調子に乗ったので投稿します。
和樹が川神院に通い始めてから、二年が経った。
変わったことといえば、京が隣県に引っ越してしまったこと。だがそれも、週末には必ず風間ファミリーで集まって遊ぶという習慣があったため、特に支障はない。相も変わらず仲良しグループでいられていた。
そしてもう一つ。
この二年で、もはや日常と化してきたものがあった。
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毎朝毎朝、飽きもせずに戦い続ける和樹と百代の姿だ。
同世代にまともに戦える者がおらず、少しずつフラストレーションが溜まってきていた百代が、初めて出会った同格の男子にちょっかいを出したことが始まりだった。
和樹としても、百代というほぼ同レベルの相手との試合は実りが多く魅力を感じており、やがて二人の試合は毎日行われるようになった。
ここ川神では、決闘などさして珍しくはない。名高い川神院の師範代や現武神・川神鉄心に勝って名を上げようとやってくる腕自慢が多いからだ。
物騒極まりないこの街で、子供の決闘は微笑ましいものがあった。
加えて、この二人の戦いは実に見応えがある。
片や、武神の孫にして次代の武神と言われる川神百代。
片や、現武神を唸らせるほどの実力を持つ六角和樹。
世代最強と噂される両雄の戦いは、格闘技の世界大会よりも観衆を魅せる。
二人の決闘は、今日でちょうど七百戦目を迎えた。
内容は、百代の二百五勝百九十九敗二百九十六引き分け。
ほぼ互角とはいえ、百代が勝ち越している状況だ。
「今日は勝つ! 勝って二百勝目だ!」
「ははっ、やってみろ!」
今日も今日とて、朝から元気な声が川神に響いていた。
老人らは微笑ましく、大人たちは日常の風景としてあまり気に留めず、子供は羨望の眼差しを向ける。
「よっしゃああ!!!!」
今日の決闘は和樹の勝ちだった。
余程嬉しかったのか、歓喜の声を上げてガッツポーズを取っている。
この決闘には、二つだけルールがあった。
一つは、相手を殺さないこと。百代や和樹ほどの実力があれば、人くらいその身一つで殺せる。だが殺しは倫理に反するし、何より二人は相手の死を望んでいるわけではない。
そしてもう一つは、川神流・瞬間回復の使用禁止だ。
これは百代しか覚えられていない技だ。覚えたのだから、使うのは百代の自由。覚えられていない和樹が不利になるのは仕方がない。だが、それを使っていては決着が着かない。この決闘には「学校が始まるまで」という制限時間が存在する。長くとも一時間程度で決着を着けようとした時、瞬間回復などされたら時間が足りなくなってしまう。故に禁止になった。
「くっそー! 今日も勝てると思ってたのに!」
決着が着き、百代が瞬間回復を使って復活してくる。
「へへっ。さすがに三連敗は避けたかったからね」
立ち上がった百代に、和樹は笑顔を向ける。
そして、少し遠くに投げ飛ばしておいたランドセルを拾い、通学路についた。
「あのタイミングで星殺しが躱されるなんてなー」
「まぁ、俺は舞空術が使えるからね」
決闘後の登校時は、いつも反省会が開かれる。
戦ってはい終わりでは次に繋がらない。和樹も百代も、強くなろうと貪欲だ。
「虹色の波紋すら相殺されたし」
「まぁ、俺はスタンドが使えるからね」
「空飛ぶとか意味分かんない化身呼び出すとか反則じゃんよ!」
舞空術やスタンド。
これらは和樹が愛読するバトル漫画に登場する技だ。
曰く、気という摩訶不思議パワーのコントロールが上手くなれば大抵の漫画の技は使えるとのこと。そのために常日頃から気を抑えることでコントロールの練習をしているのだという。
百代が和樹の強さに気付かなかった原因がそれだ。今も、和樹の気は年相応、或いはそれより低く感じられる。ここ二年で、元々上手かった気のコントロールにさらに磨きがかかっていた。
