【完結】無個性ヒーロー   作:南畑うり

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※グロシーンがあります。ご注意ください(映画にはありません)



劇場版「ライジング」③

 

図書館では島の歴史を読ませてもらったが、なかなか興味深い。やはりこの土地から琉球民族は追い出され、大和民族が占領したらしい。占領と言っても緩やかなもので、戦はなくすべては交渉で済まされている。琉球からすれば美味しい契約ではないが、戦争をすれば殺されるだけの戦力差か。安土桃山時代の日本はヴィランも真っ青の戦闘民族だからな。

それにしても、五百年前の城の跡地……見たいな。

 

那歩島から時間帯によっては地続きになる離島は、その名も城島。文字通りってやつだな。いまの時間だとギリギリだな、帰ってこれなくなったらどうしよう……。

 

外に出るとすでに陽が傾いていた。緊急連絡もなく、実にゆったり過ごしてしまったようだ。城の跡地に着くころには陽が沈んでいるな。電話一本入れておこう。

 

この時間だと誰が電話を取るだろう。案外バクゴーだったりして。あいつが「雄英ヒーロー事務所です」とか言う想像つかねー。食うに困ったら爆豪の事務所で電話番として雇ってもらうか。

 

『もしもし、こちらは雄英ヒーロー事務所ですわ』

 

八百万か……。まあ彼女なら報連相は問題ないだろう。上鳴あたりだと伝え忘れが怖かった。あいつちょこちょこ報告書もさぼるんだよなぁ

 

「お疲れさまです。こちら策束です。ちょっと離島に行きたくて、帰るころには暗くなると思いますので」

『そうですか、了解しましたわ。お気をつけて』

「ええ、失礼します」

 

通話を切って、商店街を抜けるように歩き出す。たかだか四十メートルだ。観光地とはいえ人口千人の小さな島だと実感する。すれ違う人の半数近くが依頼でなにかしらの関わりをもった人。現場に出ることのすくないヒーローであることが悔やまれるな。

 

「策束くんー! どうしたのー? なにか依頼?」

 

はて、フェイカーではなく、名前で呼ばれた? いや、ヒーロー名だけではなく、名前でも挨拶はしているが。

 

きょろきょろと見渡すも、声をかけてきた女性の姿が見えない。……葉隠か。

インビジブルガールの手袋が浮いている。その近くにはグレープジュースとトゥインクルの姿も見えた。

グレープジュースは青色のリュックサックを抱きしめている。

 

「それ荷物? 良かったな見つかって」

 

腕時計を確認すると、本土へ帰還するフェリーの到着一時間前だった。観光客だということを考えれば、下手すれば荷物を諦めなければならなくなる。これはいい仕事だな。

 

「いまから役場まで届けに行くんだ。一緒に来るかい?」

「手柄はやらねーけどな!」

 

休日ではあるが、依頼人の顔を見ておくのは悪くない。一歩離れていれば手柄の横取りにはならないだろう。良かった、コスチュームにしておいて。

 

快諾して三人の後ろをついていくと、役場の待合室には若い男女の姿があった。グレープジュースの持っている荷物を確認したその二人がこちらへと寄ってきた。

 

「もしかしてヒーローの方々ですか!」

 

なぜか荷物を手放そうとしないグレープジュースの代わりに、インビジブルガールが荷物を男性へと手渡した。荷物を背負い直した男性と、恋人の女性がそろって頭を下げる。

 

「本当にありがとうございます」

 

お礼もそぞろに二人は向かい合い、両手を合わせて見つめ合う。

 

「良かったね! まーくん!」

「そうだね、みーたん」

 

インビジブルガールは拍手をして二人を祝い、トゥインクルはなぜかくるくると回り出した。オレと似たような感情はグレープジュースが近そうだ。なんか、なんかだよな。

 

さて、オレはそろそろ城島へ。

そう切り出そうとして、外から聞こえてきた爆発音と振動に動きを止めた。

 

「なんだ?」

 

グレープジュースを先頭に、依頼者を含めて歩き出す。

 

役場を出た瞬間、遠方に白煙が上がっているのが見えた。その煙の発生源から逃げようとする島民たちが役場へ駆け込んでくる。

二度、三度と爆発音とともに白煙が上った。

 

依頼者のカップルにも役場の中に入るように指示を出し、人並みを逆走して走り出す。その間にも、逃げ惑う人々から『ヴィラン』という単語が聞こえてくる。

 

信じたくない気持ちはあれど、白煙は次から次へと上がっていた。そして、近づいている。

 

携帯端末を取り出して、圏外であることを確認。

上着のポケットからマスクスピーカーを取り出して、クラスメイトへ呼びかける。インカムの距離はギリギリだろうが──。

 

「ヴィラン確認!! 商店街! 聞こえるか!」

『ヴィラン? なに、どうしたの?』

「いいから援軍出せ! 島民の避難を開始! 嘘でも訓練でもねーよ!」

 

良かった、届いた!

