【完結】無個性ヒーロー   作:南畑うり

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体育祭・後編

 

騎馬戦は面白い混戦模様を見せてきた。

まずは緑谷チームが逃げに徹して、周囲がそれを追いかける形を取っている。とくに爆豪は騎手ながら爆破個性を使って空中をソロで動きながら、緑谷の一千万ハチマキを執拗に狙っている。戻るときはどうするのだろうと思ったが、瀬呂が回収する手はずだった。なら騎馬やれよ爆豪……。真正面から相手を爆豪が目くらまし、瀬呂がハチマキを回収。これで上位入賞は余裕だろう。

 

「少し動くぞ」

「なに? 逃げに徹するって」

「もうすぐ半分は過ぎるし、B組が動いた。チャンスだ」

 

背後の警戒は尾白に任せているが、いまは前だ。ヘイトを集めるのはつらいが、乗りたい風に乗れない奴は間抜けって言うんだぜ。

 

「B組が爆豪のハチマキを狙っている。物間チームだ。前しか見てねぇ。間抜けだな。尾白は警戒よろしくな!」

 

オレたちも走り出し、心操が物間の首にかかったハチマキを奪い取る。なぜ彼らは話しながら立ち止まっていたんだろうか。物間が追撃してこようとも、それを爆豪が許すはずもない。「殺す!」と叫びながら自分のハチマキを手に持ったままの物間を追いかけ始めた。

助かるねぇ。

 

「何点だ?」

「わかんねぇ。少し待て」

 

物間め、随分と集めてきたものだ。すぐに電光掲示板が書き換わり、オレたちのチームが急上昇、二千ポイント近くを確保してしまって、二位に躍り出る。序盤でなら巻き返しは図れるが、すでに中盤。あの二組は落ちたかもな。だが立ち止まっているアイツが悪い。一生一つのハチマキ追いかけてろ。

騎手じゃないから誰のハチマキかわからないし、この混戦だ。もともとのハチマキを死守しているチームの方が少ないだろう。

 

上位三チームに残れるだろうか。残るためには何ポイント必要だ?

幸い、轟は緑谷一点狙い。爆豪は自分のハチマキを狙って物間を追いかけ、緑谷は轟を警戒しながらも他のチームに狙われ続ける。

 

「千ポイントくらいあれば合格できると思うか?」

 

ハチマキを無くしたB組に追いかけられながら、騎手の心操に話しかけられた。

 

個人的にはギリギリなんだよな。そもそもこのルール、緑谷が獲得したジョーカーのような一千万を除けば、総合で『4305ポイント』だ。一位が確実に一千万ポイントを持っているとすると同率二位だとしても入賞の限度は五位まで。

ただ、五位までが入賞という仮定では、全員が四人チームなら二十人になってしまう。第一関門で四十二人にまで落としたのだから、もっと少ないかもと予想しておくほうがいい。同率でごちゃまぜにならない限り、次の競技に出られるのは安全なボーダーラインは四番目のチームまでだと当たりが付く。つまり、十六人。

人数は前後するかもしれない。それに同率勝負になった場合、このチームから選べと言われれば、心操と尾白しかいないだろう。

 

つまり、オレが確実に最終種目に出場するためには千と八十ポイント程度は確保しておかなければならないという計算ができる。

 

「千百ポイント以上。残りは好きに使ってくれ」

「よし」

 

オレたちは戦いを仕掛けるかのように立ち止まって、追いかけてきたB組と対面する。小大唯、凡戸固次郎、吹出慢我の三人組だな。言い方を変えれば庄田を入れ損ねたチームだ。そのメンバーを前に、心操はハチマキを二つ取り出した。

 

「ハチマキを渡す。協力しあわないか?」

 

反応したのは異形個性の持ち主で、チーム一の巨躯を持つ凡戸だった。

 

「だからって見逃すなんて──」

 

彼の動きが途端に鈍る。まるでオレとガッチリ手を繋いでいる庄田のように、生命力が抜けてしまったかのように、洗脳されている。

接触ではなかった。匂いか、視線か、音か。その三択だろう。お見事としか言いようがない速度の洗脳だ。

しかも心操の攻撃はそこで終わりはしなかった。

なんと手に持ったハチマキを二枚とも、目の前のチームに投げたのだ。小大がそれを器用に受け取ったのを見て、心操が叫ぶ。

 

