【完結】無個性ヒーロー   作:南畑うり

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AB組対抗戦・第三試合、第四試合

 

第二セットを落としたA・B組対抗戦。一勝一敗で迎えた第三試合だが、その前に小休憩となった。

小森の《キノコ》は消えるまでにあと二時間はかかるし、拳藤の作戦によりグラウンド【ガンマ】は半壊状態だ。作戦の読みは非常に素晴らしいものがあったが、これが実践だったら被害の大きさに誰しも頭を抱えることになるだろう。

 

「あははは! 第二試合はB組の完勝だったねー! やはり文化祭のときと同じように最後に勝つのはB組ということさー! でも悔しがる必要はないよA組? 実力差が! はっきり! 出ただけのことさー!!」

 

緑谷たちの前で踊りを披露する物間を、拳藤が殴りつけて引きずってくる。

 

「大変だな、そっちの委員長は」

「いつもごめんね。あと文化祭のディスクありがと。言うの忘れてた」

「いいって。ところで、あの作戦ってどこで練ったの?」

「えー、企業秘密?」

 

ふむ、教えてはもらえなかったか。恥ずかしそうに頬を掻く拳藤の様子を見る限り、A組に対抗意識を常に持っているとは思えない。突発的に思いついたのなら、彼女はすでにオレの完全上位互換だな。ハァ、自信がさらになくなるぜ。

 

私語するのはオレや拳藤だけではなく、ヒーロー科全体ののんびりとした談笑タイムとなっている。

さすがに二時間ここで、ということはないだろうけど、この時間をどう使ったらいいものか。

 

「作戦、どうだった?」

「良かったと思うよ。轟は、百お嬢さんを潰すなら最初に四人がかりでやれば良かったのにって言ってた。一理あるけど、拳藤の作戦は綺麗だったと思うよ」

「ん、ありがと」

「でも、問題は被害の多さがな……」

「あー……被害額は計算しないでね」

 

マウントレディが良い例だが、彼女は巨体での活動により被害をたびたび出している。事務所の力でどうにかなっているが、もし彼女が独立する場合はよほど太いスポンサーが必要だろう。……狙い目だ。

 

「でも策束にそう言われると嬉しいよ。改善点は?」

「カタログスペックだけで言うのなら、百お嬢さんとタイマンで勝つのは難しいってことかな?」

「え? そうだったの?」

「得意分野に持ち込んだつもりだろうけど、彼女がガスマスク着けて睡眠薬散布するだけで対応できる人員は限られる。べつに睡眠薬じゃあなくたっていいしな」

「手加減されてたってこと?」

 

眼光鋭くなった拳藤に、ケラケラと笑って否定しておく。

 

「決闘思考なんだよあの人は。塩崎と似てるって言えばいい? 剣で挑まれたら剣で戦うの」

「拳で挑まれたら……か。うん、やっぱり八百万はすごいなぁ……」

「その、すごい八百万に勝ったんだからさ、自信持てよな」

 

B組の女性陣が拳藤に話しかけたそうにしていたので空気を読んで離れると、拳藤が最後の質問をしてきた。

 

「策束なら、八百万に勝てる?」

「え、無理。無個性と対極にいる人だぜ? 無理無理」

 

納得はしていなさそうだが、彼女は引き下がってクラスの輪に戻っていく。

 

「私が、しっとり来た」

 

オールマイトに声をかけられる。オレの様子を窺っていたのか? この前から気を遣わせすぎて申し訳がない。

彼の用件は、医務室に運ばれた八百万がオレを呼んでいるということだった。三十分ほど安静にさせたいが、自分の足で行こうとしているのでリカバリーガールがオレに来させるようにとオールマイトに指示を出したという。

 

八百万の用件など聞かなくてもわかるが、リカバリーガールとオールマイトにまで話が通っているのだ。時間はあるし、行くだけ行こう。

 

医務室では、八百万がぐずぐずと泣きながらシーツで顔を覆っていた。頬にはリカバリーガールのキスマーク。

 