チャージズマの間抜けな声に当たってしまったが、彼は悪くない。いきなりそんなこと言われてもわけわかんないよな。

 

「マジでヴィランじゃねーか……!」

「唐突すぎるね!」

「なんとかしなくちゃ!」

「足止めしてくれ! 役場から放送で呼びかける!」

 

三人の反応を確認することなく、踵を返して走り出す。煙のなかに見えたヴィランは、触手のようなものを何本も纏っていた。あれらすべてを自在に操れるとすれば、相当に厄介な個性だろう。

 

ヒーロー事務所からの後続から、爆豪、切島、上鳴がヴィランへの対応に向かわせると連絡が入ったが、それまでにどれほどの被害が出るのか。そもそもどこから来たんだあのヴィランは!

役場の職員も何事かと慌てている最中、放送室まで案内してもらう。放送準備が整うまでに状況が聞きたかったが、どうだろうか。

 

「インビジブルガール、聞こえるか?」

 

反応はない。インカムは島に来る前に全員に配ったはずだが、個性の特性によって嫌ったか、そもそもいおぎ荘に置いてきている可能性もある。……すでにヴィランにやられているなんてことはないよな。

 

『こちらはヒーローです! ヴィラン事件発生! ヴィラン事件発生! 商店街から役場への道でヴィラン事件です! 声を掛け合って離れてください! 室内はダメです! 倒れている人がいれば助けてあげて! 商店街から離れてください!!』

 

この文言を繰り返し、職員の人に放送を引き継ぐ。加えて役場の目の前のヴィラン事件だ、すぐに離れるよう指示を出した。学生だから、子どもだからと侮ることなく、年配の方が周囲の職員に声をかけ、さらにそこから避難してきた島民や観光客への声かけにつながっていく。

 

放送室から出れば、まるで戦場のようだった。

集まった民衆の不安感が空気のように肌へまとわりつく。これだけ暑い島なのに、冷や汗が止まりゃあしない。

 

「ヴィランは足止め中です! みなさんは裏口から避難を開始してください!」

「なぁ! 漁港がヤバいことになってるってよぉ!」

 

携帯端末の画面をオレに見せる中年男性。『船が壊されてる』と書かれていた。その端末も、圏外。

──基地局か? USJのときのような電波の妨害個性か?

 

いや、それだけではない。

ヴィランは、一人じゃあない

 

「漁港の確認も行います! しかしまずは避難を!」

 

呼びかけるが、上手くいかない。つぎは外を見ていた女性から悲鳴が上がった。みんながそちらに注目してしまう。

 

トゥインクルとグレープジュースがヴィランの攻撃に圧されて、役場の敷地内にまで入ってきていた。室内からでもヴィランの赤い触手のような個性が見えた。

個性の先端は、包帯をぐるぐるにまかれたような人の姿。大きさや形から考えると【人間】ではないと思うが、気が気ではないよな……。ヴィランはその先端の人形部分を地面に叩きつけるような攻撃方法を取っている。

 

間抜けなことに、クラスメイトの個性はその【触手部位】に向けて放たれている。半年もの訓練を無駄にする気か。

 

「オレも出ます! みなさんは裏口から避難を! ここが安全とは限りません!」

 

そう言いながらオレは颯爽と建物の側面へ走り出した。とてもじゃあないが、あんな触手の量と真正面からぶつかり合えるかよ。

窓を開けて、そこから外へ飛び出した。

 

「あと三十秒、ひきつけろ」

『三十秒なら倒しちゃうぜ、フェイカー!』

 

上鳴? もう来てくれたのか!

