【完結】無個性ヒーロー   作:南畑うり

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第六試合はオリジナルとなります。



AB組対抗戦・第五試合、第六試合

 

A組。芦戸、麗日、緑谷、峰田。

B組。小大、庄田、物間、柳、そして心操。

その第五試合の中継が始まった瞬間から、モニターを見ていた女性陣から悲鳴が上がっていた。

全裸になった物間が、フィールド内を走り回っているからだ。正確に言えば、《透明》になった物間が《柔化》させるときだけ全裸になって姿を現すんだけど。

 

腕時計を確認するも、すでに二分経過。果たしてどこまで緑谷の足場を《柔化》させられるだろうか。

 

『不幸中の幸い、B組チームの中に機動力を売りにするやつはいないだろう? 緑谷の機動力に対応できないのなら、【相手を土俵に上げればいい】。そのために、恥かけるか、物間』

『キミの作戦聞いている時点で恥だよ。ったく、性格悪いな』

 

そう言いながらネクタイを緩めた物間には、賞賛を惜しまないつもりだ。

 

にやけてしまう頬を押さえていると、物間の奇行を不審に思った切島と上鳴が寄ってきた。

 

「策束、B組となに話してたんだよ」

「緑谷の倒し方?」

「やっぱり! あのなー! なんで敵に塩送っちゃうかなー!?」

「まあ本当に倒せるかは心操次第だからさ」

 

序盤のリードは奪える作戦だと思ったから教えたが、B組が改良してくれるならそれに越したことはない。

 

「もしかして、A組が負けてほしいとか思ってる?」

「──え」

 

切島はインターンと那歩島とを通してずいぶんと度胸がついたが、予測という意味では今一つだな。オレはそこまでひねくれていないつもりだ。

 

「まさか。A組が負けたって引き分けで終わる。本当にそんなこと考えてんのなら、第一試合からB組に取り入ってるよ」

「それもそっか。んじゃあ、なんで?」

 

切島の質問にオレは答えなかった。代わりに口元に指でバッテンを作って対応する。

彼は、たった数日前の、相澤先生がわざわざ用意したマスクのことを忘れるようなやつじゃあない。

でも、まあ、誤魔化しなんだけどな。

相澤先生の意図する箇所として、オレがB組に協力する必要は一切ないはずだ。むしろB組が作り上げた作戦での勝利が理想のはず。そう思うと、ちょっと申し訳ないな。取蔭を甘やかしすぎてしまったか。

 

「それより、ほら、物間が準備完了だってさ」

 

二人の視線をモニターに戻させると、物間は自身のコスチュームを持って移動する仲間と合流したようだった。《透明》も《柔化》もできないらしい。使用しなくても五分か……難しい個性だな。

 

B組はそこで二手に分かれるようだ。狙いは……緑谷か。

集中しての緑谷狙いは否定したが、だからと言って心操と物間で緑谷に対処可能なのか?

 

一方のA組は、緑谷へと注目を移すように、目立つように建物の屋上から屋上へと移動をさせている。これは周囲の話曰く、第四試合の爆豪にも通ずる動き方らしい。

問題は二つ。《爆破》ではない移動なので言うほど目立たないということと、すでに物間の《柔化》によって緑谷の進行方向の建物の、三分の一が不安定な足場となっていること。

 

物間が緑谷迎撃のため、《ポルターガイスト》を利用しながら建物の上へと移動を開始。サイドキックは心操のみだが、彼は身を隠してのサポート。

心操が大声を出せば緑谷だけじゃなくてほかのA組も《洗脳》できる。その立ち位置の見極めが出来ているらしい。頭良いな。

 

地上ではすでにB組がA組に対して攻撃を開始。

峰田の《もぎもぎグレープ畑作戦》なる必殺技……なのかな? ロープに《もぎもぎ》を付けた障害物だが、ロープの端は峰田が持っている。つまり、場所を追われていたわけだ。

 

