「はぁ!?」
素っ頓狂な声を上げてしまい、学友たちからの視線を集めてしまった。相澤先生から常に冷静であれと教わっているが……。
さすがに緑谷が警察大勢殺して指名手配なんて話を聞いて落ち着いてなんていられるか。
「ち、ちょっと待て……え? なに? エンデヴァーは?」
途端に思考が混乱してしまった。いくらなんでも心臓に悪すぎるだろ。悪知恵貸せってレベルの話じゃあねぇだろ……。
事が事なので食堂から離れて通話を続けていると、携帯端末に爆豪から海外ニュースのURLが送られてきた。
はえー、殺人鬼イズク・ミドリヤだぁー。
しかも民間レベルの誤報ではなく、警察からの公式情報だ。いったいどんな状況を見られたら犯人だって誤解されるんだ?
というか、あれ? 犯人と十二人殺害しか出てない。それは一つの記事だけではなく、すべての記事で状況説明が書かれていない。まさか、オセオン全国での指名手配だぞ。殺害現場を目視か防犯カメラなどで視認されていなければ、そんな曖昧な情報で──……いや、これ、十分前の記事だ。はぁ? テレビの報道とネット記事が同じタイミングで? 証拠映像もなく日本のヒーローが指名手配?
「……うーん、直感で話すけど良いか?」
『もったいぶんじゃねぇ! さっさと話しやがれクソワイリー!』
「警察の秘密裡の作戦じゃあないんだったら、ヒューマライズはオセオンが当たりかもね。本部もあるんだろ?」
『ああ、でもフレクト・ターンは不在だったぞ。だぶんここにはいねぇ』
それはオレが聞いても良いのか? まあ緑谷の緊急事態だ、多少の違反行為は踏み倒す。ヒューマライズの話題を持ち出したのはオレだしな。
ラブラバへこれらの記事を送り付けると、いまは喫茶店の締め作業中だと返信が送られてきた。雇い主なんですけど……。
轟から一連の流れを聞かされたが、緑谷とはヴィランを追いかけるため三十分ほど前に分かれたらしい。
つまり、緑谷が三十分前に離別してすぐに警察十二人殺して、それは証拠こそないけどだれかが見たから絶対に緑谷。だからオセオン全国に指名手配──? 馬鹿らしいにもほどがある。
「とりあえず記事は捏造だね。いまからIPアドレス追ってもらうけど、そもそも緑谷と分かれてから三十分で書ける記事の情報量じゃあない。緊急指名手配もそう。警官十二名殺害? 普通隠したいだろそんなの。緑谷を犯人にしてヒーローから隔離したい。……警官か、裁判官か、はたまた両方かな。裏になにかいるぜ」
『それでヒューマライズか』
「時期が時期だし、安直だけどそう思う。まったくべつの罠に引っかかった可能性も──」
『ねぇよ!! ヒューマライズに決まってんだろうが!』
『……俺もそう思う』
「だな。まあ日本からじゃあなんもできない。【準備】はしておくけど。アタッシュケースの中身は? 宝石はどこ行ったの? あと死体の損傷をエンデヴァーに見てもらってくれ。それだけで緑谷が殺してないって証拠になるだろ。つーか素直に出頭させろよ、お前らで護衛してさ。裁判官が抱き込まれてなければなんとかなるだろ。たぶんな」
まあ、オレが貸せる悪知恵などこんなもんだ。
「とりあえずこっちにいる寮のメンバーには話しておくけど良いか?」
『ああ、問題ねぇ。わりぃな……』
「こっちこそ、指を咥えて見てるだけだ。メールで構わないから、逐次連絡くれ。こっちもなにかわかったら連絡する」
『おう』
通話を終わらせると、寮の談話室に戻る。
A組の寮では、ヒューマライズの一件で中断しているインターン組がたむろしている。代表して、飯田が話しかけてきた。
「いったいどうしたんだ? ずいぶんと慌てていたみたいだが」
「あー、芦戸たちさ、ヨロイムシャからなにか連絡来てる?」
日本にもヒューマライズの支部はあり、ヨロイムシャはそちらの応援に向かっている。ギャングオルカもその一人で、彼はインターン生を連れて行ったようだが、ヨロイムシャは芦戸、青山、葉隠の三名に暇を出していた。ウォッシュのインターン生である口田も同じように。
珍しいことで言えば、物間をはじめ、何人かのB組メンバーもここにいる。インターン生をテロという大事件に向かわせるのは、実習先の事務所の判断だから、暇になってしまったのだろう。飯は大勢で食ったほうが美味しいし。
