【完結】無個性ヒーロー   作:南畑うり

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オリジナル回。



幕間 ほのぼのお誕生日パーティー

 

寮に戻ってから、オレたちは事情聴取を受けることになった。

真っ暗な部屋で、長机にインターン組が並んでいる。

ギィと金属の軋む音とともに強い光を当てられ、片目を瞑ってやり過ごす。切島が「もうやめろって! ごめんって!」と謝罪しているが、無意味だ。この警官たちは面白がっている。

 

「えー、では総合すると、その壊理ちゃんってっ子の個性で策束は元に戻りすぎちゃったと!」

 

光の向こうに、鉛筆の切っ先を舐めて、手帳に記入する芦戸が見えた。酸で溶かして尖らせてるのか。便利だな!

 

「しかも切島と心操はヴィランを直接逮捕してんのかよー、やるなぁ!」

「俺もインターン行きたいな、どこか伝手あるー?」

「ちょっと瀬呂! 尾白! うるさい!」

「じゃあ次あたしねー!」

 

警官役が芦戸から葉隠へ移った。楽し気な声の葉隠が、質問の内容を麗日、梅雨ちゃんと相談している。

 

「こちら、ハーブティーですわ」

 

満面の笑みで右隣に座る八百万。こっちは容疑者側だぞ。

それはともかく、ラベンダーティーの淹れたては良い香りだ。匂いを楽しんでから一口含む。

 

「そろそろいいか?」

 

一階のフロアの電気が点けられ明るくなった。容疑者以外が明順応で呻きだす。ざまーみろだ。インターン組の常闇がこの場にいれば、《ダークシャドウ》が怯えていただろう。

そんな中、轟がオレに声をかけてきた。電気を点けたのは彼かな?

 

「良かったな。腕」

「足と耳もな」

「だな」

 

轟が遠慮しながらも、オレの右手をタップするように叩く。「良かったな」と目と目を合わせて言われた。ずいぶんと丸くなったもんだ。

 

「ありがとう」

「爆豪、お前もなんか言っとけよ」

 

爆豪? いるのか。座ったまま背伸びするよう轟の視線の先には、ツンツンと尖った上方がソファーの背もたれから飛び出して見えていた。

茶番は十分ほどだっただろうか。短気の爆豪が我慢するとは思わない。本当にオレに言いたくて残っていたのか。なんだ、良いヤツじゃあないか。

紅茶をソーサーごと持ち上げ、爆豪のそばへ向かう。彼は不機嫌そうに下唇を突き出して、机に片足を乗せていた。

 

「緑谷の心配?」

「……寝る」

 

舌打ちしそうな勢いで立ち上がり、背を向けて歩き出す爆豪。からかったつもりはないが……。それとも本当に緑谷を心配して? だとすれば悪いことをした。

謹慎する前の喧嘩、オレが思っている以上に二人の溝は埋まったのかもな。

 

そこからはもうすこしインターンについての歓談となったが、大方の流れはさきほどの事情聴取ごっこで聞き出されている。

芦戸はオレの低身長をお気に召したのか、見下ろしながら笑顔を絶やさない。

 

「かーわーいーねー!」

「ちっちゃくなっちゃってー!」

「蛙吹とはほぼ変わらないだろ!」

「あははー! 声も高いー!」

 

何度か抱きしめられそうになるたびに回避するが、そのたびに峰田が割り込もうとしてくる。まあお前は大きいぬいぐるみみたいなサイズだものな。

芦戸はそのぬいぐるみはお気に召さないらしく、峰田とにらみ合いながらもオレに笑顔を向けてきた。

 

「あ、そうだ策束! 誕生日のパーティーしようよ!」

「百お嬢さんの?」

「響香と瀬呂のも! あたしだって祝ってほしいし! セレブっぽいパーティーやろうよー! アメリカみたいなー!」

「え? 俺のも? へへ、悪いなぁー」

「ねー! 響香も良いよねー!」

 

