拘束したヴィランの抑止力として赤外線レーザーを《創造》していた八百万に、続けてさきほどの話をするとドローンの使用を提案された。
悪くはないが、届くものなのか?
それとはべつに、そこまでの精密機械を《創造》できるようになっていたとは知らなかった。
隣に立っていた峰田と耳郎もその案には満足しているのか、八百万を褒めたたえている。物は試しだ、とは口に出さず、素直にお願いした。
その後は炊き出しに加わろうとしたが、切島と上鳴に引き留められる。
「策束、すまねぇが知恵を貸してくれ」
「なんだよ改まって」
フェリーの件は、来てくれたみんなには口止めしてある。二人がオレに遠慮する理由は? と訝しんだが、どうやら拘束したヴィランのことらしい。
八百万が《創造》した拘束着を着けられ、地下のボイラー室へと入れられたヴィランだが、なにも話さないという。
お知恵を拝借とは言うが、この場に心操がいても無理だ。ヒーローに情報は話さないだろうな。
ちなみに、切島と上鳴が尋問したようで、質問の内容は襲撃の【人数】、【目的】、【個性】の三つ。【名前】を聞き出そうとしたり、情に訴えかけようとしたそうだが、無理だったそうな。
つまり、この【四つ】をオレたちは知らないことが知られたわけだ。まあ名前はどうでもいいんだが、優位に立たれてしまったな。
そのことを告げると、切島と上鳴はがっくりと肩を落としていた。
「まあ素人が尋問なんてできないだろ。それに嘘つかれるのはわかりきってる。諦めろよ」
「策束」
呼ばれて振り返ると、轟と障子が立っていた。いまこの瞬間だけは不安になる二人だな……。
「もう大丈夫。切り替えたよ」
「そっちは信頼している。緑谷と爆豪のことだ」
「ああ、どうだった?」
オレたちが移動している最中、尾白は目を覚ましていた。
民衆を守りながらヴィランを一人で足止めした彼だが、満身創痍といった様相だったが、それでも笑顔で避難民に声掛けをしていた。ビーチで遊んでいた人たちは、軒並みその笑顔で元気づけられている。
「骨折と裂傷がひどい。応急処置を終え、いまは活真くんが見ている」
「カツマクン?」
聞き覚えがあるし、君付けということは島民だろう。かつま、カツマ、活真?
「島乃活真くん? なに? どういうこと?」
「知り合いだったのか?」
「いや、会話したことないけど」
その子で合っているのなら、姉弟のイタズラ犯だ。昨晩、ヴィランが出たと嘘をついて爆豪と緑谷を出動させた経緯がある。
数時間前まではずいぶんと平和だったんだが……これもオールマイトが引退した余波ということか。子どもがヒーローにイタズラするような平和な観光地に、ヴィランの目的があるとは思えないんだよなぁ。
「オレは何度か松田のおっちゃんのところで会ったことあるぜ。たぶん避けられてるけど」
「チャラそうだからな上鳴」
「うっせーよ」
上鳴と切島の笑い声。こんなときに不謹慎だなどと言う輩もいるだろうが、笑顔にもなれないのならヒーローなど成るべきではない。
笑えない阿呆とはオレのことなのだが……。ああ、オールマイトってのは、偉大だな。
二人の笑いに合わせるように無理やり笑顔を作ったオレの肩に、障子が手を置いた。
心配そうにオレを見ている彼に、口角を最大に上げて目を細めて笑いかける。
「こっからさきは、フェイカーだ」
さあ、偽物の笑顔でもいい。貼り付けて行こうぜ。
「商人……? 金が、なんか関係してんのか?」
