【完結】無個性ヒーロー   作:南畑うり

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AB組対抗戦・第一試合、第二試合

 

翌日の夕方、リビングで八百万が行う勉強会に参加していると、轟が姿を見せた。エンデヴァーが帰宅するということで、今日は学校を休んで一時帰宅していたのだ。

芦戸がすこし遠慮した様子で、エンデヴァーと会った感想を聞こうとする。

 

「どう、だった?」

「ざる蕎麦にしてもらった。あとこれ」

 

オレに携帯端末を返却する轟。これはオレと芦戸の案で、もしまた過剰な【教育】をされそうになった場合、電話してほしいと貸し出していたものだった。

 

「問題なかった?」

「……傷跡、ずいぶんと深そうだった」

 

聞けばエンデヴァーの顔には、左の下あごから頭皮にまで放射状へ傷跡が残ってしまっているようだ。視力に異常はないというのがせめてもの救いだな。

その調子で芦戸が親子関係を聞き出そうとするも、踏み込み方が足りずに難しそうだ。やめろ、こっち見るな、プライベートには踏み込まないようにしているんだから。

 

「夕飯は?」

「食ってねぇ。相澤先生からゼリーもらった」

 

……あの人本気でそれが食事として機能していると思ってそうだな。勉強組も疲れたというので軽食を用意してやるか。

 

「いいなー! 部屋に冷蔵庫あたしも欲しいー!」

 

葉隠が手伝うように冷蔵庫からいろいろと取り出してくれている。サンドイッチと、付け合わせはピンチョスでいいか。こうしていると本当に喫茶店のキッチンだな。

出したそばから消えていく軽食に、思わず葉隠に向かって「太るぞ」と言ってしまった。ものすごい怒られた。

 

「あ、見ろやくんー!」

 

彼女の怒気を削いでくれたのは、轟が点けたテレビの内容。

エンデヴァーと脳無との戦いで、最初から最後までエンデヴァーを信じ抜いた少年へのインタビュー映像。エンデヴァーを応援し続ける姿が視聴者の琴線に触れたのか、もはやエンデヴァーの支持率を抜きそうな勢いでヨイショされている。

 

「こいつ、家でも見た」

「え? じゃあエンデヴァーにも認知されてるんだ! そのうちエンデヴァー会いに行ったりするのかなー?」

「どうだろうな。親父、そういうのしねーし」

 

軽食を互いにつまむ葉隠と轟。

聞こえてきた会話にちらりと芦戸を見ると、彼女もオレを見て苦笑いをしていた。親父、だとさ。ほらな、本人同士の問題は第三者が介入しないほうが良い場合が多いんだよ。あー……良かった。

 

「ところで、対抗戦どうすんだ? なにか決まったか?」

「今回も合理的虚偽って言ってくれないかなー?」

 

両手にサンドイッチを摘まんだ上鳴が、葉隠に取りすぎだと怒られている。

そして、彼の意見は楽観がすぎるというものだ。嘘にはすこしだけ真実を──。今回がその真実であるという確証は誰にも否定できない。

 

「相談はなし。全力でやるだけだろ。それとも誰かの命が懸かってなけりゃあテキトーでいいの?」

 

できる限り軽く言ったつもりだが、うめく学友が何人か。半数くらいは覚悟が決まったのか口を閉め軽くあごを引いた。

 

意外と不安はない。

勝ち負けとか、そういう問題ではない。信頼している? 雄英やめてもオレのせいではなくなったから?

なんにせよ、すでにクラスメイトは集中し始めている。

 

今日の訓練は真面目にやりすぎて空回りしていたが、そこから週末までの訓練を重ねるごとに笑顔が増え、真剣と緊張をうまく使い分けている印象を受けた。

 

そして、林間合宿以来のA組B組合同訓練が始まった。

 

 

◇ ◇ ◇ ◇

 

 

グラウンド《ガンマ》にて、A組は一足先に個別のアップを終えて集合していた。身体は温まっているが、葉隠はほぼ全裸だからな、この寒さをどうにか克服できないものか……。通形先輩のコスチュームは彼自身の毛髪を編み上げたという話なので、葉隠もそういった工夫ができないだろうか。

