はてさて、個性を使用しての運動テスト。
先生曰く、最下位は除籍処分になるらしい。
放課後マックで友だちと遊びたければ、他の高校に行けってな。
まあ個性の使用のリスク、そして先生が言うヴィランや災害に対しての心積もりに関しては、いいよ。納得している。
だけどなぁ……。
「ね、ねぇどうするのカルマ! あんた無個性なのに!」
「そうだよなー。オレ受けなきゃダメ?」
耳郎に小声で言われ大きく肩を下げる。最初は五十メートル走。多少は筋トレだ有酸素運動だを繰り返したが、それでも中学校三年時の記録とはさほど変化ないだろう。参考記録扱いで戻っていいかな……。先生の言葉を借りるなら、合理的じゃないね。
「あとさ、あの……」
急におどおどとする耳郎に首を傾げる。あまり私語すると睨まれそうなので静かにしていてほしいのだけど。
「あの百って子と、あの、いや、やっぱり大丈夫、です」
急に敬語……。まあいいか。
ここから先は、さほど語る必要がないかな。オレは多少成長している気はするが、突出した記録はない。
立派な最下位はオレがいただいた。
総合点じゃなく順位を点数にしてくれていたのなら芽もあったんだけどな。というか普通に高順位だ。だけど記録らしい記録は無し。
葉隠って透明な個性の生徒に関しては限りなくグレー。ハンドボール投げで円の中で裸になったと思ったら「投げまーす! えい!」と言ってペタペタとボールを持ったまま歩き出したのだ。前屈でも似たようなことをやっていたので、もうお前注意されてしまえと思う。
ハンドボールと言えば、あの緑谷か。
噂が真実だとして、消去法で緑谷という少年が【ヤバい個性】の持ち主だと当たりを付けた。
指一本犠牲にして点数を稼ぐ。覚悟は上等ではあるが、あまりにも頭おかしい個性だろ。腕の強化? パワー系で腕や指のみってのはあまり聞かない。ゼロではないが、見た目すら変化しないとなると……。
その緑谷に対して、ツンツン頭改め、爆豪が「無個性の雑魚だぞ」とも言っていた。同じ中学出身かな。まあデメリットが強すぎて使ったことがないなら、わからなくはない発言だ。
個性出現とともに骨折を伴うなど、よほどじゃなければ使うことはないだろうし。
それよりもあの爆豪とかいうやつの好戦的な状態のほうが問題だな。初日だから放置されたのか? それとも自由だからってやつ? 冗談じゃあない。
あ、あと最下位の除籍は合理的虚偽らしい。
八百万はまるきり信じていなかったようだが、無個性のオレがそこに収まっただけで、もし他の誰かがオレより下だったのなら、本当に除籍処分になっていた可能性はあると思う。
というか無個性のオレがいるのに、順位で点数つけていないのなら、オレが最下位になるに決まっている。個性にデメリットが付きまとう緑谷は危なかった。骨折して他の競技が受けられないなんてなれば、どうなっていたのだろうか。
その後はA組だけ教室で入学式を簡単に行い、教壇でスピーチは読む羽目になった。
明日からが本番らしいが、今日の結果だけ見るなら、すぐに除籍処分になってもおかしくないんだよなぁ、オレ。
次の日から、雄英高校での生活が始まった。
昨日があんなことあったので、違和感はまだガッチリ残っているが、授業の合間の休み時間中にクラスのみんなと自己紹介をして、なんとなく人物像を把握する。
オレに対してされる質問は、基本的に八百万との関係だった。
「業さんとは幼いころからのお友達ですわ」
「百お嬢さんのお父さんとは、私の父が仕事で大変お世話になっています。口調で関係性を察してください」
「業さんが、「オレ」だなんて、初めて聞きましたわ。猫を被っていらっしゃっていたのですね」
「TPOです、百お嬢さんと話すときは、大人が常におりましたから」
