真剣で私に恋しなさいとか言われてもな   作:怜哉

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ノリと勢いだけで書いた作品です。


日常は日常と認識した時点で日常ではなくなる

 

 

 

 

 

「しっあわせは〜、あっるいってこーない、だーからあっるいっていっくんっだよ〜」

 

 男がいた。

 うろ覚えの歌を機嫌良さそうに歌う、近場の高校の制服に身を包んだ青年だ。

 

「いっちにーちいっぽ、みーっかでさんほ。さーんほすすんで──」

 

「オラァアア!!!」

「死に晒せェえ!!」

「このダボがぁああ!!!」

 

 ふんふんとリズムに乗って歌う彼は今、屈強ななりをした男たちに怒鳴りつけられている。

 春の暖かな空の下。桜が散りゆく朝の通学路にて。

 麗らかな日和とは相容れず、殺気に塗れた男たちに囲まれていた。

 

 刀に槍、斧に弓、棍棒に鞭。果てはモーニングスターと、実に多種多様な武器で武装した男たちが、一斉に青年へと襲いかかる。

 

 それでもなお、青年は狼狽えない。

 ぐっと腰を下ろし膝を曲げ、そして

 

「──けっちらっした」

 

 一閃。

 蹴り上げた脚は旋風を巻き起こし、その風圧で襲い来る男たちを文字通り蹴散らした。

 

 

「うーん、いい天気だ。こんな日はなんだか良いことが起きそうな気がする」

 

 

 まるで何も無かったかのように。

 青年は大きく伸びをして、鞄を片手に歩き出す。

 

 また別の歌をうろ覚えながらにふんふんと歌って学校への道を行く彼の後ろには、無数の切り傷を負った男たちが倒れ伏していた。

 

「ぐっ...つえぇ...! アレが『豪脚』...武士娘が幅を効かせるここ川神で、唯一四天王とも互角にやり合えるっつー男の武人か...!」

 

 倒れていた男の一人が、何故か説明口調気味に口走る。

 その声が聞こえたのだろう。『豪脚』と呼ばれた青年はくるりと振り向き、今しがた喋った男を見た。

 

「お? んだよ、刈り取りきれてなかったか」

 

 言いながら、青年は足元にあった石ころを脚で軽く蹴り上げる。

 そのままリフティングのように石を弄んだ後、男目掛けて石を蹴った。

 蹴り飛ばされた石は男の額を捉え、男はそのまま倒れて動かなくなる。死んだわけではない。ただの気絶だ。その辺、青年はきちんと手加減している。

 

「まだまだだなぁ、俺も。これじゃあまたクソ親父に鼻でわらわれちまう」

 

 この青年が一蹴りで沈めた男たちは、それぞれが達人の域に達している者たちだった。

 それを軽く蹴散らしたにも関わらず、青年はため息なんぞ吐いてみせる。

 

 

 そんな光景も、ここ川神では珍しくもなんともない。

 あー、また決闘かー、今日もよく人が飛ぶなぁ。とまぁ、その程度の認識である。決闘罪って知ってるかお前ら。

 倒れている男たちもそのうち立ち上がり帰っていくだろうと、決闘の目撃者たちも興味を無くし、それぞれの道に戻っていく。

 

 が、そんな彼らが二度見をする事件が起きた。

 

「はーっはっはっは! 天から美少女とうじょーう!!」

 

 豪快な着地音と共に、どこからともなく──いや空からなのだが──美少女を名乗る女が降ってきた。

 美しい黒髪を靡かせ、自称美少女はズビシィッと奇っ怪な効果音が付きそうなポーズで青年を指差す。

 

「おはよう和樹! さぁ、死合おう!」

 

 自称美少女──武神・川神百代の姿を見て、通行人たちは一歩、そしてまた一歩と後ずさる。

 

「おはようモモ。よし、やろうか!」

 

 和樹と呼ばれた青年の、空よりも晴れ渡る笑顔を見て、通行人たちはとうとう背を向けて逃げ出した。

 

 瞬間、爆撃機にでも襲撃されたのかというほどの衝撃波が、川神の町に吹き荒れる。

 

 

 神奈川県 川神市。

 武人の蔓延るこの町は、今日も今日とて平和だった。

 

 

 

 

 




気が乗るか、何故か評価が良いとかいうバグが起きたら続き書きます。
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