真剣で私に恋しなさいとか言われてもな   作:怜哉

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邪則さん、ひろぶみさん、高評価ありがとうございます!


とあるスタンド使いの奇妙な冒険(割愛)

 

 

 

 

 

 

「ん、ん〜〜っ」

 

 長時間のフライトで凝り固まった体をほぐすために大きく伸びをし、間延びした声をもらしているのは、六角和樹だ。

 たった今メキシコから飛んできた飛行機より降り、少し大きめのスーツケースを引き摺って空港内を歩いていた。

 

 今回の遠征は、父親や、その他父の同業者らと共に赴いたものだった。

 行きはプライベートジェットで飛び、帰りもその予定だったのだが、フライト中父親から絡まれることを心底嫌がった和樹のみ、一般の旅客機で帰ってきた。

 

「体いってぇ〜...プライベートジェットの席ってすっげぇ高級だったんだなぁ」

 

 和樹にとって、これが人生で初めてのフライト経験であった。

 最初に乗った飛行機がプライベートジェット(乗客に出来るだけ負担がかからないように設計されている)だというのだから、一般席はさぞ狭苦しいと感じたことだろう。

 

 加えて今回の遠征は、和樹が聞かされていたよりも余程ハードだった。

 奇妙な仮面や、石化した人のような物体が発掘されたなどの理由でメキシコまで飛び、様々な対処に追われていたらしいが、このお話の本筋とは限りなく関係が希薄なので割愛。

 とにかく、予想外の過労を経た上、予定より一週間も遅い帰国になり、和樹は心身ともに疲弊しきっていた。

 

 今和樹がいる空港は東京にある。

 ここから川神に戻るまで、電車でさらに二時間程度。また人が多く狭い箱に押し込められるのは嫌だなと思った和樹は、タクシーを拾うことにした。代金がいくらになるのかは分からないが、全て父親に払わせようと考え、タクシー乗り場を探す。

 

 荷物の受け取り場からエレベーターで下に降りると、すぐにタクシー乗り場が目に入った。

 多少タクシー待ちの列ができてはいるが、十分程度で乗車できるだろうと思い、最後尾に並ぶ。

 

 そういえばスマートフォンを機内モードにしたままだったなと思い出した和樹は、スマホを取り出し機内モードを解除した。すると、ピロリピロリと喧しく通知音が鳴る。

 みると、帰国予定を一日過ぎた辺りから大量に送られてきていた「早く帰ってこい姉さんが怖い」という旨の大和からの追加のメール、そして京都の幼馴染からのメールが届いていたためそれに返信し、スマホを閉じる。

 

 暇つぶし用に買っておいた本は帰りの便で既に読み終えており、携帯ゲーム機なども持っていない。ソシャゲなどもしていないので、待ち時間は手持ち無沙汰だ。

 

 暇だなと思いながらミンミンと煩いセミの声をBGMに大きな入道雲を眺めていると、少し離れた場所から、聞き慣れた高笑いが、セミの声を押しのけて和樹の耳に押し寄せた。

 

「フハハハハ! 九鬼英雄、降臨である!」

 

 見ると、黄を基調としたタキシードを着込んだ、和樹と同い年くらいの少年がふんぞり返っている。

 日本の夏は大変蒸し暑い。その中でキッチリとした長袖の服を身に纏っている少年──九鬼英雄の、なんと暑苦しいことか。

 

「和樹! 六角和樹はいるか!」

 

 英雄が叫ぶ。

 今は八月も始まったばかりの旅行シーズン。当然、空港には大勢の人々がいる。

 季節感皆無の服装、整った顔立ちによく映える艶やか銀髪、大きすぎる声。そして何より、先に英雄が述べた口上にある「九鬼」の名。

 その全てが、周囲の人々の注目を集めるには十分すぎる要因だ。

 

