『アグネスタキオンダービー前に故障発生』
『ダービー以後は白紙』
『足の病気を発生したとのこと』
『現役引退か!?』
「……なにこれ」
「……アグネスタキオンは脚を故障した。リハビリしているらしいがもう皐月賞までのアグネスタキオンが現れることは無い」
「……ダービーは」
「勿論出てこない……それどころか引退の可能性が高い」
「……あぁぁぁぁぁぁぁ!!」
何が研究だ
何が次は勝ってみせるだ
何がダービーは勝ってみせるだ!!
3戦3敗……これじゃあただの負け犬じゃないか!!
「ダービーの最大関門は居なくなった。ファースト! これはチャンスだ」
「椎名トレーナー……これはチャンスなんかじゃない……ただの敗者復活戦でしかないよ」
「それでも君はG1を勝つのが目標なんだろ! 勝てる最大のチャンスなんだ! 俺もまだ掴んだことの無い最大の栄冠が掴める位置に有るんだ!!」
「……」
「お前の夢はG1を取ることなんだろ! ファースト!! ダービーという最大のG1を掴み取れよ!!」
「……違う! 違う違う違う!! 最強の相手を倒してこそG1の栄冠を掴み取る価値があるんだよ!! それが……それがぁ……私はアグネスタキオンに侮辱をしたまま終わってしまった……最高のパフォーマンスをすること無く競争生活を終わらせてしまった……」
「目を覚ませ! ファースト!!」
バチーンとビンタされる
「どんなに強くてもレースに出ていないのはレースに出ることのできたどんなウマ娘より弱い!! レースに出れなければそれだけで弱者のだ! 出続ければそれだけチャンスであるんだ!!」
「お前がグズグズしている間に他のライバル達はアグネスタキオンの後釜を虎視眈々と狙っている……いいかファースト! アグネスタキオンはお前を侮辱したと告げている。それだけお前を認めていたんだ! だったらファースト! お前はタキオンが掴めなかった栄冠を掴み、タキオンが強かったことを証明し続けろ! それがお前にできることだろう! 侮辱したままで終わるんじゃねぇ!!」
「証明……タキオンが残した栄冠……」
「ダービーまで残り約1ヶ月半しかない最終仕上げをしてダービーに勝て!! もうこのチームにはお前しか居ないんだ! 栄冠を掴み取るぞ」
「はい!!」
「坂路開始!! 行ってこい!!」
「はい!!」
2001年日本ダービーは海外出身のウマ娘が出走できる様になった初めての年である
そこに現れたのはNHKマイルカップを勝利し、変則二冠を目指したクロフネだった
ダービー前のインタビューで彼女はこう話す
「アグネスタキオンは強かった……彼女が居なくて残念に思う……が、空位となった最強の座、私はダービーを勝つことで最強は誰かを証明してみせる」
「気になっているライバル等は居ますか?」
「1番人気のジャングルポケットと皐月賞でアグネスタキオンに最も近づけたダンツフレームのみ! 他は眼中に無い」
と言った
空位となった最強の座
掴み取るのはジャングルポケットかクロフネかダンツフレームか伏兵か
……ガイアファーストか
2001年日本ダービーが今始まる
集中力を研ぎ澄まし、ゲートに入る
私の枠は1枠1番
2400メートルの内枠は逃げの私にとって絶好の位置と言える
スーッと息を吸う
日本ダービー、世代の頂点を決める一戦で、私はどこまで戦えるのか
タキオンが居ればタキオンが取っていたであろう最強の座
私は誰よりもタキオンと走った
3戦も背中を追ってきた
だからこの一戦は落とすわけにはいかないのだ
ガゴン
ゲートが開く
絶好の出だしで先頭を奪おうとするとキタサンチャンネルとテイエムサウスポーの2人が私に競り合ってくる
「どけ!!」
「落ちろよ!!」
「退かない!!」
接触スレスレの激しい牽制をしあい、どんどんどんどんスピードが上がってゆく
キタサンチャンネルが先頭争いから脱落し、私とテイエムサウスポー2人の先頭争いとなる
(破滅逃げのペースだけど2400ならスタミナは持つ、前過ぎて後方がいつ追ってくるかわからないけど10バ身以上のセーフティリードを作れば逃げきれる! 横のテイエムサウスポーは私に付いてくるので必死だ。これなら2000メートルも持たない)
『1000メートル通過タイムは57.0!! 57.0!! 異常なハイペース! 後続とは7から8バ身離れて二番手キタサンチャンネル! 2人旅だ2人旅!! 後続も牽制しあって前を捕らえに行かない! 大丈夫か! 逃げきってしまうぞ!!』
大ケヤキを過ぎた頃明らかにテイエムサウスポーは失速を初め私に付いてこられなくなった
私は彼女を突き放し、最後の直線にさしかかる
ゴォォォォォ
異常な風切り音が聞こえてくる
(重バ場だぞ! 何でそんな風を切る音が聞こえてくるんだ!! 私はセーフティリードを作ったハズなのになぜ……横からあの音が聞こえてくるんだ!!)
最初に聞いたのはアグネスタキオンが横を通過したホープフルステークス、次に聞いたのは弥生賞
ここにはタキオンは居ないのにどうして
日本ダービー
日本で最も歴史と伝統、名誉あるレースは一生に1度しか走ることが叶わない
日本の全てのウマ娘の夢
それが日本ダービー
そのウマ娘の評価は最初は低かった
5番人気から始まったジュニア初戦
札幌ジュニアステークスで評価を上げた2戦目
ホープフルステークスで初めての挫折を味わい虎視眈々と栄冠を狙い続けた
勝ちたいという思いがジャングルポケットに闘志を与えた
今こそ覚醒せよ
バ群を捌き、ガイアファーストの横に躍り出た彼女の瞳は絶景を目撃した
音も歓声も置き去りにただただ彼女は強かった
「これが……タキオンが言っていたゾーン!!」
『ジャングルポケット先頭! ガイアファースト粘るが2番手! ジャングルポケット! ガイアファースト! ジャングルだジャングルだ勝ったのはジャングルポケットぉぉぉぉ!!』
『重バ場ですが上がり3ハロン34.5!! ガイアファーストも強かったが! 勝ったのは! 新時代の扉を抉じ開けたのは! ジャングルポケット!!』
「勝ったのは私だぁぁぁぁぁぁ!!」
遠吠えとも呼べる叫び声
2001年日本ダービーは覚醒したジャングルポケットの勝利であった