【完結】無個性ヒーロー   作:南畑うり

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クリスマスパーティー

 

「カルマー。荷物ここ置いとくよー」

「おー。ありがとう。……チアだったりして」

 

荷解きの手伝いをしてくれていた耳郎をからかうと、《イヤホンジャック》で何度か叩かれる。

届けられた段ボールの一つから、包装された赤と緑のコスチュームを次々と取り出している口田が見えた。このコスチュームは、もちろんヒーローコスチュームのことではない。クリスマス前に用意したコスプレ衣装のことだ。市販品を買いあさったのでサイズもマチマチ。タグを見ながら八百万が名前付きシールを《創造》してコスチュームに貼り付けていっている。

 

「本当は飾りも自分たちで作りたかったけどねー!」

「さすがにそんな時間はなかったよなー」

「インターン全員参加だもんねー。まだ決まってないの私だけじゃないよね?」

 

それ以外の段ボールには飾り付けが入っており、雑談しながら準備を開始したが、十分と経たずに一階の談話室がクリスマスムードになっていく。

 

「カルマって本当にインターン参加しないの?」

「あー……それなんだけどさぁー……」

 

聞くも涙、語るも涙の悲しい話なのだが、仮免取得者はインターン強制参加。それどころか、職場体験でもプロと関わりがあれば行けというお達しが出てしまっている。

つまり、一月二日からは学年問わずヒーロー科はほぼ全員がインターン参加となってしまったのだ。

 

そしてほぼの中に、オレは含まれていない。

年明け十日ほどは外国にいるので、雄英側が気を利かせてそれを待ってからのインターン参加となる。

不参加を決め込んでいた結果、インターンでも出遅れることになってしまった。

 

八百万が淹れてくれたばかりの紅茶があるので、耳郎も座って聞いてくれよ。

彼女の分もメリオールから紅茶を注ぎ淹れ、楽しそうに作業をするクラスメイトを見ながら雑談することにした。

 

「じゃあ年明けはラスベガス? へぇー、すごいねー。カルマん家ってホテル王とかなの?」

「《I・アイランド》のことだろ? あれは負債だよ負債」

 

こればかりはしかたないのだが、金持ちに対して世間一般からの勘違いというものがある。

たとえばこんな文言だ。

『資産一兆円の大金持ち!』

一兆円!? なんて景気の良い話だ!!──とはならない。大きな理由としては『資産』であることだ。個人に例を挙げて資産について説明すれば、財布の中身だけではなく、その人の家や車、携帯端末や生活用品、失くしたと思っている靴下の片方に至るまで、すべてまとめたものが資産となる。

工場で絶対に必要な一兆円するような超高額な機械も、資産として数えられてしまうわけだ。それをどうやって現金化する? 現金化して工場はたたむのか? 

おまけにほとんどの国では税金が取られる。

『一兆円!? なんて景気の良い話だ!! ところでこの国に住んでるよな? すこしでいいから金くれよ』

税金、人件費、維持費。景気が悪い話だぜ……。

余談だが、それらすべてクリアして黒字になっていたとしても、倒産する企業はすくなからず存在する。ヒーロー公安委員会がそうならないと良いのだが……。

 

そこらへんを説明していると、耳郎が静かに、優しい笑顔で鼻を鳴らした。

 

「わかんない」

 

へへへ、そうだね、経営科に期待しよう。

 

「ところでプレゼントはなににしたの?」

「カタログギフト」

「はぁ!? あはははは! うそ! 馬鹿じゃないの!?」

 

良し良し、意外性は抜群だな。ガチンコのプレゼントとしても、ネタとしても喜ばれそうで安心した。

 

「耳郎は?」

「絶対にそれじゃない!」

 

笑いのツボを圧してしまったようで、ケタケタと笑う耳郎のリアクションに、何事かとクラスメイトが集まってきてしまう。

クリスマスのイベントの一つとして、プレゼント交換をしようということになった。芦戸が爆豪にプレゼントを用意させようとしているのもそのためだな。もうほとんどのクラスメイトは準備済みだろう。

 

