朝食を食べ終わって後片付けをしようとしたところ、爆豪に仕事を奪われた。
不思議なこともあるもんだと窓越しに空を見上げるが、晴天である。天気予報を確認していると、さすがに怒られてしまった。
おまけに爆豪どころか緑谷までも当番ですらないのに仕事をし始めたので、オレ、八百万、尾白が顔を見合わせ困惑している。
「えっと、その包帯、どうしたの?」
そう聞くと、緑谷が申し訳なさそうに事情を話し始める。
どうやら彼らは、昨晩寮を抜け出して私闘を行ったらしい。個性を使用しての真っ当な喧嘩。それを咎められ爆豪と緑谷は謹慎を言い渡されたという。
爆豪が四日間、緑谷が三日間の謹慎処分。朝晩は寮内共有スペースの清掃を担当。ついでに一日に一度、反省文の提出。
謹慎した人って初めて見た。
それを聞いた八百万と尾白はあまりの出来事に頭を抱えていたけど、当の謹慎二人の表情に陰りはない。
緑谷……お前が退学になっても助けないからな……。
雄英高校は国立なので刑事事件でも起こさなければ一発で退学になることはないだろうが、それでもトップヒーローを輩出し続けている雄英高校としては、個性を使用した喧嘩なんて見過ごせるわけがないだろう。
謹慎数日で済んだのだから、運が良いというほかない。オレや切島たちが見逃されたように、オールマイトが引退したことと関係はあるのだろうか。
尾白が原因を聞いたが、緑谷はお茶を濁し爆豪は黙ったまま。
まあ仕事を代わってくれるというのだ、あまり触れないでおこう。爆豪がまだ《爆破》しても困るからね。
片付けは二人に任せて登校の準備を行う。リビングに戻ると、緑谷と爆豪がクラスメイトに囲まれていた。
二度目の説明ご苦労様だ。何人かいないから、三度目の説明が必要になるかもしれないな。二人は周囲の学友に馬鹿だ馬鹿だと言われ続けている。爆豪が言い返さなかったのは意外だが反応は隠しきれていない。喉元過ぎれば、にならねばいいけど。
さて、今日は始業式。夏休みという感覚がほとんどなかったから、必要な行事なのかは甚だ疑問ではあるが、オレたち仮免組以外はちゃんとした夏休みを満喫していたはずだ。
教室からグラウンドへ向かう最中、周囲一年生からは弛緩した空気が伝わってくる。何人かはA組B組の姿を見かけると、ちらちらと探るような目を向けているが……。まああれだけニュースになったのだ、気にするなというほうが無理だろう。
「聞いたよA組ー」
飯田の先導をもって昇降口までたどり着くと、前の方から物間の声。
「そちら仮免落ちが一人出たんだってえぇぇぇ!?」
お前、それ言うために待ち構えていたのか……。
上鳴、瀬呂ともどもドン引きである。
切島と物間の漫才を見ていると、B組の角取ポニーがにこにこと話しかけてきた。彼女の大きな青い瞳より、彼女の腕よりよほど太い立派な角に目が行ってしまうのは許してほしい。
「ブラドティーチャーによるゥと、後期ィはクラストゥゲザージュギョーあるデミタイ。楽シミしテマス」
クラストゥゲザー? A組B組の共同授業ってことか? ヒーロー科への転科なども考えれば、普通科やサポート科との授業も考えられる。とくにサポート科はヒーロー側の個性に依存することが多い。連携という意味では頭一つ抜きんでていなければならない。
ブラド先生の報連相はちゃんとしていそうだなー。それとも相澤先生は、仮免時のバイスタンダー同様、最低限の情報だけで状況を見極めろと示唆しているのかな? 面倒事は省いたほうが合理的とか考えていそうだが……。
思わぬ情報を落としてくれた角取に、物間が耳打ちをする。
その彼女が、囁かれた言葉をなぞって発言をする。
「ボコボコォに、ウチノメシテヤァンヨ」
純真無垢な留学生に一生使わないであろう単語を教えた物間は、拳藤によって殴り倒されていた。
「オーイ、後ろ詰まってんだけど」
背後から声を掛けられ、飯田が慌てて謝罪する。とは言っても、声の主の顔を見ると、飯田は笑顔になって挨拶した。
