『我々はキミをヒーロー足りえると信じている。キミは、キミを信じられるかな? 来なよ策束くん。ここが、キミのヒーローアカデミアさ』
映像ディスクから雄英高校校長を名乗ったネズミにそう聞かれた。
試験の結果は、合格だったのだ。
自室でただただ困惑してしまう。
だって、そんなの、困るだろ。
諦めたのに、手放したのに、背を向けたのに。
なにも、できなかったのに。
オレがヒーロー足りえる? 冗談じゃない。悪い夢だ。
オレが誰を救えるんだ? ヴィランを目の前に市民のために戦えと?
できるわけがない。
できるわけがないのに、なんで、こんなに涙が溢れるんだ。
『策束業くん、キミは特殊だ。無個性で、しかしその機転は我々も目を見張るものがあった。時間制限を越えてもヒーローであろうとするキミたちの行動も、模範的であったと評価している。あとはキミたちの心次第だよ』
キミたち……。その言葉を聞いて思い出す。耳郎は。
「耳郎、響香は! どう、なり……」
『それとヒーローコスチュームの発注とかあるから別途資料には目を通しておいてネ!』
これ映像ディスクだったよな……。
テレビに向かって話しかけるような気まずさを感じつつ、資料を眺める。
どうする? どうすればいい?
雄英高校のヒーロー科でなにをすればいい? 将来はヒーロー? 無個性のヒーローになにができるんだ?
それから二か月後。
オレはもう一度、雄英高校の正門へ立つことになる。
◇ ◇ ◇ ◇
送迎車から降り正門を見上げる。正直に言えば行きたくない。不安しかないし、後ろめたさが物凄い。こんな気分になるのなら普通科へ進学すればよかっただろうか。
クラスメイトにも、それどころか中学校中から注目を集めたな。そりゃそうだ、雄英高校に入れることすら名誉であるのに、入ったのは無個性のオレだ。同じく雄英高校を受験した学友たちからは、殺されそうなほど睨まれて卒業まで過ごすことになった。おまけに裏入門だのコネだのカネだの、言われようには辟易したが、先生方にもそれとなく聞いてくる連中がいたくらいだ。
気持ちはわかる。だって、オレがヒーロー? なんの冗談なんだそりゃあ。
クラスの扉を開けて教師陣がオレを指差して、「こいつ無個性なのに本当に来ちゃったよー!」とか言い出しても怒れない気がする。
だって、ここってそういう入口だろ。
あと一歩踏み出せば校内なのに、その一歩があまりにも怖い。
一分と止まっていたわけもないのに、その日の時間制限を告げるブザー音は、ひどく気分を悪くさせた。
「業さん? 策束業さんではありませんか?」
つい一分前までの、いや合格判定を受けたときからのオレは、本当にらしくなかったな。
コイツの声を聴くだけで、自分がどれほど矮小で愚かで弱々しい存在なのかを思い出すよ。
「お久しぶりですね百お嬢さん」
八百万百。
八百万グループの一人娘。わかりやすく言うのならば、オレの父親の取引先。もっと言えば、彼女の実家がコケただけで何人もの証券マンが電車へダイブするレベルの超大手グループ代表の、次期候補者。
雄英のヒーロー科はA組とB組とでそれぞれ二十人ずつの二クラスに分かれているが、彼女と一緒にだけはなりたくない。
「ええ、お久しぶりですわ。私のお誕生日会以来ですわね」
楽しそうに笑う彼女に、後ろめたいところは一切ない。そりゃそうだ、これは昔馴染みとの思い出話。こんなことでいちいち引っかかるオレのほうがどうかしている。はは、いいぞ、オレらしくなってきた。
「ヒーロー科合格おめでとうございます。と、これは前にもメールを入れましたよね」
「ええ、ありがとうございます。推薦ですけれど」
そう言って、彼女はオレの制服に気づいたようだ。
「業さんも雄英でしたの? 結局教えてくださらなかったから……あ! サプライズですわね! おめでとうございます!」
「ありがとうございます。本当はもう少し秘密にしておきたかったのですが、ままならないものですね」
「いえ、驚かされてしまいましたわ」
彼女はフフッと笑い歩き出す。距離が離れすぎると失礼に当たるので、渋々後ろを追従する。しばらく歩くと彼女はオレを振り返った。
「変わりませんわね」
「はぁ?」
そりゃこの歳で個性に目覚めたりはしませんが?