葉隠や瀬呂がオレたちの会話に加わろうとするが、プレゼントの中身は一応秘密であるため、残念ながら黙秘だ。

まるでイタズラを見つからないようにする子どもたちのように、笑いを堪えきれない様子の耳郎と見つめ合う。細くなる三白眼に見られると、やったこともないクリスマスの準備が殊更に楽しくなってしまった。

 

「ごはんできたよー!」

「今日は常闇くんがほとんど一人で作ったぞ!」

「一人というか《ダークシャドウ》の二人だったがな」

 

楽しそうに配膳する麗日と飯田。芦戸が真っ先に《ダークシャドウ》へ駆け寄って楽しそうにハイタッチすると、常闇が恥ずかしそうに抑え始める。

味噌汁すら作ることに苦戦していた常闇が唐揚げを作るとは、正直恐れ入ったよ。衣は緩いが十分だ。

 

「明後日のフライドチキンの試食も作ったんだー。味付けみてねー」

 

麗日が骨付き肉を机に置いていく。唐揚げよりも美味しそうってことを除けば最高だな。

 

「んじゃー明日は練習?」

「うん。準備できなくてごめんねー」

 

食事を始めてすぐに、芦戸と耳郎がなにか話し始めた。ちらちらとこちらを見る芦戸と目で会話だけする。オーケー、明日、耳郎、デート。

 

「痙攣してる?」

「え?」

 

上鳴にすごい心配されてしまった。

 

耳郎の噂のカレシだが、その正体はすでに判明している。というのも芦戸があれから目いっぱい聞き出してくれていたからだ。

なんでも、軽音部に所属するバンドマンらしい。

 

文化祭で耳郎の演奏に惚れ込んだという名目で、軽音部に耳郎をスカウトしようとしたのだと。思い起こせば、文化祭でみんなと遊びまわっている最中に耳郎に声をかけてきた男子生徒がいたが、彼がそれだったのだ。

もっとも彼女はヒーロー科であるため、平日に何度かという約束のもと、音楽室に通っている。実質指導員のようなことをしているという。

緑谷が耳郎とたまたま偶然偶発的に一緒に帰寮したことがあったのだが、それも指導員のあと、軽音部の先輩に暗いからと送ってもらっていた最中だったという。

……共通の趣味かー! いいなぁ!

 

 

翌日の放課後、オレと芦戸は寮での飾り付けを抜け出し、校舎へと戻ってきていた。

理由は二つ。

一つは、飾り付けはほとんど終わっているということだ。

二つ目は、芦戸に言われてしまったわけだ。

 

「ねえねえ、これ策束が迎えに行ってあげればいいんじゃない?」

 

たしかに、それなら軽音部の先輩が送り迎えをする必要もない。

まったく、芦戸は恋愛の天才だな! と褒めてたら彼女もついてきた。なんだコイツ。

 

「意外と残ってる生徒多いねー」

「部活動だろ? ヒーロー科は無縁だよなー」

 

上鳴もついてきた。なんだコイツ。

まあ耳郎と二人きりというのも耐え切れない可能性はあったので良しとしよう。

 

「ヒーロー科でも部活の部長と副部長やってる人いるぜ」

「え? だれー?」

「波動先輩とかじゃね? めちゃくちゃ人気そう」

 

残念ながらもっと上の先輩だ。

 

「ナンバースリーのベストジーニスト。ナンバーフォーのエッジショット。三年のときはどっちも被服部部長。ベストジーニストは名誉会長だっけな?」

 

十二月末だ。夕日もだいぶ前に沈んでしまって、校舎は電灯が照らしている。暗めの廊下からは、教室で談笑する雄英生がはっりきと見えた。

 

「さすが雄英、歴史があるなー」

「同級生?」

「年齢考えろよ。ベストジーニストのほうが先輩。もうそのころには雄英ビッグスリーだったし、ヒーロー科だった」

「だった?」

 

ベストジーニスト──本名、袴田維。彼はもともとヒーロー科ではない。ヒーロー科に落ちて普通科からのし上がった弱個性だと言われている。

雄英高校の先生はそのほとんどがプロヒーローの免許を持っている。言い換えれば、【顧問がプロヒーロー】なのだ。そして散々口にしているが、プロヒーローが責任者としている場合、個性が公の場でも使用できる。

