競馬が盛んな世界と聞いて転生したのはよかったけれど、残念ながらウマ娘の競バの方だった。
 ジョッキーを目指そうしていたのだが、せっかくもらった騎乗EXのスキルが無駄になりそう?
 さぁ、2度目の人生。わたしはどう過ごそうか。

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5年ぶりに書きたくなったもので……。


鞍上はなかったけど……。

 自分の気質的に、面と向かって競い合うのは苦手だ。

 

 本質的に怠惰なのか競うのは疲れる。疲れることはしたくない。

 

 一方で、いざ向かい合ってみると、相手を叩き潰す自分もいる。

 

 こんな自分を言い表す?言い表せるわけがない。強いて言うなら、混沌だろう。

 もっとも、人間だれしも混沌だと思うが......。

 

 期せずして二度目のチャンスが与えられたとき、競馬が盛んな世界だと知らされた。

 マニュアル車を運転することが好きだった手前、何かに乗るという共通点を見出したわたしは、ジョッキーになってみようかと考えた。

 競い合うという私の気質には合わない職業であるが、競馬において勝つかどうかは、馬が9割、騎手が1割だと聞いたことがあった。

 であれば、良い馬とめぐりあい、その馬が良いレースが出来るように力を尽くす。そういったドラマの中に自分も混ざれたらと思うと心が揺さぶられた。

 

 故に、そんな願いをかなえてくれるべく、神はギフトを与えてくれた。

 

 「騎乗EX」

 

 あらゆる乗り物を乗りこなすどころか、乗り物と同化できるものらしい。

 これはすごい……。ちょっとずるい気もするが、どんなに自分がすごかろうが、9割は馬の力で勝つか勝たないかが決まるのならば大丈夫だろう。

 巡り合った馬に最高の騎乗をプレゼントできると考えれば、なんと幸せなことなのだろうか。

 さぁ、次の人生もがんばろう。

 

 

 

 

 そう思っていた時期もあった。

 

 

 

 

 残念ながら競馬は競バでも、あまり詳しくはなったが、ウマ娘の方だったらしい。

 テレビのチャンネルをいくら切り替えても、可愛らしい子たちが競り合っている姿しか見つけることはできなかった。

 馬という生物はおらず、鞍上の意味は異なり、ジョッキーという職業すら存在しない世界だった。

 三日ほど落ち込んだことを覚えている。

 

 

 

 

 ウマ娘というものは、いるところにいるもので、わたしが通った幼稚園にも二人いた。

 

 走れば一着、力も強い。綺麗でかっこいいとくれば人気者になるのも当然だった。

 

 一方で、すでにジョッキーを諦め、旅客機のパイロットを目指していたわたしは、園児たちの喧騒を離れ、勉強に打ち込んでいた。

 最初のころは、物珍しさに近づいてきた子もいたが、説明されてもわからないものには興味は続かない。ものの3日で皆離れていった。

 

 

 運動の時間というものがあった。小学校でいうところの体育だろう。その日はちょっとした競争のような形で行われた。

 うま跳びや平均台、様々なものがあって、行ったり来たりを繰り返していたのだが、その中で、おんぶして向こうまで行くというものがあった。

 そして、たまたま隣にいた子と組むことになったのだが、それがなんとウマ娘の子だった。

 銀色の長い髪が特徴のとても背の高い子だった。

 

 男だし、わたしがおんぶして走ろうとしたのだが、わたしがおんぶをする前に、彼女は強引にわたしをおぶさってしまった。

 背が高く、力も強かったこともあるだろう、その背中はすごく安定感があった。

 ジョッキーへの未練からか、もし、馬に乗っていたらと考えてしまった。

 

 そう、乗り物のことを考えてしまったのだ。

 

 

 世界は切り替わった。

 

 

 そして、莫大な量の情報がわたしを襲った。

 ウマ娘の感覚というものは、人のそれとは比較にならなかったのだ。

 あまりの情報量に困惑すると同時に、理解した。

 この体をどう使えば速く走れるか、この体をどこまで使うことができるのか。

 そうして走り出したときには、ゴールしていた。

 