「見ろ! 二位のハチマキをB組がとったぞ!!」

 

結果は電光掲示板に映っているのだが、乱戦に気を取られている連中はハチマキを握りしめている小大の姿が見事に映っただろうな。

 

目ざといヤツにはこちらのハチマキの数にも気づかれただろうし、二位にランクインしていたことは分かっただろう。だけどオレたちがハチマキを二枚手放したことで面白いことに、二位と三位が入れ替わっていた。

 

小大唯が事態を察して逃げを要求するが、凡戸が動けず棒立ちになっている。そのまま単騎で突っ込んできた爆豪がハチマキを奪っていく。うひぃこっちの計画全部バレてるな。めちゃくちゃ睨んできていやがる。

 

「後ろから騎馬! 切島たちとB組二人組!」

 

コイツはまずいな。乱戦の真ん中にいる。点数減らして順位は下げたが、ハチマキの数を見れば一目瞭然。オレたちは恰好のエサである。

さっさと逃げるが吉である。

それ見ろ。端っこのほうから氷が広がってきやがった。

 

「残り一分!! 氷に捕まったら全部取られるぞ!」

 

緑谷を狙っていたチームはいくつか氷に足を取られているし、点数計算が面倒になったチームは新たに緑谷を狙いに氷に向かっている。

お、爆豪め、みんなに指示しながら物間から自分のハチマキを奪い返したな。

その勢いのまま芦戸の酸で轟の氷を溶かして突き進む。様子は見たいがB組の塩崎や鱗に狙われて逃げるので精一杯である。

背後からの攻撃は尾白が対処してくれているが、前からはそうはいかない。心操の個性でも万能ではないらしく、全員を洗脳とはいかない。

しかし、無常にもタイムアップが告げられ、どうにかこうにか逃げ切りに成功。まんまと千三百ポイントをもって第三位だ。

一位は轟。緑谷からしっかり一千万ポイント奪い取ったようだな。その一千万を失った緑谷も、どうにか六百越えで四位通過。あまりの嬉しさに泣き出している。お前の母さんもきっとテレビの前で泣いていてくれるよ。

 

次は最終種目になるわけだが、これはすごいことになったな。出場者は合計十六人。B組一人、サポート科一人、普通科一人、残りはすべてA組だ。

物間が大変な形相になっている。爆豪レベルに喧嘩売るなら、勝てる状況は作っておかなきゃな。

 

とりあえず、ここで昼食時間となるので、心操に庄田の洗脳を解いてもらう。

 

「第二課題突破おめでとう」

「え?」

「いやぁ、キミの個性は物凄いね! みんな見とれていたよ!」

「は?」

「お腹空いた? 空いたよね? 大丈夫、キミの大ファンの心操くんがごちそうしてくれるっていうから、いっぱい食べなよ。心操もいいよね?」

「ま、いいけど……」

「え、わかんないけどごちそうさま。え、騎馬戦は?」

 

念のため個性の説明と謝罪を兼ねて、心操と庄田と尾白が三人で昼食をとることになった。B組の連中にはオレから少しだけ話しておく。きっと庄田は今回の件は傷つくと思うけど、応援してあげてくれ、と。

お通夜みたいなB組とは対照的に、A組はみんな笑顔で食事を取っていた。残念な結果に終わった者もいるが、やはり学級四百人を超える中の十六人にA組の過半数が選ばれる結果に、満足があるのだろう。

 

食事時、隣に座る耳郎から直接聞くが、彼女のチームはゼロポイント。どうやら物間に初動で奪われ、そのままオレたちがハチマキをキープしていたのだ。

峰田に三人の不利チーム作ったのはなんでかと聞いたが、「お前らが尾白連れて行ったからだろー!」と怒られた。

 

「そう言えば業さん、尾白さんに振るった暴力は、ちゃんと謝ったのですか?」

「ええ、もちろんですよ、その場で謝罪し、彼も受け入れました」

「業さんがあのような激情に駆られる姿は初めてみましたが、似合いません。今後はご自重くださいませ」

 