寒さということでは、冬用のコスチュームが支給されたことにより、八百万、尾白、爆豪のコスチュームは大きく変わっていたな。緑谷、梅雨ちゃんはコスチュームというか、アイテムの追加があったようだ。

もちろんオレも仕立てを変えた。久々のヘルメットマンスタイルだ。拡声器もある。

 

それぞれが自身のコスチュームの変更点を話していると、オレたちにすこし遅れてB組が現れた。

 

「おいおい。まァずいぶんと弛んだ空気じゃあないか。僕らを舐めているのかい?」

「来たな! ワクワクしてんだよ!」

 

物間の言葉に切島が間髪入れず言い返す。

そーだそーだ、第一オレたちのほうが早く来てたんだぞーというオレの野次は物間に鼻で笑われた……。

 

「でも残念、波はいま確実に僕らに来ているんだよ」

 

彼はB組のリーダーを装い、高らかに宣言する。

 

「さァA組! 今日こそ白黒つけようかァ!!──ねぇねぇ見てよこのアンケートォ! 文化祭で取ったんだんだけどさァ! A組のライブとB組の超ハイクオリティ演劇! どちらが良かったかァ!! 見えるうゥ!? 二票差で! 僕らの勝利だったんだよねェ!? 入学時から続くキミらの悪目立ち状況が変わりつつあるのさァ! そして今日! A組VSB組! 初めての合同戦闘訓練!! 僕らが──」

「黙れ」

 

目にも留まらぬとはこのことか。

物間の暴走を止めよう近づいていた拳藤より早く、相澤先生の捕縛布が遠方から物間の首を絞める。

あれからオレも捕縛布の訓練は続けているが、技量の差が理解できるくらいには成長したかな。

 

物間のおかげで騒がしくなっていた場が、教師陣の登場で静かになる。

 

「今回特別参加者がいます」

「しょーもない姿あまり見せないでくれ」

 

変な言い回しだ。ヒーロー科全体が首を傾げている。ポジティブな連中は参加者が女性であることを望んでいたり、あるいは共にヒーローを目指す仲間だと声を上げる。

が、当の本人は、この場で誰よりも冷静であろうとしている。

 

「今回の特別ゲスト。ヒーロー科編入を志望している普通科C組、心操人使くんだ」

 

ヒーローアイテムの《ペルソナコード》と捕縛布、そして忍者のようなコスチュームに身を包む心操だ。本格的に編入が決定しているのだろう。

はじめての編入希望者の登場に、学友たちが嬉しそうにざわめく。……もしオレが除籍された場合ほとんどトレードだな。C組で一人寂しく過ごすのはちょっと悲しいぜ。

 

相澤先生に促され、心操が一歩踏み出した。

 

「心操人使です。何名かはすでに、お世話になってるけど。拳を交えたら友だちとか、そんなスポーツマンシップ掲げられるような気持ちの良い人間ではありません。俺はもう何十歩も出遅れている。悪いけど必死です。俺は立派なヒーローに成って、俺の個性を人のために使いたい。この場のみんなが超えるべき壁です。慣れ合うつもりはありません。よろしくお願いします」

 

食堂で笑い合っていた、友だちの心操人使はそこにはいなかった。

ヒーローとしての心操人使がオレたちを睨みつけている。超えるべき壁になれるのならいいんだが……。もうすでに超えてるんだよなぁ。

 

心操の挨拶が終わると、教師二人が声を掛け合って、今回の対抗戦のルールを説明しはじめた。

 

グラウンド《ガンマ》での戦闘訓練。A組B組が四人一組を作ってのクラス対抗戦。五戦ある中で、心操は二回、A組として、B組としてそれぞれ一回の出場となるようだ。

制限時間は二十分。A組B組各々の陣地からスタートして、戦闘を行う。そして、四人を自陣にある牢屋に入れたほうが勝ち。時間内に決着がつかない場合は、残りのメンバーの多さによって勝敗が決まる、と。

 

