【完結】無個性ヒーロー   作:南畑うり

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神野区の悪夢・顛末・後編

 

オレが泣き止むのを見計らってだろう、病室の扉が開けられた。

父と母、それに八百万の肩に乗った根津校長が部屋へと入ってくる。

 

恥ずかしいことこの上ない。アッパーシーツで顔をごしごしと拭った。ついでにオールマイトのスーツに付けてしまった汚れも謝罪しておく。

 

母さんは、思いつめた表情だ。さきほどはオレの手足を見てあれほど恐慌していたというのに──我慢している。父の手は母に強く握られているらしく、指先が真っ赤になっていた。オレのせいで家庭崩壊などを起こさなくて良かったよ。

 

根津校長がいるのなら丁度いいと、先ほどオールマイトへ行った謝罪をもう一度繰り返す。いや、伝えきれなかったことを思えばもっと言葉は重ねたと思う。

死柄木、ヴィラン連合、爆豪の誘拐、オールマイトの引退。神野区の大惨事。

それらすべてにオレが関わっている。

 

個性のことは、どうするべきだ……?

いや、聞こう。父には聞かなければならない。

早々と田舎に引っ込んだ祖父の代わりに、連結子会社五百社を超す策束グループの代表取締役会長を勤め上げる立派な人だ。二百社を超す企業など日本どころか世界的に見ても少ない……のだが、八百万家の連結子会社は二千社を超す。

そんな八百万家の十分の一程度のグループの会長ではあるが、子どもの頃は近寄りがたい人だと思っていた。もっとも当時は代替わりして間もなくのことで、むしろ家庭に帰る時間すら惜しかったはずだ。前会長と親しい者からの突き上げなど、どれほどのものかわかったものではない。

それは、いまだってそうだ。

でも、こうしてここにいてくれる。ありがたいよ、本当に。

 

だからこそ、どこから説明すればいいだろう。

あるいは、聞くだけでいいのかもしれない。オレの個性が奪われたことを知っていたのか、と。

 

「私の個性のことですが、父さんは知っていましたか?」

 

父は眉をひそめた程度。隣で母も首を傾げている。八百万、お前は良いんだよ。

反応が悪い、ということは大した情報はないのだろう。

オールマイトに視線を向けても、大げさに肩をくすめるだけだった。どうやら演技をしているようには見えないらしい。ヴィランと向き合って海千山千のオールマイトだ。信用しよう。一安心だ。

さて、どこから説明するか。……していいんだよな?

 

逡巡している間に、オールマイトが説明を引き継いでくれた。

ヴィランの一人が個性を奪い、与えるという神懸かった個性を持っていること。

そのヴィランの言葉を信じるのならば、オレの個性《複製》が奪われていること。

その個性が先の神野区で使用されたことで、オレが動転していること。

多少はぼやかされているが、おおむねその通りだ。

 

問題は、オール・フォー・ワンの名前を両親には伏せたことだ。

言い知れない不安がある。

 

──中学三年で個性が発現したクラスメイト。あまりの強力なエネルギーを制御もできず、身体を破壊するほどの影響力をもった個性因子が突然に覚醒し、雄英高校に入学してきた、緑谷出久。

 

疑問だったことがある。

USJ襲撃、保須市襲撃、死柄木と邂逅、《I・アイランド》の偽装テロ、林間合宿襲撃、神野区で出迎え。

ヴィラン連合、脳無、オール・フォー・ワンが関わっているこれらの事件で、オレ、緑谷、轟の三名はすべてに関わっている。

発信機でもつけられていると思っていた。あるいは、黒霧がどこかからずっと監視しているなんてあり得そうな話だろう。

個人的には、そちらのほうがよほど嬉しい。

 

だが雄英が後手に回って予定を変更して対処するやり方には、ずっと違和感があった。

USJのときは、唐突にコーチ陣が三人になったと知らされた。

林間合宿の急な変更も、例年にはないことだ。

明らかになにかを警戒している。

教師、あるいは生徒に対して、ヴィラン連合との関係を疑ったのではないか。

 