八百万に釘を刺されたが、周囲は興味津々だった。知りたきゃ尾白が教えてくれるよ。たぶんね、と返し食事を再開する。

 

「あ、そういえば八百万、クラス委員だから聞いてると思うけど──」

 

食事も終わったころ峰田が、女子はレクリエーションでチアリーディング部のコスチュームで踊ることになっているからって相澤先生に伝えてくれと言われた、と八百万に話す。隣の耳郎はあきらかに嫌そうな顔をする。コイツさては私服にスカート買わない人種だな。

いつの間にか上鳴も峰田の話に乗って、俺も聞いてたぜ、などと言いだした。信憑性はゼロじゃないが、これが嘘だったらマイナスに行くぞ、峰田よ……。

 

「業さんはどう思われますか?」

「え、えぇー……っと……。その、百お嬢さんのコスチュームは見てみたいですよ?」

 

どうだろう、どの方面にも角の立たないこの言い回し。

 

「いて、いて。なにすんだ耳郎」

「べつにー」

 

背中をイヤホンジャックでドスドス刺されるので抗議するが、やめてくれる気配はない。

 

昼食の時間が過ぎ、全クラスがもう一度会場に集合することになる。ここから先はレクリエーション。それが終われば最終種目であるトーナメントが始める。個性を使って一対一の正面戦闘。オレが勝てそうなのは葉隠くらいだったので、残念ながらこれは一回戦敗退だな。

 

そんなオレの諦めを前に、A組女子たちが絶望に打ちひしがれている。主に八百万と耳郎だが。

彼女たちの恰好はチアリーディング部のコスチュームだった。見事峰田の策略に嵌められたわけだ。騙されるほうが悪いなんて言わない。峰田が全部悪い。だがコスチュームは素晴らしいな。ヘソまで見えているので、なんかどきどきしてしまう。

 

ちなみにレクリエーションは全員参加型で、個性の使用も自由。一位になってもポイントは付かず、学校の成績にも影響はゼロだ。

だが、ここには数多くのプロヒーローが観客として参加していることを忘れてはならない。これは雄英が残した普通科やサポート科などに与えた、法を越えて個性を自由に使える機会なのだ。下手すりゃヒーロー科より声を掛けられる、なんてこともあるかもしれない。

 

ただレクリエーションの競技自体は大したことがない。借り物競争、球転がし、玉入れ、綱引き。昔の小学校の運動会ではよく行われていた競技らしい。

オレは参加せずスルーだ。わざわざ無個性であることを喧伝する必要はない。

 

本戦の対戦表を見ていると、八百万が寄ってきた。

 

「業さんのお相手は、普通科の心操さんですわね」

「個性は洗脳。発動条件は会話。解除は衝撃と任意。ですって」

「それはお調べになられましたの?」

「いえ、彼本人から。正確には尾白と庄田に話して、オレに伝わった形ですね」

 

彼女は手を口元に当て、驚いたふりをする。個性の露呈なんて珍しくもないし、そもそもテレビ中継されているので、もはや個性の見本市に近い。そう指摘しようと思ったが、八百万はクスクスと笑っている。

 

「業さんの一人称が、クラスメイトになってから変わったもので、驚いてますの」

「え、あ、そうですね。失礼しました、私の失態です」

「ああ、どうか、そのままで。他のクラスメイトと同じように接していただいてよろしいのですのよ」

 

さすがにそれは……。いくら大人の目がないからと言って、他のクラスメイトとオレの立場では大きく違う。

 

「名前だって、ほら、百とお呼びください」

「ご冗談を……」

「友だちは、ヤオモモと呼んでくれていますわ。私ったら初めてあだ名で呼ばれましたのよ?」

 

そりゃあ、友だちに勘定してねぇんだよ。こっちは。

嬉しそうに、宝物を撫でる子どものように笑う彼女に、あやうく舌打ちするところだった。

 

「子どもの頃は百と呼んでもらっていた記憶がありますわ」

「百お嬢さんが妹になることがあれば、そのようにお呼びすることがあるかもしれませんね」

「あー……やはりその話は……」

「まあ八百万家が強く否定しない限りは、こちらとしても手を引く必要はないと思っているでしょうね。弟も乗り気ですし。でも、どうでも良いでしょう、親が決めた許嫁なんて」