芦戸が声をかけるも、耳郎はすこし離れたところで困ったように笑っている。ひと月遅れの誕生日パーティーなどなかなか開かれることはないだろう。彼女の表情の原因は、きっとそれだけじゃあなさそうだけど。芦戸も心配そうに耳郎を見ている。

 

その視線に耐えかねたのか、耳郎は二、三言話して部屋へ戻ってしまった。

 

「なんか、元気ないねー」

「まあ、そーだな」

 

手足のこと喜んでくれると思ったが……耳郎にも一度ちゃんと謝っておかないとな。

 

耳郎、葉隠の二人はA組で唯一昏睡していたペアだ。葉隠はそこまで深くは気にしていないと思うが、耳郎はそうじゃあない。あきらかに引きずっている……。おまけに爆豪救出ではオレの致命的な大怪我。

ヒーローを目指す者として考えれば、トラウマものだよな。

 

 

次の日から、通常の授業に戻っていく。

 

仮免のないオレや、死穢八斎會の突入の事後処理で活動を制限されているナイトアイ事務所・ファット事務所・リューキュウ事務所はインターン生に暇を出したために、緑谷たちはのんびりとしているが、それ以外のメンバーはインターンにより乗り気になったようで、全員がらんらんと目を輝かせている。

そう考えると、ビッグスリーはどうなるんだろうな。卒業後はそれぞれ現インターンの事務所に就職する確率が高い。復帰は早いかも。

 

誕生日パーティーとオレの完全復帰祝いは三日後に行うことにした。

料理を手作り、ということも視野に入れたが、なんとクックヒーローランチラッシュにビュッフェを用意してもらえるというので、ホストをオレにしてみんなを招待する形にした。服装に決まりなどなし。

自室は防音室にもできるので、カラオケを用意して立食パーティーに仕上げれば十分だろう。どうせいま設置しているカウチソファだけじゃあ全員座れないんだ。

ちなみに耳郎も参加してくれるらしい。

……絶対避けられている。昼食も八百万をガードに使われて参加できないし。

 

問題は、誕生日のプレゼントだ。

八百万はどうでもいい。食べ物与えときゃあそれで充分だ。葉隠と芦戸もそれで満足してくれるかもしれない。耳郎には、ギター、とか? 安いギターなら二十万円程度らしいが、それだって高校生のバイト代から計算すれば高級品だ。五万程度……? 花とか? さすがに気障すぎるよなぁ。花で喜びそうなのは部屋を見る限り葉隠だけだ。

代理店から送ってもらったパンフレットを自室で眺めながら、刻々と迫るパーティーを心待ちにする日々が始まった。

 

 

◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「え……。カラオケお店から借りてきたん?」

 

数日後、ドレスアップしてきた麗日が用意したカラオケマシンを見て驚嘆していた。なんでも、マイクから音が流れるおもちゃのようなカラオケだと思っていたらしい。

女性陣は全員ドレスアップ済み。聞けば八百万に散々着せ替え人形にされ、最終的には《創造》したらしい。楽しんでいるようでなによりだ。男性陣は私服だったが、飯田だけは制服で参加である。まあこの場のドレスなどコスプレみたいなものだ。私服やドレスなど関係なく楽しんでいる。足元もスリッパだしな。

遠くではすこし早めにプレゼントを渡している麗日が見えた。オレもそうしようか。

 

不参加は爆豪のみ。いまごろは地下のトレーニングルームを独占しているだろう。

 

「つーかこれ、パーティーじゃん……」

 

すこし遅れて部屋に入ってきた耳郎が、落ち着きなく周囲を見渡している。上半身が白、下半身が黒。おまけに片足には膝上まで網目のスリットが入っている。おのれ八百万、良い仕事しやがって。ノンスリーブなので両肩も出ている。目のやり場に困るじゃないか……。

 

「誕生日パーティーだよ。ほら、誕生日おめでとう」

「あ、ありがと」

 

耳郎に手渡したのは手のひらサイズの大きめの箱。中身はギターの形を模したマグカップだ。ギターの先端から飲める面白マグカップ。

 