そして明確に、オール・フォー・ワンと関連している人物が二人いる。

緑谷とオレだ。

緑谷の口ぶりから察するに、オール・フォー・ワンとの関係が良好であるとは言えない。だがそれはオレだってそうだ。あんなやつと仲良くできるやつなんてなかなかいないだろう。

 

唯一の救いは警察にもオールマイトにも、緑谷がオール・フォー・ワンの名前を呼んだことは記録として伝わっていることだ。オールマイトは死柄木との会話映像を昨日も見たと言っていたので、データは個人的に持っているのかもしれない。

もし緑谷とオール・フォー・ワンが裏で繋がっていたとしても、それは既存の情報として警察に伝わっていると考えていい。

にもかかわらず緑谷自身にお咎めがないということは、「need to knowの原則」になるのだろうか。あるいはすでに誤解はなく、緑谷の身も潔白である──なんて、気軽に済ませる話じゃあないよな……。

……オレは、緑谷出久を疑ってしまっている。

 

なんにせよ話は一度区切りがついた。

父は義手・義足の手術と、退院に関していくつかオレに話して、母を連れて病室から出て行った。

一息つきたいところだが、こっちはそろそろ活動限界だ。《治癒》を受けたときの気怠さだけは慣れないな。

 

「策束くん」

「はい?」

 

八百万の肩に乗っていた根津校長がベッドへ降り立つ。反動でお尻が浮いた。意外と重そうだ。

そんな根津校長は、ポケットから一枚の紙を取り出した。──退学届だった。

 

「これはお返しするよ。さきほどの謝罪も、ボクたちには必要ではないさ。それでも責任が自分にあるというのなら、ボクはキミが立派なヒーローになってほしいと思うのだけどね」

「……無個性がヒーローなんかにって言い訳、もう使えないんですよね」

 

脇に立つオールマイトを見上げると、彼は優しく笑っていた。

 

「義手次第ですかね。日常生活も送れないようなら、さすがに諦めます。まあそのときは、ふふ、普通科に転科させていただけると助かりますが」

 

なんか、いつかも言ったな、この人に。

根津校長も覚えていたようで、約束するよと外に出て行った。廊下には相澤先生もいたようだ。両親に会っていたら母親がうるさくしていただろうから、隠れていたのかすれ違ったのか。

いやー、睨まれていますなぁ。

 

オールマイトも出て行こうとして、「あっ」と手を打った。

 

「最後に一つ聞きたいことがあったんだ」

「オレはもっと聞きたいことありますよ、オールマイト」

「ははは、それは後日だね」

 

オールマイトは、オレに最後の質問を投げかけた。

 

「キミは、どうして笑っていたんだい?」

「笑っていた?」

「私と、あの女性を庇ったときだよ」

 

彼の視線がすっとオレの足へ向かう。

ああ、最後のときか。笑ってたのかオレ。不謹慎すぎるだろう。

 

「さきほどは言いそびれましたけど、べつに『オールマイト』を庇った記憶なんてないですよ。単に合理的な方を選びました。オレが助けられないんだから、オールマイトが助けるべき、そう思っただけで、笑っていたのだとすれば──」

 

笑顔で安心させたかった? 見逃してもらおうとした? 頬が引きつってそう見えた? 無意識下ではいろいろありそうだが、客観的に見ると簡単だ。

 

「怖かったからですよ。笑っていればすこしはマシになるでしょう」

 

それを聞いたオールマイトはなにを思ったか、もう一度オレを抱きしめた。オレも抱きしめ返すべきか? 失礼すぎるだろうそれは。

とうとうオールマイトの肩越しに八百万とも目が合って、お互い困惑してしまう。

何度かオールマイトの背中を摩る程度のリアクションでお茶を濁していると、彼は身体を離して「行ってくる」と病室から出て行った。

 

はて、心配させてしまったのだろう。さすがに情けなさすぎる返答だったか?

