アニメ5期オリジナルアニメーション「笑え!地獄のように」より。
ホテル側の謝罪を受けながら、いまは客のいないカジノルームで事情を聴かれる。さすがに事が事なので、部屋から父も出てきてもらっていた。
ホテルスタッフとオレたち以外だれもいないカジノルームで、貸し切り気分で椅子へと座る。あー、やばい、いまさら恐怖で指先が震えている。スターの個性のおかげで酒は抜けたが、それ以上に【鍍金】を剥がされた。なんでヒーローなんて目指してんだろうオレは……。こんな怖い思いしてさー……。
「このご時世に無個性が二人? ずいぶんと【都合が良い】わね」
オレもまさかオレの父がスターと席を隣にするとは思わなかった。……しかし、都合が良い? なにかの依頼だろうか。
「サクタバ。日本でもトップクラスの金持ちに、無個性? ああ、本当に都合が良い話ね」
違う、かな。ニュアンスでは『そんな都合の良い話あるわけないじゃない』ってところだ。
この状況でスターに話を聞かれるのだ、オールマイトのこと、ナンパ男とのいざこざのこと、あるいはメリッサさんのことの三択かと思ったのだが……。
「この合衆国にこれ見よがしに無個性を集めて……。いったいなにが狙いなのかしらね、【あなたたち】は」
ははーん、なにか誤解されているな?
スターの顔を見る父の表情は想像でしかないが、残念なことにあの笑顔が張り付いているだろう。胡散臭いよな、わかるぅ。
好戦的なスターに感応してか、彼女の後ろに備える軍人たちも空気が緊張している。父に負けじと笑顔ではあるが、何人かは目が笑っていない。スターを見習うと良い、まだまだ若いなぁ。
さてはて、彼女が勘違いしていることはなんだろうか。こっちは脱税しか後ろ暗いとことは──あったわ! これだわ!
「ヒューマライズ。聞いたことはあるでしょう?」
たぶん違うわ! あぶねぇ! スターに詰められたら言い逃れできる自信なんてない! 合法だけど!
ヒューマライズって、あれだよな、外国の変な宗教。
彼らが掲げているのは《個性終末論》だ。日本でも、その手のものはたびたび議論に上がるのだが、簡単に説明すると、個性の複雑化が人類を滅ぼすのではないか、という危惧だ。
個性犯罪が年々複雑化しているのは、ヒーロー基礎学を学ばなくても常識になりつつある。
では、なぜ複雑化するのか。
簡単だ、個性が複雑になっているからである。
個性は《世代》で分けられている。個性性能を示したポジショニングマップという区分もあるのだが、世代のほうは純粋に祖父が第一世代、父が第二世代、オレが第三世代といった具合に、単純に個性の発現から分けているものだ。実際オレは第五世代になるのだろうか。個性の発現が早ければ早いほど、《世代》の数は多くなる。
では、なぜ世代で分けるのか。
それが複雑化につながるからである。
身近なところで例を挙げると轟と爆豪だろう。
轟は何度か話題に上ったが、炎と氷との個性の強い面が綺麗に発現している。
一方爆豪は、父が《酸化汗》、母が《グリセリン》という個性らしい。つまり【グリセリン】が【硝酸】と混じり合った状態の可能性がある。もし彼の《爆破》が違う個性名になっていたとすれば《ニトログリセリン》だろうな。実際は、彼の汗はニトログリセリンとは似て非なる構造らしいが。
逆に弟の纏や、耳郎、八百万なんかは親のどっちかの個性が強く発現していて、【個性としての進化】はない。まあオレもそうだったらしいんだけど。
それはさておき、個性は年々、世代を経るに連れて複雑化していっている。
人類の目に見えた進化だ、とても良いことのようにも思えるが、悪い面も強くある。個性犯罪の複雑化など、正直些細なものだ。
デトネラット社がなぜ実績を伸ばし、そしてこれからも伸ばし続けられるのかにも繋がる問題だ。異形個性は、その日着る服、その日食べる物にすら困っているのだ。
早すぎる進化に、社会が、感性が、システムがまったく追いついていない。
いまのままでは、異形個性が【人の形】を食いつくすのではないか。
それこそが《個性終末論》の本質的な部分なのだが……問題はヒューマライズ、この団体個性は病気と断定して、無個性が人類の希望などとほざいているのだ。
しかも、ヒューマライズは日本にも支部を置くほどに世界中に広まっている。
