気弱だった僕と、まっすぐな彼女の青春ラブコメはまちがっている。 作:レオン・アーノルド・スチュアート
誰も待ってなかったと思いますが、久々の更新です。
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「み、港くん?!相模さんはどうしたの?!」
集計表を持って戻って来た僕を見るなり、城廻生徒会長は驚きの声を上げる。
当然だ。僕は相模さんを罵倒しまっくて大泣きさせた挙句、彼女を放置してきたのだ。
それを聞いた他の面々も一様に驚いている。
僕はあえて相模さんのフォローをせずに口を開いた。
「相模さん、どうしてももう嫌だって聞かないんですよ……集計結果だけは置いて行ってくれたので、大丈夫です」
本当は相模さんが怒鳴り散られて泣かいた上で集計結果を置いて逃げていったけど。
その発言に、生徒会長は安堵の表情を浮かべた。内心彼女も相模さんの怠慢ぶりに頭を抱えていたのだろう。これで責任の所在はハッキリする。これでいい。相模さんは、これからの学校生活の中で自分がどれだけのことをしてしまったのかを思い知ることになるだろう。ところが、その現場を思いっきり見かけてしまった八幡くんと葉山くんは何となく浮かなそうな表情。それは当然である。あの地獄みたいな場面を目撃してしまったのだから。ていうか八幡くん、元はと言えば君が川崎さんに「愛してるぞ」なんて言ったのが原因なのだぞ?
しかしこれで、また新たな問題が発生した。「誰がセレモニーのスピーチをするか?」だ。
やるべきはずの実行委員長が逃げ出したのだから、これは由々しき事態だ。
とはいえ、僕だって相模さんに引導を渡す形になってしまった責任が無いわけでは無い。ここは僕がやることにしよう。
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その結果は……
大成功であった。
急遽代役としてセレモニーを引き受けた僕は、持ち前の話術を活かして場の雰囲気を盛り上げ、文化祭は大拍手のうちに幕を下ろしたのだった。
セレモニー終了後、生徒会長を始めとした誰もが僕を称賛しに声をかける。
「いやー港くん!今日は港くんのおかげだよ〜本当にありがとう〜」
ニコニコ顔の会長にお礼を言われるが、僕は苦笑いで応える。
僕がやったことといえば、司会進行と、ちょっと話を盛ってみんなに教えただけだ。
ちなみに八幡くんはというと……
やはり彼は微妙な顔でこちらを向いていた。そりゃあそうだろう。
「君なら生徒会長も出来るんじゃないかなぁ~」
「転校生が生徒会長ですか?すみませんが僕にはとても無理ですよ」
しかし、かつての実行委員長だった相模さんはあれ以来学校へ来ていない。当然だ。彼女は今回の文化祭で、結局何もしなかったから。そんな自分への嫌悪感といったところか。まあ僕への恐怖心も多大にあるのだろうが。自ら積み上げてきたものを自分でぶち壊しにしたのだ。いや、積み上げたなんて言えるほどのものではなかったかもしれない。ただ、相模さんは勘違いしていた。なまじ状況からお山の大将でいられただけに、彼女は自分にリーダー気質があると思い込んでしまったのだ。相模さんは人間と言うものをを甘く見ていた。それが彼女の敗因なのだろう。
しかし納得いかない人間も中に入る。その日の奉仕部で、当然ながら雪ノ下さんに詰問される羽目になることは言うまでもない。
「どういうことかしら?」
「はて?何のことでしょうか?」
雪ノ下さんは僕のことをジト目で睨む。
僕はいつものようにコーラを飲みながらしれっと答える。
雪ノ下さんはため息をつくと、僕の方を向く。
「依頼の件よ」
「ああ、さがなんとかさんの」
「相模さんよ。……まったく、あなたのせいで散々な目にあったわ。姉さんからはあなたのことを根掘り葉掘り聞かれるし」
どうもあの日、僕が相模さんに罵声を浴びせまくった後、葉山くんが八幡くんを呼び出したらしい。そこで何があったのかは知らないが、葉山くんが八幡くんに対して「なんで君らはそんなやり方でしかできないんだ」とか何とかいったとか。
それからあの姉貴に興味を抱かれてるのも意外だった。もしかして、今回のからくりについてあの人は感づいてたりして。
分かってないねえ、葉山君ってのは。だってじゃあ、どうすればいいのか?砂糖を大量投入したチョコレートの如く、「君を待ってる人がいるんだよ~」なんて言ってまたお山の大将に引き戻すのか。結局は体のいい尻ぬぐいをさせられるだけ、だからまずは現実を分からせるしかない。
「僕は別に……自分の尻ぬぐいもできないくせに人の上に立つなんておこがましいとは思いますけどね。それに、相模さんが逃げ出した時点で、僕は相模さんを見捨ててました」
「…どう言う、意味かしら」