 

病室に二人きりになったので、八百万はどうするのかと思っていると、彼女は椅子に座り直して携帯端末を弄り出した。

帰ってくれ。

 

「なにも、おもてなしはできませんよ」

 

寝返りを打とうとして失敗。足もないんだよな……。本当、日常生活どうすればいいんだろうか。痛みがないぶん、だいぶマシなのだろうが……。

あくびを噛み殺していると、八百万に笑われた。

八百万いわく気にしなくていいらしい。まあ、そういうことなら。

彼女の笑い顔を見ていると、暗い将来もすこしだけ明るく見えるのは不思議なものだ。

母親が小さい子どもに行うように髪を撫でられながら、断続的に訪れる眠気に誘われるのだった。

 

 

翌日、寝過ごして見られなかったオールマイトの記者会見を再生しながら昼食となった。さすがに母親が八百万を帰して、ようやく彼女から解放される。

 

手足のことで八百万の責任感を刺激してしまったのは申し訳ないが、朝からいちゃいちゃと遊びだす弟と八百万を見せられるこっちの気分にもなってほしい。

 

昼過ぎにオレは転院となり、そのまま義手の手術を受けることになった。

手術といっても三十分もかからない程度の局部麻酔手術。右腕の切断面から、生きている神経に超小型の電極を挿入。その電極は用意された義手の人工筋肉を動かすためのものだ。

オレに見合った義手自体はまだ用意されていないが、夏休みが明ける前には試行できるらしい。

 

義足はすでに用意されていた。

こちらは人工筋肉などを必要としない、古き良き簡易的なもの。慣れればすぐに階段なども登れるようになるらしい。膝まで切断していると年単位の訓練が必要になってくるらしく、リカバリーガールの判断に感謝だな。

ただ足は、切断面が義足のソケット部分に接触する面の多さ、自重の負荷など、生活で不便に感じる面が最も多いらしい。

逆に腕は、最先端の義手であるためか、運が良いよなどと医者に慰められた。

 

術後、病院付きコンシェルジュに手伝ってもらってソケットカバーを履いて、そのまま用意してもらった義足を付ける。うぅん、違和感しかない。

足首から下は棒状になっており、長さなどを調整するとのこと。足首から下も再現できるようだが、どうするのが最適なんだ? まああとから決めようかな。

市販品のものになるが、義手も届いた。まずはこの義手でデータを取るらしい。

黒と錫色で統一された五本指の義手だった。

義手メーカーの方がペンを握らせたり文字を書かせたり。義手にはコードが繋がっており、常時データを送信している。

使ってみた感想も聞かれたが、意外と違和感がない。

というのも、触感があるのだ。痛みではなく、押された、触った程度の弱いものではあるが。

あと軽い、かな。義手とベルトを使って胴体と固定させているので、身体のほうへの違和感が多いが、腕に鉄の塊を装備しているという重量は感じない。

 

義手のほうは人工皮膚で覆うことも可能であると言われたが、そこまで見栄えを気にしているわけではないので、無骨のままでいく。引っかいたり汚れたりすることも思うと、面倒臭かったというのもあったが……。

 

ともあれ、リハビリだ。

足の形しているほうが違和感はないというが、そもそも義足で歩いた事がないのでわからない。車椅子でリハビリテーションまで運んでもらって、そこからの訓練開始だった。

全体的に右側が重く、意外と重心を支えることができずに悪戦苦闘。

寮生活が始まるまであとすこし。さて、どこまでものにできるかな。

 

 

◇ ◇ ◇ ◇

 

 

神野区の悪夢と呼ばれるようになったあの事件から、およそ一週間。

夏休みも残すところ十日となっているものの、今日は午前中に集まって入寮式と、寮の説明会となっている。

全寮制は今年から我々生徒たちの安全の保障のため、雄英高校が新たに模索した手段の一つとして導入されたものだ。

 