「あはは、いいね」

「洗いづらそうだけどね」

「たしかに」

「ギターって安直すぎない?」

「ベースと迷ったけど」

「へぇ、探してみよ」

 

意外と好感触だ。良かった、イヤーカフとかも考えていたんだ。さすがに近しい仲でもないのにアクセサリーは博打すぎる。

八百万はそこらへん楽でいい、腐っても幼馴染だからな。指輪と刃物とお中元以外はあらかた贈り合った仲である。ハンカチは何枚贈ったか覚えていないが。

 

耳郎が手の中で遊ばせているマグカップを手に取って、彼女の代わりにカップを軽く洗う。カウンターに置いたカップにドリンクを注ぐと、耳郎と目が合った。自室のバーカウンターにバーテンダー側の段差はなく、オレと耳郎の視線は同じ高さだった。

 

「なんか、不思議」

 

耳郎が笑っている。こうしていると仲良いと思うんだけど、心の距離があるんだよな。それは以前からの彼女の様子で十分伝わっている。クラスメイトとしては十分な距離感だが、踏み込んで言えば──オレは彼女に命を預けられない。

 

「ウチが大きくなったみたい」

「来年の今頃には元通り。もっとデカくなってるかもなー」

「何センチあったっけ?」

「百七十……五センチ」

「絶対嘘!」

 

チィッ、せめて八百万よりは大きくなりたいものだ。

久しぶりに耳郎と話していたが、オレは今回の誕生日パーティーの主役一人。すぐにほかの面々に呼ばれてしまう。

芦戸もいたので、カウンターに置いといた箱を持ち出しておく。

 

「えー! くれるのー! 重っ! ありがとー!」

 

ちなみにダミーだ。耳郎に上げた箱より三回りは大きい箱は二重蓋になっており、上部に大量のリトマス試験紙を並べて置いた。その下にはピンクゼブラ柄のトートバッグを入れてある。

 

案の定ダミーに騙され「全部赤くなっちゃうよ!」と芦戸に睨みつけられるが、下の本来のプレゼントを見せると喜んでくれた。

 

「センス良いねー! や、悪い! 素直さが足りない!」

「ああ、ちなみに意味があってね」

「え? なにー」

 

使い心地を確認する彼女に、満面の笑みを向けた。

 

「『勉強を頑張りましょう』」

「か、か、か、可愛げー!」

 

急接近してきた芦戸に両頬を強く引っ張られる。負けじと手を伸ばすがパワーでも劣る。身長は数センチだが、身体能力では大きく引きはがされてしまっているようだ。

 

「ほら言って! 三奈お姉さんって!」

「あー! 弟くんみたいに! 呼んで呼んでー!」

 

葉隠も加わって揉みくちゃにされるが、そのうちに障子が物理的に掬ってくれた。

 

「大丈夫か、策束」

 

ア、 アニキィ!

デカい男性が怖いとか感じることはあったが、障子にはなぜか安心感を与えられた。

そのままぶらぶらと持ち上げられ、男たちのグループに合流する。といってもカラオケに夢中だった。

 

「ほら瀬呂の分」

「サンキュ! 確実に去年より貰ってるわ」

 

箱にも入れずポケットの中に保管していたエスニックの山羊革のキーケース。部屋と合わせて良いだろう。聞けば緑谷がオレと同じようにエスニックの小物を用意していたようで、かぶるところだった。緑谷のは財布らしい。かぶっていたらそれはそれで面白かったな、男同士は気楽でいい。

 

その緑谷からはシナモンスティックの詰め合わせをもらった。良いメーカーだ。《I・アイランド》でも思ったが、センスあるよな緑谷って。

一本取り出して匂いを楽しみながら、緑谷を見上げる。

 

「高かっただろ。ありがとな」

「え、いや、まぁ……。でも策束くんの手足のことも嬉しいし、壊理ちゃんのことだって。あと、ナイトアイのことも、あと──」

「あーあーわかった。ありがたく受け取るから」

 

自前の缶ケースを取り出しながら一本一本詰め替えていく。しばらくは取り寄せしなくていいだろう。

そのオレの姿を見ながら、なぜか緑谷は動かない。なんだ、いますぐ食べるか?

