【完結】無個性ヒーロー   作:南畑うり

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体育祭は前・後・蛇足の3回に分かれます。



体育祭・前編

雄英体育祭。

全国放送で特番を組まれ、平均視聴率は二十パーセントを越える、国民的な一大イベントだ。

体育祭とは謳っていても、スポーツというものが昨今さほど流行りではない。

理由は個性そのものにある。

例えば、最強のパワーの個性を持つ格闘技の選手がいたとしよう。個性を制限されたらどうなると思う? 簡単だ、素の力が一番強い者が勝つ。当たり前の話だな。問題はそこからで、異形個性などによって素の力が高い者ならどうなるか。最強の個性を持った選手は抗議するだろうな。「それは個性だろう」と。

だからと言って異形個性はすべてのスポーツへの参加を制限する、なんて個性差別にもつながることは、誰も彼もが口を噤むだろう。

じゃあどうするかと言えば、そもそも個性を禁止して、少しでも個性の影響が見られれば失格、というルールを作った。作ってしまった。

 

四年に一度開催される国際スポーツ大会、オリンピックというものがあった。

国家単位で考えても、オリンピックなどの国際行事で自国の選手が勝てば大盛り上がりだ。国がスポーツで争うことは、もはや小さな戦争である。

戦争に核のような大型殺戮兵器を持ち込めば。

スポーツに強力な個性を持ち込めば。

どうなるかなんてそんなこと、赤子でもわかる答えだろう。

 

おまけに各スポーツ連盟の結びつきは非常に強く縦社会だった。そのため個性を徹底的に排除することを規定してオリンピックに臨み、そして見事目論みに失敗。個性のオンパレードで、非公式の大会新記録が次々と打ち立てられた。

それまで人類が、コンマ数秒を争っていた世界は、見事に崩壊したのだ。

 

それだけなら、まだ良かったのかもしれない。観客は個性を生かしたスポーツも、激しいバトルも楽しめたのだから。

楽しめなかったのは、先ほど挙げた運営側だった。当時は個性を持つものも少なく、百人いて一人いれば多かったほうだろう。それに強力な個性も少なかった。

見た目が人間らしからぬ者もいるので、差別も多かったと聞く。

いや、そもそも『個性』がその人の持つ当たり前の変化だとすら認められていなかっただろうな。最初は精々『奇形』だったろう。良くて新人類とか、ネクストなんて呼ばれていたかもしれない。

 

だから、排除することにしたのだ。

個性は悪だと。個性でスポーツをすることを許してはならない、と。

 

この時代、個性を持たない人間のほうが珍しい。だからこそ反動を受けたのか、いまでは個性を使わずにスポーツを行うことを、誰も良しとしていないのだ。

だって、言ってしまえば手抜きじゃあないか。

自分の持ち味を生かせず、誰かの顔色を窺ってボールを投げたり、走ったり。

 

結果、人類が個人の個性を受け入れるたび、個性を否定したスポーツ界隈は急速に衰えることになった。

一応ルールもスポーツ人口も残ってはいるが、高校野球がテレビ中継されていた時代があったって言われても、それを信じる人はいないだろう。

いまじゃ無個性ってのは旧人類なのだ。

 

話を戻すが、ヒーロー科のある高校の体育祭は個性の使用に制限はない。それに雄英高校はその輩出するヒーローの知名度が極端に高く、そのヒーローたちが関連する番組視聴率も極めて高い。

さすがに他校の体育祭で視聴率二十台を叩きだすことは珍しくなるだろうが、雄英高校体育祭はぶっちぎりだ。

言ってみれば青田買いだろうな。将来有望の有精卵たちを見つけて楽しむのだ。金も利権も娯楽も絡んでくる。

 

そんな、出場することすら名誉な体育祭で、なんでオレが一年の生徒代表として読み上げなければならないのだろう。

 

 

A組の控室で短めの原稿を頭に叩き込んでいると、轟が緑谷に向けて宣戦布告を行った。

まあ確かに緑谷ってオールマイトに気に入られているよな。全面に押し出されて依怙贔屓されているわけじゃないが、気づけば二人で内緒話しているイメージではある。同じパワー系個性で、師弟関係があるのかもしれない。

それにしても、爆豪じゃなく緑谷か。なんでだろう。殺気立っているし、変な轟だ。いい方向に転がればいいのだけれど。

 

会場はすでに満員らしく、時間よりも少し早めの入場となった。

さすが雄英高校、東京ドームが収まりそうなほど広い会場で、しっかりと満員である。全国からプロヒーローを集めたと聞くが、この観客の中にもプロヒーローは多いのだろう。一年の会場だから少ないかな?

