気弱だった僕と、まっすぐな彼女の青春ラブコメはまちがっている。   作:レオン・アーノルド・スチュアート

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思いがけずに両手に花だったりして。

 

待ち合わせ場所の駅前。留美さんの自宅の最寄り駅まで迎えに来た。

 

留美さんから「デートがしたい」なんて電話がかかってきたときはビックリしたのだが、普段の留美さんと違って、いじらしく、精一杯背伸びをした感じで、まあかわいいもんだ。

デートなんてカッコつけた言い方だが、要するに一緒に遊ぶってとこか。

 

数分ほどで留美さんがやって来た。小学生らしい格好だが、彼女なりに気合を入れてきたのか、どことなく大人びたようにも見える。

 

「おはよう、ミカ」

「おはよう御座います、留美さん」

 

思えば、僕はそんなに子供が好きなわけではない。一応留美さん曰くデートなので、ここはきっちりエスコートしよう。

「では参りましょうか、マドモアゼル」

「その言い方何?」

 

小学生にしてはかなり賢いが、この子は妙に冷めたとこがある。

「フランス語で、お嬢さんです。紳士の嗜みですよ」

「そんな無理しなくていいよ」

 

……………小学生にフォローされるとは、なんとも今日の僕は情けない。まあいいか、自然体で行こう。

 

 

 

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 

「留美さんは服とか興味あるんですか?」

「普通。お母さんとよく買いに来る」

 

駅前のショッピングモールに来ている。女の子と一緒なら、ウィンドウショッピングも楽しいものだ。

周りの僕らを見る目が、どこか微笑ましく映る。年齢や体格差もあり、カップルではなく年の離れた妹の買い物に付き合ってあげてるお兄さんのように見えるのだろう。

 

無論、僕のルックスがそう見せているのかもしれないが。

 

 

 

「………かわいい」

「ほほう」

雑貨屋さんで留美さんが興味を示すのは、明るい茶色のテディベア。つまり、僕はどうすればいいかはよーくわかる。

 

「貸してごらん」

留美さんは察したのか。

「えっ?いいよ……大丈夫」

人申し訳無さそうな顔で止めようとする。

 

「ハハ、遠慮しちゃいけません。君ぐらいの年齢なら、わがまま言って困らせるぐらいじゃなきゃ。それに」

最後のはとっときの必殺スマイル。

 

「デートでしょう?」

「!………………ありがとう……………」

「どういたしまして」

 

そう言って僕はテディベアをレジに持っていく。僕は女の子に金は惜しまない主義なのだ。

 

レジの女性店員は僕と留美さんを見て、ニコニコと愛想のいい顔。20代くらいだろうか。ブリーチの髪の快活そうな人だ。

「かわいい妹さんですね」

「はは、そうですか?」

「お嬢ちゃん、こんな素敵なお兄ちゃんに遊んでもらえてよかったね」

 

すると留美さんは、ちょっとムッとした顔で。

「違います………デートですから」

 

 

 

それに思わず、僕と女性店員は目を見合わせてクスクス笑い合う。やれやれ、おませさんだな。

「すみません、年の割にマセたやつでしてね。生意気ばっかり言うんですよ」

「いえいえ、私達よりずっと大人ですよ。お嬢ちゃん、デート頑張ってね!」

女性店員は可愛らしくガッツポーズをした。留美さんが居なけりゃ、連絡先を聞いたんだが。まあ後で一人で来よう。

 

雑貨屋を出ると、女性店員と同僚らしき女の人の話し声が聞こえてくる。

 

『物凄いイケメンだったよねー、あの人』

『そうそう!モデルかなんかだと思ったよ!』

『あの子がデートって言ってたの、なんとなく分かるなぁ』

 

こうした噂は、決して悪い気はしない。まあ、結局は顔が良ければ何だっていいのだ。

 

 

「………浮かれたりしない」

「別に浮かれちゃいませんよ」

 

年齢の割に、この子はやたらと鋭い。同学年と話が合わないわけだ。

 

「友達とか居るんですか?」

「………八幡とかミカとかいる」

「同学年は?」

「別にいらない」

「……そうか」

 

友人は必要ないとは言えないが、無理に増やしすぎても意味はない。何事もやりすぎ、やらなすぎは良くないのだ。

 

年上としか話が合わないなら、それは頭がよく大人びた思考の持ち主。

同い年としか話が合わないなら、それは年相応の体質の持ち主。

年下としか話が合わないなら、それは純粋で純真な心の持ち主。

 

