『ゴールデンルール! 従ってみた!』
……再生数二百を超えている動画を見ながら、果たしてジェントル・クリミナルは自分が前科者であることの自覚はあるのだろうかと考える。
彼の罪はすべて示談で罪状を取り下げてもらった。公務執行妨害と個性無断使用だけはどうにもならなったため、略式裁判で金だけ払ったのだが……。正直こんな何回も犯罪起こして、この程度の金額で済むのか、と日本の闇を知ることになった。
「なに見てるの?」
緑谷に声をかけられ、慌てて動画を消す。さすがに緑谷には内緒にしておかないと、どう思われるかわかったものじゃあない。
さて、那歩島の一件が終わり、寮への帰宅が済んだオレたちを待っていたのは、B組物間をはじめとした、ほか生徒たちからの恨みめいた視線だった。
まー……ねぇ? 文化祭でストレス発散に貢献できかたと思った矢先の大事件だからねぇ。
B組としても、自分たちでヒーロー活動を行える機会を楽しみにしていたはずなのに、オレたちにその機会を奪われたように感じる生徒もいるだろう。それはB組だけではなく、二年、三年のヒーロー科、および今回のプロジェクト参加者全員に当てはまる。
はあ、いったい誰にどこまで恨まれているだろうか、想像もつかないね。
唯一の救いが、相澤先生から労いの言葉をかけてもらったことだ。何人か泣いてたよ。
「那歩島のニュース。夜には電気復旧するってさ」
「本当!? わぁ! 良かったー!」
嬉しそうに自分の携帯端末を取り出す緑谷に、申し訳ない気持ちがわいてくる。まあ記事は本当なので、存分に喜んでくれ。
「へっちょい!」
「風邪? 大丈夫?」
常闇の豪快なくしゃみに、麗日が心配そうに声をかけた。やっぱり一階の談話室ちょっと寒いよな。
緑谷と揃って顔を上げると、A組二十名が全員揃って各々暇を潰している。爆豪もいるんだぜ? 珍しいよなー。
もちろんそれには理由があって──。
寮の玄関がノックされ、飯田がオレたちに出迎えるよう指示を出した。
相澤先生が外から扉を開け、彼に追随するようにワイルド・ワイルド・プッシー・キャッツの四人が入ってくる。
挨拶事は委員長コンビに任せていたのだが、それよりも早く四人が自身の口上を謳いながらポージングを決める。私服ではあるが、荷物をもつ虎さん以外は完璧だな。
A組として、彼女たちと対面するのは林間合宿以来。
ラグドールの個性消失のせいで活動休止状態だった彼女たちだが、このタイミングでオレたちやB組に会いに来たのにはもちろん理由がある。
虎さんは持っていた『にくきゅうまんじゅう』とやらを芦戸へ渡すと、爆豪を切っ掛けにオレたちへ謝罪しはじめた。まあ爆豪は謝罪など不要なようで、代わりに耳郎が笑って答えた。
「ウチら大丈夫っすよ! ねぇ」
「ええ。それより、オレたちこそ……」
那歩島から帰還後、オレは彼女たちに謝罪の連絡を行った。
ナインの個性のなかに、ラグドールの《サーチ》が含まれている可能性があったからだ。もしナインを生け捕りにできていれば、個性を彼女に、延いては個性を奪われたヒーローたちに戻せていた可能性はゼロではなかったはずだ。
そのことを話そうとしたのだが、緑谷が彼女たちに背後に並んでいた洸太くんに気づき、猫なで声を上げながら彼に駆け寄った。
洸太くんの仏頂面は林間合宿より変わりはないが、マンダレイのリークによりどうやら靴は緑谷の赤いスニーカーを模しているらしい。コスチュームは黒なので、そのうちもう一足増えそうだな。
気を取り直してもう一度謝罪したところ、ピクシーボブは優しい笑顔で拒絶した。
「実は、復帰のご挨拶に来たのよ」
彼女の言葉に、クラスメイトが嬉しそうに駆け寄っていく。
深く事情を知るオレたちとしては、素直に喜んでいいのか困惑してしまった。
「ラグドール復帰したんですか? 個性を奪われて活動を見合わせだったんじゃ──」
