【完結】無個性ヒーロー   作:南畑うり

39 / 138
仮免試験・顛末

 

五十音順の合格者発表──。

その中にオレの名前は無かった。

 

雄英組が自分の名前を確認して喜んでいる。周囲の反応を見る限り、落ちたのはオレだけか。心操も頬を赤らめて笑顔でモニターを見上げている。

ため息一つ零れそうになったとき、口田がオレの視界を塞いだ。

 

「策束くんの──」

「シー」

 

泣き出しそうな彼の声に、思わず笑ってしまった。

周囲は喜んでいるやつのほうが多い、水を差すのは後で良いだろう。試験の手ごたえもそうだが、減点式と告げられた時点でお察しである。

 

公安委員会プリントを配布し始めた。一人ひとりを採点したものになり、評価が書かれている。

 

百点満点中、まさかの【ゼロ点】だった。

思わず鼻で笑ってしまった。

 

『減点

『ヒーロー公安委員会

『- 点……個性の未使用。

『- 1点……不用意な戦闘。

『- 1点……適所からの移動。

『- 1点……避難時の案内不足。

『HUC

『減点無し。

『減点理由……果敢であることは評価できるものの、一次・二次選考を通して個性を使用は認められず、不用意な突出行為が見受けられた。今後のヒーロー社会に戦闘の有無は必須事項であり、個性を使用せずに乗り越えられる状況の方が稀である。そのことを自覚しなければならない』

 

無個性であること。それがまさかここまで露骨に否定されるとは思っていなかった。【空白】ではあるが、個性の未使用がマイナス百点。ほかの点数と合わせ実数値マイナス三点か。赤点どころか、マイナス評価をされたのは人生で初めてだよ。

 

無個性の未使用がマイナス何点なのかは知らないが、明らかに基準外。そりゃあ無個性ならヒーロー免許いらないだろう。

個性が使えないのだから。

守られていればいいのだから。

ヴィランにも成れないのだから。

 

「まあ、来年だな」

 

来年──来年も、千五百人中百人とかなのだろうか。

来年は、無個性に対する制限が課せられるのだろうか。

 

また義手がギリギリと音を立てている。ああ、調整が必要だ。

なら、オレを百人の中に残すなよ……。

そうすれば、まともなヤツが残っていたのかもしれないのに──。

 

「策束はなんて書いてあんだー?」

 

瀬呂が笑って声を掛けてきた。

意外なことに、彼の中ではオレが合格していると思っていたのだろう。

 

「俺八十四! 見てすごくね!? 地味に優秀なのよね俺ってー!」

「なんだ、高得点じゃん」

 

「六十一点……ギリギリ」と呟く尾白たちにオレの点数を告げるべきか迷っていると、八百万と耳郎が揃って声を掛けてきた。

人が集まるさまに口田の表情がどんどんつらそうになっていくのだが、一番つらいのはオレなので落ち着いてくれ。

 

八百万の九十四点に続き、耳郎にも点数を自慢されたのでどう答えようか迷っている間に、公安委員会のアナウンスが続いた。

 

『えー合格したみなさんは、これから緊急時に限りヒーローと同等の権利を行使できる立場となります。

『すなわち、ヴィランとの戦闘、事件・事故などからの救助など、ヒーローの指示がなくともキミたちの判断で動けるようになります。

『しかしそれは、キミたちの行動一つ一つに、より大きな社会的責任が生じるということでもあります。

『みなさんご存じの通り、オールマイトというグレイトフルヒーローが一線を退きました。

『彼の存在は犯罪の抑制になるほど大きなものでした。心のブレーキが消え去り、増長する者はこれから必ず現れる。拮抗が崩れ、世の中が大きく変化していく中、いずれみなさん若者が、社会の中心になっていきます。

『次はみなさんがヒーローとして規範になり、抑制できるような存在とならねばなりません。

『今回はあくまで、仮のヒーロー活動認可資格免許。半人前程度に考え、各々の学舎で、更なる精進に励んでいただきたい』

 