 

そういうと、八百万が寂しそうにほほ笑んだ。だがほかに何と言えばいいだろうか。好きなヤツができればそっちと付き合えばいいし、今時許嫁との結婚なんて政略結婚や個性結婚は露見した場合のデメリットのほうが大きい。

 

「いいなずけ……」

 

反芻するような言葉は、八百万からではなかった。彼女の肩越しに後方を見ると、耳郎や芦戸が口を押えて色めき立っている。八百万と麗日以外はレクリエーション強制参加だろうに。

 

「えええええ! 許嫁ってあの許嫁!? 二人ってそういう関係なの!?」

「あ、芦戸さん! 違いますわ! おやめください!」

 

八百万が真っ赤な顔で否定する。

そりゃ個性婚なんて流行らなくても、無個性は正直外聞が悪い。八百万家としても、無個性を娶る気はないだろう。じゃあどういう事かというと、彼女の許嫁はオレの弟である。次男だし、ちょうどいいだろう。孫が生まれたら父親が会社を引き継がせるつもりだろう。オレが一時的に代表を預かるかもしれないし、外部からの優秀な人材も多数いるので、そちらを一時的に代表に抜擢するかもしれない。

まあ策束家の会社は税金対策なのでどうでもいいのだが。

 

「許嫁なんて親が決めたやつだし、百お嬢さんは乗り気じゃない。おそらくは流れる話だ。それよりレクリエーションは?」

「借り物競争! ヤオモモに作ってもらったほうが早いかなーって」

「これから試合するやつに個性の無駄使いさせるな! 頑張って探してこい!」

 

芦戸が不満そうな顔で立ち去り、その後ろをとぼとぼと耳郎が追従する。……葉隠もいたのか。ジャージ脱いでいたようで、まったく気づかなかった。

 

「百お嬢さんの第一試合は常闇とでしたよね。対策は?」

「不安ですが、しております。大丈夫、お互い頑張りましょう」

「ええ」

 

応援に戻る八百万とはその場で別れ、対戦表を見直す。

 

参加者十六名によるトーナメント方式の一対一の試合。いまはレクリエーションで使っているグラウンドで衆人環視の中で、遮蔽物などもなしに個性を使う。言ってしまえば個性が丸わかりになってしまうのだが、そもそもヒーロー免許とは国が個人に個性の使用を許可するための資格の一つなので、隠すことがナンセンスだ。

このトーナメントでは三位決定戦は行わないため、全試合で十五試合になる。

 

その第一試合に、オレと心操が選ばれた。

注目すべきは第二試合の轟と緑谷の試合だが、第八試合も非常に気になる。

ヴィラン襲撃事件で、おそらくはオールマイトを殺害しうるとヴィランどもが確信していた大柄の肉体の脳無。その脳無を、オレの窮地を救いながら無傷で一方的に捕縛した麗日お茶子。爆破の個性を使って直接戦闘に長ける爆豪。

麗日と爆豪の相性は、麗日にとって非常に悪い。浮かばせてしまえばいいというパワーバランスではないのだ。騎馬戦でも見せた通り、爆豪にとって空中は戦術の一つに組み込まれている。パワー系で動けなくなるならまだしも、無重力状態で爆破の機動力が加われば、どれほどの動きになるかは想像がつかない。グラウンドには枠が用意されてそこから出れば失格となるようだが、空中はノーカウントだし、空中の爆豪が勢い余って観客席に突っ込む、なんて阿呆な真似をするとは思えない。

もし麗日が勝てれば大金星だな。

なにも考えなければ爆豪と轟とで決勝戦を行うだろうが、緑谷と麗日がどれほど成長しているのか、それがみそだな。

 

さて、そんなオレの第一試合だが。

大歓声のなか、オレと心操が向かい合う。無個性と普通科。よくこんなひどい組み合わせを作ったものだ。ランダム? まあ可能性の一つとしては頭に入れておこう。

殴り合いになるのか、洗脳されるのか。まあどちらにしろあまり勝ち目がない。まあ殴り合いだけならわからないけれど、ウエイト差では負けているな。

 

持ち込みの武器は不可。見様見真似のボクシングポーズを取って、腰を落としながら近づいていく。

そのオレを見ながら、心操は口を開いた。

 

