気弱だった僕と、まっすぐな彼女の青春ラブコメはまちがっている。   作:レオン・アーノルド・スチュアート

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パーティー会場にて

 

直前になってトイレに立ち寄り、身だしなみチェック。

よし、相変わらずの美男子だ。人間の第一印象はまず見た目。パーティ等のかしこまった場は苦手だが、タキシードは嫌いじゃない。もともとかっこいい僕が百倍増しでかっこよく映るからだ。

007のピアース・ブロスナンとか、汚れた英雄の草刈正雄をイメージしてみる。こういうダンディな大人には、やはり憧れ意識を抱くものだ。

とっておきのスペシャル笑顔の練習をすると、いざ会場へ。

 

 

「ミカ・トイヴォネンです」

 

パーティ会場の受付嬢に、爽やかな微笑みでそう告げる。トイヴォネンという名字を名乗るのも随分久しぶりだ。レーサー時代以来かもしれない。

 

「トイヴォネン様ですね。こちらへどうぞ」

 

黒髪ボブの清楚系美人の受付嬢は、にこやかな笑顔で案内してくる。僕のような二枚目ならまだしも、ブ男にもこんな顔すんのかな?となんとなく思う。

 

 

「おや、ミカくんじゃないか。父君は達者かね?」

「ええ、おかげ様で」

 

 

会場に入るや否や、パーティ客が早速話しかけてくる。

ハリウッドスタークラスのハンサムなスマイルを貼り付け、パーティ客に挨拶する。うわー、スケベそうな親父。いかにも小金持ち臭プンプン。

そして案の定、出てくるのは父の話。

 

「父が来られなくて申し訳ありません。変わりに私が出席したんですが、ご迷惑でしょうか?」

「いやいや、とんでもない。君の父君には世話になってるからね。息子の君と話ができて嬉しいよ」

 

僕のことは父の付属品でしかないと思ってるくせに。その証拠に、さっきまでは若い女性をスケベ丸出しな目で見ていた上に、父が来れないと聞いた瞬間、残念そうな顔をした。媚びを売る気満々なのが見え見えなんだよ。間抜けが。

 

 

「あら!ミカくん!元気そうねえ!」

「どうも、ご無沙汰しております」

 

今度は香水の匂いをプンプンさせたおばちゃんが、手を握ってくる。うわぁ…尻尾振ってくるのがよく見える。顔をしかめかけるのを、鍛えられた表情筋で無理やり笑顔にする。1000万ドル出されても、こんなやつと一夜を共にしたくない。

まあでも、ここでこんな事を言うわけにもいくまい。

 

「お父様はお元気かしら?」

「ええ、その節は。よろしくと言っておりました」

 

ほーら。こいつも父の話。

フィンランド有数の実業家であり、ヨーロッパ経済にも影響力のある父は人望と能力に優れた偉大な男だが、その父のおこぼれにありつこうと、こうした二流とも三流ともつかない連中がすり寄ってくる。

こうした薄っぺらい連中の相手は慣れている。適当におだてて、適当に笑顔を浮かべていりゃあOKなのだ。

 

 

あいさつ回りも済み、ノンアルコールカクテルをつつきながら周りを見回す。

 

すると僕から離れた箇所に人だかりがある。

人だかりの中心にいるのは品格ある着物を着た女性に、綺羅びやかなドレスに身を包んだ女性。どちらもかなりの美女である。

 

「すみません、あの方たちは?」

「知らないのかね?ミカ君」

 

近くにいた知り合いのおじさんに声をかけた。おじさんは少し驚いたような表情をする。

 

「今日の主賓の雪ノ下建設の奥様とご令嬢だよ。ご主人は雪ノ下建設社長で県会議員も兼務している地元の有力者だ」

「そうですか……」

「すまない、私も挨拶に行かなくては。君も決して、粗相のないようにな」

 

そう言うとおじさんは媚びたようなスマイルで母娘に近づいていった。

 

雪ノ下か。そういや、沙希が言ってたっけ。確か雪ノ下さんの実家は県議会議員だったか。

 

うわー、なんか見てて嫌になる。

 