「そんな! 四人が不利じゃん!」

「ほぼ経験のない心操を四人の中に組み込むほうが不利だろう。五人チームは数的有利を取れるがハンデもある」

 

キノコ派の意見はブラドキングによって一蹴された。だがなぁ、授業での経験が浅いとはいえ、心操は死穢八斎會にて実践を経験済み。ヴィラン──【従業員】の内二人を捕縛できたのは心操の個性が大きいと天喰先輩も褒めていた。

 

「今回の状況設定は『ヴィラングループを包囲し確保に動くヒーロー』! お互いがお互いにヴィランと認識しろ! 四人捕まえたほうが勝利となる!」

 

──それは、嫌な想定だ……。

 

「ヴィランも組織化してるっていうもんね」

「シンプルでいいぜ!」

 

B組は肯定的だな。オレが考えすぎか? この前のビッグスリーといい、なぜにこうも【ヒーローがヴィランになる】訓練が多いのか。

 

「双方の陣営には『激かわ据え置きプリズン』を設置。【相手を投獄した時点で】捕まえた判定となる」

「四人捕まえたほう──ハンデってそういうことか」

 

爆豪が心操を入れた場合のデメリットに気づく。

 

「ああ、慣れないメンバーを入れること。そして五人チームでも四人捕らえられたら負けってことにする」

「お荷物抱えて戦えってことか! クソだな!」

 

あまりの言いぐさに上鳴が止めようとするも、心操は事実だからと爆豪の言葉を受け入れた。

あー、どうか八百万と組んで適当に戦ったことにできないかね? 爆豪や瀬呂と組んだらその時点でお荷物決定なんだよなぁ。

 

相澤先生とブラドキングがくじ引きの箱をオレたちに提示した。赤い『A』と書かれた箱からクジを引くと……四番。爆豪と瀬呂がいる。お荷物入りまぁす!

 

「オレ自陣守ってるから」

「早い早い!」

 

耳郎も居てくれた。ありがたいが、機動の瀬呂、戦闘の爆豪、索敵迎撃の耳郎。バランスが良すぎるので、オレは本当に要らない子だな。

相手は鎌切、凡戸、泡瀬、そしてB組推薦組の取蔭だ。

 

飛び入り参加の心操はというと、A組では切島、上鳴、口田、梅雨ちゃんのチーム。こちらも非常にバランスが良い。B組では物間、庄田、小大、柳の四名。B組に関して個性は知っているけど、技量がわからないな。

 

今後の合同訓練ではA組チームではなく、A・B混合でチームを作る場合もあるだろうし、追い追いだな。今日で除籍される可能性は残されているけどさ。

 

第一回戦。

A組、梅雨ちゃん、上鳴、切島、口田、心操。

B組、宍田、円場、塩崎、鱗。

メンバーが移動を開始しはじめたところで、オールマイトとミッドナイトが姿を見せた。なにやらどちらが勝つかの話をしているが……。ミッドナイトはオレが除籍される話は知らないのか。合理的虚偽の可能性が高まったな。

 

「じゃあ第一試合! スタート!!」

 

ブラドキングの声でブザーが鳴り響き、用意された巨大モニターにA組、B組の姿が映しだされる。

 

切島たちの作戦は遊撃。数的有利を生かして五人でまとまって動くことにしたようだ。だが途中で梅雨ちゃんの姿が消えた。おそらくは彼女の必殺技《保護色》で視野を広く保てる位置にいるはずだが、映像越しだとなにも見えないな。

B組の作戦は……面白い。四人ながらも人員を分断している。塩崎が目立つ位置で口田の索敵範囲でわざと見つかり、そして宍田が円場とともに索敵の穴を衝くと。面白いな。

 

問題は、B組二人で心操を含めた五人に勝てるという想定が、甘いと言わざるを得ないこと。

 

宍田の《ビースト》で奇襲は成功し、円場の個性《空気凝固》による空気の壁で口田と心操の動きを封じる。

──いま、円場が宍田の耳を塞いでいたな。

初見殺し特化なうえに、アイテムまでバレている。

 

