原作の神野区は22:30程度で廃倉庫に到着ですが、今作は15:30くらいを目安に作っております。
かくて一行は新幹線へと乗り込んだ。
平日の日中ということもあり空席が目立つ。グリーン車じゃなくても問題はなかったかな。
反省点を活かし、全員にマスクか帽子を装着してもらっている。緑谷は包帯まみれなので目立つなぁ。
いや、まあグリーン車で席を向かい合わせにして占領している子どもたちってだけで相当目立つんだけどね……。本当人が少なくて助かった。
「新幹線での移動で一時間。そこからさらに移動して三十分から四十分というところでしょうか。発信源への到着は昼の二時頃の予定です」
八百万が割り出した時間を聞いて、腕時計を確認する。まあそんなところだろう。
緑谷は、この救出(あるいは観光)計画がクラスメイトの周知の事実かと気にしていたが、そんなことはない。勘付いているやつもいるかもしれないが、やり取りの流れは、緑谷の病室でオレの用意した退学届を八百万が破いたところでお終いだ。
「麗日には帰りのバスでキツイこと言われたけどな……。爆豪は俺たちに助けられるの屈辱なんじゃねーかってさ」
切島の言葉に緑谷が俯いた。思うところはあるだろう。
オレと爆豪が似ているなんて言ったが、そんなことないな。オレだったら助けにきてくれたら涙を流して喜ぶだろう。
「一応、俺からも聞いておく。俺たちのやろうとしていることは、誰からも認められねぇエゴってヤツだ。引き返すならまだ間に合うぞ」
轟がそう言った。なんか意外だったな。オレや八百万のことを金魚のフン程度の認識だと思っていた。あるいは財布とか送迎係とか?
「迷うくらいならそもそも言わねぇ。アイツはヴィランの良いようにされていいタマじゃねぇんだ」
切島の答えを聞いて、轟が緑谷に話を振った。
「僕は──オールマイトに全部もらった。そのオールマイトが見初めてくれた以上、後戻りなんてできない」
「そうか、わかった。飯田は?」
「納得なんてしていない。ただの監視のため。それだけだ」
「八百万は?」
「私は、そうですね、戦闘を避けることを前提に協力はしておりますが、もしそうなった場合でも矢面に立ちますわ。覚悟はしております」
笑顔の八百万が、離れた席のオレを見る。
「あとは、久しぶりに幼馴染に会えましたから──」
知らん、見るな。ほかのメンバーの視線にも文句を態度で表して誤魔化すことにした。
こっちはボールペンと携帯端末の同期に忙しいんだ。
◇ ◇ ◇ ◇
新幹線から降りると、雇ったヒーローから通話が掛かってきた。その音声にしたがって車まで誘導される。コスチュームでもなんでもない、私服の男性がハイエースの前に立っていた。
急遽レンタカーを借りてもらったらしく、改めてお礼を言う。
金だけの関係だがな、礼儀だ、礼儀。
このヒーローのことは緑谷も知らないらしく、そのことを伝えると、彼は恥ずかしそうに、五年前にはすでにヒーロー活動を止めたと言う。
『プロヒーロー飽和社会』などと言われているが、まさにその通りなのだろう。この社会は、ヒーローは歪だ。成り立ちも、有り方も、歪のまま完成してしまった。
──たとえばヴィランを確保することで、十万円もらえるものとする。
多くのヴィランは、個性を使いこなせずに、それを人数でカバーする集団であることが多い。三人掴まえて三十万円。事務所の維持費で吹き飛ぶ程度の金額だ。
無論、ヴィランが出ない月日だって当たり前のようにある。日本はヴィランの逮捕が見世物になる程度には平和な国なのだ。
