ここから劇場版中はヒーローネームで呼ぶことが多くなります。読みにくくなるし、実験的で自己満足ではありますが、お付き合いください。
那歩島の設定に関しては深く考察しているわけではありません、捏造です。パンフレットや特典本でも言及されているわけでもありません。本編に深くかかわるわけでもありませんのでお気になさらず。
数日後、オレたちは地区の規模や人口密度によってチームをいくつかに分けて活動していた。
その中でも、海岸部には多くメンバーを割り振ることになった。
「あちー……」
「無理するなよ、策束」
砂浜に立てた二本の監視塔の上で、オレとテンタコルが並んでいた。
水分補給は十分だし、こっちはコスチュームを脱いで、防水パーカーと水着というラフな格好へ着替えている。しばらくは大丈夫だろう。
「おいテンタコル、テイルマンが女の子に囲まれてんぞ。こちらフェイカー。テイルマン、けしからんぞ、オーバー」
『俺が! 俺が助けたんだぞ!』
『なんか、ごめん』
グレープジュースとテイルマンの声が新装備のマスクスピーカーから響いてくる。どうやらナンパされている女性二人組を助けたようだ。
ナンパされて喜ぶ女性ばかりではないだろうし、嫌がっているのなら脈がないと諦めてほしいものだが……双眼鏡で見る限り、テイルマンは尻尾にべたべたと触れられていて、脈ありそうだ。
「蛙吹! 岩の向こう七十メートル! 子どもがおぼれている!」
やっば! 遊んでる場合じゃあなかった!
ライフジャケットを手に取って監視塔から飛び降りた。勢いよく砂浜へ転がり、前転しつつ走り出す。四足で飛び跳ねる梅雨ちゃん──フロッピーにすぐに追いつかれたが、その彼女にライフジャケットを投げるように手渡した。
「ありがとう!」
「頼む!」
すぐさま監視塔へ戻り救命浮き輪を手に取ったが、テンタコルに止められる。どうやら、子どもは浮き輪によって流されているらしい。
ならば、と代わりにオレは観光客が集まるほうへ走り出した。
「ただいま四、五歳の男の子と思われる子どもが沖へと流されています。お子さん連れの方は、すぐにお子さんの安否をご確認お願い致します。ヒーローフロッピー、およびヒーローテンタコルが救助活動中。繰り返します──」
ナンパされていたテイルマンと、ナンパされていなかったグレープジュースとも合流した。
『フェイカー、いまフロッピーが子どもを救助、すぐにこちらに来る。対応するぞ』
「頼む」
テンタコルの連絡に胸をなでおろした。次いでショートから連絡が入る。彼もテイルマンたち同様に海の家が活動範囲だ。
『俺もそっちに行くか、策束』
「いや、子ども探してる大人がいたら声かけてくれ。グレープジュースとテイルマンもそれでよろしく」
テイルマンが駆け出すのを見て、観光客の女性が「がんばれー、テイルマンー!」と声を揃えているさまに、グレープジュースともども複雑な気分で見送ることになった。
「海に流されていた子どもは、ヒーローフロッピーが救助成功しました!」
オレの雑な報告に周囲から歓声が沸く。しかし、仕事としては終わっていない。
「お子さんのご両親を探しています。お近くのヒーローにまでお声がけください。繰り返します、流されていた子どもは救助成功しました。心当たりのある方は、お近くのヒーローにまで──」
その後は海の家でのんびりしていたという若い夫婦の方が名乗り出て、溺れかけていた子どもを引き渡す。
その子どもはすっかりフロッピーのファンになっていたな。
『策束──じゃなくてフェイカー。岩場の向こう側はテープで塞いどいたぜ』
『声かけはしたが、明日からもやっておくか』
「仕事が早くて助かるわ。テープはオレたちがいる間はそのままにしておこう。声かけは明日から業務に加えておくから、ツクヨミは通常業務に戻ってくれ。セロファンはそのまま海チームに合流。今日人多いわ」
『オッケー』
子どもが流される大事件ということで、『雄英ヒーロー事務所』からセロファンとツクヨミの二名、応援として呼んだ。
流された子どもが監視の死角から海に入ったための事故だ。監視の負担を減らすため、海岸の端を遊泳禁止エリアにするわけだ。
索敵能力に長けるテンタコルがいなければ、子どもはもっと流されていた可能性がある。オレが見ていた方角は、基本的に海の家側だった。
おまけに監視は十分だと誤認していた。
情けなさすぎる。
万が一子どもが浮き輪から手を放していれば、ここにテンタコルを割り当てなければ、もっと遠くへ流されていたら──。