なるほど、そりゃあスターも警戒するか。
「まさか私の息子が無個性だから、無個性集めてヒューマライズに加入したと? 面白い冗談ですね」
「それがヒューマライズはジョークでもなんでもなく、ちゃんとイカれていてね? 彼らは汚い実力行使にも出ている。たとえば──科学者の誘拐、とかね」
スターが笑いながらメリッサさんを見つめた。
もしかしてスターが居合わせたのは偶然じゃなくてマークされていたのか? 軍人のだれかが任務とか言っていたが、それっぽいよなぁ。完全に追い詰められている。
マジかよこの状況……。スターはヒーローだがそれ以前に軍人だ。もし任務でオレたちのことを調べているのだとすれば、適当な言い訳が通用する段階ではない。
時間を確認すると、いまはまだ昼前……。時間稼ぎが必要だな。
携帯端末を操作していると、父がオレを見ることなく、指で近づくようにと指示を出してきた。この状況でなにをさせられるのか。
「チップを」
「──はい」
まさかコインを弾いて遊ぶわけじゃああるまい。
父の代わりにチップを用意して、スターと父の前に積み上げる。さて、父さんはあまり賭け事に金は使わない人だが……。
スターを取り囲む軍人たちがチップを見ながら口笛を鳴らす。何人かは鼻もちならないと父さんを睨みつけているのだが、ちょっと額が多すぎたかな
「すこし、息子たちに勉強をさせても?」
「ええ、トップクラスの教育なら、私たち軍人も参考にできるでしょうからね」
優雅な動作で、ホテルスタッフがルーレットテーブルへ着いた。さきほどの衝撃で不具合がないか、確認するように回転させ始める。
「策束家はギャンブルはしない」
……そうなの? 雄英に入ってからというもの、命がチップだとすら思っていたよ。祖父ともよく賭け事で遊んでいた記憶がある。
「遊びにリターンは求めてはいけない」
父の手からチップの束がテーブルへと放られる。チップは奇跡的なバランスで塔を作ったまま、『赤』の枠にある。
スターは、『黒』に置いた。
いつのまにかウィールの音が変わっていた。ボールが流されていたらしい。
無言のまま赤と黒に区切られた枠へ玉が入る。
「赤……」
メリッサさんが心配そうに声を上げる。メリッサさんから見れば、いまのたった一挙動で百万円以上の損失だ。弟はルーレットには興味ないとばかりに、スターの姿を記憶しようと必死らしい。オレもあとでサインもらおう。もらえるかな、拘束などになったら笑えないよなぁ。
「勝敗がつくような状況にしてはいけない。
「その時点で敗北したと思いなさい。
「勝敗がつくのなら状況を作り上げなさい。
「勝敗が絡むなら本気になりなさい。
「本気のときこそ冷静でありなさい。
「これが最後だ。
「勝って喜んでいる間はお遊びだよ」
父が並べた【最後のチップ】がスターのチップの山へと合流。
すげぇ、この人、七回賭けて全部負けた。逆にどんな確率だよ。
さすがのスターも笑いを堪えることに必死な様相だ。
「お、面白い教育方針だったわね」
「ええ、私も父から教えられました」
父が中座し、負け続けた父を呆然と眺めるオレたちを見る。
最後のチップかと思っていたが、どうやら一枚隠し持っていたらしい。親指ではねられたチップがオレの手に収まった。いや、《複製》かな?
「あとは任せますよ」
はー。
まあ良いけど……。さすがに気が抜けたのか、スターからもさきほどの警戒の色はすくないし。
椅子に座ると、身長が足りずに足が痛くなった。
「ええと、では勝負を引き継ぎますが、チップの差がありすぎますよね。増やしても?」
「好きに持って行って。あなたたちのチップでしょ?」
──失敗。纏の《複製》でチップを増やしてのイージーウィンはできないか。
「父が負けたんです。そちらのチップはどうぞみなさんで。いますぐ換金していただいてもかまいませんよ」
「豪快なボーナスね。それで? ヒューマライズとの関係だけど」
「それは、まあ勝ってから聞いてください」
スターが鼻で笑う。
そしてまた失敗。換金してくれよ、あんなチップの山に勝てるイメージは一切湧かない。
まあ父の教えだ、負けなければいい。
ここでの負けはほとんど父が回避したようなものだ。とんでもない豪運の持ち主だ。……まさかディーラー抱き込んでたりしないよな?