柳の《ポルターガイスト》でパイプやボルトなどの礫を飛ばし、当たる瞬間に小大の《サイズ》で巨大、あるいは元々の大きさへと戻す。

 

『ツインインパクト──ファイア!』

 

そして庄田の《ツインインパクト》で不規則性を持たせての物量攻撃。

 

飛来物は小さく直線的だったために芦戸の《アシッドベール》でほとんど防げていたが、小大の《サイズ》に翻弄されて芦戸が吹き飛ばされる。その巨大な物体を無力化しようとした麗日が《ツインインパクト》のランダムな動きについていけずに逃げまどうのみとなってしまった。

 

しかし、B組の三人はA組からずいぶんと離れている。どうやって当てたことを把握したんだ? とりあえず《もぎもぎグレープ畑作戦》は封印させよう。

 

こういうときフォローをいれるはずの緑谷は……物間と向き合っているか。会話での足止めは悪くないが、物間は『平和の象徴を壊した爆豪勝己』を挑発内容として選んだ。

情けなさすぎて涙が溢れそうだ。勝ちに拘りすぎて試合を捨てるのかよ。

もっとも、緑谷に対するフォローも、緑谷が行うべきフォローにも時間がかかる。接近戦に強いA組三人と、遠距離に分があるB組と距離がある以上B組の有利は──そう思ったときだった。

 

緑谷の必殺技《エアフォース》は、彼の《超パワー》で指を弾く瞬間に発生する衝撃を利用したものだ。指向性は上鳴同様にアイテムを頼ってはいるものの、その威力は人を吹き飛ばすほどの空気圧を放つことができる。

 

一転、【これ】は、なんだ?

 

「これ緑谷の個性?」

「いえ、見たことありませんわ。B組のだれかでしょうか?」

 

緑谷の右腕から、黒い、細い紐のようなものが生えている。一本二本の話ではない。右腕を中心に繭のように緑谷を囲もうとしていた。

いや、それはオレの見間違い──。

《エアフォース》の軌道をなぞるように、黒い糸が放たれる。

物間は【それら】を必死に避けるが、緑谷はその糸の付着した箇所に引き寄せられるように空中を移動して建物に突撃した。……心操の近く。

心操の位置はカメラですら把握はしていなかった。狙ってやった? どんな個性だというのだ。──ああ、この感覚は前も味わった。

 

オール・フォー・ワン。

くそ、信用したくったって、こんな光景、感覚……勘弁してくれよ。

 

「相澤くん、ブラド……」

 

緑谷の安全を保障してくれていたオールマイトですら、緑谷の様相に慌てて試験の中止を申し出ている。

そりゃあ当たり前で、緑谷はまるで操り人形のように暴れる黒い糸に引っ張られて、連続した移動を繰り返していた。心操のところに突っ込んだのもたぶん偶然だな。

個性を扱いきれていない──身体に合っていない?

 

どこかで聞いた話じゃあないか……。

 

「策束、策束」

 

鱗に呼ばれそちらへと寄る。

どうやら緑谷の個性について聞きたいという話だったが、残念ながらオレたちも初見だ。A組全体で隠し通すというメリットもないし、あんなわけのわからない個性、那歩島でも使用していなかった。

逆にB組の誰かの個性ではないのか? という質問をすると、彼は心配そうにモニターを見るだけになってしまった。

 

そのモニター内では、緑谷から放たれる黒い糸が無差別に周囲に破壊をまき散らす。そのおかげでB組から距離を空ける猶予ができた麗日が、緑谷へと駆け寄っていく。

そして《無重力》で緑谷へと掴みかかった。

彼女の叫びがモニターから流れて来る──。

 

『デクくん! 落ち着けぇ! デクくん!!』

 

オールマイトがブラドキングと相澤先生を連れ出してグラウンドへと向かっていった。

ここまでくれば、誰もこの状況が緑谷やA組の意志であるとは思わないだろう。立派なハプニングだ。

 

『心操くん《洗脳》を──! デクくん! 止めてあげて!!』

 

麗日が緑谷を信じていなければ──。

 

