【完結】無個性ヒーロー   作:南畑うり

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劇場版「ワールドヒーローズミッション」顛末・前

 

対ヒューマライズ総括本部の応援は爆弾停止から十分後の到着だった。

大量の輸送ヘリで団員たちの多くをオセアン警察が確保していく中、ジェントルとデクは近隣の病院へと空輸されることになる。ショートたちエンデヴァー事務所と、日本人観光客三人も同様に。

 

同時期に世界中でヒューマライズのテロが失敗したと報道され、それぞれの国でヒーローの活躍を賞賛する声に溢れたわけだが──。

 

話は変わるが、とある動画配信サイトにて、一つの動画がライブ配信されていた。

 

ヘリの中で雑音に負けじと声を張り上げる女性をBGMに、一人の男性を映し続けるコンセプトが不明瞭な動画。

配信開始一時間後には、ヒューマライズの団員の格好をした集団との戦闘が始まった。銃弾も、悲鳴もすべてが生々しく、あまりの暴力的な内容であったが、噂では同時接続人数は一千万人とも二千万人とも言われている。

とくにヒーロー二人がヒューマライズ首魁、フレクト・ターンと対面する瞬間は世界中が注目したと言っても過言ではなかったが──残念ながらそこからはフレクト・ターンとの会話【しか】配信されず、トリガーボムの停止から一時間と経たぬ間にアカウントが削除されたため、フェイク動画ではないかという扱いを受けている。

 

動画を録画していた者もいるにはいるが、立証するほどには叶わず、都市伝説の【歴史】に一つ加わることになった。

 

 

◇ ◇ ◇ ◇

 

 

緑谷とロディがオセオンの病院で治療を受けるにあたって、ロディ・ソウルの弟と妹のロロとララも案内されることになった。

とは言ってもロディは検査入院であり、数日は警察とヒーローから事情聴取されることで解放される手筈となっている。

 

「ヒーロー? 日本のヒーロー!? すげぇー!」

「すげー!」

「抱き着くなよー。まだ傷塞がってねぇんだから」

 

兄弟たちのやりとりを見ながら、緑谷は笑ってしまい痛みに耐える。もっとも今は疲労感が強いだけだろう。

緑谷や爆豪たちはすでにリカバリーガールの《治癒》で治療済みである。トリガーボムの停止に協力してくれたという、日本人観光客のも同様に。

 

「でも、まさか策束くんも来てくれるなんて」

 

窓際でリカバリーガールの治療風景を眺めていると、緑谷に声をかけられた。

入国制限はまだ解除されていなくて、わりと大変だったので労いが嬉しいよ。

 

「リカバリーガールをすぐにでも出立させたかったからな。下手すりゃ二十四時間とか聞かされたら、親父も気前良く貸してくれたよ」

「それに、あの人たちも……。あの、えっと、聞いていいのかな?」

「いいぜぇ? お前の秘密を吐いてくれればな」

 

そう言うと、緑谷は黙ってしまった。すまんな、【あれ】は後ろ暗いんだ。世界の危機とは言え、オレが依頼して窃野たちを送り込んだと知られれば、実は結構な重罪になる。

いやぁ、プレイベートジェット貸してくれなかったらジェントルたちの回収が遅れに遅れるところだった。父に貸しを作るとろくなことにならないのだが、今回ばかりはどうしようもなかったな。

 

オセオン時間で今日の昼には出立だ。リカバリーガールは緑谷やエンデヴァーと帰国するそうなので、オレのオセオン滞在時間は二時間足らずということになる。

時間もないし──さぁて、投資の話でもしようか。

 

「ロディ・ソウルくんだね。今回はお疲れ様」

「なんだよ、このガキもヒーローなのかデク。いけ好かねぇなー」

「そのいけ好かない人間の所有物を壊したんだ、すこしは反省していただきたいね」

 