……良いことを言うじゃあないか。すこしは見直してしまった。

義手では手拍子できないことが悔やまれると思ったが、誰も拍手の準備はしていなかった。恥ずかしい。

 

その後は不合格者に向けての救済措置の説明となった。

口田が嬉しそうにオレを見るので、笑いかけると恥ずかしそうに俯いてしまった。

 

──問題は……個性だ。

 

救済措置。言ってしまえば補習だが、三か月の特別講習の受講後、個別テストの結果によっては仮免の発行の準備があるという。

落ちた面々が湧きたっている。……夜嵐も落ちてたのか、まあ彼は大丈夫だろう。

 

説明は続き、質の高いヒーローが多く欲しいだの、一次選考は落とす試験だの、好き勝手のたまう様には先ほど上がった評価がさらに下ってしまった。

おまけに「至らぬ点を直せば──」などと……。

 

これはさすがに……参るなぁ……。

 

『では、合格者の方々には仮免許を交付いたします。五十音順でお渡しいたしますので、どうぞ、お並びください。私は先に、眠ります……』

 

マイクにいびきが入っている……。人手不足もいいところだろう。

せせら笑っていると、切島に肩を叩かれた。

 

「どうしたんだよ、早く行こうぜ」

「いやぁ、落ちちゃったよ」

 

切島だけでなく、そばにいた上鳴にも驚かれてしまう。

 

「なんで!? 指示めちゃくちゃ助かったのに!!」

「あー、個性使ってないのに前出過ぎだってさ」

 

そう言うと、上鳴は状況を理解したのか笑い出した。切島も安心したのか、胸をなでおろしている。

 

「いやもう本当反省してくれよー! 俺嫌だぜー、策束の怪我これ以上見るの」

「だな、講習受けるんだろ? 先に待ってるからよ」

 

心操や他のクラスメイトもオレの不合格にようやく気付いたのか、後ろめたさを与えてしまった。不合格理由を説明すると、やはり上鳴同様、安心にしたように笑ってくれた。

 

仮免許の交付の列に並ぶみんなを遥か後方で眺めていると、夜嵐が近寄ってきた。

彼は今朝と同じように地面に頭を擦りつけるようなお辞儀をして叫ぶ。

 

「俺、馬鹿だったっス!!」

「……え?」

「アンタが声掛けてくれなきゃ、状況なんて全然把握できてなかったっス! しかも轟のせいにして、本当に申し訳なかったっス! さすがっス雄英!」

 

見れば、右手にはくしゃくしゃになった結果票が握られていた。

おそらくはオレの指示を肯定するような内容が書かれていた、ということだろう。たいしたことは言っていないし、そもそも夜嵐もオレも不合格だ。

そのことを話したかったが、夜嵐はすこしばかり思い込みの激しい少年らしい。話が次々に広がっていく。

 

「アイツ良いヤツっスか!? すごい嫌いなんですよねアイツの目!」

「轟の?」

「そう! エンデヴァーみたいで!」

 

エンデヴァー? 直接話したことはないが、眼光鋭いよな。

夜嵐って真っ直ぐでいいね。部下にも上司にもしたくはないけど。

 

「まあ、なら平気じゃねーかな? 轟って天然だよ」

「天然!? アイツ天然なんスか!! 面白いっス雄英!!」

 

「天然だよーキミに負けず劣らずー」と口にするのは憚られたので、肩を竦める程度でお茶を濁す。士傑のメンバーが戻ってきたらしく、夜嵐は「補講で会いましょう!」と元気よく去っていった。

 

はぁー……どうしよー……。

せめて『個性の未使用』が強制的に五十点マイナスならまだ良かった。残り五十点を完璧にこなせば良かったのだから。

だが、これは……雄英は見越していたのだろうか。相澤先生になんて言おうかなー。

 