何がだめで、何がいいとは付けない。人はそれ。それはそれ。みんな違ってみんないい。素晴らしいじゃないか。

 

 

[newpage]

 

少しだが、留美さんも自分を出せるようになってきた。アイスが食べたいなんて言い出し始めたときはちょっぴり嬉しかったな。

 

外に置いてあるイートインスペースに、バニラアイスを持ってちょこんと座る留美さん。そんな留美さんに、僕はスマホのシャッターを押した。

 

「何したの?」

「いえ、素敵だったので」

 

スマホの画面には、アイスを嬉しそうに眺める留美さんの姿が。

「写真撮ってくれって言われたでしょう?お母さんに」

「あ…………」

「後で現像してプレゼントしますよ」

 

にこやかに微笑えむ。

すると留美さん、今度はアイス片手にこちらの座席に座ってきた。

「ちょっと貸して」

そう言って、留美さんは僕とのツーショット写真を撮った。

 

「こっちがいい」

ちょっとビックリした僕の顔に、微笑んだ顔の留美さん。これはいただけない。百万ドル出しても惜しくない僕の笑顔ではないからだ。

「僕の顔が笑顔じゃないですよ。取り直しません?」

「こっちの顔がいい」

「どうしてまた?」

「この顔は……作ってないから」

 

作ってないから?

「いつものミカの顔は、何か嘘ついてる感じがする。」

「…………………」

「林間学校のときの、昔話してたときの顔のほうがいい」

 

昔話。あんな嫌な思い出を。いや、嫌ではなかった。あの子と出会えて。

 

いやしかし、あの子とは今どうなってたか。

 

………今はそんなこと考えるのはよそう。

 

 

 

「あっ」

 

そして、こんな時に何故か出会ってしまう。

 

「ど、どうも………サ、川崎さん」

 

「………………どうしたの、こんなとこで」

今この人のことを思い出していたのに。まさかこんなところで会うとは、夢にまで思わなかった。

 

「川崎さんこそ、こんなところでどうかしたんですか?」

「予備校だよ。ちょうど今日は午前で終わったの」

「あー、そうですか……ちゃんと行ってるんですね。良かった良かった」

「行ってるよ。あんたらに言われてから」

川崎さんは呆れた様子でこちらを見る。あのときのマック以来、彼女とこうやって話すのは無かったと思う。なぜだかはわからないが、やたらと緊張が抜けない。

 

「で、その子は?」

「この子ですか?」

「その口調キモいって」

少しキツ目な女性の川崎さんを相手に、留美さんは僕の後ろに隠れがちになる。

 

「……………鶴見留美さんだよ。こないだ林間学校へ行ったんですが、その時に知り合ったんだ」

「……へえ、あんたが子供と遊ぶなんて珍しいね」

「…………そうだね」

 

すると川崎さんは屈んで、留美さんと視線を合わせる。

「あたしは川崎沙希。こいつのクラスメートだよ。よろしくね」

「………鶴見留美です。よろしく………」

そう言えば川崎さんは、幼稚園児くらいの妹さんもいる。子供の扱いには慣れているのだろう。人見知りが再発した留美さんの表情が、少し緩んだ気がした。

「こいつとこんな場所で、何してたの?」

「…………デート」

「デート?」

「ああ、いやいや!違うんですよ!」

怪訝そうにこちらを向いてきた川崎さんに、僕はとっさに言い訳を考える。

 

「デートと行っても、そんなイメージのデートではなく……ちょっとした遊びで」

「私とは遊びなの?」

悲しげな目を向ける留美さん。そんな目に弱い僕は、ますます言い訳が激しくなる。

 

「そ、そうではなくてね!この子は年齢の割におませさんというか、その。大人びた言い回しが好きでして」

「ふーん。まあデートでも何でもいいけどさ」

川崎さんの冷めた目に僕はまた焦り、余計な言わなくてもいいことまで喋ってしまう。

 

「そ、そうだ!そろそろお昼ですよね?ご一緒に食事でもどうでしょう?」

また馬鹿なことを。こんなので川崎さんが了承するはずないじゃないか。僕の大ばか野郎。

 

「……………別にいいよ」

「………へ?」

「だから、別にいいよ。今日は暇だし」

「し、しかし……大志くんとか京華さんは」

「大志は中学の友達と遊びに行ってるし、京華は両親と出かけてる。どうせ家にいてもやることないし、大丈夫だよ」

「そ、そうなの………」

思いもよらない。まさか、こんな展開になるとは。

 