「ヒューマライズとの関係は一切ありませんよ。おそらく私やメリッサさんが無個性であることも、ここにいることも知れないのではないでしょうかね」
「おいおい、私はまだチップを置いていないけど?」
鼻で笑い返す。
この一問で終わってしまうかもしれないのだ、会話は進めておくに限る。
「かまいませんよ。それより、私たちはこれに勝ったらサインが欲しいんですよね」
「あ! ずりぃ!」
「失礼、三人分いただけますか?」
「ふふふ、勝ったらね」
彼女の大きな手から、チップが零れ落ちる。父とは『赤』と『黒』だけの勝負だったのだが、オレが舐められているのか、それとも必勝法を知っているのか、別の場所へとスターはコインを並べていた。
資金が潤沢だと選択肢が多くて良いよなぁ。オレは黒に置くことにしよう。
「その置き方では、最高で十四戦しなければなりませんよ。私はチップが一枚しかありません」
「二枚に増えたじゃないか」
スターが笑う先では、ボールが黒のポケットへと沈んでいた。賭けは継続か……。
そう思っていると、携帯端末が震えた。
「失礼」
チップを受け取りながら、通話を始める。受話器口にいる人物にいくつか笑いながら会話をして、そのまま携帯端末をスターへと渡す。
「【キャシー】? あなたに電話ですよ」
和やかな空気が一転、周囲の軍人からも殺意が籠った視線が向けられる。本名かあだ名かすら知らないが、トップシークレットらしい。頼むからそんな情報を零してくれるな──。
「──お久しぶりです、オールマイト」
まるで恋する乙女のように、自身の触覚をなでつけながら話し始めるスター。
最初からオールマイトが話をつければ早かったのだが、日本との時差は十七時間。向こうは朝四時か五時だ。むしろ良く起きてきてくれた。……それとも、寝ていないのかな。
残った軍人たちにどうしてこのホテルに任務として居合わせたのか聞いたが、残念ながら教えてはもらえなかった。
電話も長くなりそうなので軍人やメリッサさんも交えてルーレットに興じる。
オールマイトの電話一本でこれだ。いまだに彼がこのアメリカで評価されていることに感謝しかない。
AB組の対抗戦のあと、緑谷の個性の代わりにオールマイトとオール・フォー・ワンの話を聞いたが……。
なんでもオールマイトは三十年以上も前にオール・フォー・ワンに敗北し、アメリカへと留学したらしい。その逃亡生活は数年にも及んだが、その力を蓄えるという活動の中でキャシー──スターアンドストライプを助けたという。
その話を聞いていなければオールマイトに連絡するって選択肢はなかったが、転ばぬ先の杖ということかな。
そう思うと、デヴィットも間接的にはスターを助けた人物ということになる。案外、メリッサさんを守ろうとしたのかな?
ご満悦の様子でスターが携帯端末をオレへと返却する。通話は切れていたが、説明不要という意味合いだろうか。
「容疑は晴れた。あんまりおいたしないようにね、坊や」
「もちろんですよ、改めてお礼を。あなたがいなければ死んでいました」
「ふふ、オールマイトにもお礼を言われたわ。私のヒーローを守ってくれてありがとうって」
「おおげさな……」
と言いつつ、頬が熱を持つ。
周囲の軍人たちにからかわれながら、すこしだけ増えたチップをスターへと返却する。
「おいおい、賭けて勝ったんでしょう?」
「私たちは未成年ですからね。ヒーローの卵として犯罪はちょっと……」
メリッサさんが小声で「脱税……」なんてつぶやいていたが、違います、寄付と投資です。
スターは納得したのか、問答が面倒くさくなったのか、雑にチップを持っていく。
「では、私たちも部屋へと戻ります。なにかありましたら、どうかスタッフまで」
「わかったわ。サインがもらいたかったら、明日までに部屋へいらっしゃい」
「勝ちましたかね?」
「ええ、負けたわ」
大量のチップに感謝されながらそそくさとカジノルームから出ようとしたが、その背中にスターから声をかけられる。
「最後に、父親に伝えておきなさい」
「──なんでしょう」
「勝って喜べないやつは、ヒーローには成れないわよ」
わぁお……。
「ナンバーワンのお言葉……しかと承りました」
「心は熱くね!」
「それも父親へ?」
「いいえ、あなたによ」
日本人らしく、深々とお辞儀をしてカジノルームを後にした。
翌日、弟とメリッサさんと、スターからもらったサインを眺めることになる。
残念ながらサイン色紙が手に入らなかったため、それぞれスターのグッズを購入してサインをもらうことになった。