あ、ちが、なんか、ごめん、紛らわしくて。
ショートの天然さに謝罪しつつ、オレたちは手の空いたヒーローに呼びかけを開始した。
◇ ◇ ◇ ◇
「まず現状の報告……。通信・電力網が破壊され、救援を呼ぶことはできない」
インゲニウムが、疲れた表情で会議をそう切り出した。いや彼だけの表情ではない。避難民がいない会議場では素の自分になっているのか、集まったヒーローは全員疲れた表情を浮かべていた。
いかんなぁ、笑顔だよ笑顔。
「その前に、もっと日用品の《創造》をしたほうがいいと思うのですが……」
「そうだぜ策束、バッテリーだっていっぱい作らなきゃ」
個性を無駄打ちしそうだったクリエティとチャージズマがなにかほざいている。
「夜中にでもヴィランはここを襲うでしょう? トイレットペーパーもって逃げ出す気ですか? 希望的観測ではありますが、明日には沖縄本土からヒーローないし警察が来ます。そうなれば住民を自宅に戻すことも夢ではありません。それに電気が一日使えなくても死ぬような人間はこの島にはいない。個性は有意義に使うべきだ」
たとえば、もう数台のドローンを飛行させるべきだったんじゃあないか、とかな。
そちらは良い、本命はフェリーの関係者だ。海に一人出しておいたほうがいいかな。アニマの個性に頼るか、海鳥は豊富だ。鳥の足首に手紙を着けて、捜査に来た船へ、上陸前に伝える。……悪くないはずだ。
「クリエティ、ドローンの状態をみんなへお伝えください」
彼女は一つ頷くと、神野区でも見覚えがある発信機の受信デバイスをオレたちに見せた。
到着までは六時間、救助の編成はさらに時間がかかるという。到着場所は沖縄警察署になっているらしいが、果たして六時間の飛行でたどり着けるのか否か。
「六時間はかかりすぎなのでは?」
時速四十キロのフェリーで一時間。市販されているドローンが六十キロ出たとしても連続飛行時間はせいぜい四十分だ。なんの計算間違いなのかと聞けば、なんのことはない、水陸両用にしてバッテリーを休ませながら進むらしい。精密機械の《創造》も十分実践レベルだなコイツ。
問題は、月明かりでもなんでもいいから、太陽光パネルに光が当たってほしいらしい。別枠でライトでも点ければいいのかもしれないが、重量制限もあるからなぁ。
雨はもう本降りだ。海上が大荒れだったとしても驚かない。
「早くて七時間……それまで、ヴィランが待ってくれるとは思えない」
「いま我々がやるべき最優先事項は、島の人々を守り抜くこと」
テイルマンの言葉にインゲニウムが元気づけるように合わせて告げた。
グレープジュースが不安そうに頭を抱え出したため、テンタコルが真っ先に気づいてくれた珍客を、ほかのヒーローたちにも気づかせる。情けない姿を子どもたちに見せるなよ。
「やあ、島乃活真くんと、真幌ちゃんだよね。デクとバクゴーを診てくれていたんだってね、ありがとう」
姉の真幌ちゃんですら、まだ五歳程度。記憶にある情報だけだと、二人はいまよりもさらに小さいころに母を病気で失い、そして父親は島のための本土出向組。
ああ、オレよりヒーローしてるなこの子たちは。
こちとらコスチュームも失ったただのタンクトップの中学生だが、どうにかヒーローの端くれだ。みんな、接客態度は満点の笑顔で頼むぜ。
一歩踏み出そうとした活真くんの前に、真幌ちゃんが弟を守るように立っている。不安そうにオレを見上げている。はて?