仮免のときもそうだが、死穢八斎會で心操が天喰先輩と協力してヴィラン逮捕したのは新聞にも載る珍事だったからな。目立たぬように、というほうが難しい。

もっとも、いまは心操の個性が防がれたことより、ヒーローアイテムの情報がどこから漏れたかのほうが気になるが。

 

宍田に掴まれた上鳴が放電し、宍田を麻痺させる。そして放電を受けまいと宍田から離れた円場を梅雨ちゃんが舌で捕縛。そのまま牢屋へと走り出した。

 

宍田も確保かと思いきや彼は電撃を受けながらも攻勢に転じて、迎え撃とうとした口田と切島を相手取る。《ビースト》の伸縮性をも利用して切島の背後に回った宍田は、そのまま切島を投げ放った。七十キロの切島は空をくるくると回りながら塩崎の個性範囲内へと送られて確保される。

いや、それどころか口田まで宍田に掴まれてお持ち帰りされてしまった。

 

「甘いのはオレだったか……」

「え、なんの話?」

「いえ」

 

オールマイトに聞かれていたか。独り言が多くなっていかんな。

 

「これは! 両チーム早くも削り合い! 宍田! 円場の荒らしが覿面! 残り人数は同じでも精神的余裕はB組にありかー! 我が教え子の猛撃がついにA組を打ち砕くのかー!?」

 

A組のメンバーがブラドキングのB組寄りの実況を辞めさせようとする中、瀬呂がつぶやく。

 

「宍田がヤベェ。めちゃ強くね?」

「パワーもそうだけど、挟撃避けてたのもすごいね。嗅覚だけじゃなくて、ほかの感覚もどうなってるんだろう……」

「心操がどうにかするっきゃないよな」

 

A組の面々が対処に困るほどの強力な個性だ。B組の物間が嬉しそうに聞き耳を立てている。その仲間意識をすこしでもオレたちに向けてくれればなぁ。

 

第一試合に動きがあったようで、視線を画面へと戻す。

 

B組の宍田、塩崎、鱗の三名はまとまって隠れることを選択。そりゃああと十分強を守っていれば人数差でB組の勝利。じつに堅実な作戦だ。

 

A組チームの三人はずいぶん遅い再スタートとなったが、音声を聞く限り《ガオンレイジ》の嗅覚に特化した個性を利用するらしい。梅雨ちゃんが皮膚から染み出させた微弱な毒液を上鳴と心操に塗りたくっている。那歩島でも使用したが、あのときの毒性なら二人とも昏倒していただろうな。

心操の新コスチュームが無残にも汚れていくが、本人は周囲の警戒を怠っていない。勝ちに貪欲だ。相澤先生の教え通り、個性にもアイテムにも頼り切っていない。

 

梅雨ちゃんは宍田をもっとも危険と判断し、まず匂いを潰す。そして宍田の身体に付着していたポインターでB組の位置を把握する作戦を取る。面白いし……真っ先にオレを抜くのは梅雨ちゃんかもしれないな。

 

ポインターを頼りに接近したA組三人は、塩崎の《ツル》に【わざと】上鳴が捕縛されて急接近。B組が固唾を吞んで見守るなか、A組の作戦が見事に的中することとなる。

 

上鳴の放電を防ぐために塩崎が大量の《ツル》で自分を守る。背後には宍田と鱗がいるし、前方には捕縛された上鳴しかいないのだから、当たり前ではあるのだが……。

 

一手目、上鳴がポインターに向けて電撃を放つ。

二手目、鱗が宍田に付着したポインターを弾き、電撃を誘爆させる。

三手目、《ツル》に完全に覆われた上鳴。

 

ここまでの動きで、B組が有利なのは見てわかる通りだ。人数差も不利になった──のだが、この画面を見上げるクラスメイトたちの表情は明るく、B組は悔しそうに顔を歪めている。

 

「次だ! はやく蔦を張り直せ!」

「ええ! 宍田さん位置を──」

 

心操の《洗脳》と《ペルソナコード》の相性は異常だな。こんなん作戦割れていても反応しきれるかよ……。

ちなみに上鳴が囮になる作戦を思いついたのは、上鳴自身の即興である。いいじゃあないか。

 