役場の壁を乗り越えてから道路へ出ると、インカムからチャージズマの声が聞こえてきた。彼がいるということは、バクゴーとレッドライオッドの二名もいるはずだ。

オレも避難係に戻ろうと考えたが、道路の悲惨な状況を見て考えを改める。

 

さっきまで、ついさっきまであったこの島の平和が、ぶち壊されていた。

コンクリートが捲りあがって地表がむき出しになっている。ヴィランの包帯が巻かれた車が民家の屋根を壊して突っ込んでいる。

 

なんのつもりかはこれから調べるが、一秒でも早くヴィランを大人しくさせなければならない。

ヴィランの本体が包帯のダミー人形などでなければ、いま一番ヴィランの近くにいるのはオレのはずだ。

 

「《徹甲弾機関銃》(A・Pショット・オートカノン)!」

 

バクゴーの必殺技を謳う声が高らかに響く。すでにグレープジュース、トゥインクルと戦線を交代したらしい。

役場の入り口からヴィランの背中を通じて、クラスメイトたちの【動き】を見て──あまりの頭の悪さに頭を抱える。

 

どいつもこいつも、半年の訓練をどう思っているのだろうか。

まあ、いい。

なら、いい。

コイツらを陽動に、オレが本丸を攻めれば良い。喉が急激に乾いてきた。はは、こえぇ。

 

だけど、要救助者がオレの何倍怖いかなんて、語る必要すらないよな。

 

一本の触手に腕を取られたレッドライオットを救うべく、代わりにバクゴーが触手に捕まる。空中に持ち上げられたバクゴーは、蜘蛛にからめとられる獲物のように、すぐに人型の人形へと形作られた。

 

「包帯に巻き付かれた者は、拙者の意のままに動く! 生物に効果は無いが、貴様の身に着けている物質──プロテクターや衣服は拙者の意のままとなる! 仲間同士で潰し合うが──」

 

ヴィランのご丁寧な説明が途切れ、個性が唐突に解ける。

個性の先端で絡められていたのはバクゴー以外の人間はいなさそうだ。だが軽トラが空から降ってくるのは、命の危機を感じたわ。

 

「なんだ? 爆豪がやったのか?」

「俺じゃねぇ! どこに隠れてたクソワイリー!」

 

気絶し、うつ伏せに倒れるヴィランの背後には、オレが立っていた。ヴィランの【股間】から足を一歩引く。

包帯人形、とでも名付けるか。それらから視覚情報を得るヴィランではなくて助かった。おかげで、背面から鉄板入りの安全靴で無防備な股間を蹴り上げることができた。

……絶対【潰れた】感触があったが、まあ死んだりはしないよな、たぶん。

 

ヴィランの首元に手を当てると、荒れているものの心臓は動いているようで安心した。

 

「バクゴー、こいつの背中が個性の発現場所だ、服吹き飛ばしてくれ。足は押さえておく」

「けッ!」

 

小規模な爆発とともに、ヴィランの背中が丸見えになる。背中から生えている包帯もちぎれ、皮膚もところどころ焦げているが、ナイフを持たせてくれない雄英が悪い。

 

「チャージズマ、ターゲットくれ。レッドライオッドはヴィランの確保を役場の職員に伝達。バクゴーは警戒。島民を一か所に集めよう、どこがいいかクリエティと話がしたい」

 

ポケットから虎の子の捕縛布を一本取り出して、チャージズマの電撃誘導ターゲットをヴィランの背中へ固定するように巻き付ける。

おそらくは、これで、無力化できた、とは思うが。

 

続けて手足を縛り付け、顔の包帯を剥ぐ。見覚えはない、逃亡犯や指名手配犯としては有名というわけではなさそうだ。

 

ヴィランの顔を確認していると、クリエティ、イヤホン=ジャック、ピンキーが役場の中から現れた。どうやら避難は一応終了したらしい。近隣住民はまだだろうけど。

 

「業さん!」

「クリエティ、状況は!」

「海岸にもヴィランを確認! 飯田さんが対応中ですわ!」

 

ヴィランが、二人? 二人組って作戦じゃあないよな。三人か、四人か、オレのような木っ端入れれば十人いたっておかしくないよな。

 

「漁港からの報告は?」

「漁港にも!? いえ──申し訳ございません」

 

情報戦では完全に出遅れたな。僅かながら計画性を感じる。

漁港はどうなっている?

 

「携帯端末が使えません。全員インカムがあれば着けてくれ!