 

「僕も、昔食べてたんだ、シナモン」

「──ああ」

 

……まあ、緑谷は去年まで無個性だったのだ。多少は【似通る】だろう。

壁際に用意した椅子に腰かけ、隣に座った緑谷に質問を投げかけた。

 

「治崎の動機、オレにはわかった。推察だけどな」

 

で、たぶん緑谷にも理解できる。

 

「個性がウイルスで広がったとか、聞いたことあるだろ」

「うん……調べたことある」

「治崎曰く、オレたちは病原菌らしい。アイツにとって、個性の消失は病原菌の消失だ」

 

《個性》とはなにか。

かつて突如としてもたらされた謎の変異。《超常》またの名を《異能》。

 

個性の発現はおおよそ【四歳まで】。五歳でも聞かない話ではないし、無個性だと思われていた者が実際は『酔わない個性』『高音が聞き取れる個性』『勘が良い個性』など、《超常》と呼ぶにはお粗末な個性だったりすることもありえる。

問題は、発現【しない】理由がわからない、というところか。まあ当然だ、発現の理由すらわからないのだから。

個性の発現の理由は、【発症】から百年経ったいまでも不明のままなのだ。

 

超常黎明期には、足の指の関節の有無で個性が決定するのではないかという説が流行った。

進化論は、およそ二百年間も旧人類に支持され続けた理論だったので、当たり前のように進化論を当てはめようとしたわけだ。

 

人間に限らず、進化の過程で退化した痕跡器官とも呼ばれる部位。親知らずの歯や、足の小指の関節などがそれに当たる。

次代の進化が『個性』であるのなら、たしかに痕跡器官を強く残すオレや緑谷は、未進化の人類として扱われる。

 

進化論だけではなく、地域、食事、信仰する宗教、宇宙からの放射線、神が人類を高みに押し上げたなどなど。一説では未知のウイルスがネズミを介し、世界へ広がったとも。

こうして聞けば、あまりにも適当な人類の進化の瞬間だな。

 

それらミッシングリングの塊を総称して『超常特異点』と呼ぶ学者もいたが、当時は進化論が正義とされ、それ以外の案は排除されていくことになる。

 

さて、いまの問題は【未知のウイルス説】だ。

治崎は破綻していた。屈折していた。オレにわかることは治崎の履歴書程度のことだが、それでもヤツは言っていた。

 

『壊理にはそういう力が備わっている。個性因子を消滅させ、人間を正常に戻す力だ!』

 

落ち着いて考えれば、ヤツの目的は、その動機より幾分わかりやすい。

 

「治崎の目的は、壊理ちゃんから生成した薬剤を用いて、全世界の人間から個性因子を消滅させることだ」

「うん」

 

緑谷の頷きは早かった。意外だな、緑谷も考えついていた? あまりにも現実的ではない目的だから、仮説にしてもオレはあまり高い順位には置いていなかった。おまけに銃弾ならば百五十臆発では足りないだろう。根津校長が良い例だ、すでに個性は人間だけのものではないのだから。

 

「でも、最初はヒーローが目標になるはずだよ」

「そうだな、だけどどうやって銃弾をヴィラン側にも撃ち込む? 注射とか?」

「空中散布は?」

 

壊理ちゃんが百五十億人分必要になりそうだな。現実的ではない。あるいは──【ウイルスのように感染】させてもいい。

ははは、笑える。

病原菌に成り下がったな治崎は。

 

「まあなんにせよ、オレたちが【こんなもん】食って個性を欲するように、治崎は個性を病気のように嫌っていたんだよ」

 

まあ、それにしてはヤツは個性に依存しすぎていた。個性で生み出した鎧すらも全身【手】で埋め尽くしていたくらいだ。

依存は【弱いこと】と感じたのか、過去に個性関連のトラウマを抱えているのか……。治崎は個性を使うことで個性社会を否定しようとした。

それで自分が病原菌に成ろうとは、笑うぜ。あるいは、壊理ちゃんの個性を見たことで変わってしまったのかもな。それほど彼女の《巻き戻し》は神がかっている。

 