見ろよ。まるでおこぼれを必死に追いかけるハゲタカやらハイエナのようにしか僕には見えない。

 

一庶民ならまだしも、こういった小金持ち連中は経てして勘違いしている。

下の者にはまるで自分の世界が全世界かの如く振る舞い、かといえばその上の者には媚び諂うように振る舞う。

その辺の勢いだけが取り柄のバカなチンピラよりも、よっぽど品がない。ああ言うのを『底辺』とでも言うのだろうか。

 

ふと、お母さんのほうがちらりと僕を見た。ツカツカと歩み寄ってくる。

 

「はじめまして、貴方は確か」

「どうも。はじめまして。ミカ・トイヴォネンです。父の代理で来ました。父が来れなくて申し訳ありません」

「いえいえ、そんな。トイヴォネンさんのことは、よく伺っております」

 

着物姿の女性はにこやかに微笑んだ。隣のドレス姿の女性も笑顔を浮かべる。

 

「改めて、雪ノ下建設の副社長・雪ノ下冬乃と申します。こちらは上の娘の晴乃です」

「陽乃です。よろしく」

促された隣の女性は、ペコリと頭を下げる。

ふーん、この人がひょっとしたら雪ノ下さんのお姉さんか。

 

確かに、凄い美人だ。でも、気に入らない。なにか引っかかる。ニコニコと笑顔だが、腹の中はそうではない。

同年代の一般男性に比べて圧倒的に女性との触れ合いが多い僕は、女性の観察眼には絶対の自信を持つ。

 

適当に立ち話を済ませて、その場を離れた。どうせ興味もないパーティーだし、どうもここの連中は気に食わない。

 

 

僕の視線の先には、雪ノ下母娘に群がる客たちがいる。

 

総理大臣でも大統領でもあるまいし。たかが一介の地方議員じゃないか。僕にはこの連中が、小金持ちに群がる貧民にしか見えなかった。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

あの金髪の青年……ミカと言ったか。

 

 

雪ノ下陽乃の視線はテラスで夜景をつまらなそうに眺めるあの青年に向けられていた。

 

 

年齢は、陽乃と同じか少し上か。

陽乃はその青年に、興味が湧いていた所だった。

 

妹の雪乃でもない、葉山隼人でも比企谷八幡でもない……他とは違う独特の雰囲気を纏っている。

 

ルックスは充分に美男子の部類に入る。人当たりも抜群に良い。しかし、陽乃も何か引っかかるものがあった。

 

そして何よりも気になるのは、まるで自分に一切関心を示さない態度。それどころか、どこか下に見たような。

 

 

 

話の輪を抜け出した陽乃は青年のもとに行く。

 

 

「退屈かな?」

 

振り返ったミカは、爽やかな笑顔を浮かべる。

 

「そんなことはありません。素敵なパーティーにお招きしていただき、光栄です」

 

瞬時に陽乃は見て取った。嘘だ。

「分かってるよ〜?ホントは退屈なくせに」

「いえいえ、本当に楽しいですよ」

陽乃はいたずらっぽく、どこかからかうような物言い。ミカはそれでも笑顔を崩さない。

 

「すみません、そろそろ帰らなくては」

ミカは腕時計を見ると、出口に歩く。

「え〜?もっとゆっくりしてってよ〜」

「すみません。明日も学校なんです」

「ふーん……」

 

そう言ってミカは踵を返す。その仕草も、どこか芝居っぽく絵になる。

 

「ねえねえ」

「はい?」

「キミってさ……」

 

 

「仮面被ってるって、言われたことない?」

 

ミカは少し考え込むように下を向く。そしてこう返した。

 

「貴女こそ、退屈なんじゃないですか?」

「もう少し、演技のお勉強でもしてくださいね」

 

パチンと左目を瞑ると、ミカはそのまま出口に向かって歩いていった。

 

 

やはり、間違いない。あの子は私と同じ。

 

 

いや違う。あの子はもしかすると、『仮面』に関しては私以上かもしれない。

 

 

「可愛い化け物だね」

 

その陽乃の呟きは、パーティーの喧騒に消えた。

 

 

 

 

 

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