【完結】無個性ヒーロー   作:南畑うり

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改定前→日程の関係で始業式と入寮を同時に扱っていました。
改定後↓
静岡県の夏休みは35日程度。
劇場版第一弾を含める場合。

夏休み初日(7月26日)から、特別授業で3日分消費(アニオリ)。
アイアイランド本編で(最低)2日消費(この二次創作では1週間消費)。
プール回で1日消費(アニオリ)。

この時点で11日消費。

合宿が3日(予定は1週間だったはず)
4日目まで緑谷目覚めず。
5日目で爆豪救出。
6日目19時(今作では昼)オールマイトの記者会見。
翌日以降を使って保護者面談と寮の説明。

この時点で18日消費。

二次創作では爆豪救出から7日で主人公復帰。

この時点で25日消費。

入寮から10日後(正確には9日後)9月5日に仮免試験となります。
二次創作される方はご参照ください。設定変更して申し訳ございません。普通に読んでいただく分には大きな変更点はありません。


お部屋披露大会

 

緑谷とオール・フォー・ワンとの関係を指摘してから三十分もしただろうか、緑谷は携帯端末を片手に戻ってきた。

彼が言うままに端末画面を見ると、『オールマイト』と書かれていた。

……轟が睨んでいた通りプライベートの繋がりも強いようだ。まあこれが合成音声である可能性もある。あとで裏をとっておこう。はあ、疑い出したらキリがないな。

 

前置きとしてオールマイトに記者会見の労いの言葉をかけると、オールマイトは言いづらそうに「緑谷少年は大丈夫、ごめんね、大丈夫」と告げた。

それで済ませるつもりか、この二人は。

 

「あのねぇオールマイト! 緑谷が自覚なく情報を垂れ流している可能性は考慮しないんですか!」

『いやぁ、アッハッハッハッハッ、それがねぇ! 大丈夫としか言えないんだ!!』

 

埒が明かんか。

だがオールマイトのお墨付きとあっては、こちらとしてはこれ以上踏み込めない。それにオールマイトからその言葉が出ると、いくつも納得できることが出てくる。

緑谷が死柄木に対してオール・フォー・ワンの名前を出したとき、警察もオールマイトも深くは追及しなかった。あれは緑谷を泳がせていたのではなく、緑谷がオール・フォー・ワンを知っていることを前提に動いていたのだとすればわかりやすい。

オレの早合点だった、ということか。

 

オールマイトとの通話を切って、緑谷へ携帯端末を返す。

 

「ごめん、詳しく、話せなくて」

「いや、いい、オレだって全部話しているわけじゃあない。気のせい、偶然ならいいんだ」

「でもオールマイトもやっぱり気になっているって……。それに言いづらそうにしていた。やっぱりいるのかな、内通者」

 

口に出してくれるな。由緒ある雄英高校だぞ。そんなところに内通者がいる可能性など……。はあ、気が重い。

 

「そっちは教師と警察にまかせるよ。どのみち緑谷じゃなかったらオレの可能性が一番高くなった。盗聴器や個性とかも考慮に入れれば数えきれんよなぁ」

 

法律を重視して行動する警察に、こんな複雑な状況が調べられるとは思えないが……。

足を延ばして座り込む。

緑谷もさきほど座っていたソファーに座り直した。

 

「その……話してくれてありがとう」

「緑谷は話してくれないけどな。……冗談だ」

 

死にそうなほど苦しそうな表情をした緑谷を笑う。

 

そのあとは、いまの空気を吹き飛ばすように夕飯の話題へと変えて、近くのスーパーに肉を買いに行く話をしていたことを聞き出す。オレも行けないのは歯痒いな。

緑谷と障子が買い物に行くのを見送って、調理メンバーのシフト表を作り始める。不満があれば八百万か飯田にどうぞ、だな。

二十人前を作ると考えると小さめのキッチンだったが、ガスコンロとホットプレートも用意されていたので、肉は目の前で焼いてもらえばいいか。……しまった、炊飯器はあっても米がない。

調理メンバーどころか買い出し班も必要だな。確認すれば洗剤などもなかった。月初めに生活必需品費でも徴収するか。余ったら積立金に回すなり還元なりで対応していこう。

ともかく、慌てて麗日と葉隠、飯田に金を渡して買い出しに向かわせた。

ああ、二学期になったら食堂で夕飯を買って帰ってもいいな。

 