言うと、ロディは首を傾げた。

まあ、まあ許そう、たとえ元の持ち主にめちゃくちゃボッタクられて新品同様の値段で購入した飛行機を墜落させましたって言われても、まあ世界の危機だ、まあ納得しよう。

だが反省しろ。

 

「オレも乗りたかったんだよなー、セスナ」

「……えっと、もしかして……」

 

デクのベッドに腰かけて、不遜な態度でロディと見つめ合う。慌てる様子の兄を心配してか、弟と妹がこちらを睨みつけている。

良いんだよ、反省してくれれば。

 

真っ青な顔のロディを見て、ようやっと溜飲が下がった。

 

「さて、そっちは良いさ。話を聞いたけど、キミが世界を救ってくれたようなものだしな」

「え、いいの? 本当に? あとから請求すんなよな!」

「いいよ、そのうち緑谷が払ってくれるから」

「え!? あ!? う、うん! が、頑張るよ!!」

 

不安そうにこちらの様子を見守っていた緑谷が、必死にうなずいてきた。冗談だ冗談。

 

「それより、ヘリの運転は?」

「ヘリの? 知識としてはあるけど、たぶん無理かな」

「セスナはできたのに?」

「一番簡単なんだよセスナって。それだけで、たまたま。えっと、セスナの代金なら本当に無理だって──」

「策束、パイロットとして雇いてぇのか?」

 

お、轟が正解してきやがった。いいねぇ、投資の才能がある。

 

「ロロくんとララちゃんだったよね。将来の夢は?」

「ヒーロー!!」

「お兄ちゃんみたいになる!」

 

幼い子どもたちが「ねー」と笑い合っている。この二人の存在は聞いていなかったが、この二人もスラム街で生きているんだろう? 活真くんや真幌ちゃんより小さいじゃあないか……あー、偽善に近い感情になってしまう。

金に感情を持ち込むな。もっと鈍感であれ。

 

「まあ見ての通りさ。今日日キミのように若いうちからパイロットを目指す人はすくなくてね。才能があれば補助できる」

「えっと……それは──」

 

個性を自由に扱えるヒーローというのは、子どもたちにとっての憧れだ。こればかりはスラムや国境も関係ない。もちろん日本ではオールマイトという象徴があったため顕著に見て取れるが、ヒーローは誰が見ても善側なのだ。だから、憧れやすい。

その憧れに稼げるかどうかという判定が加わってくると、途端ヒーローの価値は下がってしまう。日本の平均年収を上げている職業の一つではあるのだが、ヒーローの中でも稼げないやつはすくなくない。

それに気づくのは、大半が十歳から二十歳の間だろう。

 

オレやロディくらいの年齢から「パイロットになるぞー!」と意気込む人間は非常に珍しい。──そういった珍しいものに投資しないというのは、ナンセンスだ。弟たちのことはついでだな。あるいは彼の弱みとして捉えよう。

 

「フライトスクールに通いたいのなら出資したい。その後は我が家で雇うことも約束しよう。もしご家族に教育を受けさせたいのなら手助けできる」

 

対価は、キミの今後の人生だ──とまでは言わないが、ジェントルたちのように多少後ろ暗い仕事を頼むことは許容してもらえると嬉しいね。

 

「い、いいのか?」

「それはこちらの台詞だよ。いや、違うな、お願いしているのさ。もっともこちらからできることなんて、住む場所の提供と学費の負担だけだ。入学試験に落ちるようならそれまでの関係。どうか──」

 

手を握られ、座っていたデクのベッドから引き上げられた。

頬を真っ赤に染めたロディの仕業である。

外れそうな肩の痛みに顔をしかめていることも気にせず、握られた手を上下へ振られた。

 

「こちらこそよろしくお願いしますセレブ!」

「あー……聞かなかったことにするよ」

 

