?」と言ってやりたいところだが、まあこんな状況だ、冷静じゃないのはわかっている。しかたない、一から説明してやろう。

 

「ここが《外国》で、我々は《この国》の法律で裁かれるからです。そしてこの状況で個性を室内で使ったからって、罰せられる法律はない。もう一つ言うと、内申には響きますね。外国で法律に収まる程度には個性を使用したって」

 

だいたい、さっきオレと緑谷が止めなければ轟は個性を使って扉を破ろうとしていたし、耳郎にはイヤホンジャックをじゃんじゃん使ってもらっているんだ。テロリスト相手に遠慮する必要は一切ない。

 

「次にヴィランと戦う戦わないって話だけど、戦闘回避は不可能だな。セキュリティを掌握されているなら、間違いなく戦闘は必須だ。警備ドローンもいる。どうにかして爆豪と切島に連絡を付けたいな。アイツらは会場入りしていなかった。まだ外にいるか、このタワー内のどこかにいるか……。それより問題は、テロリスト集団がメリッサさんの父親と助手を連れ出したことだ」

「人質がやつらの手の中ってことだろ?」

 

上鳴の的外れな意見を「違う」と否定する。

 

「警備システム、管理システムを掌握したテロリストが【要求】をせずに研究者を連れ出したんだぞ? この中央タワーの上層へ。それが【目的】だとは思わないのか? さてメリッサさん、このタワーの上には、なにがありましたかね?」

「研究……資料……」

 

とくに今回のエキスポの情報はあまりにも多いだろうな。最新のヒーローアイテムのデータだ、さぞや高く売れる。

 

「おそらく管理・警備システムでは解除できない、別枠のセキュリティで保護されているんだろう。問題はオレなら会場などに寄らず、研究者だけ連れて行くってことだ。わざわざ事をここまで大きくした理由はなんだ? まあそれはいまは良い。時間がないからな。そう、時間がないのはアイツらテロリストたちだ。【時間がくれば解放する用意もある】ってやつらは言ったんだよな?」

「うん」

「テロリストの狙いは十中八九ヒーローアイテムだ。人質から得られる身代金より、軽いし安全、十分な金にもなる」

 

話しながらオレも落ち着いてきた。ポケットからシナモンスティックが入った缶を取り出して匂いを楽しむ。ああ、喉を潤したいね。

 

「研究資料のセキュリティ解除のために、シールド博士とその助手を連れて行った。なるほど。で、やつらはどう逃げる? 空か海か。顔を隠しているから市民に紛れる可能性はあるな、それを止められるか? オレたちには無理だよ。なあ、みんな」

 

耳郎たちからは非難の視線が。

峰田たちからは安堵の視線が。

 

それらをすべて笑ってやろう。

 

「オレたちに無理なら簡単だ。管理システムを奪還。警備システムを正常に戻すか、無力化。その後は管理システムを使って全域放送なんてのはどうだ? ヒーローたちの助力を得る。さ、他に意見は?」

「……《I・アイランド》の警備システムはこのタワーの最上階にあるわ」

 

メリッサさんから意見が飛び出した。

 

「ヴィランたちが警備システムを掌握しているなら、認証プロテクトやパスワードは解除されているはず。私たちにも、システムの再変更ができる! ヴィランの監視を逃れ、最上階まで行くことができれば──みんなを、助けれるかもしれない!」

 

この言葉で、オレたちの意見は決まった。

メリッサさんの予想はいささかすぎるほどに不安定な情報が多いが、一縷の望みというほどに危険な賭けではない。

できることならオレの専用インカムを使って、会場の様子を耳郎が見て遠方のオレたちに伝えるって状態を作りたかったが、ない袖は振れぬよな。

八百万の《創造》も選択肢にはあるが、一つ問題がある。

 

「でも最上階にはヴィランが待ち構えていますわ」

「しかも相手は銃を持っていますからね。百お嬢さん、全員分の防弾チョッキをお願いできますか?」

 

言うと、彼女は少し眉をひそめた。ああわかった、すまなかった、オレが悪かった。ドレスをこれから着ようって女性が、そんな糖質を摂取してきているわけがないんだよ。

おかげで作戦の制限が多い。

 

「いえ、戦闘が膠着したら突撃要員である緑谷の分をお願いいたします」

 

少しほっとした表情を見せる八百万を尻目に、緑谷はメリッサさんが無個性であることを理由にここで待機するように指示を出したが、彼女はそれを拒否。オレもやんわりと否定した。