「緑谷ァ!! 俺と戦おうぜ!」

 

心操が緑谷を信じていなければ──。

 

「──応ッ!!」

 

緑谷が二人に応えなければ、中止になっていただろう。

 

【ああ、いいなぁ。】

 

緑谷が心操に《洗脳》された瞬間、彼の周囲にあった黒い糸が消え去った。おそらくは《ダークシャドウ》のようにエネルギーが変換されたものだろう。

そのまま麗日が、空中で緑谷の《洗脳》を解除。

 

緑谷の安否を確認しようとした麗日だったが、それは物間によって邪魔された。

おまけに黒い糸によって混乱していた残りのメンバーが、集合してしまった。

 

ヒーローがヴィランと会えば、ヴィランがヒーローと会えば、話し合いか暴力かの二択だろう。

いままさに、乱戦が始まってしまった。

 

「最後の試合は景気がいいなぁ!」

「あの黒いのって緑谷の新技?」

「試合止まんないねー」

 

ヒーロー科全体が戦いの行く末を、気の抜けた様相で見守る。まあこんなに場が混乱してしまえばな。

緑谷の個性は仮免試験のときから判明しているとおり、混戦にも対応している。順当に行けばA組の勝利だが──。

 

心操が捕縛布で麗日を狙うも、それは緑谷が阻止。すでに十分に動けている。偶発的なものだったのか、それとも符丁か。

 

もっとも《超パワー》は使っていないようで、緑谷は心操との力比べに負けて高台から床へ引き落とされた。

……もしかして、緑谷の《超パワー》は筋力増強系ではなく、あの黒い糸による操作系の結果か? 早く詰め切りたいが、先生方は試合を止めることはなさそうだ。

 

心操と睨み合う緑谷だったが、その状況は長く続かなかった。柳の《ポルターガイスト》が緑谷を襲い、麗日がそれを防ぐ。

よくこのタイミングを狙えるなぁと思ったが、《ポルターガイスト》の使用者は物間だった。わざわざ《ポルターガイスト》で注意を引いて、そのまま麗日に取り押さえられる。……え、なにしようとしたの?

麗日に連れ去られる物間を見ながら、全員で首を傾げてしまった。

 

「あ、緑谷の個性スカなのか」

「スカ? コピーできないってこと?」

「物間がコピーできるのはわかりやすい個性だけだからナ」

 

鱗の言葉に違和感を覚えつつ、事の成り行きを見守る。

物間が麗日に連れ去られそうになった瞬間、心操が捕縛布でのサポートをしたが、それは悪手となった。《無重力》状態の緑谷が、引き寄せられる捕縛布とともに舞い上がる。そして緑谷と心操が組み合ってしまう。

 

心操は《操捕布》で天井に吊り下げられていたパイプを引き落としたが、それは緑谷の黒い糸によって防がれた。

使いこなした? 心操の捕縛布と同レベルの速さ? 自主練ってのはこれか?

 

身体への反動が大きいのか黒い糸はすぐに消えてしまい、身体を守るように緑谷が蹲った。押し留めたパイプが床へと転がるよりも早く、不利を察した心操が逃げ出していた。

さすが相澤先生の訓練を半年近くもやり遂げた男。状況判断が的確だ。欲張って緑谷を捕縛したかっただろうに、人数差を理解しているうえで緑谷を放置。

 

心操の向かう先には小大たちがいる。緑谷の《超パワー》も黒い糸も、柳と心操が協力できれば対処可能だ。

その証拠に、柳の《ポルターガイスト》が猛威を振るっていた。

さきほどはずいぶんと直線的だったが、いまは視界内に目標と個性下にある物体があるためか、まるで嵐のような様相だ。

もっとも、それらは鋭角のあるものでもないし、一つひとつは軽いもの。芦戸と峰田は多少のダメージを無視してB組に詰め寄っている。

 