「負けて、しまいました。申し訳、ございません」

「まあまあ、べつに試合内容が悪かったわけじゃあない。むしろ常闇にアイテムを渡した機転は良かったですね」

「そうではありません!」

「……一勝一敗。まさか全勝するつもりでしたか? B組、舐めてます?」

 

八百万に向けるにしては、攻撃的な口調を選んだつもりだ。

予想通り、彼女は驚いて顔を上げた。涙は止まったかな。

 

「この対抗戦は、自身がヒーローで相手がヴィランです。B組は、ヴィラン相手に愚策を使って挑んでくるとか、見下してました?」

「いえ……」

「拳藤の案からは、どれだけ被害を出そうともヴィランを逮捕するという気概が見えました。あなたと常闇はそれに屈し、青山と葉隠は対応しきれなかった。B組を賞賛しこそすれ、恥じる必要などどこにもありませんよ」

 

彼女はうつむいて、しばらくしてから無言で一つ頷いた。

訓練なのだ。勝った負けたは重要ではない。

相澤先生がオレの除籍を引き合いに出したので勝敗に注意を向けてしまっているが、そもそも相澤先生はこの前の訓練でヴィランに勝ったことを一度も褒めてはいない。

早くそのことに気づいてほしいが、あのとき相澤先生が配ったバツマークの付いたマスクは、【そういう】ことなんだよなぁ。

 

「二人とも、ここで見ていくかい?」

 

リカバリーガールがお茶請けを用意してモニターを付ける。ブラドキングがマイクを握り締めて再開のアナウンスを行っていた。

手が空いていれば、教師陣はどこからでも見れるということか。入学から半年、まだまだ知らないことのほうが多いな、雄英は。

 

八百万が横になるベッドに腰かけ、三人揃って見ることになった。

 

 

第二試合で壊された地区からブロックを移した第三試合。

A組。轟、飯田、障子、尾白。

B組。骨抜、鉄哲、回原、角取。

 

開始早々、鉄哲がB組の待機場所を中心に建造物を壊して更地にしていく。

いやもう頭悪いとかそういう問題じゃ……。

ブラドキングもそうだが、相澤先生も頭を痛めているだろう。

……それにしても、鉄哲の《スティール》は強力な個性だな。金属疲労に弱いと聞いたことがあるが、彼の鉄化を破るほどの金属疲労を生み出せるのなら、そいつはオレの手足なら簡単に折れるだろう。

 

建物を次々に破壊していくが、背の高い建物も巻き込まれて崩れていくものだから、四人まとまっていたA組にすぐさま視認されてしまった。檻の位置はバレたな。

 

A組は進みながら作戦を練る。彼らは分散して攻め入るらしい。黒色がいれば簡単に迎撃されてしまいそうだが、相手の個性がわかっているだけで対処は簡単になるな。

 

先制は轟の氷。フィールドを埋め尽くすほどの氷に、鉄哲、回原、角取の三名が巻き込まれる。建物の上から残りのA組が覗き見ているが、骨抜はさすがだな。氷で覆われることも作戦に組み込んでいる。

彼の個性で氷もろとも《柔化》させられ、攻め入ったはずの飯田が逆に《柔化》した氷に足を奪われた。

それだけに留まらず、建物から建物へと移動していた尾白が、《柔化》したパイプに足を取られて位置を把握されてしまう。いつの間にか移動していた回原が、そのまま尾白と直接戦闘。

まさか鉄哲の決闘を受け入れているとは恐れ入った。ああ、皮肉が出ちまう。

 

氷から脱出し、尾白の援護に回ろうとした飯田だったが、建物の《柔化》に対応しきれずにもう一度氷の沼へと落ちていく。

 

行動に迷ったのは、用意した作戦がハマらなかった轟だ。

足を止めて次の行動を考えているところ、彼の背後にいた障子が角取の《角砲》によって後方へと追いやられる。障子の負傷はなし、優しい使い方だ。

そして《角砲》でスピードのブーストをかけてもらった鉄哲と、轟との真正面からの戦いが始まる。

 