「おはよう! 心操くん!」
普通科を引き連れて現れた心操はさながら普通科のボスだな。ヒーロー科ですら落ちた仮免に一発合格。実際ヒーローに一番近い男だろう。
「かっこ悪ぃところ見せてくれるなよ」
威風堂々、彼は見事ヒーロー科を海のように割ってみせた。背後の普通科は何人かオレたちを見て笑っている。ざまぁみろとでも言うかのようだが、何人かはオレの足を見てヒソヒソと話し始めている。あまりいい噂は広がらんだろうなこれは……。
グラウンドに整列してすぐに、根津校長の挨拶が始まった。
根津校長の毛並みの話から日本のヒーローの象徴が喪失した話まで。長い上に話の脈絡がとんでもなかったので聞き流していた。
要約すると、ナンバーワンヒーローの喪失による危機管理を、ヒーロー科全体はインターンで高めてくることと、毛並みの艶の大切さは睡眠。夏の日光に照らされ続けた髪の毛のダメージやいかに……。
職場体験かー。またマニュアルさんのところにお世話になりたいな。
続いて生徒指導のハウンドドッグ──の言葉があまりにも聞き取れなかったため、ブラドキングが代わりに昨晩ケンカした生徒について話をしていた。
はぁ、とため息一つついていると、こちらの列をきょろきょろと見渡していた宍田と目が合う。オレの表情からなにかを読み取ったらしく、みるみるうちに彼の顔が引きつっていく。ああ、水があいたなB組。物間に気づかれないで良かったけど、時間の問題だろうなぁ。
周囲がケンカした学生当てクイズをしている空気を感じ取って私語もそこそこに教室へ戻ることになった。
幸い、というべきか。
二年、三年ともなると、ヒーロー科やほかの学科の人数が二十名というわけでもなく、列にはバラつきが多く出来ていたため、一年A組の列が十八人でも、上級生から気にされるわけではない──が、まあほかの一年からすればバレバレかもな。
始業式も終わり、朝のホームルームとなる。終われば通常の授業だ、いろいろあったが気持ちを切り替えて学業に勤しめと相澤先生に告げられる。今日はヒーロー基礎学なし。午後休か、カレーでも作ろうかな。
──なんて気の抜けたことを考えていると、相澤先生の髪の毛が逆立った。注意されたのは芦戸であったが、こちらも息を呑んでしまう。
物怖じしない梅雨ちゃんが挙手し、相澤先生に「ヒーローインターン」について質問をした。ヒーローインターン。あまり聞き慣れない言葉ではあるものの、字面だけ考えれば職場体験だろう。
ざわめくクラスメイトに相澤先生がため息を吐いて説明を始めた。
「それについては後日やるつもりだったが、そうだな、先に言っておくほうが合理的か。平たく言うと、校外でのヒーロー活動。以前行ったプロヒーローのもとでの職場体験。その本格版だ」
「……体育祭の頑張りはなんだったんですかぁぁあ!?」
鼓膜を突き破る勢いで麗日が叫ぶ。拳を握ってプルプルと震える麗日の目は、憎しみに染まっていた。まあ麗日と緑谷の怪我を見れば、どれだけ本気に取り組んでいたか、という話ではあるが。
「ま、まあ落ち着けよ。麗らかじゃねぇぞ」
「しかしー!!」
麗日の金切り声に笑ってしまった。
「ヒーローインターンは体育祭で得たスカウトをコネクションとして使うんだ。これは授業の一環ではなく、生徒の任意で行う活動だ。むしろ体育祭で指名をいただけなかった者は、活動自体難しいんだよ」
むかしは生徒主体ではなく、各事務所が指名する形だったらしいが、雄英生徒の二年、三年ともなるとスカウトが白熱しすぎてしまったらしい。
「仮免を取得したことで、より本格的・長期的に活動へ加担できる。ただ一年での仮免取得はあまり例がないこと。ヴィランの活性化も相まって、お前らの参加は慎重に考えているのが現状だ。まあ体験談なども含め、後日ちゃんとした説明と今後の方針を話す。こっちも都合があるんでな。じゃ、待たせて悪かったな、マイク」
え、いや、説明終わり? オレも質問あるんだけど!