現状は心操と緑谷で睨み合っているからな。麗日は物間の確保に労力を割いている。残りのB組は三人ではあるが、個性的には接近戦で芦戸・峰田ペアに分があるはずだ。

峰田は《もぎもぎ》で作られたルートを利用して、芦戸をフォロー。そのまま芦戸が峰田を勢いよく投げることで、《ポルターガイスト》にも負けぬ速度で彼は《もぎもぎ》を利用してグラウンドを跳ねまわりはじめた。

 

この隙に攻めたいところだが、芦戸一人にB組三人はやはり重い。

それどころか、陽動で飛び跳ねている峰田が執拗に柳を狙ったことで逆に庄田に捕捉された。空中で突き飛ばされた峰田が、そのまま庄田に鳩尾を打ちぬかれた。

柳も《ポルターガイスト》で芦戸との距離を稼ぎ続けている。

 

それどころか、心操を追尾していた緑谷も、いつ受けたのか《ツインインパクト》で仰け反った。心操と柳たちの位置は近い──。

 

もしかして、逆転できるかもしれない。

 

そうB組が希望に燃えたときだった。

 

麗日の手刀が柳の首筋を叩いたことで、柳は力なくへたり込んでしまう。漫画やアニメではよくある表現ではあるが、まさか麗日が迷走神経叩けるくらいの技量があるとは思わなかった。ケンカは絶対売らないようにしよう……。

 

麗日の攻撃はそれだけに留まらず、柳を心配して声を上げた小大を、近くの《もぎもぎ》へと押し付けることで拘束。

 

そして柳の《ポルターガイスト》の脅威がなくなったことで、芦戸が突出。仲間を心配する庄田に向けて拳を打ち上げた。ほぼ真下からあごだけを正確に打ち抜かれて、庄田の意識は刈り取られたらしい、受け身も取れずに背中から倒れ込んだが、動き出す様子はなかった。

 

『ナイス芦戸ー!』

『もう峰田! ちゃんと──』

 

拳を振るいながら【峰田】の声援に応えた笑顔の芦戸から、表情が消えた。

 

『麗日、なんか変! こっち来て!』

『うん!』

 

【芦戸】のほうへ走り出した麗日だったが、二歩も進まぬうちに立ち止まる。そして、彼女からも表情が抜け落ちていた。

 

「やべぇな心操!!」

「緑谷は!?」

 

緑谷は、A組の檻の中から《ツインインパクト》を発動させた物間によって、顔を叩かれていたのだが、すぐに復帰していた。

正確には、空中で発生した衝撃に逆らわず、建物の壁面を足場にしようと心操を見続けていた。

 

その建物は、物間が《柔化》していた箇所だった。一点が崩れ、大量の《柔化》した建物に圧し潰される緑谷を、心操は無視した。

そしてA組二人を《洗脳》したのだが、一歩遅かったな……。

 

『すごいな……ヒーロー科……悔しいぜ』

 

諦めている心操の口調。それでも、彼の目の輝きは一度たりとも消えていない。捕縛布を両手に力強く構えて、迎撃を選択していた。

 

緑谷は、強い視線を心操へと送っている。

今度は、【今度は】降伏してくれなどという甘えはなかった。ゆっくりと心操へと近づき、飛びかかってきた心操の手を掴み上げた。

痛みに声を上げる心操だったが、緑谷は反応せず。そのまま捕縛布を使って心操の両手を締め上げた。

心操を地面へと転げさせて、《洗脳》を解こうとしたのか緑谷は彼に背を向けた。

 

「心操!!」

 

急に声を荒らげてしまい、周囲の視線を集めてしまう。頼むから、いまはオレではなく心操を見てくれ。彼を、見ていてくれ!