「……何、嫌なの」

「へ!?いやいや!とんでもない!!そんなことは絶対にないよ!」

「じゃあ、とっとと行くよ」

「あ、いや、留美さんはどうか」

「私も大丈夫。別に気にしてない」

「あ、いや……」

「あんたも大丈夫なんでしょ?じゃあ問題ないじゃない」

「そ、そうね……」

「………………どうせあんたは慣れてるだろうし」

「ん?」

「何でもない」

 

[newpage]

 

川崎さんの言葉はよく聞き取れなかったが、まあそんなのはどうだっていい。

 

川崎さんも留美さんもいいとは言わないと思っていたのだが、何でか知らないが期せずして両手に花の状態になってしまった。

こんなのは普段の僕なら喜んでやるのに、何故か緊張してしまう。

 

まあ両手に花とは言っても、留美さんを僕と川崎さんで挟むように歩いているため、両手に花というより家族みたいな感じになっている。

 

 

にしても………………

「へえ……留美は比企谷とコイツに」

「うん、助けてもらったの」

「ふーん………あの二人がここまでするとはね……」

「沙希はミカとどんな関係なの?」

「あたし?…………」

 

少し迷った感じの川崎さん。てか、いつの間にか川崎さんのことも名前呼びしている。

 

「ただのクラスメートだよ。それ以上でもそれ以下でもない」

「ふーん…………」

 

留美さんは少し、疑わしげな目をしている。僕と川崎さんの本当の関係について、内心では思うところがだろうか。

 

まあ無理もない。僕の余りにも拙い口説きに、何故か応じたからだ。普通の人間なら、あんな下手くそな口説きをしてくるようなやつに着いてくる者はいないだろう。

 

ところで、この二人は随分あっさりと打ち解けたなぁと思う。気が付けば、「沙希」「留美」と名前で呼び合っている。川崎さんは子供の扱いには慣れているから分かるが、留美も沙希にはすぐに懐いた様子だ。僕の友達と知って、すぐに信用したのか。

 

思ったんだが、やはりこの二人はどこか似ている。少しスレ気味なところとか、奥は優しいところとか。そうか、似ていると感じた僕だけじゃない。川崎さんでもあったのか。

 

「……ミカ?」

「どうしたの?ボケーッとして」

「へっ?」

こんなことを考えてたら、二人から声をかけられた。いけないいけない。仮にもデートなんだ。楽しませなくちゃ。

 

「すみません。お昼ごはん、どこにしようか迷ってましてね」

さあさあ、行きましょう。と二人の背中を押す僕は、後ろから僕の背中を見つめる女性の視線に全く気が付かなかった。

 

[newpage]

 

そうして二人をファミレスへ連れてきた。

流石にここまでくれば、僕も慣れてくる。注文した料理を待つ間他愛のない話をし、川崎さんがトイレに行ったとき、留美さんが話しかけてきた。

 

「神様みたいな女の子って、あの人でしょ?」

「ブッ!!!」

飲んでいたコーラを、思わず吹き出してしまった。

 

「ゲホッ、ゲホッ!……な、なな何言ってるんですか君は!」

「見たら分かるよ。あの人のこと好きなんでしょ」

「いやだからその…………」

 

この子、前に言ってたことを覚えてたか。やはりこの子は年齢の割にかなり鋭い。隠してはおけない気がする。

「………幼馴染なのは事実ですよ」

「やっぱり」

「けど、好きとかそういったというよりは……」

「嫌いなの?」

「いや!そんなことは断じて!……あっ」

 

「…………何やってんの、二人して」

トイレを済ませた川崎さんが戻ってきていた。

「別に、大したことは。この子がまたマセた事言うものでして」

「事実を言っただけ」

「ハァ……まあ何でもいいけどさ」

呆れた様子の川崎さん。さっきの会話は聞かれなかったか。すると、店員さんが頼んだ料理を持ってきた。

「ああ、ほらほら!料理が来ましたよ!」

何とか僕はごまかす。やれやれ、今日の僕は色々と残念だな。こんなんじゃあダメだ、全く。

 

[newpage]

 

スパゲティを口に運びながら窓の外を見ると、一台のクルマが停車した。

 

S13のシルビアである。しかもほぼノーマルに近い。

見た感じは、後期シリーズのターボモデルだろうか。純正ホイールはシルバー基調。結構好きなデザインだ。

 

あの車は下手にゴテついたパーツを付けるよりも、ノーマルの形状がずっとかっこいい。あんなシャープでエッジの効いたフロントマスクは、今の新型車には無い。ハッキリ言って、今の車よりずっとかっこいい。

 