「結局お前の個性ってなんなんだよ」

「今日の天気は晴れ時々──」

 

あ、これも洗脳の発動判定に入るのか──。

 

 

試合が終わり、洗脳が解かれたようで、急に思考が戻ってくる。

 

「悪いな。ヒーロー科」

 

心操が良い表情で笑っている。聞こえるのは、普通科がヒーロー科の、しかも選手宣誓を読み上げた選手をあっさり下した、という驚きと歓声だった。

 

「気分はいいかよ」

「いい。割と。だけど、お前はなんで催眠にかかった?」

「抗える個性はないし、かけたのはお前」

「でも、発動条件は教えておいただろ。なのに──」

「いいから頑張れ!」

 

これから行われる一回戦第二試合の勝者が、二回戦第一試合の、心操の相手になる。いままでの競技で轟の個性は十分見えただろうが、緑谷は使っていない。緑谷の個性は超パワーとしか言いようがない。自分の身体への加減も考えず、骨折を繰り返す緑谷の個性。いくらリカバリーガールが治してくれるとはいえ、オレも受けたことがあるが体力の消耗が激しすぎる。決勝戦のことまで考えるのなら個性を使わずに勝つことを望むはずだ。

 

無論、そんなことができるわけがない。

 

轟を骨折覚悟で吹き飛ばすか、轟の個性が弱まるまで逃げ続けるか。どちらにしろ緑谷にはつらい戦いになるだろう。もし勝てれば、個性が攻撃向きではない心操との勝負だ。緑谷でも個性を使うことなく勝利することができるかもしれない。どちらにしても、心操は二回戦こそがカギだ。三回戦に進めればデカいぞ。

 

と、無個性のオレがあーだこーだ言っていても、緑谷も轟も十五歳の少年で、ヒートアップすれば次の試合など考えられなくなったようだ。緑谷は超パワーで指を骨折させ、さらに骨折した指を拳へと握りしめて超パワーを使うという、もうなにも考えていない行動にでる。轟はその緑谷に応えるためか、ずっと隠していた炎の個性を使うことで、緑谷を下した。

 

「なんだよあの威力……! 反則じゃねーか! エンデヴァーの息子で? 氷と炎使って? どんな主人公だよ!」

 

心操が轟を睨みつけるように言うが、オレから見ればお前も十分チートだよ……。

ってかエンデヴァーの息子ってだれ? 轟のこと? マジで? 主人公じゃん! チートかよ! 八百万は知っているのだろうか、報告失敗だな。一度クラスメイト洗い直すか。

 

彼らの試合が終わると、第三試合、第四試合と次々進んで行く。

気になる第八試合、麗日と爆豪は一方的な試合になった。やはりというか、麗日はダメージを受けることを覚悟しての特攻。地面を這うような攻撃を行うが、叩き伏せるような爆豪の攻撃が地面と麗日を吹き飛ばす。彼女は、倒れ吹き飛ばされる瞬間に瓦礫を空に送り、その瓦礫の数がもはやグラウンドを覆うほどの【面】になったころ、反撃に回って個性を解除。空から瓦礫が落ちてくるという面を使った攻撃に、爆豪渾身の巨大な爆発を空に放った。

空の瓦礫があらかた無くなってしまえば、麗日は反撃の手段を失う。最後はボロボロになった身体を動かせなくなってTKO判定。緑谷と同じようにリカバリーガールのお世話になった。

 

心操はその試合を見ても心ここにあらず、二回戦第一試合の構想を練っているのだろうが、いざ始まれば巨大な氷で押し出されての場外。試合前に話しかけていたが洗脳はできなかったと見える。残念だったな。残念どころか観客からドンマイコールが響いてきた。

プレゼントマイクが「ヒーロー科の本領発揮だー!」とか叫んでいるけど、ヒーロー科でもあんなできるの轟だけだろ……。

 

三回戦になると、もう結果は見え始めた。轟、爆豪、飯田、常闇の四名。轟と爆豪は決勝まで当たらない。爆豪対常闇、轟対飯田。組み合わせが逆だったらまだわからなかったけど少し難しいな。

やはり決勝は、轟と爆豪の二人になった。

 