セキュリティの設定変更などオレたちには出来ないだろう。かといって彼女にできるのか。出来なかったとしても、上には父親もいるはずだ。意思疎通がしやすい可能性はある。

防弾チョッキの代わりに、八百万にはメリッサさんの靴と上着を《創造》してもらう。慣れない靴で昇ることになるが、裸足よりマシだ。

 

「無個性ってのが理由になるなら、オレも残りたいなぁ」

「アンタは大丈夫! ウチが守る!」

 

耳郎に背中を叩かれつつ、全員で階段を上り始めた。

みんな駆け足で登っていくが、最上階は二百階。このペースで進むのは不可能だな。しかし、わかったこともある。

作戦を決めるにあたって、メリッサさんはヴィランが警備システムを使いこなせていないという発言をしていたのだが、まさにそうなのだろう。非常階段にはカメラこそないが、各種センサーは設置してあった。通知が行っていないわけがない。つまりヴィランたちは、アナログな監視カメラ程度しか使いこなせていない、ということだろう。

 

それが良い点だが、悪い点もあり、五十階を越える頃には峰田を背負うはめになった。飯田と交代制にしてほしい。

 

「振動が、うっぷ、辛い」

「オレもだよ!」

 

気合だけで八十階までたどり着き、非常階段の警備が緩い理由を知る。

上に続く階段はシャッターで完全に閉められており、あとはフロアに続く扉しかない。

 

「どうする、壊すか」

「そんなことをしたら、警備システムが反応してヴィランに気づかれる!」

 

肩で息をするみんなに休憩を提案する。とてもじゃないが、階段で峰田を抱えて走り続けるのは辛すぎる。

 

「まず、もう一度下るって選択肢はない。体力もそうだが、時間がないからな。八十階は植物プラントエリア。ここからフロア入口に入って轟の個性を使えば、四階分はショートカットできる」

 

問題はそこからの登り方だ。エレベーターは使えない。天井ぶち破って二百階まで行く? さすがに個性が空っぽになるだろう。このままのほうがよほど安全ではある。どのみち反対側の非常階段から登り出すしかない。

 

「ここを破っても、扉を使ってフロアに出ても、おそらく警備システムが反応する。上から銃で撃たれる可能性を考えると非常階段は使いたくない。だけど、空中庭園に出た場合は登り方が問題になる。いっそエレベーター乗っ取るか?」

 

逆上したテロリストたちが会場内で銃乱射なんて可能性もある。……いや、そうなればオールマイトは拘束を破ってでもテロリストを止めるだろう。逆に会場は安全な場所になる。これは良し悪しだな。

残り百二十階、高さにして四百メートルオーバー。エレベーターの縦穴をそのまま乗っ取るにしても、それだけの高さは轟の氷でも出せない。気合でどうにかではなく、氷の自重で崩れてしまうだろう。

 

「間違いなく包囲されるが、オレは非常階段を使って上を目指すほうがいいと思う」

「上で……何人が待ち構えているかな?」

 

飯田に聞かれ、十人と答えておく。

これはあくまで推測だ。ヒーローがいるレセプション会場に十人程度。管理システムのフロアに、その倍いるとは考えにくい。十、十で分け、合計二十人ほどのグループだと当たりをつけただけだ。逃走経路に何人か残しているとしても、このタワーにはそのくらいの人数だろうと話すと、みんな納得はしてくれた。過小評価ではないと良いが。

問題は、十人からアサルトライフルのフルオートを撃たれれば、一秒後にはオレたちそろって肉塊だってことか。防弾チョッキなどなんの効果も発揮しないだろう。

 

「エレベーターが使えない以上、フロアに抜けても意味はない。……破るぞ!」

 

轟が氷で非常階段の隔壁を覆い、その氷に左手を当てて熱伝導で急激に温め始めた。熱変形で膨張した隔壁からミシミシと音が聞こえてくる。

 

「飯田! 緑谷!」

「「わかった!!」」

 

二人がそれぞれ拳と脚を使って扉を攻撃すると、隔壁が大きく変形して分解するように崩壊する。

良いね最小限だ。無論ヴィランたちにはバレただろうけど、もともと引けない勝負なのだ。人質はオールマイトに任せ、進むしかない。

 

「人質が撃たれませんように!」

 

階段を登り続け、百階、百二十階と何事もなく通り過ぎる。問題はここからだろう。

百三十階。

なぜか百三十階のフロア入口隔壁が解放されていて、非常階段の隔壁の向こう側からは、話し声がする。

 

「フロアのほうは罠だよなぁ」

 

いやいや峰田くん、非常階段も罠ですよ。

とはいえ、非常階段を使わなければ百三十階フロアで足止めされることは目に見えている。

 

「さっきと同じやり方で扉を開けるぞ。隙間から氷をぶち当ててやる」

「間違いなく発砲されるから、メリッサさんは下がってください」

 