鱗の声を模倣した心操と会話したことで、塩崎が《洗脳》された。

ここで鱗は判断ミス。さっさと塩崎を負傷させてでも起こせばいいのだが、《洗脳》を警戒しすぎたのか周囲にいるはずの心操を探してしまっている。

おまけに《ビースト》の使い過ぎで、相棒である宍田が連携もとらずに走り出してしまった。その先にいるのは心操だろう。上空カメラからは、塩崎に向けてベロを伸ばす梅雨ちゃんの姿がはっきりと映っている。

 

梅雨ちゃんは塩崎を優しくビルの屋上へと運び、鱗との戦闘を選んだか。

 

あ……アイヤー……。鱗が宍田との連携を重視するあまり、梅雨ちゃんの接近を許してしまった。鱗の鎧があるとはいえ、彼は中遠距離を保つほうが圧倒的に優位に立てる。

 

そのまま梅雨ちゃんの舌に絡まれて、宍田と心操を追いかけるように運ばれていく。残念なことにビル内のカメラは一つだけだったので全貌は見えないが、音声を聞く限りは【本物】の鱗の忠告を、《ペルソナコード》を警戒した宍田が無視。そして梅雨ちゃんの鱗ミサイルを受けて宍田、鱗の両名が気絶。

 

心操がヒーロー科来たら本当にオレの役割なくなっちゃうじゃん……。

 

そこから気を緩ませることなく、動けなくしたB組を檻に入れて、A組の勝利が確定した。

 

「第一試合! A組プラス心操チームの勝利!!」

 

ものすごく悔しそうなブラドキングの宣言。たしかに良い勝負だった。A組の作戦は、良く言えば臨機応変だったが、悪く言えば行き当たりばったりである。B組の堅実さは非常に良かった。

問題があるとすれば一点。

実践で、五人相手に二人での奇襲が有効かどうかだ。残念ながら【相手はヴィラン】だということを忘れている。檻に入れるのは誘拐か、殺害か。一歩踏み込みが足りなかったな。

 

切島はそのことに気づけているようで、試合後の講評では悔しそうに反省をしていた。

 

「相手に喧嘩する気がねぇと、俺の個性は役立てづれぇ……。本番だったら、塩崎に捕まった時点でぶっ殺されてる……」

 

梅雨ちゃんも悔しそうだ。あまり考えたくはないが、実践なら二人が死亡、そして上鳴が重傷かな。技量が拮抗していると被害が想定以上だな。

ちなみに電気の使い過ぎで上鳴がジャミングウェイしている。脳にダメージがいっているんじゃなくて、もしかして快楽物質でも出てんのかこいつは。

 

「宍田を軸にするか……塩崎を軸にするか! 統率がとれていれば勝てた試合だぞこれは!!」

 

……意外だ。マイク越しにはB組を贔屓しているかと思ったが、ブラドキングはしっかり先生しているな。

実際先生の言う通り、コミュニケーションのとれなくなった宍田は捨てて、塩崎への《洗脳》を解除できていれば人数差で勝てた試合だ。一番凹んでいるのは鱗だろうな、あとで電話しておこう。入試のときもそうだったが、彼のメンタルの弱さは気になってしまう。

 

「へーい心操くーん! A組に吠え面かかせるプラン練ろうよー! ぐうの音も出ない感じのやつー! A組全員が土下座して神さま仏さまB組さまってなるようなやつをさァあー!!」

 

哀れ心操がテンションぶち上がっている物間に絡まれている……。

 

「ねえ策束くん」

「はい?」

 

ミッドナイトに話しかけられたが、彼女の視線はオレにではなくA組に向いている。周囲を見渡しながら歩く彼女の視線がB組へと移ると、ミッドナイトの疑問に心当たりが思い浮かんだ。

B組がチームに分かれて円陣を組んでいるのに反し、A組は全体で第一試合の反省会中だ。

 

「ええと、作戦考えるの禁止されてまして」

 

チーム分けが発表された以上、相手の個性を把握し、自分たちの得意なことを押し付ける作戦を考えるのは非常に有効なはずだ。現状B組が行っているようにだ。

すまんなぁA組、オレのせいで……。

 

