──心臓が熱い。
そのくせ、指先が折り曲げるだけで砕けそうなくらい冷たくなっている。
「心操、大丈夫か」
「ウッス……」
イレイザーに声を掛けられ、うなるように返事をする。落ち着きなくペルソナコードの作動確認をしていたのを咎められてしまった。
音、うるさかったかな。
警察車両に乗り合わせた周囲の警察官を見る。
俺は、この人たちにどう思われているんだろう。
緑谷を羨んだ。
轟を妬んだ。
爆豪を蔑んだ。
《洗脳》の個性のせいで出遅れたと思っていた。一歩間違えば、俺はこの警察官たちのお世話になっていたかもしれない。
ついさきほどの、警官たちの敬礼が目に焼き付いて離れない。
ヒーローの側に立っているのだと気づかされた。いや、【押し上げられた】んだ。
個性の重さにこんなにも苦しんだのは初めてかもしれない。
『オレに個性はない。無個性だ』
アイツは、いまどうしているだろう。
「策束くん、どう動くんだろう」
その名前が聞こえてきて、思わず息を大きく吸い込んだ。
近くの緑谷が、ぶつぶつとつぶやいている。近くに座るナイトアイやセンチピーダーも緑谷を見ていた。
「私の《予知》は完璧ではない。策束の《予知》だけで言えば、周囲に見えたのは怪我をした警官数名、波動ねじれが立てないくらいの疲労困憊、巨大化した治崎。そして、懸命に駆けずり回る策束。私が見たのはここまでだ」
「行動は教えていただけませんか!」
ビッグスリーの一角である通形ミリオが叫ぶも、ナイトアイは「予測しろ」と告げてお終いだった。周囲のヒーローや警察官からの追及はない。
巨大化した治崎……? 説明が欲しいよ説明が。
「地上と壊理ちゃんはリューキュウたち後方支援班と警官隊に任せるんだ。予測しろルミリオン、予知に頼るな」
「……はい」
拳を強く握りしめ、彼は我慢した。
俺も武者震いのように震える手を祈るように握りしめていると、イレイザーから声をかけられる。
「コスチューム、もっとちゃんと作ってもらえよ」
「……え」
なんだろう、緊張しすぎている俺の心をほぐそうとしてくれている?
自分の恰好を見返す。上下黒紫のスウェットだ。首にはペルソナコードを隠すように捕縛布を巻いているが、服の前後が逆になっているなんてミスはしていない。
「これ、あの、イレイザーの真似、です」
「……やめとけ」
「……作ってもらいます」
車両はそこから無言が続き、八時半、死穢八斎會の本邸へとたどり着く。
武装を固めていない警察官たちはバスを降りると、近所の家へ出向いて避難を促すという。それ以外──ヒーローと武装している警察官は、全員が死穢八斎會邸宅前へと集められた。
「令状読み上げたらダーっと行くんで! 速やかによろしくお願いします!」
警官隊の先頭に立つ刑事がそう【俺たち】に呼びかけた。
速やかに。走ればいいのか? それとも、効率の話か?
「しつこいな、信用されてねぇのかっ」
「そういう意味やないやろ、イジワルやな」
鼻を鳴らすロックロックを見て、こういうヒーローもいるのかという嫌な気持ちが湧いてくる。俺が目指すヒーローは、きっと、もっと、【良いものだ】。
そんな心情を気にするわけもなく、ロックロックは発言を重ねた。
「そもそもよ、ヤクザ者なんてコソコソ生きる日陰者だ。ヒーローや警察見て案外、縮こまったりしてな」
その言い草にムッとして、返す言葉を考えていた最中だった。
鈍い爆発のような音とともに、何人もの警察官が空に吹き飛ばされた。反応したのは、すぐ隣にいた緑谷とイレイザー。
捕縛布を空中に投げつけて警官をキャッチする。俺も同じ装備をつけているのに、扱い方も反応速度も段違いだった。そして、緑谷も。
邸宅の玄関先には、巨大な男。これが治崎……じゃないよな。こいつらのマスクはなんなんだよ分かりづらい!