 

ヒーロー基礎学が四時間から六時間の枠があるのに対して、通常授業もある一般学科が部活や道楽に割ける時間はせいぜい二時間。それでも放課後をマックで過ごすよりは確実に自分のためになる。

 

それは、ベストジーニストが証明した。

 

この超常社会の雄英高校で文武両道を目指したければ、個性も極めなければならないということになるよな。

 

「雄英ってどんな部活あるの?」

 

入学して一年近くが経過しての発言とは思えないが、二人が興味津々に部室を覗くのも無理はない。一年A組は合理性に特化した結果、入学式と合わせてガイダンスもすっ飛ばしているんだよなぁ。

 

昼休みが終われば足腰立たなくなるくらいしごかれるヒーロー基礎学が始まり、座学でラッキーかと思っていれば頭パンクするかと思うほど法律学ばせられる。

クラスメイト同士の自己紹介も放課後と休み時間を使ったくらい、無駄な時間とされているのだ。無意識的にほかのクラスとの関わりも非常に薄れている。名前や個性ならわかるけど、どの中学校から来たとか、どんな部活に入っているかなんてな、聞こうとも思わないよな。

 

オレだってヒーロー科以外の友人や先輩方の知り合いは何人かいるが、質問されることは名前と個性と授業内容が多かった。手足を失くしたときと縮んだときになってようやく、友だちらしい会話ができたかなー?

多くの学生にとって、将来の夢は【ヒーロー】だ。雄英高校に入学した以上、その気持ちは小学生が将来の夢に掲げるそれより、遥かに強い気持ちになっているだろう。

 

それはそれとして、部活動か。

ベストジーニストが被服部で個性を鍛えたように、耳郎のような音に関する個性は軽音とか吹奏楽。塩崎のように植物に特化しているのなら生物部。

これには個性を伸ばすという面と、音楽や植物に関連する個性の持ち主は、それぞれ音楽や植物を好む面がある。

 

耳郎もいまごろは……音楽好きな連中に囲まれて……。

 

「お疲れー!」

「ありがとうねジロちゃんー!」

「部長ー、手ェ出すなよー!」

「出すかバーカ!」

 

遠くの教室から、荷物を担いだ先輩方が出てきた。

個性まではわからないが、明らかにギターやベースを入れる黒いギグバックだ。芦戸が動けなくなったオレたち二人を近くの階段踊り場まで押しやって、身を隠す。

ジロちゃん……。耳郎のことで良いとは思うんだけど……。

 

談笑する先輩方を見送ってから廊下まで戻り、目的の教室の前にまでやってくる。教室の扉は開きっぱなしだった。

教室を真っ先に覗いた彼女は、慌てるような表情でオレたちを押し留めた。

 

「明日って、そのパーティーなんだろ?」

「はい! 今日もみんな準備してて!」

 

楽しそうな耳郎の声。個性が無くたって聞き違えるはずもない。

 

「ごめんなそんな日まで付き合わせて」

「いえいえ! 全然! 年末ライブに間に合いそうで良かったです。あとはライブハウスのキャビとの調整ですけど、そういうの基本はスタッフの人らがやってくれるって聞いてます! っていうかウチそっちまでは全然知らなくて……」

「俺たちもだよ。あー、緊張してきたー」

「あはは、ビビりは楽器だけにしてくださいね」

 

えー! めちゃくちゃ楽しそう! 早口な耳郎のしゃべり久々に聞いたなー……。

会話の内容だけで推測すると、先輩たちは年末のライブのためにバンド練習中で、そのオブザーバーとして耳郎を呼んだということだろうか。まああの文化祭のライブ見せられたらなぁ! えへへ、さすが耳郎。

 

「ジロちゃんに相談して良かったよ。まさかネックが壊れたなんて……」

「普通ならアンプ通せば大丈夫なんですけど。安いのには理由があるということで」

「そうだねー……」

「あははは」

 