全員が固唾を飲んで見守る決勝戦。

 

轟は、炎を使うことはなかった。

二人とも、悔しかっただろうな。オレだってそういうお年頃だ。弟にゲームで手加減されるとイラっとするし、コレを使えば勝てるのに、って状況で負けるのは悔しい。

とくに爆豪にとって屈辱だったのは、緑谷には本気で【挑んだ】轟が、自分には手加減して【相手をしている】ことだったろう。

オレと爆豪、それに轟もだろうか。ちゃんとその差に気づいているのは、きっと少ないんだろうな……。

 

結局爆豪の勝利に終わったが、勝ったはずの爆豪が放送禁止ワード連発して、場外で気絶している轟に追撃を入れようとして、それをミッドナイトに止められる。まあ止めなくても、爆豪は攻撃しなかったよ。

 

立派だな。爆豪。

 

最後には表彰式。三位に常闇、二位に轟。そして優勝の一位の座には拘束具を身に着けた爆豪がいる。彼は自身の勝利を認められず、暴れながらオールマイトに金メダルを掛けられている。

 

情けないな。爆豪。

 

情けない生徒の姿を見せつけてしまったが、それでもオールマイトは偉大なヒーローだった。表彰台を背にし、民衆へ呼びかける彼こそ、やはり英雄なのだと思った。

 

『さあ、今回の勝利は彼らだった! しかしみなさん! この場の誰にも、ここに立つ可能性はあった! 御覧いただいた通りだ。競い、高め合い、さらに先へと昇っていくその姿!』

 

お、この流れは。周囲のクラスメイト、いや選手全員どころか、観客まで、次にくる言葉を待ちわびている。咳払いしている観客のプロヒーローを見ると微笑ましいな。

 

『次代のヒーローは確実に! その芽を伸ばしている!!』

 

引っ張るねぇオールマイト。みんな言いたくてワクワクしてるぞ。

 

『てな感じで最後に一言! みなさんご唱和ください! せーの!』

 

『お疲れ様でしたー!!』

「「「「プルス!! ウルトラー……」」」」

 

え、いまオールマイトなんて言った?

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

体育祭が終わり教室へ戻る。飯田の席は空いていた。

明日、明後日は休校になる。男子生徒何人かで集まって、録画した雄英体育祭を全員で見ることになった。なんてったって、一番の楽しみである三年生をまだ見ていないのだから。

 

「轟は? くる? 爆豪はぜってーいかねー! ってさ」

「俺は……わりぃ。すこし、やりたいことがある」

 

連れない轟を見送って瀬呂や切島と反省会をしていると、そこの八百万も加わってきた。

 

「私、常闇さんに負けてしまいました」

「し、知ってます。あと近いです」

「なにがいけなかったでしょうか」

 

え、馬鹿なのこの子?

えーっと、答えなきゃダメだよな。

 

「なあなあ! ヤオモモも明日来たらどうだ!?」

「ばっ! おまっ!」

 

慌てすぎて峰田の口をふさぐのが遅れたし、言葉も出てこなかった。

 

「男は集まって反省会するんだよ。来ない奴もいるけど。家広いらしいぜー! 策束ん家!」

「あら! では久しぶりにおじゃまさせていただきますわ!」

 

八百万の脳内ではオレん家の間取りが再生されているだろう。自部屋は見せたことはないが、居間だけ考えれば、一クラスの人数は余裕で入る。加えて誘ってきたのは信頼のない峰田だ。彼女はくるりと振り返って、女性陣にも声をかけた。

 

「行く! 絶対行くよ!」

 

耳郎を筆頭に、あらかたが参加になった。来ない人は爆豪、轟、常闇の三名だったが、後から常闇に再確認すると、やっぱり行くことを決めたらしい。結局は飯田を含めて三人が不参加だな。普通に多いな。

 

「策束、ちょっと話したいことがあるんだけど」

「あ! ドンマイじゃん!」

「ドンマイ!」

「ドンマイだ! 頑張ったねドンマイくん!」

 

ドンマイこと心操がA組にやってきた。きっと彼も参加するのだろう。

まあ、今日頑張ったから明日はなにも考えずに行くか。

 





瀬呂からドンマイを奪った心操でした。
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