「モモは川神流に頼りすぎなんだよ。ほかの流派も覚えてみたら?」
「いーや! 私は川神流を極める! お前みたいに器用じゃないから、どれも中途半端になりそうだし」
和樹がほかの流派(漫画技)を勧めてみるも、百代は川神流に拘りを示す。
川神院に入門し、鍛錬を積んでいる和樹だが、漫画技以外にも色々な流派に手を出していた。
柔術やボクシング、大陸拳法に武具を使うものと、本当に様々だ。それ故に、和樹は特定の流派を極めることができていない。どれも中途半端に終わっており、その様は「技の百貨店」と言われている。
そんな和樹だったが、蹴り技だけは突出して上手かった。これは武術を習う前かららしく、地元京都では蹴りだけでブイブイいわせていたらしい。
川神に引っ越してきてからも、和樹の父親は蹴り技を中心に指導していた。そのため和樹は蹴りに自信を持っており、決めに蹴りを選ぶクセのようなものがついている。
そこを直すべきだと、百代に負けた時は大抵指摘されていた。
「ゆーおーまいしーん!!」
先の戦闘についてあーだこーだと話しながら川沿いを歩いていると、対岸から元気な声が聞こえてきた。
和樹と百代は揃ってそちらを見る。
そこには、ここ数年ですっかり見慣れてしまった、川神一子による特訓がなされていた。
「おぉ、今日はタイヤを二つも付けて走ってるのか」
感心したように、和樹が呟いた。
「ふふん、ワン子は私の妹だからな!」
可愛い妹が褒められたと思ったのか、百代はドヤ顔でふんぞり返る。
普通に考えて、小学生女子がタイヤを引いていたら二度見どころでは済まない。
だが、ここは川神。世界百珍景の一つに認定されるほどの変人の巣窟だ。人が飛んでいたり、喋るロボットが徘徊していたりですら日常茶飯事。小学生がタイヤを引いていたところで、しかもそれが川神院の人間ともあれば、今更誰も驚きはしない。
「ワン子、頑張ってるな。一生懸命頑張ってる奴は好きだよ、俺」
一子は決して才能に恵まれた人間ではない。
言い方は酷だが、凡人の域を出ないのだ。
確かに、同世代の中では強い部類に入る。それでも、川神院で師範代になれるほどの才が、一子には無かった。
それでも努力を辞めない一子に、和樹は好感を持っていた。
「なんだ? お前ワン子のこと好きなのか? 京のことも好きなくせに、この浮気者め」
小学校高学年になり、彼らは少なからず恋愛について興味を持ち始めていた。そんな時に「好き」という単語を放ってしまっては、そう捉えられるのも無理はない。
「違うよ。ていうか、別に京のことも好きってわけじゃ...」
「なら嫌いなのか?」
「いや嫌いってわけでも...」
「なら好きなんじゃないか」
小学生にとって、好きとはLOVE。LIKEなどという概念は存在しない。
以前、大和により吹聴された「六角和樹は椎名京のことが好き」という噂。これにより、和樹はクラスメイトはおろか、百代や、学友とは別の友人、慕っている姉貴分の人にまでからかわれるようになった。
京が転校する時など酷かったものだ。わざわざクラスぐるみで和樹と京を二人きりにさせ、挙句、告白すらしていないのに和樹がフラれるという事件があった。
それでも和樹は京を諦めていない、などと言い出した輩がいるらしく、和樹は「フラれても諦めない一途な男」というレッテルを貼られている。
そんなもの嬉しくもなんともない。一途? 言い換えれば「フラれたくせに諦めが悪い女々しいやつ」だ。
はぁ、とため息を吐く。
この二年、何度も何度も弁解を図ろうとした。結果、誤解は未だ誤解のまま。
ならばもうどうとでもなれと、和樹は半ば諦めていた。
和樹は知らない。
この長年こびり付いた噂が、将来、自分にとってどれだけ不利に働くのかということを。
字数少なめなのですぐに次話投稿できるのが唯一の強み(なお、ネタが尽きたら亀になる模様)(高評価や感想とか貰えたらネタが無くてもテンションだけで書く気はある)(図々しい)