誰かに肩を叩かれた。

慌てて顔を上げると、耳郎のきょとんとした顔。「おめでとう」と笑うと、恥ずかしそうに前髪を押さえつけ、そそくさと離れられてしまう。

後ろ手に、交付された仮免許を見せられた。

 

「前髪よれちゃった」

 

コスチュームのヘッドセットに押さえつけられていた影響か、確かに彼女のエンジェルリングの写真映りが心なしか悪い。

 

「大丈夫、可愛いよ」

「ま──たそういうこと!」

 

冗談は言っていないんだけど、いつになったらこの程度のリップサービスで恥ずかしさを捨ててくれるのか、彼女のイヤホンジャックでバシバシと叩かれる。

他のメンバーも戻ってきたタイミングで、飯田がバスに戻ろうと発言し移動を開始する。

 

バスに戻ると、真っ先に相澤先生がオレを呼び出した。

 

「見せろ」

 

バスの前でお互いの仮免許を見せ合うクラスメイトたちから少し離れ、相澤先生に配られた評価表を手渡す。

しばらく文章を読みこんだ相澤先生は、書類に目を落としたままオレに言う。

 

「……納得してるのか?」

「まあ、しかたないですよね。優秀なヒーローが欲しいんですって」

 

その通りだ。

オレだって雇うのならば人材は選ぶ。「僕は可哀想だから雇ってください」なんて言う輩を雇うわけがない。優秀なヒーローに、個性は絶対に必要だ。

 

「それより千五百人の百人に全員入り込めたんですよ。すごくないですか? オレは半数くらい落ちると思ってましたけど、相澤先生は?」

 

努めて明るく言った。それが──良くなかったのかもしれない。

 

「俺は──全員受かると思っていた」

「は、はは……」

「笑うなよ」

「……すみません」

 

くそ、なんだよ。鼻をすすって相澤先生から視線を外す。

相澤先生が周囲の生徒にバスに乗るように指示を出すも、オレが乗り込もうとしたら手で止められた。バスの中にいた生徒たちから不安そうな表情で見られたが、オレもどうしたらいいかわからない。

 

オレを残してバスを発車させた相澤先生は、「行くぞ」と指示を出して多古場競技場へと歩き出した。正面ではなく、関係者入口から中へ進むと、そこには上半身裸の中年男性が何人かが涼んでいた。

服装から見るに、おそらくは二次選考でヴィラン役だった方々だろう。不審そうにこちらを見つつ、オレの顔に気づくと気さくに手を振ってくれていた。

 

「ヒーローってのも大変だな」

 

狭い、長い通路に、相澤先生の声が反響した。あんたもヒーローだろうというツッコミは野暮なのだろうか。

入口付近は二人の足音が響いていたが、奥へ進むと男性の唸るような大声が聞こえてきた。言い争いというか、一方的に怒り狂っているようである。

あまりお近づきになりたくないのだが、相澤先生の足取りに淀みはない。

 

怒声が聞こえるのは、会議室と名付けられた部屋の中から。そしてその言葉のいくつかに、オレの名前が含まれていた。

 

『なら正式に策束に言えばいいだろう!! 無個性にヒーロー免許は与えられないと!!』

 

それは──オレのための怒りだった。

 

相澤先生はノックもせずに強く扉を開けて、声の響く室内に静寂を与えた。

中には、ヴィランのコスチュームを着こんだままの何人かに身体を引っ張られているギャングオルカが仁王立ちしていた。

 

「ギャングオルカ、うちの生徒が申し訳ありません」

「イレイザーっ」

 

ギャングオルカがオレを視認したのか、恐ろしい目を大きく見開く。彼の背後には公安委員会らしきスーツ姿の男性たちが何人かいて、すこし気まずそうにオレを見ている。

 

「えー……策束くん」

「はい」

 