まずはソウル一家の住む場所だな。残念ながらオセオンに伝手はないからと困っていると、轟がこちらのヒーローを紹介してくれる手筈となった。

涙を流しながら嬉しそうに弟と妹を抱きしめるロディを眺めていると、緑谷が心配そうに日本語で話しかけてきた。

 

「あの、飛行機学校って、とっても高かった気がするんだけど、大丈夫なの? 僕もすこしなら──」

「正規ルートでこっちの条件上げ出したら、定年間際で年収億越えのパイロットしかいないんだぜ? 良い買い物したよ」

 

おっと興奮しすぎて口角が上がってしまう。アメリカかカナダのフライトスクールに二年。彼の年齢が二十歳だと仮定しても四十年は使える。偽善は好ましいものではないが数年後には元が取れると思うと、いやぁ良い投資だったなぁ。

 

話を聞いていたリカバリーガールからなぜかお叱りを受けてしまったが、もう帰国となるため隣の病室へと避難を開始。

そこにはすでに用意した私服に着替えたジェントルたちが荷物を持って待機していた。

 

「なんの電話?」

 

オレが来るのを予期して並んでいたと思っていたのだが、なぜか窓際で宝生が電話をしている。それを隠すように配置されていた。

 

「まあまあ社長、それより、良いアイテムがあるんですがねぇ?」

「うん?……まあ金の話は帰りの飛行機で。こっちも予想外の出費があって、活躍に見合った報酬が用意できるか怪しいところなんですよ」

 

窃野に笑いかけながら歩を進めると、つぎはジェントルの番となったようだ。

 

「このオセアンティーは飲んだかね少年! おまけに私自らのブレンドでフルーティーな香りを──」

「帰りの飛行機でいただきますよ」

「これ、うまいぞ」

「なに隠してんだお前ら!」

 

一喝すると宝生までの道が開ける。

無理やり電話を終わらせたのか、営業スマイルの宝生がゴマすりながら寄ってきた。

 

「や、やや社長。こいつはどんな御用で?」

「……帰るんだけど、本当になにしたんだよ。これ以上の問題は勘弁してくれよ。テレビ出演だ配信だとかだったらお前らオセオンに置いていくからな!」

「ぎくっ!!」

 

ラブラバさん? ラブラバさん? あの、ちょっと?

 

「えっと、もうチャンネルはBANされたから」

「それは、笑って良いところなのか……」

 

頼むぜ元ヴィランども……。

とりあえず、禁止薬物のトリガーをオレに売りつけようとした窃野の追加報酬はゼロになった。

 

 

◇ ◇ ◇ ◇

 

 

五日後、寮では青山や飯田たち、居残り組でテレビを眺めていた。

昼食で用意した大量のサンドイッチをテーブルに置いていくが、すぐにみんなの胃袋へと消えて行く。オレの分も残しておいてくれよ。

 

「美味しいー! また太っちゃうー!」

「もう嫁行けるよ策束ー」

 

葉隠や芦戸から褒めちぎられるが、どうか婿に行かせてください。作ったのは手のかからない具材ではあるが、この場ではオレの料理技術が頭一つ抜けて高いからな、妥当な評価である。へへへ。

 

テレビではコメンテーターたちが個性終末論やヒューマライズの話で盛り上がっている。偉い学者先生たちの話を聞けば聞くほど、オレが相澤先生に話したフレクトへの推測が外れていくのでやめてほしい、恥ずかしいわ。

 

「あ、はじまりそうだよ」

「ウィ! 録画開始するよ!」

 

口田の掛け声とともに、青山がポーズを決めながらテレビの録画を開始した。

べつに映画をみんなで揃って見ようというわけではない。

 

「おお! 緑谷くんも映っているぞ!」

 

飯田が嬉しそうに指差す先は、ヒューマライズ掃討作戦──つまり、トリガーボム停止作戦に各国に散っていたヒーローたちの帰国記者会見である。

帰国記者会見と言っても、全員が今日帰って来たわけではないだろう。飛行時間数時間の比較的近い国ならまだしも、エジプトに向かった上鳴たちは丸一日かかるからな、帰国時間は合わないはずだ。