「戻ってないよ! アチキは事務仕事で三人をサポートしていくの! OLキャッツ!」
ラグドールの陽気さに、裏にあるだろう彼女の不安さを感じる。それはチームメイトのピクシーボブも同じなのか、すこしだけ暗い表情で、事情を教えてくれた。
監獄《タルタロス》にて個性を封じられ、トイレすら自由に行けない拘束を受けているオール・フォー・ワン。
どうやらヤツが《サーチ》を奪ったのは、興味本位という理由らしい。理不尽が具現化したようなヴィランだな……。
さておいて、個性をラグドールへ戻すことは可能だが、それを許す場合個性の使用を認めなければならない。そのため《サーチ》のことは泣き寝入り状態。
「どんな、どれだけの個性を内に秘めているか、いまだ追及している状況。現状、なにもさせないことがヤツを抑える唯一の方法らしくてね……」
「では、なぜこのタイミングで復帰を?」
八百万の疑問に答えたのはマンダレイだ。話題を変えるためか、笑顔も声も明るかった。
「今度発表されるんだけど、ヒーロービルボードチャートJP下半期、私たち四百十八位だったんだ!」
まあその手の順位は、オレたちより早く本人の耳に入るよな。本来であれば二桁も目指せた彼女たちだが、順位はずいぶんと落ち込んでしまった。
オレと同じ感想を緑谷と切島も持ったことだろう。彼女たちを元気づけるために声をかけるも、ラグドールが満面の笑顔で否定した。
「違うにゃん! まったく活動してなかったにもかかわらず三桁ってどういうこと!」
彼女の発言に同調する《ワイルド・ワイルド・プッシー・キャッツ》の面々。どうやらそこが個性消失中ながらも復帰の足掛かりになったようだ。
ラグドールからすれば、順位を大きく下げた戦犯という自覚があり、それでも応援をしてくれている人たちの期待を強く感じたのだろう。
「立ち止まってなんかいられにゃい!」
「そういうことか……! 漢だ! ワイルド・ワイルド・プッシー・キャッツ!!」
「うるせー……」
「女性だしさ……うわっ!」
上鳴と揃ってツッコミを入れると、両手を上げて存在感を強めていたラグドールが突如とびかかってきた。倒れそうになったが、どうにか持ちこたえる。
「それに! 【センパイ】もいるしねー! まだまだ若いもんには負けにゃいにゃー! ちっちゃくなっちゃってー!」
体勢を立て直すも頭は放してもらえず、頬をつねられる。見た目は中学生だが、思春期真っただ中なので、あんまり密着はしてほしくないのだが……。
「発表はいつなんですか?」
「明後日にゃん。今回は豪華だよー」
「そうなんですか?」
話を逸らし続け、どうにか解放される。
話題はビルボードチャートへと移り、それが終わると彼女たちは移動を開始した。洸太くんはこっちの寮へ置いて行ったので、そのうち戻ってくるだろう。
「洸太くん、夕食は?」
「まだ。腹減った」
ふむ、戻ってくるのなら夕食を一緒にとることもできるが。
どこかの店舗に予約取ってる可能性もあるんだよなーと思っていると、ずっと黙っていた相澤先生が、いつの間にか談話室の椅子に座っていた。
あ、はい、夕飯はここですね。
「これは?」
「ここからは火を使うから僕たちでやるよ」
緑谷に洸太くんを預け、夕食の準備をする。時間的に手の込んだものは無理なので、揚げ物と炒め物で進めている。洸太くんは肉を叩く係だ。
「なあ策束ー、さっきの話どう思ったー?」
「ランキング?」
「うん……」
珍しく、峰田が弱気な表情をオレに見せている。普段からどこまで考えているかわからない彼だが、やはり歴代最強のナンバーワンヒーローのオールマイトが不在であることは不安なのだろう。
「やっぱり、マウントレディとシンリンカムイ……付き合ってんのかなぁ……」
「どこ? どこでその話してた?」