なに? 喧嘩? 買わないけど? 乳捥ぎるぞ?
「……いえ」
なんだよ、いったい。
下駄箱で上履きへと履き替え、地図を確認する彼女に指摘する。
「こちらですよ」
「えっと、私は、ヒーロー科ですが」
「存じていますよ。こちらがヒーロー科になります」
「そうでしたの。ありがとうございます」
当たり前だが、無個性のオレがヒーロー科じゃないと決めつけているのだろう。繰り返すが、当たり前だ。自身がヒーロー科であることに罪悪感があるのか、少し暗い顔をしてしまう。
オレもヒーロー科だがな!! サプライズは続くんだよぉ!!
クラスに入って本当にオールマイトから『うわ本当に来ちゃったよ』って言われたら舌噛んで死ぬか。いや、コイツの目の前で言われなきゃいいか。
というかなんで八百万百の両親はヒーロー科への進学を許可したんだろうか。ボディーガードもつけずによくやるよ。まあオレもそうだけどさ。
しばらく天気や社会情勢の話をして時間を潰しながら歩くと、一年のヒーロー科の教室へたどり着く。着いたは、着いたが。
思わず扉を見上げてしまう。廊下も天井が非常に高いのは気になっていたが、まさか、扉まで。
「いやでけぇよ……」
「これが様々な個性を受け入れる雄英の──。あ、ご案内、ありがとうございました」
大きなお辞儀をし、顔を上げた笑顔の彼女は少し寂しそうな顔をしていた。
「では、また。失礼します」
と言って、A組の扉に手を掛ける。
その光景だけで、思わず泣きたくなってしまった。
「そのことですが百お嬢さん」
彼女は首を傾げながらオレを見た。
「いえ、詳しくは、教室で」
彼女の手に触れないように扉を開けて中へ入る。重たかったが、滑りはいいな。
教室にはすでに何人かが座っている。早いな、オレたちもわりと早いんだけど。オレはクラスメイトに軽く頭を下げると、自身の席を探し始めた。後ろを歩く八百万百はいまだ教室の入口で立ったままだ。
「名前順ですね。百お嬢さんの席はおそらく……」
机の上には書類が乗っていたため、それを目で追いながら彼女の席を探す。まさかの漫画とかで良くある不良席に彼女に充てた書類が乗っていた。
「こちらです」
「あ、ありがとうございます」
彼女は窓側の一番後ろへ荷物を預け、オレを向き直る。
「あの、業さん?」
彼女の席から一つ机を挟んで、オレは荷物を椅子に置いて、机に置いてあった書類を見せる。受け取り主の、机の主の名前が、策束業であることは確認できただろう。
彼女は一度、ひどく驚きながらも、それを受け入れると満面の笑みへ変わった。
「すごいですわ業さん!! やはりあなたは私が思うよりも遥か先に進んでいたのですね! 自己韜晦……御見それいたしました。業さん」
本当に嬉しそうに言う彼女に、舌打ちしたい気持ちをできるだけ抑えて、今後ともよろしくと挨拶だけ済ませ、書類に目を通す。……なんてことはない、入学式の日程とガイダンスだ。これらは事前にも送られてきたものとほぼ相違点はなく、折りたたまれたジャージが机の中にあること以外、目新しいものはない。
しばらくすると続々とクラスメイトになる子たちが入室してきた。異形系はさすがに多い。個性が全面に押し出されていて、すでに風格はばっちりだ。
風格と言えば隣の席のやつ。
真っ白い髪と赤い髪が半々に分かれている、クールな少年。八百万とオレの席の間に座っているヤツなのだが、明らかに格が違う。そしてきっと彼も推薦組だ。八百万が彼の顔を見て微笑んで挨拶していた。さすがに彼女と中学生のときから付き合いがある人物ならオレが把握していなくてはならない。
あと目ぼしい者だと、入学試験でともにいた耳郎。身長百八十センチほどの複腕の持ち主、ピンクの肌の女性、透明な女性(?)、カラスのような男子生徒。このへんか。見た目だけで判断するには情報が少なすぎるし、誰一人とってもオレより下ってことはないだろう。
本当、なんでオレここにいるんだ?