 

プレゼントマイクのマイクパフォーマンスによると、どうやらオレたちはヴィランの襲撃を受けてもすぐさま立ち上がる鋼の魂の持ち主らしい。鼻で笑えるが、その方向性のほうがいいだろうな。スピーチ原稿も相澤先生の確認を取ったところ問題ないらしいので、正解だったのだろう。

 

オレが今から名前を呼ばれる壇上では、十八禁ヒーローミッドナイトが教鞭を振るっていた。教鞭ってかただの鞭だ。あの横に立つの勇気いりませんかねぇ。

 

『選手宣誓! 一年A組! 策束業!』

 

ミッドナイトの指名に、クラスから注目されてしまう。

 

「えぇ!? 策束なの!?」

「ずっと原稿読んでただろ、なんだと思ったんだよ」

「なんか、読んでるなぁって」

 

上鳴と掛け合いしながら壇上へ向かうが、その背中に視線を感じる。普通科からだろうな。

まあ、なんの面白みもないスピーチではあるが、良しとしておくれ。

 

『会場にいる皆様、テレビを通して、ご覧になっている視聴者の方々。この場を借りて、まずは世間を騒がせてしまったことを、生徒として謝罪いたします。本当に申し訳ございませんでした。……ひと月前のヴィランからの襲撃。被害こそ軽微だったとは言え、歴代の英雄方が築き上げてきた雄姿に傷をつけてしまったこと、ヴィランを前に戦うこともできず、先生方に押し付けてしまったこと、そして反対に、先生の指示に従えず、ヴィランに立ち向かおうと傷を負ったこと。それら全てを、今日、返上いたします。雄英高校の一年、全十一クラス。雄英高校歴代最高と呼んでいただけることを望み、体育祭へ挑ませていただきます。選手宣誓、ヒーロー科一年A組、策束業』

 

身振り手振りのオーバーパフォーマンスだったが、反応は良かったな。オレが頭を下げると割れんばかりの歓声と拍手が届く。

 

『いいわね! 最高のプルスウルトラよ!! じゃあさっそく始めましょう!!』

 

せめてオレが生徒の元に戻ってからにしてくれ。

 

見上げると投影掲示板が『選手宣誓』から『第一種目』に変化した。そのまま第一種目が【ランダム】に発表される。ランダムと言っても事前に教師陣では決められていただろうが、オレたち生徒は当日知ることになるのだから、自由ったらないね。

 

発表された第一種目は、障害物競争となった。

まだ、マシか? 下手にバトルロイヤルなんてものだったら真っ先に落ちていた可能性もあるからな。

 

コースはスタジアムの外周約四キロ。全十一クラスだいたい二百二十名の競争だ。何人が合格ラインか教えてくれよ……。

 

「我が校は自由さが売り文句! コースを守れば、【何をしたってかまわないわ】! さあさあ! 位置につきまくりなさい!」

 

ふうん。何したっていいんだー。個性を使えないオレはどうしたらいいんだー。と、圧倒的不利なのだが、作戦は決まった。

誰よりも早くスタートラインの先頭に立ち、列を崩しながらスタートラインに向かう生徒たちを見ながら。

ミッドナイトが指したゲートに向かって【走り出した】。

 

「「「「えええええええ!!」」」」

「アイツやりやがった!!」

 

フライング? 馬鹿なのかねキミたちは。ルール無用と言われたばかりじゃあないか。

 

『やるじゃない! さあさあスタートよスタート!』

 

やはりA組は少しだけ復帰が早い。B組が出遅れたのは意外だな。クラスは不明だがミッドナイトを見上げて指示を待つお利口さんが何人か。頭一つ分A組が突出する形だろう。悪いな普通科諸々諸君、オレはキミたちとタイマンしても負ける自信があるのだよ。

 