じゃあ災害救助? いくら日本が地震大国だからといって、建物の崩れるような被害は少ない。高速道路などの交通事故も目の前で起こるわけじゃあない。
ヒーローに成って、夢を叶えても、ヒーローとして食べていくにはよほどの運が必要になる。しかもその運は「目の前を走行する車が事故をすれば──」というマイナス方面のもの。
最低賃金は出るものの、それで事務所が経営できるか、経営できたとしてどのように拡張できるのか、という問題が出てくる。
解決方法はただ一つ。金だ。
策束家が研究者に【そう】であるように、ヒーローのパトロンを務める組織が必要になる。
オールマイトやエンデヴァーレベルと言わずとも、ビルボードチャートの上位百位に入っていれば十分にスポンサーは付く。代わりに企業のロゴや商品のヒーローアイテムを使うことになるだろう。
もちろん策束家でも八百万も広告塔としてヒーローを利用している。上場企業の多くはそうだろう。それでも、拾われきれないヒーローはいる。
そういった連中がどうなるか──授業でも触れたことのある内容になるが、警戒の意味でもある『ヴィジランテ』という呼び名で呼ばれることが多い。どこにも所属せず、やりたいように個性を使う連中のことだ。
そういうとあまり聞こえは良くないが、実際に素行も良くはない。まず無免許で個性を使うこと自体が罪に問われる場合もあるし、個性を人に向ければヴィランと呼ばれてしまう。
ただ、治安が悪いときは警察よりもヤクザが頼りになる場合もあるように、無法者であろうとも、自身に寄り添ってくれる存在を信頼してしまう。
実際、若者たちの間ではヴィジランテは受け入れられている。
今回雇った運転手がそうであるように、免許を持ったヒーローが既存の組織と相反している場合もあり、純粋に、人助けをすることに免許が必要なのかという社会に対する疑問点も浮き彫りになっている。
最近では求心党という政党がヒーロー免許に関して荒々しい抗議活動をしていると聞く。
ヒーロー飽和社会とは、血液という金が循環せずに、四肢が腐り落ちる醜い病気なのだ。
やり切れない話だな。
彼も好き好んで今の仕事をしているわけではないだろう、運転中、先輩風吹かせながら経験談を語る。こんなときだが、みんな聞き入っていた。成功談も夢見る子どもたちには必要だが、失敗談も聞いていてためになる。
発信源の近くに停車する。意外と人通りの多い裏路地だ。
住宅地とも工業地とも言い切れない場所に、その倉庫はあった。
「ここまで近づいてもなんの反応もありませんわね」
「中に人がいる感じはねぇな」
「木を隠すなら森の中。廃倉庫を装ってるわけか」
徐行しながら通り過ぎつつ、スモークガラスにみんなが張り付いて様子を伺っている。
「どうだった、緑谷?」
「正面のドア、下に雑草が茂っている。ほかに出入り口があるのかも。個性でカモフラージュしてるとか……迂闊に中に入るなんて無謀なことはできない……どうにか中の様子を確認しないと」
オレの質問に、緑谷はぶつぶつと独り言のように言葉を返してきた。
元ヒーローにも話を聞いたが、いまのままじゃ目立って、折り返すことはできないと返された。昼休みを過ぎた時間なので人通りは多くない、たしかにいまのまま目の前に停車すれば目立つだろう。車で通ったのは失敗だったかな。まあ、場所はわかった。
駅からでも徒歩で二十分ほど。駅裏に当たるので特別に目立つ建物があるわけではない。再開発から取り残された、すこし寂れた土地といえるだろうか。
しかし、住宅地もほど近い。こんなところがヴィランのアジト?