いま仮免って言ったよね!? あとB組との合同授業! もう!
プレゼントマイクと入れ替わりに教室から出て行った相澤先生は、結局帰りのホームルームでもオレの質問には答えてくれなかった。
寮へ戻ると、すでに料理が作られているらしく、香ばしい匂いが鼻腔をくすぐった。いいねぇ中華だ。どうやら爆豪が暇を持て余して作ってしまったらしい。
温め直せばすぐ食べられるとのこと。まだ少し早いし、謹慎二人組は買い出しできないからな、いまなにか買ってくるか。
ついでに爆豪へお礼をと探していたが、瀬呂と峰田に小姑みたいなことをされていた。なんて面白そうだ。
そんな爆豪は、朝はしていた我慢の二文字を忘れ、デクだのクソメガネだの、言いたい放題である。
「なあ爆豪、これからも夕飯作ってくれるならなにか買ってくるけど」
「──……」
「……なに?」
睨まれた……わけではないが。
観察された?
訝しんでいると、爆豪は台所のメモ用紙に食材を書き出してオレに手渡した。明日は和食になりそうだな。
結局爆豪は仕事が終わったとばかりに部屋に戻っていった。
買い出し班はオレと耳郎、芦戸と切島の四名。雄英高校が小さな山の上を切り取って作られているから、行きは良い良い帰りはつらい、芦戸と切島が立候補してくれて助かるよ。
いやぁ、本当に助かるよ!
神野区の事件以降、オレが耳郎と二人きりになったことがない。
攻め方ミスったなぁ。切島はオレの手足を気遣ってくれているし、芦戸はついでのように勉強を教えてもらおうとしている。どちらも断りづらい。
かといって露骨にオレが耳郎だけ誘うとかさぁ、できないよそんなこと。
「もしもし策束くん」
「なんだい芦戸くん」
「あたし、今日英語を教わってたよね」
「そうだね」
「もう国語じゃん!! なんなの現在完了進行形だ過去完了だって! あと、あの! えっと」
「過去完了進行形」
「それ!!」
オレたちの前を歩く芦戸と切島は、顔をくしゃくしゃにして文句を言い合っている。ある程度はもう理解しているはずなのに、口頭で詰め込もうとするから混乱するのだ。
まあ実際、今日の英語は授業進行ミスったのかなってくらい先へ進んでいたな。それでもようやく普通科のつま先程度だ。これからもっと難しくなるだろう。
隣を歩く耳郎がオレを見上げて言った。
「カルマって英語得意だよね」
「仕事で一番使うからね。それ言ったら、耳郎も《I・アイランド》ではかなり話せてたよ」
「ネイティブだと感覚で話せるからね。あとは洋楽で勉強してたからさー。単語はわかるんだけど」
「そういえば耳郎って、CDのほうが好きなの? データのほうが持ち歩きやすいのに」
彼女の部屋を思い出しながら言うと、なにが恥ずかしがったのか、耳郎は両耳のイヤホンジャックの先端を突き合わせ、くぐもった小声でつぶやく。
「コレクション。むかし男っぽいって馬鹿にされてたけど」
男っぽい? まあたしかに小さな男の子ってなんでも集めたがるよな。オレもむかしはカードとか集めてたな。緑谷はいまだにオールマイトのグッズを集め続けているけれど。この前Tジャージにサインをしてもらって目を輝かせていたな。
冗談めかしてそのことを告げると、彼女は唇をとがらせた。
「やっぱり男の子っぽいよねー……」
「音源データもあるんだろ?」
「うん。CDはほとんど聞いてないけど、いい曲だなーって思うと欲しくなっちゃう。あとはレコード。機材持ってるから、聞こうと思えば聞けるし」
今日日CDとレコードか。コアなファンがいまだに使っているとは聞いた事あるけれど、珍しいよな。たしか彼女の両親は音楽活動している方だったはずだ。カラオケでも明らかにレベルが違う歌唱力を披露してくれていた。
