気弱だった僕と、まっすぐな彼女の青春ラブコメはまちがっている。   作:レオン・アーノルド・スチュアート

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時系列的には、川崎の深夜アルバイトの依頼の直前ぐらいのイメージです。


川崎沙希は先を行く。

 川崎さんを誘ったファミレス。時間は10分ほどが経過したと思うが、賑々しい店内の中、ここだけ北極かと思うほど氷点下のような気まずい沈黙が流れている。僕も彼女も騒々しいのは好きではないが、かと言ってこんな氷点下以下のムードが好きな人はいないだろう。こんな寒いのはヘルシンキの雪景色以来かもしれない。

 

 ここの雰囲気は氷点下以下なのに、心臓だけはバクバクと高鳴る。冷静になろうと氷が溶けて薄くなったコーラを一気に煽った。

 

 

 

息を吐くと、なにか言葉をかけようとする。だが、意志に反して声が出ない。やれやれ、これじゃあまるで純情童貞青年じゃないか。女の子と話すのにこんなに勇気がいるのだろうか。

 

川崎さんはと言うと、じっと見つめたり、かと思えば窓の外を眺めたりしている。僕との再会を喜んでるのか、それとも違うのか、どうも分からない。他人の行動や言動を読み取って分析するのは僕の得意分野なんだけど、昔から彼女にだけは通用しなかった。それはよく覚えてる。

 

 

「ねえ……」

「ん?」

「なんでさ、レース辞めたの?あんなに好きだったじゃん」

 

 

やはりそう来たか。彼女はどんな時もまっすぐだ。長い付き合いだからなのか、彼女の眼力が人並み以上に鋭いのかは分からないけど、だから下手な嘘もすぐにバレてしまう。

 

「……もう好きじゃ無くなったんだよ。あんな世界はこりごりだね」

「……………………。」

 

これは紛れもない本心である。あの世界は、夢と希望だけで飯を食っていける程甘くはなかった。予想していた汗と青春に彩られた白く輝いた世界ではなく、金と政治的な諍いに塗れた黒く薄汚れた世界。それは本当だった。

 

「いくら結果を残しても、最終的には『いくら払える?』だよ。本来アスリートはギャラを貰って仕事をするのが普通だと思うんだ。あそこにいる連中はレースなんかそっちのけで、カネの計算ばかりしている奴らだ。カネが無ければ仕事も無いんだ。こんな馬鹿げた現実があると思う?頭がおかしくなりそうだよ、ホント」

 

一気にべらべらと思いの丈を喋ってしまった。正直ここまで喋れるとは思ってなかった。

 

 

それを考えると、野球やサッカーと言うスポーツはつくづく合理的なスポーツだなあと思う。

例外はあっても、基本的には実力のある者が生き残っていけるからだ。

 

モータースポーツは違う。持って生まれた才能や実力よりも、いくら払えるかで結果が決まってくるからだ。金は天下の回りものとはよく言うが、確かに金があればマシンも速くできるし、金があれば名のある一流レーサーを雇う事もできる。

 

紛れもなく天才的な才能を持ったレーサーが、金がないという理由だけでシートをクビになっていくのを何回も見た。

 

無論チーム側だって金が無ければ運営ができないのは分かる。ただ、モータースポーツは他のスポーツに比べて金が無茶苦茶かかる。だからよく「モータースポーツは金持ちの遊び」と揶揄されるのだ。

 

それに世界的な景気は年々悪化しているのに、レースにかかる費用は年々増加している。一つのレースに出場するのに、何億もの金を払うことさえある。走れば走るほど金は無くなるのに、出費だけは増えていく。それが僕がレースを辞めた一因である。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふうん…………」

 

 

川崎さんが何かを感じたのか、深く考え込むような様子。

 

「あんたさ、随分変わったよね」

「そうかな?」

「昔はもっと大人しかったし、そんなに喋らなかったし」

 

確かに彼女の記憶にある港ミカは、今のようなハンサムな笑顔で饒舌に喋り続ける今の自分ではなく、モジモジと黙り込み、人の影に隠れるように様子を窺う、気弱で大人しい少年だったと思う。彼女とは同年齢だが、弟と妹が一人ずついる姉御気質な彼女は僕を「手のかかる弟」みたいに思っていたのだろう。

 

しかし、あれからはもう何年も経つ。多少なりとも変わっていたとしても、何の不思議もない。

 