 

だが、ヒューマライズのテロは間違いなく国家単位の非常事態だったはずだ。とくにエンデヴァー事務所は本拠地にまで乗り込んで爆弾を止めた(ということになっている)ため、質問責めが物凄い。エンデヴァーのサイドキック筆頭のバーニンというヒーローが必死に状況を説明しているが、エンデヴァー本人は保須でのエンデヴァーを彷彿とさせる不機嫌な表情だ。ナンバーワンだというのに、いまだ『ヴィランっぽい見た目のヒーロー』は返上できそうにないな。

 

エンデヴァーとオールマイトが並ぶと、テレビの画面からですら眩しく感じるほどのフラッシュが焚かれる。

ヒューマライズの爆弾を止めたエンデヴァーに、記者からはいつになく明るい質問が続けて投げられていく。

そしてそれは【オールマイト】にもだ。

 

この度のテロでは東京でも多くのヒーローが出動し、耳郎や障子、切島といったインターン生も多く駆り出されることとなった。

だがトリガーボムは巧妙に隠され、しかも一か所に対して五個ほど用意されていたという。もしそれがすべて爆発していた場合、被害範囲は予定を大きく超えるものとなっていただろう。

それこそ、エンデヴァー事務所が──緑谷たちが止めなければ世界各国の首都は壊滅状態となっていたとしてもおかしくはない。

 

それこそ、東京以外は。

東京だけは緑谷たちが爆弾を停止させる五分前にはなんと無力化されていたのだ。平和の象徴、オールマイトその人によって。

神野区以来の活躍に褒めたたえられるオールマイトではあったが、本人はギャングオルカ事務所の索敵能力の高さを褒めたたえていて、おまけに自分の生徒たちを「あれ!? いたんだ! そうかキミたちの個性のおかげか!」などと白々しく目立たせている。

 

「耳郎ちゃん照れ照れだねー!」

「障子も! 珍しいねー」

 

オールマイトに、それも記者たちに褒められているさまが全国中継だ。本人たちにはあとで繰り返し見せてあげよう。

 

「でも、爆弾止めたのは緑谷たちでしょー? なんかエンデヴァーに手柄盗られたみたい」

「あー、まあ違法は違法だからな」

 

オセオン警察から逃げ、パスポートなく国境を飛行機で越えた後に、エンデヴァーの許可も取らずに異国での【ヒーロー】を施行。

世界を救った緑谷たちがそんなことを問われるのか……──問われるだろうな。もちろんそんな仰々しいことにはならないだろう。逮捕なんてもってのほか。せいぜいエンデヴァーや日本の顔に泥を塗る程度だ。だが、それらの株が下がることで喜ぶ人間なんていくらでもいる。

実際、このテロでの日本の活躍の影響は、良い影響として株価をはじめ様々な分野に顕著に出ている。一番は、ナンバーワンがエンデヴァーであるという実績ができたことだ。オールマイトがいなくともエンデヴァーがいると世界が知った。良いことだ。

 

ちなみに、その事務所所属のインターン生であるデクには、オセオン外務省から正式な謝罪が日本政府を通して出されている。政府も緑谷も、その家族もそれらを受け入れているので、緑谷出久が世界を救ったキャリアがゼロになり、さらに傷がついたことを除けば重々な結果だろう。

それに、オレたちは知っているからな。

 

記者会見の最後には、エンデヴァーとオールマイトが握手をするという画面が映され、終了となった。

 

「うわー……なんか芸能人みたいだったよねー! いいなー!」

「芸能人には世界救えないだろ」

 

羨んでいた芦戸に笑いながら言うと、彼女は不思議と真顔になった。真顔というか間抜け面だ。

 

「そっか……。あぁ! そっかぁ!」

 