「ええと、デクとバクゴーが目を覚ましたのかな? だったら──」
「ヴィランが狙ってるのは、僕だよ!」
姉を置き去りにするように、オレをも通り越して会議中のヒーローたちの前に立つ活真くん。そして、その言葉はあまりにも衝撃的だった。
「僕の個性を奪うって言ってた!」
面々が浮足立つ。
ヴィランの目的が分かれば、対処ができる。後手にはなったが、まだ対応が可能となるはずだ。
「個性の強奪……」
「まるでオール・フォー・ワンみたいね」
「でもヴィランの目的はわかった!」
「この子を連れて逃げればいいだけ──」
「そう簡単にはいかねぇ。相手はヴィランだ、この子を差し出さないと島民を殺すとか言い出しかねねぇ」
「じゃあどうすりゃいいんだよぉ!」
本当に、コイツら……。
「半年間遊んでたのか? ああ?」
おっと、笑顔なのに活真くんを怖がらせてしまった。何人か引きつった表情のヒーローに告げる。
活真くんの頭を叩くように撫でて、勇気ある少年の前で悠々と座り続けるヒーローを睨みつける。
「地下で拘束中のヴィランと戦ったときさぁ、個性【を】攻撃していた間抜け、何人かいるよねぇ? ツクヨミの《ダークシャドウ》と同じだよ、同じ。本体狙わずなにやってるのって話さ……」
笑顔だよ、笑顔。
「グレープジュース? どうすりゃあいいかって? ヴィラン三人相手にビビる人数差じゃあねぇだろ」
「でも緑谷と爆豪が──」
「ツクヨミとインゲニウムが二人に劣ってるとは思わない。戦い方次第で勝てるだろ、オレたちは、そういう訓練をしてきただろう。──活真くん、キミの個性は?」
「え!? えっと、細胞の、かっせいか……?」
個性名が当たっているのか、不安そうに真幌ちゃんを確認する活真くんの問いに、真幌ちゃんは強くうなずいてくれた。
《細胞活性》という個性を欲しがっている。
その個性でデクとバクゴーの傷を癒しているのであれば、有用性があるのは確実なのだが、一般人とは縁遠い個性だと思う。
「ヴィランの目的は活真くんの個性じゃない。《細胞活性》で得た【なにか】だ。ヴィランの目的は不明のままだ」
わかったのは、ヴィランが島に来た理由だけだ。それを口にするのは、目標である活真くんの心情から憚られたが。
「僕、わかったかもしれない」
入り口からの掛け声に、ヒーローが何人か立ち上がる。
オレも振り返り、デクの笑顔に救われた気分になった。彼は会議室に入ると、淀みのない足取りで活真くんの前で片膝をつく。
「細胞の活性化、新陳代謝の促進、ドーピング的効果すらある! おかげでこんなに回復できた! すごい個性だよ活真くん! ありがとう!」
「デク兄ちゃん……」
個性を褒められたことが嬉しかったのか、デクへの安心感か。活真くんは目に涙を浮かべていた。後者ならばオレたちは揃って赤っ恥だな、ヒーローとしての安心感の欠如……。はぁ。
ちなみに、扉を塞ぐようにバクゴーが立っていた。気づいた数名が安堵するようにバクゴーを見て声を上げた。
「必ず! キミたちを守るよ!」
「ヴィランどもをぶっ潰す!」
「島の人たちも絶対に助ける!」
「絶対に勝つ!」
二人のやる気にヒーローたちが駆け寄ろうとするが、その前に手を強く叩いてみんなのやる気を削ぐ。
悪いね、一致団結してみんなで拳を振り上げる? 二十人揃うのが勝利条件か? 勢いだけで勝てるのならば苦労はしない。情報が命なんだよ、いまこの瞬間だけは。
「デク、やつらの目的がわかったって言ったよな。バクゴー、テイルマン、二人も戦ったヴィランの情報を教えてくれ」
ショートとテンタコルから、海岸側のヴィランの話は聞いていたが、直接対峙した二人から詳しく話が聞けた。
まず一人目、ナインと呼ばれた白い長髪の、長身の男。口には仰々しいマスクに、背中からは液体の入った筒が飛び出していたという。
個性は、『爪を飛ばす』『空気の盾』『その盾を飛ばす』『背中からドラゴン』『個性を奪う』。
これだけでも絶望的なのだが、どうやら『雷』を降らせたのもそのナインという男性の個性らしい。
話を聞いていた島乃姉弟はそろって泣きそうになっていたが、安心してほしい、オレも泣きそう。この男の話だけでも一時間くらい話せそうだ。
二人目は、ナインの逃亡に力を貸していた赤髪長髪の女性。個性も役割も不明だが、髪の形状が変化していたとアニマとテンタコルが語ってくれた。
三人目、現状確認できる最後の男は、狼の顔に蛇のような尻尾。手は猛禽類のようだったと言う。動物の混合個性か……。アニマの個性で洗脳できないかなぁ、まあ無理か。