素直に罠だと思うべきだ。
一度大通りに出て作戦会議だ。
携帯端末を見ながら、さきほどの廃倉庫について質問を投げかけた。
「あそこに、爆豪がいると思うか?」
反応は悪い。まあ当然ながら確証は持てないよな。
なによりも、発信機に気づいたヴィランたちがそれをあの倉庫に放り投げた、という可能性が大きすぎる。
「中が見てぇ」
轟はそれでも縋るか。本当に珍しいな、轟のこんな姿は。それだけ彼も爆豪を認めているということか、それとも目の前で連れ去られたことが悔しかったか。
ドローンによる空撮と、接近して窓などから中を覗くことのどちらが良いかと質問すると、多数決で目視での確認となった。反対は八百万と飯田。民主主義で行こう。
「ところで、それ、なに見てんだ?」
切島め、ようやく気付いたか。
携帯端末にはインターネットテレビのライブカメラ映像。もうそろそろ三時だ、始まるだろう。
みんなにも携帯端末を見るように指示を出す。指定したライブテレビを開いた何人かがうめいた。運転手、あんたは見なくていい。
番組のテロップには『雄英高校緊急記者会見』という文字が並び、校長、イレイザーヘッド、ブラドキング三名の三角席札がつけられた長テーブルが映し出されていた。十五時から特別報道で記者会見枠が作られていたが、みんな新聞くらい読もうぜ。
生徒が固唾を飲んで画面を見守る。ニュースキャスターは一度か二度、そろそろであると視聴者に伝えてしばらく、画面の多くがフラッシュに巻かれた。
画面越しですら目を瞑りたくなる光を浴びて、雄英教師陣が入室し、テーブルの後ろへと立った。一度大きく頭を下げると、またもフラッシュが焚かれる。カメラ音が消えたタイミングで三人は頭を上げ、謝罪と被害状況、襲撃の経緯の説明を始めた。
それが終わると、すぐさま記者団の質疑応答となる。公開処刑と言い換えてもいいだろう。
質問の内容は、攻撃的だ。【イレイザーヘッドが下した交戦許可の意図】を始め、【爆豪の態度から考えられる精神面の不安定さ】、【ヴィランの誘拐の理由】の質問。
それに対して、相澤先生の返答は終始、頭が下げられた状態で答えられた。
「爆豪勝己の粗暴な行動については、教育者である私の不徳の致すところです。ただ体育祭での一連の行動は、彼の理想の強さに起因しています。誰よりもトップヒーローを追い求め、もがいている。あれを見て隙と捉えたのなら──ヴィランは浅はかであると私は考えております」
こわっ、最後目だけで記者を睨みつけたな。一歩も引かない記者は立派だが、殺意が駄々洩れである。
この記者への質問には根津校長が「我が校の生徒は必ず取り戻します」と締めくくり、次の記者への質問となった。
「警察と協力して救出って言ってもなぁ」
切島はさきほどの廃倉庫の方角に目を向けた。たしかに、周囲を警察が包囲していたという印象はない。──ありえるのか?
八百万が発信機の受信デバイスを警察に渡したのが昨日だ。突入タイミングはわからないが、すでに突入後である可能性もある。
例えば、昨日の深夜、数人のプロヒーローで中を確認。ここではないと当たりを付けた、なんて、よくありそうな話じゃあないか。
外したのかもな。
「爆豪、いねぇのか」
轟からの質問に、オレは答えることができなかった。
わからないから、ではない。おそらくいないから、だ。
表情に出てしまったのだろう、切島、八百万も辛そうに目を伏せる。
「……行こう」
「飯田くん?」
車のドアを開けて、飯田は外に出た。緑谷も釣られるように一緒に出て行ってしまう。作戦の立案者である切島も表情を切り替えて、決意を新たにしたようだ。
そうだよな。飯田だって、ヒーロー志望だ。
運転手にはすこし離れた場所で待機してもらう。できるなら道路の直線上がいいと告げると、明らかに嫌そうな顔をした。乗客が増えるかもしれないと告げるともっと嫌そうな顔をするので、増えた場合は料金を倍にするというと、不服な表情ながらうなずいた。
こりゃあこれ以上厄介事持ち込むと嫌われてしまうだろうな。
荷物の整理をしてから、みんなに一歩遅れる形で追いついた。
「んで、どうする?」
先頭を歩く飯田に声をかけるが、率先して救出に手を貸してしまったことへの後悔で、それどころではないのだろう。無視されてしまった。
代わりに緑谷が飯田の手を引いて発言する。