「前に言いましたよね?ここの理念。『魚ではなく、魚の取り方を教える』。果たしてそれを実践できてましたか?相模さんがここに依頼に来た際、手伝ってくれとか言ってましたよね?結果はどうです?作業は遅れに遅れ、おまけに貴方全部の仕事押し付けられて、体調崩して休んだじゃないですか。彼女がそれで何か得たと思います?自分の不始末を自分できちんと謝るくらいできなきゃ、彼女が成長したと言えませんよ。八幡君のやろうとしたことは単に責任を被ろうとしただけ。なんでそんな奴のためにこちらがダメージを負う必要があるんですか?今回の一件はそもそも奉仕部の理念に反することだから、向こうがどうなろうと知ったことではありません」
一気に喋り終えたら、喉が渇いてしまった。コップの中のコーラを全部飲み干してしまえば、再びガラガラと氷が鳴る。
それを聞いているのかいないのか、雪ノ下さんは今日で何度目か分からないため息を吐く。
すると、そばで見ていた結衣さんが口を開く。
「あたしも、ミカっちの言う通りだと思う……ゆきのんが体調崩したのだって、そのせいなんだし。」
雪ノ下さんの表情が固まる。沈黙が流れ、僕は八幡くんをちらりと見る。
「……まあ、俺も。悪口言っちゃったしな、あの時の港みたいに。あんなにキレるとは思わなかったけど」
ははは、あれは忘れてください。女性を怒鳴りつける行為は、僕の美学として最低なのだ。
「……そうね。私も間違っていたわ」
雪ノ下さんが重い口を開いた。
「正直言って、、最初からあの依頼は乗り気じゃなかったのよ。折角文化祭で、部活動はお休みにしたかったし。それに……」
「それに?」
「いえ、なんでもないわ」
?なんだろうか。珍しく彼女にしては歯切れが悪い。ぐるりと周囲を見渡すと、結衣さんも八幡くんも目をそらしてしまう。
「ごめんなさい。今回は私、何もできなかったわ」
雪ノ下さんが長い黒髪を下に向ける。
「雪ノ下さんが謝る必要はありませんよ」
「うん、あたしも何もしなかったし……」
「まあ、なんだ…勝負の行方はまた今度ってことでいいんじゃねえか」
「それに」
「それで彼女が自力で立ち直ることが、成長と言えるんじゃないですかね?」
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やけに天気のいい帰り道である。
奉仕部ではカッコつけてそんなことを言ってみたものの、僕の内心は全くと言っていいほど晴れやかではない。確かに学校中から喝采を浴びれた。生徒会長ともお近づきになれた。
だが、僕の内心はそうではない。沙希とはあれ以来、全くと言っていいほど会話が消えてしまったからだ。
何とか声はかけようとするが、目が合う度に、お互いにどちらともそらしてしまう。
メールを送ろうにも送れない。スマホの画面の『川崎沙希』と言う文字を見ながら、溜息をついた。
どうしようもない、どうにもできない。
ふと前を見ると、自転車を押した猫背の少年。
「あ」
「あ、どうも」
声を返した瞬間、思いっきり嫌そうな顔をされた。そんな顔をするなら、話しかけなければいいのに。
「あ、あー…悪い、何でもない」
あまりにも歯切れの悪い言葉に、僕は笑いそうになる。
「何ですか、それ」
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「……」
「……」
「いい天気ですね」
「……そうだな」
どうも男と話すのは得意ではない。なぜこの少年と横並びで帰るのか。どうしても聞きたいことがあるからだ。
「少し質問があるのですが…」
「ん?」
「川崎さんとはどういったご関係で?」
「は?」
八幡くんは面食らった顔になる。
「愛してるぜ、って言ったじゃないですか」
「ああ、あれか。別に大したことじゃねえよ」
「大した事じゃない?」
「ああ、別に俺と川崎は付き合ってるとか、そんな関係じゃない」
「じゃあ。どうしてですか」
八幡くんは少し立ち止まり、考え込むように下を向く。
「まあ、そのうちに分かることだ」
「……」
いったい何を企んでんのか、どうも気にはなる。それに、あの時の雪ノ下さんと結衣さんの反応。全てを見透かされたような感覚が、どうにもむずがゆくて仕方がない。
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「あっ、お兄ちゃん!」
そこに、可愛らしい声が割り込んできた。その声に八幡くんだけでなく、僕も反応してしまう。
パタパタと駆けてくる、青色の髪の少女。彼の妹の小町さんと……もう一人。
「小町」
「ミアータ」
と、何故か声がシンクロしてしまう。
「お兄様ー!」
ぎゅっと僕の胸辺りにもう一人、同じ制服を着た少女が飛び込んでくる。
「おかえり、ミアータ」
「はい!お兄様もおかえりなさいませ!」