峰田曰く、上半期のシンリンカムイの事件解決率が異常なまでに高いらしい。それこそ、現在神野区の怪我で休止中のベストジーニストよりも上だという。おまけに今年はエッジショットとマウントレディでチームアップを組んでいる。目立たないわけがない。
彼のサイドキックであるマウントレディも、社会貢献度では上位に食い込んでいる。
にしたって、急に男女の話されてもなぁ。
落ち込んだ様子の峰田は、女性たちと話すと言って談話室側へと戻っていった。すぐに泣かされていた。
「なあ策束ー、さっきの話どう思ったー?」
「シンリンカムイとマウントレディは付き合ってないに一票」
「なに? なんの話?」
峰田の代わりにお悩み相談に来た上鳴を困らせてしまった。
どうやら彼は順当に、オールマイトがいないことへの不安感があるらしい。
「轟もいるから大きな声じゃ言えないけどさー……。俺、ナンバーワンと言えばオールマイトなわけよ」
油の跳ねる音で、上鳴の声がことさら弱々しく感じる。
まあ、オレもだ。
例年のビルボードチャートは基本的にテレビの特番だ。毎年流行りの女優や俳優、大御所の芸人などを司会に起用して、オールマイトと数名のプロヒーローと、芸能人たちを並べる、エンタメ要素が非常に強い番組の一つ。
オールマイトとエンデヴァーとが不仲である、などという噂が流れると、エンデヴァーの活躍の映像が露骨に減っていたりもする、スポンサーの息を感じることもある。
つまりは、オールマイトを崇め奉る二時間の映像だ。
死柄木弔のようなオールマイトアンチが沸いてもおかしくはないほどのごり押しのようだが、おそらくオールマイトの半年分の活躍をまとめようと思ったら、一日かかったって収まりはしない。スポンサーとしても最大限に配慮せねばならぬわけだ。
その二時間は、もう存在しない。
おまけにオールマイトの不在による不安を軽減するため、今年はビルボートチャート上位百名が会場に呼ばれ簡易的な記者会見を行うらしい。名目上は就任挨拶に近いはずだ。
ちなみにトップテン全員は不明だが、一位から五位くらいなら想像がつく。
……だからこそ、オールマイト不在を不安視する声もあるのだろう。
「楽しみって気持ちももちろんあるぜ? 俺はエンデヴァーに投票したけどさ、それだって、べつに轟がいるからじゃないし。エンデヴァーかホークスかって言ったら、エンデヴァーのほうが強いじゃん?」
「要領を得ねーなー。こんなときなんだから言いたいことはっきり言えよー」
「わかんねーんだよぉ……。なんか、もやもやしてるっつーか、わかる?」
「不安なんだろ?」
「でもエンデヴァーに対しての不安とかじゃなくてさー、オールマイトだって引退したわけじゃないし」
こりゃあループだ。結構ナイーブなやつだったんだな。明日は休みだし、しばらくはインターンの予定も停止している。しかたないにゃー。
「夜ひま? 明日でもいいけど」
「え、話聞いてくれる?」
「勉強道具もってオレの部屋な」
「ひ、ひえー藪蛇!」
怯える上鳴に夕飯を手伝わせ、どうにかプッシーキャッツの面々がB組から戻ってくる前に料理を間に合わせることができた。
◇ ◇ ◇ ◇
「策束くん! 始まったぞ!」
ドンドンと寝室のドアを叩かれ、眠い目を擦りながら立ち上がる。飯田かな? 録画しているから寝かせてほしいんだけど……。
あれからプッシーキャッツの復帰宣言から丸一日明けた日曜日。十時からの特番でビルボードチャートが発表となった。
リビングにはなんとA組全員が揃っていて、ジュースやお菓子を持ち寄って、この寮で一番大きいテレビを眺めている。プロジェクター出す? 大丈夫?
『平和の象徴オールマイトが、事実上の引退に追い込まれた神野事件以降、初めてのビルボードチャート! その意味の大きさは、誰もが知るところであります!