タイマンなら確実に鉄哲のほうに分があるが、骨抜はそれでも轟を警戒したのか援護へと向かう。二人は推薦組で、受けたときは同じ班だったという。もし、もしも士傑の夜嵐が雄英に残っていた場合、推薦組に残れなかったのは骨抜の可能性が高い。思うところがあるのかもな。

 

ただ、無様に飯田に背中を向けてしまうのはよろしくない。

飯田は《レシプロブースト》で氷から脱出。目にも留まらぬ速度で、骨抜への攻撃を開始した。氷の上を滑るように走る飯田に骨抜は逃げの一手。問題があるとすれば、飯田の速度に、飯田自身が追いついていないことだろう。

結局直撃は一度もなく、骨抜は氷を《柔化》して消えていく。個性の使い方は頭一つ抜けて上手いが、飯田を野放しにしていいのか? わからん、なにか作戦があるのかもしれない。

 

いま一番援護を求めているのは尾白と回原だ。飯田か、骨抜か、向かったほうが勝つだろう。その二人は《柔化》とは関係のない離れた場所で一対一の普通の戦闘を行っていた。意外なことに尾白が押され気味である。

鉄すら歪ませる《尻尾》の威力に目を向けがちだが、尾白本人の攻撃手段は限られているし、彼自身は《尻尾》ほど頑丈ではない。一方回原は、全身どこでも《旋回》できるドリル人間だ。移動も速いし、攻撃も【威力】は要らない。

 

建物内部へと追いやられている尾白だったが、ここぞとばかりに飯田がフォロー。戦闘中だった回原を飯田が捕まえ、檻へと走っていった。

骨抜は轟を重視したか。もったいない。

 

その轟は、周囲を気にして使わなかった炎を使用して鉄哲を牽制していたが、鉄哲は自身を真っ赤に染めながらも歩を進めている。大丈夫? 身体溶けない?

炎から逃れる角取と彼女を追いかける障子を尻目に、鉄哲が灼熱の身体で轟を殴りつけた。しっかりタイマンだな。良くない状況だ。

 

そもそも轟の体温は一般人のそれだ。氷を出して冷えてしまった場合は炎を使って温め、炎を使って身体に熱が籠った場合は氷で冷やす。個性のバランスが良いだけで、彼の身体能力は、個性を使わない場合で切島や上鳴と隔絶とした違いがあるわけではない。

顔半分に残っている、母親から受けたという火傷が良い例だ。

 

炎に熱せられた鉄哲の体表温度は知らないが、間違っても抱き着いてくれるなよ鉄哲。

 

「さて、準備しておこうかね」

「お願いいたします!」

 

八百万も、リカバリーガールもその懸念はあるのだろう。グラウンド【ガンマ】へと向かうリカバリーガールを二人で見送った。

 

胸倉を掴まれて鉄哲に殴られ続ける轟の姿をしばらく見せられていたが、急に鉄哲が離れて距離をとった。

そして、カメラが砂嵐を映し出す。すぐに次のカメラへと移行されたが、もしかして、熱か? どんな高温だよ。

脳裏に蘇ったのは、空高く昇った太陽のようなエンデヴァーの炎だった。

 

「やべぇ!!」

 

リカバリーガール! 早く! ブラドキング! 試合止めて!

 

「ど、どうしました!?」

 

八百万がきょろきょろと画面を見渡すが、尾白が角取の機転で捕まったことと、飯田がもうすぐで戦線に復帰できること以外、違和感はないはずだ。

 

問題は時間だ。

鉄哲が自分の身体を《スティール》状態にしておける時間は切島よりも短い。硬度の差なのかは知らないが、もし時間制限に成長が見られない場合、あと数分で鉄哲の肺が焦げる。

それ以前に《スティール》の耐熱制限がわからないのだけれど……。

 

画面からはすでに音声が消えている。でも、鉄哲が笑っているのは、しっかりと見えていた。つられて上がってしまう口角を感じ、悪態をつく。

──楽しそうにしやがって。

頼むぜ、急げよ。

 