「くそ……気が抜けていた。ありがとう、テンタコル」
「いや、角度的に見つけることが遅くなったのはしかたのないことだ。再発防止を心がけよう」
「アニマかイヤホン=ジャックのどっちかがいればなぁ……」
アニマとイヤホン=ジャックの個性は多様性が非常に高い。二人の場合は事務所に置いて依頼をされた場合に派遣する役割を振ったのだが、海難事故を重視して良い。
夜の会議のときに話しておこう。
「気に病むなよフェイカー。俺はお前がいてくれて心強い」
「気を遣うなよテンタコル。しばらくは引きずるさ……」
「それに加え、もし俺たちがいなければ、あの子はもっと危ない目に遭っていた可能性がある。俺たちは、良い仕事をしただろう?」
ああ、そうだ、そうだよ。なんでオレの後悔で、テンタコルとフロッピーの仕事を貶すんだ。
双眼鏡を覗いたまま、テンタコルの肩を叩いた。
「最高のヒーローだったぜ兄貴」
「誰がアニキだ」
テンタコルの複製腕が甲高く鳴いた。
◇ ◇ ◇ ◇
青い海、白い雲、灼熱の砂浜──。
オレたち海岸部に割り振られたメンバーがこなしているのは、那歩島の村長からの依頼によるものだった。
引退したヒーローは老人だった。足腰こそいまのオレよりは強いかもしれないが、体力の低下から頻繁に活動していた印象はない。近所を回ってのんびりした毎日を過ごしていた好々爺らしい。
定年間際ということでヒーローとしての職務を全うできていたかは定かではないが、人気はあった。そのため雑用を押し付けられる若者二十名に、引退したヒーローの代わりのように、島民たちは雑務のように、そのうち誰かがやる仕事をいまのうちに処理してしまおうと指示しているわけだ。
雑用・雑務というと聞こえが悪いが、依頼として報告書もあげられるし、『ヒーローとして頼られる』という経験もありがたい。
それに『そのうち誰かがやる仕事』というフレーズは、なかなかどうして琴線に触れるものがある。マニュアルさんに憧れる者としては、やりがいのある仕事だ。
まあ、オレが指名されたことは一度もないのだけれど……。
ちなみに、小さな島のたくましい島民たちは、オレたちがいる二週間を観光イベントに利用している。
一応許可はとったようだが、観光客用の現地パンフレットの一部をオレたちA組の顔写真を付けて増加したらしい。ネットに上げないローカルなイベントだからといって、観光客がアップしないとは限らないんだけど……。ジェントルのような愉快犯がいないという保証などない。
さて、日が傾いていくると、ほとんどの観光客はフェリーに乗って本土のホテルへ戻る。なんてったって十一月だからな。スキューバならまだしも、海水浴など昼の数時間が限界で、陽が出ていなければ水の中のほうが温かいなんてことになりかねない。残ってそのまま民泊する観光客もいるにはいるが、遅くまで海に入る人は多くない。
つまり、海はがらんどうになるということだ。
稀に落ちているゴミを必死に探していると、海の家の片付けを手伝っていたフロッピーが、ショートを連れて海岸へ戻ってきた。
「海の家の方々と引継ぎは終わったわ。帰りましょうカルマちゃん」
「だな。セロファンは初めてだったよな、海側の報告書の書き方わかる?」
「わかんねぇけどほとんど一緒?」
残念ながらちょっと違う。本来のライフセーバーはボランティアだ。だが、ヒーロー公安委員会が用意したプロジェクトでは報告書が必要になる。どうせなら困らせるほどに提出してやろう。
「腹減ったぁ! 今日も女の子の連絡先ゲットできなかったし!」
「峰田はそればっかりだなぁ」
「尾白は良いよなぁ! ずりぃよその尻尾!」
「そんなこと言われたのこの島で初めてだよ……」
この二人のコンビもそろそろ見慣れてきたな。
「そういえば、子ども見つかった?」
「あ、すぐに緑谷から報告きてたよ、ごめん忘れてた」
溺れた子どもを助けて、砂浜の遊泳禁止エリアを広げた途端の出来事だったのだが、空のパトロールに戻ったツクヨミが『はぐれてしまった弟を探してほしい』という依頼をもってきた。
その依頼自体はウラビティが担当、サイドキックにイヤホン=ジャックとデクの二名がついている。十分な人員だ。
いおぎ荘改め『雄英1-A 事務所』へ帰投し、全体ミーティングとなる。
これから食事ということもあり、全員がコスチュームを脱いで気を抜いていた。最初は夜勤なども立てていたのだが、依頼が昼に集中することを懸念してほとんどを日勤へ回した。