代表して一人、目良という公安委員会が声をかけてきた。胸倉でも掴まれたのか、ネクタイが曲がっている。なるほど、あわや暴力沙汰かな。まあ胸倉掴んだら暴行罪になるのだけれど、さすがに現役トップヒーローと公安委員会の間にそんなことは認められないだろう。

 

「結果は、見ましたね」

「はい」

「無個性に対する規定はありません。いままでも、これからも。理由は、それが差別に繋がるからです。しかし、それでも、無個性がヒーローに選ばれることはありません」

 

──言い切った。

 

「去年、何人のヒーローが殉職したか、知っていますか?」

 

目良はすこしずつ話し始める。オレに向けて、ギャングオルカに向けて、相澤先生に向けて。そして、おそらくは自分自身に向けて。

 

「凶悪犯はヴィラン連合だけではありません。ヒーロー殺しなど氷山の一角。たまたま【海面】より上にいる者をマスコミはさも【いま現れた】かのように報道を行う。

「もちろんヒーロー殺しが上だ下だの話ではありません。ただ、ヒーローは命を懸けねばならぬ、ということです。

「ええ、ギャングオルカ、知っていますとも。保須市でヒーロー殺しと対峙したヘルメットマン。そして先の神野区で、キミが出会ったヴィランのことも。策束業くん、キミの命を賭した行動には尊敬していますとも。

「ですが、今日の試験で分かったことがあります。キミは、早死にするでしょう。

「キミは冷静だ。ヴィランと要救助者をポイントとして勘定しましたね。なのに、キミは要救助者ではなくヴィランと対峙することを選択した。

「それは落とした理由ではありませんが、キミがそう遠くない未来、命を落とすことに繋がります。

「キミに個性があれば、個性の使用をさせるためにヒーロー免許を発行することも検討したでしょう。ですが、キミは無個性だ。ならべつに取るべき選択肢はヒーローじゃなくてもいいでしょう。

「我々を見なさい。誰一人武力を持っていません。ですが、成すべき仕事をしています。大きな事件があれば、責任をヒーローに押し付けぬよう、我々ヒーロー公安委員会が戦闘指揮を執ることもあります。

「キミが進むべき道は、本当にヒーローでしょうか。

「策束家、大変に大きな実家だ。経営にも相当に詳しいでしょう。成績も非常に優秀。警察、消防、医者……。成りたいものに成れるキミは、自分が恵まれていることを自覚するべきだったのではないでしょうか。

「もちろん、その手足では難しいでしょう。なら、ヒーローはもっと難しい。そのレベルの怪我を負えば、多くのヒーローは引退を決めるでしょう。

「教えてください策束くん。キミがヒーローを目指す理由を」

 

──オレが、ヒーローに憧れた理由。

オールマイトに憧れた、彼はみんなのヒーローだ。

 

でも、彼に対する憧れは、オレにとってヒーローを目指す理由ではない。

 

『もう大丈夫──僕がいる』

 

そう言って抱きしめてもらった、あのときの優しい声色。優しい瞳。

誰かも、顔も覚えていない。ただ、誘拐されたとき味わった死への恐怖と、絶望の状況から救い出してもらったことだけは、忘れることなどできるはずもない。

 

問題は、この目良という男が聞きたいことは、そんなことではないところか。

オレの理由などどうでもいい。オレが無個性であることが問題なのだ。

 

示すべきは、オレの有用性。オレをヒーローにした場合、公安委員会に、この世界にどんな利点があるか──だ。

金で頬を叩く? ナンセンスだ。ヒーロー免許を金で買って、オレがヒーローに成れる? 賞賛? 名誉? そんなもの、オレのヒーローに必要ない。

 

「その問に答える前に、一つだけ、私の質問に答えていただけませんか」

「……どうぞ」

「感謝します。……私の質問は一つ、なぜ、百人にまで狭めたのですか?」

 