「ほか、なにか情報は?」
「僕とかっちゃんが戦ったとき、突然相手が苦しみ出した。おそらく個性を使いすぎると身体に負担がかかるんだ。だから活真くんの個性《細胞活性》を奪おうとしていた」
なるほど、そりゃあ【目的】としてはふさわしい。
「オール・フォー・ワンとの関係は、どこまであると思う?」
島乃姉弟の前ではタブーかもしれないが、個性を奪われでもすれば当事者だ。クラスメイトにはオールマイトが軽く説明をしていたこともあって、情報の秘匿性としては後手に置いていい。
「やっぱり関係者かな?」
切島の瞳が不安に揺れるが、十中八九そうだと見て良いはずだ。
というより、『個性を奪う個性』なんてもんが何種類もあってたまるか、という心情だ。おそらくは『個性を奪う個性』が《複製》されている。
だが、個性の使い過ぎで、《細胞活性》を求めるほど疲弊するのは意外だったな。
他人の個性だ、おそらくは【身体に合っていない】。
だが、身体の細胞が死ぬほど、致命的に合っていない個性を使うのか。
那歩島は日本の端だと言っても過言ではない。国外逃亡する予定ならまだしも、もしナインとやらが個性を自由に使える身体になって日本征服を目指すのなら、寄り道が過ぎる。
逃げても無駄だな、確実に追われる。避難民は無事かもな、やつらにそんな余裕はないはずだ。
「策束?」
「……ちょっと考え中」
インカムのときとは違う、オレの発言を待っていてくれている。信頼が戻ってきて嬉しいよ。
口角が、上がっていく。
「悪くない、悪くないな」
「なんか思いついたのか?」
……独り言でした。すみません。
まあそう素直に言うと、回復した信頼が崩れそうなので話題をすり替えよう。
「ナインってヴィランには個性を使わせよう。防御でも細胞壊れるほどのデメリットがある個性を使うんだろう? 機動力に難あり、健康体じゃあないことは明らかだ。下手すりゃあ、ほっとけば死ぬかもな」
まあ、聞いた話、死ぬまでにオレたちを殺すことはできそうだが。
「あの……」
活真くん──ではなく、小さく挙手していたのは真幌ちゃんだった。
「ヴィランの個性、あの、勘違いだったら、ごめんなさい」
オレたちの異様な空気感に気圧されたのか、オレたちにイタズラをするような少女には見えない。
それに、個性のミスリード? 彼女からはなにも情報を得ていないと思っていたが、それは新しい個性の情報だった。
「えっと、たぶんそのナインってやつ、個性が【見える】の」
「個性が見える?」
デクの質問に、真幌ちゃんはオレたちの視線を気にしながら発言する。
加えて、彼女の小さな手の平の上に、小さな緑谷バルーンを作り出す。
「あたしの個性は《ホログラム》。えっと、幻を見せるんだけど、それがすぐにバレたし、活真の個性もすぐに!」
彼女の言う通り、《細胞活性》の個性など、見ただけで判断できる者は滅多にいないだろう。
──見ただけで相手の個性がわかるなど、まるで《サーチ》ではないか。
「猫ババア……」
「ラグドール……」
バクゴーとトゥインクルも同じ答えか。ほかに何人が、それを思いついただろうか。
ただでさえ複数個性だ、《I・アイランド》のヴィランを彷彿とさせやがる。オール・フォー・ワンとの関係は確定的だ。
「ありがとう、真幌ちゃん」
「ん」
頭を撫でつけると、彼女は満足気にうなずいてバクゴーを見上げた。ずいぶんと誇らしい表情ではあるが、実際真幌ちゃんの情報は確実に【上】を取れる。
「活路が見えた。もうすこし情報を得てくる。チャージズマと、んー……テンタコル、すこし良いか?」
バクゴーでも良かったが、ガタイでの威圧感は強いほうが良い。
首を傾げたヒーローたちに笑いかける。
「尋問する情報が揃っただけさ」
彼らの表情が引きつった。なんだよ、良い笑顔だと思うのだが。
地下のボイラー室に拘束椅子が《創造》されていて、そこに座らされている男。赤い包帯を使う、『拙者』を一人称に使うニンジャマンだ。
「オレはフェイカー。ヒーローの一人だ」
だんまりだ。まあ予定内だ。この時点でべらべら話されたら、その時点で言葉の価値がなくなる。心を守りたいのならば、守ると良い。
「聞きたいことは一つ、隠れ家はどこだ?
「索敵個性もいるから時間の問題なんだけどさぁ。お互い面倒は省こうぜ。
「見返りは金だ。逮捕はするけど、弁護士も用立ててやる。なぁ? 悪い取引じゃあないだろう?
