フェアリーフェンサーエフ~元ドルファ四天王の旅~ 作:ゆるポメラ
前回の続きになります。
それではどうぞ。
大都市ゼルウィンズの街外れにある小さな屋敷にて。
そこでは黒いドレスに身を包んだベージュ色寄りの髪の女性がハープを弾いて、小さな子供達に聴かせていた。
「皆、静かに聴いてくれてありがとう」
ハープを弾いていた女性、マリアノは演奏が終わると子供達に言った。
「マリアノ先生、すごく綺麗でした!」
「セア、ずうっとマリアノ先生に見惚れてたもんね」
「う、うるさいな!」
その光景を見たマリアノは微笑みを浮かべた。
この屋敷は孤児院であり、ここに住む子供達はみんな両親や家族がいない天涯孤独の身なのだ。
「どうしてマリアノ先生はいつも皆の事が分かるの?」
「もちろん皆の事が大好きだからよ。私にとって皆一人一人がとても大切な存在なの。だから悲しい事や辛い事があったら、私に言ってね」
1人の少女、アンの質問に優しく答えるマリアノ。
「マリアノ様、そろそろお時間が」
「分かりました」
そんな会話をしているとマリアノの部下であるザギが知らせにやって来た。そう。実はこの後、ドルファで会議があるのだ。普段はそんなにないけども。
「ちぇー、ザギのケチ!」
「自分がマリアノ先生と二人きりになりたいだけだったりしてー」
「なっ!? 我々マリアノ様親衛隊は、決してそのような低俗な感情を持ち合わせておらん!」
「こら、子供相手にムキになってはいけません」
セアとシュホにそう指摘され、思わずムキになるザギ。それを窘めるマリアノ。
「皆さん、またね」
『はーい!』
子供達にそう言って、マリアノは孤児院を後にしたのだった。
◇
「弱い、弱すぎる、悲しい程に」
モンスターを倒したアポローネスが呟く。フューリーを回収がてら己を鍛えれば強者にも逢えるかと思ったが、どうも最近の敵が弱すぎるのだ。フェンサー然り、モンスター然り。
「私の悲しみを喜びに変えてくれる者はいないのか」
しかし私情は置いといて、この後は確かドルファに戻った後に会議あると聞いていたアポローネスは遅刻厳禁とばかりに、少し早足で大都市ゼルウィンズに戻るのであった。
◇
「バーナード補佐官、我がドルファ・ホールディングスの本年度の収支決算はどうなっている?」
「はっ。社長。昨年に比べ、20%前後の収益増が見込まれております」
ドルファの総帥、花形の問いに銀髪の長髪の男性、バーナードが答える。
「あれ以来、何年もかけて地域密着型の優良企業という顔を貫いてきたかいがあった」
「はい。では、予定通りに大規模な人員増加を実施致します。我が社の発展のために」
「うむ。だが、これはまだ第一歩に過ぎん。いずれ、我が社の名が全世界に轟くまで、進み続けるのだ。頼りにしているぞ、バーナード」
花形がそう言うと、バーナードは不敵に笑いながら、お任せくださいと答えた。
「私も力を尽くします。孤児院を始めとする我が社の慈善事業のお陰で、企業のイメージは優良です。人々は我が社をクリーンな企業だと信じきっています」
「我が魂は剣にあり。この剣は社長への忠誠の証。必要あらば、邪魔者は……斬る!」
「我らの裏の力を使えば、不可能な事などありません」
マリアノ、アポローネス、バーナードの言葉に分かっておると答える花形。彼らのお陰でフューリー収集が順調に進んでいるのも過言ではない。
「全てのフューリーが揃った時、
「大変です、社長!」
「失礼致します」
すると一同が居る会議室に慌てた様子のパイガとザンクの部下が入ってきた。
「何事だパイガ! それに貴様もだ! 社長の前で、騒々しいぞ」
「し、失礼しました! ですが、思わぬ事が、ざ、ザンクとロンギが、敗れました!」
「何? ザンクとロンギが……」
それを聞いたバーナードは驚愕の表情。彼だけでなく、他の一同もであった。何せ、ドルファ四天王の1人とその親衛隊長が敗れたと言うのだから。
「パイガ様、落ち着いてください。バーナード様、正確には隊長が機嫌が良いので、見逃してあげたという事です」
「何? ならば、ザンクとロンギは今何をしている?」
「ザンク様と隊長なら、ソルオール村のフューリーの代わりに他のフューリーを回収にそのまま向かいました。自分は隊長に頼まれて、報告とパイガ様の護衛です」