夜間は二人いれば十分だと判断している。
「崖崩れは予想外だったな。オレたちが来る前の雨?」
「現場検証してくれた警察官は、台風のあと風化しちゃったんじゃないかって言ってたよ」
キラン、とオレにウインクを向ける青山の意見に、彼と一緒に道を塞いでいた岩を撤去した芦戸もうなずいていた。
「じゃあ朝一からキラキラとピンキーで崩れそうな場所を先に崩してくれるか? ツクヨミとイヤホン=ジャックは空から災害になりそうな箇所、なったら困る箇所を確認してくれ。地図はフォルダに入れといた」
本当は爆豪あたりが山の半分も吹き飛ばしてくれるならありがたいのだが、地形を変えたらどんな怒られ方をするのだろうか。それでなくても名前を端折ったオレに青山が怒っている。
常闇の代わりに口田を向かわせてもいいのだが、彼は『雄英ヒーロー事務所』の稼ぎ頭だ。解決件数はぶっちぎりの一位。指名も多く、もしヒーロービルボードチャートがこの島で行われれば、支持率からナンバーワンだな。
というのもこの島、ペットの脱走が非常に多いのだ。犬猫ならまだしも、オウムなどの鳥が逃げれば飛行個性がなければ追いかけることもままならない。
おまけにこの常夏の島ならば幸せに暮らせるだろう。餌になる昆虫があまりにも巨大だからな……。
話は変わるが、那歩島は年がら年中どの家庭でも窓を開けっぱなしで過ごす平和な島だ。
いおぎ荘でもそれに倣い、涼しい風に吹かれながら眠りについた。
移動で疲れ切っていたオレたちは夜間勤務も立てずに早々と眠りについた。その深夜、女の子のような甲高い悲鳴が上がったのだ。
悲鳴に叩き起こされたクラスメイトがコスチュームに着替えるなか、オレは、オレの手のひらよりも大きな大きさの黒くてカサカサしている油でテカテカな昆虫が外に逃げ出すのを震えながら見送っていた。
あー、すごい可愛い悲鳴出たー。不意打ちはいかんよな不意打ちはよぉ。
「では、全体ミーティングは終わりということで、夜間業務へ切り替えます。今日もみなさんお疲れさまでしたー!」
「「「おつかれさまでしたー!」」」
オレの号令で、クラスメイトが一瞬で弛緩する。机に突っ伏したり、空いている椅子に足を乗せて楽な姿勢をとるやつなどいろいろだった。
「労働基準法プルスウルトラしてるし」
「残念だったな上鳴、オレたちはチームアップしているだけの個人事業主だ。労働基準法は適用外。あと報告書の提出は二十二時までだからな」
頭を抱える上鳴を尻目に、瀬呂が業務の負担を減らそうと、些細な依頼を拒否するように提案したが、八百万が颯爽と否定した。
「ヒーロー活動しているとはいえ、私たちはまだ学生。誠実にこなし、島の皆さまから信頼を得なければ」
「ハーイ! ここにきてぇ、一度もヒーロー活動してないやつがいるんですけどー!」
峰田が爆豪を煽り、爆豪がヴィランに対して迅速に行動できるようにと反論した。下手に外に出てもクレームになることに加え、臨時戦力として確保しておきたい気持ちはある。
ヒーロー活動未経験の二十名の学生を有効に活用しようと思うと、個性の適材適所は必須項目だった。八百万が一人いれば十分といえば十分なのだが、さすがにそれを口に出すことはオレのちっちゃいプライドが許さない。
それに《爆破》は結構うるさいんだよなぁ。
「お邪魔するよ」
いおぎ荘の正面玄関から、村長を筆頭にぞろぞろと入ってくる島民たち。彼らの手には大量の食事皿が載せられていた。
どうやら、民宿を営むおばあちゃんの親縁が腕によりをかけて作ってくれたそうだ。
依頼帰りに野菜をもたせてくれる方や、獲れたての魚を差し入れてくれることはちょくちょくあったが、料理としては初めてだな。
プロジェクトが始まって一週間、ようやく馴染めたということか。ありがたいぜ。
蛇足にはなるが、なんと集まった島民の中に、峰田と尾白がナンパを防いだ女性二人組の姿があった。民宿客らしく、尾白に追加のお礼を言うために来たらしい。彼は照れるように頬を染め、峰田を筆頭に一部の生徒からものすごく睨まれていた。
料理は運んできてくれただけのようで、島民の方々は料理を並べるだけで帰ってしまうとのこと。クラスメイトには食事を始めてもらって、委員長コンビがお礼に見送る算段となった。
「ありゃあすぐに無くなっちまうな!」
「つぎは【本鯛】釣ってきちゃるかー」
八百万の後ろをついていくと、漁師二人組の会話が聞こえた。はて?