「仲間の減刑も要求するよ。きっとキミの仲間の女性と狼男にも背景というものがあるんだろう? まったく、笑わせる」
うつむいたままだった男が、一瞬オレを見る。彼の目は、中学生サイズのオレにではなく、チャージズマとテンタコルへと向けられた。
「こっちも【仲間が死んだ。お前らも一人】。痛み分けってことでこちらは結論付いた。避難民の人命優先にしたいんだよ」
「『俺は反対だからな』」
チャージズマが台詞を紡ぐ。間髪入れず、オレもつなげた。
「『オレだって最良じゃあないのはわかってるよ。だけど情報が足りないんだ』」
「仲間が、死んだ……?」
「ああ……仮免持った学生一人殺して満足かよ。てめぇらヴィランが──」
「【俺】の! 仲間だ!」
一人称が剥がれ落ちた。掛かったかな、まだわからない。ここからさきは慎重さが必要だ。
「ヴィラン同士で仲間意識かよ」
「誰が死んだっていうんだよ!」
あまりの狼狽ぶりを見せられ、怯えるように一歩引く演技。背後に立ったテンタコルがオレの背に手を置いた。
テンタコルを見上げて、彼が一つうなずくのを確認。オレも慌てて二度、三度とうなずき返し、気圧されながら発言した。
「ナ、ナインって、女に呼ばれてた。死んだかどうかは知らねぇよ! それにオレたちは殺しなんてしてない! 勝手に倒れたって……! だけど女が来たのは【痙攣が終わってからしばらくしてから】──」
「なんで……なんで、こんな……」
「こんなって! お前らが始めたんだろうが!」
「個性さえ奪えればこんな島に用なんかあるか! すぐに出ていくつもりだった! 俺たちは、ヴィラン連合みたいなクソどもとは違うんだよ!」
男はもうこちらを見ようともしない。
ふむ、フェリーを壊しておいて、どうやって出ていくつもりだったのだろうか。ナインの個性に、そういったものが混じっているのか、それともこの包帯男の個性? 女性の個性は不明のままだし、可能性はいくらでもあるよな。
「ヴィラン連合!? なんでその名前が出てくるんだよ! やっぱり狙いはオレたちか!」
「あいつらのことは利用しただけだ! お前らのことなんて知るかよっ」
泣いている? よっぽどナインに酔心しているらしい。複数の個性が無ければ成せないことがあるっていうのか?
「あの狼の男も複合個性だっていうのか? 女も?」
「【二人】も苦しんでいただけだ! くだらない社会のせいで! ナインは、ナインはそれを──」
悔しそうに大きく息を吸って、そのまま黙り込んでしまう。
「……また、来る」
オレを先頭にボイラー室を出る。最後にチャージズマが放電することで、男のうめき声が聞こえてきた。まあ朝までは目を覚まさないだろう。
廊下を歩きながら、ヒーローたちに語り掛ける。
「聞いてたな、ヴィラン連合は関わってる。こいつらが泥の個性の【座標】をもっているなら回収されるかもしれないし、林間合宿の愚連隊が来るかもしれない。もう、いるかもしれない」
インカムからの返答はない。グレープジュースあたりは確実にうめいているだろうが、それをみんなには伝播させないか、立派だよ。
「上陸したヴィランは四人。残りはナイン、男、女の三人。ナインは個性を限界まで使わせて疲弊させたい。狼男の手と尻尾の話を聞く限り、ヴィラン連合に改造された複合個性と想定する。脳無並みの戦闘力だと想定してくれ。女性の個性は不明だけど、甘く見積もっていい相手じゃあない」
「いや……アイツは生まれつきだ」
その言葉に、足取りを緩めてテンタコルを見上げる。彼の声がマスクスピーカーからも聞こえて二重に聞こえた。
「主観が過ぎるかも、しれないが……」
「……いいんだ。大事なことだよ、きっと。だけど、変えられないこともある。複合個性のヴィランが最低でも二人、活真くんを狙いに来る」
女性と狼男の個性によっては、生け捕りは難しいかもしれない。いや、ナインも同じだ、命がけの複数個性の使用。一筋縄ではいかないだろう……。
「女の個性は、ヴィランの反応を見る限りおそらく回復系ではない。電波関連を操る個性でもない。となると戦闘、移動の二択だとは思うけど……これはあくまで推測だ。洗脳個性の可能性も考えれば、ダークシャドウに相手してもらいたいけど、まあいまから作戦会議だな」
加えて揺さぶりに弱く仲間意識が強い。収穫としては十分だ。