溌溂とした声に、思わず微笑んでしまう。僕より明るいオレンジ系の髪を撫でてやれば、妹は気持ちよさそうにふにゃりと顔を綻ばせる。
ミアータと言う名前は、マツダ・ロードスターの北米名「MX-5 ミアータ」から取られたものだ。
父の最初の愛車が、日本でのユーノスロードスターだったことから、最初の女の子にはミアータと名付けるつもりだったらしい。
「えっ?まさか、ミアータちゃんのお兄さんって」
「はい、いつもミアータから話は聞いていますよ、小町さん。改めて、港ミカです。」
ほえーっ……と顔を紅潮させる小町さん。
「改めてみると、すごい美形さんですねー……うちの兄と交換したいくらいです……」
「おい、誰が顔面偏差値最低だ。まあ仕方ないけど」
「そんな事言ってないでしょ」
呆れたように兄の言葉に返す妹の小町さん。
どうも当たりは強いみたいだが、仲は良さそうだ。
「改めて、比企谷小町と言います。いつもミアータちゃんと仲良くさせていただいてます!」
「そうですか。いつも妹と仲良くしてくれているそうで、ありがとうございます。」
「いえいえ、そんな」
謙遜する小町さんに、ミアータが「小町ちゃんだーい好き!」と抱き着く。
妹が抱き着くのは、本当に好きな相手だけだ。ほほえましい様子に、僕は思わず微笑んでしまう。
「ちょ、ちょっと苦しいよミアータちゃん!」
そう言いつつも、小町さんは嫌がってない様子。
「すいませんね。うちの妹はいつもこんな調子でしてね」
「いえ、大丈夫ですよ!それより、兄はご迷惑をおかけしてませんか?」
「おい」
「いえいえ、とんでもない。色々と助けてもらってますよ。もはや友人と言えるくらいには」
「ええっ!?お兄ちゃんがですか?!」
「……驚くとこ、そこなんですね」
どうも思ったのだが、小町さんの彼に対する当たりが、強すぎるような気がする。
まあ、仲良しみたいだし、そこまで気にすることもないか。
「それにしても、うちの妹と仲がいいみたいで、友達ができてよかったですよ」
「はい!ミアータちゃんが転校してきて、初めて小町の隣の席だったんです。そこから仲良くなって…これから一緒にケーキ屋さんに行くんです!」
「そうですか。まあ、悪い子じゃないんで、今後も仲良くしてあげてくださいね?」
「は、はい!」
小町さんは満面の笑みで返事をする。悪い子ではなさそうだ。
すると、ミアータはぼうっと比企谷兄妹を見ている。
・・・・・・まさか。
「ほら、ミアータ。小町さんと遊びに行くんでしょう?」
「……はっ!ごめんなさい!お兄様!行こう!小町ちゃん!じゃあお兄様、また後で!」
「う、うん。じゃあ後でね、お兄ちゃん」
「お、おう。気をつけてな」
そう言うと、ミアータは小町の腕を引っ張って行ってしまった。
嵐が過ぎ去ったように静かになった空間で、八幡くんと顔を見合わせる。
「凄い可愛いハーフの友達ができたとか言ってたけど、お前の妹だったのか」
「ええ、まさかうちのミアータが小町さんと友達だったとはね」
「可愛い妹さんだな。お前と違って」
「小町さんも元気でいいと思いますよ。貴方と違ってね」
にやついた八幡くんの皮肉に、僕はハンサムな微笑みで返してやった。
「手を出したら許しませんよ?」
「出さねーよ。てか、出ねーし」
それはどうだろうか。ミアータがあんな顔をしたということは……今後、八幡くんに要注意だろう。
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ミアータ side
「いや~、ここのケーキもおいしいよねぇ~」
「……」
幸せそうな顔でケーキをほおばる小町ちゃんの顔を、私はじっと見つめる。
「ど、どうしたの?ミアータちゃん」
向かい側に座る小町ちゃんは、心配そうな目で見つめてくる。
運ばれたケーキとジュースに目もくれず、私は意を決して切り出す。
「小町ちゃん」
「うん」
「あの方の名前を教えて」
「えっ」
小町ちゃんは目をパチクリとさせた。
「あの方って……お兄ちゃん?」
「そう!」
「え、えーっと……名前は比企谷八幡だけど…」
「八幡さんね、好きな物とか、趣味とかはある?」
「えーっと……趣味は読書とか……好きな物はラーメンと、マックスコーヒーとか……後は猫とか」
ふむふむ、読書、ラーメン、マックスコーヒー、猫・・・・
私はメモ帳に情報を書き込んでいく。
「あ、あの…ミアータちゃん。もしかして・・・」
「で、今は彼女とかいるの?もしくはそれに近い人とか」
「か、彼女はいないかな・・・・・・まあ、同じ部活の人はいるけど・・・二人ぐらい」
なるほど、目下ライバルは二人。ただし付き合ってはいないと。
「もしかしてミアータちゃん、お兄ちゃんに」
「そう!」
「一目ぼれしちゃった!比企谷八幡さんに!」