願いが叶った、わけではない。

 

骨抜の把握能力がオレより高かったというだけの話だが、轟が周囲の瓦礫を溶かすほどの熱を左手に集中させた瞬間、骨抜の《柔化》が轟と鉄哲を封じ込めた。

──鉄哲、個性が解けている。

 

緊張のしすぎで立ち上がっていたらしい。安堵の呼吸とともにベッドへ座り込む。

 

「ふふ」

 

泣いてた八百万がもう笑った。

なんて反応したものかと悩んでいる間にも試合は進む。

 

一歩遅れて登場した飯田が、骨抜の側頭部に蹴りを入れた。おかげで《柔化》したままの床から、轟を救出。ただ轟は落下物に頭部をぶつけて自分じゃ立てないくらい弱っている。

飯田の判断は戦闘不能のヴィラン二人を放置して、轟の救助の優先だった。

 

その判断が正しいかどうかは、だれが決めるのだろう。

 

鉄哲と骨抜は、いままさに逃げようとするヴィランを捕縛するため、最後の力を振り絞った。

骨抜が這いずりながら《柔化》されていない建物を個性の支配下に置く。根本が《柔化》されて弱った建物を、鉄哲が頭突きで飯田たちへと押し倒した。

 

自分たちを圧し潰そうとする建造物から轟を遠ざけた飯田ではあったが、彼自身は《柔化》され、どろどろになった建物に圧し潰されてしまった。そして骨抜が気絶したことで半液体化した建物の《柔化》が解除される。

 

「飯田さん……」

 

飯田の反撃はここで終わりだ。時間的には《レシプロブースト》の範囲内ではあっても、出力は落ちる。使いすぎたな。

 

おまけにここで、尾白を檻に入れた角取が復帰。個性を使って骨抜、鉄哲、轟の三名を拾った。

そのまま自陣に向かうと思いきや、障子の追撃を避けて角取は上空へと向かう。あの個性そんな飛べるのかよ……。

 

彼女の選択は、自陣ではなく障子から距離を取ることにしたらしい。

仲間を救出し、轟は実質確保している。試合内容が、一戦目とは雲泥の差だな。

 

そこから一分も経たずに試合は終了。A組は回原を、B組は尾白を捕縛したことで引き分けとなるが、これはもう敗北だろうよ。

 

ブラドキングのアナウンスを受け、第四試合──つまりはオレの試合の準備のため、八百万とともにグラウンドへと向かうことにした。

 

「一勝一敗一分け。なにか策はあるんですの?」

「ルール上負けはしないと思いますけど」

 

爆豪と耳郎の個性相性、めちゃくちゃ悪いよなぁ。

 

「……ルール上?」

「ええ、このルールには必勝法がありますからね」

 

八百万に「コイツなに言ってんだ」って目で見られている。纏の前で納豆にシナモン振りかけて食べたときに向けられたときのような視線だった。

まあすぐに実践するから見ていてくれ。どうせ爆豪は単騎で突っ込みたがるし、オレにはその程度しかできないんだから。

 

 

グラウンドにつくと常闇、青山、葉隠から謝罪を受けた。やめてくれ、B組や心操がこっちを不審そうに見ている。

 

その視線を振り切るように、爆豪を先頭に会場へと向かった。鉄哲が施設を壊したことでまたちょっと遠くなってしまったな。

 

自陣に着くと、ブラドキングが第四試合の開始をアナウンスし、それと同時に爆豪が今回の作戦を端的に告げた。

 

「いいかオラ三下! とりあえず俺についてこい! いいな!」

「オラってやめなね?」

「三下も良くないよ?」

 

瀬呂と一緒に、せめて彼の口の悪さだけはと思ったが、まあ無駄だろうな。

 

「俺が先頭で上を探る。テメェはオレをサポートできるようにしておけ。耳は常に、音で雑魚どもの位置を探っとけ!」

「耳じゃなくて耳郎!」

 

顔をしかめて爆豪の傍若無人に対応する耳郎だったが、彼はその程度じゃあ直らないよ。

瀬呂は耳郎の個性を使って慎重に行動することを提案したが、爆豪はすぐに却下した。

 

「馬鹿が! だから先手をとらねぇとヤベェんだろうが。隙は窺うもんじゃねぇ、動いて作るもんだ! 姿が見えりゃあこっちのもんだ! いいな!」

 

そう言いながら、オレたちに手榴弾のようななにかを渡してきた。なにこれ?