そんなB組のメンバーも、緑谷の状況は知らないようで、オレからその話を聞くとひどく驚かれた。
「あっはっはー! さすがA組の問題児! やることが国際的で実にいい迷惑だよぉ!!」
拳藤がいないため物間はやりたい放題だ。芦戸なら彼女の代わりを務められそうだが、いまは緑谷の心配を優先しているのか、ヨロイムシャへと電話をかけている。
「緑谷の記事がオセオンで出回ってる。んで、怪しい部分も次々見つかるんで、ヒューマライズの可能性をオレは追ってる。確証が掴め次第、対ヒューマライズ統括本部に送るつもりだ。オールマイトもいるはずだから問題ないだろ」
「確認した。マニュアルさんもHNで出回っていると」
さて、物間ですら【信じていない】イタズラ情報に踊らされるヒーローは何人いるのかな? 警察の公式発表だと言ったときすら、物間は笑いを堪えるのに必死の様子であった。一応本当に警察十二人が死傷したのかもしれないのだ、あまりからかうことばかりに集中するべきではないと思うのだが。
「ヒューマライズの本部って、オセオンなんだよね……」
「ああ、だけどフレクト・ターンはいなかった。エンデヴァー事務所がメインだから、取りこぼすってことは考えにくい」
口田の心配に答えながら、そういえば保須では飛行個性ヴィランを取り逃していたなぁと不安が増していく。実は一般団員に混じっていたフレクト・ターンを逃していたなんて、あり得ないよな……?
まあここからこれ以上話せることなどはない。
一度外出することを伝えて、自室へと戻った。私服に着替えていると、追ってきた口田がこちらを見ている。
「えっと、どこに?」
「緑谷ん家。さすがに事情も知らんまま家宅捜索とか嫌だろ? B組も飯終わったら寮に戻っとけ、たぶん警察来て緑谷の部屋漁るだろ」
「ふん」
口田の背後にいた物間に言うと、彼は鼻を鳴らすだけで終わった。ああ、本当、素直じゃあないよなぁ。
寮から出て車用門に向かう最中、相澤先生とも連絡を取り合う。外出については文句一つなかったな。子どもの行動だ、止められることも覚悟していたが、多少は信頼してもらっているということか。
さて、緑谷の母親に一連の流れを話すと、大層慄いてしまっていた。
二週間前にはお正月で一時帰宅していた緑谷が自宅でくつろいでいたのかと思うと、母親の気持ちもよくわかる。
「緑谷が人殺しなんて、あり得ませんからね。警察が来た場合は素直に応じてください。万が一警察の横柄な態度があった場合には連絡ください。こちらで法的措置を行います。それと近隣住民にもお気を付けください」
「ええ、あの、ありがとうございます。えっと、出久の部屋見て行かれますか?」
母親には大変恐縮されてしまっていた。それに後ろ暗いところもなさそうなので、この調子なら警察が来ても問題はないだろう。
というか、前も話したことあるのだが、オレだと認識されていないなこれ。まあ身長もだいぶ縮んだしな。
これでも四センチ伸びて耳郎追い越したんだぜ? 当時はあんまり気にしたことなかったけど、成長期の男子って本当すぐ大きくなるな。そろそろ制服を新調しないと袖が足りなくなる。
壊理ちゃんも健やかに育っているという話だし、今度服でも買いに行こうかな。鎧強請られたら常闇に文句でも言っておこうか。
それはともかく、緑谷家を後にして一軒の喫茶店へやってきた。
所有の貸店舗であり、ジェントルの店だ。緑谷の母親には悪いが、本命はこちらだ。ヴィラン四人の実戦投入と行こうか。
アパートメントの裏口で竹下さんが出迎えの準備してくれていた。とっくに閉店していたが、中に入ると薄暗い店内には元ヤクザの三人と、紅茶を淹れるジェントルの姿がある。ラブラバは、紙コップの補充でカウンター裏に隠れていたか。
「失礼」
テーブルについて淹れたての紅茶を一口飲む。ああ、これは、気分が上がるな。ジェントルが仕事前に気分で紅茶を飲むらしいが、オレも真似したいくらいだ。
「さぁて、初仕事です。ご用意は?」
「問題なーし」
「金さえもらえりゃ大抵はやるさ」
「腹減った……」
ヤクザたちは金額で納得してもらっている。死穢八斎會より金払いは良いご主人だ、せいぜい忠義を尽くしたまえよ。