 

焼肉はおおむね受け入れられ、楽しい夕食となる。サシも入っていない安い肉だったが、みんなで食べるのはいいな。林間合宿の夕食を思い出す。口田はサラダばかり食べていたが。

片付けに参加しようとするが、手足のことで戦力外通告を受けた。しかたがないと邪魔扱いされた男子メンバーと雑談タイムだ。

 

「あー、疲れたー」

「切島、荷解き終わったのか?」

「ようやくな」

 

切島め、オレのところに顔を出しすぎだ。気遣いがすぎている。

 

「経緯はあれだが、共同生活ってワクワクすんなぁ」

「共同生活! これも協調性や規律を育むための! 訓練!」

 

上鳴の言葉に飯田が反応するが、明らかに見ている方向性がかけ離れている。

ツッコミしようか迷っていると、エレベーターのほうから昼間とは打って変わって明るい表情をした芦戸がやってきた。

 

「男子ー! 部屋できたー!?」

「おう、いまくつろぎ中」

「あのね! いま女子で話してて!」

「提案なんだけど!」

 

上鳴の返答に高揚を隠さない楽しそうな声を出す芦戸と葉隠。背後の麗日や梅雨ちゃんも楽しそうな表情だ。

 

「お部屋披露大会しませんか!?」

 

芦戸が満面の笑みで企画を持ちだした。

 

「策束はトリね! 部屋すごいって聞いたよ!」

 

ちらと八百万の表情を確認するが、彼女は楽しそうに隣に立つ耳郎と談笑中だ。

文句言われないといいが……。

 

緑谷を始め、オレを含めたメンバーの多くは否定的なのに、女性陣だけで勝手に話が進んで行く。爆豪なんて早々に寝たぞ。

オレも一度部屋に戻って、【フルフェイスゴーグル】をもってこよう。廊下と部屋の明るさによってはピントが合わなくなるし、片耳も聞こえ辛いのだ。

 

「じゃー! まずは緑谷からかなー!」

 

夕食の片づけも終わり、メンバーが集合。爆豪を除いた十九名全員が揃っている。

その中でも断トツに嫌がっている緑谷だが、芦戸や麗日は容赦なく押しかけた。

 

クラスメイトが感嘆の声を上げる。オレも確認したが、その部屋はまさにオタク部屋と呼んで差し支えないほどオールマイトに埋め尽くされていた。

ポスター、タペストリー、ポストカード、色紙。フィギュアに至っては、小さい物も合わせると三十は超えるだろう。

 

「私これ欲しかったんだー!」

「このポスターサイン入りだー!」

「俺これ初めて見たー」

 

小規模ながらオールマイト展覧会だ、日本人でこの部屋を見て喜ばない人はいないだろう。

インテリアとしてはどうかなと思うが、クラスメイトは思い思いに楽しんでいる。

オレも一つのフィギュアを手に取った。

 

「オレこれ持ってたわ」

「あ! それはヤングエイジ時代のもので日本ではなかなか再販しないんだというかもう売ってなくてアメリカから取り寄せるしかなくてさそれもたまに売りに出されてるくらいなんだそれに見てほしいんだけどこのマントの色が赤なんだよヤングエイジ時代のフィギュアは全部で四十七種類発売しているんだけどこの色でマントを表現しているのはこのメーカーだけだったんだけど失敗じゃないんだよ当時のサイドキックだったデヴィット博士が作った設計図ではこの色なのつまりこれが唯一その設計図をもとに作られたフィギュアってこと──」

「次だ次ー!」

 

……ありがとう芦戸。

 

「ところで策束くんが持っていたフィギュアってどういうの? 日本だと千五百体しか発売されてなくてそれも十九年前で僕の場合はお父さんが──」

「緑谷……あとでな……」

 

お腹いっぱいだよ。

 

次は青山の部屋だったが、なぜか常闇が自室の扉を塞ぐように立っているため、芦戸と葉隠の興味を引いてしまったようだ。無理やり常闇をどかして部屋を開ける。押し込み強盗にもほどがあるだろう。

 