 幾百幾千の視線が英雄に注がれる。当の本人はそんなもの気にも留めずに威風堂々と立っているが、名を呼ばれた和樹はそうもいかない。

 アレに近寄るのは嫌だなぁ、と無視を決め込もうとしていた。

 

「おお! そこにいるではないか、和樹よ!」

 

 コソコソと場を去ろうとしていた和樹に、英雄が気付く。

「げ」と思わず漏らした和樹は眉を寄せるが、英雄にとってそんなもの関係ない。ズンズン人の波を押し退けるように──否、人混みから履けて英雄の歩む道を作り、そこを進んでくる。

 

「いるならいると言わんか、和樹よ!」

「いやぁ...なんか嫌だったから」

「嫌とはなんだ! せっかくこの我が出向いてきてやったのだぞ!」

 

 先程まで和樹の周りには嫌という程人がいたというのに、今はここだけ世界と切り離されたのかと思うほど人がいない。皆、遠巻きに彼らを見ている。

 人に揉まれるより涼しくて良いか、と前向きに考えることにした。みれば、面倒なメイドも見当たらない。そこまで確認した和樹は、ようやく英雄の方へと振り向いた。

 

「はいはい、ありがとさん。それで、何の用だよ」

「相変わらず不敬であるな! だがまあ許そうではないか。此度のお前の働き、実に見事であったと聞き及んでいる! 姉上も誉めていたぞ!」

「揚羽さんが? そりゃ嬉しい」

「我も貴様に賞賛を贈ろう! 大義であったな。我も貴様の主として鼻が高いぞ!」

 

 フハハハハと高らかに笑う英雄は、本当に和樹を賞賛していた。

 しかし、英雄の発言に和樹は顔を顰める。

 

「誰がいつお前の従者になったんだ」

「む? 違うのか。今回九鬼からの仕事を受けた時点で、九鬼家従者に加わることを了承したものと思っていたが」

「なんないよ。今回はお前と揚羽さんに頼まれたから受けただけ。クソ親父と同じ職場とか死んでも嫌だ」

「なるほど、これが反抗期か」

「違う」

 

 なにやら納得したように頷く英雄へ、和樹はさらに眉を顰めて、睨むように見た。

 

「フハハ、まあ良い。では今はこう呼ぼう、我が友と!」

 

 そんな和樹を笑い飛ばし、和樹を友と呼ぶ。

 それだけ、英雄は和樹を高く評価していた。

 

「では帰るぞ、和樹! 車に乗るがよい!」

「え、何。お前迎えに来てくれたの?」

「当然である! 此度の一件の最たる功労者である貴様を電車やタクシーで窮屈な思いをさせ帰すなど、九鬼としてあってはならんからな! 飛行機については貴様が願ったことなので別だが、それ以外ではこの我が面倒をみよう!」

 

 九鬼英雄という人物には、九鬼以外全て民草だと言い切り見下す傲慢がある。だがそれと同時に、民のことを全力で守り導くことが使命であると本気で思っている。

 上に立つ者としての器は備わっている、と和樹は感じていたし、英雄自体は決して嫌いではない。

 そういった感情は、英雄だけに向けたものではなく、彼の姉である九鬼揚羽、腹違いの妹である九鬼紋白に対しても抱いている感情だ。

 

 和樹は九鬼が嫌いなわけではない。次代を担う三人に関しては、むしろ良い印象を持っている。

 ただ単に、九鬼に勤める自分の父親が嫌いで、父親と共に働きたくないだけなのだ。

 

 だからこそ、というべきか。

 和樹は英雄や揚羽、紋白の願いは出来うる限り引き受ける。九鬼のためではなく、その三人のためとなれば、和樹は己の才能を遺憾無く奮う。

 

 

 

 

 数年、或いは十数年後。

 九鬼家最強と謳われ、九鬼の更なる飛躍に大きく貢献する若き従者が誕生することになるのだが、今はまだ遠い未来の話。

 

 

 

 

 

 

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