ジェントル、ラブラバ、竹下さんにも同様の金額を提示しているので、結構出費がデカい。フルフェイスゴーグル五個分だ。まあテロをするような輩を相手にする可能性もあるし、出し渋らないさ。
「仕事が上手く行けば成功報酬もありますね。特別ボーナスということで。そちらは私の裁量で渡しますが」
「そっちの気分かよ、ケチんじゃねーぞ社長」
窃野の物言いにくつくつと笑い、紅茶を飲み干した。
成功報酬などと言っても、ヤクザと義賊とカメラ少女ではやれることなどたかが知れている。本命は竹下さんだ。
ちなみに依頼内容は緑谷の救援。
警察に追われている緑谷だが、あいつが警察を撃退できるわけがない。逃げに徹すればわけもないだろうが、オセオンの警察が個性を使用する組織なのかどうかオレは知らん。もし未知の個性で追い詰められた場合、緑谷は抵抗しないだろう。
警察十二名分の恨みを、もし緑谷にぶつけるとすれば、捕縛時の戦闘で殺される可能性もあるし、まともに捕縛された後だって気を休める暇はない。それらの危機を回避したとしても、裁判は長期化するだろう。
「ということで、俺たちの仕事は緑谷出久くんをエンデヴァーに届けること。あるいは潔白を証明すること。できる限り個性の使用は控えるように」
「そのターゲットを日本に戻すわけにはいかんのか?」
宝生の疑問もわからなくはないが、オセオンで指名手配されている日本人を日本の空港が通すわけがない。それではオセオンではなく、日本で裁判を受けるだけだ。無罪の確率はぐっと上がるが、長期化は避けられない。
「ヨーロッパなら、八斎會が持ってたルート使えば一人くらい密入国させられると思うぜ?」
「やめてください」
緑谷が完全に【黒】になるだろそんなことしたらよ。
「正直実験的な投入なので、そこまでの要求はしません。無理なら無理で問題はありませんし投入が失敗だとしても、責めたり給料減らしたりはしませんよ。死人に無駄金は払いたくないので、帰国を優先していただいて構いません。──ただ」
ちらりと竹下さんを見ると、うなずいた彼がテーブルにファイルを置いた。
ジェントルが受け取ったファイルを見て「ふむ」と一つうなずく。
ヒューマライズの国際テロ。
その切っ掛けは、年明けすぐに起きたカフリン国で山火事だ。マフィアが抱えるイディオトリガーの原材料の密造所で起きた火災事件。
その事件の犯人はトップランカーのリューキュウと海難ヒーローセルキーが捕縛し、大量の薬物を押収。
そして、その放火犯の目的地はオセオン国。ヒューマライズの本部がある国だ。
おまけに襲撃されたマフィアたちの密造所はそこだけではなく、イディオトリガーの原材料がいくつも盗まれているという報告が、テロの事後に集まってしまう。
つまるところ、ヒューマライズが薬物をマフィアから強奪したことが証明されたことになる。
「まったく、坊やの人使いの荒さは予想外だったわ」
「助かりましたよ。追加の報酬をお望みなら、もっと良い立地店舗はいかがです? 開店二か月目で売り上げがさらに伸びたそうですけど」
ジェントルは首を横に振った。
オレに文句を飛ばすラブラバを抱き上げる。
「この店は私たちの愛の証明──いや、愛の巣と言ったところか」
「ジェントルー!!」
「あ、はい。えっと、まあターゲットは警察だけではなく、ヒューマライズに追われている可能性が非常に高い、ということです。それどころか、私たちは警察とテロ組織の関係も疑っています。緑谷が殺されるくらいなら、多少の荒事は許容します」
テロ組織という単語を出しても彼らから反対意見はなかった。さすがだな、雇った甲斐がある。
「出立は本日二十三時。到着は昼になります。オセオン時間だと早朝ですね」
「ま、待ってくれ!」
ジェントル? いや、ラブラバからもか。
まあヤクザと違って彼らは小悪党。所詮は──
「今日は零時からライブ配信の予定なのだ! すまないがもっと遅らせてほしい!」
「……じゃあ、えっと、出立は──」
時間を調べながら予定を変更する。くそ、これ以上遅いとべつの空港じゃねーか。
諸々の準備を挟むと、こちらは早朝の出立ということになってしまった。解散とばかりに気を抜いて部屋に戻っていくヤクザたちを尻目に、ジェントルはもう一度ファイルを手にし、ご自慢のヒゲを撫でつけた。
「ヒューマライズ創立者、フレクト・ターン」
