真剣で私に恋しなさいとか言われてもな   作:怜哉

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税金や労基の話は義務教育で教えるべき

 

 

 

 

 

 

 六角和樹が中学二年になった年の夏休みの初日。

 

「かわかみ波!!」

「ギャリ〇ク砲!!!」

 

 恒例の決闘の末、超エネルギー同士の衝突(ドッカンバトル)により、また街が破壊されていた。

 

 

 

「私の! 勝ちだ!!!」

 

 草花が生い茂っていた河原の姿など今は昔。

 数年前から荒地となっている和樹と百代の決闘地は、今日も新たにクレーターを生み出した。

 

「ははっ! どうだ和樹! これで私の512勝502負686引き分けだ!」

 

 市や県を飛び越え、国が注目し始めた二人の決闘は、もう鉄心ですら止められない。

 これでまだ街が無事なのは、和樹と百代が、簡易的とはいえ結界を張ることを覚え、それでも被害が出た場所には修復作業に赴いているからだ。

 とはいえ、和樹も百代も未だ中学生。土木建築の技術などたかが知れているため、市内の建築企業主導の下で、半分の給料でバイトしているという形になっている。

 そのためか、毎度修復に奔走している川神の建築企業の技術は世界トップレベルといっても良いほどになっていた。

 

「ちくしょうめ、かわかみ波の威力上げてきたな」

 

 エネルギー砲に飲み込まれ丸焦げになっていた和樹が、瞬間回復を使って復活してくる。

 

「驚いただろ! ジジイに鍛えてもらったんだ」

 

 自慢げに笑う百代は、ブイと指を二本立てて見せた。

 

「界王拳使っても競り勝てないとか、お前の気の瞬間出力はどうなってんだ」

「ふふん! ま、三倍にされたらさすがに勝てないだろうけどな」

「三倍は俺の体がもたん」

 

 界王拳は一応使える和樹だが、二倍ですら体が悲鳴をあげるのだ。三倍など、全身の骨が砕けるだろう。瞬間回復が使えるとはいえ、和樹の気の総量では、全身骨折を治すほどの回復などそう何度も使えない。

 体に不調は無いかと全身に気を巡らせて検査し、異常無しと判定する。

 

「さて。それじゃあ、俺は帰るね」

「ん? 何か用事でもあるのか?」

 

 普段なら、ここから反省会が始まる。

 しかし今日は、それをする前に和樹が帰宅の意志を示した。その事に百代は疑問をぶつける。

 

「まあ、ちょっとアルバイト」

 

 バイバイ、とひらひら手を振り、和樹は百代に背を向けて歩き出す。

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

 翌々日。

 夏休みだろうがなんだろうが、風間ファミリーの金曜集会は基本休みなく行われる。

 しかし、この日は和樹と、それからキャップこと翔一の姿が、集会所である廃墟ビルにはなかった。

 

「あれ? 今日、キャップと和樹は?」

 

 師岡卓也、通称モロがそう漏らす。

 別段、誰に向けたものでもないモロの疑問を大和が拾い、答えた。

 

「キャップは冒険に行くって言ってたよ。今回は海外だから、来週もいないってさ」

「へー。珍しいね、キャップが行先を決めてるなんて」

「海外って括り、すごくガバガバだけどね」

 

 翔一の冒険とは、基本放浪の旅だ。

 行先を決めずに、気になる方向へ、気分の赴くままに突き進む翔一が、広範囲とはいえ行先を決めているのは珍しい。

 お土産は美味しい食べ物とかがいいなぁ、などと呑気に思うモロは、もう一人の欠席者についても、今度は大和に向けて問うた。

 

「じゃあ、和樹は?」

「アルバイトとか言ってたな」

「土木の?」

「いや、親の手伝いとかなんとか。和樹も海外に行ってるらしい。メキシコだって聞いたな」

 

 曰く、三日前から出向いており、帰国予定は今日から四日後。計八日に及ぶアルバイトである、と大和は把握していた。

 

「へー。和樹、親のこと嫌いって言ってたのに、お手伝いはきちんとするのね」

 

 と、一子。

 鍛錬だと言い、足首に重りを付けて逆立ちをしながら、意外そうに言う。

 

「親っていうより、父親が嫌いらしい。それにしても、和樹が嫌う父親って、一体どんな父親なんだろうな? 誰か、和樹の父親を見たことあるやついるか?」

「大和が知らないんじゃあ誰も知らないんじゃないか? 俺様は知らない」

 

 最近筋肉に目覚めた島津岳人が、鏡の前でポージングを取りながら答える。

 ガクトに続き、一子やモロ、そして京も首を横に振る。

 

「姉さんは?」

「さぁな。うちのジジイと同期で、それでもって同じくらい強いってのは知ってるけど、それくらいだ」

「武神と同レベルの武人? なるほど、和樹が強い理由が分かった気がする」

 

 純愛小説にカモフラージュされた官能小説から目を上げ、京が多少驚いたように、それでいて納得したと頷いてみせる。

 しかし大和は、それ以上に気になることがあった。

 

「姉さん、なんか怒ってる?」

「別に」

「ダメだよ大和。女の子には都合があるの。体調悪かったり、精神安定しなかったり、イライラしたり。女の子のことちゃんと、手取り足取りナニ取り教えてあげる。結婚しよ?」

「お友達で」

「一応言っとくけど、そういうんじゃないからな?」

 

 逆立ちしたまま腕立て伏せをしようと試み、バランスを崩して転げた一子が頭を擦りながら答えた。

 

「お姉様、和樹と戦えないから悲しいんだって」

「そうなのか、姉さん」

「違う。悲しいんじゃなくて、なんていうかこう、いろいろ溜まるんだ」

「ムラムラ...ってコト!?」

「京、お前黙れ」

 

 気を押し付けて京を黙らせた百代は、うーんと唸る。

 

「まあ、欲求不満の一種みたいな? んー、ちょっと違うなー。今までほとんど毎日戦ってたんだ。それが無くなると、ほら、朝起きて顔を洗えないみたいなモヤモヤがな?」

「ルーティンが崩れてるってこと?」

「まぁ、そんな感じ?」

 

 煮え切らない返事に、未だ自分の感情にしっくりくる答えが得られていないようだと大和は思った。

 だがまあ、言いたいことは分かる。

 

「八百屋のおっちゃんも言ってたよ。毎朝台風みたいな災害に見舞われるのは勘弁してほしいけど、いざ無くなると寂しくなるって。まぁ、あと四日後には帰ってくるんだろ? 和樹。我慢しなよ」

「う〜〜。こうなったら弟で遊ぶしか...」

「止めてくれ。和樹とじゃれ過ぎて力加減バグってるだろ、今の姉さん。俺はまだ死にたくない」

 

 さすがに本当に致死レベルのじゃれつきをされるとは思っていないが、絶対に人を噛まないと保証される猛獣がいないように、何かの間違いで大和の身に危険が及ぶ可能性も十二分にある。

 俺が怪我する前に早く帰ってきてくれないかなぁと、大和は祈った。

 

 

 

 

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