泡沫の夢   作:悠魔

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※椎名さんが執筆しているハリポタ二次創作『マリポタシリーズ』の三次創作になります。
※ネタバレが大量に含まれています。
※時系列は五年生編でダンブルドアが不在になった辺りです。
※勢い100%なのでガバガバです。
※解釈違いを感じられましたらブラウザバック推奨です。


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──この“親無し”!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スリザリン生の言い放ったその言葉が、ハリーのこころを傷つけることを目的としていたなら──それは覿面に効果を発したといえよう。

 

 きっかけは、些細な口論。

 

 ガマガエル女の、神経を逆撫でするような授業と、スネイプのねちっこい嫌がらせばかりの授業を経てすっかりナーバスになっていたハリーが、彼に敵意を持つスリザリン生の安い挑発に乗ってしまったのは、当然といえば当然の結果なのかもだ。

 喧嘩っ早い性格ではないにしろ、嫌なことが立て続けに続いてしまえば、文句のひとつも言いたくなるだろう。

 それはいい。それはいい、のだけれど──頭に血が上ったスリザリン生がそんなことを言ってくるとは、僕にとっても、青天の霹靂であると同時に、甚だ許し難い侮辱でもあった。

 

 よりにもよって、そんな言葉を。

 

 その場はマクゴナガル先生が取りなしてくれたけれども、肝心のハリーは、苛立ちを隠そうともせず人気のないところへと行ってしまった。慌てて追いかけると彼は、空き教室で行き場のない感情をぶつけているようだった。

 

 

「僕が──何したって──いうんだ」

「ハリー、落ち着いて」

「もううんざりだ──好き勝手に言いたい放題──クソッ!」

「ハリー!」

 

 

 荒い息を吐くハリーの肩を安心させるように掴む。けれどにべもなく振り解かれてしまった。先程の暴言がよほど彼の癇癪に触ったようで、怒気を孕んだ声で、縋るように叫んだ。

 

 

「──ッ、マリアは悔しくないのか!? 言うに事欠いて親無しだぞ!? 何で……何で君は、そんな風に平然としてられるんだよ!?」

「怒ってないわけじゃないさ」

 

 

 そこでハリーは、僕の瞳の奥に昏い感情が燃えているのに気が付いた。

──平然と、していられるわけないじゃないか。取り繕うので、精一杯だよ。

 

 

「そりゃあ、まぁ、確かに僕達には親はいないけれど、父親代わりになってくれる愉快なおじさんがいるじゃないか。それに君の側には沢山の人がついている。

 ──勿論、君の姉もね」

「……僕が兄だよ……」

「君が辛そうな顔をしていると、自分のことのように辛いんだ。だから元気でいて」

 

 

 ほんの少しでも彼のこころが安寧の揺籃に抱かれるようにと、今持てる全てで彼を必死で慰めた。けれども僕の説得は怒りを抑えることには成功したけれど、ハリーの胸の内に未だに蠢いている、どうしようもないほどに鬱屈した気持ちを取り払うまではできないようだった。

 胸の強張りに耐えられなくなったか──彼は訥々と、心境を口にした。

 それは怒りと呼ぶにはあまりに幼稚で、八つ当たりと呼ぶにはあまりにも悲壮なものだった。

 

 

「……分かっちゃ、いるんだよ……父さんと母さんが立派で、高潔な魔法使いだったってことくらい……僕達のために命を賭けてくれたことくらい……!」

「…………」

「でも僕達を大切に思うなら……僕達のために生きてくれたって良かったじゃないか……!命の危険がある騎士団なんかに入らなくったって、わざわざ死喰い人と戦う道を選ばなくったって、道はいくらでもあったじゃないか──」

「ハリー、それは」

「分かってるんだ!分かってるんだよ!友達のためにその道を選んだってことは、ヴォルデモートが許せなかったってことは僕だって分かってる!……だからって、僕も誇り高い気持ちになるだけじゃないことも分かってくれるだろ……?」

「────」

「だって──君は──君も──君にもいないんだ。僕を分かってくれるのは君だけなんだ……!」

 

 

 その問いは、返答ではなく同意と同情を求めていた。

 ハリーの中で渦巻いているのは──孤独と虚無感。どこまでも空っぽな空白には、ある筈だったものがないと気付いたのだ。

 ……かくいう僕も、一度も考えなかったわけではないけれど。

 あの狭い物置から誰かが連れ出してくれる、そんな御伽噺のような展開を──まったく期待していなかったといえば、嘘になるけれど。

 

 

 ……でも、君には姉がいるんだぜ?