その男が追撃しようとしたとき、リューキュウが《ドラゴン》化して男を止めた。それどこか、片手で地面へ押し付ける。
「みなさんは! いまのうちに!」
誰が駆け出したのだろう、突入班として割り当てられていたヒーローや警察官が一斉に走り出す。
「ヒーローと警察だ! 違法薬物の製造・販売の容疑で捜索令状が出ている!」
前を走る警察官が叫びながら進むと、家から何人ものヤクザたちが飛び出してきた。個性を使った者はヒーローがヴィランとして処理をしているし、ただただ大声を上げるやつもいる。
ヤクザも警察もひどい怒鳴り声だが、ただの怒声だとは割り切れなった。大きな声がびりびりと肌に突き刺さるような感覚。このヤクザたちは冷静な状況ではなく、感情でものを叫んでいるだけだ。策束なら、どうしただろう──いや、違う!
オレがどうするかだ!
「『動くな』!」
「そんなこと言われてハイワカリマシタなんて……」
ひと際大きいヤクザを《洗脳》する。三人の警官に一瞬で抑え込まれ、弾みで《洗脳》は解けてしまったが、それでも初めて正義のために個性が使えた。
──嬉しい。
頬が緩んだ。
その瞬間に俺が《洗脳》していた男が警官を殴りつけ、男はさらに大勢の警官たちを相手することになる。だが、殴られた警官は大量の鼻血を流しながらフラフラと倒れ込んだ。
「集中しろ!」
イレイザーに叱咤され家の中を目指す。
一瞬見えた警官の顔は、殴られた衝撃で鼻が曲がっていた──。
水を掛けられた気分だ。落ち着け、浮かれるな、ヴィランはなにをしてくるかわからないんだ。
近くのヒーローや警察官が道を作るようにヤクザたちを押さえつけている。
その道を切り開くような光景を通り抜けたのは、たぶん四十人もいないだろう。ナイトアイ事務所を筆頭に土足で八斎會本邸へとなだれ込む。
障子が多く身を隠せそうな日本家屋の中だが、意外と中で待ち構えているヤクザはすくない。ゼロじゃないけど、ほとんどが庭に向かったんだと思う。俺たちの後ろでは警察官が三人一組で、地下ではなく家の中を捜索するため動き出しているようだった。家の中でもヤクザと警察官との怒声が鳴り響くようになる。
「ここだ」
ナイトアイが廊下の真ん中で足を止める。
彼の視線は廊下に作られた【凹み】に向けられていた。床の間のように、花瓶と巻物が飾られている。
ナイトアイは花瓶を台座ごと退かして説明を始めた。
「この下に隠し通路を開く仕掛けがある。この板敷を決まった順番に押さえると、開く」
「忍者屋敷かっての! ですね!」
「【見て】なきゃ気づかんな。まだ個性を見せてない個性に気を付けましょう」
センチピーダーが注意を呼び掛けた瞬間だった。
カラクリ屋敷のように地下への通路が開くと同時に、その通路から数人の男たちが飛び出してきた。
センチピーダーがムカデのような両腕で二人、バブルガールが一人をすぐさま捕縛。彼女は自分より一回り大きい成人男性の腕を極めて床へと押し付けた。
彼女の足元にはナイフが転がっていた。
──怖くないのか。
彼女の印象は『頼りない』だった。
会議では緊張し続けていた。策束がプロヒーローたちを相手取り話術で場をかき乱したときも、彼女は理解する様子もなく取り乱していた記憶がある。
「追ってこないよう大人しくさせます! 先行ってください!」
バブルガールの言葉に、ナイトアイは返事を省いた。
ただ一言、背後の俺たちに向かって「行くぞ!」と号令をかけただけだ。
「すぐ合流します!」
その言葉にもやはりナイトアイは反応しなかった。
バブルガールを軽んじている? いや、そうじゃないんだろうな。
彼女を【頼りない】と軽んじているのは、この場ではきっと俺だけだ。
それはヒーローという信頼感からくるものなのか、それとも俺が素人だからか──。
「行き止まりじゃねぇか!」
「説明しろナイトアイ!」
地下への階段を降りてしばらく、初めて角を曲がったとき慌ただしい声が聞こえてきた。