「どんな生物も進化する。誰だってね」

「……もう少し優しかったよ」

「…………僕は今だって優しいよ?いや、それだけじゃない。こうして時が経って大きくなって、色んなものが見えた。今の僕なら本物の優しさだって」

「もういい。そんなんじゃない………妹を迎えに行かなきゃいけないから」

僕の台詞を遮って、川崎さんがバンッと手を付いて立ち上がった。引き留めようとも思ったが、やはり声が出ない。テーブルには、二人分ではお釣りが来るくらいのコインが置かれていた。

 

「そんなんじゃない、か…………」

 

ぼそっと呟いた。何を言われても僕が奢るつもりだったのに。空は曇り気味だ。あと数時間もすれば雨が降るだろう。様々な感情を乗せた彼女の背中を、黙って見送るしか無かった。

 

 

 

 

 

 

「港、ちょっと良いか?」

 

あれから1週間程度が経過したある日。帰りのホームルームを終えて帰り支度をしていた時のことだ。平塚先生に呼び出された。

 

「なんでしょうか?」

「ちょっと話があるんだ。終わったら、生徒指導室に来てくれないか?」

 

金曜日は誰だって浮かれるもの。女の子たちからカラオケに行かない?と誘われてウキウキ気分だったのだが、先生からの呼び出しなら仕方ない。取り敢えず了解しておく。

 

「すいません。先生から呼び出されちゃって……また今度誘ってください」

女の子に断りを入れると、カバンを肩に引っ掛け、教えてもらった記憶を頼りに生徒指導室を目指す。

 

「あっ……」

教室を出ようして、彼女と鉢合わせる。僕よりも少し低いぐらい、女性にしては高身長な彼女。昔と比べて背が伸びて、少しは成長したと思う。けど、

 

 

「どうも……川崎さん」

「……………」

思えばファミレスでの一件以来、彼女とは口を聞いていなかった。他の女の子にはベラベラと話が弾むのに、彼女にだけは緊張してしまう。

川崎さんは昔とさほど変わらないようにも見えるが、どこか大人びたようにも見える。離れた期間だけ、置いて行かれてしまったようにも感じた。

彼女は何も言わず、じっとこちらを見たまま。

彼女は今の僕を『気持ち悪い』と言った。そんな事は久方ぶりに言われたような気がする。今の僕を見て何を思うのか。約束を果たさないでヘラヘラと笑ってるのね、なんて嘲笑うのか、呆れるのか。

 

「先生に呼ばれてるんでしょ?行ったら?」

川崎さんはにべもなく言う。僕の記憶の中の彼女は、素っ気ないけどもう少し優しさがあったはず。それが薄れている気がする。さっさと終わらせたいのか。

「そうだね……ごめん、川崎さん」

 

気のせいか、眉間が寄った気がした。そのまま彼女は踵を返して教室を出ていってしまう。追いかけた方がいいのか悩むが、足が出ない。結局そのまま、彼女の青みがかったポニーテールを見送ることしかできなかった。

 

 

 しかし話とはなんだろうか?平塚先生は生活指導担当だが、表立ったトラブルは何も起こしていないはず。外国育ちの僕にとって平塚先生の担当科目の国語は確かに苦手だが、かと言って補習が必要なほどでもない。僕よりも成績が下の者ならいくらでも居る。転校生ならではの書類とかガイダンスか何かか?それならもっと前でもいいはずだが……

 

 思いながら歩くと、目的地に着いていた。確かここだったはずだ。ノックをすると、平塚先生の「開いてるぞ」の声が中から聞こえてきた。失礼します、とひと声かけてドアを開ける。

 

 

 

「わざわざ来てもらってすまんな、港。立ち話もなんだから、そこへ座ってくれ」

「いえいえ、こちらこそすいませんね。で、お話と言うのは?」

 

 腰の低いビジネスマンのような人好きのする笑顔を浮かべると、平塚先生は微妙そうな顔をする。

……これは騙されない人だ。僕は瞬時に見て取った。あまりいい気分にはならないが、まあいい。

 

「…………港、君は仮面を被っているな」

 

………仮面?よく意味が分からない。

 

「どう言うことです?」

「我々教師には、転校してきた生徒が馴染めるように、あるいは学園生活において支障が無いようにその生徒の情報が予め回ってくるんだ。

……君が転校してきた時、主幹から言われたんだよ。『ちょっと問題のある生徒なので、注意してくださいね』ってな。ここまで言えば、君なら分かるだろう?」

 