爆豪曰く威力はないらしいが、それにしたって彼の個性由来なら爆発物だよな。

 

「それとだ……」

 

ぎろりと睨まれた気がした。

 

「テメェらがあぶねぇときは俺が助ける。──で……俺があぶねぇときは、テメェらが俺を助けろ」

「──……わぁお」

「ちょ! なにそれ! マジ言ってんの!?」

「えー!? 爆豪! お前、お前丸くなっちゃってさぁー!」

「だぁってろ!!」

 

背を向けて歩き出した爆豪の言葉に、その笑みに、懐かしいものがこみ上げる。

神野区でのオレも、そんな風に笑っていたのだろうか。

まあ、感傷に浸る時間はないよな。

 

「一つ質問だけどさ、オレってどこまで役に立てると思う?」

「ああ!? ふざけてんのか!?」

「いや、オレも一つ作戦があってさ。孤立してもいいんなら真正面切って戦うよりチーム全体の役には立てる」

「……わかった」

 

ふむ、質問はなしか。

 

「三対四になるけどいいの?」

「そもそもテメェが穴だってバレてんだろうが! 見えねぇほうがよっぽど警戒すんだろ! ただし……テメェが捕まりでもすれば俺がぶっ殺す!!」

「あはー、なら大丈夫かな。サポートはできないけど、よろしく」

 

心配そうにオレを見る耳郎と瀬呂に謝罪して、オレはA組の拠点へと戻ってきた。

 

オレの作戦を実行するにあたり、一つだけ問題がある。おそらく、使ってしまえば最後、教師陣から怒られるということだ。

 

「よいしょ」

 

A組待機所に設置してある檻を開けて、【その中】へと入る。

そしてその冷たい床へと腰を下ろした。

 

ふぅ……。

良い試合だった。

 

遠方から聞こえてくる爆発音と、舞い上がる煙を見ながら、体育座りで待つこと数分。

作戦は成功したが不発となった。

 

瀬呂のテープでぐるぐる巻きにされたB組の四人が、オレのいる檻へと投げ込まれる。

ちょっと、出してよ! これ四人でやったらB組の個性じゃあ誰も攻略不可なんだから!

檻の外から瀬呂が俺を指差しながら声を荒らげる。

 

「怖い! お前の発想怖いわ!」

「いやいや! しかたないだろ! 直接戦闘力ゼロだよこっちは!」

 

あまりにも理不尽なので言い返したが、耳郎すら、寿司にシナモン振りかけていたときに父から向けられたときのような視線でオレを見ていた。わかった、言い訳させてくれ。

 

「ほ、ほら、第一試合で鱗がB組の陣地守ってただろ? アレに対する注意は無し。それに前の試合で角取が尾白を自分ごと檻に入れたけど、彼女は戦線復帰しただろ? つまり! 自陣の檻は時間制限なしで出入り自由なんだよ!」

「えー……」

 

ダメだ、耳郎からは完全に引かれてしまった。

クラスの待機所へと戻ると、A組B組からもブーイングが聞こえてくる。なんだよー! 先生方からなにも言われないってことはルールの範囲内なんだぞー!

 

「必要以上の損壊も出さず、捕捉からの確保も迅速。機動力、戦闘力に優れた爆豪を軸に二人とも、よく合わせた」

「過去のデータと戦闘力の差を考えた堅実な手法だった。がぁ! 固めすぎて骨抜のような柔軟さに欠けたぁ!」

 

なんでオレB組に混ぜられてんの? 相澤先生? ちょっと?