オレはプレミア付きのヒーローカードを持参してスターを驚かせたが、メリッサさんはオールマイトのグッズを用意してきた。おまけにスターですら持っていないグッズらしく、緑谷もかくやというオールマイト談義を二時間近く聞かされるはめになる。
スターのスイートルームで、軍人らとトランプで遊んでしまったくらいだ。
そのときに話を聞いたのだが、彼らはヒューマライズのラスベガス支部を視察に行く予定だったらしい。それがその日に合わせるかのように、無個性の息子を持つ金持ちが登場。おまけにそれが銃撃戦に巻き込まれると……。
疑いたくなるよなぁ。
拳銃もサブマシンガンもホテル側の物で、それをナンパ男のどちらかが個性で強奪したらしいため、銃撃戦には一切の関係はないのだが……。
その影響で視察は今日へ変更。スターとメリッサさんの女子会が終わればすぐに出立しなければならないとのこと。
「ちょうど良かったと言えばちょうど良かったんだ。スターがここに呼ばれたのは代打でな。依頼料の代わりにベガスの高級ホテルに泊まれるって言うから、ついでに連れてきてもらったのさ」
「スターが、代打?」
ありえねぇだろ、むしろどのヒーローがここにいてもスターの代打だろうに。
「嘘を見抜くってんで、セレブリティってヒーローのエージェントが抜擢されててさ」
エージェントってことは一般市民かい。セレブリティって、キャプテン・お騒がせ・セレブリティだよな。彼自身は若いころはかなりヤンチャしていた飛行個性の有名ヒーローだが、嘘を見抜く代理人がいるのか。ずいぶん有能な個性だ、オレがエージェントにしたいくらいだな。
「良いんですか、オレたちにそんなこと話して」
「疑いは晴れたしな。そら、スリーカード」
「負けました。纏は?」
……ダメか。残念ながら、兄弟揃って尻の毛まで抜かれそうだ。ギャンブルするなって、うちの家系が極端に運悪かったりするってこと?
まあなにも賭けてないからな、悔しいだけで済んでいるけど。
さすがに腹が減ったのでメリッサさんを残して食堂へと向かう。ホテルはすでに修復済みなのか、通常営業らしい。さすが犯罪発生率二十五パーセントの大国だ、たくましいなぁ。
ちなみに、ホテルから出てしまえば確実に誘拐される。誘拐ビジネスってやつだな……。昨日の件もあるし、メリッサさんの護衛増やすべきかなー? 過保護かもしれないが、怖いよな。さっさと日本へ呼びたいが、早くても来月だろう。
「ちょっと! 早くー!」
「うん! ごめん女の子が……」
「もー。お人好しは変わらないなー」
……日本語?
食事を待っていると、男女の会話が聞こえてきた。食堂の入り口に、悪目立ちする日本人カップルが見えた。年齢はわからないが、女性のほうはだいぶ若いな、兄と妹か?
女性のほうは大人しそうな服装のわりに、黒い眼帯で左目を隠している奇抜なファッションだった。耳郎と話が合いそうだ。あるいは常闇とかな?
男性のほうは中肉中背、優しい顔をしているとくに特徴のない──訂正、左頬に深い斬り傷跡。
すこしだけ離れた席へと案内されている。男性は流暢な英語で注文し、チップを店員に握らせる。女性は……初めて見たのか感動するように男性を見ていた。距離がある、兄妹ではなさそうだな。
あまり聞き耳を立てるのも失礼だと思うが、弟は携帯端末に夢中である。無言であることもアレなので、誰と連絡取り合っているのか聞いたが「クラスの女子」とだけ返される。
……オレの履歴にはこの一週間ほどなにもなかった。悔しくなんてない。
「コーイチが頼んだのカロリーヤバすぎる! ちょっと!」
「ラスベガス来たら食べてみたかったんだよ。いいじゃん軍で払うって言うし」
「はぁー、そういう問題じゃないんだけどー」
女性の扱いには難ありか。でも、不機嫌そうな口調のわりに女性は笑っている。楽しそうな笑顔だ。いいなぁ、オレもああいう関係で耳郎と食事行きたいぜ……。
あと、不穏な単語も聞こえてきたが、無視だ無視。彼女がセレブリティのエージェントかもしれないけど、踏み入ったが最後、せっかく築いた信用を失いかねない。好奇心は猫をも殺すんだよ。
「ねぇ、師匠の話聞かせてよ」
「まずは私の話から聞いたりしないの!? もう!」
本当に怒りだしてしまった女性の声を聞きながら、オレは巨大なハンバーガーへと食らいついた。
◇ ◇ ◇ ◇
夢の中で脳無にサブマシンガンで全身を撃たれるという悪夢を見ていたが、携帯端末の振動に救われる。
汗だくだ、夢か……。夢だな、生きてる。うん。そもそも脳無ならワンパンよワンパン。
携帯端末の表示は、緑谷からの電話?