 そう言うことか。

可能性自体は考えていないわけでも無かったが、こんないきなり釘を刺されるとは予想して無かった。どう言えばいいか。

 

「それは……生徒同士の問題でもですか?」

「無論そうだ。情報を見させてもらったが、随分とモテるそうだな」

「そんな事まで書いてあるんですか?」

「その年齢でこんな大量の痴情の縺れを抱えた生徒を見れば、こちら側も黙って見てるわけにはいかなくてね」

「……なるほど、全てお見通しですね」

 

 前の学校では、それこそ週にとっかえひっかえするように女の子との付き合いをしていた。自分で言うのもなんだが何しろこの顔だ。女の子が放って置くわけがない。それがバレて大騒動になり、転校を余儀なくされたのだ。

 

 この進学校を選んだ理由は勿論、一重に女子生徒の顔面偏差値の高さだ。顔面偏差値だけなら近所の海浜総合高校も選択肢に上がっていたが、自宅からの距離の兼ね合いも考えて総武高校を選択したわけだが、流石に彼女、川崎沙希がそれも同じクラスにいることまでは予想できなかった。

 

 この教師は、自分の生徒に生半可な気持ちで手を出すなと言っているのだろう。まあそこまで言われては仕方ない。

 

「まあ、そこまで証拠があるなら仕方ありませんね。大事にならないよう、プラトニックな関係を心がけておきますよ」

あくまでも僕はね、と心の中で付け加える。

 

「ふう……君はあいつによく似ているな。ことに被るという点に於いてはあいつ以上かもしれん。」

 

 …あいつ?

 相変わらずにやりと意地の悪い笑みを浮かべ続けるこの女教師の言った意味はわからなかったけれど、のらりくらりとかわせるものでもないだろう。その「あいつ」なる人物が男なら、恐らく僕と同じようなハンサムでダンディなナイスガイで、女なら僕を女にしたようなキュートでラブリーなセクシーガールってところか。

 

「アイツってドイツですか?それともイギリス?フランス?イタリア?僕はフィンランド人ですが」

「くだらんシャレはいい」

気を和ませるためにおちゃらける僕の言葉はピシャリと遮られてしまった。

 

 

 

 

 

 

「ああそうだ。話は変わるが、最近走ってるか?」

 

またいきなりド直球な質問をぶつけられた。

 

「………はあ?」

「いやなに、君は結構有名人なんだぞ、ミカ・ユハン・トイヴォネンくん?」

 

ニタニタ笑いつつ、僕のフルネームを言う。「トイヴォネン」と言う名前は、父の名字だ。だが学校では母方の「港」と言う名字を使っている。この名前を知る者は、レース関係者ぐらいしかいないはずだが……

 

「こう見えて私は結構モータースポーツが好きでね。君の噂は意外と知ってたぞ」

 

 

自動車が好きな女性はそれほど多くはない。それに日本という国は自動車大国のくせにモータースポーツへの認知度が限りなく低い。未だに日本のF1ファンの記憶は、アイルトン・セナとかミハエル・シューマッハで止まってるぐらいなのだから。

 

「日本の血が流れている君には、中々注目していたんだぞ?カート時代にはあのミカ・ハッキネンから『君はいつかF1に乗れる』とまで言われていたんだとか。突然レース界を辞めて行方知れずだったから気にしてたが、いやあまさかこんな所で会えるとはな」

 

ニコニコとした笑顔で、僕の昔話を語り始める平塚先生。同じ名前を持つ、偉大な故郷の英雄との会話は今でも忘れていない。子供心に感激したものだ。だけどあの頃の僕ならいざ知らず、今の僕は違うのだ。

 

「もう、レースは辞めたんですよ」

「そうか……君ほどの才能が、残念だな」

 

ふっと平塚先生は寂しそうな顔をする。その顔に、僕は思わず顔を背けてしまう。

 

もう、終わったことだ。僕は自分に言い聞かせる。

 

 

 

「さて、話を戻そう。という訳だから港。

君には奉仕活動を命じる。反論は一切受け付けん」

「奉仕活動……ボランティア、ですか?でも一体どうやって?」

「それを今から説明してやる。ついてこい。」

 

クイッと指を曲げて指示してくる。ふぅ、仕方ないか。

 