「いまはいらっしゃらないですよ」
「はは、これは一本とられました」
あはは、うふふと笑う二人に、クラスメイトはどこか引きつった笑いを上げた。困ったことに、彼女は素で、オレが腹芸していると見抜かれているのだ。名俳優を自負しているんだけどなぁ。
「ところでカルマちゃん」
他にも質問があるらしく、手を前に出して猫背をキープする、姿勢の悪さが飛び切りすごい子が声をかけてきた。この歳でちゃん付けされるとは思わなかったな。
「えっと、蛙吹だったよね」
「梅雨ちゃんって呼んで。あのね、私気になったらなんでも聞いてしまうの。カルマちゃんの個性ってなに?」
非常にストレートな問いで、しかも隠す必要がないのですっと答えるか。
「無個性だよ」
言った途端、クラスメイトが割れんばかりの悲鳴を上げる。
驚かなかったのは八百万と耳郎くらいだな。爆豪と轟は驚いたわけじゃないだろうけど、睨みつけるようにオレを見ている。
「個性把握テストでなんにもしてないから察してくれるとは思ったけど。個性はない。今後オレと組むときは足引っ張るんでよろしく!」
みんな信じられないものを見る目だ。とくに緑谷なんてひどい顔をしている。なんだろう。
昼休みが終われば基礎学科の授業となる。英語ではあのプレゼントマイクが物凄く普通に授業をしている。内容は一般的な高校一年生の授業内容だ。入試を乗り越えてきたこのクラスメイトなら答えに詰まることはほとんどないだろう。それ以外の教科でもプロヒーローが授業を受け持っていて、二足の草鞋を綺麗に履きすぎて正直ちょっと怖い。
そして午後。
入学して二日目。初めてヒーロー科であることを自覚する授業、ヒーロー基礎学。
担当はナンバーワンヒーロー、オールマイト。さすがにクラスメイトからも興奮が伺える。オレだってそうだ。オールマイトだぜ?
初日だからてっきり座学だと思い込んでいたのだが、初日から戦闘訓練を行うらしい。ヒーロースーツは頼んであるが、たぶん毛色が違うんだよな……。
案の定、みんなの前に出ると指を差されて笑われた。
「スーツじゃん!! 策束のコスチューム社会人すぎる!!」
「安全ヘルメット! 拡声器!? どこの現場監督だよ!」
『本日はよろしくお願いします』
拡声器での発言に笑ってくれる上鳴や切島。まあ笑いたくなる気持ちはわかる。
オレらしいコスチュームを考えるのなんて保育園以来だ。結果、ヒーローになろうがなるまいが、どうせ将来着るのだから着慣れておこうということで、スーツになった。ちなみに鞄も持っていて、なかにはインカムが仕込まれている。とても重い。
腕には仕込みマイク。ネクタイピンとボールペンにはカメラ。生地は防刃。と、わりと至れり尽くせりである。雄英様様だ。
ヘルメット? 安全第一だよ。
他の面々のスーツは、それぞれ個性的なデザインだ。唯一無二といっても過言ではないだろう。とくに、八百万の……いや葉隠も……。
『羞恥心を大切にしてくれよお!』
「うわびっくりしたー。え、なにスーツ?」
「葉隠は良いとしても……。百お嬢さん……その、そのコスチュームは、さすがに……」
お父さんお母さん泣いちゃうよ!?
スーツで身体の凹凸が浮き出るってレベルじゃない。この二人に至っては痴女だよ痴女。
まあ葉隠は個性で服着こんでるようなものだけどさ。
八百万は胸もそんなギリギリ攻める? ってくらい空いているし、足もギリギリまで素肌を晒してしまっている。
彼女は「希望通りでしたのよ」と嬉しそうに笑っているが、こっちは全く笑えない。麗日ですらタイトなスーツに羞恥心を抱いているのに、ピッチリで露出凄いことになっている八百万がなんでそんな嬉しそうな顔をできるんだ……? そういう趣味だったりする?