年度始めではなく、二学期から学生寮となり、それが特殊な事情を除いた生徒および教師全員に適応される。あきらかにヴィラン連合を警戒しての対処だ。

襲撃を想定しているのならその場しのぎにもならないが──もしスパイがいるのだとすれば、行動は相当制限されるだろう。……いるのだろうか、情報を売った生徒か教師が。

 

「それでは参りましょうか」

「はいはい」

 

早朝、八百万家の送迎車に乗り込む。しかも介護用の改造車だ。黒塗りの高級車での登校が多いので、非常に珍しい。

 

一週間の訓練で、車の上り下りくらいなら余裕だったのだが……。

だが杖は買った。片足になってわかったが、転んだ場合、体勢によってはすぐに立てないときがある。支えになる杖はあったほうがいいと思ったので、頑丈なものを購入した。長さはないので武器としてはいまいちだが、梃子として使うには折れ曲がることはないというお墨付きだ。

足を棒状ではなく足の甲まで再現した義足であれば、もう少し動きやすいと言われたのだが、ちょっとした【理由】から保留してもらっている。

 

それにしても……気が重い。

 

神野区事件から、クラスメイトと会うのは初めてだ。

オレがオール・フォー・ワンに吹き飛ばされた映像では、しっかりクラスメイトにバレていたらしく、電話が多く掛かってきていた。

しかし、それらのほとんどを「入院中だから」と連絡を絶っていた。

というのも、オールマイトの記者会見でオール・フォー・ワンの話題がほとんど出なかったせいである。

 

あの日──オールマイトの胸で号泣してしまったあの日である。昼から行われた、オールマイト引退緊急記者会見。

大きく取り上げられたのは二点。一つは、「オールマイトは本当に引退しなければならないのか」ということ。二つ目は、「次代のナンバーワンヒーロー」だ。

オールマイトの個性はパワー増強。その個性が年齢とともに衰えて、いまでは一日一時間と『オールマイト』に成れないらしい。もしかしたら、もっと短いかもしれない。ヒーローも教員も引退はしないが、それでもこれ以上ナンバーワンは名乗れないと、一線は退く決意をしたと話していた。

代わりにナンバーワンに指名され、記者会見にてオールマイトと握手を交わした人物が、エンデヴァーである。もっとも彼はナンバーツー。指名されなくとも、妥当な繰り上がりだろう。

 

そんなわけで、オレがどこまで関わっているのかクラスメイトに話すことができなかった。会えば、電話すれば、心配してお見舞いにきてくれた学友に嘘をつくことになる。

 

この手足のことを思うと、嘘に嘘を重ねるのはあまり好ましい状況とはいえない。

このことを知っているのは、八百万と轟だけだ。轟にも口止めはしてあるので、会えばどんな顔をされるのかいまから憂鬱な気分である。

 

「随分と器用になられましたわね」

 

八百万が楽しそうにオレの義手を見ている。

指の間ではマジシャンが使うミスディレクションのように、コインがくるくると回っている。リハビリの一環ではあるのだが、コンピューター制御が内蔵された義手はAIが勝手に学習してくれるので、細かな制御はすでに意識していない。

 

「これみんなの前で自慢したら怒られますかね?」

「まず私が怒ります」

 

はい、すみません。

 

 

車から降りて教室へと向かう。腕と違って足は感覚がないので、いまだ杖は手放せない。

左手に杖を添え、左足を身体の軸にするよう歩かなければならないのだが、これがまあまあ歩きづらい。

かといってリハビリテーションで言われたことを無視し、歩きやすくするように右手で杖を使うと、義手と生身の接合部に負荷がかかるし、左足に体重がかかり過ぎて歩けなくなるとすら言われている。

 

八百万が車椅子もあると言うが、断っておいた。オレは要救助者としてここにいるわけではない。さっさと慣れなければ。

無理ならドロップアウト。それだけの話だ。

 

教室には飯田だけ。

オレたちもだいぶ早く来たと思ったが、真面目だなぁ。

 

「よお、飯田」

「……策束、くん?」

 