『さぁて実況していくぜェ!! 解説もアーユーレディ!?』

『帰っていいなら帰るぞ』

『さっそくだが、あの選手宣誓マンやりやがったな!! まさにプルスウルトラだ! 押し合い圧し合い狭いゲートを単騎で抜けやがったァ!』

『それに釣られて、咄嗟に動けたやつもゲートでの詰まりはなし。他の組にはいきなりの洗礼だろうな』

 

などと勝手に解説されているが、まずは目の前のロボットを説明していただきたい。

小型ながら、明らかに人外の大きさをした、入試の仮想ヴィランがそこにいた。しかも懐かしのゼロポイントバージョン。

どうやらここはそういうエリアか。くそ、明らかにまずい。背後にいる爆豪や轟に任せきってもいいんだけど、すぐ後ろ歩いてたらさすがに攻撃されるよな。

 

一度来た道を引きかえし、盾になりそうなやつを探す。が、轟がすでに戦闘準備を完了していたので、慌てて空中へ避難する。ただのジャンプなのでタイミングがシビアすぎる。

 

「いまの避けたのか、逃げ足だけは認めてやるよ」

「ありがとよ!」

 

氷で足を滑らせながら、轟の背後をくっ付いていく。攻撃はされないようだな。無個性だから敵とは認めていないのか、どうかな。

 

「緑谷に喧嘩売ってたし、どうしたんだ。親父がどうとか聞こえたけど」

「……地獄耳かよ」

「まさか。いつもお前がボソボソ喋るから慣れただけだ」

 

さて、第二関門、になるのかな。

まるでどこぞかの修行場のようだ、いつの間にか大量の崖が作られ、その崖と崖とがロープで繋がれている。

 

轟はロープを凍らせて、上手いこと氷で身体も固定しながらスイスイ進んで行く。オレもやるのかぁ、これぇ……。

……と思ったが、ロープより安全なところがあるじゃないか。コースの端まで走って、淵をそのまま歩く。木が多く見辛いが、ここもコースの一つだろう。さすがにロープ使っていくのは時間が掛かりすぎるし、わりと怖い。……オレって高いところ苦手だったっけ?

 

下を見ないように進んで、本来のコースへ戻ると、すでに爆豪と轟はフロントラインで足の引っ張り合いをしているらしい。だいぶ他の生徒にも抜かされたな。

第三関門、地雷原。

こんな地面の上でよくやるよ。

 

慎重に進んでいると、少し前で緑谷が農作業をしていた。収穫物は……地雷ですか。そうですか。

慌てて速度を上げると、目の前に耳郎がイヤホンジャックを地面に刺しながら進んでいるのが見える。

 

「耳郎! それやめて走れ!!」

「カルマ? あんたいつの間に後ろに──」

 

遅かったか。

背後からの閃光と爆音でオレですら耳を塞ぎたくなるのに、耳郎が耐えられるのか否か。

……まあダメだよな。

悲鳴も上げず地雷原に倒れこみそうになる耳郎を横抱きに担ぎ上げ、空を舞う緑谷を見送った。うむ、着地どうするのかわからないが、頑張れよ。

 

しばらく歩くと、轟が氷の道を作ってくれていたので、ありがたく使わせていただく。最初から作っておけよな、もう。

少し前を八百万と峰田が言い争いをしながら歩いているのが見えた。まあ峰田は八百万の腰にべったりとくっ付いて幸せそうな表情を浮かべているが。

 

「峰田、百お嬢さんから離れてください」

「策束じゃん! お前も幸せそうじゃんかぁー!」

「ち、ちょっとやだ、業さん見ないでくださいませ!」

 

峰田はお姫様抱っこされている耳郎のことを言っているのか、残念ながら明日は筋肉痛である。それよりも、だ。

 

「峰田、今日は百お嬢さんのご両親が見に来ている。すぐに離れないと、殺されたってオレは庇わないぞ」

 

耳元で囁いた途端、するっと峰田が八百万から離れた。

 

「は、運んでくれてありがとうございます!」

「え、いえ?」

 

首を傾げながら、八百万が「急ぎますので」と言いながら走っていった。順位が少しでも上がればいいんだけど。

 

「策束ー。八百万の父ちゃん母ちゃんが来てるってマジなのかよー」

「さあ、どうだろう。お忙しい方だからな」

 