 世界が切り替わり、ちょっとした全能感がなくなった一方で、隣を見ると、息の上がったウマ娘の子がいた。

 ただまっすぐ走っただけなのだが、体を使い切ってゴールしたのだ。そうなっても仕方がない。

 一方で、その子の息が上がった姿を見たことがなかったであろう先生や子どもたちは、代わる代わる大丈夫かどうかを確認していた。

 

 そんな労いの言葉を無視して、その子はわたしに飛びついてきた。

 こんな経験は初めてだと。すごく気持ちが良かったと。

 まぁ、確かに同化していたし、わたしもそう快感、心地よい疲れのようなものを感じはした。

 しかし、ここまで興奮するようなものであったのかは理解に苦しむところだった。

 まぁ、良かったね。と無難に返して、その日は別れたのを覚えている。

 

 もっとも、次の日からしきりにわたしのトレーナーになってくれと付きまとわれるようになったのだが……。

 

 

 

 残念ながら、親が転勤族だったおかげもあり、その子とかかわることは、卒園と同時になくなってしまった。

 引っ越しの前日に泣きながら抱き着かれて、中央のトレセン学園で待っていると言われた。

 困っていると、気の強そうな妹さんがはがしてくれて何とかなった。結構痛かったのをおぼえている。

 

 

 はてさて、こうして新天地へと来たわけであるが、トレーナーになるかどうかは決めかねていた。

 というのも、中央のトレーナー資格というものが、なんだこれはと言いたくなるほどに狭き門だったからだ。

 自分の担当したウマ娘が大きなレースで勝つ、という夢もやりがいもある仕事というのこともあるだろう。加えて、給料や待遇、社会的な地位もすごく高いときた。

 あまりに少ない定員の数を考慮に入れても、挑むだけの価値があるとみなされていたのだろう。

 勉強するというのは全然良かったのであるが、多くの人を蹴落としてまでなりたいという熱い想いというものは、わたしにはなかった。

 実際に走る時には彼女たちは一人である。わたしは鞍上にまたがりたかったし、鞍上という存在になりたかったのだ。

 

 そんな中途半端な状態で毎日を過ごしていたら、小学校2年生の時に再び転校することになった。

 転勤するほど役職が上がっていくらしい。出世はうれしいんだけどね……。などとわたしに申し訳なさそうな顔をする父親だったが、いろんな場所へ行けることが、わたしにはうれしいし楽しいと伝えると、頭をなでられた。

 

 引っ越しをしたら、ご近所の方々に挨拶することがついてまわる。

 近場の豪邸に挨拶をしに行った。

 というのも、道を挟んだお隣がこの豪邸だった。その豪邸が大きすぎたので門につくまでにかなり歩かなくてはならず、お隣というよりは近場と感じられたのだ。

 あまりの大きさに驚いたが、お隣さんへのごあいさつである。表札には「秋川」とあり、そこの娘さんがウマ娘だった。

 なんだか、近いところでウマ娘と縁があるなと思った。

 まぁ、普段は大きな帽子で耳を隠していたし、尻尾もスカートの内側にしまってるようで、挨拶の時に帽子を外していなければ気づかなかっただろう。

 小柄だったからか、あまり年相応に扱われなかったのだろうか。わたしが「おねえちゃん」というと嬉しそうにしていた。

 

 そうした経緯からか、しばしば、おねえちゃんは遊びに来たり、わたしの方から遊びに行ったりとそれなりに親しい間柄になった。

 

 

 ある時、「驚愕っ‼」と、あまりに勉強ばかりで外で運動しない私を心配して、外に連れ出された。

 別に外に出ないだけで、屋内ではそれなりに動いていたし、鍛えていたのだが、さすがに、ウマ娘の体力と比較されてはかなわない。

 夕方になるころには、わたしは息も絶え絶えだった。

 少しばつの悪い表情を浮かべ、わたしを背負ってくれた。

 いや、背負ってしまった。

 