オレもギター練習する。決めた。心に決めた。来年の文化祭では上鳴の位置にオレがいるはずだ。

 

教室内の会話が途切れ、二人とも自分たちの荷物を抱えたのだろう。芦戸が慌ててオレたちを離そうとして──。

 

「今日も送ってくよ」

「あー、いやー……」

「え? 嫌だった?」

「嫌っていうか、この間友だちに見つかっちゃったじゃないですか。恥ずかしいっていうか、勘違いされたら面倒っていうか」

「……それ、勘違いさせたままじゃダメかな?」

 

──告白じゃん。

芦戸の手の平から酸が出て、オレの上着から煙が昇った。慌てて上鳴ともども芦戸と距離を取ったのだが、なぜか彼女は目を吊り上げながら人差し指に唇を当てている。

 

「えっと、それって、どういう……」

「俺と、付き合ってほしい。ジロちゃんと話してると楽しいし、バンドにも入ってほしいし、顔も、好みで……笑った顔が、キミが、好きです」

 

驚喜する芦戸の口元を抑えつつ、廊下をずるずると引き摺って引き返す。さすがの上鳴は素直にくっ付いてきたな。

十分に距離をとったのを芦戸もわかったのか、不満たらたらにオレを睨みつけてきた。

 

「なんで! もう!」

「告白の邪魔はできないだろー」

「あれは良くない、良くないぜー?」

 

オレも告白したことのある身だ、聞いていて恥ずかしくなるほどの緊張も伝わってきた。

峰田が振られるところだったら野次まで飛ばせるのだが、噂のカレシは紳士すぎた。

 

「んじゃーどうするの?」

 

芦戸はオレの耳に小声で告げる。

 

「取られちゃうよ響香」

 

かもしれないなー。めちゃくちゃ楽しそうだったもん……。

えー、やだよー、付き合いたいよー。放課後マックや図書館デートしたいよー。

 

「どうもこうも、こういうのは耳郎次第。オレたちはなにも聞かなかった」

「えー! んー……まあ、そうだけどー」

 

芦戸が完全に近所のおばちゃんと化している。本当広めるなよこういうのは……。

 

「上鳴もそれで──」

 

上鳴が真剣な瞳で廊下の奥を見つめていた。なんか、あれ、なんだろう、上鳴もてっきり芦戸と同じように、状況を楽しむかと勝手に思い込んでいた。

……なんか、やだな。

お前がそんな真剣な顔してるとまるで──。

 

「響香出てきた! んー、けど……カレシいないねぇ」

「撤退!」

 

二人を先導して校舎から逃げ出す。

部室で耳郎がどんな返答したかは知らないが、【どちら】だったとしてもオレは心からは喜べないなぁ……。

はあ、なんでこの日に告白を。出刃亀してしまったけど、あれはもう不可抗力だよな。本当は部室から出てきたタイミングで声をかけるつもりだったんだ……。

 

今日、耳郎は薄暗い道を一人寂しく歩いて帰るのだろうか。あるいは、実は部室の鍵を返しに行っているだけで二人仲良く帰る可能性もある。

 

「ねえ様子見に行こうよー」

 

茂みの中でそう提案した芦戸に、上鳴は渋い顔を作った。

昇降口から部室まではちょっとした距離があったが、そろそろ出てくるだろうか。

 

「じゃあ、一人で出てきたら声かけよう」

 

ね、本来の目的で。それで勘弁してください。

芦戸はちょっとだけつまらなそうに、それでも耳郎の状況を鑑みて納得してくれた。

 

「耳郎、モテたんだなー」

「まああの文化祭見たらなー。爆豪も告白されてたし」

「え!? なにそれ初耳!」

 

あ、しまった。口が滑った。

二人の興味を引いてしまったが、プライベートなことなので全力黙秘とさせていただきます。

 

「騒ぐなって。それよりいまは耳郎だろ? 声のかけ方ってものがあるじゃん」

「──へぇ、どんな声かけてもらえるんだろう」

 

それは芦戸よりもハスキーな、そして耳が心地よくなる声だった。

できればもうすこしだけ、怒気を抑えていてくれていると嬉しいんだけど。

 

「じ、耳郎……」

 

上鳴がオレの背後を見ながら怯えるようにつぶやき、逃げようとした芦戸が、《イヤホンジャック》に足を掬われて尻餅をついた。

なんで校舎裏から!