「【ホンダイ】って真鯛のことですよね? 京都の方ですか?」
「ん? いやぁこっちは本鯛言うけど」
気にはなっていたが、ずいぶんと方言が混じっているんだよなぁ。離島の城跡は『グスク』と呼ばれる沖縄由来のものだとパンフレットには書いてあったのでそれ以降……。明治の頃にはずいぶん本島から人が流れてきていたようだ。
薩摩藩が城を捨てさせた可能性もあるし、平和になって土地の広い隣の島へ移ってきた可能性もある。
料理にも違和感があった。差し入れの料理も例にもれず、味付けこそ沖縄料理ではあるが、提供料理は全国一般的に普及しているものだ。あれらがオレたちのために作ってくれた料理だからという理由ではなく、海の家や定食屋などの提供料理も同じものだ。居酒屋などのおつまみは地ビールと合わせて沖縄っぽいが、それくらいだな。
村長に郷土資料を読める場所がないか聞いたが、大きな声で笑われてしまった。どんな観光客にもそんな質問されたことはないらしい。
どうやら図書館が住宅地の学校付近にあるらしく、休みの日に行ってみようと思う。夜勤開けの明日なんてどうだろうか。楽しみが一つ増えたな。
「意外だな、策束くんはそういったものに興味がないと思っていた」
「文化祭で消されてった一覧含めての多数決だったら、飯田の郷土史研究に入れてたよ」
「そうか!」
ごめん、うそ、コントに投票しようとしてました。
嬉しそうにうなずく飯田はさておいて、いおぎ荘の敷地と道路を挟んで、A組と島民でお礼を言い合う。食事へと戻る最中も、食事の最中も飯田からは郷土史について熱く語られるが、雄英高校付近の郷土史なら任せてほしい、なぜなら策束家が治めていた時代があるくらいなのだから。
食べ終わるころには陽はすっかり沈んでいた。
「ケッ」
食器の片付けでも始めようかと思っていたところ、爆豪が喉を鳴らす。見ている方向は、緑谷? 会話の内容は知らないが、梅雨ちゃんが「ヒーローをやっていて良かった」という発言をしていた。ひねくれ者だなぁこいつは。
さてと……。どの皿が、どのご家庭のだろうか。
風呂を済ませたオレは、提出された報告書を読み返しながら事務所で暇をつぶしていた。まだ二十二時。一人でどう時間をつぶせというのか。
今日の夜間担当はオレと爆豪。本当は瀬呂との夜勤だったのだが、爆豪の雑用をしない様子に仕事を押し付けた流れだな。暇だし生活リズム崩れるし、なにより眠い。くわぁとあくびをどうにか噛み殺し、集中を取り戻す。
なお、爆豪は事務所にはいない。暇だからと夜間のパトロールに出てしまった。インカムは持たせてあるから、すぐに戻れるとは思うが。
「詳しく聞かせろォ!」
な、なに!?