さて、オールマイトの説明を聞くに、戦闘訓練では二人一組になって、二組が攻める側のヒーローチーム、守る側のヴィランチームになって屋内戦闘をするらしい。戦闘訓練とは言うが、目的は戦闘を前提した目標物の奪い合いである。戦闘しなくてよいのなら、オレは戦闘する気なんてない。
よーいドンの体術で勝てる可能性があるクラスメイトは葉隠くらいだ。緑谷? 殴られたら死ぬね。
ヒーロー側の勝利条件は目標の確保か、ヴィランの撃破。
ヴィラン側の勝利条件は制限時間までの引き延ばしか、ヒーローの撃破。
ヴィラン側がやや有利かな。目標物は核兵器らしいし。
くじ引きの結果、ああ、もう、八百万とかよ。
「よろしくお願いいたしますね、業さん」
「はい、よろしくお願いいたします、百お嬢さん」
ニコリと笑顔を向ける。
まあ、これでヴィラン側なら勝ったも同然だな。というかコイツの個性に勝てる相手の想像がつかん。全ヒーロー含めても彼女ほどの強個性はお目にかかれないだろう。その分デメリットもあるが、この程度の試験で露見するようなものじゃない。
最初の組み合わせは緑谷、麗日ペア。爆豪、飯田ペア。いやこれ絶対くじ引きやらせじゃねーか。さすがに学校側にもオレと八百万の関係バレてるだろ。見ろよ耳郎と上鳴がペアだぞ。
最初の組以外はカメラルームに移動。その移動中、インカムを手渡す。彼女には本来必要はないが、このインカムは少しだけ特殊で、市販されているインカムとの互換はないのだ。
さて、八百万百の個性は『創造』。さすがに彼女の質量以上のものは作り出すことはできないが、構造さえ理解すれば本物と遜色ない銃を創り出すことも可能。正直化け物個性すぎるんだよ。
「ヴィラン側なら作戦があります。ヒーロー側なら、相手に合わせて考えましょうか」
「頼りにしてます。無論、私も頑張りますので!」
「もちろん。すべて百お嬢さんの力にかかってますよ」
話しているうちに緑谷と麗日がヒーロー側としてビルに侵入していた。ヴィラン側の爆豪はスタートとともに守りを飯田に任せて遊撃か。本来なら逆だが、核が張りぼてなら悪くない選択肢だ。もっとも爆豪のあの様子……。計算し尽くしてって作戦じゃあなさそうだな。
案の定、遭遇戦で爆豪は麗日を取り逃がす。いや、そもそも眼中にない。しかも逃したことを飯田には連絡しない、と。さすがに頭が痛くなる情けなさだ。
「見る価値がない」
攻撃を避け続ける緑谷に賞賛が集まるが、オレの心象はその程度だった。価値がない。意味がない。この訓練は一種の劇だ。ごっこ遊びではあるものの、演者がヒーローとヴィランに成りきらないのならば見る必要もない。
その点、悪い笑みを浮かべ部屋のものを片付ける飯田は見物だ。そうだな、爆豪が緑谷に執着しているのは、昨日のハンドボール投げから周知の事実になっている。その爆豪が先行したのだから、緑谷をマークするに決まっている。となれば、最初に部屋へ来るのは麗日であり、彼女の個性を警戒するのは重要なことだ。勝っても負けても、間違いなく良い点として評価されるだろう。
逆に相棒の爆豪は、ヴィランだヒーローだと関係ないらしい。完全に緑谷を倒すことしか頭にない。
「見る価値ありませんよ、オールマイト」
「む、むぅ……」
オールマイトが唸るほどだ。
「この組み合わせにしたのはこれが見たかったからだとは理解していますが、いまの爆豪の攻撃は完全に私闘の域です。緑谷、麗日、飯田の三名は十分に動けているし、学科の指標も理解しています。辞めさせては?」
いっそ、ヒーローを。
「組み合わせは、偶然ダヨ」
声が裏返るナンバーワンヒーロー。