結局、オレからこいつらから聞きたいことなどその程度だ。その質問だって、策束家なら調べることもできるし、予想であればつけてある。

だが、その答えによって公安委員会の価値が変わる。

百人、たった百人だ。全会場を入れれば三百人。来年からは仮免だけで六百人。少数精鋭? 面白いジョークだ。神野区でオールマイト、エンデヴァー、エッジショットのトップヒーローたちがいてヴィラン連合を取り逃したことをもう忘れたのかよ。

 

「ですから、時代に合わせたヒーローの在り方というものを──」

「あはははは、良いんですよ、そういう小奇麗な言い分は。ここでなに言っても、新聞に載るわけじゃあないんです」

 

周囲の面々は黙ってくれている。おそらくはオレも値踏みされているのだろう。公安委員会にとって、無力は許されぬ存在だからな、当然だ。

 

目良も黙ってしまっている。そりゃあ彼にとっては一つの真実を否定されたからな、当然だ。それが正義だと信じ、学生たち千四百人を切り捨てた。……危ういな。

 

「……平和の象徴がなくなりました。ここ数日で、犯罪発生率が一パーセント上昇しています。このままでは、さらなる上昇まで予想されます。早急にヒーローの質を上げねばなりません」

「質、という意味で、百という数値になんの意味があります? 落ちた先輩方の中で、将来有望なヒーローは何人いたでしょうね。いいや、将来有望じゃあなくたっていい。すくなくとも、今日会場にいた受験生の中で私は誰よりも劣っています。だというのに、百人に残れた。とんだ欠陥だとは思いませんか?」

「我々としても、まさか一年生の、しかも無個性の少年が一次選考を突破するとは想定しておりませんでした。それだけ雄英が、そしてキミが優秀であることの証明になるかと、思います」

「しかし無個性にヒーロー免許は発行できない。しかも、表立って口にする理由は『ヒーローの質を高めるため』……。言えば良いじゃあないですか、無個性はダメだ。旧人類に用はないって」

 

目良が舌打ちでもしそうな勢いで眉をしかめて、視線を逸らす。

 

「まあ言えませんか。個性差別だ、ヒーロー側が口にする言葉ではありませんよね。それに、あなたにそんな権限はない。そうでしょう?」

「──ええ」

「で、あればどうでしょう。無個性に免許を与えてみては」

 

沈黙とは違う、不思議な一拍。

「は?」と口にしたのは果たして目良か、誰かか。

 

「いまのいままで、無個性がヒーロー免許を取得したことはないため、ヒーロー公安員会としては免許に個性の有無を基準に入れていなかった。だって取れないのだから。私だって、今年のクラスメイトとの連携が上手く行っただけで、来年も一次選考を突破できるなんて楽観なことは考えていない。……必死なんですよ」

「そうは、見えませんが」

「ははは、泣き顔を見せて落とせる相手ならば、鼻水まで垂らしてみせますよ。それはそうと、この場に『無個性だから』という理由で私の落選を納得していない人物は何人かいますよね。イレイザーヘッド、ギャングオルカ、あなた方には感謝してもしきれません」

 

では、と、周囲を見渡した。何人ものスーツ姿の大人たち。ああ、見慣れた光景でありがたい。

 

「公安委員会の中にも、何人かはいるでしょうね。無個性だからって無視していいのか、という人が。どのくらいの割合でしょうね。一割、二割。まあ少数派であることは間違いないでしょうが……無視できますか? 一割、二割の民意を」

 

まあ結局のところ、いまのオレに価値などない。ギャングオルカに味方をしてもらっても、それはあくまでギャングオルカの意見でしかない。

目良を始め、彼らにやってもらいたいのはオレ、延いては無個性への投資だ。

 

「反対派もいるでしょう。せっかくヒーローの枠を狭めたのに、そこに無個性を入れるのか、と。なら枠外でいいじゃあないですか。ヒーロー免許とは個性使用免許を含めた救助活動を自分の判断で行える免罪符。そこから個性使用免許を除けばいい。万が一個性が発現すれば、改めて試験を受けさせればいいだけの話だ」