いやいやダメだダメだ。落ち着けオレ、オレらしくない。もっとふてぶてしく、自堕落で、間抜けであれ。
ポケットからシナモンスティックの入った缶を取り出し、一本咥える。途端隣のイケメン紅白生徒がオレの方をみた。
「なんだそれ、タバコ?」
「シナモンスティック」
「シナモンか……くせぇんだな」
そして視線を書類に落とした。
臭いって言われたので、バリバリとかみ砕いて消去させる。ノートでパタパタと周囲を仰いで紛らわすが、どうだろうか。と隣の彼を盗み見るが、反応はない。
なんか顔でも負けた気分。まあ彼、顔にひどい火傷を負っていて、パッと見イケメンには見えなかったけどさ。顔の造りはめちゃくちゃいいね。火傷も広範囲ってだけで、深度は低い。治せなくはないだろうけど、治すつもりはなさそうな顔だったな。まあ深くは聞くまい。
「え、うそ、あんた!」
前から女性の声が聞こえてくる。耳郎だな。
残念ながらオレの前には大柄な少年が座っていて、教室に入った直後の耳郎は気づかなかったようだ。友だちを増やそうと後ろを振り返ったとき、オレがノートを振り回す姿が見えたのだと思う。
「よ、二か月ぶり」
「あの! すごいやつ!」
どうやら二か月で名前を忘れられたらしい。
しかもすごいやつ? 冗談はやめてくれ、なにもしていない。
「F会場の連中が聞いたら喜ぶよ! あんたは受かってほしいってみんな言ってたからさ……。でも、本当、良く受かったね」
「オレが誰よりも驚いてるよ」
彼女はオレの名前は忘れても、オレの個性のことは覚えていたようだ。
「オレの名前は策束業。よろしく、耳郎響香」
「あ、あはは……」
「あ……の……」
「隣の組の人たちともさっきすれ違ったんだけど、実はF会場の子たち何人かいてさ! あとで挨拶してこない?」
「いいね。ところで、どうした?」
オレの前の席の少年、ずいぶん大柄だが、声は非常に小さかった。
「え、あ、ごめんうるさかった?」
「……」
オーバーリアクションで両手を胸の前でバタバタと振る彼は、声に関しては音量も意思も小さい。もっと腹から声を出せと言いたいが、明らかに耳に関する個性の持ち主である耳郎の前では必要ないだろう。彼女が本気を出せば一キロからの足音すら聞き分けそうだ。
「彼もF会場にいたから、挨拶したかったんだろ? 名前は?」
「え!? そうだったんだ! ごめん覚えてなくて!」
試験会場は同じだったけど、個性もどんなスタイルなのかも不明である。彼は恥ずかしそうに書類を見せてきた。
『口田甲司』
と書かれていて、斬新な自己紹介だと思った。
岩のような顔からは、その名前を見られることすら恥ずかしそうに見えるほどの焦りが見える。
「同じバスだったよな。お互い合格おめでとう」
手を差し出すと、ぎゅうと両手で握り返された。続けて耳郎も握手して、オレと耳郎が一方的に話す状況になる。口田は聞き役だな。質問があってもこのシャイボーイじゃ聞くことも答えることも時間がかかる。ヒーローになりたければ、そのあたりも直さなきゃな。
「あ、忘れてた。実はウチの隣の席がさぁ」
「はーい! 呼ばれて飛び出ましたー!! 遅いぜ耳郎ー!」
突如大声で乱入してきた金髪の登場に、口田が明らかに動揺し、怯えてしまう。
その金髪はチャラ男であった。お世辞には頭が良さそうには見えないが、ここにいるということはあの入試試験の筆記を越えてきたのだろう。お見事、お見事。
「声は聴いたことあったけど、こうして話すの初めてだなー。俺は上鳴電気! F会場であの超大型ヴィランを倒した男!!」
となると電気系の個性か。なるほど、最後のあとのきの姿は、強すぎる放電で一時的に脳の電気信号すら麻痺してしまったわけだな。廃人にならなくて良かったな……。まあさすがに慣れ親しんだ個性だから、よほどじゃなければそこまでの副作用はないか。
「そうか、その節は指示に従ってくれてありがとう。策束業だ。オレがここにいるのは上鳴のおかげだな」