「フェイカーってさ……」
「ん?」
「詐欺師って意味もあるんだよな」
チャージズマが警戒するような瞳でオレを見ている。
「台詞通りだったんだけど……。怖いわお前」
「あれは会話じゃあないからな。プレゼンや面接と一緒さ、収まるように枠を作るんだよ」
「わかる? 障子」
「俺に聞くな。まったく、頼もしいよ、フェイカー」
向けられたテンタコルの複製腕の拳に、こちらも右拳を合わせた。
会議室へ戻ると、テーブルの上には地図が広げられ、村長がデクたちと顔を見合わせていた。
「策束くん! 作戦聞いてくれる?」
デクが主導して練ったという作戦を聞く。
舞台は離島である城島。
逃げ場はないが、ヴィランの進行ルートを制限するという意味では悪くない。
先制攻撃でヴィランを分断し、城跡、崖、脆い地形の三方向へ誘導するという。
避難民は離島の反対側、切り立った崖の窪みや洞窟に避難させることを想定している。狙いである活真くんはヒーローで護衛。
「ヴィランへの対応だけど──」
「待った待った。なんでヴィランが三人同時に来るってのが前提条件なんだよ」
「え?」
デクがきょとんとオレを見ている。
「あ、そっか、仲間意識が強いって言っても……」
「それに、避難民の移動も賛成できない。移動中に襲われれば死人が出るぜ」
「じゃあどうする」
ショートと数人がオレを見ている。うーん、ヴィランの仲間意識に賭けても良いんだけど。
「デク、ラグドールの《サーチ》について説明してくれ」
デクとバクゴーの瞳が一瞬揺れた。オレたちが下手打った林間合宿だ、忘れろというほうが無理だよな。
「連名ヒーロー『ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ』のラグドールの個性《サーチ》。目で見た相手の情報を百人まで把握することができる。個性や弱点、それに……居場所も──!」
「うん、オレの認識と相違ない。ナインの『個性が見える個性』ってのが《サーチ》のことなのかはわからないけどな。オレなら間違いなく、活真くんに印をつけている。あの子の個性をどこで知ったかだけど……」
ヴィランの狙いを聞いて動揺する村長たちに水を向ける。間違ってもここからさきで、あの姉弟を村八分にするようなことがないように、どこかで手を打ちたいな。
「彼の個性を知っている人間は?」
「え、さぁ……。私も一人ひとりの個性を把握しているわけでは。島民の名簿になら記載があると思いますけど」
村長の答えに、足りない情報を得る。
「可能性は三つ。一つ、ヴィラン側のスパイがこの島か本土の職員にいる。二つ、活真くんの縁者から個性の情報を得た。三つ、ヴィラン側に沖縄本土の県庁が襲われた」
まあ、これはどれでもいい。
「問題はここから。地下に閉じ込めた男の位置も、ナインにとっては把握可能ということ。ここを手薄にはできないし、避難民の護衛も必要。ナインの個性はできるだけ使わせて消耗させたい。となると、ナインに見られた可能性のある人物は、地下のヴィラン以外全員離島へ。それ以外はここで護衛かな」
「護衛の人数を半々で分けるつもりですの? ヴィランは三人ですわよ」
クリエティの発言にはそれぞれ納得しているようだ。
二十人を……いや、十九人を半分にして、二人、あるいは三人のヴィランに勝てるのかどうか、だな。クリエティのように戦闘に特化していない個性は、できるならナインの個性を消費させるために置きたい。
「ショート、テイルマン。狼の個性と戦った所感は? 何人なら、どんな作戦なら勝てる?」
「正直、打撃が有効な相手だとは思わなかった。絡め手を使いたい」
「毒とか?」
「毒!?……毒、毒か……」
あまりと言えばあまりの発想に、テイルマンがドン引きしていた。インゲニウムは賛成のようで、ピンキーとフロッピーに視線が向けられている。
「蛙の神経毒か、化学毒か。二人を離島とこちらに分けてみてはどうだろうか」
「どうやって毒にする? 切島じゃあるまいし、蛙吹じゃずっと密着してってのは難しいだろ」
「ケロ、舐めないでほしいわ焦凍ちゃん」
「舐めてねぇ。アイツの攻撃を受けたから言ってるんだ」
あのショートを警戒させるほどか……。
空気に撒くか、注射か、皮膚に塗りたくる?