ドルファ四天王の上司であるバーナードや四天王であるマリアノとアポローネス、社長である花形が居るのにも関わらず、淡々と報告するザンクの部下を隣で見ていたパイガは別の意味で関心した。
「一体、誰にやられたんだ?」
「は、はい! ファングとかいう小汚いやつでして……デタラメに強いんですよ!」
「ファング……」
花形に報告するパイガ。ファングの名前を聞いたアポローネスは反応した。随分前に辺境の地下牢で戦った相手だからだ。
「それでお前は戦わずして逃げ帰ったというわけか?」
「情けないわね」
「……あ、いえ、私も善処はしたんですよ? そもそも深入りは止めとけと、2人に言い聞かせたのですが……」
「隊長がソルオール村で厄災魔法を使いませんでした」
「何っ!? 貴様、それは本当なのか!?」
「はい。それに隊長が久しぶりの獲物……
バーナードとマリアノに責められるパイガだが、ザンクの部下が異議を申し立てた。それを聞いたバーナードは驚愕の表情になった。
「また厄災魔法を使おうとしたロンギを問いただしたいところだが、ロンギが敗れたと言っていたが……何者だ?」
「はっ。可愛らしい子供だったと隊長から聞いております。というか、子供にしか見えません」
「子供だと……?」
「まさか……その子供を殺してないでしょうね?」
「いや寧ろ被害を受けたのは、うちの隊長なんですが……(なんで自分、マリアノ様に睨まれなきゃならないんだか。よし、スルーしよう!)」
信じられないという表情になるバーナード。マリアノに至っては、その子供を殺そうとしたという点が気に入らなかった。もしこの場にロンギが居たら、自分が殺していただろう。ザンクの部下はマリアノの視線をスルーしながら話を進める。
「そこで隊長がその子供と交戦した時の戦闘映像記録を自分に渡してきたので、これを皆様にご覧になってほしいと」
「ふむ。一理あるな。パイガ、お前の部署に映像を再生する機械があった筈だが……まだ使えるか?」
「は、はい! 手入れは欠かさずしてますので、今でも使えると思います」
「よし、それをここに持って来い」
「パイガ様、機械が大きいのでしたら、自分も運ぶのを手伝いますが?」
「大丈夫だ。そこまで大きい機械ではないからな。では、直ちに持ってまいります!」
そう言うと会議室を一度出たパイガ。そして数分後に少し大きめの機械を持って戻って来た。
「では再生します。この映像記録は様々な角度で再生できると隊長から伺っております」
「随分と用意周到だな。しかし子供ながら、奴を退けるとは……面白い」
「一体どんな相手なんでしょう。私、興味がございます」
性格に難ありだが、ドルファ四天王にも引けを取らない実力を持ったロンギが敗れたという子供に興味を示すアポローネスとマリアノ。
そして映像が再生された。
ザンクの部下の報告通り、ソルオール村の地下牢に向かうロンギと数人の部下の姿があった。
何やらロンギが未だに手がべたつくよと部下に愚痴っていた。これはどういう事だ?とバーナードに聞かれた部下は、地味な嫌がらせをされた経緯を説明する。それを聞いた花形はがははと笑っていた。
『隊長! 見張りの兵士がやられています! おい、大丈夫か!?』
『どれ、オレ様に見せてみな。フン……顎を蹴られたのか。それに鎧がへこんでやがる。打撃技による傷だなこりゃ』
『そんなバカな!? けっこう丈夫な鎧ですよ!?』
『いんや。拳圧による武術がある。あれは極めると鎧も通してしまうと聞く。おい、こいつの応急処置をしろ!』
『はっ!』
そう言って手の空いている部下に指示するロンギ。
「あのロンギが部下の手当てを指示しただと……」
これには花形やバーナード、四天王の3人も驚いた。その後も他の見張りの兵士の応急処置をしたり等、意外な一面があった。
『兵士達の容態はどうだ?』
『はっ。皆無事です。それと兵士達の話だと、襲った相手は子供だったと全員言っております』
『……ガキか。他に特徴はねえか?』
『可愛らしい子供だと言ってました。瞬きをした次の瞬間には意識が朦朧としたと言っておりました』
『……ほーう。随分とナメた真似をしてくれるじゃねえか。侵入者はど~こだ~? ヒーハー!』