右手は見せぬよう身体を捻っているが、フルフェイスゴーグルは目立つか。これがあれば右目と右耳のカバーもできるんだよね。

まあ右目のほうは実はわりと問題なくなってきている。一時的なものだったのか、いまでは一秒もあればピントを合わせることができる。コツみたいなものがあった。

 

「大丈夫、だったのか?」

「ああ、大丈夫。もうわりと慣れた」

 

席へつくとさすがに右手が目に付いたか。飯田はすごい形相で立ち上がって真横に立った。

 

「それを外したまえ!」

「断る」

「この腕は──足は!?」

「飯田さん!」

 

席に荷物を置いていた八百万が寄って来ようとしたが、手で制す。ついでに飯田にも全員揃ったら話すと言いくるめる。B組の友人や心操なんかにも話して置かないとまずいよな。

 

しばらくすると、懐かしのクラスメイトがやってきた。

みんな同じ反応だ。まずオレの顔を見て、そして義手を見て、質問をしようとして追い返される。

様子を見るだけで済ませたのは轟と爆豪だけだったな。切島なんて死にそうな顔になっていた……。

切島のフォローをオレがしなきゃならんのか。爆豪を含め誰かが死ぬ可能性もある作戦だったんだ。この程度で済んで僥倖だと……は思えないかさすがに。

 

「それ、あのときか」

「あとで話す」

「なんで、そんなことに」

「あとで話す」

「ヤオモモは知っていたのか!? 言ったよな! 大丈夫だって! 心配しないでくれって! 俺、なにも、俺っ!!」

「百お嬢さんは悪くない。オレがそう言うようにお願いした」

「良い悪いの話じゃねぇだろ!! 腕が! 俺の、せいでっ!」

 

責任感が強いのは構わないが、べつに切島のせいってわけでもないので、落ち着いてほしい。見ろ、ほかのクラスメイトの罪悪感にまみれた視線。

 

瞬きもせずに泣き出してしまった切島に、向けるべき言葉を迷う。

あまり真っ直ぐ見てくれるな。悪いのはオレなのだから。

 

どうしようかと悩んでいると、今日は早めに相澤先生がやってきてくれた。切島に詰め寄られるオレを見て状況を察してくれたようだ。

 

「切島、事情を説明する。席につけ」

「先生も、知ってたんスか……?」

「当たり前だろ」

 

彼はオレの右手をしばらく凝視したのちに、ようやっと席へ戻ってくれた。

相澤先生とアイコンタクト後、教卓の方へ誘導される。

 

「とりあえず一年A組。無事にまた集まれてなによりだ」

 

相澤先生は隣に立ったオレを見て、明らかな不機嫌さを装って言う。

 

「満足はしていなそうだがな」

 

五体満足じゃあないってか? ん?

 

「先生もクビにならずにおめでとうございます」

「俺もビックリさ。まあいろいろあんだろうよ。本当は寮の説明をする予定だったが、先に話したいことは、お前たちもいろいろあるだろ?」

「なら先生からのお咎めは無し、ということで」

 

相澤先生はオレから視線を逸らすように鼻を鳴らして、ゆっくりと窓へ歩いていく。あとはオレに説明しろ、ということか。フォローくらいしてくれるんだろうな。

 

「えーっと、じゃあ、まずはオレから。言いたいことあるなら説明が終わってからにしてくれよ」

 

さて、どこから話したものか。

ここからは腹割って話さなきゃならんからな……。

 

ゴーグルを外して教卓へと置く。右の耳たぶの有無でさらに動揺を誘ってしまうが、まあまずは話を聞いてくれ。

 

「まず、みんなに謝っておく。わかってると思うけど、みんな騙してた。ごめん。

「耳郎と葉隠がどこまで聞いてたかは知らないけど、オレ、轟、切島、百お嬢さんの四人。ついでに緑谷と飯田の六人で、爆豪の救出に向かったよ。

「百お嬢さんと組んでね、諦めたのも演技。ああすれば、みんなと連帯責任にならずに済むと思った。主犯で言えばオレだけだな。相澤先生もそれで納得してくれている。

「オレがこのクラスに残れたのは、雄英高校の温情。オレの手足は……映像で見た人もいるだろう? あんなもん受けて生きているだけでありがたいよなぁ。絶対死んだと思ったもん。