「人類救済のために個性破壊って、そんなんで救われる人いるのかねぇ?」
奇しくも学友だった二人がジェントルと竹下さんが、仲良さそうにファイルの表紙を務めるフレクト・ターンを見ている。
テロが起こってからソイツの経歴を資料で調べたが、大学も出ている有能な学者だった。個性も《反射》と一見優秀そうに見えるのだが、なぜ自身の個性をも病気だと判断したのか……。
案外、天の啓示とか真っ当な宗教屋みたいなことを言い出しそうだけどな。
「無個性ならここにいるんですけどね」
「あ、いや、そんなつもりじゃ!」
慌てる竹下さんに冗談ですよと告げておく。常識人を前に、個性での自虐ネタはあまりウケないと教わった。ミスジョークはどこだ。
「ジェントル?」
ラブラバに心配されるジェントルは、それでもフレクト・ターンと視線を合わせ続けている。
「このヒゲ……とても紳士だ」
なにを言うのかと思ったら……。
頭に響く鈍痛を抱えながら、帰寮するはめになった。
ジェントルたちをオセオンに送り出そうとしたあと、日本人がオセオン空港にて足止めを受けている話を聞き、クレイドに予定を変更。おそらくは緑谷が【日本のヒーロー】という情報を受けての措置だろう。
翌日、轟、爆豪ペアとジェントルたちを合流させる。
これは緑谷が二人に送った暗号を元にしたものだ。ある意味オセオンに入れなかったのは運が良かったな。
オセオン市内からクレイドまでは、直線距離で百キロとない。徒歩だったとしても、緑谷なら半日もあれば辿り着けると踏んだのだが、どうやら同行者がいるらしく、しかたないと空からの捜索へと切り替えた。
ちなみに、緑谷からの追加連絡はない。もとより報連相が得意なやつではなかったが、あきらかにアクシデントだろう。負傷して動けないことも視野に入れる。死亡は──排除した。ギリギリまで捜索させる。
「じゃあ、予定通りヘリをチャーターしてくれ」
『すまねぇな、なにからなにまで』
「良いってことよ」
『それと……こいつらなんなんだ?』
「いやぁ、あはは、うちの、なんだ、あー、あはは」
上手い言い訳考えておくので待っていてください。
「それより緑谷の件だけど、ラブラバから聞いてるか?」
『ああ、まだ日本にニュースが行ってねぇんだろ? ありえるかそんなこと』
「あり得ない。オセオンで情報統制が敷かれているってことだ。たぶんネットにも手が及んでる」
ヒューマライズめ、緑谷の動きを封じたつもりで尻尾を出している。
これからはなりふり構わず実力行使に移るはず──。そんな予想はたった数時間後に当たってしまった。
緑谷が指名手配されて三日目。
日本時間にて17時、その一報はテレビから伝えられた。
「ああ、くそ」
我ながら力ない悪態だと笑ってしまう。
『我々ヒューマライズは決起する。個性という病に侵された者たちから、無個性と呼ばれる純粋なる人類を守るために。
『我々が開発した人類救済装置は世界二十五か国に配置され、すでに動き始めた。
『人類救済までのタイムリミットは、いまから二時間。
『──だが、我々も無慈悲ではない。
『この計画を阻止したいと願うのなら、人類救済装置を設置した地域をお教えしよう。
『我々と異なる考え方をしていようとも、チャンスは平等にあるべきだ』
夕食の準備をしていると、飯田に呼ばれた。
何事かと思ったらこれだよ。ああ、くそ、出遅れる、出遅れた。
テレビの画面に映っていたフレクト・ターンが切り替わり、世界地図になった。小学生でも知っているような有名都市二十五か所にポイントが浮かんでいる。次の瞬間には日本の東京、それも二十三区が収まる巨大な円が描かれた詳細地図に入れ替わった。
これがヒューマライズの謳う人類救済装置とかいうトリガーボムの爆発範囲なのだろう。おまけにトリガーボムはイディオトリガーを気化させたようなガスが発生するため、風向きによっては被害範囲が大きく変動する。
「策束、どう思った」
「ああ、ええっと、お待ちを」
天気予報を確認していると、相澤先生に声をかけられた。
思考を話そうと顔を上げたら、何人かのクラスメイトからは心配そうな視線で見られている。なんだ、クソだなんて汚い言葉は大声で叫んでいないけど……──ああ、無個性に対する心配か。どうせ無個性はヒューマライズに無条件に賛同するとか、無個性を出汁にして盛り上がるヒューマライズに苛立ちを~とか考えているのだろう。