シナモンスティックを一口かじる。いいな、次からこのメーカーのも買っておこう。ちと太いが、紅茶には合う。緑谷に一本差し出したが、彼は断った。

 

「ちょっと苦手で。匂いは好きなんだけど」

「オレも」

「え!? そうなの!?」

「子どものころは。薬食わされてると思ってた」

 

緑谷が目を細めた。無個性だった時分を思い出しているのだろうか。

 

「僕は、足の指の関節だって教わった」

「あはは、まあまだいるよなそういう医者も」

 

進化論による個性の出現は、最終的に否定されることになった。

半世紀前、動物に似通った個性の出現で、DNAの観点から進化論は除外されることになったのだ。

個性を持つ人間は進化しているとされてはいる。だが人類が七万年かけて進化してきた間に退化したはずの器官が『個性』という形で、先祖返りどころか動物を【模して】いるかのように発現しているのだ。わかりやすいところだと尻尾だな。

 

それは進化などではなく、『個性』という機能が人間の種に対しての上書きしているようではないか。

 

なら、取り残されたオレは……もはや人間ですらないのではないか、と考えたこともある。

 

近年、《個性因子》と名付けられた新説が謳われはじめたが、こちらはまだまだ研究段階。現状は人類の個性の取得は、『個性因子に適応するための進化』とされている。

詰まるところ、進化論に立ち戻るわけだ。

 

解明されればオレが個性を使える日が来るかもしれないな。いや、違うか、オレの個性因子は【奪われている】のだ。たぶんほかの無個性とは理屈が違う。

……理屈が狂っているのは、きっと治崎も、壊理ちゃんも、もっと言えば緑谷もだろう。

 

「治崎の個性はずいぶんと強力だったよな。両親から引き継いだものならいいけど、もしあいつの個性がミューテーションなら……疎まれただろうな」

 

個性の突然変異。もしかしたら、無個性だって突然変異かもしれない。ある意味、オレと治崎は似ている──という想像だ。本当のところはわからない。ただ商売下手を個性社会のせいにしている社会不適合者という可能性のほうが高い。

そのことを緑谷に話すと、なんとも言えない複雑な表情を見せた。

 

タイミングを見計らったかのように、青山が緑谷に声をかけてきた。どうやら彼の選曲の順番が来たらしい。

マイクに向かう緑谷を見送ると、八百万が寄ってきた。こっちはどうやらタイミングを見計らっていたな。

 

無言で隣に座った八百万の手の中には、箱が握られていた。

なんだ、なにか言えよ。

 

「百お嬢さん、お誕生日おめでとうございます。申し訳ございません、せっかくの誕生日なのにオレが主賓扱いなんて」

 

【ざまあみろ】と思わなくもないが……まあ【昔の話】さ。

ホストも兼ねてるからな。もっと感謝しろよお前ら!

 

「いいえ、業さんの身体が元に戻ったのがなによりも嬉しいですから」

「オレからのプレゼントはご実家のほうに贈らせていただきました。イタリア産のオリーブオイルです。直接飲むのも身体に良いとされていましたよ」

 

中身の百倍入れ物の瓶が高いおまけつきだ。

 

「オリーブオイル……」

 

なんだよ、不満か。

 

「私からはこちらを」

「開けても?」

 

許可を取ってから箱を開けると、中には黒を基調にした靴が左右並んでいた。

……【靴】。まあ、そんな気はしていた。

 

「ありがとうございます」

「私、とても甘い考え方をしていたのだと、気づかされました」

 

マイクを握る緑谷を見た。

おそらく、緑谷は『死ぬ覚悟』がある。身体を壊しながら戦う姿を見れば十分に伝わってくる。

じゃあ、ほかのみんなは?

何人かは自覚が生まれていると思う。たとえば峰田。彼はちゃんと死が怖いことを理解している。実践を経験した切島や心操たちは? 