「リカバリーガールが居なきゃ死んでいたと言われたよ。

「吹き飛ばされたあと、右側から着地したんだろうね。右目もね、ちょっと見辛くなってる。頭部から行っていても死んでたわ。

「いろんな幸運に救われて、失くしたのは腕と、足だけで済んだ。耳とか目も、まあ不便っちゃ不便だけどさ。……怪我の具合はこんなもん。

「で、本題はここからで──

「ヴィラン連合が合宿を襲ったのはオレが死柄木を挑発したからだ。本当に、すみません。

「ショッピングモールの映像、警察に証拠として押さえられていて、見せることはできないけど……。ステインの人気を利用して組織を拡大するべきだ、ヒーローのスキャンダルを作るべきだ、そういう方向に会話を誘導した。

「結果、このざまだ。

「切島、この怪我はお前のせいなんかじゃあない。もし爆豪が誘拐されたままなら、左側差し出したって惜しくない。これは、そういう傷だよ」

 

何人かはオレの言葉に反論し、何人かには泣かれてしまった。

そんな中、明確に噛みついてきたのが爆豪。彼は足を机に乗せ、窓を見ながら叫び始めた。

 

「クソワイリー!!」

 

……オレのこと、だろうか。なんだ、この右腕はロックバスターにはならんぞ。

 

「俺は謝らねぇ! だから、てめぇも謝ってんじゃねぇ!」

「……慰めてんのそれ」

 

言うや否や、目を吊り上げてオレを睨みつけてきた

 

「慰めてねぇ! オレがナンバーワン名乗れるくらいに強くなる!! それで済む話なんだよこれはァ!!」

「済まんだろ……。手ぇないよオレ」

「あんだろうが!!」

 

【有るだろう】か……。

それは爆豪からすれば、なんの気負いもないツッコミだと思う。

 

不思議なことに、ずいぶんと救われる言葉だなと、感じてしまったのだ。

こればかりは、先天的・後天的な人、失くした側の受け取り方でも違うだろうが……。

 

だが、あまりと言えばあまりの暴言に思わず笑ってしまった。そんなオレに、クラスメイトは変人でも見るかのような視線を向けている。

 

「腕がないこと、【言い訳】にはさせてくれねぇんだな」

「ったりめぇだろスカシ野郎!!」

 

爆豪以外にはその言葉の意図が伝わったようだ。切島すらも真っ赤な目でオレを見つめている。自然と視線を逸らせた。代わりに頭を大きく下げた。

 

「手足が無い。個性が無い。ヴィランを挑発して雄英側には散々迷惑かけた。神野区のことがオレのせいだと言われれば、首を括る覚悟だって決めてる。

「なのにここを辞める言い訳もなぜかどんどん無くなっていく……。

「気に入らなければ言ってくれ。殴りたければ殴ってくれ。

「だからあと二年半。ともにヒーローを目指す仲間でいさせてほしい」

 

頭は上げられない。みんなの表情を見ることができない。

この状況でフォローしてくれたのは、相澤先生だった。

 

「オールマイトの引退がなけりゃあ俺は、コイツらはまとめて除籍処分にしてる」

 

……フォローだよね。

 

「理由はどうあれ、俺たちの信頼を裏切ったことには変わりない。正規の手続きを踏み、正規の活躍をして、信頼を取り戻してくれるとありがたい。──以上」

 

相澤先生はオレの背後を抜け、教室の扉を開けた。

 

「さぁ、寮へ行くぞ。元気に行こう」

 

いや、待って……。行けないです。

相澤先生の背中を目で追いながら、クラスが一つにまとまった瞬間だった。

 

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