 

両手に絡んだ捕縛布は、心操が軽く腕を振るったことですぐに一枚の布へと変化した。そしてそれをそのまま緑谷へと投擲。

緑谷はそれに反応しきれず、捕縛布に右手と胴体を巻き込まれた。

 

──くそ。

 

緑谷は慌ててシュートスタイルで心操へと攻撃。

たった一撃で、心操は動けなくなった。

 

ゆっくりと、腰を下ろす。

制限時間は残り二分。さすがにこれ以上は見なくても、わかるだろう。

 

 

第五試合でもA組の勝利が告げられる。

三勝一敗一分けで、AB対抗試合はA組が勝利したわけだ。晴れてオレやクラスメイトの除籍はなし。

 

ブラドキングに代わり、ミッドナイトがA組の勝利を告げたが、オレの気持ちは一切晴れていなかった。

 

 

「えー、とりあえず緑谷。なんなんだお前」

 

講評が始まってすぐ、相澤先生の真っ当な疑問が飛び出した。

周囲の学友たちから、戸惑いと【畏れ】のざわめきも聞こえてくる。

 

「僕にも……まだハッキリわからないです。力が溢れて、抑えられなかった。……いままで信じていたものが突然牙をむいたみたいで、僕自身、すごく怖かった……」

 

信じていたもの……。

いったいなにを信じているんだろうな、お前は。

 

「──でも、麗日さんと心操くんが止めてくれたおかげで、そうじゃないってすぐに気づくことができました」

 

心操と麗日への礼を述べる緑谷だが、これはあとで詰問だな。オールマイトならなにか知っているのだろうか。

講評は緑谷のものから、麗日へ、そして心操へと個別に流れていく。

 

「俺はべつに、緑谷のためだけじゃないです。麗日に指示されて動いただけで……。ていうか、物間たちも黒いのに襲われているのが見えた。あれが収まんなかったら、どのみちこっちの負けは濃厚だった。……俺は、緑谷と戦って、勝ちたかったから止めました。たまたまそうなっただけで、俺の心は、自分のことだけでせいいっぱいうぐっ!?」

 

心操の捕縛布を、歩み寄った相澤先生が左右に引いて彼の首を絞める。苦しそうに言葉を詰まらせた心操だったが、その捕縛布はすぐに緩められた。

 

「だれもお前に、そこまで求めてないよ」

 

相澤先生が並ぶ生徒から視線を外して、全体を見渡した。

 

「ここにいる皆、だれかを救えるヒーローになるための訓練を日々積んでるんだ。いきなりそこまで到達したら、それこそオールマイト級の天才だ。人のために。その想いばかり先行しても人は救えない。自分一人でどうにかする力がなければ、他人なんて守れない」

 

それは、まるでオレに言われているような気分だった。

この前の訓練も、この訓練も、オレが一人でどうにかできる状況が、一つでもあっただろうか。作戦前に口を出すだけで、だれかを守れる瞬間が一度でもあっただろうか。

 

全体講評を聞きながらそのことへと思いを馳せるが、なんと面白いことに、一度もなかった。オレがどのチームに加わっても、だれと入れ替わっても、あるいはオレが増えても──オレは、自分の力だけで状況を変化させることができなかったのだ。

もちろん、想像の中だけさ。

実際には、ピンチになったら緑谷のように、隠れた個性が覚醒なんてこともあるかもしれない。……もちろん、妄想の中だけさ。

 

講評のお説教のタイミングで、ブラドキングが全体を見まわす。

 

「これから改めて審査に入るが、心操は二年からヒーロー科に入ってくる。お前ら! 中途に張り合われてんじゃないぞ!」

 

本来なら学期後期からの編入もあり得たかもしれないが、問題がいっぱい起こったからなぁ……。

オレたちにA組かB組か希望はあるかと聞かれる心操を差し置いて、物間が急に吠え始めた。

 

「今回はたしかに僕らB組に黒星が付いた。しかし! 内容においては決して負けていなかった! 緑谷くんの個性がスカだとわかればそれに応じた策を練れる! つまりだよ! いまからもう一回やれば次はわからなぁい!!」

「やんねーよ! もう今日の授業終わりだ!」

「あー、それなんだがブラド」

 

相澤先生が、心操を囲んでいたオレを捕縛布で縛り上げる。一瞬でミイラのように捕縛布で簀巻きにされたオレが、ずるずると引き寄せられる。

 