後続の俺たちも追いつくと、曲がってすぐに通路は壁で途切れていた。分かれ道は何本もあったけど、作戦ではナイトアイの《予知》でルートは確認していたはずだ。
「俺! 見てきます!」
ルミリオンがヘルメットを投げ捨て、壁へ向かっていく。
──ビッグスリー、ルミリオンの《透過》だ。すげぇ個性だな。
壁からはじき出されるように戻ってきたルミリオンが、壁は個性によって作られたものだという。
「治崎の【分解】して【治す】なら、こういうことも可能か」
「小細工を!」
ファットガムが舌打ちするように拳を構えたが、それよりもさきに緑谷と切島が先に踏み出していた。
「来られたら困るって言ってるようなもんだ!」
「そうだな! 妨害できるつもりならめでてぇな!!」
《超パワー》の蹴りと《硬化》の拳で壁に大穴を開けた二人を見て、悪態ばかりをつくロックロックが「ちったぁやるじゃねぇか」と言っていた。
拳を構えていたファットガムは好戦的に笑っている。
「先越されたわ!」
プロヒーローの言う【先】という意味。
俺がいくら頑張ったって、この先、あの二人の前に立つことなんてないと思う。
ナイトアイたちがルミリオンを先導に走り出し、慌ててそれについていく。……自分が集中していないとはっきりわかる。しっかりしろ、授業でも練習でもないんだ。
雄英の入試試験、俺は後半に手を抜いていた。走り回って、倒せそうなロボットを見つけようとしたんだ。だが、どこにいっても壊れたロボットばかり。
汗が目に入って、集中を乱した。そこからの記憶は曖昧だ。
(裏路地で泣いていたくせに)
走る通路から声が聞こえた気がして振り返る。
「どうした心操!」
「──なんでもないです!」
なんでもない、大丈夫、集中しろ。
イレイザーのほうを見る余裕すらなく、前を走るヒーローの背中を追いかける。
しかし幻聴はそれだけにとどまらず、空調ダクトを振動させるような甲高い音も聞こえてきた。
同時に、道が、壁が【うねりはじめた】。それだけにとどまらず、さきほど《オーバーホール》で増やされたとされる壁のように、道が俺たち目掛けて迫ってくる。
全員の動揺を代表するように、刑事の人が声を上げた。
「治崎じゃねぇ! 【逸脱】してる! 考えられるとしたら本部長の入中だ! 入中の個性は物の中に入り自由自在に操る《擬態》! 地下を形成するコンクリに入り込んで、生き迷宮となってるんだ!」
「規模が大きすぎるぞ! ヤツが入り、操れるのは、せいぜい冷蔵庫の大きさまでと!」
「かなーりキツめにブーストさせれば、無い話じゃあないかぁ! しかし、なにに化けるんか注意しとったがまさかの地下! こんなん相当身体に負担かかるはずやで! イレイザー消されへんのか!」
「本体が見えないと、どうにも!」
プロたちも慌てる事態──!?
イレイザーでもこの事態がどうにかできないというのなら、このまま圧し潰されることもある。恐怖がこみ上げてきた。
「道を作り替えられ続けられたら、向こうはその間に逃げ道を用意できる。即座にこの対応、判断……ああダメだ、もう女の子を救い出すどころか俺たちも──」
「環!! そうはならないし、お前は! サンイーターだ! そして、こんなのはその場しのぎ! どれだけ道を歪めようとも、目的の方向さえわかっていれば、【俺は行ける】!」
ナイトアイや緑谷に制止されても、ルミリオンは駆け出して壁の向こうへと消えてしまった。
ルミリオンを追いかけようとした瞬間、俺たちの足元が【消えた】。一瞬の浮遊感とともに身体にものすごい衝撃。痛みと驚きで呼吸が崩れた。
「大丈夫!?」
「……あ、ああ!」
なにがあった? 周囲を見渡すと、通路から部屋へと移動してしまっている。部屋にいるのはプロヒーローと警察官数名のみで、いま来た道も無くなっているし、追随していた警官たちの姿も無くなっていた。
「おいおいおいおい!」
部屋にいるのは俺たちだけ──ではないらしい!