ニュース画面へと戻ったテレビでは、記者会見のシーンが切り抜かれて映し出されていた。それを見つめる芦戸の瞳は、どこかキラキラとしている。

いや、それはオレたち全員に当てはまるのかもしれない。

 

いま記者会見で映ったヒーローは、世界を救った英雄なのだ。

エンデヴァーやオールマイト、ホークスだけじゃあない。

テンタコル、イヤホン=ジャック、テイルマン、クリエティ、みんなだ。

 

本人たちがどう思っているかはわからないが、彼らはもう、次代のヒーローたちなのだ。

記者会見を見直すクラスメイトは、ヒーローが映るたびに声を出して笑い合う。不思議と、全員の子どものころを錯覚してしまった。

 

ちょっとだけ大人のオレは片付けでもしてやろう。

そう思って汚れた食器を両手に抱えて立ち上がると、青山も手伝い始めた。テレビ見ていて良いんだぞと思うが、カウンターからテレビは見れるからな、ありがたく水に濡れた皿を手渡していく。

 

「策束くんは個性終末論をどう思ったの?」

「どう? いや、馬鹿らしいなぁと」

「そうなの?」

「くだらないってわけじゃあないけどさ、個性による自壊を受け入れられなきゃ絶滅しかないだろ」

 

百年後、人間がいまのような姿でいるかなどしらない。全員尻尾が生えていたりするのだろうか、面白いじゃあないか。

 

「それにあれだ、無個性と無個性を掛け合わせても無個性にはならないだろ。弱個性にはなるかもしれないけど」

 

濡れた皿を青山に手渡すと、彼は静かにオレの言葉を待っていた。

 

「《光る赤子》はどうやって生まれたのかってな」

「──あぁ」

「人類ってのはもう個性因子に浸食されてんのさ。間違ってもヒューマライズのシンパになってくれるなよ?」

「僕は、無個性じゃない」

 

え? いや、いいけど。

 

「無個性はオレだから」

「ごめっ──」

 

黙ってしまう青山。え、もしかして喧嘩売られた? にしては、妙な……。俯く青山を盗み見ると、罪悪感からか苦悶めいた表情を浮かべている。

うーん、わからん、なんだろう。

 

「先に言っておくべきだったけど、べつにヒューマライズって無個性のための組織じゃあないからね」

 

無個性のためではない。

ただ個性が怖いんだと不安に思う連中の集まりだった。フレクトはトリガーボムのためにそれらを利用したにすぎない。

 

ヒューマライズの【本質】は、それなのだ。

最初の爆弾テロからおかしいとは思っていた。

本当に『死は救済』と掲げているのならば、無個性を探すためにトリガーボムを使う必要がない。おまけに個性が暴走して危険な地域に無個性の、しかも母体となりえる女性を送り出す意味がわからない。

 

最初から、フレクト・ターンの目的は多くの個性を持つ人間を殺すことだった。

歪んでいるのは、暴走させた個性で多くの人を殺させ、自身の持つ個性で自壊させること。世界中から研究者を攫ってやりたかったことがそれなのだ。どんな幼少期を送ればそんな発想になるのか。

よくそれで人類の救済を謳えたものだ。馬鹿馬鹿しい。

 

本当に人類を救ったのは、ヒーローたちだ。

 

「──彼らは煌めいているね」

「かっけぇよ。ホント」

 

テレビを見る青山のつぶやきを聞きながら、騒ぐクラスメイトの輪へと戻った。

 

 

緑谷たちが帰寮したのはそれから数時間後。てっきりテレビ局が祝賀会でも用意しているのかと思ったが、そんなものはないらしく、記者会見が終わった時点から通常業務へと立ち戻ったという。

 