外から聞こえてきた爆豪の大声に驚いて、報告書を持ったまま外へ飛び出す。
いおぎ荘の門前で、爆豪と緑谷が麦わら帽子の男の子を相手に声を荒らげていた。あまりといえばあまりの光景に頭痛がしてくる。
「策束くん、大変だ!! みんなを起こして!」
「えっと」
「ヴィランが出たんだ!」
爆豪と緑谷が大声を上げるなか、暗闇で少年の肩が震えた。二人の大声を聞いて怖がったのか、それとも──。
「クソワイリー!」
「オッケー。じゃあ二人ともよろしく」
敬礼するように二人を見送ってから少年に話を聞こうと思ったが、爆豪が《爆破》で移動し始めたときには、なぜか男の子はもういなかった。
夜中に響き渡る《爆破》の爆音に、甲高い悲鳴が混じっているのに気づく。いや、子ども連れて行くなよ……。
緑谷も行ってくれたので、ヴィランがいたとしても十分に対応できるだろう。パトロール中だった爆豪にはインカムもたせてあるし、と、事務所に戻ってマイクスピーカーを装備。ついでに二階へ行って、瀬呂だけ呼び出す。
「ヴィラン!? やべぇだろ! 俺も行くわ!」
コスチュームを取りに戻ろうとする瀬呂を押しとどめ、二人で事務所へ向かった。
「爆豪、聞こえるか。状況は?」
『クソデクとガキ連れて進んでる! 十分!』
「こっちは事務所で待機。んで、【本当にヴィランがいたら】島民に対して放送を流す」
『──あぁ!?』
爆豪もようやく子どものイタズラである可能性にたどり着いたようだ。瀬呂など「なるほどね」としたり顔である。
「まあ依頼があった以上向かわなきゃいかんから、最後までよろしくな」
『ふざけんな!! クソ! いろよヴィラン!』
いないでくださいヴィラン。
通信を切って瀬呂とともに書類に目を落とす。といっても本当にヴィランがいる可能性はゼロではない。私語で暇を潰す空気ではなかった。
それでも、爆豪と緑谷が帰投する一時間ほどは、のんびりとすごさせてもらった。
「んで? どうだった?」
「瀬呂くん、あっと、えぇと……」
緑谷の反応だけで十分だ。爆豪など挨拶もなしに畳へ寝転がってしまったため、瀬呂と二人で笑ってしまった。
瀬呂と緑谷が二階へと戻り、こっちは報告書を作成しながら暇を潰す時間となった。
◇ ◇ ◇ ◇
爆豪はどういう身体なのか、なんどか眠っていた様子こそあったが、夜勤明けのくせにすでに十分なパフォーマンスを行う程度には元気になっているらしい。
オレは半分眠ったまま朝食を食べることになった。
「じゃあフロッピー、テンタコル、海のほうはよろしく」
「ああ」
「カルマちゃん今日おやすみよね。ゆっくり休んでね」
寝て起きたら郷土史を読みに行くと告げると、二人がなんとも言えない表情を見せた。
意外と面白いんだぞ、武家と宗教と公家と農家の世界。おまけに変な髪形で統一されている男たち。異世界アニメよりよっぽど異世界だ。
「イヤホン=ジャック、行くぞ」
「う、うん!」
外では、ツクヨミの背中にまたがったイヤホン=ジャックが、もたつきながら空を飛んだ。いいなぁ、楽しそうだ。実際、ツクヨミの空中遊泳はずいぶんと人気で、ここ一週間は空に向かって携帯端末を向ける観光客が多数いるという。
海に向かうフロッピーとテンタコル、山へ向かうトゥインクルとピンキーも見送って、電話番をするクラスメイトに挨拶をしてからオレは眠りについた。
起きると十二時。ずいぶんと早く起きてしまった。日陰が涼しいとはいえ、太陽の高いうちは暑くてね……。風呂で汗を洗い流し、冷凍庫からアイスを取り出す。
爆豪も納涼を求めてきたようで、ラフな姿の彼に取り出したばかりのアイスを手渡した。
お礼も言わない爆豪を見送って、爆豪の特等席の畳の上でアイスを食べる。縁側に足を差し出すと太陽が両膝を焼いた。
背後で電話が鳴り続けるが、うんうん、問題はないな。
すぐに溶け出すアイスを食べきり、熱い縁側から離れて事務所側に寄る。
「ピンキー、がけ崩れどうだった?」
「きょうか……じゃあなくてイヤホン=ジャックが言うには、とりあえず大丈夫そうって。でもつぎ雨降ったり、ずっと天気良かったりするとわかんないよねー。あ、役場は対応してくれてたよー。はい、雄英ヒーロー事務所です──」
話をしている最中にもなり続ける電話をとるピンキー。一歩引いて見守るも、依頼内容は観光客の荷物の紛失。担当はインビジブルガールとトゥインクルか。どちらも捜索向きの個性ではないので人選に難ありだな。
なんて思っていたら、ピンキーがグレープジュースに依頼者の声の可愛さを告げると、三人組でチームを組んだ。
走り出したグレープジュースの背中を見ながら、イタズラが成功したピンキーと笑い合う。
その後は海岸のテンタコルから応援要請でテイルマンが。畑の手伝いでデクが抜けることになるが、事務所にはまだ八人以上。大丈夫そうかな?
念のためコスチュームに着替え、マスクは持っていく。
クラスメイトに行先だけ告げ、目的の図書館へ向かう。徒歩二十分の市街地だ、水分補給だけはしっかりしておかないとなぁ。