壁際に、三人の男が立っていた。全員マスクや布で顔を隠した、ヤクザの構成員だ!
「空から国家権力が落ちてきやがった。不思議なこともあるもんだ」
「よっぽど全面戦争したいらしいな! さすがにそろそろプロの力を見せつけ──」
ファットガムが拳を鳴らしながら構えたが、それを止めたのは環という先輩だった。ビッグスリーの一角、サンイーター。
「そのプロの力は目的のためにっ。こんな時間稼ぎ要員、俺一人で十分だ!」
「なに言ってんスか! 協力しましょう!」
「そうだ協力しろぉ? 全員やってやる」
金髪、ペストマスク、コイツの個性は──!
「窃野だ! コイツ相手に銃は出せん! ヒーロー頼む!」
「バレてんのか、まぁいいや。暴れやすくなるだけだ!!」
刀を片手に走り出す窃野だが、それはイレイザーによって止められた。髪が逆立ち《抹消》が発動される。
窃野の隣に立つ大男が拳銃を構えてヒーローたちを牽制する。
「個性を消す……。壊理の劣化個性。そういうヒーローがいると聞いたことがある。だが関係ない! 我々がすべきことは【阻む】! それ一点のみ!」
「刀も銃弾も俺の身体に沈むだけや! 大人しく捕まったほうが身のためやぞ!」
「そういう脅しは命が惜しいヤツにしかきかねぇんだよ!」
「イレイザーが抑えているいまなら銃が使える! 観念して投降しろ!」
身も震えるような大人たちの怒声を止めたのは、空飛ぶ巨大な【二枚貝】だった。
「《窃盗》窃野トウヤ、《結晶》宝生結、《食》多部空満」
空中でその二枚貝が開いたと思ったときには、すでにサンイーターがヴィランたちの背後をとっていた。サンイーターの両腕がまるで怪獣映画に出てきそうな巨大な蛸の足となり、ヴィラン三人を空中で拘束しつつ壁へ叩きつける。
バブルガールとセンチピーダーのときも一瞬ではあったが、こちらも瞬殺だった。
「俺が相手します。ファット事務所でたこ焼き三昧だったから蛸の熟練度は極まっているし、以前撃たれたことで【こういうもの】には敏感になっている!」
刀や拳銃を蛸足から蟹の爪へと変化させた右手で破壊する。
「コイツらは相手にするだけ無駄だ! 何人ものプロヒーローがこの場に留まっているこの状況がもう、思うつぼだ! イレイザー筆頭にプロの個性はこの先に取っておくべきだ! うごめく地下を突破するパワーも、拳銃を持つ警官も!──ファットガム! 俺なら一人で三人完封できる!!」
──その言葉で、俺も覚悟が決まった。
ファットガムを先頭に走り出す一団をヴィランが止めようと動き出すが、イレイザーが《抹消》を窃野にかけて、ついでのように多部の側頭部を揺らして気絶させる。
「天喰、三人を【視て】おいた。効果がある間に動きを止めろ」
「イレイザー!」
一瞬、振り返ったイレイザーと緑谷と目が合う。
伝わった、かな。
べつに俺がここに残って、意味があるとは思えない。だが、この先で求められているのは【突破するパワー】と【心を折る拳銃】だ。ならここで、先輩をフォローして、すぐに前へ合流する! サンイーターは、きっとここで使い潰すような人材じゃない!