まあ、狼男には毒だな。この島は風が強いので薬液を気化させて、という作戦は使えそうにない。接近する必要があるので、個性を奪われる可能性のあるナインには、有効とは言えないが。
「城島にはデクとバクゴーを置く。本当は狼男の相手をしてもらいたいけど、《サーチ》されているのなら活真くんと一緒にしておきたい。避難民──というより、地下にいるヴィランの強奪を防ぐために、ここにもヒーローを配置したい。ナインが来るか、狼男が来るか。三人まとめて来る可能性も高いんだよな」
誘導するか? 危険すぎるよな……。
「必要なら危険も冒すべきだろうがっ!」
バクゴーが吠える。島乃姉弟が起きるだろう、やめてやれ。
話し合いの結果、結局デクの案の全員移動が採用された。ヴィランの仲間意識が尊重されたわけだ。
オレが茶々入れただけだったなと自嘲する。
続けてナインの個性を消耗させる方法、狼男に対抗する毒の与え方、そして個性不明の女ヴィランへの対処が同時に話し合われる。
雑な案はすぐさま罵倒とともに却下されることになった。
提案の量に、仮免であること、若いことを理由に不安に思っていただろう村長が気圧されていたが、それに構う時間はない。
作戦だけ考えてお終いではなく、準備にも時間を割いた。先行隊を城島に向かわせ、徒歩での移動時間を正確に測ってもらわなければいけないし、ヴィランを分断できた場合の正確な位置を割り出してもらいたい。
それに、ナインへの対処の『本命』の準備は時間がかかる。デクとウラビティの個性を全開したとしても数時間はかかるだろう。
結局、いまのうちに城島へ向かうヒーローが十人を超えてしまった。心細いなか、託されたツクヨミとイヤホン=ジャックの心情やいかに。
「じゃあ策束くん、あとはよろしく」
この場を任された無個性の心情やいかに。
『僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ヒーローズ:ライジング』
オリジナルキャラクター
・ナイン
『個性制御装置』で全身を包んでいる中性的な男性。
ドクターこと氏子達磨の『個性強化及び身体組織拡張概括実験』に応募して、実験体になる。
ドクター曰く、ナインのもともとの個性『気象操作』は『突然変異』であり、個性を使用することで細胞が破壊される『細胞障害性』を持つという。
彼の最終目標として弱肉強食が理想郷であると掲げているが、その発端は(おそらく)公衆トイレで産み落とされ保護施設で育ったことに加え、動物園で檻の中にいるライオンを見たこと。
『ライオンとサル、生物として強いのはどちらだろう。この世界は強者が弱者に支配されている。あるべき姿へ戻す。力が必要だ、強者の頂点に君臨する力が』
(僕のヒーローアカデミア『Vol.Rising』より抜粋)
作中でも語られていますが実験は成功。オール・フォー・ワンの個性因子に適合したナインは、『八つの個性を奪えて、九つの個性を使える』とされます。
この発言を鵜呑みにする場合を考えてみました。
① 《気象操作》 【もともとの個性】 【使用】1
② 《個性を移動させる》 【オール・フォー・ワン】 【使用】2
③ 《爪のビーム》 【奪った】1 【使用】3
④ 《空気のバリア》 【奪った】2 【使用】4
⑤ 《空遊咬鮫獣サメラ》 【奪った】3 【使用】5
⑥ 《サーチ?》 【奪った】4 【使用】6
⑦ 《A型細胞活性》 【奪った】5 【使用しない】
⑧ 《──》 【奪う】6 【使用】7
⑨ 《──》 【奪う】7 【使用】8
⑩ 《──》 【奪う】8 【使用】9
個性を奪われたヒーローが四人。この二次創作ではラグドールの《サーチ》の可能性が高いとして扱いますが、数字だけで考えると、襲われたヒーローの《サーチ?》だと思われます。
ちなみにサメラは設定だと五百キロメートル伸びます。