そういうと、峰田がじーっとオレを睨みだした。

 

「いや、あのままだったらほんとに殺されたっておかしくないから。そういうことするから」

「ヤクザかよ。そうじゃなくてさ、策束って八百万のこと狙ってるの?」

「お前、こんな状況でよくそんな話できるな」

「結構上位だから余裕だろー」

 

まあそれはオレも思っている。比較して上位なのだ。合格ラインが十パーセントだとしても合格できるラインにいる。おそらくは合格ラインは四十位くらいだろうけどな。ひねりもなくヒーロー科の人数を考えているが、どうなんだろう。

 

「んで、どうなんだよ」

「あー、まあ、狙っているのはオレの両親かな」

「はぁ!? なにそれどういう意味だよ」

「だいたいそのままの意味だよ。ほら、ゴール」

「あとでしっかり聞かせてもらうかんなー!」

 

峰田、耳郎を前にゴールさせ、三人の中ではオレが三番目にゴールしたが、結果二十三位。合格ラインが十パーセントだったら不合格だったなと苦笑いだ。八百万はあそこから個性での巻き返しを図って十三位。麗日と十二位を争ったそうで、ゴールすると峰田を引きはがしたことでお礼を言われた。

ついでに耳郎も起きて状況を把握。物凄い申し訳なさそうな顔をしていたが、気を取り直して頑張ろうと言っておく。

ちなみに合格は二十パーセントに近い四十二人。二クラス分プラス、というとこだろう。A組B組のヒーロー科はどちらも全員が合格。サポート科と普通科からは一人ずつ。すでにずいぶん偏った合格ラインだが、個性の扱いはやはりヒーロー科が何歩か先を進んでいる。

 

気になる第一位は、なんと緑谷出久。空を飛んでいったあとどんなパワープレイを見せてくれたのかと話を聞いたが、なんでもただの技術と執念の勝利だった。骨折もなしで、お見事すぎて拍手しかない。二位は轟、三位は爆豪と続いたが、上位三人に差はほとんどないらしい。四位以降はB組の名前も多く上がり、全体的には入り乱れているイメージだ。ギリギリで合格した四十二位の青山は、ネビルレーザーの使い過ぎでお腹を押さえてプルプルしている。本当にギリギリだったな。

 

さて、第二種目は『騎馬戦』。二から四名でチームを組んで挑むらしい。しかも第一種目のゴール順にポイントが個々に振られており、四十二位が五ポイント。二十三位のオレが百ポイントだ。

組んだときのポイントで騎手のポイントが確定するらしい。上位に行きたいのなら二人で組む利点がないな。四人で、できるだけ上位のメンバーと組みたいが。

と勘定していると一位の緑谷だけ一千万ポイント。一位なのに全員から狙われるジョーカー扱いだ。南無。

さて、問題は誰と組めるか、だな。

A組と組むのは難しい。オレが無個性だと割れているからな。となるとB組に個性偽って組ませてもらうか。ただB組にも友だちは何人かいるし、オレが無個性だということも伝わっているはずだ。どうしようかなと考えているとA組に宣戦布告しにきた普通科がいた。

 

「なあ、キミ。ちょっといいかな」

 

彼の背後には、尾白とB組の庄田二連撃がいる。順位を見ればこの三人だけで二百九十ポイント。オレが加われば四百ポイント近いチームが組めるわけだ。

……悪くないな。いや、むしろ理想値だ。

 

「よし決めた。キミと組むよ。名前は心操人使だよな。予選突破おめでとう。オレは策束業」

 

警戒心を露わにする心操に馴れ馴れしく肩を組み、耳を食むように口を近づける。

やっぱりコイツデカいな。あと一年もすれば障子といい勝負できるタッパになるだろう。

 

「洗脳の個性だよな、素晴らしい個性だ。条件を教えてくれればもっとキミの役に立てる。どうかな?」

 

もっともいまは観衆が多い。耳郎や八百万などもオレのほうを警戒するようにちらちらと見ている。彼を移動させながら、端のほうへと追いやる。後ろの二人は素直についてきた。

 

「まず二人は個性を使えるのかな?」

「…………」

「じゃあ欲しい情報を一つずつ交換ってのはどうだ?」

 