走り出した緑谷たちに言葉を投げかけているサンイーターの背後に立つ。万が一にでも俺が足手まといになってはいけない。声さえ届けば、俺の個性は届くんだ。
「俺、プロじゃないんで!」
「すぐに済むから! 同時に三人、悪いが寝てもらう!」
サンイーターの拳が蛸の足へと変化して、拳を握るように強く固められた──。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ミリオを頼むよ! アイツは絶対に無理をするから、助けてやってくれ!」
サンイーターの言葉を聞きながら、切島鋭児郎はファットガムに対して声を荒げた。いや、彼だけではなく、ほかのヒーローや警察官も思っているだろう
「ファット! 先輩一人残すなんてなに考えてんですか!」
「お前んとこの人間だ! お前の判断に任せたが、正直マズいんじゃねぇか!」
あの三人の個性を《抹消》させたのならなおさら、すぐに拘束具をつけさせれば済んだかもしれない。もっとも、その場合《窃盗》の個性を封じるためにイレイザーヘッドを離脱させることに繋がるのだが。
「──アイツの実力はっ、この場の誰よりも上やっ! ただ、心が弱かった! 完璧にやらなアカンちゅうプレッシャーで、自分を圧し潰しとるんや! そんな状態で! アイツは雄英のビッグスリーに登り詰めた! そんな人間が! 完封できると断言したんや! そんなら! 任せるしかないやろぉ!!」
ファットガムの啖呵を聞きながら、イレイザーヘッドと緑谷は心操を残してきたことを告げるべきか悩んでしまった。
とくに心操の個性は初見殺しの《洗脳》。とてもじゃないがチンピラが対応できる個性だとは思えない。
緑谷は、心配そうに走る切島へかけるべき言葉に悩んでいた。切島はクラスでも一番、情を大切にする人間だ。もし心操を残してきたと告げれば、ならば自分も、などと言いだしかねない。
「天喰先輩、大丈夫かな! やっぱ気になっちまう」
「ただ! 背中任せたら信じて任せるんが男の筋やで!」
「先輩なら大丈夫だぜぇ!! 心配だが! 信じるしかねぇ!」
「サンイーターが作ってくれた時間! 一秒も無駄にできん!」
「しゃあこらああああ!!」
(逆に流されやすい人っぽい!)
(暑苦しいなぁ……)
そんな周囲の心境などお構いなしに、イレイザーヘッドが周囲を観察したあと、状況を整理し始める。
「妙だ。地下を動かすやつがなんの動きも見せてこないのは変だ」
「そういえば、ぐねぐねしません」
「なんの障害もなく走っているこのタイミングで、邪魔をしてこないとなると、相手は地下全体を正確に把握し、動かせるわけじゃないのかもな。上に残った警官隊もいる。もしかすると、そちらに意識を向けているのかもしれん」
「把握できる範囲は、限定されていると!?」
ロックロックがイレイザーヘッドの予想に具体案を上げる。
ナイトアイとしては、そうだろうな、という乾いた感想だった。
そもそもさきほどの道の変化が入中の《擬態》だとすれば、明らかに無理なブーストをした状態。プロヒーローでもあるまいし、八斎會のメンバーがトリガーを使う前提で個性の正確性を上げる訓練をしているとは思えなかった。
「あくまで予測です。ヤツは地下に入り込んで操っている。どうかしたわけじゃなく、壁面内を動き回って見たり聞いたりしてるとしたら、邪魔をしようと地下を操作するとき、本体が近くにいる可能性がある。そこで目なり耳なり本体が覗くようなら、【視る】ことができます──ッ!?」
壁から、手のようなものが生えてきた。イレイザーヘッドの身体を覆い隠すほどの巨大なコンクリートの柱だ。当然《抹消》をしたが効果はない。イレイザーヘッドの予測が正しいのであれば周囲からこちらを窺う入中がいるはずだ。
ファットガム、切島、緑谷が背後のイレイザーヘッドへと走り出す。先頭に躍り出たのは意外にもファットガム。
コンクリートの柱からイレイザーヘッドを弾き出す代わりに、ファットガムが柱の先端へ入り込んでしまう。
彼の個性は《吸着》。【体形】を変えてからはさらに個性の容量が増し、たとえコンクリートに圧し潰されたとしても、負傷はしない自信があった。
その自負は非常に正しく、ファットガム同様イレイザーヘッドを助けようとした切島を《吸着》するほどの個性だ。
二人はまとめて入中が用意した横穴から地下三階部分へと落とされる。
ファット事務所から出向したファットガム、サンイーター、レッドライオットの三名が離脱する形とはなってしまったが、それでもナイトアイたちは駆けるしかなかった。