「悪いが、もう一戦やる」

「はあ? これからグラウンド移動して準備して、夜になるぞ」

「それは、こいつ次第だ」

 

こいつとは、まあオレのことで。

なんだ、オレが負けを認めれば瞬間に終わると? まさか相澤先生がオレを除籍するための罠か? オレが抜けて心操が入る……。じつに合理的だな。

 

「どういうことです? えっと、もうA組が勝ったんですよね?」

 

耳郎の不安そうな言葉に、相澤先生は視線も向けずに答えた。

 

「策束と、ヒーロー科の対抗戦だ」

 

周囲から悲鳴が上がった。

 

「勝てるわけないじゃあないですか!! 負けです! 負けました! あー負けちゃった!」

 

一番悲鳴を上げたのはもちろんオレだった。なぶり殺しの趣味でもあるのかこの人は。あ、そういえば通形先輩のときもこんなことあったなぁ……。

 

「そうでもない。ルールはある程度策束に決めさせてやる」

「じゃあ、オレが一歩踏み出したらオレの勝利で」

「すぐに済む可能性もあるし、夕飯も食えない可能性がある。今日はA組寮で食っていけ」

「無視しました!? ルール! ルール!」

「うるせぇ」

 

ぎゅうと捕縛布が締められる。苦しまぎれに勝負を了承すると、捕縛布が解かれた。

ブラドキング、ミッドナイト、オールマイトへと視線を向けるが、三人とも怪訝そうな表情だ。相澤先生の独断? なんで?

 

「策束、試合全体を見てどうだった?」

「……それは、えっと、ここで言うのは憚られますが」

 

全体的にB組への酷評が多くなるし。

内心そう思っていると、そのB組の取蔭が声をかけてきた。

 

「教えてほしい」

「俺もだ。第一、こっちに気を遣うなら、そんな目で見るな」

 

鱗もか。ちらと物間を見るも、不機嫌そうにオレを見ているだけだった。鵜呑みにはしないが、聞いてやる、と態度が言っている。まあ、じゃあ。

 

「んじゃあ、まあ、その……。今回の対抗戦さ、自分がヒーロー側で、相手がヴィラン側だったでしょ?」

 

反応は薄い。なに当たり前のこと言ってるの、って間抜け面だ。

だから、オレは一番の間抜けに指を向けた。

 

「宍田。お前が円場を殺した」

「え」

「ヴィラン二人の確保を優先して、お前のクソみたいなお粗末な作戦で、お前が円場を殺した。理解してないの? なんで? 勝ちたかった? それ円場の両親に言える? 胸張って、彼の犠牲でヴィラン二人捕まえましたって言える?」

「え……」

 

ああ、間抜けだ。もう一人いた。指を移動させて、今度は物間に話しかけた。

 

「お前緑谷を挑発するときに言ったよな。爆豪が平和の象徴を終わらせたって。それ、オレたち以外に通用する挑発なの? なあ? オレたちが怒っているとかじゃあなくてさ、爆豪に有効かどうかってさ、それ、実践で通用すると思ってるの? 勝ちたかった? オレたちに? 勝ってどうするの? A組に勝ってもヴィランに負けたら死ぬんだぜ。お前が足止めできないせいで、お前のサイドキックは、お前が守りたかった人は死ぬんだよ」

 

手を下ろして、比較的まともな拳藤と取蔭に声をかける。

 

「A組に勝ちたいって、その気持ちは大事にしてほしい。目標があることは良いことだ。だけど、A組に勝ってどうするんだ? 目標低すぎるだろ。理想のヒーローに成れる可能性があるんだよ、【お前たち】は」

 

ヒーローに、成るんだろう?

オレと、【お前たち】との戦いが見たいんだとよ。はは、いいさ、やってやる。

 

「ルール一つ目だ。オレがヴィラン側、お前たちはヒーロー側だ。文句はないよな?