『これまで発表の場にヒーローが登壇することはありませんでした。
『──しかし、今回は違います! ご覧ください!』
女性の記者に寄っていたカメラが壇上へ向けられると。椅子に座っていた甲冑のヒーローがスポットされる。
「ヨロイムシャが十位ー? 下がったなぁ」
切島が、レポーターやアナウンスよりも早くにネタバレをしてくれている。
うがいしてから、すこしだけ場所を空けてもらってオレもテレビの前へと座った。
下半期ナンバーテンは、具足ヒーローのヨロイムシャ。ここ二十年は目立った活躍はないものの、根強い人気で毎年のように紹介される人物だ。若かりし当時はクリムゾンライオット同様に、武闘派であったと説明されることもある。伝説と称しても過言ではないのかもしれない。
続いてナンバーナイン。洗濯ヒーロー、ウォッシュ。子どもと奥さまに大人気の、見た目からして可愛らしいレスキューヒーローだ。ナンバーを読み上げられた際にはコメントを求められ「ワシャシャシャシャ!」と彼の笑い声(のようななにか)がリビングに反響した。ちなみに、インタビューでは一般的な受け答えをするまともな人物だ。
「リューキュウや! おめでとうございますー!」
「ワンランクアップね! いまは連絡失礼かしら」
麗日と梅雨ちゃんが、インターン先の所長の昇格を祝っている。
リューキュウは上半期ではナンバーナインだったが、下半期ではエイト。おめでたいが、レポーターとしても彼女の【見た目】に言及したいらしく、言葉を詰まらせていた。無常にも次のヒーローが読み上げられる。
ナンバーセブン。シンリンカムイ。峰田がギリギリと歯ぎしりをしている。最年少というわけではないが、上半期は二桁だったのが急上昇しての七位。神野区での救助活動が評価されたのだろうか。
続くシールドヒーロー、クラストは、上半期と同様に六位をキープ。
それよりも気になってしまったのは、クラストの後ろを歩くミルコとエッジショットが言い争いをしているようにも見えること。
ナンバーファイブ。ラビットヒーロー、ミルコ。彼女が本気で戦闘をする場合、駆け出したときに足の形がコンクリートに残るらしい。個性やコスチュームの可愛さからは想像もできないほどに個性を使いこなしている。
ナンバーフォーは忍者ヒーローのエッジショット。オールマイトが抜けたことで、みんな順当にランクアップしている印象があるな。
ナンバースリーのベストジーニストは活動こそ休止しているものの、支持率と貢献度を加味されての数値らしい。実際問題、ヨロイムシャがこのランキングにも載る採点方法である以上、ベストジーニストが年単位で休止したとしてもトップテンには食い込むだろうな。
そしてナンバーツーはホークス。本拠地は九州だし、年齢も非常に若いが、支持率と社会貢献度が彼を押し上げた。
そして、その彼らでも勝てぬ圧倒的検挙率を誇るフレイムヒーロー、エンデヴァー。
エンデヴァーはホークスほどではないが、ランキングに載る時期も相当に早かったと特番で見た記憶がある。しかし、それ以上に行けない、進めない。
たった一つランクが上がるだけで、日本のナンバーワンになることができる状況が二十年以上続いたヒーローだ。
情けないと人は言う。
『ファンを蔑ろにする態度が悪い』
『ボランティアでもやったらいい』
『笑顔を振りまけ』
『──それができないからお前は二位なのだ』
エンデヴァーがどのような人物なのかオレは知らない。息子の轟は嫌いだと公言しているし、士傑の夜嵐も坊主憎けりゃ袈裟まで憎いと息子の轟まで嫌っていたはずだ。
エンデヴァーの敵は、ヴィランだけではない。
オールマイトが一番であることを願い続ける国民のほとんどが、彼の敵なのだ。
まあエンデヴァーの場合それが顕著に見られるだけで、あの場に立つヒーローたちの重責たるや、オレには想像もつかぬ世界の話だ。
「ギャングオルカ十二位だってさ。惜しいねー」
「見た目怖いからなー。子どもの票はウォッシュに集まりそー」