「それでは、無個性は誰もがヒーロー免許を取得できるようになってしまうでしょう」

「知識があれば問題ないのでは? 試験は同じように受けさせ、別枠で起用する。ヒーローになったとしても事務所を構えさせないとか、あるいは公安委員会のお抱えにするとか、まあやり方は自由ですよ。だって、【時代に合わせたヒーローの在り方】を模索している最中なのでしょう、あなたたちは」

 

ふう、とわざとらしく息を吐く。気を抜いた十五歳の少年に見えるだろう、スーツを着た大人たちは、みんなこれで騙される。

 

「質問に答えてくださってありがとうございました。えっと、私がヒーローを目指す理由ですよね。それは、たった一つです。誰かの笑顔を守りたい。きっと、あなたたちと同じ理由ですよ」

 

笑顔で言うと、相澤先生のため息が聞こえてきた。うるさいうるさい。

オレの笑顔を見た目良は「後日改めて連絡します」と告げ、外に追い出された。

 

ギャングオルカを先頭に、集団で外に出る。

 

「絶対落とされたと思いましたが、あなたのおかげで一縷の望みが残りました。ありがとうございます、ギャングオルカ」

「……で、これからどうするつもりだ」

「幸い祖父や父には【知り合い】が多いので、すこし相談してきますよ。そのことが公安委員会に伝われば、もしかしたら私の望み通りになるかもしれませんね、ああ不思議不思議」

 

薄笑いで肩を竦めると、周囲のヴィランたちから「うへぇ」と聞こえてきた。

 

「私の推薦人としてギャングオルカ、イレイザーヘッドの名前をお借りしたいと思います。迷惑はかけません、お約束いたします」

「それは構わない。むしろ力になれず済まなかった」

「いえ、だからそんなことは──」

 

ギャングオルカがオレの義手を掴む。

 

「ありがとう」

「……どう、いたしまして」

「顔が赤いぞ策束」

 

相澤先生にからかわれ、夕日のせいだと叫んでおく。

そのままギャングオルカから、彼のサイドキックのヒーロー数名と、ついでのようにベストジーニストの名前の使用許可も出た。

一命を取り留めたベストジーニストではあるが、いまだ病床。それでも、神野区の顛末は聞いたらしい。その中でオレの話題も出たのだろう。情けは人の為ならず、だな。おつりが返ってきた。

 

ギャングオルカが用意してくれた送迎車で雄英まで送ってもらい、ようやく肩の荷を下ろすことができた。

 

 

その日の夜、オレの部屋に集まった面々が、気を抜いてダラダラと過ごしている。

 

「明日から普通の授業だねぇ」

「ヒーローに休息はありませんわ」

 

八百万と耳郎が肩を並べて、朗らかに文句を言い合っている。

いやー、今日で夏休みが終わりなのか……。例年より余程忙しかったな。

 

「宝石強盗したオールマイトに逃げられたの、もう遠い記憶の彼方やー」

「え、なにそれ面白そう」

 

口田のペットを手の甲で撫でる麗日の発言に、みんな興味津々だ。緑谷と梅雨ちゃんが口を揃えて「懐かしいねー」なんて言っているから、おそらくは夏休み始まってすぐの実技訓練の一つだったのだろう。

オレも口田や峰田たちと実技は行ったが、懐かしいなぁ……。

 

「それから《I・アイランド》でしたからね」

「あー、それねー。あれも大変だったー」

 

八百万と耳郎が視線を合わせて笑い合う。耳郎はオレにも視線を向け、笑った。

恐ろしいまでの大事件だった。策束家が傾きかけたしなぁ。まさかあのときのヴィランが神野区に関わってくるなんて思わなかったけど。

 

「プールでは策束溺れてたよな!」

「あれから泳げるようになったー?」

 