そんな常闇の部屋は真っ暗。もうなんていうか、こういう世界観が好きな人なんだなぁって思ってしまった。……剣があるぞ……。

心に闇を抱えた常闇が「出て行け!」と叫ぶので、みんな一度外に出た。プルプルと震えている。なんかオレも恥ずかしくなってきた。みんなワンルームなんだよな。やってしまった感がある。

 

さて青山の部屋は、なんというか、常闇とは真逆だった。

なぜか騎士の鎧が飾られているが、それ以外はもう全部まぶしい。青山曰く「まばゆい」らしいがまぶしい。驚いたことに影が一切ない。常闇のダークシャドウが暴れたときは青山の部屋に突っ込めばいいだろう。

部屋を出ると、クラスメイトが目を擦っていた。まあ慣れなさそうだな。

 

峰田の部屋だが、彼は準備万端とばかりに女子を手招きして呼びこもうとしているが、綺麗に無視されていた。全員で上へと向かう。

 

三階は尾白、上鳴、飯田、口田の四名だが、飯田の眼鏡の豊富さと、口田のペットのウサギ以外はわりと普通の男子高校生といったところか。二階って癖の強さだけで集められたのかよ、と笑いそうになったが、オレの部屋も二階だった。

しかしペットオーケーなのかここ。なにか飼おうかな。

 

四階に向かうためエレベーターを待っているほんの少しの間に、部屋を褒められなかった男子メンバーが、女子のインテリアも見せろと要望を出した。

八百万、耳郎以外は乗り気である。

 

『第一回A組ベストセンス決定戦』と名付けられたインテリア対決。

優勝はもらった。なんてったってインテリア置いたの業者だからな!

 

気を取り直して、四階の切島の部屋から再開となった。

彼の部屋は、たしかに遊びっ気なしの男らしさを追求したような造りだった。ベッドの真横にサンドバッグが置いてあったり、壁には『大漁』と印字された漁師が持っていそうな旗。嫌いじゃあないが目にうるさい。

意外と麗日の評価が高かったな。

 

次いで障子の部屋だが、これは全員が目を見開いた。

小さな机と、布団。これだけだったのだ。

本人いわく物欲がないとのことだったが、いやぁ、なるほど、オレの部屋の手伝いにきていたのはそういう理由か。時計くらい差し入れてあげるべきか?

 

爆豪はすでに睡眠中のため、四階は終了。

五階の轟と瀬呂を見て男子はお終いだな。

 

瀬呂の部屋はアジアンを意識して統一している、個人的には一番好きなインテリアだった。家族の好みではなかったから内装の選択肢にすら入れていなかったが、せっかくの一人暮らし、このくらい遊んでも良かったな。お香も良さそうだ。

耳郎を始め、女性陣の受けも非常に高かった。

 

この流れだ。男子のトリでもある轟の部屋にはみんな期待してしまっている。

轟自身は少しもこのお遊びに興味がないらしく、眠たそうにドアを開けた。

 

「「和室だ!!」」

 

瀬呂と芦戸が声を揃えて叫んだ。後ろのほうからオレも覗くが、どこからどう見ても和室だった。オレもまあまあ部屋を改造はしたが、轟もずいぶんやんちゃしたな。壁と窓どうなってるんだ。素材が違うどころか障子なんだけど。目蔵じゃなくてね。外から見たらどうなってるんだこの部屋。

 

「男子は策束と爆豪以外終了! つぎは私たちだねー!」

「嫌だなー。マジで全員やるの? ハズいんだけど……大丈夫?」

 

文句を言い続ける耳郎選手が一番手となっている。

いやがうえにも期待せざるを得ない。手汗が……、いや、違う、なんで緊張してるんだオレが。左手の平に息を吹きかけてエレベーターを待っていると、耳郎がオレを見た。

 

「ホント、大したことないから」

「お、うん」

 

なぜオレに言う。なぜオレもこんな返しなんだ。

 

彼女の部屋は三階。葉隠と同階だった。

耳郎は自室の扉を開け放つと、そそくさと自分だけ部屋の中に入って、壁を舐めるように身体を縮こめてしまった。

彼女の部屋は、思った以上に音楽に特化していた。エレキギター二台、ベースが一本、クラッシックギター、ドラムセットと電子ピアノ、ベースアンプや大型スピーカーが所狭しと並べられている。見ればスチールラックにはアンプ各種、果てはターンテーブルさえ置いてあった。