芦戸と切島が携帯端末を見ながら全体の票を読んでいる。マウントレディは……二十三位!? え、彼女のデビューはオレが中学三年のときだったよな? 去年だぞ……マジかよ。
ホークスが異常だっただけで、彼を入れても歴代二位か三位に入る急上昇ぶりだ。
『──今回、このような場を設けたのは節目であると判断したからです』
おっと、よそ見している場合じゃあない。
『オールマイトの引退から約三か月。いまだアイコン不在ばかりが取りざたされておりますが、次を担うヒーローたちはここにいます。彼らとともに、平和な世界を目指していきましょう』
いま発言したのはヒーロー公安委員会、現会長だ。父は何度か面通ししてもらっているはずだが、挨拶が短くて非常に好感が持てるね。
さぁて……【崩すべき】はどこだろうか。
会長の挨拶が終わると、主役のヒーローたちにスポットがもう一度当たる。
一言コメントのようで、誰がなにを語るのか、非常に楽しみだ。
ヨロイムシャとウォッシュのテンプレートのような挨拶が続き、リューキュウも上半期同様ならば真面目な言葉で告げるのかな──と思っていたが、すっかり裏切られることなった。
レポーターの女性がマイクをリューキュウに向けているにも関わらず、彼女はコスチュームから露出した自分の肩口を撫でつけているばかりだ。
何人かの男たちから、唾を飲み込む音が聞こえた。妙に色っぽいというか、なんか、いいなぁ。
『えっと、あの、コメントを……』
『お肌のケアは企業秘密ですよ』
どやぁとばかりにカメラに視線を向けるリューキュウ。テレビのスピーカーから会場の笑い声が聞こえてきた。八斎會本邸への突入組としては、すこしも笑えなかったが……。
「麗日さん、梅雨ちゃんさん。リューキュウさんはどうなさったのですか? ずいぶんと印象が……」
「え!? えーっと、え、言っていいのかなー?」
「業ちゃんがいるのなら問題ないと思うけれど……」
八百万の質問に、インターン組が固まってしまう。
麗日と梅雨ちゃんなら、現在のリューキュウの肌年齢も知っているだろうな。
八斎會の一件で、オレは三年、彼女は五年ほど時間を《巻き戻し》されている。おかげでリューキュウの肉体年齢は二十歳すぎと言ったところか。
壊理ちゃんの個性による【被害】であるため公の場では詳しく語ることはできず、しかし目に見えて若くなっているリューキュウの反応に、会場からは男たちの動揺が画面越しでも伝わってくる。
『本当に美しくなられて。まさか恋でも!?』
レポーターの余計な一言に罵声が上がるが、リューキュウのトップ男役ばりの無言の笑顔で、視聴者まで黙らされる。おー……美人の迫力かっけー……。
なお、彼女の身体が《巻き戻し》されてからオレは一度も顔を合わせていない。那歩島で見かけたときにすこしくらい話をしたかったのだが、彼女は沖縄出身のヒーローということもあり、かなり忙しそうに【飛び回っていた】からなぁ。
『チームアップに加えてくれたエッジショットをはじめ、諸先輩方に恥じぬ働きをしていく所存』
『うおー! なぜあの日私は神野にいなかったー!』
『いま悪いこと企んでるやつ! 私にぶっ飛ばされる覚悟しとけよ!』
対比というかなんというか。
シンリンカムイは驕ることも緊張する様子もなく、淡々とした受け答えだった。渋い、渋いなぁ。
熱い男クラストと、熱い女ミルコは非常にヒーロー的な受け答えだな。さすがにこのナンバーになってくると安定感が別物だ。
しかしそうか、マウントレディが一位になるにはミルコの支持率奪わなきゃならないのか。ミルコが映るたび嬌声を上げる峰田と上鳴を見ながら、難しいよなぁと苦笑を浮かべていると、不意に会場がざわついた。
それは、エッジショットのインタビューに移ったとき、【真横】から入った野次のせいだった。
『──それ聞いて誰が喜びますぅ? ステインくらい?』
あまりにも生意気なナンバーツーのホークスによる発言。
