安田記念を制した私は脚のダメージの回復のために学校に居る間はプールトレーニングとトレーナーから脚のマッサージをおこなってもらい、夏休みに入ると青森トレーニングセンターに移動して針治療や整体、超音波マッサージに温泉での休養等を行い、ゆっくり休んだ
「ファースト姉!」
「……」
「ムーンにラビットかどうかした?」
温泉に浸かっている時にムーンとラビット、エナジーの3人が入ってきた
「「安田記念制覇改めておめでとう!」」
「……おめでとう」
「ありがとう!」
安田記念制覇後に家族や親族を集めての祝勝会は行ったが改めて言われた
「これでガイアの目標であるG1を勝利したことになるけど、ファースト姉は次は何を目標とするの?」
「そうだねぇ……菊花賞を勝って一冠は取りたいかな」
「秋はどういう感じのローテでいくの?」
「菊花賞、調子が良ければジャパンカップ、有馬記念の3つに出る予定だよ」
「辛くない?」
「ううん、辛くないよ。それにジャングルポケットとの決着を付けないと」
「ダービーウマ娘の?」
「うん。タキオン無きクラシッククラスで最強を証明するには菊花賞を勝つしかない! 適正距離だしクラシック無冠だとカッコ悪いでしょ」
「……なんで皐月賞捨てたの」
「ラビット姉……それは」
「アグネスタキオンにダービーで勝つにはそれしかないと思ったからだよ」
「ラビット姉が言ったからついでに聞かせて貰いたいんだけど……アグネスタキオンやジャングルポケットってそんなに強いの? 今一強さがテレビ越しだとわからないんだけど」
「彼女らは領域に入っていた」
「領域?」
「ラビットが走っていると入るって言ってるゾーンの事だよ。ラビット、さては皆に伝えてないな」
「……必要が無いから」
「まぁ領域に入るとどうなるのかは私も知らないけど、お母さんが言うには時代を作るウマ娘は入ることができるらしい」
「時代を作る……ウマ娘」
「……第二次ウマ娘ブームが終わり、人気が低迷し始めている……事実あれだけ強いテイエムオペラオー先輩がラッキーで勝った様に見られてしまっている……私が安田記念を勝ったことにより前の世代が弱かったのではないかと思われ、私達も世代最強のアグネスタキオンが引退してしまい人気は離れるばかり……お母さんは赤字で潰れそうなトレセン購入をしようと企んでるし、混迷としてきている」
「だけど走る私からしたら最強の名が欲しい! 領域ってのも体験してみたい! だからクラシック最後の菊花賞は勝ちたいの」
「……じゃあ見せてよ。最適の距離で最高の走りを」
「もちろんラビット! 私の最高の走りを見てね」
体調を整え脚を十分に休ませ、私は菊花賞に向かいます
ライバルとなるのはもちろんジャングルポケット
ただし、札幌記念で負けているので覚醒が不安定なのかもしれない
調子が良いのがエアエミネム
ジャングルポケットを下し札幌記念を勝利し、神戸新聞杯も勝ち強くなっている存在です
その他にもダンフツレームやサンライズペガサスなんかも人気を集めていた
私はちなみに4番人気だ
そもそも周りから私マイラーなのではないかと疑問に思われている
私がステイヤーと知っているのは同級生の一部とトレーナー、姉妹とお母さんの限られた人達のみだ
安田記念やサウジアラビアロイヤルカップを勝っているため適正距離は1600だと思われているが、私は誰がなんと言おうとステイヤーです
……で、私が個人的に気になっているのはマンハッタンカフェ
なんでも引退したアグネスタキオンがコーチに付き、みっちり鍛えてきたらしい
あのアグネスタキオンがコーチなのだから弥生賞の時よりは強くなってるだろう
……ファンファーレだ菊花賞が始まる
ガゴンとゲートが開く
私は得意のロケットスタートで先頭に出ようとする
マイネルデスポットが私に競り合ってくるが内側に潜り込む様にして抜かせない
第三コーナーから第四コーナーは熾烈なポジション争いを開始する
私が引っ張る形になったこのレース
後続のリードを1バ身から第四コーナーを越えた辺りで4から5バ身差に広げていく
1000メートル通過タイムは1分丁度
ただ今回は楽に逃げさせてくれない
(マイネルデスポット邪魔! ピッタリ横に居るし! 中盤でペースコントロールできないじゃない! 先頭を譲った瞬間に私の逃げは破綻する……ええい! スタミナで破壊する! 狂気の逃げを開始する!)