ミッドナイトに事情を話すと、彼女は頭痛で頭が痛いとばかりに頭を押さえた。

 

「相澤くんにはあとでお説教ね。賭けの景品になった気分はどう?」

「私のために争わないでって感じです」

 

腹を抱えて笑われた。

 

 

続けて第二試合の内訳だが──。

A組。八百万、葉隠、青山、常闇チーム。

B組。拳藤、黒色、吹出、小森チーム。

 

奇しくも、いや実際狙っているんだろうけど、委員長同士の戦いになった。

 

「どっち勝つと思う?」

 

瀬呂に質問され「八百万」と即答しそうになって、慌てて「百お嬢さん」と言い直す。

 

「わぁお、信頼感ぱねー」

「ふざけんな。実際、B組で警戒しなきゃいけないのは小森だけだよ。黒色の個性は器用だけどパワーアップはしないからなー」

「甘いねぇA組は!! ほらほら心操くん! こんなぬるま湯を野放しにしていると! 雄英の!! 強いてはヒーロー全体の質が下がるだろう!?」

 

うえ、こっちくんなよ物間。

心操が物間よりも先に近づき、A組の雰囲気に首を傾げている。

 

「作戦は? さっきオレの個性説明で時間食っちまったから」

「作戦はなし。A組は全部遭遇戦として行く。終わったら理由もちゃんと話すよ」

「……わかった」

 

離れていく心操に物間がどんな作戦を練っているのか聞いているが、彼の返しは冷めたものだった。

しかし、物間の「甘いねぇ」とはなにを指しているのか。

 

戦闘を最初に仕掛けたのはA組だった。常闇の《ダークシャドウ》がまとまって移動するB組を見つけて攻撃。入り組んだ建物が多いグラウンド【ガンマ】である以上、《ダークシャドウ》の凶暴性とパワーが増しているので有利かと思えたファーストアタックは、黒色の《黒》によって防がれる。

B組、黒色支配の《黒》は、影とか黒色のものに入り込んで、それが数珠つなぎであるのなら移動できる個性だったはずだが──《ダークシャドウ》はまるでB組の味方をするように接近中だった宿主の常闇に対して攻撃をした。

 

物間が鼻息荒くオレを覗き見ている。わかったよ、過小評価してました。評価のアップデートが必要だな。

 

「ダークシャドウ操ったのかな。すごい個性だね」

「峰田のもぎもぎに閉じ込めちまおうぜ!」

 

緑谷と話す上鳴から面白い意見が飛び出した。なるほど、対策としては有効かもな。時間があるときに試させてもらおう。

 

「飛んだ!!」

 

オレたちが黒色の個性に驚いたように、常闇の《ダークシャドウ》の使い方にも驚いているB組。

常闇は黒色に連れ去られた青山を追いかけるため、ビルの内部を《黒の堕天使》で駆ける。複雑な軌道だが、ずいぶんと器用になったものだ。

 

常闇に救出された青山が、八百万の指示で《ネビルビュッフェ☆レーザー》なる細かいレーザーを連射する必殺技を放つ。

画面を見ているオレたちすら目を塞ぎたくなるほどの明るさだ。《黒》で移動をしていた黒色がパイプからはじき出され地面に転がった。

 

追撃しようとしたが、それは防がれた。八百万と葉隠が伏兵となっていた小森のキノコまみれとなってしまう。いや、それどころかグラウンド【ガンマ】がものすごい勢いでキノコの山ならぬキノコの里のように染まっていく。

 

「おいおい身体にまで生えるのかよぉー! ホラーすぎんだろー!!」

「彼女のキノコは二、三時間で全部消えるから、後に引かないんだよ」

 

おい泡瀬嘘だろ。第三試合は二十分後だぞ。

そして、さらなる衝撃──

 

『ゴン! ガン! ドカッ! あーーーー! ズドッズンッ!』

 

瀬呂と揃って噴き出した。いや、A組全員が似たり寄ったりの反応だっただろう。

突如出現した『ゴン! ガン! ドカッ! ズドッズンッ!』という【文字】がグラウンドの建物をなぎ倒し、見上げるほどの壁を作ったのだ。

 