 

「みんなまでダサいことになっちゃってごめん……」

「オレはダサくねぇ! いいじゃん、取蔭! みんな頑張ったよな!?」

「いやこの敗北を心に刻もうぜー!」

 

なんでオレを抱きしめるの鎌切! そんな仲良くなかったのになんで急に仲間意識生まれてんだよ!

 

爆豪たちは和気あいあいとした様相で相澤先生たちから離れていく。なんでオレB組の反省会に混ぜられてんの? 耳郎がヒロインだったってなに? なんの話?

 

オールマイトが爆豪になにかを伝えているが、その背後でミッドナイトがオレを指差して笑っている。

 

「お腹痛かったわー! 笑うの必死に我慢してたんだから! みんなシーンって! ふふふ、シーンってしてて!」

 

恥ずかしくなって本当にB組へ混ざりに行く。この、難なく受け入れられるのなんなの?

 

「物間……ごめんな……。一勝二敗一分けで、もうB組勝てなくなっちゃった……」

 

すごい沈んだ取蔭の背中に、思わず鎌切に耳打ちをしていた。

 

「メンタル弱すぎない?」

「物間ほどじゃないけど、アイツもA組と対抗意識あってさ。ほら、推薦組じゃん? そんな難しく考えるなとは言ってんだけどさ」

 

なるほど、まあ八百万と似ているということか。

落ち込んだ様相の取蔭を物間は笑いながら励まし始めた。

 

「なにを謝るんだい取蔭。未熟だった同胞が省みて成長している。良いことさァ! たしかにB組の勝利は消えたが……まだ負けてない! 僕はね、【わかってほしい】だけさ! なんのトラブルも起こさない真面目なものと、悪目立ちして不相応な注目を浴びるもの! どちらが正しいのか……。だれもが他人の人生の脇役であり、自分の人生の主役なんだ!」

「──で、どうする?」

 

仰々しい物間の挨拶を柳がぶった切った。

物間なー、ずいぶんと惜しい。前を向く姿勢も、仲間を励ます対応も悪くない。あれだけA組を嫌っているのに、負けた友人に恨み言の一つもないのだ。思った以上に深い考えをしている、のだが、動機がなぁ。

 

もしいままでのA組の悪目立ちがB組に回ってきていたら、物間はどうしたのだろうか。USJ襲撃、《I・アイランド》のテロ、神野区、那歩島。これらが全部B組だった場合、物間は対抗意識を燃やしたのだろうか。

答えは否だ。

動機が【対抗心】なのだから、彼がここまで至ったのにはA組の悪目立ちが欠かせない。わかってほしい? 一体だれに? 観客でも見えているのか? 知ってもらえれば喝采でも浴びられるというのか?

 

と、まあ、それは言うまい。

彼の言葉には一理ある。

B組は、まだ負けていないのだから。

 

第四試合でA組が勝利したことで、A組はオレの除籍の話が払拭されたと思っているだろう。

──笑わせる。

 

「物間、《コピー》できる個性ってストックできたよな。あれ時間延びたのか?」

 

作戦会議の邪魔をするように声をかけさせてもらった。案の定不審そうにオレを睨みつける物間。なんでA組がいるんだってか? 視野が狭いなぁ、連れてこられたんだよ。

 

「葉隠の個性を終盤に使うってできるか?」

「あのね、そんなことA組に──」

「──できない。なんか、考えあるの? 策束」

「ちょ! 取蔭!?」

 

B組に寄ってもらって、声を抑える。

 

「作戦ってほどじゃあないけどな。意表はつける」

「教えてくれ」

 

そう言ったのは庄田だった。体育祭で心操とともに策に嵌めたのは、忘れたわけじゃあないだろう。おまけにタイマンで土をつけられた芦戸が相手にいる。気合いの入り方はB組で1番だな。

 

「あのチームは強い。麗日が空から索敵ってことも考えられるし、麗日の個性に捕まっちまうとその時点で拘束はされずとも復帰は難しい。あの脳無も動けなくなったって言えばわかるか?