そして、まだ止めるつもりもないようだ。教官はオールマイトなのだから、これ以上口出しすればオレの評価にもつながる。黙っておこう。
残り六分となったとき、とうとう爆豪が緑谷を見つけ、状況が一変する。
核を見つけた麗日の連絡を受け索敵を怠った緑谷に、爆豪は明らかに度が過ぎる一撃を放つ。
カメラルームにまで響く爆音と振動。爆豪が腕に着けたコスチュームから放った攻撃の衝撃が、ここまで届いたのだ。
さすがオールマイトはこの威力が予想できていたのか、攻撃前に注意を促したが、爆豪の返答は「当たらなきゃいい」と。ビルの一角を消し飛ばす攻撃をしておいて、だ。
情けない。
案の定、二度目はないと指導された。
周囲のクラスメイトはあまりの威力にドン引きであるし、オールマイトも止めるべきだとはわかっているはずなのに。
当の緑谷が、引く気ないんだものなぁ。
緑谷と麗日がなにかの相談をし、二人が位置取りを変更する。
面白い。
「緑谷は、すでにヒーローだ」
オレのつぶやきが聞こえたのか、オールマイトがこちらを確認したのがわかったが、いまはカメラに集中させていただこう。どんな威力なのか、どんな反動なのか、オレには理解できていないのだから。
緑谷の一撃は空を切り……二階から屋上までをぶち抜いた。
あまりの威力に全員が目を瞬かせただろう。
爆豪の一撃もすごい。それは否定しないが、緑谷の拳は、打ち方は適当で、足腰に力を込めているわけではなく、腕を振りぬく、言ってしまえば力を込めていない拳だったのだ。
「ありえねぇ……」
良かった。
訓練とかそういう意味じゃなくて、ヒーローを目指してくれて良かった。彼がヴィランじゃなくて本当に良かった。
ビルを五階分【拳圧だけで】ぶち抜いて、瓦礫を空に飛ばす緑谷に、賞賛の言葉など誰が送れよう。みなわかったはずだ。もしも彼が個性を使いこなせば、ここにいる誰も、彼には届かないということを。
そして爆豪の一撃は左腕でしっかりとガード。右腕は複雑骨折して、パッと見は戦闘不能でヴィラン側の勝利だが。
緑谷の一撃は、核のルームまで被害が出ており、麗日が瓦礫飛ばしで飯田の目くらましを成功させ、核に飛びついて、ヒーロー側の勝利。
狙いは良かったが、建物に被害を出しすぎだ。力業って選択肢を増やせるのは良いことだが、選んで効果的かどうかまでは理解が及ばないらしい。
保健室に運ばれる緑谷を見送り、講評となる。反省点としてはヒーロー側に多かったが、そもそも爆豪がソロプレイに走らなければこんなことにはならなかった。おおよそ八百万が発言した「爆豪の私怨による行動」「建造物のダメージ」「麗日の気の緩み」の三点に関わってくる。
二組目でオレ、八百万ペア。障子、轟ペアだった。オレたちがヴィラン側だ。今度は推薦組を合わせてきたか。そんなペア合わせにオレを入れないでほしいよ。
「百お嬢さん、彼、轟くんの個性って範囲とかわかります?」
彼の個性は、個性把握テストでも使っていた氷系の個性だ。範囲、威力、継続時間なども不明だ。デカい氷作られて屋上から突入、なんてことされたらさすがに勝ち目が薄い。
『申し訳ございません。推薦での試験はお互いほとんどわかりませんの。ですけれど、半冷半燃だとは聞いたことがあります』
「複合個性!?」
一人の人間が個性を場面によって使い方を分けることは珍しくない。創造の個性をもつ八百万なんて最たる例だろう。だが、ほぼ別の個性を同じ人間が使うことは滅多にないと言ってもいい。少なくとも現ヒーローにはいないはずだし、オレも見たことは初めてだ。それが同じクラスメイトだとはな。
これはさすがに作戦が通らない可能性も出てきたか。