 

言い訳しようとしたところ、耳郎は機敏な動きでオレと上鳴の口元を《イヤホンジャック》で叩いてしゃがんでしまう。全員それに倣った。

そして耳郎の視線のさきには、噂のカレシさん……。

 

昇降口の明かりに照らされた彼の表情は、彼女ができたばかりには見えない、よな?

耳郎は、彼の背中をずいぶんと名残惜しそうに見つめながら、そして姿が見えなくなるとオレたちを睨みつけた。

 

「デリカシー!」

「ごめんなさい」

「すみませんでした」

「出来心で」

 

おい芦戸おい、ここは謝れ。

ちゃんとした言い訳の時間をいただいたので、暗い中なのでお出迎えしておこうと三人集まったことを告げる。半分は嘘だけど、半分は本当なので!

 

「タイミングが悪いよみんな!」

 

耳郎は昇降口ですら軽音部部長と顔を合わせぬようにと、靴だけとって窓から脱出したそうだ。理由は語るまでもない。彼女にとっても気まずいのだ。

なにやらヒソヒソ話す集団がいたので、不審に思い《イヤホンジャック》で聞き耳を立てたらA組の三馬鹿トリオと……。そりゃあ怒るわ。

 

盗み聞きしてしまったことを正式に謝罪してから、四人での帰路となる。

 

付き合ってはいないだろうけど、どのようにフったか、保留にしたのかなんて、オレたちには聞けなかった。怖かったのは、すこしある。

もう付き合っている人が~とか、実は好きな人がいて~ということなら、オレもあの部長と同じように耳郎へ気を遣わせてしまうことになるだろう。そうなる未来が見えてしまえば、オレはきっと彼女への気持ちを抑えなくてはならない。

 

高校一年目でそれは耐えられない。

あー! 無理! 想像しただけでつらい! 偉い! あの部長偉い! 勇気が欲しい……。

夕食で出された鶏肉を食べながら、自身の心の弱さに落ち込んでしまった。

 

 

◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「うおー! 雪だ雪! ホワイトクリスマスー!」

 

料理を並べている最中、峰田が嬉しそうに窓へと張り付いていた。

中庭を覗けば、たしかに雪が降っていた。東北ならまだしも、中部近畿でクリスマス時期に雪とは珍しいな。道理で今日は冷え込むわけだ。積もったら明日はホワイトクリスマスだな。

 

中庭から見える光景にうっとりとする女性陣はさておいて、そろそろチキンが焼き上がる。さぞ立派なローストチキンに仕上がってくれているだろう。

 

「策束くん、連絡は?」

「何度目だよ緑谷。んー……まだないけど、家は出てるはずだからなー」

 

オーブンから携帯端末へと視線を移し、履歴を確認する。残念ながら策束壊理の名前は出てきていない。自宅から雄英高校までは車で三十分程度。護衛が相澤先生なので、ヴィランの対処も壊理ちゃんの個性の暴走も十分対応可能なんだけど、あの人報連相知らんからな。

 

子ども用のものになるが、壊理ちゃんにも携帯端末が渡されている。連絡先と言えば聞こえは良いものの、母さんが用意したのなら安全のためのGPSが主題だ。間抜けな兄貴が一度攫われているので、過保護とは言えない。

今日は緑谷との連絡先の交換も目的の一つでもあるし、窮屈なことばかりではないだろう。

 

「たこ焼きできたぜ! ファットガム直伝だ!」

 

たこ焼きが皿に山盛りになって、切島の顔を隠してしまっている。下のほうは完全につぶれているが、認める、美味しそうだ。

 

「こっちはもうすこしかかるかなー?」

「早く作りすぎちまったか」

「いや、相澤先生が遅い」

 