そういうと、心操の眉がかすかに動く。

 

「A組の個性を教えてくれ」

「一人に付き一つだ。というか敵情視察してそんなこともわからなかったのか? 競争でも見ていたろ。わからないやつに絞れよ」

「……危険なやつ」

 

とりあえず第一関門クリアだ。個性の発動条件は教えてもらえなかったが、現状は洗脳状態にはない。事前接触かな? なんにせよ、こんな個性のやつ普通科に入れて通常通りに卒業させてくれるなよ、雄英。ヴィランになったら街に死体が溢れかえるぞ。

 

「情報の手付金だ。タダでいい。まずは爆豪勝己。個性は両手からニトロのような液体を出して任意で爆発させられる。個性自体は単純だけど積極好戦の阿呆でね。目をつけられないほうがいい。次に轟焦凍。半分だけ教えると、氷を出す。この会場をすべて凍らせる範囲を連発して出せるぞ」

「半分だけってなんだ」

「A組も正確には教えてもらってないんだよ。少なくともオレはまた聴きだし。あ、氷を溶かしているのは見た」

「……」

「まあなんにせよ、普通にやれば洗脳する前に凍らされるのは間違いない。どうせ一位狙いだ、この二人には適当にやらせておけ。警戒すべきは八百万百と飯田天哉。《創造》と《エンジン》。サポート、機動力、直接戦闘、すべて高い水準でこなせるな。ここからは有料。誰がいい?」

「……お前からだ」

 

損な奴だな。

不憫にすら思える。

 

「オレに個性はない。無個性だ」

 

心操が怒るような表情を見せる。馬鹿にされたと思ったのだろう。気持ちはわかる。オレだって入試直後には根津校長や色んなヒーローから「えぇー! 本気にしちゃったのー!?」なんて言われる夢を見ていたくらいだと、昨日思い出した。

 

「信じなくてもいいが、そもそも敵だと思ってるオレに情報を聞く時点で自分の立場を察せ。ヴィラン相手に同じ対応を一々取るのか?」

「じゃあお前の価値なんてないじゃないか」

「なら洗脳してくれよ」

 

両手を広げ、笑みを浮かべる。正直オレがこの騎馬戦で出来ることなど彼よりもない。足腰の強さを活かして騎馬をやるしかできない。

 

「なにもしないならオレから聞くぞ。この二人は個性を使えるのか?」

 

しばらく目を瞑って考え込んでいた心操だが、ゆっくりと顔をオレに向け「使えない」と言った。

 

「そうか、時間がない。そっちの質問は?」

「作戦はあるのか?」

「ある。戦闘を避けて逃げ切りしかない。そのために尾白が必要だ。洗脳をすぐ解いて戦線復帰はできるか?」

「……できる。洗脳を解いてもコイツが離れないって確証はあるのか?」

「あるに決まってるだろ。ほかのA組はほとんどが予約済だ。無理やり尾白が入れば誰かがあぶれる。さすがに尾白は選択しないよ。洗脳ではどこまで可能だ?」

「簡単な指示を出せるし、そもそも半オート状態で操っている」

「え、なら尾白はそのまま使えるの?」

「俺の質問がまだだ。先に答えておくと直接戦闘は避けたほうがいい。お前がオレに協力するメリットは? どうやってヒーロー科に入った?」

「オレも知りたいくらいだよ。一応指示出しが上手く行ったのと、試験終了後もヒーローとして恥ずかしくない行動をしていたからだって言われたな。メリットは、お前となら勝てると踏んだからだ。聞きたいことはあるが、時間がない、尾白を起こしてくれ」

 

洗脳の発動条件も知りたかったが、さきにこの状況を説明しなきゃならない。

心操が洗脳を解いたようで、尾白はしばらくボーッとしていたが、状況把握が追いつくにつれて心操を睨むように見る。

 

「こいつは起こさなくてもいいのか?」

 

どこ吹く風でやり流す心操はB組の庄田を指さした。四角い目のぽっちゃりくん。戦闘個性には見えないが、見た目と個性は必ずしも合致するものではない。

 

「個性を知らないし、それにアレを見てみろよ」

 

B組にいる三人組を指さした。彼らはこちらの庄田を見ながらひそひそと話している。

 