轟と緑谷が最終確認を行う。

そして先ほどと同じように扉を破りながら、轟は階段上層に向けて氷を放った。冷気が一瞬でオレたちの体温まで奪って、息が白くなる。

 

「ガキどもが!! やってくれたな!!」

 

氷がひび割れる音とともに、男の声が響いてくる。そいつは、言い切る前に氷を砕いて現れた。紫色の肌、オールマイトをも越す巨体、そして化け物のような牙を笑うように見せつけながら。まるでファンタジーのオーガのような見た目だ。

 

「峰田!!」

「ち、チキショー!!」

 

《もぎもぎ》をヴィランに投げつける最中、視界がぶれて《もぎもぎ》が吹き飛ばされることだけ目視する。

巨躯のヴィランの背後に、いまだ足を氷で取られた細身の男性がいた。B組拳藤の大きな手に水搔きでも付けたような腕を振り回すだけで、男の周囲の氷が砕けて消えていく。

 

とりあえず確認できるのは二人のヴィランだけだ。数で押し切れるか?

オーガのほうは、狭い非常階段で腕を振るうだけで、氷や階段、壁を壊すパワーがあり、オレたちは後退せざるを得ない。峰田の個性ならオーガは止められるだろうが、問題は河童のほうだな。念力とか、腕力使って風起こしてるとか? なんにせよ時間が足りない。このまま押し込まれるとまずいな。

 

「デクくん!!」

 

緑谷がオーガに押されて百三十階のフロアに転がり込んでしまう。それをオーガは追撃。分断されたな。

 

「峰田! 麗日! 緑谷の援護!! 飯田と上鳴と轟、河童を頼む!!」

「河童!? 河童だと小僧!!」

「カルマ!! 避けて!!」

 

腕をオレに向かって振るう河童を見ながら、地雷を踏んだと確信する。っていうか自覚あるんじゃん河童っぽいって。日本人か?

死ぬ、と思った。せめて頭部だけはガードしようと身構えたが、ヴィランの個性は予想以上に予想外だった。

 

オレは──全裸になった。

 

「なんでええええええ!!!?」

 

正確に言うと、靴と靴下、それに膝から下くらいのズボンの生地だけは残っている。それに右手側の壁にも丸みのある傷がついていた。

壁の傷の形状、それに服が無くなっている状態から察するに、人体に影響を与えられない、対物個性。それも球体状に抉り取ると予想がついた。

 

明らかに破壊掘削工作要員じゃねーか!! 子どもが相手だからってそんな個性の持ち主こっちに寄越すなよ!! 

 

「行け!! 上鳴!! 十万ボルトだ!!」

 

むしゃくしゃしてほぼ全裸のままヴィランに向かって指を差し、上鳴に指示を出した。轟と上鳴は冷静なことに背後でやられたかもしれないオレを見ることはなかったが、女性陣にはしっかりと見られている。というかすぐ下にいる。階段で隠れてもらっていたからな。ははっ、ふざけやがって。

 

河童の腕を搔い潜り、接近した上鳴がヴィランを電撃で麻痺。ヴィランの腕を掴んだままの上鳴がオレの姿を見て驚愕している。

 

「なにがあったんだよ!?」

「このクソヴィランのクソ個性だ! クソぶっ殺してやる!!」

「爆豪くんの真似はやめたまえ!」

 

完全に集中力が途切れたが、まだ終わっていない。

轟と飯田には緑谷たちの援護に向かってもらう。

ヴィランをひん剥いてオレと同じように全裸にしてから、八百万が拘束具を《創造》して捕縛。個性の性能がわからないので指を全部折ってから行きたいが、まあいいだろう。

 

ヴィランから奪った衣服に着替えつつ階段で待機していると、オーガを討伐したハンターたちが戻ってきた。オレの服装に関して突っ込まれたものの、顔を真っ赤にした八百万、耳郎、メリッサさん、オレの表情で察してほしい。

無理か。

 





河童とオーガ(名称不明でAB表記)。
テロリスト集団の幹部。
オーガの方は、丸を擬人化したような見た目からは想像もつかない変身個性の持ち主。ヒロアカでもトップクラスの膂力を誇る。耐久は低い。

河童の方は、見た目は水鳥のような半異形個性。拳藤のような巨大な手には水かきがついていて、振るう事に生き物以外を球体状にむしり取る個性でもある。最後は爆豪の服と、服に着いたニトロむしり取って、轟が引火させた。対人にも拘束にも向かない個性なので、オーガさんの相棒であること自体謎な存在。耐久は低い。
この二次創作では立派な薄い本の人。
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