たこ焼き、チーズフォンデュ、ローストチキンレッグ、アメリカンドック、ピンチョス。それ以外にも要望の料理はあらかた作ったつもりだ。スイーツは時間がかかるし、あんまり知識がないから市販品で手抜きしたけど、せめてものチョコフォンデュをお楽しみください。

 

テーブルに並んでいく料理に、雪景色を見ていた麗日が真っ先に席についた。待てを命じられた犬のように目の前の料理に釘付けである。

 

「麗日、どうどう」

「お茶子ちゃんケーキのことも忘れないでね?」

 

麗日が耳郎と梅雨ちゃんにお世話になっていた。個性のせいか、彼女がゲロ吐いている残念な光景は何度も見ているからな、食いすぎで吐くならトイレに行ってくれ。

 

「そういえば、二人はまたリューキュウだよね?」

「そやねぇ、耳郎ちゃんは?」

「策束に紹介してもらってギャングオルカ事務所。障子も本決定ー?」

「ああ」

 

オレはまだ未定なんですけどね!

相澤先生がまだ現れないせいで、会話の内容がクリスマスから離れてインターンへと向かってしまった。まあ正月明けたらすぐにインターンだからな、浮かれてすぎてもしかたがないということで……。

 

「緑谷くんはどうするんだい? ナイトアイ事務所?」

「んー、僕もそう思ってたんだけど……」

 

緑谷が愚痴のようにナイトアイ事務所に愚痴をこぼす。

なんと、緑谷はナイトアイに振られてしまっているという。

オレもすこししか聞いていないが、現在B組の物間が正式にナイトアイ事務所にインターン中。そしてビッグスリーといえど通形先輩もインターンだ。ナイトアイ事務所は三人で回している小規模事務所であることに加え、いまナイトアイが個人的な用事で各地を飛び回っているらしい。

センチビートが物間を、バブルガールが通形先輩を受け持つ形で手一杯なのだという。

 

「グラントリノもダメだから、いま宙ぶらりん。でも、任意参加だった前回と違って今回は課題だから、学校で紹介してくれるって」

「となるとあとは爆豪か」

 

ベストジーニストは事務所としては機能しているが、本人が行方不明のままだからなー。有能なサイドキックは多く所属しているだろうが、受け入れるのだろうか。

 

「決めてねぇ」

 

サンタの帽子をかぶった爆豪が静かにつぶやいた。体育祭指名数はトップクラスであるため、学校が仲介するよりも多くの選択肢があるだろうと切島が指摘するも、本人は不満があるようだ。

なんだかんだ、ベストジーニストのもとで学べたことが多いのだろうか。

 

それ以外のインターン先だと、オレを含め決まってないメンバーもすくなからず存在するものの、おおむね決定済み。

 

梅雨ちゃん、麗日は前回に引き続きリューキュウ事務所へ。

切島も同様にファットガム事務所に。そちらにはB組の鉄哲も参加するという。

障子、耳郎はオレの紹介でギャングオルカへ。

青山、芦戸、葉隠の三人はナンバーナインの具足ヒーローヨロイムシャへ。

上鳴、瀬呂、峰田の三人はB組の抽選メンバーとともにマウントレディのチームアップ先のチームラーカーズへ。

 

それ以外のクラスメイトは全員別の事務所となる。

飯田はうらやましいことにマニュアルさんへ。

常闇はナンバーツー、ホークス。

口田はナンバーエイト、ウォッシュ。

八百万は体育祭のときに指名してくれたマジェスティック。

轟とは話したわけではないが、エンデヴァーで固いだろう。

 

決まっていないのは、オレ、尾白、緑谷、爆豪の四人か。B組は全員決定して参加待機中らしいからなー、ずいぶんと出遅れたイメージだ。

 

あ、いかん、チキン。

すこし出すのが遅れたかと思ったが、ここ数日練習しておいたおかげか、会心の出来となった。オーブンを開けると、香草と焦げた油の匂いがキッチンに充満した。

 

熱さに負けそうになりながら必死に皿へと盛り付けている、背後の雑談が途切れて猫なで声が聞こえてくる。何事かとそちらを見れば壊理ちゃんが相澤先生とともに登場したようだ。おまけに小さなサンタさん。可愛いねぇ。