「僕に考えがあるんだ」
そう言いながら、緑谷は裏路地へと入っていく。まだ陽も高いし、日陰にいても湿度の高さから熱中症になりそうだ。あとで轟に氷を出してもらおう。
どうやら隠密行動になりそうなので、全員の携帯端末の音源は切っておく。しまった、相澤先生に連絡とってなかったな。折り返しがなかったってことは、記者会見の準備と後始末に追われているということか。
しかたない、いまのうちに文面で送っていくか? いや、書類とデータを見れば多分【察して】もらえる。激怒することは間違いないが。
「さっき正面から見たとき、ドアの下に雑草が生えていたんだ。たぶん入口は別にあるか、個性でのカモフラージュ、黒霧のワープが考えられる」
なるほど、いい着眼点だ。やはり緑谷は個性も合わせると、クラスでも一番になれる優秀な人材だな。骨折しなければなお良し。
緑谷の提案は、周囲にどこか別の出入り口があるのではないか、ということだ。そこを見張るという。しかし、地下で近隣と繋がっている、とかだったら手出しできないどころか、オレたちが監視されかねないぞ。
とりあえず、さきほど見た廃倉庫の裏手の建物に回ったが、そこもどうやら空き物件のようだ。
たむろしていると目立つな。いっそこの建物の方へ不法侵入するか? いや、犯罪はいかん、本当に彼らを退学させるはめになる。
などと思っていたら、緑谷が建物と建物の隙間を確認し始めた。そして廃倉庫側を覗き込み「窓がある」と言い放つ。
建造物侵入罪に覗きだ。警察がオレたちの言い分を聞いてくれるとありがたいが、そもそも警察のお世話になったら退学だよな……。
車までは走って三分。まあまあかかる。鍛えているとはいえ、警察が張り込みしていた場合逃げ切れるものなのか。
緑谷が先陣切って罪を犯す前に、声だけかけておく。
「いいね。【そこから入って、中を覗こう】」
もう一度、胸ポケットに触れる。
ボールペンがきらりと光を反射した。
男たちで隙間に入っていく。安全のためにフルフェイスゴーグルを八百万に渡して監視でもしてもらおうかと思ったが、なぜか彼女もついてきた。警察が注意しにきたら一発でアウトだな。
左右の壁に服がこすれて、すぐに汚れていく。
「狭いですわ、つっかえそう」
「安全を確信できない限り動けない。ここならひと目はないし──あの高さなら、中の様子が見れそうだよ」
「この暗さで見られるか」
轟の疑問はもっともだ。夕方前だが日は結構傾いてしまっているし、左右の建物で太陽光は遮られている。中の様子を隅々まで、とはいかないだろう。
廃倉庫の窓は塀からすぐそばだが、塀が長身の飯田の身長とほぼ同じ。背伸びをした程度ではちゃんと覗くことは叶わない。
六人いるため、緑谷を轟が、切島を飯田が、八百万をオレが肩に乗せて立ち上がることになった。こんな狭いところで曲芸をやらせやがって。脚立でも《創造》させてしまいたい。
切島は自前の暗視スコープを使って中を覗いているが、やはり最初に中の様子に異変を感じたのは八百万だった。
彼女が見た物がなんなのかわからないが、驚きのあまりオレの上でバランスを崩して震えている。
小さな会話のため下にまでは声が届かなかったが、どうやらゴーグルを貸し借りしているらしく、上の三人は情報共有できたらしい。
もうそろそろ降りてくる、そんな空気が上から伝わったときだった。
「おいっ」
音量を隠さぬ切島の声。
彼が見た方向へ下の三人も顔を向け──建物と建物の間から、軽トラが宙に浮かんでいく光景を目撃する。
八百万の重さなど忘れて、軽トラの行方を目で追った。オレの角度からは良く見えないが、誰かが「マウントレディ」と呟いたのは聞こえてきた。
遥か頭上に見える壁は、なるほど、【彼女】か。
【軽トラを履いた】マウントレディは、模範的な角度のかかと落としを廃倉庫へ繰り出した。
次の瞬間には、建物の崩れる音とついでに八百万が降ってきた。受け止めた反動での頭突きを受け、鼻の感覚が無くなる。爆音で耳も痛い。舞い散る埃で目も痛くなった。
オレと八百万がもたついていた間に、バランスを崩していた緑谷と切島はすでに室内の確認を済ませていた。良いね、有能だ。次いで八百万を押し上げる。
「ギャングオルカ!?」
ゴーグルをつけた切島はよく見えているのだろう、その場にいる目視しにくい人数やヒーロー名を挙げていく。