本人は批判的な意見を出した上鳴と青山にお仕置きをしたあと、自分の番は終わりとばかりに葉隠の部屋へ向かった。

 

彼女は陽気に自分の部屋を紹介。

全体的にピンク色した、女の子の部屋だった。ぬいぐるみが多いし、デザイン重視の机が二つ。デスクとローテーブルだ。

峰田が嬉しそうに部屋に入っていきそうだったので、襟首掴んで外へ追いやる。

 

四階へ移動して、芦戸の部屋からだった。

この部屋からはギャルの空気が流れている。……やはり恋愛相談するなら彼女か。

黒と赤の配色が目立ち、毒々しい様相ではあるが、統一感があって嫌いじゃあないな。匂いにも気を遣っているのか、さきほどの葉隠の部屋よりも女子力の高さが感じられる。

 

麗日の部屋に移動したが、予想の五倍くらい普通の部屋だった。コスチュームの色合いや、ゆるふわな雰囲気から考えるともっと女の子を全面にアピールするような部屋かと思っていたが。これなら尾白と麗日の部屋を交換させて初見の人に見せてもバレないかもしれない。

 

「麗日って扇風機なんだな。エアコン苦手だったりする?」

「いやー、その、使ったことなくて。あるって思わずそのまま持ってきちゃった」

 

……いつの時代の人間だ。

蚊取り線香もあるし、田舎で準備してもらった部屋を思い出すな。

 

「実家のような安心感」

「それだ!」

 

緑谷の言葉に全面的に肯定し、次の部屋に移動となった。

蛙吹の部屋は八百万と同じ五階。

どんな部屋かと開けてもらえば、熱風が肌を流れていく。

 

「あっつ!?」

 

扉に張り付いていた峰田が慌てて離れる。

真夏の暑さ、と言っても日が暮れてだいぶ時間が経っている。室温二十七度、湿度六十パーセント。ずいぶんと熱いな、快適なのはゴーグルの中だけだ。

 

「ケロッ、どうぞ」

 

招待されても入りづらいわ。

彼女の部屋に入ると、まるで雨の日のような空気が肌に張り付く感覚に襲われる。

内装は全体的に緑色。観葉植物が多いな。インテリア自体は普通だが、二台置かれた加湿器とエアコンの熱風のせいで部屋の鑑賞どころではない。

 

「わー! 蛙だー!」

「アマガエル……じゃないよね?」

「その緑色の子はベルツノガエルで、となりの茶色い子はクランウェルツノガエル。隣の部屋の子がニホンアマガエルよ」

「この水色の子は?」

「そっちもニホンアマガエルなの」

 

物怖じしない芦戸、葉隠、麗日が棚の上の水槽を覗いている。

ほかのメンバーは青々と茂った観葉植物を眺め、代わる代わる部屋から出入りした。暑い。腕とか足錆びないよな……?

蛙吹の適温なのか、それとも蛙を育てるために必要なのか……。

 

女性陣最後は八百万。

開けた瞬間に八百万家に送る謝罪の言葉を考えることになった。

 

八畳半の部屋の半分を、天蓋付きのキングサイズのベッドが埋めているせいで、アンティークのデスクを使うことも難しそうな生活動線を生み出してしまっている。

あまりの狭さに全員は入れず、外に出ようと振り返ったとき、二千万円の絵画を目にして吹き出しそうになる。

もうどうやってこのベッドを入れたかなんて考えない。あとで彼女のティーポットくらいオレの部屋に運んでおくか。せめてもの罪滅ぼしだ。クローゼットどうやって開けるんだあの部屋は。

 

さて、優勝間違いなしのオレの部屋だったが、これはなんと大ブーイングを呼んだ。

 

「広っ!? なんで!?」

「ズルい! 卑怯者!!」

「正々堂々勝負しろよー!!」

「このブルジョアめー!!」

「豪邸やないかい!!」

 

え、ひどい。朝のしんみりとした空気はなんだったのかというくらいの野次を受ける。

我が家のように寛ぎだすクラスメイト。さすがに全員座れるほどのソファーではないが、冷蔵庫の中を開けたり、カウンターの細部まで確認するやつもいる。

 