 “僕”にはいなかった……!

 

 

 生き残った男の子として翻弄され続けた運命の中で、こういった結論に至る萌芽の予兆を感じ取らなかった訳じゃない。それでもそれと同じくらいの希望は、君には確かにあった筈なんだ。

 二度目の人生に決意した、ほんのささやかな願いを誓った筈のこの胸に、些細な断片が突き刺さる。文字通りハリーに捧げると決めた筈の決意が揺らいだ。

 結局は僕も──無垢な献身でなく、婉曲な自己憐憫のために生きていた。

 ハリーへの愛情が裏返る感覚に陥ってしまった。

 けれど駆け巡る葛藤に気付こうともせず、俄に湧き上がった醜い感情を押し殺して、僕は、理想の姉を気取って、言葉を紡ごうとしたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だからその時、対応が遅れた。

 

 

「ハリー・ポッター……そして双子のきょうだいのマリアだな」

「ッ──」

「な……ッ、」

 

 

 骨身を凍らせるかのような、あまりに冷徹な声。

 およそ数年ぶりに味わう、胃の腑が反り返る感覚をまざまざと追体験する。声の先に不気味に立つ髑髏の仮面に息を呑む。馬鹿な。気配すら感じさせずに、最初からそこにいたかのような溶け込みよう──いや、それよりも、だ。

 

 どうして──ホグワーツに死喰い人が!?

 ダンブルドアのいないタイミングを狙ってきたのか……!?

 

 焦燥と驚愕が連鎖する。思考と並行するかのように、肉体が長年染み付いた動作を反復した。一瞬遅れて、ハリーも黒い仮面の男に向けて杖を構える。兎にも角にも──こいつを何とかしなければ。

「ン──」

 一触即発の緊張感が漂う中、悠然と口を開いたのは死喰い人らしき男だった。

 深く、昏く──底すら見えぬ男の声色。

 

 

「そう身構えなくてもいい──お前達程度の魔法の腕で私の動きを止められるというなら、話は別だが」

「試してみるか?」

「それもいい。が、生憎と計画は最終段階へと突入している。現世からの永劫の別離を果たしてこそ、本懐が遂げられるというもの」

「……何の話だ」

「私の正体についてあれこれ勘繰る必要はない。……胡蝶の夢に、いや……泡沫の夢に沈むがいい。永遠にな!」

「な──」

 

 

 一切の予備動作無しに、男の身体からは底知れぬ闇が噴出した。

 比喩じゃない。夜が訪れたと錯覚するほどの暗闇が教室を襲った。瞼を下ろすのと同じくらい呆気なく、一瞬で辺り一面が何も見えなくなって視界から喪失する。

 何も見えない。

 手元すら覚束ない。すぐ側にいた筈のハリーの居場所は知るべくもない。

 心臓が冷えた手で撫でられたような恐怖も一瞬の内に通り過ぎる。気付けば、この闇を受け入れてしまっている自分がいた。

 そしてすぐに、平衡感覚すら失って、宙に手足を投げ出した。背中に訪れる筈の衝撃はなく、浮いているのか立っているのかも分からなくなって──途端に、意識までもが霞がかっていく。

 何も考えられない。

 何も感じない。

 何も──しようと、思えない。

 ただひとつ困惑したのは──何故だか、この闇の居心地が良かったことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────ッ、」

 

 意識が急速な覚醒を果たす。

 義務感と使命感が肉体に灯を着けた。空き教室には既に、死喰い人の姿はない。

 魂が感じた恐懼を振り払うようにして立ち上がる。どのくらい時が流れたのか。あの死喰い人がかけたのは、対象を眠らせる呪いか何かなのか──…。

 

 

「ッ……マリア……」

「起きたかい、ハリー。……僕も今しがた目が覚めたところだ」

「……杖はある。特に不調もない。僕達は本当にただ眠っただけだったのか……?」

 