あの時代の日産車は、控えめに行って最強であった。「901運動」と言って、あの時期に生まれたクルマたちは、のちの歴史に残る名車ばかりである。シルビア、180SX、スカイライン、セドリック、グロリア、サニー、ブルーバード、レパード等々………

 

今の日産に、こんな力作が出来るだろうか。無理だろうな。あんなフランス人に散々やられて骨抜きにされた今の会社では、あんなこと無理だろう。

 

電気自動車やらハイブリッドやらが言われて久しい自動車業界だが、僕はその手の車には一切興味がない。

やはり自動車は内燃機関に限る。

燃費が悪くて何が悪い。音がうるさくて何が悪い。環境に悪くて何が悪い。僕は大好きなんだ。

 

 

「ミカ?」

「………えっ!はい!」

気がつくと、またもや呆れたようにこちらを見る二人。

 

「またボケっとしてたよ」

「いやあ……ちょっとね」

「お外見てたの?」

留美さんはそう言って、窓の外を指差す。

 

「クルマ、好きなの?」

「ええっ?いやまあ、好きですけど」

「やっぱり」

「どうして分かるんです?川崎さん」

「………あんたのことはすぐ分かるよ」

そういや、僕と川崎さんは幼馴染である。そりゃあ、そうだ。僕の好みはなんでも知ってる。

 

「確かに、かっこいい」

「!留美さんもそう思いますか」

興味を示してくれた留美さんに、僕は思わず嬉しくなってしまう。

「私はクルマとか殆知らないけど」

「いやあ、あのクルマはね……………………」

 

そう言って僕のクルマ談義は始まった。クルマに興味を持ってくれたことが、何よりも嬉しかった。よく分からない専門用語も交えてしまう。いつしかレーサーのときの運転話までし始めてしまう。いつもの僕はこんなことはやらない。女性側が興味ないことを話しても意味がないからだ。

 

「……………楽しそうだね」

「! すみません。二人共楽しくないですか?」

いけない。自分の世界に入ってしまっていた。こんなことをやれば確実に嫌われる。

「いや、凄い楽しいよ」

「うん。ミカがすごく楽しそうに話すから、こっちまで楽しくなる」

「………………」

気づけば二人の顔は笑顔になっていた。今日、二人のこんな顔は初めて見た気がする。

 

「やっぱさ、好きなこと喋ってるあんたが一番好きだよ」

「………」

「クルマの事話してるミカは、すごく楽しそう」

 

「ミカって昔、何してたの?」

「あれ?留美は聞かなかったっけ?コイツは昔ね、レースやってたんだけど」

「お、おい!沙希!」

「レース?」

「いいだろ?昔のことは」

「ふふふっ」

すると、川崎さんは噴き出し始めた。

 

「ど、どうしたの?」

「いや、昔みたいに呼んでくれてなって」

「昔?………」

「そ。気持ち悪い敬語なんか、あたしの前では使わなくていいよ。昔みたいに沙希って呼んで」

「………そうだね。ごめん」

 

「………私も」

「私のことも、留美でいい。敬語も、使わなくていいから」

「……………」

「敬語じゃないほうが、ミカはミカらしいから」

 

「運転の話ししてるミカは、敬語じゃないし。楽しそうだし」

 

 

 

 

運転が、楽しい。

 

ふと手を見ると、昔の記憶が蘇る。

 

[newpage]

 

高速コーナー、クルマが回る。

 

何回も回転して、もう止められない。コントロールができない。

 

そして、全身に強く打たれる凄まじい衝撃。僕の意識が黒い闇に吹き飛ぶ。

 

目が覚めると、病院のベットの上。僕は一週間ほど寝ていたらしい。

 

 

『ミカ・トイヴォネンはやはりダメだ』

 

『所詮は金持ちの道楽息子』

 

『金はあっても実力ではマックスに勝てない』

 

やめろ、やめてくれ。

 

みんな僕を否定する。たった一回で。

 

やめろ

 

やめろ

 

やめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろ………………………………………

 

誰か、助けて。

 

 

 

助けてください!

 

 

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 

「っっああああ…………………」

 

ダメだ、フラッシュバックで全身の痛みが甦る。思わず唸り声をあげ、テーブルに上半身を突っ伏してしまった。

 

 

 

「ミカ?!どうしたの!!」

 

「ちょっとミカ!しっかりしてよ!」

 

突然うずくまり、苦しみ始めた僕を見て、川崎さんと留美さんは慌てだす。

ファミレスは騒然となり、店員さんまで駆け付けてきた。

 

せっかくの両手に花デートは、極めて後味悪く終わったのであった。

 

 

 

 

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