「ルール二つ目。さすがに四十対一はねぇよな。こっちは無個性だ。強力な個性をいくつかこっちのチームに加える。ヴィラン役だ、気張れよ。

「ルール三つ目は、そうだな、これ、この石を爆弾として見立てる。爆発範囲は、オレが即死。鱗が大怪我、物間は軽傷。どうかな? ああ、そこらへんの石は判定に加えないでくれよ、あくまで、この石だ。オーライ?」

 

ちらりと相澤先生を覗き見るが、あごをしゃくってお終いだった。【続けろ】と。いいだろう。

 

「強力な個性といえばもちろんクリエティ。それからショートとチャージズマ、セロファン、マッドマンくらいかな? まあ、あとは、ははは、【なんとでもなる】」

 

挑発にざわつく学友たちを尻目に、拳藤が一歩踏み出した。

 

「こちらからもルールを追加」

「聞こうか」

「あの檻のときみたいな、勝負そのものを投げなきゃならない作戦は使わないでね」

「ああ、ああ、キミの心配はあれか、オレが勝負をうやむやにしないかってことか。なんでそこまで勝負に拘るんだ? どこまで目標が低いんだ? でも今回は、あはは、大丈夫、真っ向勝負で叩き潰す。ほか、ルールの追加は?」

 

追加無しか。挑発が過ぎたかな? もう二、三追加ルールが加わったほうが、【不自然】なく要求を通せるのだけれど。

しかたない、挑発にはなるがオレが加えよう。

 

「じゃあオレから新ルールだ。フィールドに立つヴィラン側はオレだけってのはどうかな?」

「舐めてんじゃねーぞスカシ野郎!!」

「なに? 変なルール追加したかな? もしかして怖いの? ヴィラン一人をなぶり殺しにするのが。緑谷、オレはね、絶対に降伏なんてしないよ」

 

爆豪のそばに立つ緑谷へ笑いかけた。いるのかな、すぐに負けを認めるヴィランがさ。

 

「口田、頼むからそんな顔しないでくれよ。いいよ、【口田はこっち】な。ほかいない? 勝ち馬に乗りたいやつ。ほら、B組、ほら、勝てるよ? 勝ちたいんだろう? 勝利が大事なんだろう? 授業をおざなりにして、仲間を使い捨てて、それでもなお勝利が大事なんだろう? オレは無個性だけど、こんな試合に勝ったら【お前たち】よりも上に立てるんだろう?」

 

勝利はついでだ。

なぜそれがわからない? ヴィランの確保がそんなに大事か?

なんのために個性を使う? それがわからないのならオレのために個性を使え。

そうすればついでのような勝利をプレゼントしよう。

 

「対抗戦、楽しかったか? あの試合で本当の勝者は爆豪チームと角取だけだ。あとは全員、ヴィランに敗北した間抜けしかいない。林間合宿でなにも学んでないんだよお前たちは」

 

ヴィラン三人の確保に【成功】した林間合宿。

だれがそれを喜んだ? だれが笑顔になったというのだ。

 

「仲間失った時点で、守るべき人が死んだ時点で、ヒーローは負けだ。お前たちは、いまからオレに負ける」

「──策束、そこまでだ」

 

……妥当だな。

相澤先生に止められたので、思い切り頭を下げる。

 

「すみませんでした! 生意気言ってすみませんでした!!」

「……策束と物間って兄弟だったりする?」

 

切島のツッコミに、とても小さな笑いが零れた。さすがのA組も引き攣っているけど……。B組はほぼ全員が沈んだ表情でこちらを見ている。

 

「判定はブラドに任せる」

「文句もない。策束の勝利だ」

 

その判定に、不満を零すメンバーはほぼいなかった。爆豪と鉄哲だけがやってみなきゃわかんないだろー! と盛り下がっていたが、結果は火を見るよりも明らかだ。

 

【自爆するヴィランを、ヒーローは無傷では止められない】のだから。

 

「轟の個性ならチャンスあるけど、緑谷の超スピードでも無理かなー」

「っていうか鉄哲と切島なら無傷で拘束できるんじゃない?」

「でもそのときは策束くん死んじゃうよね」

「ヴィランって考えれば──ごめん、なし、ごめん」

 

生徒たちが自主的に講評しようとするも、それは相澤先生の手を叩く音で止められた。

まあそろそろ飯の準備もしなきゃだしな。本当にB組がA組寮で食べるの? 謝れってことかな?

