闇深TSコトネさん、ガラルへ。   作:グランド・オブ・ミル

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序章
コワレルセカイ…


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あるところに、"コトネ"という少女がいました。ジョウト地方はワカバタウンという町で、母親と一緒に暮らしています。

 

彼女には生まれた時から不思議な記憶がありました。所謂前世の記憶というものです。

 

日本という国で男子学生として生き、『ポケットモンスター』というゲームシリーズを好んでプレイしていた記憶です。

 

そして彼女が生きるこの世界は、その記憶の中にあるゲームに酷似していました。

 

 

__ああ、俺はポケモンの世界に生まれ変わったのか。

 

 

少女はそう理解しました。

戸惑いこそあったものの、少女はすぐにこの世界に馴染みました。何せこの世界には生前大好きだったポケモン達が実際に息をして生活しているのです。嬉しくないわけがありません。

 

家で飼っているマリルを毎日猫可愛がりする少女はワカバタウンの名物になりました。

やがてヒビキという幼馴染ができても、少女の生活は変わりません。どんなポケモンも慈しみ、愛する少女はよくポケモン達から懐かれ、他の子供達より早めにポケモントレーナーになりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

歯車が狂い始めたのはその一年後、幼馴染のヒビキがウツギ博士からポケモンを譲り受け、ポケモントレーナーになった日でした。

 

それまで少女が生きてきた世界が急に変わり始めたのです。

昨日までちゃんと動いておしゃべりしてくれた町のおばさんが、突然道の真ん中に突っ立って動かず、話しかけても同じ言葉しかしゃべりません。

昨日まで密かに通っていた美味しい喫茶店がなくなり、基本的に利用できる施設がポケモンセンターとフレンドリィショップだけになりました。

 

急に世界が無機質で冷たいものに変化したのです。混乱する少女でしたが、その理由に気づきました。

 

 

__そうだった…、ここは"ゲーム"の世界だった…。

 

 

 

『ポケットモンスターHGSS』。ヒビキが主人公で自分はその幼馴染にあたる存在なのだと理解したのです。

ヒビキがトレーナーとなり、物語が始まったことがトリガーとなり、世界があるべき姿に変化したのだと。

 

その日から世界はヒビキを中心に回り始めます。ヒビキがチャンピオンとなり、栄光を得るためだけの世界です。

 

人々はヒビキをサポートするだけの人形に成り下がり、尊敬を集めていた各地のジムリーダーすらもヒビキの踏み台に過ぎません。伝説と謳われるポケモンもただのコレクションとしてヒビキに捕まえられました。

 

 

何もかも変わってしまった世界で、少女はたった一人取り残されてしまいました。人々はもう誰も少女を見てくれません。

ヒビキのためのテキスト、ヒビキのためのアクションをただ延々とくり返すだけです。

 

変貌してしまった世界への恐怖と、堪えきれない孤独に少女は泣き叫びました。いっそ少女も変わることができたらどんなに楽だったでしょうか。

 

 

幸いなことに、ポケモン達は変わっていませんでした。野生のポケモンも、他トレーナーのポケモンも、少女の手持ちになったポケモンも以前と変わらず少女に接してくれました。そんなポケモン達に救われ、少女はかろうじて立ち上がることができました。

 

 

 

 

 

『ポケットモンスター』というゲームは、シリーズを越えて育てたポケモンを輸送することができます。その設定がこの世界にも反映されたのか、少女はジョウト地方を飛び出すことができました。

 

もしかしたら他の地方は無事かもしれない。

 

そんな淡い期待を持って少女は様々な地方を旅しました。カントー、ホウエン、シンオウ、イッシュ、カロス、アローラ……。少女の記憶にある地方に片っ端から向かいました。

 

 

しかし、そのどの地方もゲームの世界へ、少女にとっての地獄と化していました。

主人公、主人公、主人公。どこまで行っても主人公のための世界が広がるだけでした。

 

田舎に住む10歳程度の少年少女が初めてのポケモンをもらい、ジムを巡り、悪の組織を叩きのめしてチャンピオンとなる。

そんな決まりきった流れが幾度となく繰り返されます。そこに少女が入り込む余地はありません。

 

だってここは主人公のための世界なのですから。

 

チャンピオンとしての栄光も、伝説のポケモンも、たった一人でもいいから自分を認知してほしいというささやかな願いさえも、少女は手にすることができませんでした。

何故なら少女は主人公の幼馴染。どんなに頑張ってもストーリーでちょっと出てきて消えるだけのモブキャラに過ぎないのです。

 