上鳴と葉隠に笑われる。泳げるようにはならなかったが、オレは成長する男だ。水辺での救助はすべて梅雨ちゃんに任せ、分業することを覚えた。へへへ。

芦戸はそれから少し指を曲げ、顔を歪める。

 

「林間合宿ってイベント覚えてる?」

「襲われた衝撃のほうが大きくて……。あ、でもフラッペ美味しかった! また作ってね!」

「はいはい」

「料理できるよな、策束って」

「尾白も意外とな。意外にできないのは、常闇か……」

 

部屋の壁に寄り掛かって腕を組む常闇に、オレと尾白の視線が刺さる。彼はいまも料理の勉強中だ。鼻を鳴らして嘴を外角へ向ける常闇に、クラスメイトが苦笑いである。

 

「あとは、神野区ね」

 

梅雨ちゃんの声に、思わずうめき声を上げた。

 

「大変反省しております、どうかお許しください」

 

ふぅ……。周囲のクラスメイトが笑ってくれるくらいには、受け入れられたか。ありがたい。

 

「まあ、今回カルマが仮免落ちて、すこしホッとしたのはある」

「あー! それちょっとわかるー!」

 

耳郎と麗日が同時に盛り上がり、何人かが同調しやがった。結構ギリギリだったんだぞ! まだ未定だし!……まあみんなの中では三か月の補習で取得できることになっているからな。確かにそれは実質合格扱いか。

 

「業さんは前に出過ぎなのです。前線は緑谷さんに任せ、私たちに指示を与えてくだされば良いものを! 適材適所! 誰も業さんを軽んじたりいたしません! もっと私たちを頼ってください!」

「ヤオモモー、落ち着いてー」

 

ぷりぷりと怒る八百万が、芦戸に笑われている。この場に切島がいなくて良かった、八百万の味方をしそうだ。

 

「ぼぼぼぼぼ僕なんて全然!」

 

部屋の端で携帯端末を眺めていた緑谷が急に奇声を上げ始めたので、笑ってしまった。

つい十日前まで、オレはコイツが内通者だと思っていたのか。演者向きじゃあないよなぁ。

 

「一生忘れられない夏──」

 

常闇の言葉に、思わず納得してしまった。

あー、ホント、忘れられんわな……。

 

風呂の順番が来るまでもう少し雑談か、そう思っていると扉が開けられた。

 

爆豪? 珍しい、メッセンジャーなんていつも断っていたのに。

しかも彼は、胡乱な目で部屋を見渡すばかりだ。一周部屋を覗いた彼は、入室の文言もなく緑谷の方へ向かう。

そして緑谷に耳打ちするようになにかを告げた爆豪は、そのまま部屋を出て行った。彼の背中に上鳴が「おやすみなー」と投げかけたが、無視である。

 

「問題児二号」

「一号いるの?」

 

呟いた麗日にツッコミを入れると、彼女と口田に物凄く驚かれた。なんだよいったい。

 

「爆豪なんだってー?」

 

上鳴が緑谷に聞くが、反応が薄い。

ぼそぼそと誰にも聞こえないような声量でつぶやいた緑谷だったが、飯田が男の風呂の交代を告げに来たため、その答えは保留となってしまった。

 

 

──爆豪と緑谷、この二人の謹慎が伝えられたのは、次の日の早朝だった。

 

 





宝石強盗のオールマイト。

第3期オリジナルアニメーション、総合58話『特別編・愛で地球を救え!』
夏休みの最初期に行われた実技訓練。宝石強盗のために店に立てこもった肩パットトゲトゲマンの確保、に見せかけたなんちゃって推理ストーリー。
ストーリーの雑さは公式にあるまじきクオリティながら、ミッドナイト、プレゼントマイクの私服(コスプレ)が見れる神回。
オチはさておき、オールマイトと緑谷が《I・アイランド》へ旅立つ切っ掛けを描いたおまけつき。頭空っぽにして見ていただきたい。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。