ただインターン生は事後処理とメンタルケアを兼ねて、しばらく暇を出されてしまった。それはA組やB組だけではなく、二年、三年のヒーロー科も同様に。

そのため、雄英では週末までヒーロー基礎学を休講し、インターンに対する意見交換会を兼ねた食事会を開こうという動きになったらしい。

主催者はプレゼントマイク。ランチラッシュが大判振る舞いしてくれるのだと。

 

「策束くん!」

「お、緑谷。お疲れ」

「うん! あの、ロディのことなんだけど!」

「ああ」

 

緑谷に聞かれ、すでにカナダへ向かう準備をしてもらっていると告げる。アメリカとも悩んだが、犯罪発生率が日本並みに低いからな。安いし。

もっとも、ロディだけというわけではなく、彼の家族のこともあるから、いまは学生ビザの取得が主な動きだ。それまではホテルでのんびり過ごしてくれ。

 

さらに追加質問をされそうになったが、芦戸たちが爆弾をとめた主役を放っておくわけがない。

 

連れ去られていく緑谷に手を振ってから、そそくさと障子と耳郎のいる輪へ向かった。

 

 

◇ ◇ ◇ ◇

 

 

その日の夜、インターン交換会にも呼ばれてはいたのだが、そもそもインターンに参加していないことを理由に自分の時間を作らせていただいた。

インターンなー。雄英の温情とヒューマライズの関係で延び延びになっていたが、そろそろ決めないと。竹下さんが事務所構えていてくれればなぁ。

 

「で? どうしたんですか? 竹下さん」

「いやぁ……その、まあ、どうぞー」

 

いつになく腰の低い竹下さんの送迎で、喫茶店にまで向かう。

本来であれば夕方も盛況であるジェントルの喫茶店は、どうやら休みを取っているようで、正面はクローズと看板が掲げられていた。

いつも通り裏口から入ろうとすると、なぜか窃野がオレを誘導するように立っている。

 

「やや、シャチョー! どうぞどうぞーこちらにー!」

「次はどのようなお話でしょうか……」

「へ、へへ、まぁ、ほら、こちらを! 淹れたてですよーっと」

 

一瞬の身体の強張りを誤魔化しながら、紅茶をオレへと差し出している。ヒューマライズの一件では相当に活躍したと聞いていたので、取り消された追加報酬が欲しいのだろうと予想はつくが。

問題は、セスナを買ったことで現状支払い能力に不安があるというところか。中古の飛行機を新品値段で購入させられたからなー。

 

「ペナルティとして追加報酬は取り消しましたが、あなた方の行いに見合った報酬は用意しますのでおまちください。世界を救った英雄に不便はさせませんよ」

「お、おお、それは、えっと、助かるけど」

 

ん? 動揺した? なんで?

褒められて嬉しいという反応でもない。しかも、まだ話したい内容があるらしい。

あまりにも不審であるため周囲を見渡すと、竹下さんがいない。

 

それ以外の面々は固唾を呑んでこちらを見守っているようだ。

本題があるようだな……。しかもオレに対して金ではない要求だと? 厄介事だよな。

 

しばらく待っていると、裏口がノックされる。

宝生が「待ってろ」と言ってカウンターの裏へと消えていく。

 

宝生が戻ってくると、遅れて竹下さんが二人の見慣れぬ男女を連れ添って現れた。

 

「──どなたです?」

 

一応、この面子にオレが関わっていることは公にはしていない。緑谷や父親にバレてはいるが、大声で知らせる必要はないからな。

それを、オレの許可も得ずに関係性を知らせる? 良い度胸だ、財布のように考えるのならこちらにも──

 

「ココデハタラカセテクダサイ」

 

……ん。日本語かいまのは。

男女の内、女性のほうがそのように語りかけてきた。しかも手には手錠をしている。

 

「ココデハタラキタインデス」

 

ここで、働く?

言葉の意図が読み切れず竹下さんへ視線を送ると、彼は観念したのか、誤魔化すように笑って告げた。

 

「彼女はベロス。ヒューマライズの団員だ」

「──あああああああああ!!」

 

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