 

「とりっくおあ、とりー、と?」

「違う、混ざった」

「鬼はー外、鬼はー内」

「違う、それは二か月先」

 

二か月先にもねーよそんな文言。オレん家に鬼招くんじゃないよ。相澤先生が変なことを教えたらしい……。

 

「それでは、壊理さんもいらしたことですし!」

 

八百万が珍しく張り切って音頭を取るようだ。焼きたてのローストチキンの大皿をテーブルに置いたのを確認して、彼女の「せーの!」という笑うような声に、みんなが合わせる。

 

「「「「メリー! クリスマース!!」」」」

 

壊理ちゃんはなんて言っていいのかわからずきょろきょろとしてしまっていたが、相澤先生は本当なにを教えたんだよ。あとで母さんから苦情が入るぞ。

 

カービングフォークとナイフでローストチキンを切り分けたのだが、口田と壊理ちゃんの前ではちょっとだけショッキングだったかもしれない。とくに口田は涙目だ、菜食主義でもないのに罪悪感が物凄い……。でもオレは肩甲骨の裏の肉が一番美味しいと思う。

 

骨を外すと、シナモンの香りが舞い上がった。こちらはローストチキンならぬスタッフドチキンなので、腹内にはバターライスが詰め込まれているのだ。

 

「うわ、策束のシナモンがはじめて機能してる!」

「いつもの量使ってない? 大丈夫?」

 

失礼すぎるだろお前ら。

皿を持って待機する面々に肉とライスを振る舞っていると、壊理ちゃんに乞われて耳郎が歌を披露しはじめた。特等席は芦戸と上鳴に奪われてしまったが、賛美歌まで歌えるのかと新しい発見だ。

年末だからか、耳郎はギターまで持ち出して大盤振る舞い。耳がとても幸せでした。

 

みるみるなくなっていく料理の勢いに軽く怯えていると、芦戸がメインイベントとばかりにクリスマスのプレゼント交換をはじめようと指揮をとった。

 

みんな、壊理ちゃんや相澤先生すら用意したプレゼントを一か所に集め、《創造》した紐で繋いでいく。なるほど、ランダムで良いね。

ほとんどが包装されている中、常闇のプレゼントだけが抜き身で目を引く……。あれだけはいらない。

 

プレゼントの包装にロープを巻き付け、一つの束にまとめてからプレゼントを山のように重ねる。

 

「すげぇな! 子どものころ、こういうの夢見てたぜー」

「うん!」

 

壊理ちゃんが切島とともに楽しそうにプレゼントの山を回っている。ロープ踏んで転ぶんじゃあないよ?

しかし、そうか、子どもらしい夢は、もしかしたら壊理ちゃんの夢にも近しいのかもしれない。母親が壊理ちゃんからの要求がないことに嘆いていたが、当たり前だが遠慮しているのだろう。いかんな、もっと真剣に考えておこう。

 

楽しそうな壊理ちゃんを携帯端末のカメラに収め、そしてやっぱりロープに足を取られそうな壊理ちゃんを転ぶ前に支えてあげた。

 

「ありがとう、ございます」

「ねえ壊理ちゃん、いま一番欲しいものってなぁに?」

 

緑谷の友だちから、急に【策束家】を感じ取ったのだろう。彼女は途端にもごもごと言葉もすくなくなってしまった。

 

「送りたいんだよ、キミに。兄貴なんだぜ? サンタに負けないプレゼントを贈ると約束するよ」

「ありがとう、ございます……」

 

両親に勝てるとは思えないけれど。

本当なら彼女と一緒にアニメ映画でも見に行きたいが、プレゼントとしては弱いよな。……あ、緑谷のコスチュームをサイズ変更してパジャマにとかどうだろう。

 

「それじゃみんな紐選んでねー! 上鳴! 爆豪の足に結んできて!」

「おうよ!」

 

芦戸に促され、壊理ちゃんと一緒にロープを選ぶ。さて、なにがでるかなー。耳郎のがいいなーと思っていると、オレが引っ張るのと同時に常闇の《ダークシャドウ》を模した大剣が軽く動いたのが見えた。