『残り1600メートルでスパートを開始!! ガイアファーストこれは持つのか! マイネルデスポット食らい付く! マンハッタンカフェ単独3番手に浮上! スタミナが持つのであれば3分の壁も見えてくるぞ!! 小雨が降る京都3000メートル2000メートルを通過した時点で1分59秒9! 破滅逃げではないのか!! 後続も異常に察知したかペースを上げる! 残り持つのか! 先頭2人! 淀の坂を登ってゆく!』
(あぁぁぁぁ! マイネルデスポット! ペースが無茶苦茶になったじゃないか! 体力はまだ持つ! 後続は……何か来る! ジャングルポケットか! 後ろが見えない! 見る余裕がない! マイネルデスポットは……眼怖! 真っ赤に充血してるし、口から泡吹いてるじゃん! なんで走ってられるんだ!?)
メイクデビューを失敗し、未勝利で足掻いて足掻いて足掻いて……皐月賞もダービーにも間に合わなくてここに居るメンバーからとてつもなく遅れてようやくG1のここに立つことができた
作戦は逃げだ
必ずガイアファーストが逃げてくると確信していた
私は逃げるしかこの戦い勝ち目がない
先頭を譲った瞬間に私は負けてしまう
ガイアファーストは1600では楽に逃げて勝てたかもしれないが私も長距離の方が走れる体質だ
スタミナなら負けてない!
異常を感じたのは1000メートルだ
3000メートルの長丁場、コーナーに淀の坂を越えているのにペースが早い
いや、ガイアファーストがレースをコントロールしようとしている!
そうはいくか!
私は先頭に出ようと足掻く
そのまま二人旅となる
残り1600でガイアファーストは私をつきはなそうと進撃を開始した
そうはいかないと必死に食い付き追い越そうとする
脚が軽い
限界を超える
私のスタミナは残り500メートルを残して空っぽになるがあとは気合いで足を進める
息が苦しくない
まだ私は走れる
まだ
・
・
・
(マイネルデスポット! まだついてくるのか!! まだ私に食らい付くのか!! スタミナは残ってる……が! 既に私はトップスピードこれ以上速度が出ない! 限界点だ! くそ! 残りあと少しなのに突き放せない! なんなんだこいつ! マイネルデスポット! まさか貴様も領域に突入しているんじゃないよな! 私が入ることがなぜかできないその域に! ……ん? 足音……が増えてる……増えてる!? 後ろに誰か居るのか! ジャングルポケットか! いや! 降りきれる! 横のマイネルデスポットさえ引きずり下ろせば私の勝利なのだ勝利のハズなのだ!)
(ブレーキはもう壊れている! この速度であれば足音的に間に合わない残り200メートル! マイネルデスポットさえ何とかすれば!!)
「諦めろマイネルデスポット!! くたばれ!!」
「ブクブクブクブク」
「あなたからはお友達の気配がしない」
「お友達が言うには永遠にあなたはこの域には入れない」
「はぁ!?」
誰だ! 横で泡を吹いているマイネルデスポットじゃない!
いつの間に横に居る……内!? 黒! まさか
「マンハッタンカフェ!?」
「領域は諦めない者しか到達できない。1度でも諦めた者に……この域には到達できない」
『交わしたか!! マンハッタンカフェ! 絶望的な差が有りましたが差しきった!! タイムは3分2秒9! レコード決着となりました!! 上がり33.8! 3000メートルで上がり33秒台は異常! クラシック無念のリタイアを強いられたアグネスタキオンコーチがマンハッタンカフェに抱きつきました! 喜びを爆発させています! 2着だったのはなんとビックリマイネルデスポット! 3着はガイアファースト! 立ち尽くしています』
『マイネルデスポット大丈夫でしょうか! 倒れた!! 今救急隊が飛び出していきました! 大丈夫でしょうか』
『波乱の菊花賞となりましたジャングルポケットは5着止まり、4着にはダンフツレームとなります』
その日のウイニングライブに私は参加しなかった
勝ったと思ったのだ
だが結果を見れば3着……得意距離で3着……クラシック無冠
その事実は私の競争生活の名声に大きく陰を落とすこととなる