「水道は?」

「トイレの水道栓、もったいないから引っ張ってもらった。あとはオール電化」

 

バーカウンターのようなものも置いてある。ちなみに全部の家具や生活雑貨集めても百万はしない。八百万のあのベッド程度の金額だ。さすがにそれを言うと怒られる方向を八百万も巻き込みそうだから口を噤んだが。

 

「これは有罪」

「有罪」

 

芦戸と葉隠が不満の声を隠さずに文句を言う。

瀬呂も同様だった。

 

「はぁ……わかったよ、この部屋は勝手に使っていいから。百お嬢さん、あと一部屋、物置として間借りしています。よければ洋服はそこに」

 

みんな手のひらを反して、オレの背中を嬉しそうに叩いてくる。リビングでそのまま結果発表となり、オレを除いて優勝者が決められることになった。

票を集めたのは、ギャップの瀬呂とウサギの口田。ペットは卑怯だという意見もあったが、女性票が多く集まり、そのまま口田が優勝することになった。

 

理不尽な結果に顔をしかめていると、八百万がティーポットや茶葉を抱えて戻ってきた。そのままカウンターでお湯を沸かし始める。どうやら女性陣はこのままのんびりティータイムとなるようだ。カップは全員合わせると半数分もないので、何人かにはペットボトルを手渡した。大活躍だな、買い足して置こう。

 

「俺はもう寝る」

 

立ち上がった轟がちらとオレを見る。

 

「明日からもいるんだよな」

「おう」

 

返答に頷きもせず轟は出て行った。

嫌味ってわけじゃあないと思うが、どうだろうな。

 

冷凍庫から取り出したカップアイスを持って、パソコンを飾るデスクに向かって座った。固いアイスの表面をシナモンスティックで突きながら、談笑するクラスメイトを眺める。

そのうち、八百万の淹れた紅茶の匂いがリビングに広がってきた。

 

新品のソファーで跳ねるように遊ぶやつや、背もたれに腰掛けリラックスするような仕草をするやつ、テレビを見て談笑する連中、紅茶の苦さに辟易している者。

彼らを見ながら思ってしまう。

 

ここに内通者がいるのか──と。

 

消去法では緑谷だった。その緑谷はオールマイトによって強く否定されることになった。となればオレだ。個性を奪われたタイミングで、位置情報を送るようななにかを植え付けられた。

だが、そもそも消去法を使って、ほかのクラスメイトを外したのはなぜだ?

分かり切っている、信頼してしまっているからだ。

いるかもしれない内通者を警戒するより、オレが原因であることのほうが楽だからだ。

 

アイスの小さな欠片をシナモンスティックで掬い、口に入れた。

味がしないのは、吹き飛ばされた後遺症ってわけじゃあないよな……。

 

パソコンの前に置いた【フルフェイスゴーグル】を見ながら思考する。

彼らの部屋には、怪しいものはなかった。特別に波長を発するものも、音波の類もない。

 

ありえるのだろうか──。

雄英高校のヒーロー科の倍率は三百倍。つまり今年度は約一万が受験したわけだ。

その選ばれた四十名の中に無個性が混じっているのはどうかと思うが、それはさておいて、そんな難関を突破したクラスメイトに内通者? 幸い、A組に複合個性を与えられているような個性持ちはいない。となれば条件はオレと同じ、位置や視覚情報、それに類するなにかを送信し続けてしまっている可能性が高い。

──だが、そうじゃあなかったら……?

どんな覚悟や強い気持ちがあれば、捨て鉢になるというのか。あるいは、ヒーローなどどうでもいいというのか?