思えば彼女の部屋自体がコレクション部屋だと言われても頷ける。趣味と言い切ってしまえば簡単だが、それにしては金を掛けすぎているイメージはあるな。オレが言うことじゃあないが、彼女はまだ高校一年生。両親からのお下がりとはいっても、新曲も網羅しているとなると相当だ。
「耳郎って誕生日いつ?」
「え!? あー……んー……」
えらく歯切れが悪くなった耳郎。
なぜか気まずそうだ。過ぎたばかりか、間近かもしれない。
「……八月一日」
「あー……」
なるほど、納得だ。《I・アイランド》の事後処理で軟禁されていた頃だ。あの状況で「オレ今日誕生日なんだー」などとは言い出せまい。
その日だったら顔も合わせていたし、今更過ぎるよなぁ。
「え!? 響香の誕生日って八月なの?」
切島と難しそうな顔で英語の話をしていた芦戸だったが、いつの間にか聞き耳を立てられていたらしい。振り返って後ろ歩きで器用に進む。危ないぞ。
「あたし七月三十! 切島は十月だったから、あたしたちの方が年上だからねー」
「それ言ったら瀬呂も年上だわ。七月二十八だったと思う」
クラスメイトの家族構成や住所は調べておいたが、誕生日まではなー。しかし、よく瀬呂の誕生日覚えていたな。そんなに仲良かったか?
「──近かったから」
瀬呂の誕生日が切島と近い? どちらかと言えば芦戸と耳郎が近いけど。三人揃って首を傾げると、切島が面倒臭そうに話題を変えた。
「んでどうする? ケーキでも買うか?」
「えー、一か月前じゃなー」
「九月の人いないのかな?」
「八百万が九月だけど」
言うと、今度は三人の目がオレに向かう。
なんだよ、これでも毎年誕生日会には出席しているんだぞ。
……え、なにか、失敗したか。
「また八百万って言った」
「百お嬢さんは?」
耳郎と芦戸の声が被って聞こえてきた。あーもーやってしまった。
「たまに口滑らすよねカルマって」
「前言ってたTPOってやつ? ならヤオモモって呼んであげればいいのにー。喜ぶよヤオモモ」
喜ばれても面白くないんだよ。……まあこの半年ほとんど顔を合わせてきたからか、前よりは拒絶反応消えてきたけどさ。
「んで? ヤオモモの誕生日は?」
「九月二十三日。ちょっと遠いな」
切島は肩を竦めた。まあ誕生日を祝う感じじゃあないよな。
耳郎も同じなのか揃って苦笑いをすると、芦戸がパンと手を叩いた。
「じゃあさじゃあさ! 仮免全員取れたらお祝いしようよ! 心操も呼んでさ!」
「オレ待ち? やめてくれよー」
「三か月間の補習でしょー。策束なら大丈夫大丈夫!」
笑顔の芦戸に向ける言葉を選んでいたとき、切島がすこしだけ話題を変えてくれた。
「あ、でも策束ってヒーローネームどうすんだ? 他力本願だっけ? そのまま?」
「えー、あれはなー」
もう一度芦戸を見る。目が合った彼女は首を傾げているが、青山と芦戸のヒーローネームに対抗した結果だから、正直そのままで仮免登録はしたくない。
ヒーローネームが結構でかでかと載るんだよなー。
「本当に頼ってくれるなら、悪い名前じゃないんだけどさー」
「なんだよ、まるで頼っていないかのように言いやがって」
「昨日みたいにヤオモモに怒られるよー?」
耳郎に肘で突かれるので防ぎながら言い返すと、芦戸と切島に苦笑されてしまった。わかったよ、多少独りよがりなのは認めるさ。
買い物を終えて寮に戻ると、学校から帰ってきたときよりもいい香りが共同空間に充満していた。
「お、帰ってきた」
切島が両手に持っていた買い物袋を瀬呂へと手渡すと、後方から口田や峰田がオレたちの荷物も受け取って冷蔵庫へ次々にしまっていく。