「え、え!? そういう反応!? やめてくれよー!」
上鳴が慌てると、耳郎がからかうように肘でつつく。
「ウチが助けたの忘れてないでしょうね」
「いや覚えてないんだよ……」
「うぇ~~~~~いだったもんね、あんた」
「いや本当もー、隠すつもりだったのにー! 試験でやらかしたときは終わったー! って思っててさー!」
まあデメリットを見ることも基準の一つだ。見せておく分には問題ない。むしろ見せずに不安定のまま入学させるかで、試験官を悩ませることの方が不合格になる確率も高くなっただろう。無論、副作用がなければそれが一番良いのだが。
しかし、観察した結果【ヤバい個性】ってやつはいなそうだな。
実は入学試験の筆記が終わったとき、ある噂を聞いていたのだが。
なんでも、あのゼロポイントの大型ヴィランを【ぶん殴って倒した】個性主がいるらしいのだけれど。
瞬間、大きな破裂音のような、ただ強く扉を開けた音が教室に響く。
耳郎が痛そうに耳を塞いでいると、強面の少年が不機嫌そうな表情で教室に入ってきた。
彼は、頭がいいな。開いた席をチラリと見ただけで、おそらくは自分の席を引き当てている。それにあの顔見たことあるな。テレビだ。
ツンツン頭の少年は座った拍子に足を机に乗せ、我が物顔である。
情けない。
オレが注意しに行っても良かったが、先に行動するものがいた。大柄というわけではないが、均等に付いた筋肉がトレーニングの時間を教えてくれる、そんな眼鏡の青年である。
「キミ!! あの扉を開ける力はなんなんだ! 加減をしないか加減を!」
一言目に、反応がない。
こめかみがピクピクしていることから、座っているツンツン頭が怒り心頭であることは伝わってくる。
自身が悪いことをしたのは気づいているし、知ってはいるが、それを指摘されて腹立たしくて堪らない。そんなところだろう。
まあ、ヒーロー科といえども、オレを含めて十五や十六の少年だ。それはしかたがない。
眼鏡くんがツンツン頭へ、机に足を乗せるなという指摘に対し、挑発するように笑いながら否定的な言葉を吐く。正直に言えばお前ヴィラン側だろと言いたい。それかジャイアンだな、映画ならさぞや活躍してくれるだろう。
話す点話す点、すべて的外れの真面目眼鏡、聡明中学出身の飯田天哉というのも聞いたことがある。聡明中学の飯田と言えば、おそらくヒーローインゲニウムの関係者、年齢的には弟か従弟か。ふくらはぎに服の上からも確認できる歪な凸凹があった。彼の一族を代表するエンジンの個性が足に出ているのだろう。脚力には自信ありってところか。眼鏡で真面目キャラなのに、頭悪そうってどういうことなの?
「緑谷くん!!」
いつの間にか教室の入口に立っていた少年に向けて、説教中だった飯田が歩み寄った。そんなんならオレがあのツンツン頭に文句を言えば良かった……。
飯田曰く、緑谷って少年は入試の採点方法を理解していたらしい。まあ要は仮免の試験の引用に近いからな。オレじゃなくても気づいた人は多いだろう。疑問なのは、なぜそんな中でオレが生き残っているのか、である。
入口ではさっきのオレや耳郎同様、試験で一緒だったらしい、飯田、緑谷、そして最後のクラスメイトの、ゆるふわな少女で楽しそうに話している。
その足元。
オレの見間違いじゃなければ、寝袋が尺取虫のような様相で這っている。ナイロンの外皮の虫型異形系じゃないのなら、寝袋に入ったただの人間である。
三人も気づいたようだ。
立ち上がりながら寝袋を脱ぎ去る。
出てきたのは中年の男性だった。ボサボサの長髪、首元には灰色の捕縛布、そして真っ黒のスウェットのような私服。あとはギンギンに開いた目か。思い当たるヒーローはいないが。
名前は相澤消太。これまた聞いたことがない。
年齢は三十歳そこらだ。引退するには若すぎるし、怪我で一線を退いたか、出世欲ゼロで教師になったか。あるいはヒーロー科の教師だからってヒーローであるとは限らない、とか?