 

 言いようのない不安感だけがあった。

 身体を確認するけれども、特に変わった点がないというのが不思議だ。

 わざわざホグワーツに乗り込んでくる気概のある死喰い人が、ハリー・ポッターという存在を目にして何もしない筈がない。ハリーの死は死喰い人にとって、悲願の成就に等しい価値を持っているというのに。

 あの悠揚とした男の真意は何なのか。

 ……ここで推測を重ねても埒があかない。

 ひとまずは外に出て、今の状況を確認するべきだ。奴の他に死喰い人がいないとも限らない。記憶にない存在が、どこまでも僕の恐怖を煽っていた。

 廊下に出ると、丁度よく、ロンとハーマイオニーが歩いていた。

 

 

「ロン!ハーマイオニー!」

「────」

「何もないみたいで良かった……ここを怪しい人影が通らなかった?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ン〜見なかったけど、ちょい前までアタシゎマジでロンピと超チルなラッパー的なアレなバイブス上げまくりで話盛り上がりまくりベイビーしてたからそいつが目の前ソクサリしてても気付かんかったかも。分かりみ低めぽよでぴえん。そん時はマジ卍スマソスマソン☆」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……え、何?」

「ゃどしたんマリアぴもハリぴもタヒった感丸出しのカオして。サゲぽよなん?アタシらずっしょの好きピ同士のガチル友じゃん?きゃぱい時は深呼吸して落ち着いてからブチ上げてくのが良きでゎ???」

「……いや、何?」

 

 

 何だこれ。

 ハーマイオニーはこんなこと言わない。

 どうしたんだ本当に。死喰い人に襲われて知能指数が低下したのか?

 

 

「ねえロン、ハーマイオニーが……」

「まったく……彼女の奇々怪々な言葉遣いも常住不断な光景とはいえ、いささか食傷気味だね。ハーマイオニー君!少しは意気自如かつ威風凛然な態度を心がけてみるのはどうかねッッ!?」

「君も何言ってんだ」

「え〜でもアタシ的にはフツーによいちょまるなアオハルしてるだけだしぃ。ロンピもあんま突っかかってると炎上案件でリア友なくす案件なるなるよ〜?」

「……誰か、解説役いないのか」

 

 

 なんか頭痛くなってきた。

 どうしたんだ君達。ロンが真面目になってハーマイオニーが砕けた物言いをするだなんて……何だかあべこべだ。

 ……別世界……、

 いや、まさかね?……そんな都合の良い話が早々あるわけが……、

 

 

「……、いや……馬鹿か僕は。そもそも生まれ変わりのこの人生こそが、都合の良い別世界みたいなもんじゃないか」

「マリア?」

「ひとまず他の人の様子も見に行こう。ありがとうロン、ハーマイオニー」

「ドロンすんのねおけおけ」

「……おけおけ!」

「この世は得てして会者定離だが……この社燕秋鴻な邂逅にも一期一会の出会いがあったのだと、僕は信じているッ!」

「……そうだね!」

 

 

 これ以上話したらこっちの頭がおかしくなる気がする。

 妙な気分だ。顔も声もまさしくロンとハーマイオニーなのに、性格だけが裏返ったように真反対で、ギャップというか……。二人の言っていることが何一つ分からないって相当じゃないかな。良くも悪くも分かりやすい性格だと思うんだけどな。

 やばくないかな。

 やばいね。

 

 

「誰か──誰か、このホグワーツにまともな人はいないのか?誰か──!」

 

 

 けれど、僕達の願いを振り解くように、用意された世界は一切の呵責なく僕達を苛んでいく。全てが裏返って、反転した輪廻の先の廻天──それこそが、内にあった常識とか信念とやらを、容易く紐解くんだ。

 ここに真実はなく、されど欠けた竅を埋めるように──泣きたくなるほどに、包んでくれる。慈愛の揺籃に抱かれた僕達が行き着く先が、袋小路だと分かっていても、虚実の檻から抜け出す気には、到底なれなかった。

 

 

 だって、ここには──

 

 

 

 

 

「マリア」

「ハリー」

 

 

 

 

 

「……父さん?母さん……?」

 

 

 こころを震わせる人達が、あまりに多すぎる。

 

 

 

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