「B組の作戦は四人組を三つ、二人組を二つ使って、この二人組が完全にサポートする形での出場だ。A組は己が一番になることを信じてスタンドプレーに走る中、完全に上位をB組で固めるために動いている。その中で四人組になるはずの一人が庄田だ。ここで洗脳解いたらすぐに抜けられるか、足を引っ張られる」

「そうか……。そうだな」

 

心操は納得したが、尾白はいまだ不満があるようだ。

 

「洗脳する個性か。なんでそんな奴に協力するんだよ、策束」

「なんで? 勝ちたいからに決まってるだろ」

 

洗脳されて、しかも解いてもらったのにその言い草か。怒っているのはわかるが、口には気を付けて──

 

「まるでヴィランだな」

 

その言葉に心操は視線を逸らし、オレは反射的に尾白を殴りつけていた。

周囲が何事だと慌てるし、尾白もなぜオレが殴ったのか理解していないような表情だ。

 

「尾白、殴って悪かったな。お前は頭冷やしたら心操に謝っておけ。心操、悪かった。尾白も普段は気のいいヤツだ。だけど洗脳されていい気分になるヤツなんていないだろ」

「……慣れてるから、大丈夫だ」

「慣れる必要がどこにある。ヒーローに成るんだろ」

『ちょっとそこー! ヒートアップするのはいいけど暴力は絶対にダメよ!! 殴られたいなら私に言ってちょうだい!! 踏んであげるわ!!』

 

観衆が大いに湧く。

ミッドナイト先生に気を遣わせてしまった……。水でもぶっ掛けられたみたいに冷静になっていく。フォローありがとうございます。

尾白もこれで冷静になってくれれば良いのだけれど。

 

チーム分けのタイムアップとなり、競技が開始される。

司会進行役のミッドナイトが主審となり、プレゼントマイクの実況が始まった。相澤先生もいるのだけれど、声が小さすぎて何言ってるか聞こえない。

 

さて、A組の轟チームはあまりにもガチすぎる。

轟、八百万、飯田、上鳴だ。もう八百万一人でいいじゃないか。きつい四人だ、あのチームには近づかないでおこう。

緑谷は麗日と常闇に加え、サポート科から一人の女子生徒をいれたのか。身体能力は期待できなさそうだが、緑谷も合わせてサポート科と麗日がつけている足の装備は見るからに機動力に長けており、一千万ポイントチームがつけていると厄介極まりない。

唯一の良心が爆豪チームなのは笑えるな。爆豪、切島、芦戸、瀬呂。機動力を生かすのならば瀬呂が騎手だが、爆豪は許さなかったのかな。あまりにも情けない。

あとは、蛙吹、峰田、障子が三人のチーム。耳郎、葉隠、口田、青山が四人のチーム。油断はできないが、前の三チームよりは対処がしやすいな。

 

「それで、ここからどうする? リーダー?」

 

オレに言われ、騎手の心操が驚いた表情を見せる。

 

「お前に作戦があるんだろ」

「言ったろ、逃げ回る。ヘイトを稼がず、自分たちのハチマキは絶対死守。それができれば入賞も夢じゃない。念のため二、三枚は欲しいけどな。尾白、行けるか?」

 

さきほど殴られたばかりの尾白は、少し赤い頬を尻尾で擦りながら笑う。

 

「正面からの打ち合いなら切島にも勝ってみせるよ」

 

後ろ左右で尾白と庄田に分かれているので、正面切って戦うのはオレ。百回やって百回負けるので正面からは打ち合わないでほしい。

 

「心操くん。さっきは、本当にごめん」

「……や、俺も、悪いとは思ってるんだ」

「キミがやったことと、俺が言ったことはあまりにも違いすぎる。キミは勝つためで、俺は腹いせのように酷いことを言ったんだ。策束も、ありがとうな」

「良いってことよ。成れるかどうかは置いておいて、ヒーロー目指す仲間だろ」

 

どうやら心操と尾白もスタート前に仲直りできたようで、心理的な心配はなくなった。

あとはこの四百点ハチマキを守り切って勝てるかどうかだが、そこは爆豪と轟とでやり合ってもらうほかない。頼むぞ、俺たち以外のハチマキ全部取ってきてくれよな!!

 

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