「グモーニン」
『え? あの、えっと、策束くんだよね? おはよう? いま大丈夫?』
「ちょっと待って、寝てた。すぐかけ直す」
時差があってさ。いまごろ日本は夜七時くらいか。
顔を洗ってスッキリした気分で緑谷へと通話を返したが、一コールの途中で通話が開始された。なんだこの勢い、緊急事態? それにしては……。
『あの、策束くんにお願いがあって』
「……話してみて」
この口調は中学時代に何度か聞いたことがある「金貸して」のパターンだと思う。壊理ちゃん関連の話なら、こんなに後ろ暗い口調ではない。
『じつは──』
緑谷の話は、そんなに単純な話ではなかった。
エンデヴァー事務所へのインターン五日目、警察から『落書き犯を捕まえてほしい』という依頼があったという。繰り返すが、日本のナンバーワンのエンデヴァー事務所だ。
スターが新興宗教のヤバい団体の調査で、エンデヴァーが落書き犯? ちょっと落差がありすぎる。
エンデヴァーも最初突っぱねたそうだが、その日の夜、つまり昨日なんとその落書き犯がエンデヴァーの自宅に落書きをしていたらしい。
早朝から怒りに燃えたエンデヴァーが確保に向かったが、なんと惨敗したらしい。対抗策として、昼から参戦した発目とパワーローダーとの共同開発した捕獲ロボットで確保に向かったが、そちらも失敗。
三度目の正直と勝負を挑んだが、そのときアサルトライフルを持った強盗のヴィランとバッティング。
最終的には、その落書き犯と共闘して強盗たちを確保したと……。
「……んじゃあ、ネットニュースで日本がやばいことになってる理由も合わせて説明してほしいんだけど……」
エンデヴァーが敗北したなどあってはならないことだと思ってパソコンを弄ったら、なんでも夕方五時くらいから夜の七時くらいまでの二時間、特定の番組をつけていた人間全員が笑い続けるという恐ろしい記事を見つけた。
『それ、ミスタースマイリーの個性で……』
ジェントル・クリミナルの隣に並べておきたい名前だ。
『策束くんにお願いって言うのは、その、ミスタースマイリーの作品なんだけど……ケータイに送ったから、見てもらえる?』
緑谷に送ってもらったURLを開くと、スマイリーギャラリーという個人サイトに子どもの落書きが並んでいた。あ、いや、ミスタースマイリーの作品たちだ。販売もしているが、まあ売れた形跡はないわなぁ。十ドルでも買わない。
緑谷の話とは、どうにか彼の作品が売れないだろうかという提案だった。
なんだよ、そんなことか。
「落書きってことは即興で描けるんだろう? いいね、楽しくなってきた。日本に帰ったら話させてくれ」
先んじて、サイトの絵画は全て購入しておく。値下げのオンパレードで、全部買っても百ドル以下だ。……本当に一枚十ドルしなかったな。
『日本って、策束くんいまどこにいるの?』
「今日には──昨日には帰るから、またあとでなー」
あくびを噛み殺しながら、口説き文句を考える。
『エンデヴァーと戦うことになっても絵を描き続けた男』『エンデヴァーよりも熱いアーティスト』『ニューヨークの個展会場での即興アート』『その男の原風景は子ども心そのもの』……うんうん、悪くない、眠気が襲ってきた。
いやぁ、今回の視察は大当たりだな。
とくにスターとの出会いは、本当に良いものだった。
オレは、すっかり【正気】に戻っている。
怖くて忘れていたことも、全部思い出せた。
「もう大丈夫──」
口の中でその文言を転がすと、楽しくなって笑ってしまう。
帰国したら、【あのヒーロー】の顔写真も探してみようかな。
「もう大丈夫、僕がいる──」
そんな安心感に包まれて、ボクは眠りについた。