──なんて贅沢な時間の使い方だ。
「我々、というわざわざ母数を大きくした言い方には違和感があります。加えて信者に向けての放送ではないでしょうから、ヒューマライズという看板を囮にして逃げる気かもしれませんね。無慈悲……無慈悲ではない……か。テロのジレンマ? 違うよな……。本命は『チャンスは平等に』か」
「さ、策束くん?」
頓珍漢な発言にだれかが戸惑ったように声をかけてきたが、優先順位はフレクト・ターンだな。
「我々……つまり個性終末論者とは思想は違っても? 違うなら殺すべき敵じゃあないのか? 相手を人間として見ている発言。異なる思想にチャンスって、爆弾しかけて論争を求めてるわけじゃああるまいし、チャンスは平等にあるべきってのは持論だ。メッセージ性は強いのに個性終末論とはなんの関係もない。無個性の信者集めるには良い文言だったかもしれないけど、ここで言うべき言葉じゃあない。……ああ、個性で失敗した経験があるのかな。個性の暴走で意図せぬ殺人なら、チャンスを平等にと言えなくもない」
壊理ちゃんも、赤ん坊のときに《巻き戻し》で父親を消失させたらしい。いまは幸せそうに日々を過ごしている。だからと言って彼女を殺人鬼などと指差して良いのは被害者だけだ。
顔を上げて相澤先生に向き直る。
「緑谷の関係でヒューマライズを調べましたが、個性終末論の【教え】がかなり独特でした。聖書を独学で翻訳したみたいな。だけど実際は、フレクト・ターンが自分の個性を畏れて個性終末論を【生み出した】とすれば、なるほど、合点がいきますね」
フレクト・ターン、意外に底が浅いかもしれない。まあ独裁体制ってわけじゃあないなら首脳陣がいるはずだ。彼一人が薄っぺらい人間だとしても、組織としては侮れない。
「罪悪感を消そうと事を大きくした結果引くに引けなくなった。あるいは自分が与えられなかったチャンスを自分自身に与えようとしている。ただ御旗として持ち上げられているだけのピエロ。四つ目は純粋に宗教的な下地があって、自分が神に、そして無個性を使徒にしようとしている。こう思いました」
最後の案は現実的ではないですけどと付け加え、指を四本立てて相澤先生に向き直る。
大口開けてオレを見るクラスメイトを尻目に、相澤先生が口角を上げながら頭を撫でてきた。
「それでいい」
「それ褒められてます?」
「褒めてはいないが……飯田、葉隠、仲間を信じろ」
そのまま先生は、オレの感想を根津校長とオールマイトに連絡すると言って出て行った。根津校長ならまだしも、オールマイトがいる対ヒューマライズ統括本部にはプロファイリングのスペシャリストたちがいるんだ、的外れだと笑われそうだな。
もし当たっていたとしても、無益な話だ。ヒューマライズが用意した爆弾はあと二時間で爆発するのだから。
あと二時間で、あのテロの光景が東京を含めた二十五か所で起こる。ほとんどが大都市で、おまけに多くのヒーローが集まっているため、被害はそれぞれの箇所でより多くなるはずだ。
「いまの策束くん、なんか緑谷くんっぽかったね!」
「最近独り言増えてさぁ」
「二人とも! 緊急事態だぞ! 集中!」
「あわわわわ! お母さん! やばい! 逃がさなきゃ!」
青山とともに飯田に怒られてしまった。失敬、飯田と葉隠の実家は東京だ。二十三区は爆発範囲にほとんど収まっている。ヒーローを信じて待つオレたちより、不安は大きいはずだ。
葉隠が携帯端末を操作していると、オレのほうにも通話がかかってきた。
こんな状況で発信者は轟だった。出ないわけにはいかない。彼らを向かわせたのは二十五か所に仕掛けられた爆弾の一か所、オセオン国である。
「──もしもし」
『策束くん!』
「……緑谷? 緑谷か!?」
え? なんで? 仕事早っ!
「お前いまなにを──」
『策束くん、お願いがあるんだけど──』
この状況で、オセオンにいる緑谷がオレにお願い?
竹下さんたちを戦闘に使う気だろう。あんまり個性使わせたくないんだけどなぁ。まあ爆発が二時間後だ、多少のデメリットは身を削ろう。
どんなお願いだろうと二つ返事で応えようと考えていると、緑谷のお願いはオレの予想の斜め上をプロペラ音鳴らしながら突き抜けた。
「はぁ!?」