 廊下の窓を見ていると、雲行きが怪しい。どうやら台風が来ているようだ。今夜はヘビーウエットな路面になるだろう。

 

「お前は確か、部活はやっていなかったな?」

「ええ、特に今のところは」

「じゃあ、丁度いいな」

「部活に入るんですか?」

「ああ、お前の腐った性根は叩き直す必要があるからな」

 

腐った性根か。まあ前の学校での出来事を見れば、そう判断しても仕方ないかも知れない。

 

「それにこの部活には、この学校一番の美少女がいるぞ」

どうだ、入る気になったろう?とやたらとでかい胸を張る平塚先生。こんな調子じゃなけりゃ、男には困らないのにな。

 

「先生も美人ですよ」

「こらこら、教師を口説くもんじゃない」

「いえいえ、平塚先生は美人です。僕が10年早く生まれてれば、惚れていたと思いますよ」

「そ、そうか……………」

平塚先生は顔を赤くしてしまう。なんだ、まんざらでもないらしい。この人意外とチョロいのね。この顔でこんなセリフを言われて顔を赤くしないのは母と妹ぐらいだ。ああ、川崎さんもか。

「まあ第三夫人くらいなら、してあげてもイイッ!?」

 

平塚先生渾身の裏拳が、僕の高い鼻スレスレで止まる。世にも情けない素っ頓狂な声を上げてしまった。

「次は当てるからな?」

「は、はい。すみませんでした」

背中にオーラを浮かべ、にこやかな笑顔の平塚先生に対して、僕は黙って頷くしか出来なくなる。先生が暴力を振るうのは駄目だとは思うが、流石に僕も調子に乗り過ぎたらしい。やれやれ、こんな事さえなければ、結婚できるのになこの人………

 

やや離れた所にある、古ぼけた教室だ。特に看板もない。ここの掃除当番でもさせようと言うのか?中からは女の子の話す声が聞こえてくる。ここで一体何をしようと言うのか。

 

「着いたぞ。ここだ」

「どんな部活なんですか?」

「入れば分かる」

 

平塚先生は、ガラッと扉を開いた。

 

 

 

 

 

「ヒッキーはさ、もっと外出たほうがいいよ絶対。なんかビタミンC?作るらしいよ。」

「それは多分ビタミンDだけどな。ビタミンC作るとかお前レモンちゃんかよ。人は体内でビタミンC生成しねぇんだよ。」

「ちなみにビタミンDは週二回、30分くらい日に当たるだけで十分作れるんだぞ。

……じゃなかった、お前たちまだいたんだな。」

 

 しれっと生徒たちの会話に割り込んでいく平塚先生と、ノックすらされ無い事に驚きもしない彼女たちが、一斉にこちらを見る。

 

 

「平塚先生、入るときはノックをとお願いしたはずですが……」

 

鈴がなるような声がして、その中にいた読書をしていた黒髪の美少女が顔を上げた。

 

「ああ、すまんすまん」

 

平塚先生はニヤニヤと笑った顔ででドアをコンコンと叩く。

部屋の中は後ろにダンボールが積まれ、椅子が3つあるだけの殺風景な部屋。長机も無いそこに女二人と男一人が座っている。その内の茶髪をお団子に結んだ女子生徒と、黒髪にアホ毛がピョコンと立った男子生徒は知った顔だ。

 

「それで、そのヘラヘラした外国人の方は?」

外国人と言われて一瞬ムッとしてしまうが、美人に対して声を荒げるのは僕の中で最も最低な行為だ。すぐに笑顔に切り替える。

 

「2年F組の港ミカと申します。父はフィンランド人なので、まあ外国人は正解かな」

にこやかな笑顔で、訂正までしてやった。普通に考えて彼女の発言は怒っていいものだが、まあ勘弁してやる。

 

「あれっ!?ミカっち!?」

驚いているのは茶髪お団子の女子生徒。確か同じクラスメイトだったはず。

「おや、結衣さん。結衣さんもこの部活だったんですか?」

「そうだよ!ミカっちも奉仕部入るの?」

やたらと元気のいい彼女は、クラス内のスクールカースト上位に所属する。見てくれは確かに充分美少女の部類に入り、しかも結構な巨乳。密かに男子人気は高い。親しい人をあだ名で呼ぶ癖があり、何故か僕はミカっちと言うあだ名を頂戴した。

 