その中で一番メジャーの名前がベストジーニスト。プッシーキャッツの一人、虎もいるらしい。
集音センサーも搭載しているので、聞こえは良いのだろう、ヒーローの会話も教えてくれている切島だが、そろそろこの場は離れたほうがいいだろう。
しかしマウントレディ、脳無三体を素手で捕獲して「簡単な仕事」か……。彼女がナンバーワンヒーローに成る日も、そんなに遠くないかもな。
「オールマイトの方ってことは、かっちゃんはそっちにいるのか」
「ラグドールもいる! いま虎が抱えてる! 良かった! でも、なんか様子が、まて、誰か、もう一人──ヴィランだ!」
飯田が慌てた様子で切島を無理やり降ろす。オレの代わりに撤退の指示を出した。すまん飯田、オレも興奮していたようだ。そうだ、爆豪がいないのならここに用はない。早いところ移動して──
◇ ◇ ◇ ◇
立ったまま気絶でもしていたのだろうか。
さきほどのマウントレディの破壊活動が小さく感じるような、音。
目の前でガソリン満タンにしたトラックが爆発しましたって言われたほうが、まだ現実感がある。
耳鳴りが止む頃には、オレたちの命が風前の灯であることに気が付いた。
ゆっくりと、拍手が聞こえてきた。
「さすがナンバーフォー、ベストジーニスト。【僕は全員消し飛ばしたつもりだったんだ】。みなの衣服を操りすぐさま端へ寄せた。判断力、技術……。並みの神経じゃない」
さきほどの拍手は賞賛なのだろうか。
壁一枚隔てた先に、【この惨状】を作り上げたヴィランがいる。
いくつもの道を挟んで、百メートルほどのクレーターを作り上げたヴィランだ。
クレーターと呼ぶには語弊がある。
話す声が聞こえる地点から扇状に百メートル近くが削り取られているような地形へ変化していた。さきほどまでそこにあったビル街が無くなって、コンクリートはむき出しに、空は砂塵で覆われ、地下に埋まったポンプからガスや水が噴き出している。
ここは住宅地ではない。しかし職場兼自宅なんてざらにあるし、なによりも職場なら、いまだ仕事中だった人がいるはずだ。人通りはどうだった、なぜこんなことができる、警察は避難させていたのか。
なぜヒーローたちは声を張り上げない。
警察は、どうした。
「話が違う──」
弱々しい声。衝撃でめくれ上がった大地の真ん中に倒れているベストジーニストだろう。いま、彼しか、動けないのか? 周囲に警官やヒーローが配置されていたとして、この破壊範囲だ。もし、巻き込まれていれば、オレたちじゃあ圧し潰されていたとしてもおかしくない。
「──だからなんだ」
はっとして顔を上げる。そうだ、だからなんだ。
オレたちがここにいるのはなんのためだ。爆豪のため、延いては、我を通すためだ。ヒーローに成りたいからここにいる。
ヴィランの足止めはプロにまかせて、オレたちは人命救助をするべきだ。ガスに引火すれば大変な事態になるし、衝撃で気絶している人の命も危ぶまれる。
ベストジーニストが個性を器用に使って上体を起こす。
大丈夫、彼はナンバーフォー。
条件さえ整えばオールマイトすら拘束できる個性と評判のヒーローだ。
「一流は! そんなものを失敗の理由に──」
ベストジーニストからは目にも映らぬような極細の服の繊維が放たれる。オレの目に映るのは精々数本だが、インタビューによれば数千もの繊維を放出し、どれか一つでも操る対象に着けば十全に支配することができるらしい。
ヴィランの右腕からは風を切るような衝撃破が噴射される。さすがにこの平地を作った威力は連発できないのか、範囲は極小規模のものだった。
それでもなお、ベストジーニストの腹部から大量の出血を伴う傷を負わせるには十分の威力であるらしい。
ああ──どうか、この馬鹿野郎を。
「なるほど、相当な練習量と実務経験ゆえの強さだ」
なにしてんだ。なんで出た。
「キミのはいらないなぁ」
なんで──
「弔とは性に合わない個性だ。それで──【キミは?】」
「はじめまして、爆豪勝己を取り返しにきた馬鹿野郎です」
なんで、飛び出したのだろう。
宙に浮かぶヴィランと対面する。
吊り上がっていく口角は、見栄か、笑って誤魔化してお目こぼしでも狙っているのか?
『絶対戦う。一番冷静なのに、心で動くから』
ああ耳郎、いますぐキミに会いたいな。