 

「靴を贈れない相手というものを、想像したことがありませんでした」

「それはまたずいぶんと」

 

甘えた考えだ。

事故でも病気でも先天性でも、身体の不自由な人は多くいる。オレは運良く短い期間だったが、オールマイトやグラントリノ以外には腫物のように扱われた。

ましてヒーローに成りたいというのなら、命も身体も資本の一つだ。【消耗品】なんだよ。

 

「履いてくださいませんか?」

「喜んで」

 

持ち上げると、その重量感に驚いた。安全靴のように鉄板が入っている。見た目はスニーカーだが、ヒール部分はドレスシューズだな。アウトソールも中になにか入っている。釘を踏んでも問題ないだろう。

重いということを除けば、だが。あとちょっとデカい。まあ大きさはいいさ、すぐにお前よりデカくなってやる。

 

「どうでしょう! 纏さんに靴のサイズを聞いていたので、ピッタリだと思うのですが」

 

八百万が? 纏に? 靴のサイズを?

 

「ええ、ピッタリですよ」

 

弟の足にピッタリだろう。どんな聞き方したかは知らないが、いまごろウキウキで誕生日待ちかねているよな。あーあ、オレは知らん。

この靴贈ってあげたほうがいいかな……。

あ、そうだ、可哀想な弟には八百万のオフショルダーの花柄ワンピース姿の写真を送ってあげよう。

よぉしみんなで写真でも撮ろうぜ!!

 

急にテンションを切り替えたオレに八百万が戸惑うも、クラスメイトたちはカラオケも切り上げて写真のために集まる。

瀬呂に押され、誕生日組とオレがセンターへ来るようにしゃがむ。背後にはクラスメイトがぞろぞろと並び出した。常闇はあとで合成して付け加えといてやろう。

 

シャッターを切った峰田に不信を抱き、芦戸がカメラの写真を確認。怒りながら彼の携帯端末のデータを消していた。なにが写っていたのかは知らないが、スカートの女性は多い。もう、もう峰田お前さぁ……。

 

正式に撮影した写真を何枚かA組のグループ連絡網に画像を添付してもらい、その後はもう一度遊びの時間と相成った。

耳郎のカラオケは良い……。本人は恥ずかしそうだが明らかにレベルが違う。これで楽器も弾けるんだろう? なんで音楽系に進まなかったんだろうな、個人的には嬉しい限りだが。

ついで八百万は人生で二度目のカラオケ。たどたどしく歌詞を追いかける八百万を動画に収めたが、弟は喜んでくれるだろうか。いやー、良い兄貴しているぜ。

 

夜八時を過ぎ、ビュッフェもほとんど残っていない。端に椅子は用意していたが、それでも何人かは二時間近く立ちっぱなしだ。すでに自室や一階の談話室へ向かったメンバーもいる。

常日頃から身体を鍛えているだけあって、オレ以外の足取りはしっかりとしていたが。鍛え直しだが、はたして中学一年の体力で雄英高校の訓練についていけるのかなぁ……。

 

オレの不安はさておいて、すでに片付けの雰囲気になっている。オレの部屋で主賓がオレということで、片付けは常闇や麗日が入れ替わり立ち代わりやってくれている。

オレ以外の主賓はもういない、両手に抱えても溢れるプレゼントたちを働きアリのように運んでいる最中だ。障子が大活躍である。

 

「プレゼント選ぶのなんてあんまりないから、どうしようか迷ったよ」

「それでお揃いのTシャツ? 尾白は普通だなぁ」

「うっ」

 

上鳴の『普通』発言に傷つく尾白だが、ありがたく部屋着にさせていただこう。ちなみに上鳴からは香水だった。それぞれイメージしているのだろう、全員が違う香水を頂戴した。

これからはちゃんと全員にプレゼントを贈るように気を付けなきゃな。

 

ちなみに雄英高校は香水をつけて登校しても問題はない。化粧も同じ。授業をくだらないとして携帯端末を弄り続けても、おそらくは注意されない。

だが、【見捨てられる】可能性は大いにある。線引きが生徒側からできない以上、気を付けるに越したことはない。

……つぎにパーティーでもあればつけていこうかな。

 