台所には爆豪が立っていた。一人で料理を温め直しているらしい。
「作ってくれたんだから休んでりゃあいいのに」
切島が腕をめくりながら手を洗い始める。オレも手伝おうかと思ったが、すでにフライパンの炒め物くらいか。せめて配膳しようと思ったが、謹慎組である緑谷が息巻いて仕事を奪っていく。
この二人、ケンカしたわりには仲良いんだよな。
爆豪が作ってくれた夕食の最中の団らん。ここしばらくは仮免のことや他者の必殺技への意見が多く飛び交っていたが、今日はヒーローインターンと授業の進行速度についての言い合いだった。夕方から引き続きご苦労様である。
「策束ってあんまりインターン興味ない?」
「あれ仮免持ちだけだろ?」
「そうだっけ」
尾白め、ギリギリ合格のくせにオレの傷口に塩を塗り込むとは。
そんな会話を断ち切るように、峰田が声を掛けてきた。
「なあ策束ー。ギャングオルカと連絡先交換したんだろー? 教えてくれよー」
「なんで? ギャングオルカは男だぞ」
「そーゆーんじゃねーよ! ギャングオルカの人気にあやかろうとしているだけだ!」
普通に最低だった。
ちなみにギャングオルカとのことは、『仮免試験後にオレと相澤先生が二人バスに乗らなかったけど』という質問に対して答えたことだ。実際に交換しているので嘘はついていないが、峰田には教えない。
「もし良ければ、私も教えてほしいわ、カルマちゃん」
梅雨ちゃんに言われれば是非もない。ギャングオルカにヒーローインターンのことを聞いておこう。そもそもインターンの受け入れをしていない事務所もあるだろうし、雄英はいまこんな状況だ。触らぬ神に祟りなし、距離を置いて様子を見たいプロヒーローたちも多いだろう。
態度の差に峰田からブーイングされるが、無視が安定である。
「あ、ヤオモモー」
「どうかいたしましたか? 上鳴さん」
「いやー、あのさ、夏休み芦戸たちに勉強教えてたじゃん。それでさー」
やや言いにくそうに、上鳴は八百万に勉強を教えてほしいと願い出た。どうやら今日の英語や数学のことで、すでに不安を覚えてしまったようだ。
おまけに上鳴もインターンには行きたいと公言している。もし土日、祝日を利用して職場体験に行けば、勉強の時間はみるみる削られていくだろう。平日にインターンシップ受け入れている事務所もあるのかな。
上鳴の提案に目を輝かせ始めた八百万に気持ち距離を置く。今回は空回ってもフォローせんぞ。オレはオレで忙しいんだ。
八百万は「どうせなら」と予習時間を設けないかと提案。クラスの多くが賛同した。
「爆豪くんと緑谷くんは参加しないようにな!」
「呼ばれても行くかそんなところ!」
そんなところ呼ばわりされて落ち込んでいる八百万はさておいて、授業の予習時間はクラスのほとんどに受け入れられている。せっかく自室もあるのだからリモートでの会議通話でもいいのではないかと提案したが、オレの部屋でやるらしい。さっそく今日の夜から部屋は大幅に改造されることが決定した。
現状は各々の予習時間となり、わからなければ八百万やオレに質問をするという形をとった。参加は希望者のみ。いなければオレが八百万と顔を突き合わせてお茶を飲むだけの時間となる。ちくしょう。
緑谷や爆豪は地下のトレーニングルームで暇をつぶしているらしく、オレもそちらに混ざりたいくらいだが、仮免のことで公安委員会や【知り合い】から連絡がいつ飛んでくるかわからないので、できるだけ自室をカラにはしたくない。麗日に秘書の適性があれば雇いたいくらいだ。
初日はほぼ全員参加。《創造》物で部屋の多くが覆われていく。ホワイトボートを《創造》したことで脂質のストックが切れたのか、お茶菓子を頬張り出した八百万を見ていると頭痛がした。