 

ある日、ついに少女は壊れて自殺をしようとしました。けれど、高いビルから飛び降りても、海に飛び込んでも、包丁で身体を刺しても死ぬことができません。

何故なら『ポケットモンスター』はCERO:A(全年齢対象)のゲーム。キャラクターが死ぬことなどあってはならないのです。

 

 

地獄のような世界を何年過ごしても、その生は終わることがありませんでした。

何故なら、この世界は"ゲーム"。定められたプログラムを延々と繰り返し続けます……。

 

 

 

死ぬことすらできなくなった少女は日に日に憔悴し、人格もボロボロと崩れていきました。何もする気が起きず、何日もただ海を見つめてぼーっと過ごします。

 

そんな少女を救ったのは、やはりポケモン達でした。多くの地方を旅する過程で手持ちになったポケモン達、彼らが心配そうに少女を囲っているのを見て、少女の目は光を取り戻します。

 

 

__俺が…、こいつらを守らないと。俺がいなくなったら、今度はこいつらが放り出されることになる……。

 

 

 

少女はポケモン達と生きることを決めたのです。

立ち直ることができた少女は、もう一度各地の地方を巡る旅に出ました。今度は多くのポケモン達と出会うための旅です。

 

 

 

そのためだけでなく、ポケモン達のための様々な技術も身につけました。

 

 

 

マッサージ店に毎日通い、そのやり方を目で見て覚えました。ガンテツの家に勝手に住みつき、ぼんぐりからボールを作る技術を盗みました。

 

ポフィンやポフレなどポケモンのためのお菓子もたくさん作って練習しました。

 

誰も見ていなくても前世の歌やダンスをポケモン達と踊り、たった一人でコンテストを開催しました。

 

例え栄光を掴めなくてもポケモン達と技を磨き、鍛え、たった一人でバトルの腕を極めました。

 

 

そんな生活が、一体何百年続いたでしょうか。人形の世界で少女はたった一人…。だけど側にはいつもポケモン達がいてくれました。少女にとって、それだけで十分でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

けれども世界は、少女からそんな生活さえも奪い去ります。

 

 

 

__なに……これ……

 

 

何の前触れもなく、世界がガラガラと崩壊し始めたのです。

建物が虫に食われたように穴だらけになり、しかしその穴は真っ黒な虚空な空間という異様なものです。

決まったテキストを吐くだけの道のおばさんが、「agstkたなまや8857jpjmw896tjnw」と意味不明な言語を話します。

道行く野良トレーナーの頭部がボコボコとバルーンのように膨らみ、異様で生理的に不快なグロい姿になりました。

 

 

 

 

"バグ"です。

 

ゲームというのは、緻密なプログラムの積み重ねでできています。その一つ一つのプログラムが正確な計算結果を出してくれるから、オブジェクトが正しい動きを返してゲームの世界が作られるのです。

 

ではその計算にミスが生じたら?

たった一つの間違いがプログラム全体の動きを狂わせ、たちまち崩壊してしまいます。

 

その結果が、少女の目の前で起きている現象です。何故こんなことが起きたのか、その理由は不明です。長い年月の経過でゲーム世界が劣化したのかもしれませんし、もしかしたら主人公の中の誰かが"バグ技"を使った可能性もあります。

 

 

 

崩壊はどんどん進み、少女が過ごしてきた世界はいとも簡単に消え去っていきます。

 

その影響は少女にもやってきました。人の形を保っていられなくなった少女の腕が、ぼとりと地面に落ちました。その断面から血は出ておらず、まるで人形のようです。

 

終わっていく世界と、自分も所詮人形の一部でしかなかったという事実を再確認して、少女は深い絶望に陥ります。

 

 

__はは……なんだよこれ……こんなの、どうすればよかったんだよ……こたえろよ…だれかこたえてくれよっ!!

 

 

ポケモン達に囲まれて、少女はひたすら叫びました。少女が何をしようが世界の崩壊は止まりません。

 

 

__なんでっ……なんでなんだよっ!! おれはただこいつらといきていたかっただけなのにっ……!!

 

 

人形と化した人々はこんな時でも何もしゃべりません。静かに終わっていく世界で、少女の泣き声だけが響いていました……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何もなくなった空で、きらりと"ねがいぼし"が光ったことに誰も気づきませんでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

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