先生は寝袋から生徒用のジャージを取り出すと、これを着てグラウンドへ集合するようにと指示を出し、教室の扉を閉めてどこかへ行ってしまった。まあグラウンドだろう。
ざわつく雰囲気が消えないので、まずはオレから提案しよう。
「とりあえず男子からでいい? それとも更衣室探す?」
机の中に折りたたまれていたジャージを取り出すと、ヒラヒラと揺らしながら持ち上げた。
「ちなみに更衣室は昇降口から出てグラウンドの脇にあった。詳しくはわからないけど、行ってまごつくくらいなら教室で着替えて行きたいんだけど」
男子更衣室までは用意されていない可能性もある。ベストで言うなら、男子はここで着替え、女子はグラウンドまで行って着替えるのが一番効率的だろうか。まあ詳しくはなんでもいい。廊下で着替えていいのなら、男引きつれて着替えたっていいくらいだ。
さて、まだお互いの顔を見合わせている連中に対してイライラしてきた。面倒な気分になってきたので、勝手に上着を脱ぎ始める。
「ちょっとカルマ!」
さすがに耳郎に怒られたが、オレだって怒っているんだ。
「八秒無駄にしただけで合理性に欠けるんだと。遅すぎるとどんな文句言われるかわかったもんじゃないぞ。男子だけなら着替えなんて一瞬なんだから、女子は一度外に──」
「そうですわね!」
八百万の溌剌した声に嫌な予感を、いや脱ぐの早い!! まずはせめて上から!!
隣を見れば赤白の髪越しに、白いパンツ丸出しの八百万が目に入る。ジャージ履いてからスカート脱げよ!! お嬢さまじゃねーのかよ!
「おおおおおおお!!」
前に座る男子が大興奮の様子だったので、脱ぎ掛けの上着を少年に被せながら駆け寄った。八百万を壁に押し付けながら、オレ自身は他の生徒の壁になる。
「なにしてるんですか百お嬢さん!」
「いえ、業さんの判断はきっと正しいですわ。時間は有限、もう一秒の猶予もありません」
「だからって思い切りが良すぎます!! ほかの男子はさっさと出てくれ!!」
必死に上着を脱ごうとする彼女を押さえつけるが、身長もあり鍛えている彼女だ。中々に力が強く、そしてオレの後ろの男子がうぜぇ。大興奮である。
カラスのような異形の個性の子に連れられて外に出て行ったので、安心してオレも出て行こうとして、
「ちょっと! こっち見んな!!」
上着のボタンに手を掛けていた耳郎に文句を言われた。いや、すこし待ってくれよ。
目を思い切り瞑って、壁際へ寄る。
「なんでオレが出て行くまで待たないんだ!」
「時間ないってあんたが言ったんでしょ!」
そりゃあそうだけど。
「終わりましたわ業さん」
騙されるか。一歩先に着替え始めていた八百万が着替え終わったところで、ほかの女性陣はまだだろ。
「男子呼ぶときになったら、改めて声をかけてください」
「あ、そうでしたわね、失礼しましたわ」
一分ほどで着替え終わったようだ。ゆるふわ女子が「男子も良いよー!」と声をかけると、男女が入れ違いに教室に出入りする。
「おまえー!! 女子の着替えを合法的に覗きやがってー!!」
独特な髪形をした、八百万の下着で大興奮していた少年が喚き始める。
答えるのすら面倒で、さっさと着替えて教室を出る。ほら、やっぱり男子は一瞬だったろ。
教室から出て、廊下で待っていた女性陣から八百万を見つけて詰め寄った。
「良いですか百お嬢さん。二度と男性の前で着替えるなんてはしたない真似はしないでいただきたい」
「ヒーローたるもの、いついかなる状態でも──」
「はいはい、もう行きましょう」
他の男子も着替え終わったようで、ぞろぞろと廊下に出てきた。
飯田が率先するように歩き出し、みんながそれに付いていく。
グラウンドに行くと、先生が一人立っているだけだった。机に乗っていた書類の中身を思い出す。時間的にはそろそろ体育館へ移動しなければ、入学式に間に合わないのだけれど。
「入学式は!? ガイダンスは!?」
女子の一人が先生に向かって叫ぶが、気持ちは良くわかる。親だって来ているのだ。まさか晴れの舞台がこのような形で欠席になるとはな。
「雄英は自由な校風が売り文句。そしてそれは先生側もまたしかり」
ジロリと睨まれるように告げられたが、その理屈はどないなん? ってツッコミたい。まあ入学式に出たかったかどうかは置いておくか。新入生の代表挨拶でスピーチ原稿は書いてきたんだけど、無駄になってしまったな。
それはさておき、運動着を着てグラウンドでやることはなにかと思ったが、案の定運動だった。行いたいのは、運動テストらしい。
個性を全力で使用しての、運動テスト。
それって、オレやる必要あるのかな……。