「インビジブルガールとグレープジュース、トゥインクルにも伝えてください。

「オレはいまから漁港に行く。

「クリエティ、ピンキー、レッドライオット、バクゴーは基地局の確認。ヴィランがいる可能性が非常に高い。そこが無事なら個性での電波障害だ。

「チャージズマ、グレープジュース、トゥインクルはこのヴィランとともにここで待機。

「インビジブルガールとイヤホン=ジャックは逃げ遅れた人を探し出して救助を。応援はしばらく出せない、頼んだぞ。

「ヴィランを取り返しに来る可能性は十分にある。チャージズマ、オレたちが戻るまでしっかり頼むぜ」

 

指示に不満はなさそうだ。全員一斉に動き出す。

くそ、とんだ休日だ。

 

「海岸! 市街地のヴィランは確保! そっちはどうなってる!」

『カルマちゃん! 良かったわ! ちょっと、マズいかもしれないの、すごく強いわ、あのヴィラン』

 

クリエティの話では、海岸部にはショート、インゲニウム、ツクヨミが揃っているはずだ。バクゴーとデクを含めて、戦闘力では彼ら五人がA組トップ。

その三人をまとめて相手して、十分に戦えるっていうのかよ。そこらのプロヒーローよりよほど鍛えている。

 

フロッピーの話では、砂浜にてさきほどの三人に加えてセロファンが足止め中。フロッピー、ウラビティ、アニマ、テンタコルの四人で避難誘導。

 

「デクとテイルマンは?」

『尾白くんは怪我して、動けない! デクくんはそっちにもおらんの!?』

 

ウラビティの叫ぶような声に、まさかすでに緑谷が──なんて考えが浮かぶ。インカムでこの会話を聞いている全員に伝わっていそうだな。

 

『策束くん! あれ見える!?』

 

アニマの叫び声。周囲を見渡すと、高層ビルにも匹敵する、巨大なバルーンが目に入った。

デフォルメされた、可愛らしいデクのバルーン。そのすっとぼけた表情に似合わず、顔半分が血で染まっていた。

 

「動ける人間は郊外へ目を向けろ! デクが戦闘中! SOSだ! ウラビティ! 行け!」

『避難誘導は!?』

「デクの情報が全員のライフラインだ!」

 

それに加え、楽観が過ぎるかもしれないが、ヴィランの狙いは島民でも観光客でもない。

オレたちが標的になっている可能性は非常に高い。

 

騒ぎを起こせばヒーローが来る。そして包帯使いのヴィランも、砂浜のヴィランも騒ぎを大きくしている。

 

妙な話だとは思う。

オレたちの誰かの誘拐も雄英高校にとっての失態になるが、オレたちがヒーロー活動をしていた地区での大量殺戮も、取り返しのつかない失態だ。

しかし、さきほど拘束したヴィランは、バクゴーを確保したというのにやつは攻撃手段の一つとしてしか見ていなかった。

あの包帯で島民を十人でも捕まえてみろ、オレたちはなにも成せずになぶり殺しにされていた可能性がある。それをせずに、ただの破壊だけ?

砂浜にいるヴィランも、話を聞く限りただ戦っているにすぎない。

 

もしここでデクが死んだ、あるいは誘拐された場合、ヴィランの狙いは不明のままだ。

 

だから、オレは【ここ】にきた。

漁港に、横向きになった観光客を乗せる遊覧フェリーが、防波堤を突き破って乗り上げていた。

この一週間で嗅ぎ慣れた海の香りに、焦げた臭いとガソリンの臭いが混じっている。

 

「だれかいませんかー!」

 

フェリーや港の状態も視覚的には衝撃的だが、漁船も残らず破壊されている。沖縄までは船で一時間だ。情けないことに、脱出の術が失われていたことにいまさら気づいた。

避難は済んでいるのか、誰の反応もない。こんなものがぶつかって、よく振動にも気づかなかったなオレたちは……。

 

マスクスピーカーでなんども声をかけながら、フェリーへと近づく。

 

一歩近づくたびに、べつの臭いが加わったことを認識した。

 

安全ではないが、不幸にも乗り上げたフェリーをのぞき込むことができた。この規模の遊覧船の従業員が何人かは知らないが、一人や二人で動かせるわけがない。

 

だから、覚悟はしていた。

だから、操舵室の惨状を見ても、現実を受け入れることができた。

 