詳しくは聞こえてこないが、発言を邪魔されたエッジショットはじめ、ほかの面々からも苦情が寄せられているようだ。まあ慣れたものなのか、怒っている人物はいなそうで良かったが。オールマイトが抜けた新トップテンが仲悪いってのはちょっとな……。
しかし、エッジショットの発言のなにが気に食わなかったのか。彼は数字よりも市民の安寧と言っていた。コメントとしては悪くなかったはずだ。
オレの疑問に答えるように、レポーターからマイクを奪い取ったホークスは話しを始める。
『えーとぉ? 支持率だけで言うと……。
『ベストジーニストさん、活動休止中の応援ブーストがかかって一位。
『二位が俺。三位エッジショットさん。
『で、四位がエンデヴァーさん』
あー、なるほど、上手いなぁ。
「なにエンデヴァーに喧嘩売ってるの?」
テレビの前にたむろするクラスメイトたちのざわつきは、いまこの画面を見ている日本中の人たちにも当てはまる。
──面白い。
場を乱すことで、エンデヴァーに寄せられる不信感を払拭する気だ、この人。
まあ実はくっそ性格の悪いヒーローで、ナンバーワンのエンデヴァーを引きずり落としたいという可能性もゼロではないので、一応最後まで聞いておこう。
『支持率って、俺はいま一番大事な数字だと思ってるんですけど。
『過ぎたことを引きずってる場合ですかぁ? やること変えなくて良いんですかぁ?
『象徴はもういない。
『節目のこの日に、俺より成果の出ていない人たちがなぁに安牌切ってるんですか。
『もっとヒーローらしいこと言ってくださいよぉ』
「一理あるのかなぁ?」
「安牌で良かったと思うけどね」
瀬呂の質問に、オレはそう返していた。
だって、わざわざ全国放送の場で、おまけにオールマイトがいなくなったということを言う必要性がないのだから。
それどころか言うに事欠いて数字が大事? 自ら支持率を捨てるような発言をしている。
さきほどのマウントレディとミルコとの関係と同じだ。ナンバーツーの支持率が失われれば、その支持層はどこへ向かうのか。
もしかしてエンデヴァーと口裏でも合わせてきたか?
《剛翼》で宙を舞い注目を集めていたホークスは、ゆっくりと壇上にまで降りてレポーターから奪っていたマイクをエンデヴァーへ渡す。
『俺は以上です。さァお次どうぞ、支持率俺以下、ナンバーワン』
表情は見えないが、ホークスの笑顔まで想像できそうな、華やかな声だけがテレビから流れてきた。
煽っているのか、協力しているのか。
マイクを受け取ったエンデヴァーは、鋭い眼光で会場を、カメラを、オレを睨みつけている。
だれかの喉が鳴る音が聞こえてきた。それほど、異様な静けさが伝わってきた。
『……若輩にこうも煽られた以上多くは語らん』
『──俺を見ていてくれ』
たった一言。
無骨に、実直に、新ナンバーワンがここに誕生した。
それを真っ先に祝福したのは、煽りに煽ったホークスだけというのも、彼なりの皮肉なのだろうか。
しばらくホークスの独唱のような拍手が流れてきていたが、徐々に会場の観客たちもホークスに釣られて喝采を行う。
「お、おー……」
緊張が解れたのか、上鳴が小さく拍手を行う。そして、ソファーに座っていた轟に声をかけた。
「おめでとう轟。とーちゃんナンバーワンだなー!」
「……ああ」
エンデヴァーを睨みつける轟の表情は、クラスメイトを見るときと本当に別物だな。仲が良くないとは聞いていたが……。
番組はそこで順当な消化となったのか、エンデヴァーの近年の戦績と映像を流し始めた。
それ自体は、オレたち雄英生ならば常識の範囲内として知識になっているため、クラスメイトの身内から日本一のヒーローを輩出したことへのお祝いでもするかと雑談へと移る。
「そんなことしなくていいから」
「えー!? なんでなんでー!」
葉隠に身体を揺すられる轟の表情からは、険が取れることはなかった。
まあプライベートのことには口を突っ込む気はない。本人から話してもらうのなら話は別だがな。
そう、思っていた。
だから、【あんな事件】のあとに轟から語られたことで、オレは自分の温さを自覚することになったんだ。