テンションぶち上がったので投稿します。
六角和樹が川神院に初めて足を運んだのは、小学校三年の秋だった。
風間ファミリーなるグループに半ば強引に加入させられた和樹は、異様な強さを持つ川神百代に出会う。
和樹は相当に強い。
小学校三年生の時点で、表の格闘技世界チャンプとも互角に争えるであろうほどには強い。
だが、川神百代という、たった一つしか歳の違わない少女に、和樹は「勝てないかもしれない」と思わされた。
実際に戦ってみたわけではない。普段の身のこなしや、そして何より、その身に纏う〝気〟と呼ばれるモノの荒々しさが、彼女の実力を如実に語っている。
そこで和樹は百代に聞いた。
どこか道場にでも通っているのか、と。
すると彼女は、川神院という、武術総本山とも言われるほどの場所で、総代の孫娘として鍛錬していると教えてくれた。
「俺も川神院に連れていって欲しい。そろそろ、新しいことをしなきゃなって思ってたんだ」
和樹の目標は打倒父親だ。
だが今和樹が手ほどきを受けているのは、その打倒を掲げた父親である。
父を倒すために父に教わっているばかりでは、いつまで経ってもその背に追いつけない。
和樹の目に並々ならぬ熱意を感じた百代は、そこまでいうならと和樹を川神院へ案内した。
だが正直、和樹が川神院でやっていけるとは思っていなかった。
天賦の才に溢れる百代は、和樹に大した実力を感じなかったのだ。
以前、大和が言っていた「高校生と喧嘩して勝った」という情報。それすらも怪しいと思っている。
理由は、和樹の持つ気の総量だ。
気という力は、生きとし生けるもの全てが持っているものだ。
所謂「達人」などと呼ばれる者らは、この気を上手く使い、生身では有り得ないような動きを魅せる。
気の大きさと強さはイコールで結ばれる。さらに言うのなら、気の大きさと気のコントロールを乗算したものが「武力」である。
百代が感じ取った和樹の気の総量は、そこらの小学生が持っているものとそう変わらない。妹である川神一子と比べると見劣りするほどだ。
まぁ、もって三日だろうな。
そう思いながら、百代は川神院総代である祖父、川神鉄心に和樹を紹介する。
「はじめまして。六角和樹です」
礼儀正しく挨拶をする和樹に、鉄心はほぅと目を細めた。
「キミが和樹くんか。ふむふむ、確かによく鍛えられておるのぅ」
「? なんだジジィ、和樹のこと知ってたのか?」
祖父の口ぶりに百代が疑問を呈する。
和樹も、何故目の前の老人が自分のことを知っているような話し方をするのかと不思議に思った。
「和樹くんの父親とはちとした知り合いでの。昔はよくぶつかり合った...ま、喧嘩友達みたいなもんじゃな」
「親父と?」
鉄心の言葉に、和樹は拳を握りながら反応する。
「ちなみに、俺のクソ親父と貴方はどっちが強いですか?」
何を馬鹿なことを聞いているんだ、と百代は呆れた。
川神鉄心といえば、武神の名を持つ最強の武術家だ。昔はどうか知らないが、武神の名を護り続けてきた今の鉄心より強い者などいるわけがない。
「現時点であれば、キミの父親の方が強いかもしれんの。あいつ、キミを鍛えるに当たって、自分も鍛え直しているらしいから」
百代にとって、それは衝撃だった。
祖父は最強だと思っていたし、目標の一つだった。
そんな祖父が、あっさりと「自分の方が弱い」と認めてしまったのだ。
よく分からない感情が込み上げてくる。怒り、悲しみ、悔しさ。そういった負の感情がごちゃ混ぜになったような、力が抜けていくような感覚だ。
頭の中がごちゃごちゃになって、なんだか泣きそうにもなってくる。
そんな百代を見て、鉄心は笑った。
「なぁに、すぐに追い越せばいいだけの話。鍛え直しているとはいえ、やつは未だ現役の労働者よ。武術漬けのわしの方が、日々の成長は早いじゃろうて」
百代の頭をぐしゃぐしゃと乱暴に撫で回す。
周りから天才だなんだと持て囃されていても、百代は未だ十歳に満たない幼子だ。精神は成熟などしていない。
孫を悲しませまいと、本当に自分も鍛え直さなければなと決意したところで、和樹が割って入った。
「百代のおじいちゃん。俺を、川神院に入れてください」
「...ふむ。何故じゃ? キミには立派な師匠がおるじゃろう」
「その師匠をぶん殴って泣かせたいんです」
強い火の灯った目だ。
幼子とは思えない、絶対の決意が揺らめく瞳。
その瞳を見て、鉄心は和樹の川神院への入門を許可した。
元々来るものは拒んでいない。
ただ一つ、条件があると言う。
「そんなに難しいことではない。一度、わしと立ち会ってくれれば十分じゃ。キミの実力を測り、適切な師範代を付ける」
そう言われ、和樹と鉄心、ついでに百代は道場へと移動する。
そこには鍛錬中の門下たちがいたが、彼らも和樹に注目していた。
入門のために、武神・川神鉄心が立ち会いを求めるなど、未だかつて無いことだった。
しかもその相手が小学生ともなると、注目せざるを得ない。
周りの門下生には目もくれず、和樹は貸してもらった道着に着替えて、鉄心の前に立つ。
さすがに勝てるとは思っていない。だが、今の自分の実力が父親にどこまで通用するのか。それを確かめるには十分すぎる相手だ。
ルーと呼ばれた師範代の一人が、審判を勤める。
「それデハ、始メ!」
瞬間、和樹の姿が消えた。
門下生は何が起こったのかとキョロキョロし出すが、鉄心を始めとした師範代らは、しっかりと和樹の動きを目で追えていた。
和樹は上にいた。
開始の合図と共に跳躍し、天井に足を付けて立っている。
「随分と行儀の悪い」
「ごめんなさい」
謝った和樹は、天井を破壊するほどのバネで鉄心に向かって行く。
そこからかかと落としを繰り出し、鉄心に片手で止められた。
たった一合。それだけで、周りにいた門下生を吹き飛ばすほどの衝撃が生まれる。
立っていられたのは審判をしていたルーと百代だけ。その二人も、和樹の実力に驚きを隠せないでいる。
特に、百代の驚きようは凄かった。
あんぐりと口を開き、放心したように和樹を見ている。
それも仕方の無いことだ。つい先程までは微小だった和樹の気が、今は自分に迫るほどに膨れ上がっているのだから。
「上手く気を抑えていると思っておったが、これほどとはの」
鉄心も感心したように呟く。
和樹の実力は、まさに天才のそれ。自分が和樹くらいの歳の頃にここまでできただろうかと、孫娘と比肩する原石を前に舌を巻いた。
だが、鉄心は武術の頂点に立つ武神だ。いくら天才とはいえ、子供に負けるほど武神の名は軽くはない。
引こうとする和樹の足を掴む。
なんとか逃げ出そうと暴れる和樹だったが、空中では上手く動けない。逃げる術のない和樹は、そのまま易々と投げ飛ばされた。
壁に打ち付けられ、肺の空気が強制的に排出された。苦しみから目にうっすらと涙を浮かべる和樹を見て、鉄心は構えを解く。
「よろしい。和樹くん...いや、和樹よ。お前は今日より、このわしが修行を付けよう」
武神を震わせるほどの力を見せた和樹は、武神の下で鍛錬を積むこととなった。
切り悪い気もするけど2,000字くらい書いたのでぶん投げました。