「つぎに芦戸だけど、彼女を捕まえるのは至難の業だ。酸で溶かされる。庄田の拳は焼かれるし、心操の捕縛布も無効化されるぞ。

「峰田の《もぎもぎ》が狭い通路で足や肩にくっ付きゃあ、動けなくなる。そのたびにコスチュームを脱ぐか? まあ小大の個性ならアクセサリー増やす程度の被害で済ませられるけど、当たらないことに越したことはない。

「最後に緑谷だけど、オレは緑谷を爆豪よりも評価している。機転が利くし、協調性も高い。戦闘力はさっき柳が警戒していた通りだ。

「まあ全員を心操で対処可能ってのがな、笑えるぜ。

「で、もともとはどんな作戦だったんだ? 緑谷だけを集中してってことならやめておいたほうが賢明だけど」

 

B組がすこし離れた位置に立つ物間を窺う。立案は彼かな。拳藤、骨抜、取蔭、物間が中心か。A組より層が厚いな、羨ましい。

 

「物間、どんな個性で挑むか知らないけど、葉隠と骨抜の個性使えるか? 向こうに索敵人員はなし。緑谷と麗日ができるのは目視程度だ。《透明》になって骨抜と同じように足場になりそうな建物の《柔化》しての脱出。それだけで緑谷の機動力は低下する」

「……同時には使えない」

「交互には?」

「使えるけど」

 

ダメ元での質問だったがすんなり教えてもらえた。さすがに器用な個性だ。ストック数と時間は教えてもらえなかったが、べつにオレが混ざって戦うわけじゃあないのだから良いだろう。

 

「心操の個性は絶対に警戒されているから、近づいて何度も声掛けしてプレッシャーかけると良い。もし間抜けが《洗脳》されても無理するな。それが釣り餌の可能性があるし、むしろ真逆に歩いてもらって距離取り続けていたほうが怖いよな。A組の組み合わせは相性が良い。分断できるなら──」

「あのねぇ無個性くん」

 

なんだ有個性くん。

 

「こっち、一応敵なんだけど」

 

アドバイスにデメリットが無さすぎたのか、物間の警戒心を引き出してしまったようだ。

彼の恨めしげな表情を、鼻で笑ってやった。

 

「ヒーロー目指して敵はねぇだろ。ヴィラン倒す作戦考えろってんならいくらでも考えるよ」

 

暗い表情の取蔭の背中を叩く。

 

「勝つぞB組」

「……もう勝てないんだってばぁー」

 

瞳を潤ませる取蔭が、こちらを弱々しく睨んでいるが、そうでもないと思うんだよなー。

まあ、そちらは良い。勝ち負けなど、どうでもいい。

 

でもお前は、お前たちは勝ちたいだろう、B組。

 

作戦というか、試合作りというか、兵法というか。

それらを伝え終えると、物間の表情が死ぬほどねじ曲がっていることに気が付いた。まあ、一番【恥をかく】のは物間だからな。

 

先生が移動の通達を入れたので、A組の試合メンバーが移動し始めたのを確認し、葉隠の元へ物間とともに行く。

おいおい、警戒するなよ、クラスメイトだろう?

葉隠の《透明》を《コピー》した物間を見送って、オレはモニターの前を陣取った。《コピー》の保持時間は五分か、はやく始まらないかなー。

 

「今度はなに考えてるの?」

「それを言っちゃうと、ほら、作戦の相談になっちゃうからさ」

「負けちゃうと除籍になるかもしれないのにー」

「勝敗が【足りない】のはB組だよ。A組に足りないのは思考力。通形先輩も言ってたでしょ、予測と経験。予測が足りてないんだよ」

 

葉隠がつまらなそうに鼻を鳴らしてそっぽを向いた……のかな?

A組とB組に分かれているのだから、A組の味方をしてほしいってことなのかもしれない。安心しろよ葉隠、作戦は伝えたが、勝敗がどうなるかはB組次第。

 

『それでは対抗戦第五試合! 本日最後の試合だ! 準備はいいか!? 最後まで気を抜かず頑張れよ!!』

 

ブラドキングの掛け声とともに、最終戦が開始された。

 

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