そう言えば奉仕部と言うのかこの部活は。そんな部活は聞いたことがないが……

「奉仕部って言うんですか?」

「そうだ。今日は新入部員を連れてきたから紹介しようと思ってな」

「またですか?男性は比企谷君だけで手一杯なんですが」

「おいそれはどう言う事だ雪ノ下?」

 

比企谷君と呼ばれた男子生徒が突っ込んだ。思い出した。たし名前は比企谷八幡で、同じクラスの男子。顔立ちはまあまあだが何というか、卑屈な所がある男だ。ヒキタニじゃなく、ヒキガヤだったが。面倒くさいので八幡くんと呼ばせてもらおう。

 

楽しそうに笑う平塚先生は、僕がここに連れて来られた経緯を説明し始める。

「ーーーーとまあそんなわけで、彼の問題を解決してやって欲しいんだ。この男は見た目こそ輝いているが、内面はスケベでゲスでおまけに比企谷以上に性根が腐りきっているからな」

随分とひどい言い分だが、まああの情報を見られたら誰でもそう思うだろう。

「あのー、俺もサラッとディスられたんですが」

「つまり、貴方の人として致命的に腐りきった点を叩き直せばいいのね?」

相変わらずクールな様子の雪ノ下雪乃さん。腰まで伸びた黒髪が美しい。

「ハハハ、雪ノ下さんは辛辣ですねえ」

「貴方、その余裕ぶった態度、やめてもらえるかしら?実に不愉快だわ」

「これでも緊張してるんですよ?学年主席にして学年一の美少女の雪ノ下雪乃さんにお会いできて」

「貴方、私の名前を知ってるの?ストーカーかしら」

「学年主席の名前くらい僕でも知ってますよ。確か……英語が2位でしたっけ?」

 

ピキッと雪ノ下さんのこめかみに筋が入ったのがわかった。

ちなみに、この僕はお得意のチャーミングスマイルである。

 

「ミ、ミカっち、やめといたほうが」

青い顔をした結衣さんが、顔を引きつらせながら制止するが、こうなったら面白くてやめられない。

総武高校では学年度初めにテストがあるのだが、そこで僕は転校して間もないのにも関わらず、英語で満点を取り学年1位だったのだ。ちなみに僕は自慢じゃないが、日本語、英語、フィンランド語の他にドイツ語、イタリア語、フランス語が流暢に話せ、少しならロシア語とスペイン語も話せる。

 

「いやいや、その他は全部雪ノ下さんが上だし、僕はヘルシンキの生まれで両親と妹とは英語ですし、たまたまですよ。相手が悪かったですね。ちなみに僕はフィンランド語も話せるんですよ」

相手を褒めているようで、実は貶している僕の言葉に雪ノ下さんはどう反応するか。彼女はパタンと読んでいた本を閉じる。

 

「この世に英語が話せる人が、一体どれだけいると思うのかしら?」

何事もないように振る舞ってはいるが、実際は相当気にしているのだろう。僅かながら本を持つ指がピクピクと動いている。この人は相当な負けず嫌いだ。見れば分かる。

 

「そりゃあそうですよ。この世界で一番ポピュラーな言語ですからね。雪ノ下さんが落ち込む必要はありませんよ。例え僕より点数が4点も低かったとしてもね」

 

今年は英語が難しかったらしく、平均点が一様に低かった。そこで満点を取った僕は周囲から驚きの目で見られた。

 

ただ、そもそも英語が母国語な僕の中では、日本の学校の英語の授業はあまりにもレベルが低すぎる。僕からしてみれば、あいうえおを高校生でやるのと同じくらい。せいぜい日本語訳を英語に直すのが面倒くさいくらいで、僕からしてみれば半分寝てても満点が取れるようなテストであった。

 

しかし美人は怒ったとしても美人だ。あまりに完璧すぎても人間はつまらない。少し劣った面があれば、より人間は深間が増すのだ。

「八幡くん、あの人って面白いですね」

隣の席にいた八幡くんにこっそり話しかける。

「………よくお前もあんなこと言えるな」

「たかが一科目負けただけですよ?あんなにムキになられても」

「…………………もう好きにしろ」

 

ため息混じりに呆れる八幡くんを尻目に、僕は微笑んでふんぞり返る。まだ雪ノ下さんは怒っているらしく、それを結衣さんが何とか宥めている。中々面白い光景だ。

 

兎も角僕は、今日から奉仕部の一員になった。割と楽しくやれそうだ。

 

 

 

 

 

 

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