『ところでさきほど言っていた作戦ですが、これで十分でしょうか?』
「ええ。一階にはすでに罠を仕掛けましたし。あとは私たちが三階と五階に分かれてわちゃわちゃしていれば、時間切れで勝利ですよ」
作戦は単純明快。
張りぼての核は動かせるし、意外と軽いことは分かっていたので、あらかじめ一階へ移動させておく。丁寧な探索をする組になら五階へ置き直したいが、罠は仕掛けた。気づかず上の階に来てくれればオレたちの勝利である。
三階にはオレ、五階には八百万がいる。二人はそれぞれ偽物の核を守るように配置されているのだ。足音や気配を頼りに上に上がってくれることを願おう。これで勝てれば、創造の個性様様である。
「百お嬢さんはそのまま防衛を。個性のストックがなくなってしまっても構いません」
『でも、わざわざ本物を一階に隠す必要はなかったのではありませんか?』
「不安はわかります。ですが、これは試験。なにを選択し、なにをしようかと見られています。成功すればヒーロー側に対して自戒を求められますし、失敗すればヒーロー側を賞賛できます。そして創造の個性の有用性はここまでで十分立証できています」
もっと言えば、オレのために個性を使え。
そうすればついでのような勝利をプレゼントしよう。
彼女の不安を聞きつつ、時間になったので外を見る。
ヒーロー二人は正面玄関から侵入。なにをしているのかは見えないが、準備する時間があれば様子を見ることもかなったのだが。
核を持ちながら廊下へ向かう。
できるなら八百万のほうへ行ってくれればストレートな勝利なんだが。やはり五階はオレが受け持つべきだったかな。三階で八百万に時間を稼いでもらって──。
寒気が──。
「作戦失敗!! 五階の防衛と脱出を! 足元が凍ります!!」
一階の階段から急激に侵略してくる氷。建造物への攻撃はやめろとあれほど!!
核だけは凍らせまいと両腕を上げておくが、氷はさきほど連絡したように足元しか凍らせなかった。だけど、コイツならできるんだろうな。すべてを凍結させることすらも。
ゆっくりと階段を一歩一歩登ってくる、轟焦凍。ずいぶん余裕で有難すぎる。
「作戦失敗? 声がデケェな。お前が持ってるそれって、八百万が作った偽物かよ」
凍った瞬間は必死に持ち上げたが、彼がのんびり来る間に、とっくに床に落としていた核に彼の視線が入る。
「五階にいるのは八百万だ。本物の核もそこに。三階の策束は拘束する」
目ざとく偽物の核もタッチしたうえで、確保用テープをオレに巻き付ける。
「悪かったな。レベルが違いすぎて」
「もう勝ったつもりかよ。情けねぇ。まだヴィランはいるぞ」
印象付けるために指を上に向けるが、一瞥されてさようならだった。そしてまた呑気に歩き出す轟。
あー……走ったほうがいいと思うけど。
案の定、八百万が守っていた偽物の核が触れられると、残りは二分。八百万は、上手いこと外に逃げ出してくれたようだ。
これでヒーロー側の勝利は本物の核を見つけることだけになる。
五階にはヒーローが二人いて、階段で一階に降りるだけで二分などあっという間に削れていく。三階の階段で寛いでいたオレと、移動ですれ違う轟の目が合う。
「一階の端ー。頑張れー」
笑顔で笑いかけるが、触ったところで後の祭りだ。個性を使わず、慎重に一階から探せば見つかったんだけどな。隠してはあるけど。
それから一分後、オールマイトがヴィラン側の勝利を告げた。
全員集まっての講評では、どや顔の八百万と、沈痛な面持ちの轟、障子。
「八百万くんの個性は素晴らしいね。複数の目標を出現させ、ヒーローに囲まれてもしっかりとした防衛。惜しむべきは、体術による反撃が皆無だったことかな。だけど脱出のタイミングはベスト、いや我々にとっては最悪だ。素晴らしい判断力だったよ」