「どんな質量だおい!!」

「あーははははは!! 見たかなA組! 彼こそ我らB組が誇る最終兵器! 吹出漫我の個性! 《コミック》!!」

 

いや、あれだろ、擬音を具現化するって話だろ? 個性見せてもらったこともあるが、まさか……本当に最終兵器じゃあないか……。

吹出はさらに個性を使って壁を作り上げた。

 

ここまではB組の作戦通りだが、思っていた以上に吹出の個性に遠慮がない。威力と硬度のデータをあとでいただきたいくらいだ。

 

策にハマった八百万は拳藤とタイマン。常闇にも負けた彼女に、果たしてさらに直接攻撃に特化した拳藤に勝てるかなー?

 

八百万の選択は盾。その盾の上から、拳藤の拳が降り注ぐ。

 

「あっという間に有利な状況作り出しやがった! これがウチの拳藤さんよ!」

「……最善手かはわかんねぇな。策束、お前だったらどう戦う」

「分断するなら八百万は後回しかな。キノコで見えているんだから葉隠から。そうじゃあないなら青山から」

 

あ、八百万って言っちゃった。

失言を気にすることなく、それどころかオレの意見に同意見なのか、轟は画面を見上げながら話している。

 

「八百万を警戒しての分断なら見誤ったかもな。あいつを潰すなら四人の総力で真っ先に潰すべきだった。この窮地も、あいつにとっては想定内の状況。想定していたからこそ、窮地からでも勝利への組み立てを行える。八百万百の得意分野だ」

 

意外なほどの高評価に、鉄哲ともども目を丸くしてしまう。

良いなぁ、オレも轟からそういう過分な評価いただきたいものだ。思わず、オレ自身に指を向けて轟を見つめてみたが、画面を見続ける彼からの反応はなかった。

 

さて、第二試合もB組の作戦がここまで決まってしまえば、終盤と言って差し支えはないだろう。

八百万は殴られながらも大砲を《創造》して、一発だけ空に向けて撃ち上げた。

止めようとした拳藤の拳は不発。──いや、直撃はしたのだが、その前に八百万が大量のコードを拳藤の身体に巻き付くように《創造》していた。よく見れば大砲も胴体から足に繋がるように半端に《創造》していた。どうやら拳藤の策で自身の生存を諦めて、チーム全体を生かすことにしたらしい。

 

空高く昇った弾頭は、自由落下に任せて《コミック》で仕切られた壁の外へと落ちる。落ちた創造物がなにかはカメラ越しにはわからなかったが、どうやら葉隠をキノコから守るアイテムと、常闇の視力強化のゴーグルか。

 

もっとも、それが渡った時点で青山が捕縛され、八百万は気を失っている。唯一の救いは、拳藤が八百万渾身の錘を身にまとったことか。

ビルの奥底へと隠れた小森と黒色を常闇が相手取り捕縛するが──途端にむせはじめた常闇の映像を見て、物間がオレたちの前に進み出る。……轟、見てやれ。

 

「小森は戦闘能力低いけど恐ろしいやつさ。訓練だからと抜かったね、常闇。気絶させるべきだった」

 

そうこう言っている間に、八百万にまとわりつかれた拳藤が這う這うの体でB組と合流。暗闇で吹出を攻撃し続けていた葉隠を《大拳》でつかみ取った。

 

彼らはそこでまとまって、全員を檻にまで運ぶ。何度か常闇が反撃を試みたが、残念ながら不発だったな。《ダークシャドウ》の暴走であれば、おそらく全員の殺害は可能だったかもしれないが……まあ無難だ。

 

しかし、立案者の拳藤もさることながら、小森と吹出の個性が逸脱しすぎている。今回はスエヒロタケだったから【良かった】が、カエンタケのような毒キノコを体内部に生み出されたら死ぬしかない。

個性相性的に、A組で勝てるとすれば轟と八百万の二択なのだが、良く勝てたなと素直に褒めておこう。

 

さぁて一勝一敗。

楽しんでいこうじゃあないか。

 

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