漁港はフェリーが衝突した勢いで、大きく削れ、へこみ、砕けていた。それが操舵室にも起こっていただけだ。

 

ヴィランに襲われて死んだのか、フェリーが横になったときに死んだのか、あるいは港へ衝突したときに死んだのか。医学的知識のないオレには、まるでわからないのだけれど。

 

乗務員たちの、おそらくは白かった制服は、いまは血の赤と、土の色に染められていた。

 

「……オレはヒーローです! 時間はかかりますが! 船を正常な向きにします! 危険であれば音を発してください!」

 

船内へ呼びかけるもの、静かなままだった。

操舵室の砕けた窓から侵入して、室内から遺体を引きずり出す。触れ合った肌はひどく冷たく、知らぬ間に指先が震えていた。

 

『策束くん! デクくん救助! 大丈夫、生きてるよ!』

『策束、狼のようなヴィランが立ち去った。方角は漁港だ』

『大丈夫ですの業さん!?』

 

もらったばかりのアイテムが故障したかな、耳鳴りがひどい。

 

「こっちには来ない。もしここを仮拠点にする気なら【こんなに汚さない】」

 

ああ、思考が裏打ちされていく。言っていて、こんなにも説得力があるのかと笑ってしまった。

ああ、反吐が出そうだ。

 

卸売市場があった崩れかけの建物近くへ、二人目を並べた。上着は一人目を覆うのに使ってしまった。二人目の顔を隠すように、ワイシャツを被せる。

 

三人目を──そう思って歩き出したとき、インカムから報告が流れてきた。

 

『ヴィランは策束が拘束した者を含めて四人を確認』

『重傷者は尾白くん、緑谷くん、爆豪くんの三名。残りは峰田くん含めて軽傷として扱う。いいだろうか?』

『緑谷と爆豪を一人でボコボコにするってやべーよな……』

『そちらの話はお二人の目が覚めてからいたしましょう。それより民間人の方にも負傷者が出ております。診療所の方にも協力はしていただいておりますが、状況はよくありませんわ』

『あとごめん、ウチのほうも捜索遅れてる。村長さんの話だとまだ七割……。ヴィラン、もいるだろうから島民に協力はしてもらえないし』

『包帯男が住宅地付近で暴れたせいで、遠くに避難所を作らざるを得んからな』

『いや、ヴィランが闇雲に襲ってくる可能性を含めると、避難所として目立ち予測しやすい学校は避けて正解だったのかもしれねー……策束はなんかあるか?』

「漁港の被害が、思っていたよりも、ひどい。えぇと……ヴィランはどうやって脱出すると思う?」

 

いや、違う、思考の順番が間違えている。

 

「ごめん、先にヴィランの狙いだ。この島になにがある? ボクらが、狙いなのか」

 

これも、違う。これは緑谷が起きてからでいい。

 

「あー……本土への連絡、そうだ、連絡しなきゃ……。無線、壊れてないの、残ってるかな、ごめん、全然確認してない」

『……策束? ねぇ、大丈夫?』

 

ぐちゃり、と最後の一人を引きずり出したとき、【そこに二人いる】ことに初めて気づいた。

 

「フェリーからの連絡がないんだ、フェリーの会社が大騒ぎだろ。でも警察を動かすか? ヘリで来たら奪われる可能性がある。えーっと……あと……なんだっけ……」

『策束くん、どうしたんだい?』

「ごめん、なんか、まとまんない」

 

なんか、いま、だめだ。

涙が、溢れ出す。

 

『策束、怪我とかしてねぇか? 返事しろ、おい』

「怪我は、してなっ──」

 

沈みゆく夕日に照らされたオレが、散乱するガラスに反射している。

ガラスに映った、砕けたような姿は赤黒く染まっていた。

 

にっこりと笑う【オレ】と目が合った。

 

「──こっちは、大丈夫だよ。怪我もしてない。無線確認したら連絡するわ」

『策束』

「なに?」

『そこを動くな、いますぐ行く』

 

それは、障子からの指示だった。

 

『飯田、轟、常闇、漁港へ行くぞ。ヴィランに遭遇する可能性もある、まずは俺と合流してくれ』

「こっちは一人で」

『誰一人欠けても対処できない。策束も必要だ』

「いや、だから──」

『議論する時間があるのか。余裕だな、策束』

『障子くん! 移動を開始するぞ!』

 