二年・三年の先輩方でヒーローの芽を摘まれた人や、教師陣に金で雇われた内通者がいると言われたほうが、よほど理解できる。

 

ただ、今年はオールマイトが雄英高校に赴任した年だ。

情報の解禁は教師陣にしか行われなかったと思う。生徒にいる内通者のことを考えれば、一年生のほうが確率高いと思うんだよなぁ。

 

緑谷、あるいはオールマイトであれば情報共有できるかもしれないが、そもそもオレ自身が内通者の役割を果たしている可能性が排除できない。相談が情報漏洩になることを考えると、この話題は心に留めておく程度でいいかもしれないな。

恐ろしいのは今夜、黒霧にだれかが誘拐されてからだ。

まあさすがに首魁であるオール・フォー・ワンの逮捕直後だ。しばらくは大人しくなるだろう。ここで無理攻めするような相手なら一網打尽のチャンスが生じる。この寮の存在も、そういった問題をケアするための措置だと思う。

 

いつの間にかアイスがほとんど溶けてしまっていた。

啜るようにアイスを飲むも、それを粗野だ下品だと指摘する保護者はいない。急に自立させられた気分だ。自重、自重。

 

みんなそれぞれ過ごしていたが、新しい自室が恋しいという気分もあるだろう、九時を過ぎたくらいで解散という流れになった。

 

「策束、お風呂行こうぜー」

 

切島に言われ立ちあがる。家では一人で風呂に入ることが叶ったが、初めての浴場だ。どうなるかわからん。

風呂には残りの男性陣のほとんどで向かうことになった。来ないのは青山のみ。林間合宿でも風呂は一人で入っていたため、違和感はないな。まあ裸の付き合いを強制する必要はない。

ちなみに、こんなときでも八百万が一緒に来ようとして、峰田以外のクラスメイト一同から全力で否定される。いくら介護が必要な身体だとしても、思春期の男女の壁を早々に越えてくるのは止めていただきたい。

 

思春期と言えば──。

上に行くエレベーターに乗り込む耳郎と一瞬目が合ったのに、すぐ逸らされてしまう。今朝のホームルームからずっとこんな感じだ。視線を逸らされるたびに心が傷ついて行く……。いや、思い込みなのかなぁ。

 

恋も私生活もヒーロー活動も前途多難だ。

明日からは仮免に向けての訓練が始まるらしい。

ヒーロー活動仮免許試験、たとえオレに個性があったとしても、誰かの顔色を窺ってどうにかなる腑抜けた試験ではない。いまや五体不満足。なのに言い訳すら封じられているときた。

 

「まあ、やるしかねぇよな、上鳴、瀬呂!」

「ま、やってやるよ!」

「がんばろうぜ!」

 

──じゃんけんで負けて、明日は訓練から帰ってきたらオレたち三人で風呂掃除当番となった。

片手片足がないことで腫物のように扱われるよりはマシだが、早々に厳しすぎないか? お前ら。

 

 

◇ ◇ ◇ ◇

 

 

寮生活二日目の早朝。見慣れぬ部屋を確認しながら実感する初めての一人暮らし。わくわくしている気分と、片手足のない生活でどうなるのだろうという不安感は残っている。

あと、聞こえてくるラジオ体操の音量に腹が立つ。こんなことならちゃんと防音扉閉めておけば良かった。

 

そんな後悔を抱えたまま迎えた、早朝から教室に呼ばれた。夏休みは十日ほど残っているため、ホームルームと呼ぶには気が早いだろう。

黒板の前に立つ相澤先生は、お馴染みの寝袋を脱ぎ去って語り出す。

 

「今後、ヒーロー科一年A組は仮免取得を当面の目標にする。

「ヒーロー免許ってのは、人命に直接関わる責任重大な資格だ。当然、取得のための試験はとても厳しい。

「仮免と言えど、その合格率は例年五割を切る。

「そこで今日からキミらには、最低でも二つ──必殺技を作ってもらう」

 

クラスメイトが『必殺技』という単語に色めき立つ中、教室にミッドナイト、セメントス、エクトプラズムの三名が入ってきた。

 

「必殺。コレ即チ、必勝ノ型。技ノコトナリ」

「その身に沁みつかせた技・型は他の追随を許さない。戦闘とはいかに自分の得意を押し付けるか」

「技は己を象徴する。今日日必殺技を持たないプロヒーローなど絶滅危惧種よ」

 

絶滅危惧種であり、得意を一切押し付けられず、技一つ持っていない無個性がいるんですがそれは……。

三者三様、自信満々といった表情で言い放つ三人を見ながら、相澤先生が引き継いだ。

 

「詳しい話は実演を交え合理的に行いたい。コスチュームに着替え、体育館ガンマに集合だ」

 

いやぁ……。

いまのうちに普通科に移動させてもらおうかな……。

 

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