「単語は覚えるしかないよなー」
「スラングで訳したら怒られるよね」
上鳴と耳郎が肩を並べて英語の教科書を眺めている。頭の痛さが増すような光景だ。あー、席替えとかしないかなー、しないよなー相澤先生だもん。
なんてことを考えていると、国語の教科書を手に持った障子がオレを見て言った。
「そういえば策束はまだ他力本願なのか?」
「ん? ああ、ヒーローネームか」
四文字熟語のページでも開いていたのか、夕方聞いたことをもう一度聞かれた。ん? なんだ勉強しろよみんな。こっち見ないでくれ。
そんな中、電子辞書を弄り始めた上鳴が、ヒーローネームについて言及し始める。
「アプリケーション?」
「直訳すんなよ」
思わず笑ってしまった。他力本願は四文字熟語なので英文が存在するし、英文を日本語に戻せば「適応するほかの力」のような意味合いになってしまう。代理人と読み解けなくもないが、ちょっと違うよな。アプリマンとか?
「リライとかは?」
「リライト?」
「RELY。これ」
耳郎が上鳴の辞書を使って見せつける。意味は委託だ。それでいいかと思っていたが、なぜかみんなから胡乱な目を向けられた。
「本当に私たちを信頼してくれるのなら、その名前も良いのですが……」
「ああ、確かに……」
八百万の意見に耳郎が納得してしまう。してるよ! 信用してるよ!……と言い切れないのがスパイの存在だ。オレが発信源になっている可能性もゼロじゃあない。さすがに分不相応すぎる名前か。
しかし、そんなに信頼していないように思われているのも複雑な気分だ。こんなに腹割って話しているのに。
その後はなぜかオレのヒーローネームの話題に移って、次々に名前を提案される。なんのためのホワイトボードなのか、面白いくらいにアイディアが書き出されていく。
リライに始まり、リライト、ゼロ、ワン、ゼロワン、フィクサー、ヘルメットマン、マネーマン、ホテルマン、シナモン……エトセトラだ。
人の名前だからって好き勝手弄りやがって。なんだフィクサーって、それは八百万の父親だ。……ある意味オレの父親もそうかもしれない……。
「策束くんは、なにかないの?」
口田が優しい質問をしてきてくれたが、彼も他力本願という名前はお気に召していないらしく、名前替えは前提になってしまっている。
「あるにはあるけど──」
スッと静かになるクラスメイトを見渡しながら、思い出すのは神野区のことだった。
オール・フォー・ワン。言ってしまえば、オレの人生にとってのフィクサーだ。個性を奪い、手足を奪った、最悪の害。
反対に、オレがヤツにやり返せる方法などほとんどない。死刑は免れ得ぬだろうし、たとえ執行されなかったとしても、タルタロスから出てくること不可能に近い。間違いなく死柄木たちから【要求】はされるだろうけどな。
ならせめて、あいつの名前を奪おうと考えたことはあった。
無個性ヒーロー《ワン・フォー・オール》。
ふふん、いいじゃあないか。
問題はオール・フォー・ワンという名前が世間一般には浸透していないことだ。
神野区のヴィランの名前は公開されていないが、それは国家が秘密にしたせいではなく、民衆の興味を引かなかった理由が一番大きい。
オールマイトの個性が全盛期であれば、余裕を持って倒せていたはずの実力差。それがおおよその意見であるため、オールマイト引退の衝撃に鳴りを潜めてしまった。
わざわざヴィラン連合を刺激するのはいかがなものか。これは後日オールマイトに確認しようかな。
まあいまは──。
オレの不用意な発言によって、周囲の輝いた目にさせてしまったクラスメイトにどんな誤魔化しをするか、すこしばかり頭を捻らせるとしようか。