 

「キミらの敗因は、ヴィラン側にルールを決めさせたこと。俺のように無視してもよかった。四十対一。相手がヴィランならなにも問題はないはずだ。それなのに自軍を削って相手に与えてどうするんだ。将棋じゃねーんだぞ」

 

ルールを決めろと言ったのは相澤先生なのだが……。まあこれも体育祭で学んだことだな。【ルールの範疇】なら、最大限に行動しろということだ。

 

「挑発に乗りすぎだ。本当のことでも我慢しろ。耐えろ。コイツが心操みたいな洗脳個性だったらどうするつもりだ。ルールの追加も拳藤だけってどういうことだ。意見出し合え。那歩島ではそれで乗り切ったんだろ? それとも策束におんぶに抱っこだったのか? ああ?」

 

ふふふ、オレの作戦はことごとく却下されたぜ。

それはともかく、講評のバトンはブラドキングに渡されたようで、彼は唸るよう指摘し始めた。

 

「人数差に甘え、態度が気に入らず屈服させようとしているのが見え透いていた。強個性だと選ばれなかった者はその想いが強かったと思う。それを突くのが策束以上に上手いヴィランもいる。……勝負に関しては、俺も熱くなっていた部分が強かった。すまなかった、反省している」

「俺も油を注いだからな」

 

相澤先生のおかげでごうごうと燃えたわ。

 

「──それで?」

「……それで?」

 

ミッドナイトの質問を、間抜けにもそのまま繰り返してしまった。

 

「本当はどうやって勝つつもりだったのかしら。まさか【近づいてきたヒーローもろとも自爆】なんて言わないわよね?」

「そのまさかだと言ったら?」

 

妖艶な笑みを浮かべながら、彼女は自身の唇をゆっくりと舐める。

そして真っ向から、オレの言葉を否定した。

 

「それは無いわよ。だって、【拳藤さんが決めたルール】から外れるじゃない」

 

水を向けられた拳藤が、驚いたように目を見開いてオレの表情を確認している。

言いたくないんだよなぁ……。保健室のモニターでこの試合が見られたってことは、もしかしたら【校長室】でも見られるかもしれないんだ。

 

「あなたはルール内で勝てるから、そのルールを加えたんでしょう?」

「……すこし、近づいてもよろしいですか?」

 

ミッドナイトの耳元で作戦を囁く。耳が性感帯なのか、切な気に吐息を零す彼女だったが、オレの作戦を聞くと笑いだした。

 

「へぇー! ネズミを使ってねー! 【口田くん】をチームに加えたのも作戦の内ってわけ? やるじゃなーい!」

 

やめて! 口田に大量のネズミを操ってもらってそのネズミに八百万が増産した爆弾に見立てた石をテープで括り付けるなんて大きな声で言わないで!

 

「校長には秘密にしてください」

「言わない言わない! 私はねー!」

「報告書は出すぞ」

「聞かなかったことにしてください!」

 

教師陣からの弄りを受けながら、第六試合は終了となった。

 





第6試合の、ネズミに爆弾を括り付けるという策戦は、映画『ウォンテッド』のパクリですね。口田くんの個性は作中通して最凶クラスということの証明です。安全に対処できるのは、この時点では轟、上鳴、骨抜の三名だけでしょうか。
この作品では凶悪な使い方でしたが、原作の正規な活躍が楽しみでしかたありません。
なお、オリ主が追加した1つ目のルールの立場を逆にするか、「お互いがヒーローという立場でヴィランと向かい合っている」という本来のルールであれば、ヒーロー科の勝利が余裕で決まります。

これでようやく軋轢のない、いつものほのぼのA組に戻れたかなと考えております。
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