障子の指示により、飯田、常闇、轟が漁港へ向かってくるらしい。ああ、急いで【片付け】ないと。

いつの間にか、ガラスの破片の上に座り込んでいた。コスチュームが防刃で良かったよ。

 

三人目、そして、四人目を外へ引きずり出して並べて【置いた】。

 

上は肌着だけだ。タンクトップの肩ひも部分で、無理やり顔を拭う。血と、汗と、ほこりが付いた。……暑い。この遺体は、このまま放置するほかないのだ。

 

「……策束」

「……ああ」

 

間に合った、かな。

ゆっくりと振り返ると、目を見開いたクラスメイトたちが立っていた。障子がオレを見下ろしている。

 

「まだ、無線は見てないんだ。フェリーはオレが見るから、見てきてもらっていいかな?」

「なにがあった」

「ヴィランは漁港から脱出を防ぐために、フェリーを含めて船を全部潰したんだ」

「策束、そんな言葉で誤魔化すな」

 

半壊した建物の前からみんなを移動させようと思ったが、逆効果だったか。

室内に入っていく四人を見送るため、うつむくように視線を移動させ──呼吸が乱れる。

 

フェリーから、【血の道】が出来ていた。さすがに夕暮れ時とはいえ、これは見逃さないか。現実から目を逸らしていたのは、オレだけだった。

 

もう泣くなよ、やめろよ、泣いていいのは、オレじゃあない。

出てきた飯田は、室内の状況に関してはなにも言わなかった。ただオレの顔を見て、優しく告げる。

 

「策束くん、ここは危険だ、そろそろ戻ろう」

「……フェリーの捜索がまだ終わっていない」

「麗日もいねぇし、いまは無理だ。わかってるだろ、策束」

 

飯田と轟に説得される。

言い返せないオレの代わりに、轟が海と卸売場に向け特大の氷を張る。

 

「どこまで保つかな」

「海のほうは二、三時間ってところだろう。フェリーが沈まないように祈るしかねぇ」

 

遺体を並べた室内は、氷に覆われていた。ああ、これで【腐ることはない】。

 

「無線は無理だろうな。全部確認したわけじゃないが、破壊が徹底されている。エンジンが点かなければ壊れていなくても無線も点かない。フェリーを見てくるよ」

「フェリーのは……壊されていた」

 

移動しようとする飯田を押し留め、避難所へ向かうことにする。事実ではあったが、言葉の裏取りすることもなくついて来てくれてありがたい。

 

「いま、どうなってる?」

 

いまだ現実を受け入れていない、ふわふわとした感覚が残っているが、それでも現場から離れ、見慣れた道を歩くことで、調子が戻ってきた。

というのに、飯田と常闇からじろりと睨まれる。

 

「全然話聞いてなかったんだな」

 

悪かったよ……。

ある程度、話は聞いていたはずなのに、言葉の意味として認識できていなかった。四人から怒られるように説明を受ける。

 

まず、雷が落ちたことで、島全体の電気が不通となっている。そのため非常電源設備のある工場に避難したという。逆に言えば、ヴィランたちは電気もないこの島のどこかにいるということ。電気を点ければ目立ってしまうが、不安を抱える避難民に飯も出さず暗い部屋に閉じ込めるわけにもいかないか。

 

つぎに電気だが、上鳴と職員の話によれば逆流雷と誘導雷によってケーブル自体が焼け焦げたのではないか、という話だった。雷サージというやつだな。

港もそうだが、復旧には時間がかかりそうだ。

 

「本土への連絡は?」

 

本土というか、沖縄だが。

フェリー会社単体では、県警の船が出ておしまいだ。その船にヒーローが乗っていれば良いが、警察官では下手すればヴィランの餌食になる。

 

「まだだ。策束のインカムは一キロも届かないし、携帯も使えねー」

 

ボートを《創造》したとして、沖縄までは大海原を一時間だ。余裕で死ねる。

でも、現状を打破できるのは《創造》だけなのも事実だ。急いで八百万に頭ひねらせなければ。

 

……うげっ。

五人で立ち止まってしまう。

 

轟は手のひらを上に向けながら、頭上を確認。陽はとうに沈んでいたが、さきほどの晴れとは打って変わって、雨が降り出していた。思えば風も強い気がする。

 

「星は見える。雲は薄い。晴れると、信じよう」

 

障子の声に支えられ、避難所へと走り出した。

 

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