「こっち終わったー! ゴミ一階に置いてきちゃうねー」

「ありがとー」

「あ、手伝うよ」

 

主賓席から耳郎が立ち去ってしまう。

……まだ耳郎からのプレゼントをもらっていない。だめだ、期待している。マグカップを贈ったオレが思うことではないが、進展するチャンスがほしい! やはりイヤーカフとかアクセサリーのほうが良かったかなー。そんなに重く考えずにさぁ、香水だって良かったよなぁ。

女性陣は金を出し合ってクラス全員分のシリコンバンドを用意していた。『Plus Ultra』の印字までついている。たしかにこれならアクセサリーを重く考える必要はなかったはずだ。ああ、もったいないことをした。

 

「業さん」

 

いつの間にか戻ってきていた八百万が、オレの袖を引っ張って壁際へと寄らせる。窓ガラスに八百万とオレが映し出され、客観的に身長差を理解してしまった。思った以上に子どもに見えるなぁ……。

 

「あの、不躾な質問なのですが……」

 

気まずそうな八百万。なんだ、厄介事か?

 

「その、業さんは《巻き戻し》されたのですよね」

「ええ。壊理ちゃんという子の個性で」

「では……その……」

 

彼女は一度視線を下げて、深呼吸しながら顔を上げた。一歩踏み出して、オレの耳元で小さくささやいた。

 

「【奪われたという個性は《巻き戻し》されていますか?】」

「……ああ」

 

──ああ、たしかに。たしかにそうだ。

 

オレに備わっていたという《複製》個性が、いつ奪われたのかはわからない。

中学一年生のときに《巻き戻し》されたというのなら、おそらくは奪われたあとの肉体だろう。だからって試さないのは馬鹿だ。

 

オレが、個性を使える?

コイツもその可能性に行きついていたのならもっと早く教えてくれよ。オレの個性が奪われていることを知っているのは、オールマイトの関係者以外、オレの家族と八百万だけなんだから。

 

 

パーティーも終わりみんなを見送ったあと、オレはがらんどうになった部屋の中心に立っていた。

まずは、小さい、細かい物から。

右手からシリコンバンドを外して、両手で挟む。

 

……集中、集中しろ。

 

「……《複製》!」

 

父親と弟が叫んでいる姿は見たことないけど、どういう感覚なのかすらわからない。手の平でプレスしていたシリコンバンドは、両手を広げても一つのままだった。

 

イメージ力の不足か? それとも、叫びが足りないのかもしれない。

 

「《複製》!!」

 

そもそもあれだ《巻き戻し》された期間と個性の消失は無関係ということもある。

オレがこんなことをしているもの、ただ可能性にすがっているだけだ。

 

「《創造》!

「《巻き戻し》!

「《硬化》!

「《ダークシャドウ》!

「《爆破》!

「《なんか》!

「《なんでもいい》!

「《ねじれ波動》!!」

 

腰を捩じって! 両腕を突き出し! 気合となにかで!

 

「波あーーーーーー!!」

 

すげぇ、なにも出ない。

喉が痛くなっただけだった。

 

水でも飲むかと振り返ると、【目が合った】。

 

「…………」

「…………」

 

しかも、二人と。

 

「あー……爆豪が廊下にいて、えっと、声掛けたらって、思ってたら、中から叫び声が聞こえて、慌てて、えっと、だから、その」

 

状況の説明する耳郎の手の中には、包装された箱がある。おそらくはオレへの全快祝いだろう。視線が回転するようにバチャバチャと泳いでいる。

 

彼女の背後にいる爆豪の……なんだその目は!! いっそ笑えよ! フレーメン反応起こしてんじゃあねーよ!

 

「あ! ウチ用事思い出しちゃったー! じ、じゃ、あの、あのー、また明日ね! ほら、爆豪も!!」

 

耳郎のスリッパの音が廊下に響いて、ついでに扉が爆豪を消し去るように閉まった。

 

オレの記憶も消し去ってほしかった。

 

「はあーーーーーー!!」

 

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