「轟もやべー! って思ったぜ! 制圧一瞬じゃん!! 結果は、まあ残念だったけど」
「結果は俺の索敵不足によるものだ。あれほど強力な個性であっても、サイドキックが無能だからこういう結果になってしまった……。すまない轟……」
オールマイトや切島の賞賛のあとに、障子の後悔がつづられる。
索敵不足というか、見返したところ、彼は複製腕を使って三階と五階の、オレたちの位置を特定している。
問題は、その相棒の轟だ。
「それよりも、最後のほうで本当の核の場所を教えてしまったのはなんで? ああいうの、良くないと私は思うけど」
カエルの個性を持つ蛙吹に指摘される。
「あそこまで進んでしまえば、試験の結果が負けでも勝ちでもどうでも良かったからね。捕縛されなければ、一階に隠した核を建物から運んでしまおうと思ったけど。まあ、扉に張った壁色のポスターも氷でうまい具合にカモフラージュできていたし、当のヒーローがのんびりと五階まで行ってくれたから、時間の猶予があったのはたしか」
そういうと、視界外で轟が強くこちらを睨む気配が届いた。
「とても良い多重作戦だったね。それを上回る範囲の氷の個性も素晴らしかった。だが彼が言ったように、ビルを制圧したからって油断するのはいただけないな」
「……はい。障子もすまなかった、俺の慢心だ」
負けた二人は自身のせいだと繰り返し謝罪しつつ、次の組へ試験が移る。
ちなみに、一階に仕掛けた罠は、さきほど述べた通りポスター。壁と同じ色の大きなポスターを創造してもらって張り付けただけだ。よく見れば部屋が一つ足りないこともわかっただろうし、そもそもビルの外周を一回りすれば核が見えるようにしておいた。
すこしは油断を自戒してくれると良いのだけれど。
「策束……」
次のペアの様子を見ていると、轟が話しかけて、しかも頭を下げてきた。
「お前の言う通りだった。情けないことをした」
「ん、いいんだよ。そのための訓練だろ」
実際、オレと轟じゃレベルが違いすぎる。オレがヒノキの棒でスライムと戦っている最中、すでに彼は魔王城にいる勇者だ。しかもオレはレベルが上がらないという縛りルールまで課せられている。
「次は絶対勝つ」
「まあそうだろうよ」
彼の肩を叩いて、モニターに視線を向けると、彼も一緒になって見始めた。
放課後、改めて自己紹介や、今日の授業の反省会などを行うことになった。
緑谷もやってきて、そして爆豪を追いかけすぐに出て行ってしまう。
「なあ策束ー。オレと切島はなにが悪かったんだよー」
聞いてきたのは瀬呂という、肘からセロハンテープのような透明の布を発射する個性の持ち主。ヒーロー側になった葉隠と尾白のペアに敗北している。
「瀬呂の個性で核の周りを囲ったのなら、お前らが一緒になって守る必要ないだろ。迎撃に当たるべきだし、一人でもヒーローを捕まえられたのなら、切島の個性なら押し切れた。タイマン張るならほとんど負け無しだろ切島だったら」
というか葉隠の侵入に気づけなかった時点で負けが確定している。やるなら床一面に瀬呂の個性を吐き出すべきだった。尾白に気を取られていた段階で作戦が弱い。って講評でも言ったんだけどな。
他にも何人か聞いてきたが、講評以上のことなんてほとんど出てこない。
そもそも個性の使い方が下手すぎる。
いままでは公然と使うことができなかったのでしかたないとは思うが……。
六時になったのでようやく下校することになったのだが、何人か詳しく聞いてきたので、メールで返すと言ってその日はお開きとなった。