 

 世界が切り替わった。

 

 

 どうやら、わたしの中では、すでにウマ娘の背に乗せられることは、騎乗と同じことだったらしい。

 幼稚園であの子に乗った時とは比較にならない全能感がわたしを襲った。

 

 別に乗ったとしても走らなければ良いと思われるかもしれない。

 しかし、本能的に走りたいという欲求が強いのがウマ娘という存在である。同化することでその影響を多大に受け、わたしまで走りたいという欲求に囚われてしまうのだ。

 故に、どれくらい走っただろう。気づいたころには、家の前だった。

 ウマ娘が走っても良いレーンが家の前まで続いていて助かった。なければ危険走行とおなじで、警察沙汰である。

 息の上がったおねえちゃん。しかし、その目は爛々と輝いていた。

 「驚愕っ‼」「歓喜っ‼」と両手でわたしの手を包み、わたしを抱きかかえたかと思うと、そのまま豪邸の中へ、そしておねえちゃんのお母さんのもとへと連れていかれた。

 

 わたしのこと、わたしの能力について全てしゃべらされる羽目になった。

 おねえちゃんも行動力の塊のような人だったが、おねえちゃんのお母さんも行動力の塊だった。

 あっという間に飛び級試験を受けさせられ、あっという間に大学に入学させられた。飛び級制度が存在しない日本において、どうやって押し通したのかは今でもわからない。

 

 さすがに大学は4年間しっかり通うことになった。専攻はウマ娘の生体学だった。

 

 たびたび行われた実地演習というウマ娘と触れ合えた機会には、様々なウマ娘の背に乗せてもらった。

学生とはいえ肉体的には児童である軽いわたしを重りとし、すこし負荷をかけてトレーニングをするという名目だったのだが、実際は走っていない。

 おねえちゃんがいつもそばにいて走り出さないようにさせられた。なんでも、わたしと一緒に走ると何かすごいらしい。

 

 ただ、一人だけ走ってしまった子がいた。

 

 アメリカからの留学生で、ひときわ大柄な子だった。

 演習場に行く途中にすれ違った際、小さい男の子が迷子になっていると思われて、「ソゥファストで、ワタシが連れていってあげマース!」と強引に背中に背負われてしまった。

 おねえちゃんの背に乗った時ほどではなかったが、やはり、全能感が駆け抜けた。

 気が付いたら演習場だったし、おねえちゃんには怒られるし、息の上がった彼女には、「ワーオ、最高の走りができた気がしマース!」と抱き着かれた。

 何のせいとは言わないが、窒息しかけたことだけは間違いない。

 

 

 

 そうして、大学を卒業して迎えた春。

 わたしはトレセン学園の門をくぐろうとしていた。

 

 おねえちゃんの影響が強いとはいえ、こうして競バに携わることになってしまった。

 ジョッキーではないし、今でも、鞍上で一緒に走りたかったと未練がないわけではないが、まぁ、ここまで来たし、ここで頑張ることにしよう。

 

 そんな物思いにふけっていたら、背中から誰かに抱き着かれた。

 

 「見つけたぞ。わたしのトレーナー……。」

 

 上を見上げると、長い銀色の、あの綺麗な髪を持つ懐かしの彼女がにこやかにわたしを見下ろしていた。

 

 「相変わらず、綺麗な髪だね。」

 

 出てきた言葉に目じりを落とし、彼女は言った。

 

 「これからはずっと一緒だ。きみはわたしのもの(トレーナー)だ。」

 

 なんだかお互いの考えていることに違いがありそうだったが、とりあえず、おねえちゃんのもとにわたしたちは向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 その後、トレーニングのどこかで必ずトレーナーを背負ってトラックを一周するチームが出来上がることになるのだが、まぁ、そんなことは些細なことだ。

 二度目のチャンスをしっかりと、後悔の無いように頑張ったとだけは伝えさせてもらおう。

 




誰かこんな設定で連載を書いてくれないですかね。

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