……いやとかじゃない、いらないだけで。

 

「じゃみんな! 行くよー! せーの──」

 

 

結果だけ言えば、オレが引いたプレゼントは峰田が用意したマウントレディ写真集だった。結構きわどい水着てとても良、いや、けしからん、とてもけしからん。

峰田のお宝レベルなのではと思ったが、どうやら本当に芦戸の拷問の効果が出ているようで、部屋のお色気グッズを処分しようとしているらしい。かといって授業の担当にまでなってくれた憧れの人の写真集をゴミに出すこともできず、とオレの手元にくることになった。全然嬉しくないけど、今度サインをもらいに行こう。

 

動いたと思った常闇の大剣は、なんと壊理ちゃんが引いてしまった。おまけにオレが用意するプレゼントは彼女の希望で「鎧!」になってしまった。母さんにめちゃくちゃ怒られるだろうな……。

 

「おい策束」

「はい」

 

交換会には相澤先生も参加していたらしく、小脇に冊子を抱えていた。オレのカタログギフトだな。先生がプレゼントの包装を破くシーンを見逃したのは、かなり惜しい気持ちが湧いてくる。

 

「このメーカーなんだが、日本では販売していないはずだ。どういうことだ」

 

え、知らないし、アウトドアのメーカー? あんた欲しいの絶対寝袋だろ。なんで知ってると思ったんだよ……。

 

「ちなみになんでオレだってわかったんですかそれ」

「お前以外にいるかこんなもん」

 

失礼すぎる。八百万だってこういう選択の自由のプレゼントを──震える手で金の延べ棒を手に載せる、汗だくの飯田と目があった。

 

「百お嬢さん!!」

「【兄貴】!!」

 

悲鳴のように叫んでしまっていた。

現金換算一億円近くを手に持つ飯田には不憫さしかない。贈与税だけでご両親の年収吹き飛ぶぞ。

 

オレ、相澤先生、飯田の三名に説教を受ける八百万は涙目だったが、クラスメイトにとっては微笑ましい光景だったのだろう、楽しそうな笑い声が聞こえてくる。

 

「起きろ兄貴!!」

 

だから纏も笑ってさ、いて、叩くなよ、いて、いてて。

あと聞いてくれよ、上鳴ったら自分で用意したプレゼントを自分で引いたんだぜ? 面白いよな。

 

「撃たれてないか!? 大丈夫か!?」

 

峰田ったら写真集の栞にって青山のブロマイド挟んで来たんだぜ? プレゼントに自分のブロマイドって。そんな面白いことあるかよ。今度オレたち兄弟のブロマイド八百万に送ろう、ぜ……。

 

「……なんで纏がいるの?」

「頭か! とうとう!」

 

頭、打った? なに、なんの話? あ、オレまだチーズフォンデュ食べてないんだよ。壊理ちゃんがあのあと髪の毛をチョコフォンデュの中に入れちゃって泣いちゃってさー。

 

「こっちは制圧したぞ!」

「軍人以外は、なんで銃を持つと楽できると思うのかな【ブロス】」

「ハハハ、そんなもん、聖書に銃のマニュアル載せないからだよ、【スター】」

 

【彼女】の姿を見た途端、思考が劇的に透き通っていく。

一週間前の、楽しいクリスマスの思い出が一瞬で消え去ってしまった。

 

纏に支えられるオレの視界には、【彼女】──アメリカ合衆国が生んだ最強の女、星条旗の化身、神の御使い、オールマイトのファン一号、米国ナンバーワンヒーロー──スターアンドストライプが立っていた。

 





・クリスマスですが、原作とアニメで会話の順番が異なります。
原作は「メリークリスマス」→インターンなどの雑談→エリちゃん登場→食事とプレゼント交換。
アニメは「メリークリスマス」→雑談しながらの食事→エリちゃん登場→もう一度食事やプレゼント交換。
エリちゃん登場の遅さがあるため、この回は原作基準となります。
・ベストジーニストが普通科出身であることは捏造です。
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