その時だった。
『見つけたぞ! 隊長! あのガキです!』
1人の兵士が例の子供を発見したようだ。だが、その子供の姿を見たパイガを除いた一同は驚愕した。
「バカな!? レイルだと!? 何故あの子がソルオール村に居る!?」
「しかし社長。まだあの子供がレイルと決まったわけでは……」
「……(いや、私には分かる。あれは紛れもなくレイル!)」
「レイ……」
銀髪のショートヘア、152cmで黒を基調としたワンピースを着ており、両腕に赤いリボンを巻いた美少女のような子供を見て言葉が出ない一同。特にマリアノはどこか悲しげな表情をしていた。
『ヒーハー! やあやあ、これまた可愛らしいガキだね~』
『……うわ。なんか蜂蜜くさいな』
『ああん? て事はお前が、オレの部下やオレ様に地味な嫌がらせしたヤツ? お陰で未だに手のべたつきが取れないでごじゃるよ!』
『部下はそうだけど、僕が仕掛けた罠に引っかかったのはお前でしょ』
久しぶりに聞く懐かしい声に、ロンギに地味な嫌がらせをしたのはお前かと心の中で突っ込む一同。
『…ホロン。"スピアピックモード"』
『……(こくり)』
そしてレイルは、半円を描く曲がった角を持った、兜みたいに頭部全体を包む仮面を被り、灰色のボロボロのマントを着た真っ黒でちんまりボディの虫のような生物のパートナー妖聖、ホロンを槍のような形状のボロい釘から螺旋状の溝が掘られたアイスピック風に変形させ、右手に持ち、構えた。
そこからは凄まじい攻防だった。
狭い地下迷宮をレイルは駆け巡り、地形を壊されたにも関わらず、ロンギに蹴りを入れたり、アイスピックを使った斬撃による衝撃波を繰り出したりしていた。
『…37。今の斬り合いでその針モドキを弾いた筈だが、まだあるとはな』
『様子見とか、意外と冷静なんだね? お互い様だけど』
『戦闘力といい、洞察力といい……お前、ただのガキじゃねえな? 何モンだ?』
『これでも僕は24歳なんだけどなあ……』
「……(レイルよ。それはお前の外見のせいだと思うぞ。初見の者は誰でも奴と同じ反応をする)」
「……(そういうところは変わってないのね……レイ)」
溜息を吐くレイルを見たアポローネスとマリアノは心の中で突っ込んだ。
『可愛らしいそこのガキ。お前の顔、オレ覚えたぞ~? さあ~て、みんな行くよーん。他の部隊にも伝えといてねーん。今日はパーッとやるから、食材と酒の買い出しはよろしくねーん』
その後も戦闘は続いたが、この会話を最後に映像は終わった。
「以上になりますが、社長、この正体不明の子供を隙あらば殺しても構いませんか?」
「ふん、貴様らはレイルに勝てると本気で思っているのか? 貴様らではレイルの準備運動にもならんと思うぞ」
ザンクの部下の進言に異を唱えたのは、意外にもアポローネスだった。
「それはどういう意味でしょうか?」
「貴様は知らないかもしれんが、あの斬り合いでレイルは実力の10%も出しておらん」
それを聞いたザンクの部下は驚愕の表情になった。あれで実力の10%も出してないと言うのだ。しかも本気を出してないとアポローネスは言う。
「社長。レイルの件もそうですが、ファングなるものはいかがいたしましょう? 早めに手を打った方が良いのでは?」
「……ふむ。そうだな。パイガ、そのファングとかいう男を調査しろ」
「は、はいー! 早速!!」
「では、私も報告が終わりましたので、これにて失礼します」
バーナードの進言に花形は考え込んだ後、パイガに指示を出した。そしてザンクの部下も花形に挨拶をした後、会議室を退室して行った。
「……バーナードよ、レイルがドルファを離れてから何年だ?」
「4年になります。まさか思わぬ形でレイルを目にするとは、私も思っておりませんでした」
「流石は我が好敵手だ。雌雄を決する時が楽しみだ……」
未だに再生されているレイルとロンギの戦闘映像を見ながら花形は呟いた。それに続いてバーナードとアポローネスが呟く。
「……(レイ……)」
他の3人が興味深そうに映像を見る中、マリアノだけはレイルが複雑そうな表情をしているように思えた。
読んでいただきありがとうございます。
次回も頑張りますので、よろしくお願いします。
本日はありがとうございました。